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2013/04/03

ピンクフローライト(ペルー)


フローライト Fluorite
Huanzala Mine, Huallanca District, Dos de Mayo Province, Peru



欧米にはフローライト専門の収集家が数多く存在する。
彼らのこだわりと財力は果てしない。
もともとは鉱山の副産物であったフローライトが、閉山後に主役に取って代わる例も多い。
なかでもピンクのフローライトは、収集家が求めてやまないとされる貴重品である。

好まれるのは、透明感のある結晶にピンクの色合いが入ったもの。
スイス産やフランス産のチェリーピンクが有名だが、貴重品であり、日本には良品は入ってこない。
近年注目されているのはパキスタン産。
こちらは直接日本に入ってくることもあるが、彼らもプロだから簡単には落とせない。
世界規模で需要があるパキスタンのピンクフローライトだけに、現地のディーラーたちも強気なのだ。
なお、メキシコ産のパープルピンクはいっとき大いに流通があったが、ピンクフローライトに含めるかどうかは議論の分かれるところ。
色としてはパープルに近いため、安価なピンクフローライトとして扱われることが多い。

ペルーやモロッコから産出するピンクフローライトは、控えめなピンク。
写真の標本はペルー産出、骸晶の発達したデリケートな標本。
意外にピンクが濃い。
溶けて原形を留めておらず、元々どんな形だったかはわからない。
最初の発見は1980年頃、その後も断続的に発見されているという。
お世話になっている社長から譲っていただいたもの。
調べてみたら高級品だった。

ペルーのピンクフローライトは意外な掘り出し物。
当たり外れはあるが、写真のような色濃く大きな標本が見つかることもある。
春の訪れを教えるかのように、先日姿を現した。
外はもう春真っ盛り。
桜が満開だ。


31×25×16mm  12.77g

2013/03/24

スーパーセブン(ジンバブエ産)


ルチル入りアメジスト
Amethyst/w Rutile Inclusions
Chundu, Kazangarare, Zimbabwe



タイトルはスーパーセブンだが、写真の石は定義上、スーパーセブンではない。
被害が拡大中の "スーパーセブンもどき" に渇を入れるため、ここで改めてスーパーセブンについて考察するのが、今回の目的である。

あちこちで見かける昨今のスーパーセブン(セイクリッドセブン・メロディストーン)は、実はスーパーセブンではない。
スーパーセブンに関する前回の記事(→こちら)にも記したように、ブラジルのエスピリトサント州のインクルージョン入りアメジストを指して、スーパーセブンと呼んでいる。
現在国内で主流となっているスーパーセブンは、アフリカや中国から産出したもの。
鉄由来の成分であるレピドクロサイトやゲーサイト、ヘマタイトなどが見えるアメジストが、高波動の石スーパーセブンとなって、量産されているのである。


今一度、スーパーセブンの定義を見てみよう。

  • ブラジルのエスピリトサント州の鉱山から1995年に発見されたスモーキーアメジスト
  • 水晶、アメジスト、スモーキークォーツ、ルチル、ゲーサイト、レピドクロサイト、カコクセナイトの7つの要素から構成される
  • エレスチャル成長していることが多い
  • 鉱山は水没し、絶産している
  • 南インド産など他の産地から出た似た石は、定義上スーパーセブンと呼ぶことはできない

以上が現時点でわかっているスーパーセブンの基準。
既に絶産しており、1995年発見のオールドストックにはプレミアが付いている。
市場に流通している信頼のおける確実なエスピリトサント産スーパーセブンは、鉱物標本として流通しているスモーキーアメジスト。
実は2004年に新しく発見された鉱脈から得られたものらしい。
世界的にも主流となっているのもこれ。
エスピリトサントの他所から次々にインクルージョン入りアメジストが発見され、あたかもオリジナルのような価値を与えられて現在に至るというわけである。

後発の新しいスーパーセブンには、ヘマタイトが含まれていることが多々あった。
そのためスーパーセブンには8つの要素が…と解説していたり、最初からヘマタイトが入っていると説明しているサイトさまを見かける。
しかしもともとスーパーセブンの7つの要素にヘマタイトは無い。
また、ルチルが入っているスーパーセブンが見当たらないというのは謎である。

写真は意外に見かけない、ルチルの金の針が入ったアメジスト。
近年ジンバブエから発見されたこの美しいアメジストには、見事な細い金の針が詰まっている。

カコクセナイトについては諸説あるが、昨年エスピリトサント州フンダンより半世紀前のストックが発見され、カコクセナイト入りとして高く評価された。
私も昨年、偶然にも鉱山主さんから直接入手した。
同じ時期に米Heaven&Earth社より独占買収があり、鉱山主さんからの放出は無くなったそうだ。
それらはロバートシモンズ氏によりパープルアンジェリンの名を与えられて、小さくカットされて流通している(→詳細はカコクセナイトアメジストにて)。

私は例のごとく、違和感を受けた。
エスピリトサント産インクルージョンアメジストであれば、正統派スーパーセブン。
…のはず、だった。
しかし、カコクセナイトアメジストは、エスピリトサント産にも関わらず、スーパーセブンではないことが明記されていた。
調べてみたら、エスピリトサント州は世界に名だたるアメジストの名産地で、複数のアメジスト鉱山が稼動中だった。
つまり、現在手に入る本家スーパーセブンというのも所詮、偽物に過ぎなかったのである。

ルチルはどこから出てきたのか。
ルチルを内包するクリアクォーツ、或いはスモーキークォーツは、世界中から発見されている。
しかしアメジストに関しては、ヘマタイトやゲーサイトなど鉄関連鉱物のみ。

先日、大先輩にあたるK女史が、ルチル入りアメジストというのは実在するのか?と指摘されていた。
存在はしていることを思い出した。
このジンバブエ産アメジストはルチル入りアメジストとして購入したもの。
アフリカ産出にも関わらず、詳細な産地もわかっている。
ゲーサイトやレピドクロサイトなどの赤い針に混じって見える細いゴールドの針は、明らかにルチル。
極太の金のインクルージョンは一般にカコクセナイトとされているが、その様子とは明らかに異なるものである。




同じジンバブエ産アメジストの裏側が写真左。
右は側面から撮影している。
ルチルの針が見えるのはおわかりだろうか。
一見するとクラスター、途中からエレスチャル状に結晶している。
ジンバブエ産は主にエレスチャルアメジスト、他にセプタータイプが特徴となっている。

南インド・カルール産アメジストにも似た透明感、豊富な内包物、そして美しい結晶形。
紫の色合いの美しさはカルール産アメジストには及ばないが、内包物そのものの美しさや豊富さにおいてはジンバブエ産を推したい。
現在宝石やペンダントとなって高額で流通している "レアな本物のスーパーセブン" は、南インド、カルール産である。
スモーキーの色が少なく、どちらかというとシトリンの割合が多い。
高いからといって本物とは限らないので、注意していただきたい。

パワーストーンブームに火をつけるかのように登場し、インクルージョンという言葉を一気に身近にした魔法のクリスタル、スーパーセブン。
2004年の時点で、もう違うものが流通を始めていたということになる。
2年後に私が鉱物の世界にたどりついた時には、既に南インド産が主流になっていた。
現在主流の中国産 "スーパーセブン" は内包物に乏しく、美しさに欠ける。
期待のオーラライトにはインクルージョンそのものが見えない。

スーパーセブンのブレスレットは中国産アメジストなのだから、チベタンセブン等に改名するべきである。
などと思っていたある日、私は1995年発見とされる本物のスーパーセブンを拝む機会に恵まれ、ようやく納得した。
メロディ氏が発見したスーパーセブンには、ルチルが入っていた。
当時のサンプルからはヘマタイトが出なかったってことなんだろう。
世界的にはヘマタイトを内包した水晶のほうが一般的であり、ピンクファイヤークォーツや、カザフスタンのストロベリークォーツも現在はヘマタイトインクルージョンというのが通説となっている。

クリスタルヒーラーのA・メロディ氏によって見出された最初のスーパーセブン。
現在はクリスタルヒーラーのオールドコレクションがわずかに流れているだけのよう。
発見者のメロディ氏自身、分けてくださるような手持ちはないと踏んでいる。
入手は極めて困難である。
ただ、スーパーセブンのパワーがいまいちよく伝わってこないと思っておられた皆様にとっては、朗報となろう。




41×40×32mm  36.16g

2013/03/10

マンドラビラ隕石


マンドラビラ隕石
Mundrabilla Iron Meteorite
Mundrabilla, Nullarbor Plain, Australia



前回うちゅうのおともだちをご紹介させていただいたところ、スピリチュアルだったというご意見が相次いだ。
残念なことに、うさこふにはスピリチュアルな要素が皆無である。
取り急ぎそれを表明しておく必要がある。

確か出始めはスピリチュアルカウンセリングだったか。
当時カウンセリングの勉強をしていた自分は、漠然とした不安を覚えた。
カウンセリングは占いや人生相談とは異なるはずだった。
不安は的中した。
カウンセリングは危険だと考える人も増えている。
人の人生を左右するという意味では、危険性は否定できない。
しかしながら、霊感商法の類いと混同されているのもまた現実。

そこで今回、まったくスピリチュアルな要素を感じさせない宇宙のお友達をご紹介させていただく。
マンドラビラ隕石という。
いろいろとツッコミどころが満載だ。
おどろおどろしいマンドラビラの名は、単に地名らしい。

鉱物を集めるようになってすぐ、購入した。
知識なんて全く無い状態で、どうしてこんなものを購入したのかわからない。
隕石といえばギベオン。
そしてロシアのシホーテ・アリンやアルゼンチンのカンボ・デル・シエロ。
購入した初の隕石がマンドラビラだったという方は他にいらっしゃるだろうか。

さきほど調べてみたら、意外に流通があった。
しかしながら私のこの素晴らしいマンドラビラに匹敵する標本は見当たらなかった。
このマンドラビラ、酸処理によってギベオンに似たウィドマンシュテッテン構造が現れるため、もっぱら処理されている様子。
サビを取り除かれ、ピカピカのシルバーのプレートに生まれ変わったマンドラビラ隕石たち。
まるで新品の工業製品のよう。
見た感じはギベオンとたいして変わらない。
鉱物市場の拡大に伴って、人々の興味はより珍しいもの、誰も持っていないものへとシフトしているが、不要な個性は取り除かれてしまうのが常だ。

