2012/09/06

インディゴチャイルドクォーツ


インディゴチャイルドクォーツ
Indigo Child Quartz
Ambatondrazaka, Toamasina Province, Madagascar



マダガスカル産出、セプタークォーツ(王冠若しくは松茸水晶)、テッシンハビットクォーツ(先細り水晶)、ベータクォーツ(高温石英)といった特異な形状を示すアメジスト。
内部にヘマタイト、レピドクロサイト、カコクセナイトを含むことから、マダガスカル産スーパーセブン若しくはスーパーエイトなどと呼ばれた過去がある。
現在はインディゴチャイルドクォーツと呼ぶのが一般的。
文字通り、インディゴチルドレンと呼ばれる人々のためのクリスタルということである。

インディゴチルドレンという言葉に聞き覚えのある方は多いかと思う。
ここ4,5年で一気に知名度を上げたのは、発達障害の子どもを抱え自己嫌悪に陥る母親たちに希望を与えるためでもあった。
おそらく、ADHDやアスペルガー症候群といった社会適応の困難な子どもたちに、特別な使命を見出し、生きづらさを回避させる動きとみている。
しかしそれが飛躍した結果、自立に向けたトレーニングを行わず放置してしまうケースもある。

発達障害が必ずしも天才を意味するわけではない。
彼らの多くは支援学校に進学し、自立を目指しトレーニングを受ける。
IQは75以上と定義されている。
つまり、知的障害とのボーダーであるIQ75の子どもと、IQ130の子どもの発達障害では、その後の成長過程において大きな差異が生じる。
発達障害者に天才が現れる確率は健常者のそれと変わらないということである。
多くの発達障害者が才能を開花させることなく、就労すらできず、将来的に生活保護という受け皿しかないという現状がそれを示している。

自閉症者が天才であるという誤解を受けた原因のひとつに、自閉症にごく稀に現れるサヴァン症候群の影響があったのではないかと考えている。
天才ばかりとは考えにくい。
なぜなら私自身、自閉症及びアスペルガー症候群の診断を受けているからである。
自閉症の診断を知った保護者は、私に暴力を振るい続けた。
彼らが天才であり、特別な使命を持って生まれたという希望は、こうした子どもたちへの虐待を防ぎ、母親の落胆を自信に変えるというメリットがある。

さて、インディゴチルドレンの話に戻ろう。
世界には、インディゴチルドレン及びクリスタルチルドレン、レインボーチルドレンなる人々がいるらしい。
地球を変えるために君臨したという彼らの詳細を探ってみよう。


インディゴ・クリスタルチルドレンの役目



クリスタルチルドレンであるという女性のインタビューを関連動画から視聴し、うちゅうのおともだち・インスピレーションを得るに至った。
社会への不適合、強すぎる感受性、またオカルトに傾倒している点を考慮すると、スキゾタイパル(※注)の可能性も考えられる。
ちなみにうさこふはスキゾタイパルとアスペルガー症候群の併発であるが、インディゴやクリスタルの可能性は極めて低い。
詳細は後に記す。

※注)スキゾタイパル

十種類ある人格障害のうちのひとつ。統合失調型人格障害と呼ばれることもあるが、統合失調症とは関係ない。思考や行動、外観が奇妙であり、神秘的な現象に興味を示す。いっぽうで大多数に反発する傾向及び自閉的傾向を有する。宇宙人と間違えられやすい。スキゾタイパルであったと推測されているのはC.ユング、夏目漱石、ピカソ、鳩山由紀夫など。学会ではアインシュタインの名も挙がっているようだが、私は疑問視している。アスペルガー症候群への転向が可能。

人格障害と聞いて境界性人格障害(ボーダー)を連想する方が多いようであるが、異なる障害である。人格障害はA群・B群・C群に分類され、大多数を占めるのが『不安定な対人関係や衝動的な行動』を特徴とする人格障害B群である。発達障害になりきる境界性人格障害自己愛性人格障害、また発達障害への転向可能な反社会性人格障害など。

A群は変わっているため、B群は情緒不安定なため、C群は強い不安により、いずれも社会適応が困難とされている。


ある先生から伺ったのだが、インディゴ及びクリスタルチルドレンと、ADHDやアスペルガー症候群とは全く関係ないそうである。
かつては "特別な子ども" の定義に、発達障害が前提としてあった。
インディゴやクリスタルと称する人物の大半が、結婚や出産、子育てすら可能であり、社会生活や日常生活に支障なく、大多数の意見に違和感なく馴染み、強調性を発揮することができる。
特別な子どもたちにも種類がある。
インディゴやクリスタルの大多数は、障害者というハンディを背負わないマジョリティであり、むしろ強者という印象である。

発達障害の子どもを持つ親御さんには気の毒だが、彼らはインディゴチルドレン、クリスタルチルドレンではない。
おそらく、純粋な弱者である。
過度の期待はご本人を苦しめることになりかねない。
発達障害の人間が極めて生きづらいことは、私が身をもって知っている。
コミュニケーション不足に由来する対人恐怖や自己愛ではないことは明らか。
なお、インディゴチャイルドクォーツは、インディゴチルドレンが日本で注目を集める以前から流通があった。
かつてロットで入ってきたものが大量にあるので、インディゴの方に是非お譲りしたい。
現在は流通が減り、安価での入手は難しいとみられる。

なお、以下のブログでは可愛いお子様に対し、現実的な考察を行っている勇気ある父上の姿を見ることができる。

参考:私の子供は地球を救う「クリスタルチルドレン」ではなかったらしい
http://secret.de-blog.jp/secret/2009/06/post_273a.html


22×16×14mm(最大) 計6.46g


2012/08/30

ブラックマトリックスオパール


ホンデュラス マトリックス オパール
Honduran Matrix Opal
Erandique Region, Honduras



このところ頻繁にみかける石がある。
ホンデュラス・マトリックスオパール(ブラックマトリックスオパール)という、なんとも強烈な名前がついている。
写真はそのカット品。
黒い地に虹色の輝きが炎のように浮かぶさまは、世界的に一定の傾向を示すオパールの中にあって、一見珍しく思える。

オパールは遊色(多彩な輝きが浮かんでみえる様子)の有無によって二つに分類される。
遊色のみられるオパールを一般にプレシャスオパール、遊色のないオパールをコモンオパールと呼んでいる。
コモンオパールの代表的な例としては、ペルーのピンクオパールやオレゴンのブルーオパールなど。
これらがパワーストーンとして親しまれているのは、原価が安いためである。
宝石としては専ら遊色のみられるオパールが好まれ、中でも赤やオレンジの遊色が浮かぶものは最も価値が高いとされている。
これはどうも赤が入っている…から高級品なのかもしれない。
だが実際のところ、非常に安かった。
先日参考までに購入した。

ホンデュラスの名は、南米にあるホンジュラス共和国(正式にはホンジュラスの表記が正しいらしい)からこのオパールが産出することに由来するという。
全く聞いたことがない国である。
実際、アフリカと混同している人も見受けられる。
調べてみたが南米のどこかにあるらしいこと、「バナナ共和国」と揶揄されていることくらいしかわからない。
折角、鉱物で世界一周しているのに、こんなレアな国を素通りしてしまうとは残念である。
国名が付くことで誤解を受けそうな国としては、他にリヒテンシュタインが挙げられよう。
リヒテンシュタインからの若い観光客が、たまたま当時お手伝いしていたお店に寄ってくださったことがある。
その時はいったい何を意味するのか判らず、申し訳ないことをしてしまった(バンドをやっている人かと思った。たぶんノイバウテンとごっちゃになっている)。
特に違和感のない普遍的なイケメンであった。
世界は広い。

さて、ホンジュラスに戻ろう。
どうやらこのホンデュラス・マトリックスオパール、加工して作られるものらしい。
もともとブラウンであった母岩を、人工的に黒い色合いに変え、樹脂加工をもって輝きを安定させているようである。
オパールをアクセサリーにする場合、樹脂加工で強度を高める必要があるから、とりたてて騒ぐ必要はない。
ホンデュラス・マトリックス・オパールの真相に関しては、世界中で激しい論争が展開されている。
地の色をブラウンからブラックに改良していることが問題ということのようだ。
砂糖を加えて加熱する、とある。
加工前のマトリックスオパールを見た感じ、特に黒くする必要性は感じない。
ホンジュラスの人々が何ゆえ砂糖にこだわるのかについては、よくわからない。

オパールというと、高価な宝石というイメージがある。
実際に価値あるものは非常に高額になる。
大きさにもよるが、ホンデュラス・マトリックスオパールの相場は、遊色のないコモンオパールと同程度。
原価を考慮するとビーズになる可能性もあるとみて調べたら、既にビーズになって流通していた。
国内ではブラックマトリックスオパールと呼ばれており、気づかなかった(本来はオーストラリア産)。
どうも大量に出回っている。
ブラックマトリックスオパールについては、未加工の状態である旨明記され、紹介しているところが圧倒的。
天然オパールという鑑別を出している鑑定機関もある。
ここは確かギベオン隕石においても不可解な鑑定結果が出ていたのだが、大丈夫なんだろうか。

参考:鑑別書、鑑定書、保証書の違いとオパールへの適用について
http://www.gemstory.com/howtoPart2.html

つまり、鑑別書からは、石の名前(と、処理の有無を書くべきであり、パワーストーンに関しては書かなくてもよいとは聞かない。鑑定機関そのものが詐欺行為に及んでいる可能性が高い)しかわからない。
万が一、ダイヤモンドにしか付かないはずの鑑定書が付いてきた場合は、深刻な犯罪に巻き込まれたとみていいだろう。
鑑定書や鑑別書は「安心」の基準にはなり得ないことを忘れないでほしい。
本来は、いずれも宝石を第三者に託すさい(質入や相続など)に必要となるものである。

ブラックマトリックスオパールについては "処理を前提とする天然石" としての購入を検討されるほうがよさそう。
最も価値の高いとされるブラックオパールと混同し、とんでもない高額で販売しているケースもある。
オパールとパワーストーンのあやうい関係については、以下の資料から読み取れるので、参照していただきたい。
砂糖じゃ相手にされない。
宝石の価値というのは甘くない。


参考:オパールの価値
http://gemopal.info/free_ohanashi/free.html

参考:オーストラリアのオパールマスターによる、動画で楽しむブラックオパールの世界




やはり赤が良いようだがブルーにピンクがお好きな様子


18×13mm  7.39ct

2012/08/27

ゼノタイム(ザギマウンテン産)


ゼノタイム Xenotime
Zagi Mountain, Mulla Ghori, Khyber Agency, FATA, Pakistan



イットリウムを含む希少石、ゼノタイム。
アプリコットのような優しい色合いが印象的だが、立派な放射性鉱物である。
ゼノタイムは一般に、不透明なダークブラウンの結晶となって産出する。
パキスタンから近年発見されたオレンジやレッドに輝くゼノタイムは、世界中の愛好家たちを熱狂させた。

