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2013/03/20

スペクトロライトキャッツアイ/スキャポライトキャッツアイ


スペクトロライトキャッツアイ
Cat’s Eye Spectorolite
from India



先日、不思議なものを見かけた。
スペクトロライトキャッツアイなる石があるという。
ラブラドライトの輝きをより強めたかのようなスペクトロライト(→記事)は、れっきとしたレアストーン。
まるで別物だ。
スペクトロライトほど高くなかったのは不可解である。
スキャポライトという文字が頭をよぎる。
スペクトロライトとして販売されていた写真の石、スキャポライトキャッツアイにそっくりなのだ。

産地は不明、加工はインドということだった。
スペクトロライトとスキャポライトはつづりが似ている。
インド人が読み違えたという推測が可能だ。
タンザニアやスリランカからは、赤味を帯びたスキャポライトが発見されているという。
写真の石とそっくりで見分けが付かない。
スキャポライトキャッツアイが誤ってスペクトロライトキャッツアイとなって流通しているということかもしれない。

しかしながら、スペクトロライトには知名度がない。
いっぽう、スキャポライトはインドからも大量に産出する。
インド人が読み違えるのは奇妙である。
そう思って引き続き調べてみた。
スペクトロライトの和名は曹灰長石、つまり長石の一種。
キャッツアイを示す長石をあたったところ、とんでもないものを見つけた。

参考)スペクトロライトキャッツアイ
http://www.a-original.co.jp/gem/gem/spectrolite/1091.htm

上記リンクでは鑑別書にフェルスパー(長石)の文字が見える。
鑑別はなんと、中央宝研。
日本で最も信頼のおける鑑定機関だから間違えるはずがない。
もっぱらパワーストーンの鑑別を行っている、例のアヤシゲな機関とは格が違う。
スペクトロライトかどうかまではわからないが、長石グループのいずれかにあたるブロンズカラーのキャッツアイが存在する。
スキャポライト(柱石)とは異なる鉱物ということになる。
写真の石も、まさかのスペクトロライトキャッツアイ?

参考)※英語サイト
http://www.dandennis.com/scapolite.htm

上記サイトでは、ラブラドライト(スペクトロライト)とスキャポライトは同じ場所から産出することがあり、しばしばスキャポライトと間違えられて流通する、と述べられている。
と、いうことは…
あっている。
それだけではない。
スキャポライトキャッツアイとして流通している石の中に、写真と同じ石、つまりスペクトロライトキャッツアイが混在している?


4.21ct

2013/02/19

【豆知識】ダイヤモンドの選び方


ダイヤモンドを賢く選ぶには
How To Choose The Best Diamond



大好きなパワーストーンは?と聞かれたら、私はダイヤモンドと答えます。
古くから世界中で愛されてきたダイヤモンド。
パワーストーンとしては一般的ではありません。
なぜでしょうか。
そう聞かれたら
多くの人は次のように答えるかもしれません。

高いから。
興味がないから。
贅沢品だから。
似合わないから。
なにか恐ろしい感じがするから。

いずれも、ダイヤモンドそのものに興味を持つことそのものを避けておられる気がします。
興味を持って、調べて、よく見る習慣をつけていると、

実は、ダイヤモンドは500円くらいで購入できます。
必ずしも贅沢品というわけではないんです。
ダイヤモンドが贅沢品かどうかについては、私には判断しかねるところです。
写真のダイヤモンドはプラチナで三万円台ですから、パワーストーンのブレスのほうがかえって高いこともありそうです。

恐ろしい感じがする。

ある方から伺った言葉です。
実はこれ、うさこふも感じておりました。
昔々、五千円程度のチビダイヤの入ったペンダントを買ったんです。
どうも気分が悪い。
苦しい。
嫌な予感がする。
翌日には近所の神社に埋めにいきました。
パワーストーンなんて、まだ知らなかった頃ですが、本能的に神社に向かったのを覚えています。
いわくつきのダイヤを買ってしまったのかというと、おそらくそうではありません。
ただ、ダイヤモンドが恐くて買えずにいるという方はこうした体験をされたかもしれませんね。
さっそく考察してみましょう。

恐いダイヤモンドといえば、ホープ・ダイヤモンド。
インドから発見された青いダイヤで、その後持ち主が次々と悲惨な死を遂げたために、呪われたダイヤモンドとして有名になりました。
それから、ブラッディ・ダイヤモンド。
貧しい国では採掘されたダイヤモンドが戦争資金に変わっている。
戦争が血を思わせることからその名が付いたと聞いています。
こうしたいわくつきのダイヤモンドがブラックマーケットを通り、日本に入ってきている。
貧しい国々の人の悲しみや恐怖に共感し、良心からダイヤモンドを避けている方も多いかもしれません。
結論からいうと、呪われたダイヤモンドというのはある程度見分けられます。
そうです、安いものには訳があるんです。

冒頭のダイヤモンドが安かったのにも、訳があります。
では、みなさんはダイヤモンドを買うとしたら、何を基準にしますか?

1位:値段
2位:本物かどうか
3位:大きさ
4位:VVS2とか一般にいわれている基準をなんとなく
5位:いわれるがまま

※うさこふの脳内アンケート(修正あり)より

さて、値段ですが、これは重要です。
相場がある程度決まっているからです。
あまりにも高いのは問題ですが、あまりに安いものにも注意が必要です。
また、合計1ctと一粒1ctでは価値が全く異なりますから、合計のほうが安上がりです。
資産価値があるのは後者のみですね。

偽物を心配している方は多いかもしれません。
ダイヤモンドについては、古くから厳しい基準があり、鑑定書が付くのが一般的です。
鑑定書にある鑑定機関を見れば判断できますので、問題ありません。
わからなければ聞いてみましょう。
ただし、パワーストーンに鑑定書がついてきたら、詐欺を疑ってみたほうがよさそうです。
こんな手口が横行しています(→参考:ブラックマトリックスオパール)。

大きさです。
大きければ大きいほど良い、と思った人はさすがにいないと思います。
これが意外なポイントになるので、後ほどご説明します。

一般にいわれている基準というのは4Cのことです。
これは、ダイヤモンドの質を表す言葉です。
重要ですので、資料をあたってください。

参考:ダイヤモンドの鑑定書
http://www.nihongo.com/diamond/kantei/diamkans.htm

Cut(カット)Color(色)Clarity(質)Carat(カラット)、Cが4つで4Cです。
カラット(大きさ)とクラリティ(VVS1など)はわりと知られていますが、色とカットのほうも極めて重要です。
無色透明に近いダイヤモンドはD、不純物などで濁っていくに従って数値がup、遂にはZに至ります。
また、カットひとつで輝きが全く変わるといわれるのがダイヤモンドの世界。
高い技術は評価の対象になります。
ヨーロッパで職人たちが築き上げた技術を駆使し、美しいバランスを備えたカットを施され、ダイヤモンドの価値は決まるのです。
ハート&キューピッドと呼ばれるカットが最も高級品なんだそうです。
実は写真のダイヤモンド、カラーはD、カットも最高とされるハート&キューピッド。
実際の大きさより大きく見えるのは、輝きに優れているからです。
また、この上なく透明だというDの値は、ある目印になります。

このダイヤモンドが安い訳について説明します。
店員さんはよいことしか言いません。
パワーストーンと同じように、ある程度勉強して、後悔のないお買い物をしなければいけません。
安い理由はまず、小さいことです。
0.15ctしかありません。
しかし、カラーとカットが最高であるため、実際の大きさより大きく輝いて見えます。
ダイヤモンドは大きければ大きいほど不純物や欠損が目立ち、質は落ちます。
小さいほうが品質が良いものが多いというわけです。
大きさを追求すると、当然高額になりますから、ちょうどいいところで止めておくといいかもしれません。
最高級のダイヤモンドが1ctを越えると、桁が1、2桁変わるようです。
そして、このダイヤモンドが安かった第二の理由。
それは紫外線で蛍光するということです。