マンドラビラ隕石は1911年、西オーストラリアのマンドラビラにて発見された。
種類としては鉄隕石(隕鉄)、専門的にいうとオクタヘドライトに分類される。
酸処理により、ウィドマンシュテッテン構造が確認できることは先ほども記した。
レアだとは思う。
こんなうちゅうのおともだちを持っているようでは、神秘のかけらもない。
恐竜のふんの化石だと言われても、どうか信じないでほしい。



2013/03/03

クオーツ/クローライト


絵に描いたような昆布
Quartz, Chlorite
Kharan, Baluchistan, Pakistan



デリケートかつ複雑に入り組んだ水晶クラスターに、クローライト(緑泥石)のコーティングが施された、大自然の芸術作品。
パキスタンから届けられる鉱物にはいつも驚かされてばかりだけれど、これは本当に驚いた。
一箇所、折れてしまいそうな部分がある(本文下に拡大写真を掲載)。
遠き彼の地から、よくぞ無事に届けられたものだ。

春のえちごや大感謝祭にご協力いただいたディーラーさんから譲っていただいた類い稀なる標本。
そんな春のえちごや大感謝祭を目前にして、騒ぎは起きた。
ある女性が、私を裁判で訴えるというのである。
無断転載・名誉毀損などがその根拠と、激しい口調で主張されている。
無断転載・名誉毀損の憂き目にあったのは、私である(事例1/事例2)。
偽物の販売に私まで加担したことになってしまった以上、無念を晴らさねばならない。
しかしながら、ご連絡の取れない業者様までいらっしゃる。
警察からは、ネット上のコンテンツに対し裁判は現実的ではないとの助言をいただいた。
これではいたたまれないと、業者様が "私の文章を添えて堂々販売されている偽物の本物" を必死で集めてまわった。
他に抵抗するすべはなかった。
さきほどの女性の主張は以下の通り。



クリックで拡大します

聞けば、その方がお住まいの沖縄で裁判を執り行うというではないか。
私に沖縄まで行くような余裕はないのだが、なぜ沖縄などで裁判を行うのか不審に思った。
私のブログを無断転用された商業サイトさまも、首都圏や関西に拠点をお持ちであり、全員が沖縄に集まるとは思えない。
そもそも無関係な第三者が、裁判を起こすというのは現実的ではない。
業者様が裁判を起こすとなれば、真摯に受け止めるつもりであったが、被害者が誰なのかわからない状況での裁判は、素人からしても不可解である。
せめて自分のブログをお読みいただくよう説得したが、読む必要はないと主張されている。
申し訳ないがブロックさせていただいた。

翌日、賛同者を名乗る女性が登場した。
司法関係の方だという。
明らかに同じ人物である。



クリックで拡大しましょう

私は販売者ではない。
削除依頼に応じていただけないがために、無言の抵抗を行っているだけである。
便宜上販売としているが、そのために利用しているサービスにはけっこうな手数料がかかっているから、事実上儲けなどない。
利益が目的なのではない。
非暴力での抵抗のつもりだった。
わけがわからなくなってきたので、以下にまとめたい。


この人物にまつわる七つの謎

1)無断転載、名誉毀損の被害を受けたのは私である
2)裁判における、かの人物の立ち位置が不明であり、無関係な第三者が起こす裁判にどのような意図があるのかもわからない
3)私と業者さまの間で何が起きたかわかっておられない人物が、私に対して被害者感情を露わにするのは宇宙的に矛盾している
4)沖縄で裁判を行う場合、全員集まらない可能性が高い。特に店舗が実在しない(と推測される)澤田氏は法的にまずい立場であり、電話すらつながらないため、裁判への参加は困難を極める
5)諸費用は誰が負担するのかがわからない
6)司法試験を突破した人物が、法律を熟知していない
7)ネットの匿名性を利用し誹謗中傷を行うのは犯罪である


以上から、この人物は自ら裁判の被告になるために登場したという推測が可能である。
外国人説、障害者説については、私に対して差別を行った彼女と同じ過ちに繋がるから、避けたいと思う。
現状は全員被告である。
おおっと、石の話からずいぶんそれてしまった。
このクォーツ、どこかで見た覚えがある。
もしや、これ?(→写真/絵に描いたような昆布
そしてこの文体、何度も見たことがある。
もしや、これ?(→ヤフーオークションにすまう悪魔の化身こと澤田被告

確かギルギット産として購入したもの。
カハラン産だったのかもしれない。
鉱物が奇跡的にもとの形をとどめることがあるいっぽう、人はいかに壊れやすいものかと痛感した。
まさに絵に描いた昆布である。




50×40×32mm  23.81g

2013/02/15

マリアライト


マリアライト
Scapolite var. Marialite
Santa Maria do Jetibá, Espirito Santo, Brazil



以前ある方から、衝撃のリクエストをいただいた。
石はマリアライト、色はパープル、予算は千円だという。
聞いたことはある。
確か、中国・内モンゴルで外国人調査団によって紫のマリアライトが発見された。
持ち帰ったものの、珍しすぎて値段が付かなかったという話。

マリアライトといえば有名なレアストーン。
極めて特殊な条件を揃えたスキャポライト(柱石)で、滅多に発見されない希少石と聞いている。
写真は純粋なマリアライトの結晶で、透明感のあるインペリアルカラーを示している。
これでもかなりの額だ。
紫のマリアライトなど、世界中の収集家の憧れである。
日本に入ってきたことがあるとしたら、ほんの数回程度だろう。
ヒーリングストーンを中心にコレクションされている彼女が、どうしてそんな通好みな石をご所望なのかと不思議に思った。
そんなものが千円で手に入るという噂を流した人間がいるのだとしたら、えちごやのたくらみが疑われる。

調べてみたら、大変なことになっていた。
紫のマリアライトが大量に流通しているのである。
なんと、ビーズにまでなっている。
製品化されるほどに相当量の放出があったとは聞いていない。
マリアライトの名を語るアメジストやガーネットのように見えたりもする。
それにしても安い。
驚くべき解説まで添えられているではないか。

「透明感のあるバイオレット・カラーのマリアライトは、
聖母マリア様のエネルギーに繋がる石とされヒーラーからの人気が高いパワーストーンでございます。」

ええっ?
確かこれ、昔ネタとして流行しなかったか?
紫のスキャポライト=マリアライトではないし、マリアライトと聖母マリア様は無関係(詳細は以下)。
あたかも「紫のスキャポライトをマリアライトと呼ぶ」と誤解を与えるような解説文がコピペされ、広まっている。
マリアライト。
確かにいい名だ。
憧れる気持ちはわかる。
何年か前に自分もタンザニアのパープルスキャポライトを手に入れた。
もしかするとマリアライトかもしれない、とワクワクしながら調べたのを覚えている。
しかしタンザニアのパープルはどちらかというとメイオナイトらしい。
その一件以来、忘れていた。
いつの間にそんなことになっていたのだろう。
詳しいことは他の資料を参照していただくとして、ここでは大雑把にまとめる。


マリアライト(曹柱石)

  • スキャポライトのうち、ナトリウム(塩分)を多く含むものをマリアライト、カルシウム豊富なものをメイオナイト(灰柱石)と呼んでいる。
  • 色は一般的に白や灰色、クリーム色、無色透明など。稀に宝石質のゴールドやピンク、パープルが産出し、高額で取引される。
  • 通常はマリアライトとメイオナイトが混在した状態(固溶体)で発見される。両者の分類は困難で、表記はスキャポライトとするのが一般的である。
  • 紫外線照射で青、オレンジなどに色変化を起こす。
  • マリアライトの名の由来は聖母マリア様ではなく、発見者の奥さんの名前(クリスタルヒーラーではない)である。
  • マリアライト・ヒーリングとは関係ない。
  • 日本では紫のスキャポライト=マリアライトとして定着、マリアさまの愛に満ちた紫のクリスタルとして大量に流通している。デマなので注意してほしい。ネタには最適だが、パワーストーンの意味欄にはしばしば誤解や矛盾が見受けられる。
  • パープルカラーでないスキャポライトがマリアライトであるとは限らない。
  • マリアライト人気に反し、メイオナイトの意味については誰も言及していない。

アフガニスタンのパープル・スキャポライト(→写真)。
マリアライトかどうかは鑑定していないとのことだった。
詳細は下記、参考1より。
現在マリアライトとして流通している石の多くは、これと同じものか、他の安価な代用品を用いて作られたビーズではないかと思われる。


参考1)中央宝石研究所「テネブレッセント スカポライトについて」
http://www.cgl.co.jp/latest_jewel/gemmy/141/02.html

その方には、パープルのマリアライトを千円で入手するのは不可能であることをお伝えした。
そんなはずはないとおっしゃる。
私をえちごやと誤解されたのだろうか、連絡は途絶えてしまった。
マリアライトからマリア様のエネルギーを感じられていたのだとしたら、納得がいかないのであるが…

紫のスキャポライトといえばアフガニスタン産。
国内で多く流通している「マリアライト」はアフガニスタンのバダクシャンから産出したスキャポライト(→写真)で、ビーズにもなって登場している。
アフガニスタン産については、マリアライトとメイオナイトが混在していて、どちらともいえないらしい。
また、タンザニア産のパープルスキャポライトも同様とのこと。
いずれもスキャポライトとの表記が一般的で、マリアライトとメイオナイトを分けているケースは海外においては稀であった。
紫のマリアライトが千円で販売されていたとしたら、お店の人に実際の鉱物名を聞いてみよう。
もしかするとアメジストの類いかもしれない。

海外でもマリアライトはヒーリングストーンとして流通している。
色はくすんだ黄色、聖母マリア様との関連性についても触れられていない。
パープルの美しいマリアライトがお手頃価格で手に入るのは、どうも日本だけのようだ。