写真はゼノタイムをラベルに載せて撮影した。
出処は米国、表記はアフガニスタン。
当初、この標本はアフガニスタン産として流通したらしいのだ。
再調査の結果、パキスタンのザギマウンテン産であることが判明、業者側で産地を訂正したという。
セイクリッドシャーマン、ザギマウンテンクォーツで有名になった聖なる山、ザギマウンテンからは、多くの資源、魅力的な希少石の数々が発見されている。
中でも、この産地からのゼノタイムの美しさには定評がある。
アフガンの鉱物が、諸般の事情からパキスタン産として流通していることを不審に思われている方もおられることと思う(→詳細はパライバじゃなかったパライバトルマリンに記、主にアメリカ)。

パキスタンの鉱物の産地が曖昧にされることは多い。
理由のひとつは、掘る人と売る人とが同じではないこと。
隣接した国々からパキスタンに運ばれてきた鉱物を、現地のディーラーが扱うこともある。
特にアフガニスタンの鉱物の場合、同時多発テロの恐怖が売り上げに影響するのを危惧し、パキスタン産と言い換えることも考え得る。
また、複雑な事情のある地域では、実際に採掘に入れる人を限定し、詳細を伏せることがあるとみている。
売り手にもどこから来た石なのかわからないことがある。
それを責めるわけにはいかない。
この標本の産地が訂正された理由についても、想像することは可能である。
つまり、産地には厳しいこだわりを示す欧米諸国の収集家でさえ、ザギマウンテンを特定できたのはごく最近のことだったのだ。
十年以上経った現在も、世界中がザギの謎に当惑している状態ということになる。
産地で何が起きているかわからないといえば、中国も同じ。
ただ、中国であれば専門家が入ることもある。
調査の結果、素晴らしい鉱物の存在が認められ、詳細な産地や産状が明らかになることも多い。
余程の事情がない限り。

パキスタン北部、アフガン国境に位置するザギマウンテン。
レアアースの宝庫として近年注目を浴びる土地である。
ゼノタイム以外にも、稀にみる品質を誇る稀産鉱物が多く発見され、研究者や収集家たちを驚かせた。
宝の山なのは明らか。
だが、国外の専門家が現地入りすることは、固く禁じられているそうだ。
鉱物研究の進んだ国の専門家にしかわからないことはある。
いまだ存在の明らかにされていない希少石も少なくないとみられる。
おそらく、誰もがザギに入りたくてたまらないはずだ。

もし、どうしてもザギへ入るつもりなら、少し荒業を使う必要がある。
あのテロリストの息の根を止めたカラシニコフくらいは用意したほうがいい。
宝の山が意味するところ、それは戦争である。
我々が世界中の美しい鉱物を手に出来るのは、日本が平和だからである。
我が国の資源はほぼ枯渇している。
それがいかに幸運なことか、戦地を旅した人々は知っている。
世界には、いまだ眠ったままになっている資源は数知れず、それらが必ずしも平和的な目的で採掘されるとは限らない。
戦争が人を狂わせるのは、今に始まったことではない。

鉱物資源は、戦争の資金源として重要な役目を担う。
鉱物だけとは限らない。
外国人に見られてはならないことがザギで行われている…
そう考えることも、可能だ。
レアアースはヘロインに並ぶ利益をもたらす、とは面妖な。
パキスタン全土が危険なわけではない。
ただし、ザギのあるパキスタン・アフガン国境を目指すことは、現実的とは言えない。

参考)アフガンの鉱物資源に関する記事だが、パキスタン国境付近の状況についても言及がある:
http://www.asyura2.com/10/warb4/msg/886.html

鉱物をこよなく愛する人々にとって、曖昧な産地は悩みの種となる。
情報が欠けていることによって、石の評価は下がってしまう。
コレクションの分類に頭を抱えるはめにもなる。
しかし、真実を追求したがために不幸な事件に巻き込まれ、命を落すことがあるのもまた、現実だ。
過酷な状況を耐え抜いて届けられたザギの鉱物に、何をみるかということだと思う。
この初初しいゼノタイムの伝えるもの、それは美しさや希少価値、神秘性だけだろうか。
世界には、平和を叫べない土地がある。





18×12×10mm  4.15g

2012/08/24

セルサイト


セルサイト/白鉛鉱
Cerussite
Tsumeb Mine, Tsumeb, Otjikoto Region, Namibia



太陽の下で七色に輝く光の結晶、セルサイト(白鉛鉱)。
アゼツライトもびっくりの堂々たるお姿である。
透明感あふれる見事な連晶で、ツメブ鉱山からの産出品とのこと。

ナミビアのツメブ鉱山は、世界を代表する鉱物の産地。
歴史的な標本を数多く産した。
ロシアのコラ半島、カナダのモンサンチレールに並ぶ稀産鉱物の宝庫として知られている。
ツメブ鉱山からの標本はいくつか手持ちがあるが、世界中の収集家が絶えず目を光らせているから、素人が入手できるような標本はしれている。
私自身、ツメブのセルサイトを手にしたのは、これが初めて。
まほろばというのは、このことをいうのだろう。

セルサイトは鉛を含む鉱物。
見た目は軽そうだが、持ち上げるとずっしり重い。
では頑丈なのかというとむしろ逆で、非常にもろく、意図せず崩れてしまうこともあるようだ。
硬度は3と、カルサイト程度ということだが、扱いの難しさはカルサイトの比ではない。
鉛のメタリックなイメージからは想像もつかない。
輸送中に壊れてしまうこともあるという。
その性質ゆえ、アクセサリーなどに用いることができず、専ら観賞用となる。
ビーズになることなどまず無いから、パワーストーンとしての知名度も低い。
そもそも「セルサイト」という名前自体、これといったインパクトがなく見逃しがち。

ツメブ鉱山からはスミソナイト、マラカイト、ミメタイト、モットラマイト、ダイオプテーズ、マンガンカルサイトなど250種類に及ぶ鉱物が発見された。
鉱山の名を冠したツメブ石に代表される、55種類の稀産鉱物はここツメブを原産とする。
ツメブ鉱山が閉山したのは15年ほど前。
水没し、消えてしまった。
産地からの標本の流通は減り、需要に供給が追いつかず、今後の高騰は避けられない。
セルサイトそのものは世界各地から産出があるが、その品質の差は明らか。
世界中の収集家に絶大な支持を得ていることにも納得がいく。

このセルサイトはツメブの魅力を伝える片鱗に過ぎない。
歴史的価値のある標本であれ何であれ、金の力で手に入れることはできる。
収集家の信念が問われるところであろう。




28×26×20mm  34.04g

2012/08/19

モリオン(ウクライナ産黒水晶)


黒水晶/モリオン
Quartz var. Morion
Volodarsk-Volynskii, Zhytomyr Oblast', Ukraine



昨年、2年ぶりに鉱物の世界へ戻って、違和感を感じたことが二つある。
一つは2年前には既に馴染みのあった石がまさに売り出し中であったこと。
もう一つは、市場価格が十万を越えることもあった天然黒水晶(モリオン)の相場が、一万円をきっていたことだ。
後者に関しては、衝撃であった。
産地は軒並み中国、東は山東省(朝鮮半島側)、西は四川省及びチベット自治区などから、モリオンが同時多発的に発見されている。
いずれもペグマタイトから産出したとみられるスタンダードな天然モリオン。
偽物ではない。

放射線の照射さえ行えば、すべての水晶が黒くなるわけではない。
特殊な条件を備えた水晶のうち、地中の放射線を長期間に渡って浴びる環境にあって、ごく稀に生成される。
大半はスモーキークォーツの段階で発見されている。
光さえ透さない漆黒のモリオンは、長い間、誰もが憧れる幻の石であった。
放射能を防ぐパワーストーンとしてお茶の間で話題になるなど、想像できようか。
短期間に相当量の産出があったとしか思えない。
それらは薄利多売ビジネスを目論む業者のもとへ渡り、ブレスレットに姿を変え量産されている。
中国がいかに広いとて、奇妙である。

かつては放射線処理によって人工的に黒く改変させた黒水晶/モリオンが中国で製造され、半ば暗黙の了解のもと市場に流通していた。
何も知らずに初めて手に取ったとき、気分が悪くなった。
私だけではない。
周囲の人々が皆、怖がるものだから、手放さざるを得なかった。
モリオンが放射能を利用して作れるものと知ったのは、ある方との出会いがきっかけ。
チェルノブイリ事故の影響で、ロシアから大量にモリオンが発見されている、と私に教えてくださった。
おそらく事実ではない。
しかし人間たるもの、よからぬ想像をしてしまう。
天然の放射線によって水晶が黒くなるのであれば、半人工的に出来た黒水晶も存在するのではないか。
放射能汚染の顕著な地域に的を絞って掘り当てたのではないか。
折りしも福島での原発事故直後。
被害に遭われた方々の心情を思うと、大きな声で言えるはずもなく、人々の不安を助長させる行為に及ぶのは憚られた。

結論からいうと、おそらく中国の核とモリオンは無関係。
というのも、最も信頼性の高いモリオンの産地・山東省は、北京にほど近い "安全" な地域にあたる。
チベット産や内モンゴル産については産出の確認が取れていない(→モンゴル近くの黒龍江省からチベットモリオンが出ている可能性あり。くわしくはこちら)。
最も放射能汚染が深刻な新疆ウイグル自治区からは、美しい透明水晶が発見されている。

中国政府の発表によると、1964年から1996年までの32年間、新疆ウイグル自治区において46回に及ぶ核実験が行われたという。
実際にはそれを上回る原水爆が使用されたおそれがあり、現在も多くの人々が苦しんでいるといわれている。
チベット自治区では、放射性廃棄物処理施設による汚染が問題になっているほか、複数の核兵器関連施設における事故の噂があり、詳細は明らかにされていない。
内モンゴルにおいても同様の問題が取り沙汰されている。
いずれも少数民族の居住地であり、首都・北京から遠く離れているのがその理由とのこと。

いっぽう、チェルノブイリ原発事故の影響で、ロシアからモリオンが発見されていたという説に対しても、信憑性は薄い。
旧ソビエトとロシアを混同しているのは明らか。
放射能による被害が最も大きかったのは、チェルノブイリのある現ウクライナ、隣接のベラルーシ。
ロシアでも深刻な被害が出ているとのこと(→チタニアダイヤに記)であったが、ロシアの特定の場所からモリオンが大量に見つかっているという事実はない。

その手がかりを探るべく捜していたウクライナ産モリオン。
先日ようやく見つけ出したのが写真の石である。
格安で出ていたので即決した。
真っ黒でずっしり重く、エレスチャル状に成長した文句なしのモリオン。
ペグマタイトの匂いがプンプンする。
底面中央には穴があり、内部が漆黒の結晶で満たされている(本文下の写真)。
ウクライナには、大自然の創り上げたモリオンが存在する。
チェルノブイリとモリオンの関連性については、噂に過ぎなかったものと信じたい。