ブラックライトをあてると美しいブルーに輝きますから、レアストーンハンターにとっては嬉しいサプライズです。
蛍光性のあるダイヤモンドがきらわれるのは、太陽光で若干の色変化を起こすためです。
青に蛍光する場合は、ダイヤの輝きをより神秘的に見せることもあるのですが、黄色に蛍光する場合は失敗です。
石がくすんで見えるのです。
これは青ですから、私は折れました。
私が身につけているパワーストーンは、このダイヤモンドだけです。
このペンダントが来てから、不思議に良いことが続くんです。
以前購入し、神社に埋めたダイヤモンドとは何が違うのか…そんなことを考えていたある日のこと。

私はインターネットで見事なダイヤモンドを見かけました。
ある方の宝物ということだったのでお話を伺ってみると、どうもアヤシイ。
持つと幸せになれるダイヤモンドだとおっしゃいます。


そんなものは持ってみないとわかりません(現実)。

どうも、宝石カットの技術が世界一なんだそうです。
ある日本のカリスマが提唱した新技術だということですが、奇妙ですね。
中世から美しいダイヤモンドを極めるため、代々がんばってきたヨーロッパの宝石職人の技術に、たいしてキャリアもない日本人が勝てるというのは余程のことです。
宝石の世界でも名の知れた人物のはず。
しかし、聞いたことがありません。
ダイヤモンドの産地がしばしばわからなくなるのは、ヨーロッパで加工されているためなんです。
産地はアフリカだけではありません。
ロシアや中国からもダイヤモンドは産出しています。


さて、幸せになれるダイヤモンド。
大きさはなんと1ct超え。
価格は四十万程度とのこと。
内包物はみられませんから、かなりの質です。
おかしいですね。
安すぎるんです。

安いものにはわけがあります。
1ct超えで四十万は安すぎる。
問題は色です。

よくよく見ると色がくすんで見えます。
全体的に黄ばんでいるんです。
放射線処理で内包物を消し去ってしまった可能性があります。

参考:ためになる辛口宝石論
http://www.takara-kiho.co.jp/column/008.html

放射線処理という言葉はよく聞きますが、実際に何をどうするのか、意外に知らないものです。
原子炉にぶち込むそうです。
放射線処理というのは、いわば放射能で宝石を焼き殺してしてしまうことです。
ひときわ鮮やかな、青や赤、或いはブラックダイヤモンド。
現在入手できるこうした珍しい色目のダイヤモンドの大半は、放射線処理がなされています。
内包物を消し去って石のクオリティを上げ、たくさん売る必要があるんです。
どうも黄ばんでいると感じたら、放射線処理を疑ってみてください。
先ほどの幸せになれるダイヤモンドも、原子炉で被ばくしてしまった憐れな姿、ということになるのですね。

その方は原発事故を機にデモ活動に目覚め、熱心に原発廃止を訴えておられました。
よりによって被ばくダイヤをご自身の代わりにかかげるとは、皮肉なものです。
ご本人自慢のダイヤモンドは、原発がなければ作れません。
私が買ってすぐ埋めたダイヤモンドもおそらく放射線処理されていたのでしょう。
同じく放射能をあてて作られる人工モリオンで、気分が悪くなった時の感じに似ていたんです。
私だけではないようですから、本能的に危険を察知したということになるのかもしれません。
もし、気持ち悪いからダイヤモンドを避けていたという方は、質より色合いに注目してみてください。
もともとダイヤモンドは力の強い石です。
歴史がそれを物語っています。
放射能もまた、強いですから、不具合が起きてもおかしくありません。
放射線処理されていたかどうかは、素人の私には判断できません。
もし、被ばくダイヤを看板に、原発廃止を訴えようとされていたのだとしたら…
訳が気になります。

詳しいお話を伺いました。
どうも宝石を使った霊感商法の一種のようです。
「ダイヤモンドには全く興味がなかった」ような人をターゲットに、自社製品と低ランクのダイヤモンドを並べて買わせるという典型的な詐欺でした。
これまでにない素晴らしいカットがウリだといいますが、おかしいことは先ほど書きました。


ダイヤになど全く興味がなかった、というのがポイントです。


知識や比較対象など全くない状態ですから、このダイヤが最高だと信じ込んでしまいます。

カットだけが優れていても、石そのものが悪ければ、安く手に入ります。
放射線処理をすれば簡単、というわけですね。
ダイヤモンドだけに、安い買い物ではありません。

ルビーやサファイヤ、エメラルドなども人工処理を施して色合いを改善していきます。
放射線処理を行う宝石はダイヤモンドだけではありません。
パワーストーンの中にも紛れ込んでいます。
我々がいかに放射能に、原発に頼って生きてきたかということになります。
今や、あの騒ぎは忘れられてしまったかのようです。
世界は日本を恐れている。
被ばくダイヤがあやしく光輝きます。


宝石専門のみなさま、ツッコミをお待ちしております!

2013/02/07

非加熱タンザナイト


タンザナイト Tanzanite
Merelani Hills, Arusha, Tanzania



今や宝石の枠を超え、広く知られるようになったタンザナイト。
目下休止中のブログに突然記事をアップするのはどうかと思うが、気がかりなことがあるので報告したい。

タンザナイトと聞いて私たちはあの深いブルーをイメージする。
加熱処理を前提とした宝石であることをご存知の方も多いはず。
以前、非加熱タンザナイトってどんな感じなのだろう?という疑問を抱いている方がおられた。
石には非常に詳しいのに、ご存じないとは意外だった。
どうも、未処理のタンザナイトは滅多に流通せず、かえって入手困難であるようだ。

宝石質の非加熱タンザナイトを一時期集めていたことがある。
私がむしろ、人工石のほうを好んで集めているのはご存知の通り。
なぜタンザナイトに限って未処理なのかというと、単にひねくれ者だから?
鉱物を知ってすぐに購入した安価な破片状原石。
写真は室内にて、ライトをあてて撮影した(実際の色は本文下、右側の写真に近い)。
シルバー、ゴールド、ブルーの輝きが同時に見えるのは、タンザナイトの持つ多色性に因る。
太陽光では褐色に近いイエローに見える。
室内光ではどちらかというと赤みを帯びて見える。
なんとかして青い輝きをとらえようと試行錯誤した成果が冒頭の写真。

透明度に富み、強い輝きと光沢を示すゴールデン・タンザナイト。
悪くないと私は思う。
非加熱未処理タンザナイトといわれて私がイメージするのは、このゴールドの色合い。
だが、意外なほど流通がない。
非加熱未処理というタンザナイトの原石は紫に近いブルーが一般的なよう。
初めから青いタンザナイトというのは存在しないと思い込んでいたが、大量にある。
青い原石というのも実はあって、数が少ないために高額で流通しているのかもしれない。
いや、原石の段階で加熱処理されているように見えるのだが…

まずいことになった。
人工石は日本人にとってまがいものに他ならない。
大自然の恵みである鉱物に手を加えることは許されないはずである。
少しでも人工処理を施せば、パワーストーンのパワーがたちまちのうちになくなってしまうという説もあるほどだ(→ゴールデンダンビュライト)。
なんと、タンザナイトを加熱せずに青くする技術まであるというではないか。
タンザナイトはしょせん偽物。
日本から消える日は近いのかもしれない。

参考)コーティングを施した非加熱タンザナイトが増加中
http://weblog.gem-land.com/?p=112

参考)ヴィクトリアストーンに見る人工石と日本人の価値観
http://usakoff.blogspot.com/2012/12/blog-post_27.html

最初に示したサイトさまより引用させていただく。
記事では、コバルトのコーティング処理によって、褐色のタンザナイトが青く生まれ変わると説明されている。
非加熱未処理に加熱未処理石。
ならば非加熱処理石もありということらしい。
非加熱という言葉を利用して売り出そうとする思惑が見え隠れする。
結晶表面にイリデッセンス(虹が輝いて見えるさま)が多く確認できる、多色性の乏しさなどがその特徴として挙げられている。
気になる方はチェックしていただきたい。

これはまさに、私が抱いていた違和感そのもの。
手持ちのゴールデン・タンザナイトには、著しい多色性が認められる。
いっぽうで、非加熱タンザナイトとされる青い石には、青以外の色は認められない。
コーティング処理によって多色性が失われているというなら納得がいく。
多色性を持つ鉱物といえば、アイオライト。
アイオライトは光の角度によって青からイエローに変化する。
未処理のタンザナイトの本来の輝きは、その逆である。