なお、無色やイエローのスキャポライトに放射線処理を施すと、見事なパープルに色変化を起こすらしい。
そして時が経つにつれて黒ずみ、濁った色合いへと変わっていくということである。


36×8×5mm 2.14g

2013/02/08

アルベゾン閃石/ヌーマイト


アルベゾン閃石
Arfvedsonite
Kangerdluarsuk, Ilímaussaq Massif, Greenland



あのヌーマイトの「偽物」として有名になりつつあるアルベゾン閃石/アルベゾナイト。
無人島では今、最も話題の鉱物のひとつである(→詳細はヌーマイトにて)。
昨夜、突然にも大事件が発生した。
早速ご報告していきたい。

写真はたまたま倉庫から出てきた貴重品と思しき標本。
なんと、アルベゾナイトと書かれているではないか。
しかも産地はグリーンランド。
ラベルに書かれている産地はヌーマイトと全く同じだった。
不審に思い調べたところ、なんとアルベゾン閃石が最初に発見されたのはグリーンランドであることが判明。
写真の石は原産地標本ということになる。

面白いのは、この標本がかなりの珍品であるということ。
ある歴史的収集家の遺品を運よく手に入れた。
手書きのラベルは茶色に変色しており、相当の年月が経過していることを物語っている。
初期に採取された標本の可能性もある。
現在、グリーンランド産アルベゾン閃石は全くといっていいほど流通がなく、安価な中国産アルベゾン閃石がヌーマイトの偽物として話題に上っている。
中国・内モンゴル産アルベゾン閃石は細かなブルーグリーンの神秘的な閃光を放ち、なるほど宇宙を思わせる。
誰もがヌーマイトだと思い込んでしまったのも無理はない。

アルベゾン閃石は単なる偽物ではなく、れっきとした鉱物である。
1823年、グリーンランドで発見された角閃石の一種で、現地からヌーマイトが発見されたのが1810年だから、その差わずか十年余り。
混同されずに報告されたのが不思議なほど、両者には深い縁がある。
データには放射状のイリデッセンスがみられるとあるが、ものの見事に真っ黒だ。
分厚い板状の塊に広がる繊維状の結晶構造は、ヌーマイトのそれとは異なっている。
やけに酸っぱい臭いが鼻につくのは、謎である。
漆黒の結晶を光にあてると薄っすらとシルバーの光沢が現れる。
ときにルチルと混同されて販売中(!)であるという、内モンゴルのアルベゾン閃石に見られる豪華な青系の輝きは見られない。

ここで気になるのは、グリーンランド産ヌーマイトと信じられている石。
実はアルベゾン閃石では?
…という疑問である。
おそらく、心配はいらない。
全体の質感やシーンの色味、形状を見ればその違いは一目瞭然(気になる方はファイナルセールをお待ちください)。
中国産アルベゾン閃石の放つ、繊細でシャープなブルーグリーンのシーンは、ヌーマイトには現れない。
一部に共生している可能性はある。
ただ、グリーンランドからアルベゾン閃石が産したのは、ほんの一時期だけだったようだ。
現在はヌーマイトよりも入手困難のよう。
写真の石もラベルを見た限りでは採取されてから少なくとも50年は経っている。
グリーンランドから産した幻の希少石、アルベゾナイト。
そんな折、中国から大量にアルベゾン閃石が発見され、グリーンランド産ヌーマイトとして流通した、という嘘のような本当の話。

では、どうしてヌーマイトとアルベゾン閃石の産地が被ってしまうのか。
実はこのグリーンランド・ヌーク地方は、希産鉱物の宝庫として知られる土地。
ロシアのコラ半島、カナダのモンサンチレールに並ぶ希少石の名産地で、他所からは見つからないレアストーンが、不思議なことにロシア・カナダ・グリーンランドの3ヶ所に共通して発見されている。
グリーンランドの知名度が低いのは、土地の規模だろうか。
ロシアやカナダの産出量には及ばない。
価格も高額になる。
グリーンランド名物のヌーマイト、ツグツパイト、蛍光ソーダライト、ハックマナイト、ユーディアライト、ウッシンジャイト、アナルシム、そしてこの悪名高きアルベゾン閃石。
実は、ロシアやカナダからも報告されている。
ヌーマイトとアルベゾン閃石の2つの鉱物には、どうも因縁めいた関連性があるようだ。
ただ、中国からはヌーマイトは発見されていない。
共生している様子も全く無い。

日本では、ヌーマイトの偽物としてのアルベゾン閃石がもっぱら問題視され、両者の関連性については明言を避けている。
確かに、グリーンランドからもアルベゾン閃石が出るという事実が明らかになれば、市場はさらなる混乱をきたすだろう。
グリーンランドの名を利用して、在庫を売り尽くそうとする業者も現れそうだ。
"稀少!グリーンランド産アルベゾン閃石" が製品化されることはあり得ないので、くれぐれも気をつけていただきたい。
そうした意図のもと、あえてこの標本を紹介させていただく。

グリーンランドから届けられる輝きは、ヌーマイトだけではなかった。
アルベゾン閃石も価値ある鉱物であることを、この歴史的標本は教えてくれた。
どうしてこんなものを購入したのかについては、全く覚えていない。
初めてこれを見た時の感想は、

なんて地味な石なんだ!

もちろん偽ヌーマイト騒動については全く知らなかった。
偶然にせよ、買っておいて良かったと心底思った。


80×38×12mm  89.03g

2013/01/15

パープルジェード(トルコ産翡翠輝石)


パープルジェイド
Purple Jadeite
Bursa, Marmara Region, Turkey



誕生日なのでご縁のある石をと思ったが、ここは変わり者のうさこふであるからして、私には最もご縁のないはずだった、類い稀なるレアストーンをご紹介する。

トルコからやってきたという、色濃いパープルの翡翠。
ネフライト(軟玉)ではなく翡翠輝石(硬玉)にあたるそうだ。
シリカ成分が入ってカルセドニーと化しているため、パープルの色合いがより上品かつ輝いて見える。
まるでスギライトのように神々しいお姿である。
宝石質の色濃いスギライトは石英を含んでいることが多いから、原理としては同じなのかも。

ネフライトか本物か偽物か(※注)といった議論で盛り上がることが多い翡翠だけに、私は長らくネフライトのほうに着目していた。
翡翠輝石のほうは盲点だった。
翡翠など高貴すぎて、自分にはふさわしくない。
この高貴すぎる紫の翡翠を偶然にも手にし、ふさわしくないにも程があると感じたため、誠に勝手ながら自分の誕生日にまつわるエピソードを中心にお送りする。


注)翡翠は翡翠輝石(硬玉)とネフライト(軟玉)に分けられる。中国で古くから珍重されたのは軟玉、つまりネフライト。その後ミャンマー産の硬玉が知られるようになり、翡翠として定着した。
日本では縄文時代より硬玉が知られ、宝飾品や魔除けなどに用いられたといわれる。新潟県糸魚川の翡翠は国産鉱物を代表する存在で、熱狂的ファンも少なくない。
日本では一般に、軟玉より硬玉のほうが価値が高いとされる。ネフライトは翡翠の偽物として避けられることもあるほどだが、欧米人の大半は硬玉と軟玉の区別をしない(できない)ので、要注意。


実は、昨日までこのエピソードを記すか記すまいかと、悩んでいた。
誰もが興味を持ってくださるような内容になるとは思えなかったが、これまで幾度も誤解を与えてしまっていたことがあったとしたら、誕生日にその原因を書いてみたいと思った。
ご近所にマイクのアナウンスが響く中、これを記している。

昨夜遅くのことだった。
私はまさに翡翠のことを考えながら、冷たい雨の中、帰路を急いでいた。
最後の曲がり角を過ぎたところで、道のずっと向こうに、見慣れない灯りが煌々と燈っているのが見えた。
どこかで見た、不可思議な光景であった。
それが人の死を意味する灯りであることは、百メートル離れていても伝わってきた。

実家の斜めお向かいの御宅に不幸があったとのこと。
翌日が葬儀とある。
私が数日前から虜になっているこのパープルジェイド。
この石を一目見てからというもの、私がずっと心に描いていた人物。
その人物の葬儀が行われた日もまた、私の誕生日だった。

自分はその人を先生と呼んでいた。
特別に偉いからとか、指導者だからといった理由ではなく、ただ純粋に、誰も言わないことを教えてくれたから。
悪くて結構、阿呆になるくらいがちょうどよい、広い広い世界のことを学んでみるといい。
そして、死はこわくない、と繰り返し私に語った。
ただそれがいつ頃で、自分がどういう状況にあったのか、長らくわからなかった。
小学校低学年くらいかと思い込んでいた。
昨年の春、古い資料が出てきて、ようやく記憶の謎が解けた。

私が先生と呼んでいたその人物は、宗教学者であり、英文学者であり、哲学者であり、翻訳家であり、仏僧という特異な経歴の持ち主であったらしい。
幼少期から教会に通って英語を学び、仏典を海外に紹介。
アメリカのキリスト教会より渡米して神父になるようスカウトされる(!)もきっぱり断り、僧侶として日本を生きた97年の生涯。
子供だった私はすぐに影響を受け、世界中のあらゆる宗教について学ぼうと意気込んだとみられる。

資料を見ておどろいたのは、先生の葬儀が行われた日が私の4歳の誕生日だったということ。
おそらく、周囲の人々がその事実を隠したのだろう。
つまり先生にお世話になったとき、自分は3歳、若しくはそれ以下だったということ。
死がタブーであることを思い知ったのは4歳のときだったから、その直後。
宗教がタブーであることを知ったのもその頃だ。
先日、縁あってお世話になった方から、自分に宗教心がある、という興味深いご指摘を受けた。
三つ子の魂百なんとやら、人間とは単純なものである。

事情があって、私は当時、家族と離れて暮らしていた。
親の顔も忘れていたほどだというから、周囲は同情的だったのだけれど、先生は私にいっさい同情しなかった。
先生の好奇心旺盛な瞳と強く響く声を今でも覚えている。
死はこわくないと教えてくれた先生は、ある時、突然いなくなった。
雪の中、長い葬列が続くさまをはっきり覚えている(※記憶では、途中から悪夢の集団下校に切り替わる)。