このモリオンが発見された場所は、このブログを作るきっかけとなったヘリオドールに同じ。
チェルノブイリから車で2時間半かかる距離だというから、関連性は無いと考えるのが妥当であろう。
ウクライナにおいて、1986年頃を境に、放射線処理が必要なはずの幻の宝石がいくつか発見され数年後に枯渇していること、また人工照射に失敗したとみられる不自然なウクライナ産モリオン(→wikipediaからは削除されていました/参考写真)が存在する理由については、直接手にとっていないため、分からない。

なお、wikipediaによると、かの毛沢東氏は「たとえ地球に大穴が開いても、あるいは地球が粉々に吹き飛ばされたとしても、太陽系にとっては大きなことかもしれないが、宇宙全体から見ればとるにたらない」と、地球の終焉を示唆している。
また、核汚染がきわめて深刻とされるタクラマカン砂漠やゴビ砂漠の砂は、黄砂となって日本に飛来している。



この標本は1990年産出とのこと。
ヘリオドール鉱山が閉山した年にあたる。


80×55×48mm  182.1g

2012/08/17

ゴールデンダンビュライト


ゴールデン ダンビュライト
Gorlden Danburite
Munaraima, Kivuwa, Uluguru Mts., Tanzania



タンザニア産ダンビュライトといえば、米Heaven&Earth社より発売された、アグニゴールドダンビュライト(→写真)を思い浮かべる人が多いかもしれない。
高次の意識へのアクセスを助け、偉大なるグレート・セントラル・サンからのエネルギーをもたらすという、奇跡のヒーリングストーンである。
写真を見て、いやコレ少し違う、と判ったあなたは通の人。

世界各地から発見されるダンビュライト(ダンブリ石)。
ダンビュライトは一般に、透明または白。
トパーズに似た細長い柱状結晶となって発見される。
他に、ピンクやシャンペンカラー、ゴールドやブラウン、グレー、稀にグリーンなど、産地によって色合いや形状に特色がある。
また、国産のダンブリ石には内包物が入ることが多い。
宝石質のダンビュライトはコレクション用にカットされ、収集家に愛されている。
クリスタルヒーリングにおいても、高い浄化作用を持つ天使の石として根強い人気がある。
明るいブライトイエローのダンビュライトは、ロシアのインペリアルカラーを凌ぐ美しさと騒がれ、その希少性もあいまって、幅広い層から支持を得た。
しかし、産出は少なかったのか、質は低下するいっぽう。
3年ほど前にはヒーリングストーンとして、カット品として、鉱物標本としても頻繁に見かけた。
この石もまた、やがて忘れられていく運命にあるのかもしれない。

このほど、同じタンザニア産出のダンビュライトに、ややグリーンをおびた、結晶質のゴールデンダンビュライトがあることを知った。
写真では完全にイエローに写ってしまったが、現物はオーロベルディを思わせるグリーンゴールド。
アグニゴールドダンビュライトが不透明な塊状で産出するのに対して、こちらは透明かつ結晶している。
産出は同じタンザニア。
アグニゴールドダンビュライトの産出する鉱山から北東へ約200kmほど進んだ山地から、この特異なダンビュライトは見つかった。
両端の結晶した綺麗な原石で、通常は細長いダンビュライトと比べ、全体にボリューム感があるのも面白い。
中央にクラックがあるために、カットを免れたのかも。
グリーンのダンビュライトは非常に珍しく、収集家の憧れとなっている。
光源によってはグリーンにも見えるこのタンザニア産ゴールデンダンビュライト、なかなかの珍品かもしれない。

しかしながら、ダンビュライトを放射線処理し、シャンペン~ブラウンに改色しているケースも少なくない。
カットされてしまうと、識別は困難。
意外に知られていないが、実は処理石には、特別な注意が必要である。
何故なら放射線処理によって、石のパワーがなくなってしまうらしいのだ!
染色するだけでそのパワーに影響があるというから、衝撃的である!


パワーの無いパワーストーンなど、ただの石である!

オーロベルディに似た色合いの、このダンビュライトは大丈夫なのか?
そもそもオーロベルディは、メタモルフォシスに放射線処理を施すことによって生まれるわけだから…
と、オーロベルディをクリック。
パワーがアップする、と書いてある。
処理石は他にも販売されている。
風水的には、細かいことは気にするな、ということなのだな。
ダンビュライトも然り。
くれぐれも、思い悩まれることなきよう。

参考:風水そうじ術
http://gbiz.jpn.org/fusui/pstn205.html


28×23×15mm  12.30g

2012/08/16

コサム・マーブル(ストロマトライト)


コサムマーブル Cotham Marble
Cotham, Bristol, England



パワーストーンブームに象徴される現在の日本において、鉱物や岩石のもつ絵画のような模様が重視されることは少ない。
鉱物収集の醍醐味ともいえる、アゲートやめのうに抵抗を示す人々が多いのは非常に残念なこと。
アゲートやめのうに関しては、中国製造の加工品、模造品が国内市場を圧倒している。
まがい物を出来る限り回避したいと考えるのは当然のこと。
しかし、美しい加工品を望む限り偽物は避けらず、世界市場において我々がもっぱらその標的になっているのもまた、現実である。

いっぽう、古い収集家の中には、アゲートやめのうの創り出す芸術的な模様を愛でる人々が少なからず存在している。
ヴィクトリアストーンの項で私が手紙を書いた、大先輩の目に留まった類い稀なる石をご紹介したい。
写真にあるのは私のコレクションではなく、近々その方のもとへ旅立つ石であることをここに明記する。

先日オリンピックで注目を集めたロンドンから100kmほど西に位置する、海に面した街、ブリストル。
彼の地より採取される、一風変わったストロマトライト。
およそ2億年前の石灰岩質の地層から僅かに発見されるという。
研磨することにより、絵画のような模様が現れるため、現地ではランドスケープ・マーブル、また産地に因んでコサム・マーブルと呼ばれ、愛されてきた。
ストロマトライトの化石がこうした模様を示すのは英国産に特異な現象とされる。
一般的なストロマトライト(→記事はこちら)と比較すると、その差は明らかである。
史料としても実に興味深い存在といえよう。

英国の鉱物が英国から出ることは滅多にない、という現状を考慮すると、これは非常に貴重であり、限りある芸術品であることを再認識させられる。
上空にUFOらしき飛行物が確認できるのも微笑ましい。
それはともかくこの "絵画"、日本における「禅」に似た美意識を感じさせる。
西洋人が日本の文化を指して禅、と表現することは少なくない。
行き過ぎた解釈による誤解もしばしば見受けられる。
禅のもつシンプルさに対する西洋人の憧れ、或いは東洋回帰の志向を反映しているのだろう。
こうした素朴な石に価値が置かれるのもまた、西洋人の東洋への憧れが少なからず関係しているのかもしれない。
しかしながら、日本においては西洋文化への憧憬から、禅という美意識が忘れられようとしている。

禅に関しては、私自身誤解している部分が多いと自覚している。
大半の人にとって禅は、わかるようでわからない難解な世界という認識であろうことと思う。
外国人に禅について訊ねられ、面食らった人も多いのでは。

昨年惜しまれながらも死去した、米・アップル社のスティーブ・ジョブズ氏。
氏の遺した名言に、その価値観が見事に表れている。
私自身、かのロイターでこの言葉が紹介されているのを見て、驚きは隠せなかった。
西洋人の発言とは到底思えない、極めて東洋的な内容だったからである。
氏が禅に傾倒していたという背景を知り、ようやく合点がいった。
いっときは窮地に陥った米・アップル社の再建に尽力され、アップルの復活を見届けられた。
世界中からの賞賛と期待の絶頂期にあって、不治の病に倒れ、この世を去ったジョブズ氏。
氏の言葉もまた、失われつつある禅の美意識を我々に再認識させた、ひとつの快挙であったと私は考えている。


自分が近く死ぬだろうという意識が、人生における大きな選択を促す最も重要な要因となっている。外部のあらゆる見方、あらゆるプライド、あらゆる恐怖や困惑もしくは失敗など、ほとんどすべてのことが死の前では消え失せ、真に大切なものだけが残ることになる。やがて死ぬと考えることが、自分が何かを失うという考えにとらわれるのを避ける最善の方法だ。自分の心に従わない理由はない。

(スティーブ・ジョブズ/ロイタージャパン)

http://jp.reuters.com/article/wtInvesting/idJPnTK052018720111006


38×23mm  41.65ct

2012/08/13

幸せのガネッシュヒマール


ガネッシュヒマール
Quartz/w Calcite
Ganesh Himal, Himalayan Mts., Dhading, Nepal



ネパール・ガネッシュヒマール産、両端がフラット、奇妙な干渉の形跡がみられる変形水晶。
全体がグリーンのクローライトに覆われている。
傷跡のような箇所から、さらに小さな結晶の成長した様子も伺える。
それらが本体に入り込んでいるから、貫入水晶でもある。
中央付近には内部の見える透明部分があり、クローライトに混じって、細かなルチルの針が見える。
ボトムには、カルサイトの結晶が挟まっている(本文下の写真)。
昨年冬の池袋ショーで見つけた珍石。
売り手がネパール人だったので、ともだち価格(※ネパールを旅したことのある人に与えられる特価)で購入した。

トップの画像がなんだかわからなかった方もおられるかもしれないが、これは上から撮影した。
両端が、何かにつっかえたためか、平らになっている。
根元付近は白濁しているが、ダメージが修復され、次世代の結晶たちに囲まれている。
こうした水晶は、何と呼べばいいのだろう。

お店の方は、グリーンの内包物の隙間から見えるルチルにもっぱら価値を置かれていた。
なにしろ、

●商売繁盛を意味するガーデンクォーツ!(緑や赤の内包物が浮かぶ水晶)
●金運アップのルチルクォーツ!
●全ての水晶の中でもっともパワーがあるとされるガネッシュヒマール!