未処理のタンザナイトが滅多に流通せず、かえって入手困難なのは事実のようだ。
おそらくイメージの問題で、青くしなければ売れないのだろう。
天然石の魔法にかかって、石の意味に夢を抱くのは自由だ。
だが、天然か人工かで石の価値が決まるのであれば、処理や加工が前提のビーズや宝石がパワーストーンブームを支えているという現状には矛盾がある。
天然石を処理したものは天然石という意見もあるが、世界的には通用しない。
日本には欧米以上に人工石が定着している。
天然という言葉が名もなき石に価値を与え、人工という言葉が真の価値を遠ざける。

1966年にタンザニアで発見され、1969年にティファニー社によって世界に紹介されたタンザナイト。
クンツァイトを見出したティファニー社副顧問、ジョージ・フレデリック・クンツ博士によってその名が与えられた。
もともとの鉱物名であるゾイサイドの名がスーサイド(自殺)を想起させるために、クンツ博士が機転をきかせたというエピソードも有名。
加熱処理によって色濃い青に変えられ、より透明感と輝きを増したタンザナイトは、カットされて宝石となる。
希産鉱物の宝庫、タンザニアのメレラニ鉱山からしか見つかっていないとされている。
タンザニアを代表する宝石として、むしろタンザニアの名を有名にした存在といえよう。
国名に由来する鉱物は、このタンザナイトの他にブラジリアナイトアフガナイト、シンハライト(現スリランカ)など。
逆に鉱物が国名の由来となったのはアルゼンチンで、ラテン語で銀の意味であるという。




14×11×7mm

2013/01/02

ヴィクトリアストーン【第三話】父の愛


アイエル・ストーン
IL-Stone/Synthetic Emerald
Iimori Laboratory, Tokyo, Japan



ヴィクトリアストーンは芸術そのものであると、アメリカの愛好家たちは口を揃えて言った。
私も同じ気持ちだった。
世界的成功を収めながらも、飯盛博士は晩年、質素な生活を送られたという。
国内で全く売れなかったヴィクトリアストーンの研究を生涯続けたのは、博士の強い信念に由るもの。
…などと考えたくもなるのだが、事態はもっと深刻だったようだ。
欧米からのヴィクトリアストーンの注文をたよりに、細々と宝石を売って過ごす日々。
その魂は世界中の宝石を愛する人々に伝わったものと信じたい。

遥かなる蓬莱山の峯晴れて奇しき翠石あらわれにけり」(『蓬莱山通りの図』 飯盛里安)

飯盛博士が晩年に詠んだ句に添えられた絵に、蓬莱山より顔をのぞかせる奇妙なエメラルドグリーンの鉱物が描かれている。
ダイオプテーズに似ている。
偶然だがその年、レアストーンハンターうさこふがこの世に誕生した。

60年代末~70年代にツーソンショーでヴィクトリアストーンを手に入れた海外の宝石職人たち。
今はもうかなりの高齢になる。
彼らは反日であることが多いが、同世代の日本人もまた同じである。
朝鮮戦争に軍人として来日し、敗戦国日本の惨状を目の当たりにしたミック氏(仮名)が、日本人を嫌悪するようになったのも無理はない。

2012年明けてすぐ、私が夢をもとに記したヴィクトリアストーンの謎。
きっかけはオトゥーナイト/燐灰ウラン鉱の記事だった。
太平洋戦争中に原爆開発が行われていた福島県石川町は、東京電力福島第一原発にほど近い土地。
2011年3月に発生した大規模な原発事故に新たなる疑問を投げかけるべく引用したその資料に、どこかで見たお名前があった。
飯盛里安博士。
確か、イモリストーン(=ヴィクトリアストーン)の開発者ではなかったか。
なぜこんなところに飯盛博士の名前が出てくるのだろうかと、不思議に思った。
タブーではあるまいかと、それ以上の追求は控えた。

原爆開発に関わった飯盛博士と、ヴィクトリアストーンを考案した飯盛博士は、同一人物なのだろうか(→違うともいえる。詳しくは昨年の記事の追記にて)。
記事ではあたかもマッド・サイエンティストのように殺気を放つ飯盛博士が描かれる。
かつて見たあの美しい宝石とは到底、結びつかない。
博士の業績は原爆研究だけではなかったはずだ。
しかし当時、ネット上に飯盛博士やヴィクトリアストーンに関する資料は皆無であった。
博士が生涯をかけて取り組んだ人造宝石を代表するヴィクトリアストーンは、どういう訳か現在アメリカにある。
ならば、アメリカ人に直接事情を聞いてみる必要がある。

折りしも震災直後、放射能の脅威は福島から世界に拡大しつつあった。
日本では異常ともいえる放射能への嫌悪、それに伴う過激な論争や混乱が続いていた。
世界は今、ヴィクトリアストーンに何を見ているのだろう。
ある時私は「日本人お断り」という注意書きとともに、ヴィクトリアストーンを販売しているアメリカ人業者を発見した。
この人物、興味深い。

しかしながら、ミック氏(仮名)は予想以上に難しい人物であった。
なぜ日本人と取引をしないのかという私の問いに、彼はすぐには答えようとしなかった。
和歌のやりとりのごとき暗号めいた文通が続いた。
私は賭けに出た。
飯盛博士の異なる側面について、また福島での原発事故との奇妙な関連性について、推測の段階で彼に伝えた。
ヴィクトリアストーンは、作者の罪の意識により封印されたのだ、と。

興味深い、と彼は言った。
どうやら関心を持ってもらうことに成功したようだ。
彼は初めて身の上を明かした。
「私は朝鮮戦争のさい、軍人として日本に滞在したことがある」
距離は少しずつ、縮まり始めていた。

こういう昔のことは、昭和一桁生まれの父親に聞くのがよさそうだ。
私はすぐに実家へ向かった。
そして私は、彼の軍人としての複雑な思いを知ることになる。
戦後間もなく勃発した朝鮮戦争。
米軍の占領下にあった日本は、中継地点として米軍に利用された。

「ギブミーチョコレート!」

空腹のあまり、米兵を必死で追いかける子どもたち。
日本人が地に堕ちた時代。
若き日の彼と父は同じ光景を見たことだろう。
私の父親は偶然にも、仕事の関係でアメリカに留学していたことがある。
私は彼に、自分の父親の人生や思い、日本人としての立場を話した。

奇妙な偶然の一致であった。
ミック氏(仮名)と父親は全くの同い年であった。
70年代初期、ニューヨークの下宿に生活していた父親。
同時期に日本からのヴィクトリアストーンを手にした彼。
後に飯盛博士が親子であったことを報告し、父の愛が創り上げた宝石ではないかとの推測を伝えた時、彼は私が日本人であることを忘れてしまったかのように優しかった。
私は彼に、父の愛とは何かと訊ねた。
彼の存在そのものが答えであった。
いつの間にか、彼は私のアメリカの父親になっていた。
父の愛が国境を超えた瞬間だった。
ヴィクトリアストーンが父の愛とともにアメリカから日本に贈られたことは、飯盛博士に伝わっただろうか。

それから半年。
アメリカからメールが来た。
ミック氏(仮名)であった。
日本から大量に注文が来たのだが、この日本人を知っているか、という内容だったのだが、私は知らなかった。
その日本人が私の知り合いかどうか、確認しているようであった。
いやな予感がした。
すぐに取引をやめるよう伝えたが、間に合わなかった。
URLにあった店舗には、アメリカの父が卸したというヴィクトリアストーンが並んでいた。
私は強い違和感を覚えた。

2012年、日本で突如としてヴィクトリアストーンが話題になった。
国内では評価されず、消えたはずの宝石がなぜ今、注目されているのか。
天然石を最高と位置づける価値観は、今に始まったものではなかった(これは意外であった)。
博士の死後三十年経った今、その価値観が突然覆されたのは不可解である。
さらに奇妙なことに、国内のあちこちに流通し始めたそれは、私の知っているヴィクトリアストーンとは違うものだった。
初めて出合ったヴィクトリアストーンは、夢のように美しかった。
だからこそ、私はいっときも忘れることはなかったのだ。

池袋ショーへ行って、この目で確かめなければならない。
日本人は天然の石、ご利益の期待できる石以外、欲しがらないはずだった。
その背景などを鑑みると、ヴィクトリアストーンは、いま最もご利益が期待できない石のひとつである。
11月末、私は池袋行きを決意した。