父のように慕っていたその人物について、ここで具体的に触れることは避ける。
自分の年齢がバレるからではない。
先ほど調べて、後に語られているその人物像に違和感を感じたからだ。
他の思想を遠ざけるべく、名前を利用されている。
或いは異端者のごとく扱われ、遠ざけられている。
信仰や思想、また国籍などを理由に他者を遠ざけることをしない、というのが先生の本質だと思っていた。
そしてつい先日知ったのであるが、日本國が迷信國となることを何より危惧されておられたという。
また「誰でも各種の災難や不幸に出逢うたならば、それは自分の種まきが悪かった報いであるから、潔く自分を反省して、さんげし、悔い改めて、これから、悪い心を起こすまい、悪い事をしないように決心して、自分の考えて、これが一番良いと思う方法をえらんで、事件を処理して行けばよい」とも申された。

以上のようないきさつで、今日はこの石を選んだ。
簡潔にまとめよう。
翡翠は私には勿体無いほどに高貴な石。
どちらかというと避けていた石。
まさか米からこんなものが手に入るとは思っていなかったし、何の期待もしていなかった。
そして産地であるトルコは、東洋と西洋の中間にあたる土地。
圧倒的な美しさは、先生が旅立っていったあの日、置き去りにされた私の気持ちによく似ている。

無宗教というおしえこそが、日本最大規模の宗教なのかもしれない。
先ほどふと、思った。
なお、我々が頻繁に目にするラベンダージェードのビーズは、本質的には着色を施された岩石である。






38×27×21mm  17.96g


2013/01/11

イリスアゲート


イリスアゲート
Quartz var. Iris Agate
Rio Grande do Sul, Brazil



イリスアゲート。
以前からよく耳にしていたが、実物を見たことがなかった。
アゲートの中に極めて稀に現れるという希少石のひとつ、イリスアゲート。
日本でヒットを飛ばしたのは知っていた。
ところが、アゲート収集が盛んな欧米では、滅多に聴かないし、見かけない。
私にとっては謎の存在であった。
手にする機会のないまま、月日は過ぎていった。

ある日、お世話になった方と話していて、突然イリスアゲートの話題になった。
正直に告白する。
私にはサッパリわからなかった。
レアストーンハンターを名乗る以上、わからないでは済まされない。
一度、この目で確認する必要があるのだが、なんせ相場がよくわからない。
まずは一番お手頃な、イリスアゲートの原石なるものを購入してみた。

参考:ワイオミング州のイリス珪化木(参考例)
https://sites.google.com/site/wyomingrockhound/rocks-of-wyoming/wyoming-iris-agate

なんだかよくわからなかった。
どうも薄切りにしないと虹は見えないらしい。
厚さは5mm以下というから、私のような素人には到底無理である。
アメリカの知人に聞いてみた。
イリスアゲートは確かに存在する。
だが持っていない、とのこと。
あれだけアゲートの収集家がいるというのに、奇妙である。
いっぽう、国内サイトを検索すると、かなりの方がお持ちの様子。
数万分の一の確率で現れるという幻のイリスアゲートが、どうしてこれほどまでに話題に上り、流通しているのか。
いったい誰が流行らせ、広めたのか。

写真にあるのは先日、ようやく手にした薄切りのイリスアゲート。
思っていたより分厚い。
虹の見えるのは片面のみのよう。
スライスした瑪瑙を、虹の帯がぐるりと一周する。
これは確かに面白い。
光の干渉によるレインボーというのは理解できた。
強烈な太陽光の下よりも、室内光のほうがくっきり虹が見えるのは不思議ではある(写真は太陽光で撮影。必ずしもそうとは限らない)。
これを1mm以下の厚みにカットすると、驚くべきイリュージョンが楽しめるという。
あまりにペラペラでは取り扱いに困るから、ある程度厚みはあったほうがいい。
上質のイリスアゲートは全体に幻想的な虹が浮かぶ。
帯タイプについては、売れ行きの芳しくない着色メノウのプレートを探せば発見することが可能らしい。
イリスハンターたちが全国各地に生息、日々メノウプレートを物色しているというから、ただごとではない。

では、イリスアゲートはいったい誰が流行らせたのか。
2007年頃から徐々に話題になり始めているのは確認できた。
ならば2006年頃か。
なんと、2006年に記されたブログに、イリスアゲートの名があった。

参考:少年ジャンプのまとめサイトにイリスアゲートが登場(2006年4月 20号)
http://dreamwords.blog.so-net.ne.jp/2006-04-17

このとき『魔人探偵脳噛ネウロ』という漫画に虹瑪瑙(イリスアゲート)が登場したということであった。
ブログ主さんの解説によると、イリスアゲートについては当時、検索しても1件しかひっかからなかったとのこと。
その1件として挙げられているのは、国内の有名な専門サイトさま。


少年漫画を読まない自分にはよくわからない。
おそらく、当時この漫画を読んだ奴らは、いっせいにイリスアゲートをググッたとみられる。
そして上記のサイトを知った人々は、イリスアゲートを探し求めた。
需要は日々、高まっていった。
天然石/パワーストーンとしてのイリスアゲートの知名度も、別途上がっていったものと私は推測する。
というのも、2005年以前のネット上の記事に、イリスアゲートの名が見当たらないのである。
もしや、イリスアゲート日本上陸のきっかけは、少年ジャンプ?

ちなみに、上記の作品だが「まじんたんていのうがみネウロ」と読むらしい。
禍々しいタイトルに反し、作者の松井氏はわりあいイケメン(当時)のようである。
レアストーンを集めているようなふうには見えないのだが…
2006年といえば、私自身まだ鉱物に興味を持って間も無いから、状況は全くわからない。
ご存知の方がおられたら、是非お知らせいただきたい。
もしイリスアゲートがきっかけで鉱物に目覚めたという方がおられるのだとしたら、少年ジャンプは侮れない。

写真のイリスアゲートは、ブラジル最南端、リオグランデ・ド・スル州から発見されたもの。
瑪瑙の産地として知られる土地である。
多くの原石はスライスされ、青や緑に着色されてしまっている。
そんなメノウプレートの中に、キラリと輝くレインボーを見つけ出すのを趣味としている人々がいる。
十万もの価格で販売されているイリスアゲート。
見た感じ、博物館級といえるものではない。
高すぎると言わざるを得ない。
お金に代わる時間があるという方は是非、街へハンティングに出かけてほしい。
ただし、まずは一度、現物を見る必要がありそうだ。


158×75×5mm  102.5g

2013/01/10

クリソタイル


クリソタイル
Serpentine Var. Chrysotile
Geisspfad area, Binn Valley, Wallis, Swizerland



美しいブルーグリーンの光沢を示すクリソタイルの結晶。
歴史的収集家の所蔵品を譲っていただいた。
クリソタイルといえば、インファナイトに含まれる鉱物としてご存知の方も多いと思う。
美しい鉱物には毒性があることも少なくないが、クリソタイルも例外ではない。
クリソタイルは白石綿とも呼ばれ、アスベストの一種に分類されている。
こんな美しい結晶の正体が、世間を騒がすアスベストだなんて信じられないが、取り扱いには注意が必要なのが現実。

アスベストに分類される鉱物は6種類。
サーペンティン類ではクリソタイル(白石綿)、アンフィボール類ではクロシドライト(青石綿)、アクチノライト(緑閃石)、トレモライト、アンソフィライト、アモサイト(茶石綿)以上がアスベストとして規制されている鉱物になる。
馴染みのある鉱物も少なくない。
アスベストにまつわる鉱物を挙げてみよう。

  • タイガーアイ
  • ホークアイ
  • グリーンルチル
  • ブルールチル
  • アクチノライト
  • ピーターサイト
  • ネフライト
  • インファナイト
  • ゼブラジャスパー
  • アンソフィライトヌーマイト若しくはアストロフィライトとして流通)
  • トレモライト
  • ヘキサゴナイト
  • グリーンクォーツ(一部)
  • ガーデンクォーツ

お手持ちのパワーストーンの名前が次々と出てくることに驚かれた方もおられるかもしれない。
他の成分が発色の原因となっているものも含めたので、気になる場合は詳しくお調べいただきたい。
研磨品、またインクルージョンとして存在する場合、危険物が飛び散る心配はない。
いずれもアスベストとして、産業用途での使用は禁止されている。
収集品として個人で持つ分には問題ないが、粉砕を薦めている霊能力者も存在するため、最低限の知識は身に付けておきたい。
以下、ご参考まで。

参考1:アスベストの基礎知識
http://www.jasmo.jp/tisiki.html


参考2:アスベストの99%を占めるクリソタイル
http://www.canadainternational.gc.ca/japan-japon/commerce_canada/chrysotile-about-apropos.aspx?lang=jpn&view=d

アスベストの毒性については近年特に問題視されている。
被害に遭った方のことを思うと安易に言及するのは憚られる。
世界中で古くから神聖視されてきたのもまた事実である。
自然界に存在し得ない量のアスベストを用いた我々に責任がある。

歴史的収集家が所有していたこの見事なクリソタイル。
石綿に対する批判が高まる中、この標本の美しさや歴史的価値を重んじ、生涯にわたって手放すことなかった。
亡くなったのはほんの数年前と聞いている。
その眼には、鉱物としてのクリソタイルが確かに映っていた。


83×23×12mm  28.58g

2013/01/06

ヴィクトリアストーン【第四話】はじまりとおわりの場所


桜石
Pseudomorph after Cordierite
Kameoka, Kyoto, Japan



雲間から洩もれた月の光がさびしく、波の上を照していました。
どちらを見ても限りない、物凄い波がうねうねと動いているのであります。
なんという淋しい景色だろうと人魚は思いました
。」

『赤い蝋燭と人魚』 小川未明 1921年)


2012年、ヴィクトリアストーンは一転して人気商品に変わる。
飯盛博士の後年の苦悩はなんだったのだろう。
カネになるとわかった途端、注目を集めるというのはどうも腑に落ちない。
また「人工石にも関わらず~」という断りが、決まって登場する。