コピペで申し訳ないが、人気要素が満載だ。
だが、本質はもう少し深いところにあるような気がするのである。
特殊な環境下において、複雑な過程を経て形成されたと考えられるからである。

ヒマラヤ山脈を代表する水晶の産地、標高7110mもの高さを誇るガネッシュヒマール。
緑のクローライトをまとった水晶は、ガネッシュヒマールの5000m級の高所から産するといわれている。
かつてはダメージを受けた標本、白濁した標本が一般的だった。
私が2年ぶりに鉱物の世界に戻って驚いたことのひとつに、ガネッシュヒマール産水晶の質が、驚くほど向上していたということ。
その価値に気づいたネパールの人々が、以前より丁寧に扱うようになったためだと聞いている。
ミネラルショーにおいて、氷のように澄んだクリアなガネッシュヒマールが並ぶさまは圧巻であった。
この美しさを知らないまま、鉱物の世界を離れていった人々のことを想った。

特定されてしまうおそれがあるので細かな描写は控えるが、ネパール人のアシスタントをされていた日本人男性は、元バックパッカーとみられる。
世界(主にアジア)において放浪の旅を続ける怠惰な人々を指して、バックパッカーと呼んでいる。
彼もヒマラヤで放心しているさい、たまたま水晶の価値を知ったのだろう。

ヒマラヤといえば、アンナプルナ産水晶をご存知だろうか。
アンナプルナ産水晶は、数は少ないものの、比較的流通がある。
それは私にとって、とても嬉しいこと。
アンナプルナは一般人も登ることのできるごく普通の観光地である。
私は体力がないため、途中までしか登っていないが、思い出深い土地に変わりない。
アンナプルナは標高8091mと、非常に高い山である。
具体的には、空が山に覆われて見えない。
圧迫感すら覚える。
高山病を避けるため、外国人は数日をかけて登頂する。
麓にあるポカラの街は観光地として知られている。
トレッキングを趣味とする人々だけでなく、バックパッカーやヒッピーたちもポカラに集まり、穏やかな日々を満喫する。
現地ネパールの人々は高山に慣れているため、ガイドとして活躍している。
怠惰きわまりないバックパッカーの中にあって、果敢に頂上を目指す者も少なくない。
同室の日本人によると、アンナプルナの頂上に無事到着した彼らは、折角だから記念にバレーボールをしようぜ!
と、いうことになったらしい。
当初、余裕の表情を浮かべていたバックパッカーたちは、次々と高山病にかかり、倒れた。
ネパール人ガイドらはバレーボールに夢中になり、それに気づくのが遅れたという。
アンナプルナから瀕死の状態で戻ってきた同室の面々が持ち帰った、悪そうな植物の山を眺めるにとどめておいた。
水晶を持ち帰った人はいなかった。

私は当時、怠惰この上ないことで有名な(?)バックパッカーだった。
アンナプルナへは途中までバイクで登り、満足して宿に戻った。
ある事情があって、外国人に明かすことは許されない(と現地の人が)という、ポカラにおける最高位の聖者が棲む寺院には行った。
根性を試すため、湖の先のダムを徒歩で渡るなど、命知らずな行為にも及んだ。
あとはネパール人に誘われて、どこかの山に(バイクで)登ったくらいだ。
頂上から見た朝焼けを今でも覚えている。
徐々に霧が晴れ、ポカラの街や湖が遠くに見えるさまは、買い付けの旅に終わらない新しい世界の始まりを予感させた。
瀕死のバレーボール青年とは、のちに偶然インドで再会することになるのだが、その話はまた、いつか。

お店の元バックパッカーに、ガネッシュヒマールを見たことが無いというと、あれはガネーシャの形をしているんだ、と教えられた。
なるほど、神の棲む山なのだな。
ルチルやガーデンが商売繁盛(=幸福)に結びつくのは東南アジアに独特の傾向で、欧米の人々には、この水晶の何が幸せなのか理解しがたいであろう。
また、ガネッシュヒマールという名の鉱物は存在しない。
山の名称である。

さて、この標本の本質とは。
人気要素のみならず、通好みの要素も満載されているのである。
ロシアのダルネゴルスクから産するグロースインターフェレンスクォーツ(→参考写真。これらは極端な例だが、干渉による変形水晶たち。右上のみ産地は異なる)のような切り込みが、ザクザクと入っている。
グロースインターフェレンスクォーツは、カルサイトなどの異物が水晶の成長を妨げた結果、通常の水晶にはない独特の形状を示すものをいう。
有り難いことに、この標本にはカルサイトが挟まったまま残っている。
ダルネゴルスク産グロースインターフェレンスクォーツは、あたかもリストカットのように平行に刻まれた痛々しい痕跡を特徴とし、白濁して発見されることも多い。
この水晶には、そこまで激しい傷跡はみえない。
しかしよく見ると、切り刻まれた跡が修復され、別の結晶が成長している?
随所にダルネゴルスク産グロースインターフェレンスクォーツとの共通点が見受けられるのは興味深い。

この石のパワーや効能については、わからない。
どんな病気や困難も乗り越えられる奇跡の水晶と解釈される方もおられるかもしれないが、人間である以上それは困難である。
もしかすると、こうした標本も意外に存在するのかもしれないが、外国人が入るには、体力的に無理がある。
見た目が冴えないから見逃されている?

可能であればお手持ちのガネッシュヒマールを、今一度チェックしていただきたい。
グロースインターフェレンスクォーツは、持ち主に危険が迫っていることをいちはやく知らせるとともに、困難を乗り越える力を与えてくれるといわれている。




未測定

2012/08/11

ミッドナイトレースオブシディアン




ミッドナイトレースオブシディアン
Midnight Lace Obsidian
Glass Buttes, Oregon, USA



墨を溶かしたような幻想的な風景の見えるオブシディアン(黒耀石)。
透明感のあるスモーキーオブシディアンに、レースのような黒い模様が入っている。
傾けることで光の屈折が起こり、その光景が揺らいでみえるさまは、なるほど深夜の蝋燭を思わせる。
原石は黒い塊。
これを薄くスライスすることによって、ようやく本来の魅力が発揮される。
米・オレゴン州の秘境まで車を飛ばし、ハンターたちは今日もオブシディアンハンティングに余念がない。
自分で見つけ、自分で磨くのはアメリカに限ったことではないが、英雄の頂点になりたいアメリカンたちにはそうした傾向が強いようである。

ミッドナイトレースオブシディアンは、もともとはアルメニアで採掘されていた。
このところ、オレゴン州から質の良い原石が多く見つかっている。
クリスタルヒーラーのメロディ氏が著書で紹介したため、ヒーリングストーンとしても流通するようになった。
この石の魅力はやはり模様の美しさ。
だが、こうした石の模様を愛でる人というと、少し年齢層が上がる印象がある。
近年のパワーストーンブームにおいては、模様は重視されない。
ビーズの場合、石の個性がかえって邪魔になってしまうことがある。
模様を楽しむはずの石なのに、模様が無い。
石そのものより名前、そしてその名前の持つパワーに価値が置かれた結果かもしれない。
日本におけるパワーストーンは、いわば言霊のようなもの。
ある程度大きさがないと楽しめないから、日本では人気は出ないのではないか。
そう考えていた。

しかしながら、今見たら、ビーズに加工され、絶賛発売中であった。
これはまったく予想していなかったので、驚いた。
本来の流れるような黒い模様は損なわれている。
もともと天然ガラスなだけあってピカピカなものだから、スーパーのアクセサリー売り場で量販されている感が否定できない。
縞瑪瑙と間違える人も現れそうな気がする。
これは好き嫌いがわかれるのでは。
珠に磨くことでずいぶん印象が変わってしまうので、オーバルカットなどを選ぶといいかもしれない。
いっぽうで、磨き上げてしまうことより、光の移り変わるさまは見られなくなることが予想される。
禅のこころをあらわすかのような、この趣あるミッドナイトレースオブシディアンを私は選ぶ。


118×76×3mm  60.86g

2012/08/10

シプリン


シプリン Cyprine
Sauland, Hjartdal, Telemark, Norway



本日は、涼しくなれそうな一品を。
レアストーン・シプリンで味付けした特製かき氷でござる。

白い石英を流れるように染めるスカイブルーとピンクの色彩。
春のミネラルショーで目に留まり、思いのほか安価だったので購入した。
シプリン(含銅ベスプ石)はべスピアナイトの変種で、美しいブルーの色合い。
ベースはクォーツ(石英)。
シプリンが石英に取り込まれているため、色が明るくなって見える。
他に、チューライト(桃れん石)、グロッシュラー・ガーネット、フローライトが入っていると記載があるが、肉眼では判別できなかった。
鮮やかなピンクはおそらく、ノルウェーを代表する鉱物、チューライトの発色ではないかと想われる。
なお、このところ流通しているチューライトのタンブルは、異常なほどに鮮やかな色をしている。
よく確認したほうがいいだろう。

ベスピアナイトには様々な色合いがあり、原石の様子や呼び名が異なることがある。
素人には同じ鉱物とわからない。
カナダのジェフリー鉱山から産出するオリーブグリーンのべスピアナイトはアイドクレースと呼ばれ、カットされて宝石になる。
同じくジェフリー鉱山からのパープルの透明石、中国のテリのあるアンバーブラウンの結晶も大変美しい。
また、手持ちのアフガニスタン産シプリンのルースは、サファイアのような深いブルーの色合い。

暑い夏にはかき氷。
以前お手伝いしていたアートカフェで、氷の塊をガリガリやった夏の日を思い出す。
古い家屋をアレンジしたお店だったので、冷房がきかない。
食欲が失せるへんなカフェ。
レトロな扇風機がいくつも並ぶ。
謎の人物が次々に店を訪れる。
常連の犬もいる。
オーナーは指定席でずっと酒を飲んでいる。
かと思いきや、出かけたまま帰ってこなかったりする。
誰かが演奏を始め、毎日のように議論に参加させられ、閉店後も眠ったまま起きないお客さんを放置して帰る。
今となっては懐かしいあの店の顔ぶれは、今も変わり無いだろうか。


61×53×32mm  84.39g

2012/08/08

紫金石(ゴールドストーン)


紫金石 Purple Goldstone
found in Iran



天然石ビーズに価値がおかれる風潮の中、人工物はあまり好まれない。
もともと、宝石やビーズは人の手でつくられることも多かった。
子供の頃はお小遣いがなかったから、おつかいのご褒美に得たおつりを貯めて、手芸店でビーズを買っては、その色合いを楽しんでいた。
グラスビーズをワイヤーで編んで、よく小物を作ったものだ。
色が足りないから作れない、だから大人になったらあらゆる色を揃えたい。
そんな子供だった。
世界中の天然石を用いたビーズが手に入ることになるなど、想像もつかなかった。
しかしながら、天然石ブームに乗じて、安価な人工石が不当な価値を与えられ、天然石として流通した。
これを危惧した人々の良心のおかげで、我々は正しい知識のもと、石と接することができるようになった。

天然石とされ市場に混乱を招いた石のひとつに、紫金石(パープル・ゴールドストーン、アヴェンチュリンガラス)がある。
茶金石もそれに同じ。
微細な銅の反射により、宇宙のような光景が広がる美しい石である。
パープルの場合はコバルトまたはマンガンに因る発色で、いずれもガラスと銅などの金属を高熱で溶かし、特殊な技術を用いて造られている。
今やそれが人工ガラスであることは誰もが知るところであるが、かつてはチェリークォーツのように天然石として販売されていた。
そのため、現在は避けられる傾向にある。

