2013/03/15

チベットモリオン(黒竜江省産)


チベットモリオン
Quartz var. Morion
Heilongjiang, Daxing'anling Prefecture, China



かねてから、チベットモリオンは実在するのかという疑問があった。
高波動満載のヒーリングストーンが多数発見されているといわれるチベット。
古くから旅人を魅了してやまなかった伝説の地、シャングリラからも、モリオン(黒水晶)が大量に発見されているという。
聖地チベットから産出する神秘のパワーあふれる黒水晶・モリオン。
そんな都合のいい話がこの世にあるだろうか。

以前アンデシンの記事にて、中国で産地の捏造が日常的に行われているおそれがあることを記した(注:チベットアンデシンについてはこちらの記事にて)。
未知の産地をとらえた写真がネット上に流れる時、善からぬ思惑が入り混じることがある。
パワーストーンの売り上げアップのために、採掘現場と称して撮影にモデルを起用し、チベットの神秘を演出してしまったという残念な例が実際にある。
今回は、人気のチベットモリオンの存在の如何について、大胆にも考察していきたい。

きっかけはチベット産レッドアンデシン。
採掘現場の写真をネット上でたまたま見かけ、違和感を感じた。
鉱山内の一箇所に、不自然なほどに宝石質の赤い結晶が、まとまった状態で詰め込んである。
選別作業において、選別を終えたアンデシンは見当たらない。
素人目にみても実際の採掘現場ではない。
その後、産地のねつ造が行われていたことが発覚した。
ひとつの疑問が生じる。
アンデシン同様、他所から産したモリオンをチベットにばら撒き、神秘性を高めた…としたら?

以前ウクライナ産モリオンにおいて、山東省でモリオン産出の確認がとれている旨、記した。
山東省産モリオンは長石を伴う一般的な黒水晶。
鉱物標本店で見かける、信頼性のあるモリオンは、もっぱら山東省産だ。
チベットモリオンはパワーストーン系のショップで見かけるのみ。

私は幸運である。
ある方のご厚意で、内モンゴル産モリオンの産地や原石の様子の写真を入手することができた。
産地の状況もみえてきた。
正確には、内モンゴル産ではなかった。
山東省産に匹敵する見事なモリオンが産出しているのは、内モンゴルに隣接の中国黒竜江省。

黒竜江省モリオンは、大きさといい産出量といい、見事としかいいようがない。
表面が白や緑の衣に覆われているのがその特徴と考えられる。
工事中に偶然見つかったとのこと。
ただ、多くは巨大な塊で産出するため、鉱物標本として扱えなかった模様。
そのため、ほとんどがビーズなどに加工されてしまったということだ。
市場を賑わせているチベットモリオンのブレスレット。
黒竜江省モリオンを加工して作られたものだったのだとしたら、実に残念なことになる。
いっぽう、現地の産状や詳細な産出場所については謎につつまれたまま。
資料にある鉱山の写真には、半ば砂漠のような荒野と、海か湖のようなものが見える。
産地の地名から調べても、はっきりした場所はわからない。

さて、まずは中国黒竜江省産の天然モリオンのサンプルを手に入れなければならない。
そんなものは市場には出回っていない。
おそらくはチベットモリオンにその名を変えて、ブレスレットなどの製品になって流出してしまっている。
まさかとは思うが、中には "人工的につくられた" モリオンも含まれているかもしれない。
モリオン(黒水晶)は、水晶に放射能をあて、原子炉で人工的に作り出すことが可能である。

中国黒竜江省モリオンの特徴である、白やグリーンの衣をまとった大きさのある黒水晶。
チベットモリオンとして流出している石をあたれば、見つかるかもしれない。
そんなことを考えていたある日、私は中国黒竜江省産とみられる天然モリオンを格安で発見した。