日本において人工石がきらわれることについては、第一話で取り上げた。
万物に神が宿るとされる日本において、人工石に魂が宿るとするなら、作者が既に亡くなっていることが前提で、それゆえヴィクトリアストーンは評価の対象となり得たと私は考えている。
三十年のブランクについては言及は避けたい。

そんな日本から、どうしてヴィクトリアストーンのような世界的プレミアのつく人工石が誕生したのか。
当初の記事では、飯盛博士が戦災によって失った個人的なコレクション、ネフライトを再現するべく造ったもの、と記した。
これには諸説あって、ヴィクトリアストーン誕生のいきさつに関する博士の発言はまちまちである。
"宝石を愛するあまり、また美しいものを追求した結果、ヴィクトリアストーンをつくったわけではない───いずれ世界から美しい宝石がなくなってしまうことを危惧され、開発に至った"
ご遺族はそう聞かされたと述べている。
いっぽう、研究者仲間の間では、ヴィクトリアストーンのモデルはアクチノライト(陽起石・緑閃石)と伝えられている(博士の陽気な性格を「陽起」石にたとえたとされる)。
しかし、公的資料においては「ダイヤモンドに次ぐ価値のある(クリソベリル)キャッツアイ」を再現するために開発されたとある。

ヴィクトリアストーンのモデルといい、研究の動機といい、ご本人の意図が明確に伝わってこないのは不自然である。
時と共に変化していくというのはもちろん、あるだろうけれど。
ネフライトがモデルとなったことは、彼自身が晩年、人生を振り返るようなかたちで明かしている。
ただ、公式に発表された痕跡はない。
諸説あるヴィクトリアストーンのモデルについては、世界的にはキャッツアイ、仲間内ではアクチノライト、そして博士の心中においては、一貫してネフライトであったというのが私の推測である。
それが公にならなかったのは博士自らの意図ではなかろうか。

飯盛博士はどうも、ご家族にさえ心の内を明かさなかったように感じるのだ。
博士の真意が垣間見える一言がある。
ヴィクトリアストーンを造った動機について、彼は「戦争によってうちのめされ、つづいてアプレゲールの世間から打ち捨てられたこの老人の発心であった」と、述べている。
アプレゲールとは、戦前の価値観・権威が完全に崩壊し、かわってゆくさまを指した当時の流行語。
この発言の意味するところ、戦争が終わり用無しになり、抜け殻のようになった博士を奮い立たせたのは、研究者としての意地だった…
若しくは、いずれ何らかの形で自身が批判の対象になることに対する懸念、
そして失ったあらゆる可能性と、限りある存在への罪滅ぼし。
温和でマイペースな彼が時折見せる、激しく強靭な魂を垣間見るたびに、誰にも告げることなく心の内に抱き続けた想いがあったのではないかと、胸が痛む。

これだけでは、ヴィクトリアストーンが封印されるに至った理由を説明できない。
この類い稀なる宝石を、自らの死をもって封印したとするなら、その理由をひとつに絞ることは避けたい。
原爆開発に携わった自身の研究が無に帰したことに対する悲嘆。
人類を狂わせる放射能との決別。
国内での需要がなく、引き継ぐ者もいなかったという現実。
死後に技術が改変され、意図せぬ方向へと向かうのを防ぐため。
そして何より、自分の跡を追ったがために早世した息子への愛と後悔が、一貫してそこにあったと私は推測する。
というのも、彼の跡を追って原爆開発に関わり、志半ばで死去したご長男の話題が、資料のどこにも出てこないのである。
無念の記憶として繰り返し出てきてもよさそうなのに、ご遺族も明言を避けておられる。
意図的に避けたとしか思えないのだ。

一昨年、夢で飯盛博士と歩いた石川県の海岸。
彼の地に石を愛する一人の男がいた。
飯盛博士の業績を評価し、辿ってこられた人物でもある。
今回の記事を記すにあたって、氏がお集めになった貴重な資料を参照させていただいた。
氏の盟友であるあの岩石岩男氏が、このご縁を繋げてくださった。
鉱物を愛する勇敢なハンターであるお二方、そして全世界の偉大なる父上に、恭敬の意を表する。
2012年、80歳になったアメリカの父に贈った京都の桜石(アイオライト仮晶)の写真を最後にご紹介させていただく。

思えばこのブログを始めたのは、自然が創り上げた鉱物が、自然には存在し得ないほどの放射能によって容易に変化することを危惧したのがきっかけだった。
ヘリオドールクンツァイトモリオン、或いは放射性鉱物。
大自然の恵みであるはずの鉱物に、人類の狂気が関与しているという悪寒。
我々は、放射能の恩恵に与り、原子力を頼って生活してきた。
それを問う結果になったのが、2011年3月に起きた、福島での原発事故。
昭和二十二年、疎開先の福島で博士が原子力の可能性と限界を示唆していたことは前々回に引用させていただいた。
博士の危惧は現実となった。
事故後の混乱が落ち着きを見せ、原子力の限界が問われている今、博士の遺志を伝えることは無駄ではないと信じている。
ヴィクトリアストーンは、福島の地から生まれた。

米軍により、放射化学研究が禁じられたのち、飯盛博士は疎開先の福島県で、陶磁器の技術を「暇つぶし」のために学んだとされる。
終戦の年、博士は新たな研究を進めるために、福島県会津、及び相馬の地を訪れた。
その後、陶磁器をつくる過程で、ヴィクトリアストーン誕生のヒントとなる特異な物質を発見されたというエピソードが残っている。
私は意図的に進められたものと推測する。

博士がどのような理由で、どのような経路を経て会津と相馬の二箇所を訪れたのかは、現時点ではわからない。
当時彼が疎開していた福島県石川町からはいずれもかなりの距離があるし、方角的に離れすぎている。
ある方のご意見を聞き、なるほどと思った。
相馬には、海がある。
もし彼が海を見たとするなら、故郷・石川の海を思ってのことかもしれない。
その海は現在、放射能に汚染され、近づくことはできない。
相馬には、相馬焼という伝統工芸が存在したようだが、先だっての原発事故の影響で壊滅状態となっている。
博士がヴィクトリアストーンの開発にあたって技術を拝借したのは、相馬焼に間違いないはずだ。
原発事故後、相馬を南下することは堅く禁じられている。
つまり、ヴィクトリアストーンの始まりの地は、関係者以外が立ち入ることのできる、最後の土地ということになる。
置き去りにされた街に、置き去りにされた人々の姿を、私は忘れることができない。
私の知る限りでは、福島のもたらした電力を当たり前のように利用していた関東の人々にとって、福島の人々の現状は空想であり、全くの他人事であった。
同じ日本人の現実として、ただ受け止める。

※当時の記事に興味のある方は是非。南相馬市の様子です。
http://usakoff.blogspot.com/2012/05/blog-post_11.html

原発事故は先人の過失だと叫ぶ者が現れた。
夢でお会いした博士の険しい表情の意味を、私はここに書きとめておきたいと思った。
飯盛博士が槍玉にあげられるのは時間の問題であった。
あらゆる伏線が敷かれていたのに、我々はその警告に気づくことなく、最悪の結果を目の当たりにすることになった。
博士の死後三十年間、誰もそのことに気づかなかったのだとしたら、私はここで警告する。
事故は、起こるべくして起こったのだと。

ヴィクトリアストーンを完成させた飯盛博士にもできなかったことはある。
この石の真の価値を日本に定着させることである。
皮肉にも今、ようやく陽の目を見たヴィクトリアストーン。
本当にこれでよかったのだろうか。
私は問い続ける。

2013年、初夢に博士は現れなかった。
今、博士の無念は晴らされたものと私は信じている。
永遠の自由を得られたことと、信じている。
長い人類の歴史において、原子力の時代が始まってから、まだ百年経っていない。
しかしながら近い将来、多くの犠牲を伴って終わりを迎えることは明白である。
もうこれ以上犠牲者を出してはならない。
最後の警告として、受け入れようではないか。


思うにこれからの人類繁栄を約束する
あの原子力や放射性同位体、
そしてわれわれ人類の死活を
一瞬にして決せんとする
あの恐ろしい鍵の一つを握る放射化学よ!

筆者はそなたが
わずか半世紀の間に
こんなにもすばらしいものになろうとは
夢にも予期していなかった。

しかし願わくば
今後の放射化学は
絶対に心なき人々の手に委ねてはならない。
気違いに刃物といっても
この場合は
全人類の絶滅を意味するからである。


(『放射学と放射化学 化学と工業』vol.13 (1960) 飯盛里安)




おわり

2012/12/13

モンモリロナイト


モンモリロン石
Montmorillonite
長崎県平戸市古江



国産鉱物を最後にご紹介してから半年が経ってしまった。
早速、先日の池袋ショーで入手した珍石を発表していきたい。
その名もモンモリロン石(モンモリロナイト/モンモリ石)。
変わった名前の鉱物についてはアリゾナのネコ石、カリフォルニアのチンカルコナイト(及びチンワルド雲母)などをご紹介してきた。
今回は日本式双晶が産することで知られる長崎県からやってきたモンモリロン石である。

以前アプリコットルチルに登場していただいた、老舗の鉱物店にて発見した。
同じ500円だった福島県石川町のサマルスキー石と悩んだ挙句、諦めようとした瞬間に、地震が起きた。
会場は大騒ぎになった。

「石にあたって死ねるなら本望よ!」

という姉貴の一声に、店内の人々はひとつになった。
そうして(どうして?)このモンモリロン石が我が家にやってくることになったのである。

モンモリロン石は、地味ながらも日本を代表する鉱物のひとつであり、古くから工業用、産業用、また医療用に活躍してきた。
洗剤や化粧品、健康素材、陶磁器の原料と、私たちの日常生活に欠かせない存在でもある。
どこからモンモリロンでどこまでがモンモリロンかということだが、ピンクの部分がそれにあたるようだ。
硬度は1-2とのこと、粘土鉱物のため意外に丈夫である。