プロフィールにも記したが、私が初めて石と出会ったとき、気に入って購入したのはこの紫金石であった。
というのも、石に対する知識が全くなかったのだ。
友人に電話で石の名前を訊ねてアメジストではないかと言われ、長い間アメジストだと信じていたほどである。
興味がなかったわけではない。
改めて告白すると、私は幼少期から、いわゆるスピリチュアリズムに興味があった。
大人になるにつれて、世界中でそうした概念が都合よく解釈されていることを知る。
神秘主義や霊的能力を悪用し、人々を苦しめ死に至らせた人々がいることを知る。
絶望した。
だから、私はそれを封印した。
ニューエイジの人々がクリスタルを愛でていることは、学生時代から知っていた。
あえて近づかなかったのは、私を育ててくれた祖父が水石の収集家だったから。
幼い頃、祖父が石を磨く姿に憧れて、その様子を眺めていた。
祖父は私が14歳のとき亡くなった。
祖父が愛したライカのカメラは売却され、価値の無いものとみなされた石だけが残った。
私は石には関わらないと心に決めたのはその頃だ。

それから何年も経ったある日、道端で倒れていた私を助けてくださった女性が、私を石の世界へ導いてくださった。
アジアをウロウロするバックパッカー(→詳細はこちら)だった私が就職し、真面目に生きようと考えていた矢先、事件に巻き込まれた。
私は何もかもを失った。
かつて出合ったインドの神々は嘘だったものと絶望した。
その女性は神を信じていた。
ところが、鉱物標本店を営む彼女の旦那様は、神など信じていないようにみえた。
アメジストはどんな石なのですか?
ワクワクしながらそう聞いたら「鉄イオンが関連した…」という非常に適切なお答えが返ってきた。
祖父を思い出した。
私は失った宝物の代わりに、この人物から鉱物の世界を学ぼう!と決意した。

しかしながら、当時はよくわからなかったので、紫金石を購入して帰った。
結果的に鉱物が好きになりすぎてしまうのだが、もともと凝り性なので仕方ない。
最近になって社長から聞いたのだが、夫妻は私が自殺を図ろうとしているものと思って、お忙しい中、私を助けてくださったということであった。

ゴールドストーンは、17世紀にヴェネツィアで開発された宝石である。
現在もヴィンテージの宝飾品が高額で取引されている。
修道院において、或いは錬金術師が偶然に発見した、というのは事実ではないとされている。
中国や香港で量産されたために、どれも同じに見えるが、実は品質にも差異があり、ヴィンテージの紫金石と比較すればその差は明らかである。

近年注目されているアヴェンチュレッセンス(→わかりやすい例)の名は、紫金石の輝きから来ているという。
写真はアンティークの紫金石で、イランで発見されたもの。
イスラム教の儀式に用いられたとされる。
もともとヨーロッパで造られたものかもしれないが、年代など詳細についてはわからない。
既存のガラスを溶かして再利用してしまうケースもあり、質は落ちている。
ブログに記すことはおそらくないだろうと思っていたが、思うところあって、ご紹介させていただく。
この石には、古くから人々を魅了してきた宇宙がある。





最後に、日本のパワーストーン業界における正しい知識と意識の拡散に貢献された、KURO@VOIDさまにお礼を申し上げ、今後の活躍をお祈りするとともに、私の誤解や間違いを正してくださったことに感謝を込めて、勝手ながらリンクをご紹介させていたきます。
恥ずかしながら、ようやく紫金石の正体を知ったのは、氏のブログにおける記事でした。
なお、KUROさんは自分にとって大先輩にあたり、立場は全く異なること、氏は私のブログをご存じないこと、また私自身、現在は拝見するのを控えていることを何卒ご理解、ご了承願います。
KUROさんの今後のご活躍を心よりお祈り申し上げます。


http://voidmark.fc2web.com/


直径40mm  82.36g

2012/08/05

ピンクペタライト


ピンクペタライト
Pink Petalite
Karibib District, Erongo, Namibia



サクサク、フワフワ。
お茶うけに出てきそうなピンクのこの石は、ヒーリングストーンとして高い人気を誇るペタライト(ぺタル石/葉長石)。
ブラジルから産出する無色透明の結晶が有名だが、稀に不透明なピンクの塊となって発見されることがある。
写真は、ペタライトの名を知って間もない頃に入手した大きな原石。
表面の様子(劈開・へきかい)や鈍いガラス光沢に、ペタライトの特徴が現れている。
四角く切断されているため元の形についてはわからない。
いっぽうで、風化が進みやすいのか、2面は色あせてしまっている。
時間が経つと黄ばんでくる(?)ことが多いのも対応に困るところ。
ゴールデンヒーラーと呼んでしまう人も現れそうだ。

ペタライトはリチウムの発見に貢献したとされる鉱物。
精神科では安定剤として、陶芸の世界では素材の強化に使われるなど、リチウム資源としての用途は幅広い。
クリスタルヒーリングの分野では、天使の祝福を受けた石とされ、人気は依然として高い。
かつて白だと思われていたペタライトにピンクがあるとわかったとき、誰もが飛びついた。
初期には透明結晶を含む巨大なピンクペタライトが流通した。
現在はタンブルやビーズが主流となっている様子である。
いったん磨かれてしまうと、ペタライトかどうかを見分けるのは至難の業。
ローズクォーツやモルガナイトだと言われてもわからない。
華々しいチェリーピンクに染色されたとみられる怪しいペタライトも登場している。

ピンクペタライトの産地に関しては、かねてからの疑問であった。
加工品の表記はブラジルであったり、アフリカ(のどこか)であったり、アフガニスタンであったりと、アバウトな印象が拭えない。
さらに、中国の新疆ウイグル自治区からピンクペタライトが発見されているという。
現地は隠れた鉱物の名産地。
きな臭い噂の絶えない彼の地に、素晴らしい鉱物が数多く眠っている。

推測の域を出ないが、タンブルやビーズなどで僅かに流通しているのは、新疆ウイグル自治区から出たものかもしれない。
数年前から話には聞いていた。
中国産のペタライト標本が見当たらないところを見ると、既に加工にまわされてしまった可能性もある。
この原石に関しては、ナミビア産との表記に従うこととする。

ペタライトにはさまざまな色合いがある。
無色透明、ピンク、イエローのほかに、青や薄紫、オレンジなども。
ミャンマーからはゴールドに輝くペタライトが発見され、愛好家の間で珍重されている。
ありふれた、それでいて個性豊かな、ここ日本からも産出するペタライトの魅力は計り知れない。


40×38×36mm  90.97g

2012/08/03

ヘマタイト/エジプトの星になった貝の化石


エジプトの星(貝化石仮晶)
Hematite after Sea Shell
White Desert, Farafra Oasis, Matruh Governorate, Egypt



太古の昔生息していた貝類が化石となり、さらにヘマタイトに置き換わったとされる珍品。
一目で貝とわかる造形と質感は、レプリカと見紛うほど。
かつての貝が、銅像(鉄だけど)のように忠実に再現されたさまは、大自然による芸術作品といって差し支えないと思っている。

この標本には他にも興味深い特徴がある。
以前、サハラ砂漠から発見されるエジプトの星(Zストーン)という鉱物を取り上げた。
サハラ砂漠がまだ海の底だった頃に形成されたという、ユニークな特徴を持つヘマタイトであった。
あたかも星のように見えるため、その名が充てられたと思うのだが、実は星のような形をしていない石もわりあい流通がある。
勇敢なミネラルハンターや専門家が、サハラ砂漠の奥地にあるホワイト・デザートで様々な形状のヘマタイトを採取しているそうだ。

写真の化石標本も、日本語で表現するなら「エジプトの星」と同じものということになる。
本文下にこの石の裏面を掲載した。
エジプトの星と見分けがつかないほど似ているのがわかると思う。
前回紹介したエジプトの星は、マーカサイトという鉱物の仮晶だった。
化石が置換される例としては、パイライト化したアンモナイトが有名だが、多くはスライスされてその特徴がわかるようデザインされている。
カットされずとも貝とわかるなんて不思議。
化石の世界は奥が深いのだな。

サハラ砂漠はかつて、海の底であった。
エジプトの星とよばれる石は、その頃に形成されたといわれている。
この標本は、サハラ砂漠が海であったことを証明する、貴重な資料になるのだろう。
化石はどちらかというと苦手。
見事な貝殻のオブジェなら、喜んで飾らせてもらおうと思う。
ただし、ヘマタイトはいわば金属。
錆びやすいため、湿気の多いところに飾らないほうがよさそう。

古来から、人々は生まれ変わったのちの自分の姿を想像した。
「大空を羽ばたく鳥になりたい」
「また人間になって、妻と出会いたい」
そんな叙情的な文脈で語られることもある。
私は欲張りだから、エジプトの星になりたい。
どれくらい時間がかかるのか、見当もつかないが、頑張ればなれるかもしれない。

いっぽう「私は貝になりたい」と言った人もいる。
私は漠然としか知らないが、有名な言葉だからご存知の方のほうが多いと思う。
戦争において理不尽な運命に翻弄され、苦難を強いられた加藤哲太郎氏は、遺書にこう書き残しているという。


けれど、こんど生まれかわるならば、私は日本人にはなりたくありません。二度と兵隊にはなりません。いや、私は人間になりたくありません。牛や馬にも生まれません、人間にいじめられますから。どうしても生まれかわらねばならないのなら、私は貝になりたいと思います。貝ならば海の深い岩にへばりついて何の心配もありませんから。何も知らないから、悲しくも嬉しくもないし、痛くも痒くもありません。頭が痛くなることもないし、兵隊にとられることもない。妻や子供を心配することもないし、どうしても生まれかわらねばならいのなら、私は貝に生まれるつもりです。

(『狂える戦犯死刑囚』より)





35×24×15mm  14.60g

2012/07/31

フローライト(ケイヴ・イン・ロック)


フローライト Fluorite
Minerva #1 Mine, Cave-in-Rock, Hardin Co., Illinois, USA



伝説のイリノイ州ケイヴ・イン・ロック、ミネルヴァ鉱山のフローライト(蛍石)。
世界でも有数のフローライトの産地であるケイヴ・イン・ロックには、かつて数多くの鉱山が存在した。
現在はすべて閉山し、古いコレクションを中心に流通している。
中でもミネルヴァ鉱山のフローライトは、歴史に残る標本を多く産したことで知られている。

数ヶ月前入手した、コレクターからの流出品。
明るいパープルからオレンジ色が見え隠れする面白い標本で、一部にクラックが入ってしまっているために、一桁お安くなっていた。
ミネルヴァ鉱山ならではのパープルの結晶にイエローが混ざりこみ、オレンジやピンクに見える。
幻想的と表現されることの多いフローライトだが、とりわけ華やかな色彩が目をひく。
この産地からの標本は、黒に近いパープルが多い。
写真の石も、直射日光で撮影したため明るい色合いに見えるが、一見すると暗い。
この標本の持つ明暗に、まだ見ぬイリノイの街や歴史、人々の行き交うさまを思う。