昨年の池袋ショーにてお世話になったブース。
お隣のブースに黒いブツが並んでいる。
チベットモリオンの看板が出ている。
お店の方には、チベット産ではなくモンゴル産のモリオンを探している旨、告げた。
「混ざってます」とのお返事だった。
いや、混ざってなんかいないはずだ。
すべて中国黒竜江省産のモリオンであると、私は想定した。
というのも、池袋ショーで購入した写真のチベットモリオンは、見事な白や緑の衣をまとっており、中国黒竜江省産モリオンの特徴に酷似しているのである。
数年前から人気商品として定番化しているチベットモリオン。
これが偽物だったら大変なことになる。

日本人からすれば、チベットとモンゴルはだいたい同じ場所。
だが実際のところ、モンゴルとチベットには、相当の距離がある(→地図/イエローの部分がモンゴル産モリオンの産地付近か)。
日本列島が3つほど入ってしまうくらい離れた産地の鉱物が同じものとはいえない。
内モンゴル付近から素晴らしいクオリティの稀産鉱物が産したことは、専門家によって多数報告されている。
しかしながら、現地に外国人が入る機会は少ない。

以上の考察の結果、チベットモリオンは、残念ながら産地偽造品であったと断定する。
チベットモリオンと呼ばれ日本中のファンを虜にした神聖なビーズのほとんどは、中国黒竜江省産。
産地偽造の発覚は、販売者にとっては大問題。
だが、消費者も真実を知る必要がある。

気になるのは中国の放射能汚染とチベットモリオンの関係性である(→詳細はチェルノブイリと黒水晶にて)。
チベットモリオンの産地は赤と青で示した(→地図)。
イエローで示したのがチベットモリオンが産出したとみられる場所。
中国北端、モンゴル自治区境界及びロシアとの国境付近にあたるということだが、正確な位置はわからなかった。
現地は肥沃な土地を有し農作物の産地として知られているという。
しかしながら、場所がよくない。
中国にとって最も "不要な地域" にあたるのは一目瞭然。
核実験が行われた可能性がある。
仮に核汚染で半人工的に "処理" されたモリオンがこの世に存在するとしたら、うわさになったチェルノブイリのあるウクライナではなく、中国なのではないか、と私は推測する。

参考までに、写真の標本と一緒に購入したチベットモリオンのポイント(→画像)を例に挙げる。
放射線処理を施され黒くなった、有名なアーカンソー産の人工モリオン同様、色ムラが著しい。

中国から大量の天然モリオンが発見される以前は、放射能で人工処理したモリオンが主流であった。
一般に人工処理の如何は、白い色ムラの有無、根元付近に透明部分が残っているかどうかで見分けることができるといわれる。
標本を裏返すと、根元部分に無色透明の結晶が見えるのは、この標本及び上記リンクの画像にある通り。

中国の核汚染を持ち出すのは安直かつ危険と承知している。
ただ、内モンゴルが放射能で汚染されているのは事実。
聖なる土地のはずのチベットについても、核汚染は著しい。
四川省大地震では核施設が爆発し、多くの即死者が出たと聞いている。
意外に知られていないが、中国は日本以上の地震大国である。
チベットモリオンと最初に耳にしたとき、チベットにおける深刻な放射能汚染由来のモリオンを疑った。
しかしながら、より汚染の深刻なモンゴル付近から不自然なモリオンが産出し、誤ってチベットモリオンとして流通した、というのが現実のようだ。

以前から、チベットモリオンを好きになれなかった。
山東省産モリオンは手持ちがあるが、チベットモリオンは持っていない。
モンゴル産(黒竜江省産)も気味が悪いので倉庫には置かないようにしている。
チベットモリオンのパワーを信じて購入された方には、残念な内容になってしまった。
少なくとも、放射能の影響で黒くなった天然黒水晶に間違いないこと、記させていただく。
真実は石のみぞ知るということになろう。



右は裏面の拡大写真。
ところどころに透明水晶が見えるのは人工照射モリオンの特徴。
この黒さは原子炉で短期間に黒く加工されたとは考えにくい。
左は緑の衣をまとった堂々たる正面写真で、チベットモリオンに顕著。


約150g

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