調べてみるとこのモンモリロン石、今まさに注目の鉱物のようである。
美容と健康を促進する新素材として人気上昇中とみられる。
クレイ洗顔やクレイパックなどに入っているベントナイトは、モンモリロナイトと関連性があるらしい。
ベントナイトについては、聞いたことのある方も多いのでは。
実は私も持っている。
そう、一見すると謎の鉱物・モンモリロンは、意外すぎるくらい身近な鉱物だったのである。

折角の機会なので、変わった名前の石について考察してみよう。
変わった名前の石が最も多く発見されているのはカナダ。
ゴーマン石、ゴヤス石、ヨフォーティァー石など、インパクトにおいては世界一といえよう。
他にウクライナのサンタバーバラ石、ロシアのザリャー石、サウスダコタのパハサパ石やカリフォルニアのマイアーホッファー石も熱い。
そして国産鉱物。
有名な杉石、人形石、逸見石のほか、轟石(トドロカイト)、欽一石(キンイチライト)、園石(ソノライト)、大阪石(オオサカアイト)、千葉石(チバイト)、弗素木下雲母(フローキノシタライト)、ネオジム弘三石(コーゾアイト)、ウチュクチャクア鉱(ウチュクチャクアイト)、斜プチロル沸石(クリノプチロライト)、ワイラケ沸石(ワイラケアイト)など思わず購入してしまいたくなる珍石が国内から産出している。

さらに、隠れた珍石に、俊男石(トスダイト)がある。
なんと、写真のモンモリロン石とクローライトの混合鉱物になるという。
独立種とは認められていないが、国内から比較的産出がある。
日本の鉱物学者、須藤俊男博士に因んで命名されたといい、トス石の別名もあるという。
ツッコミどころが満載である。
俊男がどうしてトスダイトになるのかというあたりが最大の謎といえそうだ。
この標本もピンク以外の部分があるから、もしかすると俊男(トスオ)の疑いあり?


65×48×8mm  19.61g

2012/12/04

セフトナイト/アフリカンブラッドストーン


アフリカンブラッドストーン
African Bloodstone/Seftonite
Arathi Highlands, Swaziland



一見するとインド産ブラッドストーンにも見えるこの石は、アフリカのスワジランドという珍国からやってきた。
日本の収集家さんが即売会で入手されたものと伺った。
スワジランドのインパクトに驚き、条件反射的に購入した。
ブラッドストーンではないが、よく似ているため、アフリカンブラッドストーンの愛称で呼ばれている。
他にセフトナイト(日本で訳されている例は見当たらなかった)と呼ばれたり、チェリーオーキッドアゲート、チェリーボルケーノアゲート、ボルケーノアゲート等々、流通名はまちまち。

鉱物としてはマーカサイトを豊富に含むカルセドニーの一種で、微細なパイライトを伴って発見されるという。
見た目よりもずっと軽い。。
研磨品はまるで火山性オブシディアンのような質感だが、オブシディアンとは異なり結晶している。
灰緑色と赤の模様は鉄分に由来する。
文末に研磨品の写真を掲載した。
磨くと光沢を増し、色合いが鮮明になるという特徴がある。
以上がアフリカンブラッドストーン/セフトナイトのプロフィール。

当初、私にはスワジランドがなんだか分からなかった。
国の名前だということはわかった。
スワジランドは南アフリカに隣接する小さな国で鉱業が盛ん、ということくらいしかわからない。
後日、この未知の鉱物がなんと、欧米で高い評価を得ていることを知る。
一見した時は同じものとわからなかった。
原石とはあまりに印象が違いすぎる。
もう一度、文末に掲載の研磨品をみていただきたい。
チェリーやオーキッド(蘭)のイメージとはかけ離れた、著しい変身の結果が見て取れると思う。
スワジランド産というヒントがなければ気づかなかった。
研磨前・研磨後のギャップは、この石の明暗を分けると言っても過言ではない。
日本で知名度を上げるには、ビーズへの加工が前提。
アフリカンブラッドストーンを日本市場に定着させるには、研磨後のそれを、癒しのパワーに変える必要がある。

ふと、思い立った。
朱色のインパクトが強すぎるのだ。
そう、神社である。
全国の数ある神社の中から、この石のイメージに合う神社をチョイスすればよい。
1分後、この石の和名が決まった。


日本三景、瀬戸内海に浮かぶ厳島神社の鳥居を見ていただきたい。
社殿との色合いのコントラストは、まさにアフリカンブラッドストーンの研磨品そのものである。
平安時代を思わせるこの荘厳な姿は、癒しに通ずる(断言)。
ゆえに、アフリカンブラッドストーンはヒーリングストーンに間違いない(断言)。
幸い、まだ誰もこの石のことをご存じないようである。
ここぞとばかりに、クリスタルヒーリングにおける新たな可能性を示唆しておきたい。
謎の国・スワジランドから届けられたこの石は、日本人の美意識にふさわしい癒しのクリスタルだったのである。

以前広島を一人旅したさい、船に乗って厳島神社を見に行ったのを思い出す。
確か、満ち潮でほとんど見えなかった記憶がある。
フェリーで上陸した宮島は、鹿だらけだった。
鹿は神の使いだという。

話を元に戻そう。
由緒ある日本の美意識を現代に伝えるこのスワジランド産・厳島神社は、ヒーリングストーンとしての新たなる可能性を秘めている。
ただし、日本市場向けに、ビーズに加工する必要がある。
厳島神社といえど、好みはわかれるかもしれない。
原石のままであれば、カルセドニーならではのデリケートな雰囲気に、癒しを感じる方も多いのでは。
深いグリーンの色合いや優しい質感を生かし、原石に近い形で楽しむ方法はないものかと考えている。




53×33×15mm  26.97g

2012/11/29

フェナカイト(ロシア産)


フェナカイト Phenacite
Malyshevo, Ekaterinburg, Ekaterinburgskaya Oblast', Russia



世界で最も希少な鉱物のひとつにして、石を愛する人なら誰もが手に入れたいと望んでいる。
それがフェナカイト(フェナサイト/フェナス石)と呼ばれる石である。
もちろん他の鉱物と共生した標本(→こちら)などではなく、ロシア、マリシェボ産フェナカイトの単独結晶ということになろう。
収集家なら一度は憧れる希少品、高い波動を持つニューエイジストーンとしても知られるこのロシアンフェナカイト。
マリシェボのフェナカイトは枯渇しかけているから、知名度の割に良品は少ない。

フェナカイトといえばミャンマー産。
比較的流通があり安価で手に入る。
ミャンマー産は小さいながらクリア、結晶の様子も独特でわかりやすい。
結晶の複雑さ、美しさで選ぶなら、ミャンマー産より若干入手しづらいブラジル産もおすすめ。
もしあなたがハイレベルなフェナカイトにこだわるのなら、ロシア産をひとつは持っておきたい。

写真は最も価値の高いとされる、ロシアはウラル地方、マリシェボ産のフェナカイト。
マリシェボ産の特徴である、グレーの母岩を伴う大きな標本で、一目で気に入って購入した。
ロシアンフェナカイトの完全結晶の多くは、写真のように母岩に覆われている。
岩の隙間に見える透明結晶に浮かぶ虹が美しい。

フェナカイトは近年、パワーストーンにまでなって登場している。
特にパワー満載だというロシア産に憧れ、お探しの方が多いようだが、なかなか予算に見合わずお困りと聞く。
安いものには必ず訳があるから、あせらずお探しになることをお薦めする。
ロシアンフェナカイトがどうしても必要な場合は、なるべく切断、加工されていない原石を探してみよう。
マリシェボならではのこのグレーの母岩がないと、いったいどこから来た何者なのか、パワーで判断するしかないからである。




25×19×15mm

2012/11/12

ラピスラズリ


ラピスラズリ Lapis Lazuli
Sar-e-Sang, Koksha Valley, Badakhshan, Afghanistan



ハロウィンの夜、少女と出会った。
よく喋るし、よく笑う。
可愛らしいのにしっかり者。
聞き分けよく、瞬時に空気を読む聡明な子供だ。
例の如く、私は違和感を感じた。
私には、彼女がいったい幾つで、なぜそこにいるのかわからなかった。
彼女が他者に対して例外なく敵意を示していることが、あらゆる場面に見て取れた。

少女はハロウィンのパレードを見たという。
手の無い人やゾンビ、身体中を弾丸で打ち抜かれた看護婦がいたと、興奮気味である。
小学生としては非常に歪んでいる。
よく笑うのに、ほんの一瞬、恐怖に脅えた表情をする。
身体の傷。
顔は無傷。
学校には行けていないのかもしれない。
学年を聞いたが返事はない。

こうした子供のほとんどは、虐待児だ。
(子供から)いじめられている子供とはまた違った違和感がある。
彼らは完璧に振舞う方法を知っている。
助けてくれる大人が存在しないから、本当の自分を隠している。

今までの人生において、私に近づいてくる子供には、例外なく訳があった。
私は子供を子供扱いしないようにしている。
幸せな子供ならその厳しさに堪えかねて、愛情を求め親のもとへ行ってしまうのだけど、そうでない子供たちは立ち向かう。
誰も助けてくれない。
人は一人で生きるもの。
過酷な現実を生きていることは、誰にも悟られてはならない。
私自身そうだったから、子供を子供扱いしない。
大人として扱うことしかしない。

少女はプラスティックの宝石箱を見せてくれた。
買ってもらったばかりだという。
今どきの子供が喜ぶような本格的なつくりではなく、一年ともたないようなプラスティックのおもちゃだった。
何も欲しがらないように見えた少女の口から、宝石の名前が次々に出てくる。
ダイヤモンド、ルビー、サファイア、アクアマリン、トパーズ…小学生が知らないような宝石まで知っている。
彼女は宝石箱が宝石でいっぱいになることを夢見て、幸せそうだった。
だけど、宝石箱に入れるものがないのは一目瞭然だった。
そう、まさかの私の出番なのである。
その日私は撮影のため、石をいくつか持ち歩いていたのだ。