フローライトは一般に、色あせが起こりやすいとされる鉱物。
日のあたる場所に置いたために、なにか別のモノに変身してしまい、衝撃を受けたことが数回ある。
濃厚な色合いがほんのりパステルカラーと化すなど、私に予想できようか。
紫だったアメジストがミルキークォーツに変わり、驚いた方はおられるかもしれないが、これも同様の現象。
いったい何が起きたのだろう。

鉱物の退色や変色は、その色合いの原因が、カラーセンターによる発色(他色/仮色)である場合に起きるとされる。
説明するのは非常にややこしいので、興味のある方は資料を参照していただきたい。
大雑把にいうと、分子や原子のレベルで異変が起きている。
鉄分や銅、クロムなど、不純物に由来する着色ではない場合、発色は安定しないとされる。
放射線処理による色味の改善は、その性質を利用したもの。
退色するおそれのある鉱物として知られるのは水晶やクンツァイトとその仲間たち、トパーズ、ダイヤモンド等々、またフローライトは特に紫は要注意とのこと。
"日光浴・日光による浄化を避ける" と記載のあるパワーストーンに同じ。
詳細は以下のサイトがものすごく、詳しい。

参考:天然石の色
http://www.yebiya.com/material/about_stone/color.html

その他参考:ケイブ・イン・ロックの消息(イリノイの蛍石に対する愛が満載です)
http://www.ne.jp/asahi/lapis/fluorite/column/illinoisfr.html

私の想いを告白するなら、フローライトによりいっそう興味を持った頃合いが最も危険である。
ついついケースに入れて飾り、色別に並べて、光による色の移り変わりを楽しみたくなる。
それが命取りになる。
歴史的価値のある標本を購入する前に、泣いておいて良かったと思う。
失われた色合いは戻らない。
それは、ひとつの石の歴史が終わることを意味する。
この標本のかつての持ち主は、戦後に活躍したニューヨークのミネラルハンターで、98年死去。
ラベルの状態を見た感じ、1950~60年代の採取品だろうか。
偉大なコレクションは長い年月を経てもなお、私たちに感動を伝えてくれる。


45×40×32mm  89.35g

2012/07/30

フローライト入り水晶


フローライト入り水晶
Quartz, Fluorite Inclusions
Miandrivazo, Amoron'i Mania, Fianarantsoa Province, Madagascar



クリアな水晶に浮かぶフローライトのインクルージョンが清々しい。
2005年頃、マダガスカルからわずかに発見されたという。
ちょうどその頃、命と引き換えに(?)鉱物の世界にたどりついた私は、すぐに興味を抱いた。
スーパーセブンの流行で水晶のインクルージョンに対する関心が高まり、「とりあえず水晶に入ってる何か」を探していた人々が、この美しい石に夢中になったのは必然的なこと。

鉱物標本として、またヒーリングストーンとして、高い評価を受けたフローライト入り水晶、フローライト・イン・クォーツ。
同じくマダガスカル産の星入り水晶とともに量販された。
しかし実際には、産出は200kgほどしかなかったらしい。
流通は減り、質の悪化とともに人気は失速していく。
現在流通しているフローライト入り水晶は透明感に乏しく、内部の様子が見えるようカット、研磨することが多いようである。

初期に流通したフローライト入り水晶の原石ポイント。
水晶に含まれる青紫の鉱物がフローライトである。
よく見ると八面体に結晶している。
氷のように清らかな水晶は変形していて、フローライトのインクルージョンの魅力を引き立てている。
本文下に外観の写真を掲載した。
中央は空洞になっている。
表面には多角形の刻印のようなくぼみが多数みられる。
これは、かつて存在したフローライトが、何らかの原因で外れた跡だといわれている。
周囲の白いインクルージョンもフローライトであると考えられている。

数箇所に切断面(削られた部分)があるため、鉱物標本ではなくヒーリングストーンとして販売されていた。
当時は安価だったため他にも原石の手持ちがあるが、透明感はこれがベスト。
空洞に関しては、自然に形成されたとみられる。
まさかこの空洞にも、元々フローライトが入っていた…
か、どうかは、わからない。
表面の至るところにフローライトの痕跡があり、模様のようになっているから、かつてはフローライトだらけだったのだろう。
もしかしたら、空洞部分もフローライトだったのかもしれない。

フローライトには六面体と八面体がある(→うさこふ作成の図解参照)。
もしインクルージョンが六面体結晶であったなら、評価は若干かわっていたかもしれないと思うときがある。
八面体フローライトは一般に、高温の環境下で形成されるといわれている。
夏は暑い。
暑は夏い。
涼しい風を運んできそうな、今となっては貴重なこのフローライト入り水晶(の画像)を、頑張っているあなたにお届けします。




60×30×26mm  39.38g

2012/07/25

ストロマトライト


ストロマトライト
Stromatolite
Sevaruyo, Eduardo Avaroa, Oruro department, Bolivia



太古の昔、地球の大気は二酸化炭素で占められていた。
ストロマトライトとは、30億年もの昔に生息していたシアノバクテリアと呼ばれる藍藻類の一種。
地球上に初めて酸素を供給した生物として知られている。
この石の独特の模様は、シアノバクテリアと海中の蓄積物が化石化し、層を成したもの。
厳密には、化石ではなく岩石の扱いとなる。
化石類についてはまだわかっていないことが多いが、ストロマトライトも例外ではない。
30億年前のそれとは異なる、27億年前に登場したシアノバクテリアが地球環境に変化をもたらしたという説が有力となっている。
1億年違うというだけで相当な時間が宙に浮く。
まさに気の遠くなるような話。

ストロマトライトはいわば生命の起源となる存在。
シアノバクテリアの光合成によって増加した酸素により、オゾン層が形成され、生命が陸へ上がる条件が整っていったと考えられている。
生命の創造主としてストロマトライトを神聖視するのは、西洋におけるキリスト教の価値観の影響によるものだろう。
キリスト教においては、神が生命を創り、人々を高みへと導き、時に厳しく裁きを下すということになっている。
日本人の考える神様とは少し事情が異なる点、押さえておきたい。

ストロマトライトがヒーリングストーンとして注目を集めたのもその流れ。
スーパーセブンでお馴染みの、メロディ氏が著書で取り上げた。
化石全般に言えることだが、ストロマトライトは外観としては地味であり、どちらかというと不気味である。
そんな岩石が、パワーストーンを支持する女性層の心をつかんだ理由は、生命の誕生というキーワードとクリスタルヒーラーの声、そして形状ではないかと私は考えている。
小さくカットされ、タンブルになったストロマトライトは、かわいい。
ポーチに入れて持ち歩きたくなる。
しかし、化石標本として並べられているストロマトライトにかわいさは微塵も無い。
かわいさが功を奏して、小さなストロマトライトが太古のメッセージを宿したクリスタルとして大流行…したような気がするのである。

さて、Wikipediaのストロマトライトの項では、非常に地味な泥の塊としてのありのままのストロマトライトを存分に参照することができる。
これは一体何事か(→写真

参考資料:

1)オーストラリアの西オーストラリア州ハメリンプールに発達するストロマトライト
2)同じくハメリンプール・シャークベイのストロマトライト群がまるで地蔵群
3)群馬県立自然史博物館のストロマトライトの模型にロマンをかきたてられている様子の筆者
4)ストロマトライトの唄



生きた化石として現代に君臨するストロマトライト。
生物が陸に上がったのち、高等生命の餌食となりながらも、たくましく生き延びている。
そんなストロマトライトと生命の起源については、目下研究が進められている段階。
素人が論ずるのは憚られるから、詳細については上記のサイトや論文などを参考にしていただきたい。
ロマンを愛でる男性方には魅力的な存在に違いない。
しかしながら西オーストラリアでその雄姿を見届けるのは、私には難しい。
できることなら、写真にあるようなかわいいストロマトライトに神秘を準え、太古のメッセージに酔いしれたいものである。

なお、今年80歳になる私の父親は、ストロマトライトを見て、怖ろしい殺人蜂の巣が脳裏をよぎったという。
以降、当家において、この石を居間に放置することは固く禁じられている。


22×15×14mm  11.02g

2012/07/24

ヒマラヤレッドアゼツライト


ヒマラヤレッドアゼツライト
Unofficial Himalaya Red Azeztulite
Himalaya Mts., India



Heaven&Earth社から発表された新しいアゼツライト、ヒマラヤレッドアゼツ。
ヒマラヤゴールドアゼツと同じ、インド北部の山地から発見されたといわれている。
ぱっと見て、おかしいと思ったあなたは通の人。
どこがおかしいか。
ペンデュラムに加工されたこの石は、ヒマラヤレッドアゼツと同じもの。
しかし、H&E社のカタログにはない。

アゼツライトは石の名前だと考えている人も多いかもしれない。
正確には、H&E社とその代表であるロバート・シモンズ氏が発掘し、普及を手がけた商品の名称である(詳細はこちら)。
ご縁を頂戴した方から、日本の能力者により独自にアレンジされたアゼツライトが出回っているというお話を伺った。
アゼツライトの価値の認定及び加工、流通、販売等は全てシモンズ氏の管理下にある。
無関係な人が販売することでさらなる付加価値がつくというのは疑問が残る。
販売者に求められるのは、流通過程においていかに本来の魅力を損なわず、本物のアゼツライトを消費者に届けるかということではないだろうか。

では、カタログにないこの "ヒマラヤレッドアゼツ" の正体はというと、やはり全く同じものである。
シモンズ氏に原石を卸している業者が関係しているというが、言及は控える。
先日、参考までに購入した。
本国アメリカ産出のアゼツライトは、H&E社より厳しく管理されているが、インドのほうは無防備になりがち。
何らかの手違いにより加工された製品が、"ヒマラヤレッドアゼツライト" として流出したものとみられる。
ヒマラヤゴールドアゼツライトについても、まったく同じイエローの石が裏で取引されているのを目撃している。
価格としては微々たるもの。

このところ、石に独自の価値をつけて高値で販売するというH&E社の手法を真似た日本人業者が目につく。
ブレスなどの製品は出処と原価がある程度わかってしまうから、どうしてそれほどまでの過剰な利益が必要なのかと、驚かされることも多い。
H&E社製品でなければ価値のつかなかったものを、目的はなんであれ利用するのは危険なこと。
ただ一瞬の評価のために人の道を誤り、多くの人を悲しませるというのがパワーストーンの使い途だったか。
石は人の幸せを願うためにあったはず。
自分がやったことは、必ず返ってくる。
取り返しのつかないことになる前に、そのことを思い出してほしい。


2012/07/22

ベニトアイト/ネプチュナイト


ベニトアイト/ネプチュナイト
Benitoite, Neptunite
Benitoite Gem Mine, San Benito Co., California, USA