偉大なる父の愛は、ときに奇跡を現実にする。
池袋ショーにおいて、私はある人物から飯盛博士の遺したヴィクトリアストーンを直接譲り受けることとなった。
あまりの額に4年前に購入をあきらめた、特別なヴィクトリアストーンも含まれていた。
それだけではない。
飯盛博士が研究を重ねたものの、行方がわからなくなっていた幻の宝石を事実上プレゼントしていただけるなど、想像し得たであろうか。
すべては父の愛のなせる技であった。

写真はILストーン(アイエルストン)と呼ばれる博士の作品のひとつ。
博士が開発した合成宝石を総称して、ILストーンと呼んでいる。
この合成エメラルドもそのひとつ。
ILストーンは膨大な量に及ぶが、合成エメラルドは現存の資料には残っていないから、事実上行方不明になっていたのだろう。
私のような者にこの貴重な宝石を託してくださった彼の人物に、心から感謝申し上げる。
偉大なる世界の父親たちは、父の愛に国境がないことを、時を超えて私に教えてくれた。
しかし、人間の心には時として、真実を遮る闇が生じる。

飯盛博士が生涯背負うことになった苦渋の過去。
福島第一原発事故の波紋で、原爆研究のほうに飯盛博士の名前があがるなど、なんたる皮肉であろう。
博士の功績は忘れられた。
もちろん、欧米は飯盛博士そのものを評価したのではない。
日本もまた同じである。
ヴィクトリアストーンの明暗を分けたのは、人の心であった。
ならば、その違いとは。



10×6×5mm  1.88ct


~まだ続く~
次回、最終回です

2012/12/31

ヴィクトリアストーン【第二話】本当の意味


変彩性ヒスイ/ビクトリアストン
Victoria Stone
Iimori Laboratory, Tokyo, Japan



ベックエレル先生よ、あなたの偉大なる発見は半世紀後にこんなにも恐ろしい事態を惹起するに至った

若き日の飯盛里安は冒頭にこう記し、放射能が人類にもたらした偶然と悲劇について述べている。
終戦後すぐに記されたこの文に、彼の苦悩が凝縮されているかのようである。

仁科芳雄とともに政府要人に招かれた飯盛は、原爆開発研究に取り組むことを余儀なくされた。
二号研究(東大理化学研究所が行った第二次世界大戦における原爆開発)の詳細な内容と、それに翻弄された研究者たち、隠された歴史が彼の手記から明らかになる。
日本が原爆の研究に着手したのは昭和十六年、開戦の年。
アメリカに同じであったという。
圧倒的なウラン資源の違いが日本への原爆投下という結末をもたらし、終戦を迎える。
場合によってはその逆もまた、あったかもしれぬ。

東京大学の研究所がなぜ福島に置かれたか。
これは都内にあったウラン抽出工場が、昭和二十年の空襲で真っ先に攻撃を受け大破したためだ。
米軍は日本が原爆開発を行っていることを知っていたのではないか、と飯盛は推測する。
研究所は疎開というかたちで福島県石川町に移転。
終戦までの約三ヶ月間、奇しくも日本の最先端の研究者たちが福島の地に集まり、放射能を武器へ変えるための研究を行った。
それが本意ではなかったことを、飯盛ははっきりと記している。
彼が戦争に利用され、平和を望んでいたのは、全くの事実であった。
そればかりか、放射能と人類の未来について強い口調で警告している。
2011年3月に起きる福島での原発事故を、あたかも予言するかのように。

長男・武夫氏の急死、またその原因について述べられている箇所は、ここにも見当たらなかった。
意図的に避けたようにも見える。
父より先に福島へ出向いたのは間違いない。
研究所が福島へ移転したときには、理研の在籍者のリストから除外されていた。
四男・健造氏が、父を偲ぶ文中で武夫氏について、早すぎる死に一言触れられているのみ。
ヴィクトリアストーン同様、武夫氏の死もまた、封印されたと私は考える。

これは意外な事実なのだが、飯盛は私生活において、何よりも放射能を避けていたらしい(※注)。
自身の研究のテーマとなった放射性鉱物に関しても、個人的コレクションさえ、自宅に置くことを頑なに避けた。
陽気な笑顔とは裏腹に、神経質な側面もあったようだ。
仲間たちは次々に被ばくが原因とみられる癌に倒れた。
仁科も戦後間もなく白血病で亡くなっている。
にも関わらず、飯盛は97歳でこの世を去る直前までお元気だったということである。
さぞ大往生なさったことと思いたくもなる。
しかし実際は、苦しみと絶望の中にあって、孤独な最期を遂げられたとのことであった。

1982年秋。
飯盛は自宅で倒れ、一ヵ月の入院ののち、死去した。
長年連れ添った妻を見送ってわずか一年後のことだったという。
死因は解剖の結果、癌であった。
彼はおそらく、癌であることに気づいていた。
最後の一週間は酷く苦しみ、その声が途切れた時にはもうこの世の人でなかったそうだ。

奇妙な印象は拭えない。
高齢者の癌はゆるやかに進行し、若い患者よりも症状は穏やかであると聞いている。
97歳でそれほどの症状が出るというのは奇妙で、心理的な葛藤を疑いたくなる。
安らかに死ねない原因があったのだとしたら…
原爆研究、そしてご長男への罪の意識が彼を苦しめたのだとしたら…

我々は絶対に、福島の事故を他人事と思うべきではない。
先人のすべてが、好んで原子力を開発したわけではない。
そして我々は絶対に、ヴィクトリアストーンの封印を解いてはならない。
飯盛の過去は、絶望的な罪の意識とともに、ヴィクトリアストーンに封印されたのだ。
よりによって今、陽の目をみるなど、あまりに残酷ではないか。

飯盛の死からちょうど三十年後の2012年秋。
アメリカから私に連絡が入った。
何かの冗談に違いない。
日本人が大量にヴィクトリアストーンを注文してきたというのである。



───やがて石炭石油のつきる日に

人類の社会から私慾、不信、専横、嫉妬、怨恨
あらゆる不徳が一掃されねばなりません。

(中略)やがて放射能の研究は
一に原子核黎明の実験的鍵として
日に月に華々しい功績を挙げながら、
やがて豊かなる原子力時代を招到することであろう。
我らは田を耕しつつ悠然と空を眺めてその到来の日を待つであろう。

栄えよ放射能!!
さようなら放射能!!!

昭和二十二年 仲秋 福島県石川山にて


(『放射能一夕話 鉱物と地質』Vol.8 (1948) 飯盛里安)


※注1)日本において放射線障害を最初に報告したのは飯盛里安博士であったという。放射能研究の犠牲となった初の日本人で、フランスに派遣されキュリー夫人(Madame Curie)に師事、1927年に31歳の若さで死去した山田延男博士について、彼の死が放射化学研究に因るものと指摘。山田自身は自分の病気と放射能との関係を疑っていたが、原因不明の奇病と扱われるにとどまっていた。1959年に飯盛が、山田の死因ががんであること、実験中に浴びた放射線による被ばくが原因であることを示したのが初の公的な学術報告とされる。早すぎた死が山田の名声を損ねたのは明らかで、存命であればノーベル賞に値する世界的評価を受けたといわれるほど。彼の死から三十年以上言及を避けられたその死因に関して、飯盛がその実体に挑んだことは極めて興味深い。また、それまで放射能が間接的な死をもたらすことは憶測に過ぎず、被ばくと悪性腫瘍の関係についても明言を避けられていたということになる。これが事実であれば、飯盛のこの三つ目の功績も歴史から忘れられたということになろう。また、山田と同じく放射能研究に関わり31歳で急逝した飯盛武夫博士の死因についても、当時は奇病の扱いであったことが推測される。日本最初の原発が建設されたさい、住民に提供された情報の詳細も気になるところである。以上、Wikipedia/山田延男「放射線障害」の項及び資料として放射線の影響がわかる本を参照のこと。

敬称略させていただきました。ビクトリア・ストンは国内での商標登録時のVictoria Stoneの正式名称です。



2012/12/27

ヴィクトリアストーン【第一話】メタヒスイ


メタヒスイ Meta-Jade
Iimori Laboratory, Tokyo, Japan



このような石を造ってみて、ただ自分だけで満足している分にはよいが、
人に見せるとなると、あたまからけなされるのには驚いた。
人工で造った石など値打ちがないというのである。
そっけない話である。