問題としては、子供はレアストーンを喜んだりしないであろうこと。
誕生石ほどに有名でないと、忘れてしまうだろう。
誰でも知っていて、万が一保護者に見つかっても見逃してもらえる石はないものかと、袋からひとつ石を取り出した。

ラピスラズリだった。
どうしてこんなものが入っていたのかわからない。
これなら誕生石にも含まれるし、子供でも知っている。
プラスティックの箱にぶつかっても割れないはずだ。
私はラピスラズリを彼女に渡した。
彼女は、黙って受け取った。
ラピスラズリという石であることだけ伝えた。
彼女は「その石は知らない」と私に言った。

これから先、少女には今以上の困難が待っている。
彼女は他人のことなど信じていない。
信じるべきではない。
信じても裏切られる世界を少女は生きていく。
ラピスラズリだって、今頃はもう無いかもしれない。
捨てられてしまったかもしれない。

少女は夜の道を踊っていた。
宝箱の中にたったひとつ、ラピスラズリが踊っていた。
やがて彼女は誰にもわからないように、静かに涙を流し、眠りについた。


ここに石が立っている、
見栄えのしない石が。
それは値段にすれば安いし、
愚者からは軽蔑されるが、
その分だけ賢者からは愛される。

時間は子供だ
子供のように遊ぶ
盤上遊戯で遊ぶ
子供の王国。
これはテレスポロス、
宇宙の暗やみをさまよい、
星のように深淵から輝く、
彼は太陽の門に至る道を、
夢の国に至る道を、
指し示す。

『錬金術師の石(ラピス)…』/「図説ユング」(林道義 著)
http://starpalatina.sakura.ne.jp/wise_saying/wise_saying.html


40×32×26mm 39.84g

2012/10/26

レピドクロサイト入りアメジスト


レピドクロサイト入りアメジスト
Amethyst/w Lepidocrocite Inclusions
Rio Grande do Sul, Brazil



鉱物を集め始めたばかりの頃購入したアメジスト。
実家のお宝箱の中から出てきたので、なんとなしに撮影した。
フラワーアメジストが産することで有名な、ブラジルのリオグランデ・ド・スル州からやってきた。
母岩のない、全体が結晶した色濃いアメジストのクラスターのあちこちに、ゴールドのレピドクロサイトが輝いている。
詳しいことはわからないが、まるで宙に浮いた状態で成長したかのよう。
ブラジル産のアメジストは久しく買っていない。
スーパーセブンはともかく、真っ先に浮かぶのは処分コーナーに投げ込まれている凡庸な紫のクラスターくらいだ。
メモがなければマダガスカル産インド産と勘違いしていたかもしれない。
実際、今ではほとんど見かけない。
まるで、咲き誇る花のよう。

先日、鉱物に詳しい方のお話を伺う機会があった。
フラワーアメジストの話題が出た。
レースのように薄く繊細な結晶が放射状に広がった、独特の姿をしたアメジストを、フラワーアメジストと呼んでいる。
一度撮影中に落して割ったこともある程デリケートなので、取扱いには注意が必要である。
その時のショックで、フラワーアメジストを頑なに避けていた私のハートも、けっこうデリケートだと自分では思っている。

会話の合間にふと思い出したのが、こちらのレピドクロサイト入りアメジスト。
フラワーアメジストとは呼ばないが、まるで花のように見える。
鉱物に関しては全くの無知だった私がこの標本を購入した理由に他ならない。
当時は鉱物に金をかけるという発想などなかったから、手頃な価格だったはず。
ガラスのような透明感、濃厚な色合い、見事な形状。
さらに、茶色のゲーサイトではなくゴールドのレピドクロサイト・インクルージョンなど、今となっては得がたい貴重な標本である。
当時はフラワーアメジストなんて知らなかった。
今なら割れてしまったものも含め、いくつか手持ちがある。
だけど、私にとってのフラワーアメジストは多分、これなんだと思う。
人の数だけフラワーアメジストがあっていい。

水晶には滅多に興味を示さないアメリカのミネラルハンターたちにこの写真を見せたら、思わぬ反響があった。
アメリカではクリスタルヒーラーを中心に好まれ、収集家には人気の無い水晶。
予想外だった。
日本では、水晶はひとつのジャンルとして確立している。
いっぽうで、水晶をメインに集めているアメリカ人にはまだ出会っていない。
そんな彼らにも、国境を超えて伝わった想いがある。




51×32×24mm  34.70g

2012/10/21

ヌーマイト


ヌーマイト Nuummite
Godthabsfjnord, Nuuk, Greenland



今回オークションに参加させていただいて、奇妙な印象を受けた石がいくつかある。
思わぬ事故で作業が遅れてしまっているので、簡潔にまとめたい。
その石のひとつがヌーマイト。
「グリーランドから発見された、地球上で最も古い石」として各方面で話題になり、人気のある鉱物のひとつである。
クリスタルヒーリングにおいては特に重視され、強い保護の石として知られている。
ある方へ石を贈ろうと、偶然手に取ったジュディ・ホール氏の著書。
開いたページにヌーマイトがあった。
早速この石について調べたところ、ある疑問が浮かび上がったので報告したい。

本来ヌーマイトは滅多に輝かず、一部がキラリと光るもの。
ところが、このところ流通しているヌーマイトは、全体が豪華絢爛に輝いている。
また、華やかさに反して、冷たい印象を受ける。
ヌーマイトの放つ光は温かなイメージだったはず。
画像から検索してみたところ、明らかに二つのパターンがみられた。
ひとつはゴールデンレッド~イエローの輝き。
もうひとつはシルバーブルー~グリーンの輝き。

以前、暖色系と寒色系の違いについて記した(→詳細はこちら)が、そのトリックがここでも用いられていた様子。
なんとWikipediaにもこの件が取り上げられており、簡潔にまとめられているので引用させていただく。

黒い地に、パラパラと散らばる玉虫色の細い破片(研磨したアルベゾン閃石に見られる針の集合のようなものではない)が光る。光り方が似ているところから、アルベゾン閃石と間違えられやすい。」(以上wikipediaより引用)

新しく発見されたという中国・内モンゴル産ヌーマイト。
シルバーブルーの輝きが放射状に広がっている。
外観や特徴は内モンゴル産アルベゾン閃石に同じである。
どちらも珍しいが、ヌーマイトはかなりの希少石であり、決して身近な存在ではなかったはずだ。
また、色相から受けるインスピレーションは全く異なるはずなのに、なぜ両者が混同されているのだろう。
アルベゾン閃石をヌーマイトとして取り入れ、流通を増やしたのだとしたら、高級品だけに衝撃は大きい。
中には画像を編集して石をむりやり赤く見せているところまであるが、大丈夫なのか。

ヌーマイトに関して、私の手持ちにアルベゾン閃石は無かった。(→あったが若干異なっていた。こちら
私が最初に手に入れたヌーマイトが「本物」であったからこそ違和感を覚えたのは確か。
尊敬する大先輩であり、お世話になっている日本のディーラーさんがツーソンで仕入れられたものだった。
過去にその方から譲っていただいた思い出のヌーマイトの写真を下に掲載した。
氏には心から感謝し、今後のご活躍をお祈り申し上げる。



左はヌーマイトの原石、右は初めて手にした思い出のヌーマイト


14×10×8mm

2012/10/12

バライト(&セレスタイト)


ブルーバライト
Blue Baryte
Sterling, Weld Co., Colorado, USA



昨夜、自室2階の窓から、世界中で恐れられているとされる漆黒の虫が飛来した。
ゴキブリというやつである。
私は半ばパニックになり、その後の記憶がない。
朝になったら消えていたから、夢だったのかもしれない。
その直前、久しく連絡を取っていない知人から電話が入り喜んだのもつかの間、私が関連した極めて深刻なトラブルが起きていることがわかった。
前回の記事と関係があるのだとしたら、今日は天使の話題で反省する必要がある。

写真は見事に結晶した青いバライト(重晶石)。
まるでセレスタイト(天青石)のようだが、セレスタイトではない。
バライトは砂漠の薔薇/デザートローズ(※注)を形成する鉱物である。
砂漠の薔薇の赤褐色の色合いは、砂漠の砂に由来する。

※注)砂漠の薔薇には二種類ある。赤褐色の場合はバライト由来。デリケートなホワイトの結晶であれば、セレナイト由来。バライトとセレナイト、セレスタイトは混同される傾向にある。

バライトの結晶は珍しい。
なかなか見かける機会がなかったが、先日の春のミネラルショーでブルーバライトが販売されているのをみかけたので、いくらか流出があったのかもしれない。
色はブルーのほか、無色透明~白、イエロー、オレンジ、ブラウンなど。
冒頭にあげたセレスタイトは、バライトの成分バリウムがストロンチウムに置き換わったもの。
両者はしばしば混在し、混同されることも多いという。
また、バライトの青い色合いは、セレスタイトから生じる放射線に由来するといわれている。
つまり、処理石が作れてしまう。
現時点では需要と供給のバランスが取れているから、さほど問題にはなっていない。
私は未見であるが、グリーンのバライトは処理のおそれがあるという。

バライトは世界各地から発見され、工業用の素材として広く利用されている。
白い○○○が出ることで有名な検査用のバリウムは、バライトの粉末から出来ている。
いっぽう、結晶化したバライトの透明石は、その多彩な造形美に魅せられた収集家たちに古くから愛されてきた。
そのためオールドコレクションが数多く存在し、骨董品のような扱いを受けている。
この標本も、アメリカの有名なコレクターからの流出品で、運よく入手できた。
出処はスイス産/究極のエッチングクォーツを激安でお譲りいただいた世界的に有名な鉱物店。
代金を払っていないにも関わらず、ある日私のもとにやってきた。
驚いて問い合わせたが、どちらでもいいようなことを言われ、支払い方法を告げられることなく今に至る。
毎度のことながら、世界規模の鉱物店は太っ腹だ。
こんな見事なものに対価を支払わないというのは心が痛む。
かの収集家が天国から託してくださったのだろうと私は考えている。
非常に都合の良い解釈である。