ベニトアイト(ベニト石)の散りばめられた母岩から、ネプチュナイト(海王石)の結晶が飛び出した豪華な標本。
どちらも稀産鉱物として知られ、小さいながら多くの結晶とその形態を楽しめる良品となっている。
写真の右上に見られる、赤みを帯びた黒い結晶もネプチュナイト。
マンガン成分が多いほど赤く見えるそうだ。
結晶のほうは真っ黒だから、それらを同時に観察できるのも嬉しい。
母岩はソーダ沸石とのこと。

ベニトアイトは希少石の中でも人気の高い鉱物。
カットすると美しい輝きが出るため、収集家の間で長く愛されてきた。
カリフォルニア州では "州の石" とされ、珍重されているという。
ベニトアイトは1906年、カリフォルニアのベニトアイト鉱山から発見された。
原産地からの採掘は終了している。
カリフォルニアのベニトアイト鉱山が唯一の産地とされることから、希少性は増すばかり。
多くはカットされ流通しており、宝石としての人気も高い。
何故こんなものを持っていたのか忘れてしまったが、先日倉庫から出てきた。

この標本の見所は、水晶のような端正なネプチュナイトの結晶のサイドに、ベニトアイトがくっついていること。
もともと産地からはベニトアイトとネプチュナイトが産出することで知られているが、互いにくっついているのは見たことが無い。
誰もが憧れる二つの鉱物が仲良く共生している姿は、なんだか微笑ましい。




32×20×12mm  3.88g

2012/07/21

フローライト(ナミビア)


フローライト Fluorite
Okurusu Mine, Otjiwarongo, Namibia



ブルー・グリーン・パープルの絶妙な組み合わせ。
ナミビア産出のフローライト(蛍石)。
背たけの低い群晶の底面がゆるやかにカーブを描く。
まるで、アンティークのガラス食器のように、幻想的な光景が広がる。

2007年のツーソンミネラルショーにて、特に何も考えずに購入したもの。
当時、私はフローライトを「鉱物の一種」程度にしか捉えていなかった。
安いわりに目立つからストックしておこう…
などという、愚かな動機で購入した。
まさかその後自分がフローライトに目覚めるなど、思いもしなかった。

ツーソンの卸売りコーナーの一角を占拠し、大量に積まれていたナミビアンフローライト。
まるで人の手で造られたかのような、乱れの無い完璧な結晶だった。
興味のない人間が見ても気に入るようなフローライトが、ナミビアから大量に採れるものと勘違いしてしまった。
山積みのダンボールに詰め込まれていた鉱物の中には、今となってはもう見ることの無い石も含まれていた。
このナミビアンフローライトも、ざっと見た感じ、そのひとつに含まれるようである。
てっきりこうした形の整った良品が、コンスタントに出ているものと思い込んでしまったが、そうではなかったようだ。
アンバランスな欠片や破損品、切断面の目立つ原石が、良いお値段で販売されている。

鉱物標本を集めている人たちは、しばしば加工品を見て腹を立てる。
水晶と同様、フローライトにもその傾向が見て取れる。
このナミビア産をはじめ、南アフリカ産、英国産、ドイツ産など、比較的色幅のある標本なら、原石につきる。
表面の構造(骸晶やエッチングなど)が完全に光を通さないために、複数の色が溶け込んだかのような幻想的な光景が広がるというわけ。

しかし、当時これに似たナミビア産フローライトを購入した人々は、一体なにをしておられるのか。
少なくとも2、3年前、ツーソン買い付け品として、国内でもかなりの量が出回った。
私がこれを手放さなかったのは、単に忘れていただけで、先日見つけて驚いた。
感動の再会が待っているかもしれないから、あなたもどうか見つけ出していただきたい。
お手持ちの標本がやがて、産地別・カラー別・結晶構造別などに分類され始めたら、あなたも立派な「フローライトに魅了された人」である。
高価な標本が多いので、無理はなさらずに。

インパクトやわかりやすさに関しては水晶に及ばないが、見るたびに味わいが増すとすれば、フローライトのほうだろう。
光をとどめた結晶内に溶け込む色彩がさらなる色を生み、調和するさまは、ちょっとした万華鏡のようだ。
無限の可能性を秘めた光の幻影。
水晶がアッパーなら、フローライトはChill Outかな。


60×45×19mm  54.81g

2012/07/18

シャッタカイト/カルサイト


シャッタカイト Shattackite
Kaokaveld, Kunene Region, Namibia



美しいブルーの希少石、シャッタカイト(シャッツク石)。
以前水晶に内包されたものをアップしたが、こちらは水晶でコーティングされたもの。
ざらめのような細かい水晶の粒が、水色に染まっている。
シャッタカイトに独特の、ボール状の結晶形の名残りがみられる。
大きなカルサイト上に2箇所、水晶に彩られたシャッタカイトが顔を覗かせる、面白い標本。

シャッタカイトを知ったきっかけは、ナミビアから産出するというクォンタムクアトロシリカ(→写真)というヒーリングストーンだった。
クリソコラ、マラカイト、シャッタカイトが石英に入ったという鮮やかな色彩のその石は、タンブルに磨かれて広く流通した。
その後、シャッタカイトは入っていないという話になったため、動揺した方は多かったはず。
私はシャッタカイトの名に惹かれて入手したも同じだった。
ではあのブルーはなんだったのか。
現在も真相は明かされていないようである。

シャッタカイトは1914年、米・アリゾナ州でマラカイトの仮晶となって発見された銅にまつわる鉱物。
銅を含む石として有名なのは、シャッタカイトの他にマラカイト、クリソコラ、アズライト、ダイオプテーズ、ターコイズ、キュプライト、アジョイト/パパゴアイトなど。
銅の二次鉱物として最も一般的なのはマラカイト。
古い十円玉に発生する緑の物体(緑青/ろくしょう)は、実はマラカイトである。
上記の鉱物がマラカイトと混在して発見されることは多い(例:アズライトマラカイト、マラカイトキュプライト、エイラットストーン、ターコイズもそう)。
クォンタムクアトロシリカに含まれる青についても、上記のいずれかに該当する可能性はある。
名前が挙がらないということは、銅の類いであったに違いない。

アズライトとマラカイトなのか、シャッタカイトとマラカイトなのか、素人には見分けがつかない。
シャッタカイトがアジュラマラカイトと誤解されているケースよりむしろ、とりあえず青いからシャッタカイトと呼ばれているケースのほうが多いような気がしてきた。
ターコイズカラーのシャッタカイトも研磨されて流通している。

標本の産地はシャッタカイトが発見されることで有名な土地。
特に石英と共生して発見される標本は高い人気がある。
強いバイブレーションを持つ霊的存在としてヒーリングの世界で珍重されているシャッタカイト。
そのバイブレーションが本物かどうか、今一度確かめる必要がありそうだ。




50×43×30mm  43.98g

2012/07/15

パライバクォーツ


パライバクォーツ
Medusa Quartz (aka Paraiba Quartz)
with Gilalite Inclusions
Juazeirio Do Norte, Ceara, Brazil



涼しげなミントブルーが美しい。
水晶にギラライト(ジラライト/ギラ石/ジラ石)という鉱物が入り込み、明るい水色に染まっている。
2005年にブラジルのパライバ州で発見され、その色合いがパライバトルマリンを思わせることから、一般に "パライバクォーツ" と呼ばれる水晶である。
原石には不純物の混在が認められることが大半。
そのため、ギラライトの様子がよく見えるよう、カットされて流通している。
発見されたのは全部で10kgほど、既に枯渇している。
全盛期には仰天価格を更新し続けたこの石、質の低下により一気に値を下げ、身近な存在となった。

ギラライトは1980年にアリゾナ州で発見された非常に珍しい鉱物。
日本語表記はまちまちで "ギラ" とするか "ジラ" とするかは人によって異なる。
この水晶に関しても、「ギラライト・イン・クォーツ」「ジラ石入り水晶」といった複数の呼びが存在するため、混乱を招いている。
希産鉱物ならではの扱いの難しさというべきだろうか。
宝石としては「メデューサクォーツ」が正式名称とされる。
パライバトルマリンとの混同・誤解を招くという懸念から、米国宝石学会GIAによって設定された。
もし、見た者を石に変えてしまうという怖ろしい怪物・メデューサを思い浮かべた方がおられたら、安心してほしい。
ここで使われるメデューサとは、クラゲのこと。
水晶に浮遊するギラライトが "Medusas Rondeau" というクラゲを想起させるのが名前の由来だという。

ギラライトの呼び名がかえって混乱を招くこと、メデューサクォーツの名は国内では一般的ではないことを踏まえ、ここでは日本での主な通称であるパライバクォーツの名で統一させていただこうと思う。

パライバクォーツにもいろいろある。
一般には、青や緑のボール状に結晶したギラライトの浮かぶ透明水晶を指して使われる。
メデューサクォーツの名の由来となった、クラゲが浮遊するかのような幻想的な光景は、世界中の愛好家を熱狂させた。
いっぽう、写真のようにギラライトを多く含み、パイナップルのような針状の模様が並ぶ石も稀に存在する。
初期に僅かに流通したタイプで、一目で気に入って購入した。
私が鉱物に興味を持ったのが、まさにパライバクォーツの全盛期。
規則的なパターンが規則的に繰り返されるさまは、パライバトルマリンとはまた違った面白さがある。
今調べたら、過去に最も貴重とされたのはこのタイプらしい。
現在は、透明水晶に水玉の浮かぶ石がベストとされている。
なお、上記の特徴を持たず、水晶全体または一部が水色に染まり不純物を伴う場合、宝石とは認められず、カットされることもない。

パライバトルマリンの発見されたパライバ州から見つかったというエピソードは実に面白い。
数個の水玉が浮かぶ程度では、パライバカラーには見えない。
かといって不純物だらけでは美しくない。
つまり、パライバクォーツの命名に関わったのはこのタイプで、産出の激減に伴い一般的となったクラゲタイプに因み、メデューサクォーツの名で定着したのではないかと勝手に考えている。

参考:無理やり感が否定できないパライバクォーツのブレスレット
http://www.hs-tao.com/cart/shop/shop.cgi?No=5771

すごいブレスだ。
アジョイトと言われてもわからない。
ここまで根性を見せ付けられると、圧迫感すら感じてしまう。
手にされるのはどんな方だろう。
ある意味究極のレアアイテム。
やがて消えゆく運命にあるこの石が存在した記録として、いつまでもそこで輝いていてほしい傑作である。


17×8×3mm  4.53ct

2012/07/13

サイババ・アッシュ


サイババの聖なる灰
Satya Sai Babas Sacred Ash
Babas Ashram, India



3日前、携帯電話が消えた。
朝起きたら消えていた。
私はよく物を失くすが、携帯電話は失くしたことがなかった。
幾度も消滅の危機に晒されながら、奇跡的再会を果たすこと数回。
今や携帯電話の無い生活など、考えられなくなった。
自分だけの問題ではない。

