2012/11/02

ファイヤーオブシディアン/玲瓏


ファイヤーオブシディアン
Fire Obsidian
Kyzyl Kum, Armenia



黒耀石をこよなく愛するうさこふのもとに、岩石岩男(がんせき・いわお)を名乗る人物から、珍情報が入った。
ファイヤーオブシディアンが北海道から産出する黒耀石、十勝石の中にごく稀に存在し、国産鉱物ハンターの間で伝説になっている…
その名も玲瓏(れいろう)。

ファイヤーオブシディアンといえば、オレゴン産の70年代のコレクションを、知人のご厚意で入手したばかり。
ピンクやレッドのファイヤが蛍のように飛び回るさまは、ピンクファイヤークォーツを圧倒していた。
ピンクファイヤークォーツは所詮、幻のオブシディアンの輝きに対する憧憬に過ぎなかった。
そう、思い込んでいた。
しかしながら、玲瓏の写真を見て思った。
私はファイヤーオブシディアンを誤解していたかもしれない、と。

岩石岩男氏に送っていただいた玲瓏(れいろう)の写真。
あたかもダイクロイックグラス(→特殊な技術を用いて作られた人工ガラス/写真はこちら)の如く輝く、メタリックな虹色のオブシディアンの姿がそこにあった。
レインボーオブシディアンにおける、ホログラムのように浮かぶ幻想的な虹とは異なる、力強い輝きである。
私の手持ちのファイヤーオブシディアンとは様子が異なっていて、蛍のように飛び交う赤いファイヤは見えないようであった。

そもそも玲瓏とは一体なんのことだろう。
辞書には、"透き通るように美しいさま、珠のように輝くさま" とある。
漢字が難しくて読めず、当初は中国産の黒耀石のことと思い込んでしまった。
玲瓏は古くから存在する日本語であり、「美しさ」を表現するにあたっては最も褒むべき表現のひとつにあたるものとみられる。
情けない限りである。
ただし現在、玲瓏という言葉は日常的には用いられてはいない。
十勝石にごく稀に現れるという幻の玲瓏。
この言葉を石に与えられるとしたら、古き良き日本の美意識を知る人物ということになろう(岩男情報:1968年に十勝の識者によって瞬時に命名されたとのこと。鉱物の専門家ではないという。私には言葉がみつからない)。

では、十勝石に稀にみられる玲瓏とは、一体なんだろう。
十勝石はマホガニーオブシディアン(黒地にブラウンの模様の入った黒耀石)様の外観で知られる国産鉱物の代表格。
岩石岩男の話では、国内では多彩なシーンの見える黒耀石は、すべて玲瓏に分類されているとのこと。
つまり玲瓏には、ファイヤーオブシディアンとは呼べないものが含まれる。
おそらく、生きているうちに国産ファイヤーオブシディアンに出会えたなら、その幸運な人生を喜ぶべきである。
玲瓏という言葉すら知らなかった自分にはまだ早い。
未知の鉱物が気になって仕方がない私には珍しく、あっさり諦めた。

謎の人物・岩石岩男とはその後も交流が続いていた。
幻の国産ファイヤーオブシディアン、玲瓏(れいろう)。
私には、知人から譲っていただいた見事なファイヤーオブシディアンがある。
出会ってしまってから、考えよう。
などと、暢気に構えていた。

幻の玲瓏を知ってから十日余り、私は仕入れのためにお世話になっている鉱物店を訪れていた。
遅刻のため、持ち時間はたった一時間。
お願いしていた石を手にし、お疲れの店長と苦労話などをしながら、鉱物を見て周っていた。
そのとき私の目に、例の如く(?)見覚えのある光が飛び込んできたのである。




ブツはアルメニア産の黒曜石の塊。
写真の通り、メタリックな虹があちこちに浮かんでいる。
レインボーオブシディアンとは明らかに異なるこの虹、写真で見た玲瓏にそっくりである。

こんなにも早く遭遇するとは思っていなかったため、心の準備ができていない。
情けないことに、メタリックなレインボーを目前にして、玲瓏という単語が出てこない。
ひととおり在庫を見せていただいた。
虹が広範囲に入っているのは2つのみ。
2つとも譲っていただけることになった。
ちなみに、写真は小さいほうになる(→大きく虹の多いほうはオークションにて発表中です)。

気になって海外サイトを調べてみた。
ファイヤーオブシディアンとして流通しているのは、手元のアルメニアの黒耀石と同じもののようだった。
ファイヤーアゲートのようなメタリックな輝きがその特徴とみられる。
一般にはスモーキーオブシディアンに起きる現象で、米・オレゴン州から比較的産出がある。
私がアメリカ人に譲っていただいたファイヤーオブシディアンの産地に同じ。

思うにファイヤーオブシディアンには、こうしたレインボータイプと、蛍のようなファイアが飛び出すほたるタイプ、以上の2種類があるのではないだろうか。
私の持っているほたるタイプは、ゴールド/シルバーシーンオブシディアン・ベース。
メタリックな虹の見えるものだけが、ファイヤーオブシディアンと呼ばれているわけではない。
その定義については曖昧な点が多い。
振り返れば、私はレインボーに彩られた最高級のファイヤーオブシディアンの写真を見ていた。
写真で見た極上の玲瓏は、知人のコレクションに大量に含まれていた。
初めて玲瓏の写真を見たとき驚かなかったのは、地球上に同じものが存在することを知っていたから。
とっさに情報として出てこなかったのは、私が心の余裕を失っていたためだ。

かつて十勝から産出したというかの黒耀石(文末にリンクあり)は、世界に誇るべきファイヤーオブシディアンに相違ない。
ただし、ネットで画像を見た限りでは、国産の玲瓏の大半はレインボーオブシディアンに同じ。
玲瓏が必ずしもファイヤーオブシディアンを指すわけではない。
ファイヤーオブシディアンは世界的に稀産であり、価値としてはレインボーオブシディアンの比ではないから、見分けられるようにしておいたほうがいいかも。
また玲瓏の呼称は、国産の黒耀石に限定するのが妥当であろう。




この標本には少なくとも6箇所、メタリックな虹の浮かぶ箇所がある。
シーンが途中で内部に潜り込み、見えなくなっているから、カットすれば見事な宝石ができるはずだ。
また、下の写真にあるように、よく見ると所々に赤系のフラッシュ(ファイヤ)も出ている。
アルメニア産の黒曜石にファイヤーオブシディアンがあるとは聞いていない(前述の通り、オレゴン・十勝産は60年代には確認されている)が、未研磨でこの状態なのだから、研磨したのちの姿も想像できるというものだ。


参考)見事なコレクションを拝むことが出来る黒耀石ハンターさんのブログ。
これが問題の国産ファイヤーオブシディアンで、動画を拝見した限りでは、アルメニア産に同じ:
http://www.geocities.jp/blood_obsidian/tokachi_fire_obsidian.html

※動画の視聴にはダウンロードが必要なので要注意。




75×63×41mm  125g


岩石岩男さま、あなたとのご縁がなければ、この出会いはありませんでした。
貴重な情報及びアドバイスをありがとうございました。
今後ともよろしくお願い申し上げます。

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