バライトは見た目に反し、脆く破損しやすい。
そのため、加工には向かないとされている。
透明石はコレクション用にカットされることもあるが、数は少なく貴重品である。
パワーストーンとしての知名度がないのはそのためかもしれない。
このところ世界的に注目を集めている、水晶に載った美しいイエローバライト(中国産/写真1/写真2)。
春のオークションで紹介させていただいたところ、カルサイトやアパタイトとの混乱がおきている方が少なからずおられた。
知名度のなさも原因と思われるため、ここに改めて記させていただこうと思い立った。

バライトの仲間であるセレスタイトのほうは、パワーストーンとして広く認知されている。
硬度は3と、加工される鉱物の中では最ももろい部類に入る。
60年代にマダガスカルから大量に発見されてのち、高価だったセレスタイトの価値は下落、多くが加工にまわされたとみられる。

蛇足になるが、セレスタイトには硬度以外にも、様々な危険要素が含まれている。
アクセサリーとしてはおすすめできない。
当初はビーズなど考えられないという声も聞かれただけに、加工技術の進歩に危機感を抱いている。
セレスタイトのブレス愛用者のかたには、以下の要注意事項をお伝えしておかねばなるまい。
天使の石、セレスタイト。
トイレ掃除のさい天使がみえるようなことがあれば、それはあなたが天国に導かれているという警告のメッセージであるからして、すみやかに避難のうえ、換気を行っていただきたい。
セレスタイトは、天使のメッセージを運ぶ天国のクリスタルであるといわれている。




65×30×23mm  35.61g

2012/10/07

フローライト(ワインレッド&オリーブ)


フローライト Fluorite
Pine Canyon Deposit, Westboro Mts., Grant Co., New Mexico, USA



秋のミネラルショーが始まった。
今回は、以前アップした記事を。
フローライトは私がこのところ特に気に入って集めているのだけれど、ショーでもたくさんの素晴らしい標本に出会った。
色合いやその混在の様子、模様、質感、存在感など、それぞれが個性豊かでひとつとして同じものはない。
フローライトで世界一周がしてみたい今日この頃。

花のように結晶した可憐なフローライト(蛍石)。
ワインレッド・カラーの下にはオリーブグリーンが隠れていて、額縁のように枠を成している。
これをゾーニングと呼んでいる。
専門用語はなるべく使いたくない。
なぜなら私にもよくわからないからである。

ゾーニング。
大雑把に言えば、額縁。
結晶内部の色の境目を指して、そう呼んでいる。
写真のようにくっきり色合いが分かれていることもあるし、どちらかというとファントムに近い、ぼんやりとした色彩の帯であったりもする(→同じニューメキシコ産のフローライトにみられるゾーニングの顕著な例)。
蛍石のゾーニングの定義は曖昧で、感覚的に使っている人も多いという印象を受ける。
ファントムとはまた違う。
この標本を語る上でゾーニングの美意識を外すことはできないので、是非とも押さえておきたい。

産地からは、赤紫と黄緑の色合いを基調とするフローライトが発見されている。
多くはクラスター状に成長しており、無数の八面体結晶が発達した刺々しい姿をしている。
この標本とは逆に、オリーブグリーン・カラーが表面を覆っているために、色味に濁りを感じることもある。
赤紫と黄緑は色相環において正反対の位置、補色にあたる。
色の相性としては最も難しい。
補色同士が混ざり合うと、暗く濁った色合いになる。
いっぽう、補色関係にある赤紫と黄緑を並べると、互いの色がより鮮やかに見えるという相乗効果がある。
フローライトだから実現するゾーニングの魔法。
お手持ちのフローライトにも確認できるはずなので、見つけていただきたい。

華やかなフローライトの花が咲いている。
いったい何の花に喩えればよいだろう。
日本の家庭環境に優しいサムネイル・サイズの標本から広がる無限の宇宙。
私はこれを盆栽と名づけたい。


31×22×19mm  12.71g

2012/09/25

アプリコットルチル(鉄カーフォル石入り水晶)


鉄カーフォル石入り水晶
Ferrocarpholite in Quartz
Diamantina, Minas Gerais, Brazil



クリアな水晶に、流れるように詰め込まれたアプリコット・カラーの針。
夕日で撮影したため、オレンジが強く写っているのだけれど、針水晶においては、ありそうでなかった色。
表記のとおり、内部の針はルチルまたは角閃石ではない。
ザギマウンテンクォーツっぽいけど、アストロフィライトでもない。
赤いルチルにコッパールチルなる石があった気がするが、銅でもない。
稀産鉱物、鉄カーフォル石(鉄カーフォライト、鉄麦わら石)の針状インクルージョンで、アプリコットに染まった水晶である。

最初にお断りしておきたい。
カーフォル石の産出はごく稀で、話題に上ることはまずない。
その仲間にあたる鉄カーフォル石はさらに珍しく、さらに、水晶に内包されたものについては、少なくとも世界に3つあることくらいしかわからない。
私のような素人が手を出すようなシロモノではない。
しかしながら、親しみを持っていただくため、私はこれをアプリコットルチルと名づける(→ルチルについての効能はこちらにございます!)。

長い間謎の存在だった鉄カーフォル石入り水晶。
先日、内部に無数の赤い針が詰まっていることに気づいた。
倉庫で作業をしていたさいに、偶然わかった。
それまで全く気づかなかった。
大慌てで撮影したため、夕日での撮影となってしまった。

購入は確か5年くらい前。
東京にいた頃だったか、ミネラルショーで白人ディーラーから購入したもの。
眉間の皺が印象的な頑固そうなオッサンが、厳かに販売されていた。
なんともいえない、近寄りがたい雰囲気だったのをはっきり覚えている。
ブースにならぶ鉱物は、聞いたことのない名前ばかり。
決して綺麗とはいえない通好みの鉱物の中にあって、ひときわ鮮やかな赤い水晶を見つけ、手に取った。
聞いたことのない名前の石。
理由はそれだけだった。
水晶は安くあるべきという素人にありがちな考えに囚われ、5000円という価格に一日悩んだ末、購入。

翌日、私は友人と、文京区にある老舗の鉱物標本専門店へ来ていた。
国産鉱物の品揃えでは国内でも定評のあるそのお店に初心者が入店するには、侍のかまえが必要である。
地元在住の友人と一緒だったため、引き下がれなかった。
店内に入ると、これまた頑固そうな年配の男女が3人、作業中であった。
当然、私たちには見向きもされない。
趣味人の集うところ、長い歴史が作り上げた暗黙の了解と、厳しい上下関係がある。
苦し紛れに、当時話題になりつつあったモリオンについて尋ねたら、蛭川の黒水晶以外はケアンゴームであると、お叱りを受けてしまった。
当時の私には蛭川(※注)が何だかわからなかった。

※注:蛭川(ひるかわ)の黒水晶:

岐阜県中津川市蛭川からは、かつて見事な黒水晶が産出した。現在流通している蛭川産モリオンと呼ばれる石の大半はスモーキークォーツ。蛭川産以外の世界中の黒水晶をすべてケアンゴームとみるならば、モリオンは既に絶産したということになる。記事はこちら

ふと、前日に購入したばかりの "Ferrocarpholite in Quartz" が浮かんだ。
折角専門家がいらっしゃるのだから、この石の正体を聞いてみようと思い立った。
そうして、最も頑固そうな初老の男性(ボス)にこの石を見ていただいたのだけど、不思議そうな顔をなさっている。
5000円したのだが相場だろうかと尋ねると、ボスはこう言った。

「それ位は、しますね」

びっくりした。
最後はお店の方々と色々なお話をし、後には特別な注文に応じてくださるなど、たいへんお世話になった。
ただ、当時は "Ferrocarpholite" の和名が鉄カーフォル石である、ということ位しか判らなかった。
ボスの言葉を胸に、謎の水晶として大切にしていた。

その後、私のミスで、透明だったこの標本はクラック(ダメージ)でいっぱいになってしまった。
初心者の自分が背伸びして購入した標本を傷つけてしまった罪悪感。
遠くから眺めるのが精一杯だった。
つい先日、この水晶の発色原因が赤い針によるものだと、偶然にわかるまで。

今思うこと。
それは、この石にまた巡り合うことは、極めて難しいだろうということ。
標本をよく見ると、私の過失以外にもダメージがあって、相当の年数が経過していることが推測できる。
過去のコレクターの流出品ではないかと考えている。
産地は水晶の名産地。
ひとつ見つかったということは、他にも幾つか見つかっている。
しかし、国内外ともに販売はない。

改めて鉄カーフォル石について調べてみた。
鉄カーフォル石は鉄、アルミニウム、チタン、マンガンなどから成る、きわめて稀な鉱物。
1951年にインドネシアで発見されたが、現在は絶産状態。
同じく絶産状態といわれるカーフォル石とは連続性がある。
原石は、葉ろう石に似た放射状の結晶の集合体で、絹状光沢をなし、オリーブ~イエローゴールド~ブラウンの色合いを示すという。

なお、産地の同じディアマンティーナから、鉄カーフォル石の針状インクルージョンを内包した透明水晶が産出した例が2件あった。
ただ、同地から鉄カーフォル石が産出した記録がないため、さらなる調査が必要として、それ以上の言及はなされていなかった。
サンプルが少ないために調査のしようがないということかもしれない。
いずれも拡大写真のみで形状は不明、針の色はどちらかというとシルバー。
いっぽう、手持ちの標本はセプターともいえそうなユニークな形状で、切断面のない完全な結晶体、流れるような針状結晶が水晶全体を赤く染めるさまなど、希少性以外にも見どころは多い。
私はただこのアプリコットカラーに惹かれて入手しただけ。
希少価値などどうでもいいではないか。

別名としてたまに出てくる「鉄麦わら石」。
確かに原石の色は、麦わら帽子に似ている。
水晶に含まれたらこんな色合いになるなんて、誰も予想しないだろう。
現時点では、この石は永遠の謎である。
いや、意外にあるのだけど、まだ誰も気づいていない?
そんなささやかな希望をもたらしてくれる、よどみのない光の束が、水晶の内部に輝いている。




45×28×27mm

今週、話題性が確認された10の鉱物

What Mineral Would You Take with You to A Deserted Island?