2012/08/03

ヘマタイト/エジプトの星になった貝の化石


エジプトの星(貝化石仮晶)
Hematite after Sea Shell
White Desert, Farafra Oasis, Matruh Governorate, Egypt



太古の昔生息していた貝類が化石となり、さらにヘマタイトに置き換わったとされる珍品。
一目で貝とわかる造形と質感は、レプリカと見紛うほど。
かつての貝が、銅像(鉄だけど)のように忠実に再現されたさまは、大自然による芸術作品といって差し支えないと思っている。

この標本には他にも興味深い特徴がある。
以前、サハラ砂漠から発見されるエジプトの星(Zストーン)という鉱物を取り上げた。
サハラ砂漠がまだ海の底だった頃に形成されたという、ユニークな特徴を持つヘマタイトであった。
あたかも星のように見えるため、その名が充てられたと思うのだが、実は星のような形をしていない石もわりあい流通がある。
勇敢なミネラルハンターや専門家が、サハラ砂漠の奥地にあるホワイト・デザートで様々な形状のヘマタイトを採取しているそうだ。

写真の化石標本も、日本語で表現するなら「エジプトの星」と同じものということになる。
本文下にこの石の裏面を掲載した。
エジプトの星と見分けがつかないほど似ているのがわかると思う。
前回紹介したエジプトの星は、マーカサイトという鉱物の仮晶だった。
化石が置換される例としては、パイライト化したアンモナイトが有名だが、多くはスライスされてその特徴がわかるようデザインされている。
カットされずとも貝とわかるなんて不思議。
化石の世界は奥が深いのだな。

サハラ砂漠はかつて、海の底であった。
エジプトの星とよばれる石は、その頃に形成されたといわれている。
この標本は、サハラ砂漠が海であったことを証明する、貴重な資料になるのだろう。
化石はどちらかというと苦手。
見事な貝殻のオブジェなら、喜んで飾らせてもらおうと思う。
ただし、ヘマタイトはいわば金属。
錆びやすいため、湿気の多いところに飾らないほうがよさそう。

古来から、人々は生まれ変わったのちの自分の姿を想像した。
「大空を羽ばたく鳥になりたい」
「また人間になって、妻と出会いたい」
そんな叙情的な文脈で語られることもある。
私は欲張りだから、エジプトの星になりたい。
どれくらい時間がかかるのか、見当もつかないが、頑張ればなれるかもしれない。

いっぽう「私は貝になりたい」と言った人もいる。
私は漠然としか知らないが、有名な言葉だからご存知の方のほうが多いと思う。
戦争において理不尽な運命に翻弄され、苦難を強いられた加藤哲太郎氏は、遺書にこう書き残しているという。


けれど、こんど生まれかわるならば、私は日本人にはなりたくありません。二度と兵隊にはなりません。いや、私は人間になりたくありません。牛や馬にも生まれません、人間にいじめられますから。どうしても生まれかわらねばならないのなら、私は貝になりたいと思います。貝ならば海の深い岩にへばりついて何の心配もありませんから。何も知らないから、悲しくも嬉しくもないし、痛くも痒くもありません。頭が痛くなることもないし、兵隊にとられることもない。妻や子供を心配することもないし、どうしても生まれかわらねばならいのなら、私は貝に生まれるつもりです。

(『狂える戦犯死刑囚』より)





35×24×15mm  14.60g

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