天然の石だから貴いなら、
人間の頭だってそれこそ天然物中の最高のものであるから
その微妙な働きによる人造の石こそ
天然石以上に価値があるのだ、と力んでみたくもなろう。

(中略)宝石の人生における真価は
それを眺める人の心を
陶然無我の境に引き入れる
あの小さな石の偉大な魅力に在る
。」

(『合成猫目石とメタヒスイ 化学と工業』 Vol.13 No.4 (1960) 飯盛里安)


ヴィクトリアストーンを世に遺した化学者、飯盛里安博士。
ある方々のご厚意で、この謎の宝石の謎がさらに明らかになった。
自分の夢を頼りに書いた前回の記事(2011年12月~1月記)に、事実と異なる点がいくらか判明した。
何回かにわけて、ここに続編を記させていただこうと思う。

まず初めに、どうしてヴィクトリアストーンが日本に存在しないのか。
欧米、特にアメリカを中心に流通しているのか、という謎である。
飯盛博士が冒頭で力んで(りきんで)いるように、ヴィクトリアストーンは、実は日本では全く評価されなかった。
天然石を重んじる日本人にとって、ヴィクトリアストーンは "まがいもの" に過ぎなかったということであろう。
博士の死後、多くの原石は廃棄されてしまった。
ご遺族ももう、お持ちではない。
ヤフーオークションで日本を騒がせている珍宝氏(仮名)はご遺族から原石を譲り受けているとのことであったが、残念ながら彼は白昼堂々嘘をついたようだ。
本物へのこだわりは世界一、なのにいわゆるニセモノをつかむ人々が後を絶たない日本のパワーストーン市場。
日本人は、天然という言葉の魔力に弱い。
或いは石の魅せる「陶然無我の境」より、石の名前の持つ言霊に魅せられてしまうこともあるのかもしれない。

1960年代末、海外の宝石専門誌にヴィクトリアストーンが紹介された。
人造宝石・ヴィクトリアストーンはすぐに、世界的評価を受けた。
70年代にはツーソンショーでも大いに話題になり、噂を聞きつけた人々が買い求めたといわれている。
多くの原石がアメリカにあるのは、純粋にその美しさに価値を置かれたから。
つまり、ヴィクトリアストーンが日本にないのは、我々の責任である。
飯盛博士の存命中よりヴィクトリアストーンは世界に知られ、現在も高い人気がある。
いっぽうで日本ではというと、博士が力みたく(りきみたく)もなるほどに惨めな評価を受け、忘れられてしまった。
人造石の前提である、限られた輝き。
これはレシピの流出による量産を防ぐという意味では的を得ていたが、その業績を鑑みるとあまりに残念である。

実際のところ、つい最近まで、ヴィクトリアストーンは日本では全く知られていなかった。
後世に伝える可能性を感じる日本人は無かったのだろう。
国内で唯一その在庫を引き継いだ宝石職人も、どう扱っていいやらと途方に暮れたそうだ。
ヴィクトリアストーンはガラスであるとしている資料も少なくない。
放射化学の父と称される化学者・飯盛博士が人生を捧げた研究が、ガラスとは何たること。
私が4年前一目惚れしたヴィクトリアストーン。
当時は私自身、ガラスだと思うしかないほど知名度がなかった。
つまり「商品」としてではなく、純粋にこの石そのものに一目惚れした人は、日本にどれくらいいるのかということである。

写真はメタヒスイと呼ばれる人造石の原石。
飯盛博士の人造宝石における初期の代表作である。
その名のとおり、最高級の翡翠(ローカン)を模して製造された。
翡翠と同等の成分ではつくることはできなかった。
あくまで模造宝石としての翡翠であるが、この石が原型となって、奇跡の宝石が誕生した。
変彩性ヒスイ、すなわちヴィクトリアストーンである。
ヴィクトリアストーンは、このメタヒスイを特殊な技術を用いて成長させ、複雑な過程を経て得られる。

ヴィクトリアストーンは日本の伝統的色調に基づく色合いを備えている。
色数は15色程度とされているが、実際はさらに色数がある。
それぞれの色に意味があり、博士の愛情が込められているという。
しかし、赤だけが存在しない。
パープルやピンクなど、近しい色はあるのに、赤だけがどうしても完成しなかったらしいのである。
前述のとおり、ヴィクトリアストーンは世界的に評価を得ているが、現在に至るまで、誰もこの技術を真似ることはできていない。
近年流通しているヴィクトリアストーンが中国で模造されたものと私が推測するのは、存在しないはずの赤が含まれるからである。

ヴィクトリアストーンの原石は、アスベスト状の塊である。
このメタヒスイ同様母岩がついており、母岩の際に至るまで、躍動感にあふれるシャトヤンシー(キャッツアイ効果)がみられるのが特徴だ。
中国製のヴィクトリアストーンにはこの躍動感がみられない。
また、ヴィクトリアストーンにアスベストは含まれないが、中国から流通した模造品の一部は天然アスベストであった。

放射性鉱物の研究に携わってきた飯盛博士。
博士は、放射能と原子力の未来、或いは人類が侵される狂気について、察知されていたように思えてならないのである。
というのも、サファイアやルビー、エメラルドなどの高価な宝石は、放射線処理によって容易に改良することができる。
いっぽう、キャッツアイについては、いくら放射能をあててもつくることができない。
最も価値のある宝石と聞いて浮かぶのは、ダイヤモンドとキャッツアイだ。
人造ダイヤモンドについては、世界的に研究が進んでいた。
だから彼はキャッツアイをつくろうとしたのだろう。
そう、思っていた。
そうではなかったのである。

子供向けのアクセサリーや手芸の素材として知られるシンセティック・キャッツアイ(人工キャッツアイ)を考案したのは、実は飯盛博士らしい。
それまでは自然界に存在する手ごろなキャッツアイが加工されていたようである。
人工キャッツアイは現在、百均でも手に入る安物とバカにされておる。
中国に技術が流れたためである。
しかし、自然に存在する宝石を人の手で再現することは、人類にとって永遠のテーマだった。
多くの研究者が人生をかけて取り組んだ結果、実現し得たことを忘れてはならない。


では、日本において人工石が好まれないのはなぜだろう。
その要因のひとつとして、私は日本社会の特殊性を挙げたい。
日本では、万物に神が宿る、と伝えられる。
天然石に神仏が宿り、持つ人を守り導くという考え方は昔からあった。
アニミズム信仰(※注:コラムあり/ややこしいので、興味のない方はとばしてください)を尊重する日本人にとって、神の領域である天然石の世界。
人が踏み込むことは禁忌である。

中国で製造された人工ガラスのビーズ。
ご利益を期待する人は少ないだろう。
ところが、中国の古美術、たとえば古い書簡や壺などに、神性を見出す人は多い。
身も蓋もない話であるが、作者が故人であれば、神が宿ってしまう。

いっぽう、西洋ではキリスト教が主流。
神はイエス・キリストのみ(一神教)である。
万物に神が宿るという感覚がないから、石に神性を求めることはない。
純粋に石のもつ美しさに重点が置かれる。
ヴィクトリアストーンが発表時に高く評価され、今もなお注目されている所以であろう。
石を持てば持つほど神様が増え、ご利益が期待できるといった感覚は、彼らにはない。
キリストや仏陀、菩薩や天使やシヴァ、ネイティヴアメリカンやアボリジニの精霊が石ごとに宿るというのは私自身、謎である。
また、石の意味が気になって仕方がない、という人も滅多にいない。
ニューエイジの人々は例外である。

世界的には天然や合成を問わず、その宝石の完成度や特異性、美しさが評価の対象となる。
欧米で人造宝石の研究が盛んに行われ、専門誌まであるというのは、日本人にはない感覚だと思う。
こうした感覚の違いを理解するのは非常に難解なこと。
専門家でさえ読み違えていることがあるので、私自身不安であるが、独自のコラムを以下に作成した。
参考までにご覧いただくか、ご納得いかない場合は調べていただきたい。