思えば、不思議な携帯だった。
ネットは基本つながらない。
電話も頻繁に、途切れる。
月蝕を撮ろうとしたらUFOが映っている。
私の人生初の水没事故から生還し、私の身代わりに誘拐される(!)などの過酷な試練を耐え抜いたあの携帯電話は、確か昨年の震災の翌日 前日に発売された。
ネットがたまにしか繋がらないから、表示されるニュースは5日くらい同じ内容。
震災のことも、原発事故のことも、ずっと後で知った。
ただあの携帯は、テロリスト殺害のニュースを誰よりも早くひろった。
また、日本では地味な扱いだった、サイババ死去のニュースを誰よりも早く伝えたことを、今でも不思議に思っている。

2011年4月24日、インドのサイババが亡くなった。
日本は未曾有の震災の混乱の中にあって、話題に上ることは殆どなかった。
インドでは特に悪い噂は聞いていない(ダライラマのお弟子さんには会ったが、サイババのほうはご縁がなかった)ので、現地でどういう扱いだったのかはわからない。
エスニック雑貨店には今でも、サイババをモチーフにしたシールやお香、ポスターなどが並んでいる。
インドではアイドルやスポーツ選手のほか、神様や聖人をモチーフにした尊いアイテムが好まれる。
助けてくれる神様ばかりではないのは皆さまもご存知の通り。

先日倉庫から、興味深いものが出てきた。
鉱物ではない。
写真にある、サイババが奇術により宙から取り出すという、聖なる灰の入ったペンダントである。
このペンダントのイレモノ自体は市販されていて、複数の種類の石を持ち歩きたい海外のクリスタルヒーラーの間で人気がある。
まさか、サイババの灰を入れる人がいるなど、想像していなかった。
出処は海外、今から4年ほど前になるだろうか。
クリスタルヒーラーとして長年活動されている方で鉱物の知識もある。
日本人のように灰にご利益を求めることもない。
これは面白い、という不純な動機で譲っていただいた。
灰ならば鉱物に含まれるのかもしれないが、サイババの身体の一部なら有機物?
無人島に持っていきたい有機物?
今となってはもうサイババが取り出すことのない、希少物質ということでお許し願いたい。

サイババの聖なる灰のペンダントがイギリスから届いた。
袋に小分けにされた灰も付けてくださった。
お香を焚いた後にのこる灰のような、心地よい香りと絹のような手触りは、周囲の人々のいう「人を騙して名声を得、金儲けに夢中になっている男」とはかけ離れた清浄な印象だった。
どなたかに笑いと共にお届けするつもりだったが、いつの間にか私の宝物となっていた。
単にお香が好きだからかもしれない。
それ以来、私はサイババに対して否定的になれないでいる。

サイババの死去を伝える記事を先ほど見た。
震災直後だけに、ニュースとしての扱いは地味。
現実との闘いだった我々の目に、サイババがオカルトとしか映らなかったのも無理のないこと。
トリックの図解や分析は当たり前、 "あやしい能力を使って手から粉を出してみせる億万長者" としてのサイババの死が伝えられていた。
ただでさえサイババの評判は悪かった。
聴こえてこなかったが、なんとなく想像できた。
資産の使い途から察するに、もともとの身分は高くなかったのかもしれない。
成金っぽいところはあったのかもしれない。
日本での震災前後には既にお悪かったようで、義援金の件で話題になることもなく、私たちの記憶から消えてしまった。
サイババの顔はマイケル・ジャクソンに少し似ている。
ファンの方には申し訳ないのだけれど、どこか共通するものがある。
スピリチュアルというより華やかに見えてしまうのも、マイナス要素のひとつかもしれない。

サイババが莫大な資産を慈善事業に投じたとあるが、これも誤解を生む表現に思う。
日本ではそれがパフォーマンスに過ぎないこともあるが、インドにおいてはむしろ当然のことなのだ。
金銭だけでなく、日常風景に垣間見ることのできる、ヒンドゥ教に独特の世界観である。
その日の飯代のために、切符の購入代行業者が長い行列に分け入っても、文句を言わない人たちがいる。
長距離を走る夜行列車の指定席に強引に座ろうとする切符のない人間に、黙って席を明け渡す人たちがいる。
インドでは裕福な者が貧しい者に施すのは神のおしえ。
貧富の差が生まれつき決まっているから、宿命的なものなのだ。
インド人は、神に誠実であることを行動で示し、非暴力を尊び、カースト社会を生きる。
もちろんインドの抱える人口分の犯罪者がいるから、絶対ではないことを忘れないで欲しい。
私ならば、金と名声のためではなく、人を微笑ませ、希望をもたらすためにトリックを使うだろう。

インドの修行者を極めて現実的に描写している興味深い例:
http://chaichai.campur.com/indozatugaku/sadhuqa001.html

ここではサドゥと呼ばれるインドの修行者について、神秘を打ち砕くかのような内容が具体的に語られている。
私のような者が偉そうに評する立場にないことはわかっている。
筆者はずいぶん修行者に近い生活をされたと思われるから、及ぶわけが無い。
ただ、ホンモノらしき修行者を、偶然に私は垣間見てしまった。
私がその場で見て感じたことに非常に似ている。

かつてインドを旅したさい、私は144年に一度とされる大祭に出くわした(※その手の祭もたくさんありそうだが、調べた限りでは宗教行事としては世界最多の参加者を記録したとある)。
マハ・クンブメーラと呼ばれるその祭りには、インド各地から修行者が集まる。
集まると言うより、もはやガンジス河が修行者に埋め尽くされてよく見えない。
いろいろなタイプの修行者がいた。
神秘でもなんでもない。
インドにおける信仰とは文化であり、日常であり、生きることそのものなのかもしれない。
批判を承知の上で、あえて上から目線で書くならば、外国人がサイババの超能力が本物か否かを主題にするのは、価値観の違いを考慮しない未熟さの顕れに過ぎない。
ガンジス河のほとりで生活する "観光客向け" のインド人修行者に対し、外国人は闇雲に神秘を求めるか、まがいものと笑う。
彼らが生活するために修行しているのは明らか。
現地の人は何も言わない。
そうやって楽をして暮らしていくことに腹を立てたり、羨ましいと思うそぶりもない。
ホンモノかニセモノかを見分けるという発想すらないように見えた。
修行者もまた、施しを受けて生きる運命にある。
同時に崇拝の対象でもあるというのは我々にはない感覚だと思う。
上記のサイトにおける、サイババとサドゥは広い意味では同じ、という一節は興味深い。
サイババが特殊な宗教団体の指導者として君臨したというより、奇跡により出現したと信じたくなるような世界が目の前に確かにあった。
その後の経済的成長はインドを確実に変えたはずだから、晩年のサイババについてはわからない。
状況はむしろ好転したようだ。
サイババは施しを受けると同時に、施しをする立場にあった。
奇跡の人ではないかもしれないが、嘘になることは無かったはず。
もしあるとするなら、サイババに過剰な神秘を求めたか、まがいものと笑いたかったのだろう。

Wikipediaにおいては、さまざまな角度からサイババという人物について述べられている。
サイババに興味のある方は一読いただきたい。
私がインドを訪れた2000年冬、サイババはまさに試練のときにあったようだ。
国際的非難を浴びながらも、その信念は揺らぐことなく、現実とともに存在した。
インドでは国葬という形でサイババの死を惜しみ、敬意を表したものと信じたい。
サイババに対する誤解を解くという意味を込めて。

気になることがある。
今となっては激レアなはずのサイババの聖灰が、ここにきて国内で流通しはじめた模様。
サイババが出したとは書いていないが、そう受け止める人もいるかもしれない。
スピリチュアル・ムーブメントの高まりのせいだろうか。
真実は誰にもわからない。

このペンダントが、サイババのまた別の姿を垣間見る機会を与えてくれたのは事実だ。
私は物を消すという奇跡を起こしがちな宿命のもとに生まれたのだと信じることにする。
できることなら、もうインドには行きたくない。
それはきっと人生で最も不幸なときだから。
もしインドに究極の幸せがあるなら、インドから日本に働きに来る人などいない。
日本に神がいないからといって、インドの神々が助けてくれるとは限らないからだ。


30×5mm(本体) 計4.46g


携帯電話は本当に消えてしまいました

2012/07/08

スファレライト


スファレライト Sphalerite
Las Manforas Mine, Picos de Europa National Park, Cantabria, Spain



閃亜鉛鉱の名でも知られるスファレライト。
主にコレクション用のカットストーン(ルース/宝石)として流通していて、ビーズなどに加工されることはない。
希少石ながら世界中から産出があり、色合いはさまざま。
他の鉱物と共生することも多く、その魅力は一言では語りつくせない。
スファレライトは黒褐色の塊であることが一般的だが、スペインから産出したこの宝石質の標本は、鮮やかな色彩とメタリックな光沢を特徴とし、世界中の収集家から愛されている。
宝石質のスファレライトは、かつて日本からも発見され「べっ甲」と呼ばれ親しまれていたそうだ。
いずれも採掘は終了している。

鉱物に興味を持ち始めた頃、真っ先に注目した石のひとつ。
なんでも、古くから「霊力を高める石」として、世界各地の民族の間で儀式に用いられてきたらしい。
感性を高め、メッセージを受け取りやすくする力はなんとなく欲しい。
なんと、思考の偏りを正す力もあるというから、ひねくれ者の自分には最も適したパワーストーンである。
それまでは黒褐色のスファレライトしか入手できなかっただけに、ようやくこの標本を入手したときは、嬉しくてたまらなかった。

ところがある日、異変は起きた。
標本を取り出してみたところ、衝撃的な事態が発生していた。
なんと、表面に無数の暗灰色の結晶が発生しておるではないか。
結晶の一部は陥没しており、手の施しようがない状態だった。

本文下の写真を見ていただきたい。
左がビフォー、右がアフター。
当初見られなかった付着物で覆われている。
しばらく立ち直れなかった。

譲ってくださった方に問い合わせてみた。
閃亜鉛鉱が変質を起こすことは滅多になく、長時間水に浸しても変化するのは稀、とのこと。
何かしらこの石に緊急事態が発生したのは間違いないようである。
今までこのようなことはなかったために、油断していた。
左と右の写真の違いといったら!
原石というのは一点物。
もう一回探そうとして、あきらめた。
それから一年近く経つが、同じような雰囲気をもつ標本は見ていない。

以前も記したが、天然石=天然、だから安全とはいえない。
いわば天然の化学物質だから、化学変化は起きる。
珍しい鉱物を身につける場合は、どんな要素で出来ているかを十分に確認し、思わぬ事故を防ぎたい。
浄化の不手際や霊的予兆を疑うのは最後でいい。
しかしながらこれは最後まで原因がわからない。

ひねくれ者にはこのようなメッセージが届けられるということ?




34×22×15mm  25.53g

今週、話題性が確認された10の鉱物

What Mineral Would You Take with You to A Deserted Island?