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2012/07/04

コスモクロア(マウ・シット・シット)


マウ・シット・シット
コスモクロア
Kosmochlor(Maw-Sit-Sit)
Tawmaw, Myitkyina-Mogaung, Kachin State, Myanmar



明るく、深みのある緑が印象的な鉱物。
ミャンマー・カチン州名物のこの石は、産地の名に因みマウ・シット・シットと呼ばれている。
鉱物としては、コスモクロア(ユレアイト/宇宙輝石)を主成分とする混合石にあたる。
ひすいやネフライト(ややこしい)、クローライト、アルバイトなどの鉱物と共生した状態で発見されるという。
本来なら希少石に分類されるところだが、流通は比較的多い。
どこからどこまでをマウ・シット・シットと呼ぶかについては、意見が分かれるようである。

写真はマウ・シット・シットの現地カット品として、5年ほど前に譲っていただいたもの。
濃厚な緑に黒が混ざり込み、まるでスイカのようなユニークなカットに仕上がっている。
私が希少石に興味をもつきっかけとなる大先輩から譲り受けた、思い出の一品。

私がこの石を知ったとき、「マウ・シット・シット」はあくまで流通名であり、正式名は「ジェード・アルバイト」であると説明がなされていた。
しばらくして、どうも違うっぽいということになる。
マウ・シット・シットの名で呼ばれ始めたのは知っていたが、鉱物名として定着していたことは知らなかった。
現在はコスモクロアと呼ぶのが一般的となっている。
2年ほど鉱物の世界を離れていたため、以下は推測になる。

ミャンマー語はわからないが、ミャンマー語をカタカナ読みするのが難しいというのはわかる。
マウ・シット・シットのほか、マウシッシ、マウシッシッ、モーシッシ、モウシシなど、表記は統一されていない。
モシッシシ、マーウッシッシーと読んでいた方もおられるかもしれぬ。
この石の知名度が急上昇した背景に、コスモクロアという名前への切り替えがあったような印象は受ける。
名前の親しみやすさ、宇宙から来た鉱物というエピソードは、人を惹きつける魅力にあふれている。
しかし、マウ・シット・シット=コスモクロア、ではなかったはず。
大雑把に図解すると、

コスモクロア<マウ・シット・シット<ひすい


となる。
混合鉱物の扱いは難しい。
現在もジェード・アルバイトの名で呼ばれていたり、ひすいに分類されてしまったり(正確にはひすいの一部)、クロロメラナイトという類似の鉱物と混同されているケースもあることから、コスモクロアの呼称にまとめるのは合理的。

コスモクロアの発見は1897年。
隕石中から見つかった未知の鉱物だった。
その神秘的ともいえる発見に因み、「宇宙の緑」を意味するコスモクロアの名を与えられた。
1984年、地球上にも同じ鉱物が存在することが明らかになった。
ミャンマーのマウ・シット・シットからコスモクロアが出てきた。
そういう流れらしい。

かつて正式に紹介された、マウ・シット・シットという呼び名については、疑問を拭えずにいた。
コテコテの日本人である私には、発音のミスが命取りになるとしか思えない呼称だからである。
英語圏でもこの名称は使われているから、許容範囲内なんだろう。
いっぽうで、「マウ・シット・シット」と唱えると、宇宙意識を直観することができるという記事を国内にみかけた。
これはさすがに奇妙である。
世界にはカルピス(※注1)しかり、ネズミのアレを予感してしまう人のほうが多いのでは。
コスモクロア/宇宙輝石という美しい名前にインスピレーションを受けただけという理由なのであれば、例のごとく注意を促しておかねばなるまい。

※注1:カルピスが倫理的問題から米国でカルピコとして販売されているように、Maw-Sit-Sitという言葉には、深刻なトラブルの元になりかねない要素がある。
ミャンマーの知名度の問題か、欧米諸国でのこの石の取扱いは少ないのだが、一部では "Maw-Si-Si" という表記に変更がなされている。この名称が国際的に定着してしまった背景について考えてみるのも面白そう。


日本の鉱物界に名を遺した偉人、益富寿之助博士。
コスモクロアにまつわる、益富博士のエピソードは非常に興味深い。
ひすいが産することで有名な新潟県糸魚川市から発見された、ひすいのような緑の鉱物。
博士は、それがコスモクロアであることにお気づきだったらしい。
当時、地球上にコスモクロアが存在することは、まだ明らかになっていなかった。
博士の死からわずか4年後の1997年、その緑の鉱物がユレアイト(コスモクロア)であったことが、ようやっと発表されるに至ったとのこと。

参考:日本でも発見されていたコスモクロア
http://www2.ocn.ne.jp/~miyajima/detail-menu2/min107-kosmochlor/kosmochlor.html

宇宙から来た鉱物というイメージが先行する中、それが既に地球にあったことを博士は見抜かれていた。
世界的な発見を前に、堅く口を閉ざされたことに対しては、激動の時代を生き、日本の発展に貢献された昭和の研究者たちの生きざまを想うのみ。
鉱物を愛し、地学研究に生涯を捧げた益富博士の深く鋭い眼差しが、時を超えて伝わってくる。
氏の活動拠点となった京都に生まれ育ちながら、お会いすることは叶わなかった。
どこかで益富博士とすれ違っていたかもしれない、と思うときはある。
この石にはきっと、遥かなる宇宙のロマンが刻まれている。

財団法人益富地学会館:
http://www.masutomi.or.jp/


43×12mm 8.53ct

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