中国で大量生産されるマガイモノが大いにきらわれるのは、欧米も同じ。
それどころか中国は鉱物界を襲った脅威、という声まで聞かれるほど。
その理由が我々とは根本的に異なっていることに注目したい。
思うに、日本人が容易に騙されてしまうのは、石に対する期待があまりに大きすぎて、石そのものを見る余裕を失っているためではないか。
人類がその知能と技術をもって天然の宝石を再現する、という夢は、古くから多くの研究者を虜にしてきた。
日本は人造宝石の分野においては、世界に遅れをとっている(ちなみに京セラが開発した人工オパールは、とっくに中国に真似されている)。

さて、お気づきかと思うが、が飯盛里安博士の功績はヴィクトリアストーンという新しい宝石の開発だけではない。
私の2012年の初夢に登場してくださった飯盛博士。
今回お借りした資料を拝見して驚いたのは、私の夢に登場されたのは、まさに80歳前後の博士そのものであったということである。
あの時博士が一瞬私に見せた、険しい表情は何だったのか。

飯盛博士の死からちょうど三十年目にあたる2012年。
至るところで不穏な動きがある。
陽気でユーモアあふれる性格だったという飯盛博士がみせた、険しい表情が意味するものとは。


注)コラム【アニミズムと日本人】
アニミズムとは、草木や大地、雨や雷など、あらゆる自然の物事を崇拝する原始的な信仰。万物に神が宿るという考え方。日本人の信仰心の基盤となっているとされる。そのため日本では、天然石であればとにかく神さまがいて、ご利益が期待できる!ということになっている…ような気がする。
アニミズムは主に未開拓の地域(要はジャングルの奥地など)を中心に残る概念で、先進国にあっては珍しい。
西洋では一神教であるキリスト教が文化の根底にある。神とはイエス・キリストのことだけを指す。石は神にはなり得ない。例えば、日本人はカリスマやリーダーを指して「神」と呼ぶことがあるが、西洋では人間が神になることはない。カリスマやリーダーは「マスター」であり「ゴッド」にはなり得ない。
日本人にとって宗教というと、特殊な団体という意味合いになってしまい、避けられることが常である。ここではスピリチュアリズム(スピリチュアル)に対する東西の考え方の違いとして捉えてほしい。
欧米でも、ニューエイジの人々は自らを神と名乗ることがある。現地では、一歩間違えると危険思想の持ち主になりかねないのだが、日本人には逆にわかりやすいために、受け入れられているというのが現状。一家にひとつアゼツライトがあり、持てば持つほどご加護も増えていくという感覚は、西洋人には難解であるようだ。

※以上はうさこふ独自の解釈です。あまり考えすぎると混乱します。アニミズムについてニュートラルに説明できる人は少数であり、慎重に調べる必要があるので要注意。


30×30×15mm  23.15g


~つづく~

2012/11/30

フォーダイト


フォーダイト Fordite
Ford Rouge Plant, Detroit, Michigan, USA



フォーダイト、またの名をデトロイト・アゲート。
キラキラ輝くラメ状の細かな粒子、鮮やかな色合い、独特の模様が楽しめる。
アゲート(めのう)でないのは一目瞭然。
その正体は、米国はフォード社の自動車工場で塗装に用いられたラッカーだという。
しかしながら自動車には全く興味のない自分には、フォードが一体何なのかわからない。
アメリカの歴史に深く関わり、単なる民間企業の枠を超えた伝説的存在のようだ。
必死で調べたことをまとめたのが以下。



米・デトロイトに本社を置くフォード社は、ヘンリー・フォードという人物により1903年に創業された自動車メーカー。
100年以上に渡って世界の業界をリードしてきた会社で、戦争や不況といった困難を乗り越え、現在も存続しているという。
いわゆる「流れ作業」を最初に取り入れたのもフォードであったとのこと。


流れ作業といえば、子供の頃に観たチャップリンの映画。
あまり良いイメージではないのだが…
それはさておき、この不思議な宝石の産地は、工場での塗装部門。
1940年~80年代にデトロイトの工場から出た副産物をリサイクルして出来たのが、フォーダイトということになるようだ。
フォード社では、長い間ラッカーを用いた車体の塗装を行ってきた。
流れ作業において飛び散ったラッカーが積もり積もって、フォーダイトの原形(→写真はこちら)が完成した。
たまたまカットしたところ見事な宝石になったため、噂が噂を呼んで、広まっていったようである。

現在工場は閉鎖され、国外へ移転している。
80年代を最後に塗装の方法も変更になった。
今後中国以外から出てくることは無い。
あるときを境に消えたという神秘性や、カットして初めてわかったその美しさと偶然性こそが、フォーダイトの魅力といえよう。
こんなものを宝石にカットしようと思った人がいたのは驚きである。

工場からの副産物といえば、ジンカイトやスウェデッシュブルーが有名である。
スウェデッシュブルーと異なるのは、産出場所や埋蔵量(?)が特定できるため、いつ市場から消えるかもはっきりしているということ。
1940年代の古い素材を用いたフォーダイトは、モノクロに近いシックな印象で、数が少ないために希少価値が付くのだそう。
写真のフォーダイトはサイケデリックな色彩が好まれた70年代のフォーダイトのカット品で、同じ塊からカットされたものと伺っている。
最末期の80年代のカット品は、時代を反映した派手な色合いが特徴で、市場に出回っているものの大半がこれにあたるらしい。

こんな個性的な色を自動車に使っていたというのは、考えてみれば不思議なこと。
国産車は高級品になるほど白や黒、シルバーといった無難な色になる。
60~70年代のベンツなど、欧米の車に見られる、芸術性の高いカラーリングやデザインには、車に興味のない私でさえ感動を覚える。
ヴィンテージの車を愛する知人が多い私は恵まれている。
国産車にそういった美意識が皆無なのは、自家用車における歴史が浅いこと、個性より効率を重視した結果といえるかもしれない。

思うに多くの日本人は、車に芸術性など求めないのであろう。
空調やカーナビゲーション、イミテーションの毛皮などは、自動車には本来必要のないものである。
ましてや安全確認のおそろかになるテレビ、他車の走行を妨げる過剰なイルミネーション、騒音を奏でるオーディオなどを積むのは、不幸な事故につながる危険行為に他ならない。
車は人の命を一瞬にして奪う。
不幸な事故を極力避け、通行人に不快感を与えないよう、芸術性にこだわるべきである。
それができない者には軽トラの利用が適している。

話が逸れてしまった。
フォーダイトには自動車文化を彩ってきた遊び心が詰め込まれている。
米国ではアクセサリーとして人気も高い。
今後ヴィクトリアストーン同様、中国からの模造品が出回ることが危惧されるから、興味のある方はお早めに手にしていただきたい。


40×25×5mm, 31×30×5mm  計10.25g


この度は多くの皆さまにオークションにご参加いただきました。
本当にありがとうございました。
皆さまの温かいメッセージに涙し、励まされ…
オークションも最終段階に入りました(なんと、まだ終わっていなかったんですね!)

最後まで全力で頑張ります。
この場を借りて、皆さまにお礼申し上げます。
次回は池袋にてお会いしましょう(フォーダイトも参ります)!

2012/10/23

スコロライト


スコロライト
Scorolite Quartz
Aracuai, Minas Gerias, Brazil



秋の京都ミネラルショー初日。
私は宝石ブースで、想定外の事態に頭を抱えていた。
その日買い物をする予定はなく、財布には交通費しか入っていなかった。
にも関わらず、かねてから気になっていた石が目の前に輝いているのである。

ピンクファイヤーアメジストとされるその石は、以前ネットで見かけて気になっていたスコロライトそのものであった。
写真で見ると、オパライト(オパレッセンスの現れるアクリル製ビーズ)そっくり。
人工石を疑ってしまう。
しかし、現物を見た限り、天然のクォーツに間違いない。
なめらかで神秘的なミルキーパープルの色合い。
角度を変えるとピンクやオレンジのファイアが煌くさまは、ピンクファイヤークォーツとはまた違った、新たな宝石の可能性を感じさせた。
ただ、その場でスコロライトの名が出てこなかった。
新しい宝石の名称が安定するには時間がかかる。
両者が同じものかどうか訊ねようにも、スリランカ人である店主に日本の宝石事情を伝えるのは不可能であった。

店主の話では、産地はブラジルのミナス・ジェライス州。
ブルートパーズの産地として知られるアラスアイから、わずかに発見されたという(追記あり)。
ファイアがよく見えるよう大きめにカットしてあるとのお話であった。
写真では到底味わえない驚きが詰まっている。
特に水晶を集めているわけではないが、これは外せない。
しかしながら、財布には千円札と、両替できないまま残っていた100ドル札がそれぞれ一枚のみ。
祝日でATMは閉まっている。
店主さんはドル札でも構わないと仰り、おつりは日本円で出してくださった。
熱心な仏教徒である彼の温かな心に触れ、美しい宝石以上に価値ある時間を過ごせたことに、心から感謝している。

帰宅後、調べてみた。
ピンクファイヤーアメジストとスコロライトは、同じものであると思われる。
同じように宝石にカットされたものが高額で販売されている。
いっぽう、小さなビーズとなって流通しているケースも数多くみられた。
ルースや原石であれば外観や重みでその真偽はある程度わかるが、小さなビーズの場合、それがオパライト等の人工物であっても判別できない。
事実、海外ではスコロライトに対する激しい論争も起きているようである。
人工石だと明言しているところさえある。
かつてヒマラヤブルームーンクォーツを知ったとき、私が真っ先に原石を探したのは、そうした理由からだった。

採れる量はわずかだというから、スコロライトの名にあやかって人工石を流したところもあったのだろうと推測している。
このルースに関しては、天然水晶に間違いない。
ただし、ヒーリングストーンとして流通しているビーズについては、リスクが伴うといわざるを得ない。
本来見えるはずのファイヤを確認するのも難しいだろう。
ブルーやパープル、ピンク、オレンジなどさまざまな色合いを楽しめる興味深い宝石、スコロライト。
実際に手にとって、その美しさを確認してからの購入をお薦めしたい。
自分で言うのもなんだが、写真ではオパライトにしか見えない。


16×12mm  8.46ct


追記:この石が、2度にわたるアメジストの加熱によって得られるものであるとの貴重な情報をいただきました。確かに、一見ローズクォーツ。アメジストに分類されるのは奇妙です。人工石ではありませんが、処理石を前提に購入し、その美しさを楽しむべきものといえます。こちらのカット石は3,500円での購入ですが、販売価格がこれを大幅に上回る場合は注意が必要です。また、不透明な白は失敗作とのこと。

以上、石をこよなく愛するKさまからアドバイスいただきました。本文に訂正を加えず、ここで注意を喚起したいと思います。また、海外で問題になっている人工石についても、混在の可能性が考えられますので、十分に警戒なさってください。Kさま、いつもありがとうございます!



2012/08/30

ブラックマトリックスオパール


ホンデュラス マトリックス オパール
Honduran Matrix Opal
Erandique Region, Honduras



このところ頻繁にみかける石がある。
ホンデュラス・マトリックスオパール(ブラックマトリックスオパール)という、なんとも強烈な名前がついている。
写真はそのカット品。
黒い地に虹色の輝きが炎のように浮かぶさまは、世界的に一定の傾向を示すオパールの中にあって、一見珍しく思える。

オパールは遊色(多彩な輝きが浮かんでみえる様子)の有無によって二つに分類される。
遊色のみられるオパールを一般にプレシャスオパール、遊色のないオパールをコモンオパールと呼んでいる。
コモンオパールの代表的な例としては、ペルーのピンクオパールやオレゴンのブルーオパールなど。
これらがパワーストーンとして親しまれているのは、原価が安いためである。
宝石としては専ら遊色のみられるオパールが好まれ、中でも赤やオレンジの遊色が浮かぶものは最も価値が高いとされている。
これはどうも赤が入っている…から高級品なのかもしれない。
だが実際のところ、非常に安かった。
先日参考までに購入した。

ホンデュラスの名は、南米にあるホンジュラス共和国(正式にはホンジュラスの表記が正しいらしい)からこのオパールが産出することに由来するという。
全く聞いたことがない国である。
実際、アフリカと混同している人も見受けられる。
調べてみたが南米のどこかにあるらしいこと、「バナナ共和国」と揶揄されていることくらいしかわからない。
折角、鉱物で世界一周しているのに、こんなレアな国を素通りしてしまうとは残念である。
国名が付くことで誤解を受けそうな国としては、他にリヒテンシュタインが挙げられよう。
リヒテンシュタインからの若い観光客が、たまたま当時お手伝いしていたお店に寄ってくださったことがある。
その時はいったい何を意味するのか判らず、申し訳ないことをしてしまった(バンドをやっている人かと思った。たぶんノイバウテンとごっちゃになっている)。
特に違和感のない普遍的なイケメンであった。
世界は広い。

さて、ホンジュラスに戻ろう。
どうやらこのホンデュラス・マトリックスオパール、加工して作られるものらしい。
もともとブラウンであった母岩を、人工的に黒い色合いに変え、樹脂加工をもって輝きを安定させているようである。
オパールをアクセサリーにする場合、樹脂加工で強度を高める必要があるから、とりたてて騒ぐ必要はない。
ホンデュラス・マトリックス・オパールの真相に関しては、世界中で激しい論争が展開されている。
地の色をブラウンからブラックに改良していることが問題ということのようだ。
砂糖を加えて加熱する、とある。
加工前のマトリックスオパールを見た感じ、特に黒くする必要性は感じない。
ホンジュラスの人々が何ゆえ砂糖にこだわるのかについては、よくわからない。

オパールというと、高価な宝石というイメージがある。
実際に価値あるものは非常に高額になる。
大きさにもよるが、ホンデュラス・マトリックスオパールの相場は、遊色のないコモンオパールと同程度。
原価を考慮するとビーズになる可能性もあるとみて調べたら、既にビーズになって流通していた。
国内ではブラックマトリックスオパールと呼ばれており、気づかなかった(本来はオーストラリア産)。
どうも大量に出回っている。
ブラックマトリックスオパールについては、未加工の状態である旨明記され、紹介しているところが圧倒的。
天然オパールという鑑別を出している鑑定機関もある。
ここは確かギベオン隕石においても不可解な鑑定結果が出ていたのだが、大丈夫なんだろうか。

参考:鑑別書、鑑定書、保証書の違いとオパールへの適用について
http://www.gemstory.com/howtoPart2.html

つまり、鑑別書からは、石の名前(と、処理の有無を書くべきであり、パワーストーンに関しては書かなくてもよいとは聞かない。鑑定機関そのものが詐欺行為に及んでいる可能性が高い)しかわからない。
万が一、ダイヤモンドにしか付かないはずの鑑定書が付いてきた場合は、深刻な犯罪に巻き込まれたとみていいだろう。
鑑定書や鑑別書は「安心」の基準にはなり得ないことを忘れないでほしい。
本来は、いずれも宝石を第三者に託すさい(質入や相続など)に必要となるものである。

ブラックマトリックスオパールについては "処理を前提とする天然石" としての購入を検討されるほうがよさそう。
最も価値の高いとされるブラックオパールと混同し、とんでもない高額で販売しているケースもある。
オパールとパワーストーンのあやうい関係については、以下の資料から読み取れるので、参照していただきたい。
砂糖じゃ相手にされない。
宝石の価値というのは甘くない。


参考:オパールの価値
http://gemopal.info/free_ohanashi/free.html

参考:オーストラリアのオパールマスターによる、動画で楽しむブラックオパールの世界




やはり赤が良いようだがブルーにピンクがお好きな様子


18×13mm  7.39ct

2012/07/15

パライバクォーツ


パライバクォーツ
Medusa Quartz (aka Paraiba Quartz)
with Gilalite Inclusions
Juazeirio Do Norte, Ceara, Brazil



涼しげなミントブルーが美しい。
水晶にギラライト(ジラライト/ギラ石/ジラ石)という鉱物が入り込み、明るい水色に染まっている。
2005年にブラジルのパライバ州で発見され、その色合いがパライバトルマリンを思わせることから、一般に "パライバクォーツ" と呼ばれる水晶である。
原石には不純物の混在が認められることが大半。
そのため、ギラライトの様子がよく見えるよう、カットされて流通している。
発見されたのは全部で10kgほど、既に枯渇している。
全盛期には仰天価格を更新し続けたこの石、質の低下により一気に値を下げ、身近な存在となった。

ギラライトは1980年にアリゾナ州で発見された非常に珍しい鉱物。
日本語表記はまちまちで "ギラ" とするか "ジラ" とするかは人によって異なる。
この水晶に関しても、「ギラライト・イン・クォーツ」「ジラ石入り水晶」といった複数の呼びが存在するため、混乱を招いている。
希産鉱物ならではの扱いの難しさというべきだろうか。
宝石としては「メデューサクォーツ」が正式名称とされる。
パライバトルマリンとの混同・誤解を招くという懸念から、米国宝石学会GIAによって設定された。
もし、見た者を石に変えてしまうという怖ろしい怪物・メデューサを思い浮かべた方がおられたら、安心してほしい。
ここで使われるメデューサとは、クラゲのこと。
水晶に浮遊するギラライトが "Medusas Rondeau" というクラゲを想起させるのが名前の由来だという。

ギラライトの呼び名がかえって混乱を招くこと、メデューサクォーツの名は国内では一般的ではないことを踏まえ、ここでは日本での主な通称であるパライバクォーツの名で統一させていただこうと思う。

パライバクォーツにもいろいろある。
一般には、青や緑のボール状に結晶したギラライトの浮かぶ透明水晶を指して使われる。
メデューサクォーツの名の由来となった、クラゲが浮遊するかのような幻想的な光景は、世界中の愛好家を熱狂させた。
いっぽう、写真のようにギラライトを多く含み、パイナップルのような針状の模様が並ぶ石も稀に存在する。
初期に僅かに流通したタイプで、一目で気に入って購入した。
私が鉱物に興味を持ったのが、まさにパライバクォーツの全盛期。
規則的なパターンが規則的に繰り返されるさまは、パライバトルマリンとはまた違った面白さがある。
今調べたら、過去に最も貴重とされたのはこのタイプらしい。
現在は、透明水晶に水玉の浮かぶ石がベストとされている。
なお、上記の特徴を持たず、水晶全体または一部が水色に染まり不純物を伴う場合、宝石とは認められず、カットされることもない。

パライバトルマリンの発見されたパライバ州から見つかったというエピソードは実に面白い。
数個の水玉が浮かぶ程度では、パライバカラーには見えない。
かといって不純物だらけでは美しくない。
つまり、パライバクォーツの命名に関わったのはこのタイプで、産出の激減に伴い一般的となったクラゲタイプに因み、メデューサクォーツの名で定着したのではないかと勝手に考えている。

参考:無理やり感が否定できないパライバクォーツのブレスレット
http://www.hs-tao.com/cart/shop/shop.cgi?No=5771

すごいブレスだ。
アジョイトと言われてもわからない。
ここまで根性を見せ付けられると、圧迫感すら感じてしまう。
手にされるのはどんな方だろう。
ある意味究極のレアアイテム。
やがて消えゆく運命にあるこの石が存在した記録として、いつまでもそこで輝いていてほしい傑作である。


17×8×3mm  4.53ct

2012/06/17

ユーディアライト


ユーディアライト Eudialyte
Lovozero, Kola Peninsular, Russia



確か、一番最初に買った希少石がユーディアライト(ユージアル石)だった。
恩師の店で見つけたビーズがきっかけだったと記憶している。
お店の人に聞いても正体がわからない。
ありました、と見せていただいた本には、今でも忘れられない衝撃の一節があった。

無意識のうちに宇宙の秩序や法則が理解できるようになり、自然の流れに身をゆだねることが一番良いことが認識できるよう導く力があるといわれています(「パワーストーン百科全書」八川シズエ著)

間違いなく個人差はある。
私には宇宙の秩序など理解できそうにないからだ。
それでも気に入って500円程度の標本を幾つか購入した。
原産地であるグリーンランド産の、まるで岩のような標本が先日出てきたときには仰天した。
単に安かったから買うという初心者に有りがちな動機で、このような通好みの標本を購入していたというのは興味深い。
その後、幾つかユーディアライトを紹介させていただく機会に恵まれたが、どちらかというと収集家向けの鉱物標本という扱いだった。

ユーディアライトの主要な産地はロシアとカナダ。
一般に赤、白、黒の3色で構成されていることが多い。
白はネフェリーン、黒はエジリン。
赤い部分がユーディアライトで、それ以外はおまけである。
過去には紅赤色の透明石もカットされたという。
ロシア・コラ半島産ユーディアライトの醍醐味でもあった、ガラス光沢の煌きを伴うダークラズベリーカラー。
産出の激減に伴い、見かけなくなった。
写真のカットストーンは先日出てきたもの。
宝石質と言うのは憚られるが、不純物の少ない素朴な一品。
ロシア産ならではの色合いが出ている。
当時は千円もしなかったのだけれど、ざっと見た感じ、私にはもう買えないみたいだ。

先日、ユーディアライトのオールドストックを紹介させていただく機会があった。
思いのほか好評で、人々の鉱物への関心が深化しているものと、嬉しくてたまらなかった。
リクエストまで頂戴した。
さっそく探したのだが、イメージ通りのものが無い。
取り扱いはむしろ増えている。
しかし、赤い部分がほとんど見られない。
ユーディアライトの入っていないユーディアライトっておかしいと思うのだが、軒並み一万を越えている。
ヒーリングストーンとしての扱いも急増している。
3つの鉱物の相乗効果というやつなのかもしれないが、この石の場合はそうとはいいきれない難しさがある。
以前は殆ど見かけなかった赤みの強いカナダ産ユーディアライトも見かける。
ブレスにまでなっている。
限られた土地からしか産出しないこの希少石に何が起きたのか。

以下は、素人のたわ言と軽く流していただけたらと思う。
もしお読みになって、強い不快感を覚えられたかたがおられたら、深くお詫び申し上げる。

日本人の特徴というものについて考える機会をいただいた。
アメリカの価値観に倣って、自己主張さえしていれば間違いないと思い込む。
少なくとも私の周囲のアメリカ人は、それが愚かなことと知っている。
或いは、社会的に良いとされるものに憧れ、自らもそうありたいと努力する傾向。
裏をかえせば、誰かに良いといわれなければ、関心を持つことも持たれることもない、ということ。
その崖っぷちを突っ走った結果、私の珍コレクションが存在している。

以前から気になっていた、鉱物標本を「子」と呼ぶ習慣。
「この子はちょっとクセのある子でね」「この子は凄く人を選ぶ子で…」という言い回しは、今に始まったことではない。
ショップの店員さんも使うようになった。
愛着からそう呼ぶのは決して悪いことではないし、石を愛する気持ちが伝わってくるから、きらいではない。
いっぽうで、さまざまな側面において、日本人的な考え方だと感じる。

極端かもしれないが「子は親に尽くすもの」という価値観もひとつ。
経済的自立と精神的自立は違うと思っている。
物理的に親元、或いは保護者のもとを離れるのは容易なこと。
かれらを一人の人間として受け入れられるようになったとき、それが精神的自立だと思うのだ。
自立しろと言いたいのではない。
私自身できているとは考えていない。

人はいつか死ぬ。
生みの親や育ての親を、一人の人間として見送ることができなかったとき、自我に混乱が起きる。
逆であったなら事態はさらに深刻で、遺された親が日常生活に支障をきたし、危機的状況に陥ることもある。
それを見るたび、悲しくてならないのだ。
家族を一人の人間として受け入れられないために起きる問題のひとつに、境界性人格障害がある。
愛情を求めながらも孤独で満たされることのない心は、当事者だけでなく親にもあって、その孤独と渇望の連鎖から抜け出すことは容易ではない。
子は親の所有物ではないと、わかっていても。

話が飛躍してしまった。
全く別の場所で感じたことを、こうしてひとつにまとめてしまったことを、お許しいただきたい。
一生を親に尽くし捧げるのと、一生親に反発して生きることは似ている。
石を「子」と呼べない自分は何か歪んでいるのかと悩むときがある。
投影もひとつの業。
私の手持ちの石は、いずれ然るべき持ち主のもとへ導かれることが多くあるから、自分の所有物になることはない…そんな、ひがみなのかもしれぬ。
霊的な感性は皆無ゆえ。



右が有名なロシアのダークラズベリーカラー。
左が近年主流になっているカナダ産で、やや赤みが強いのが特徴(いずれも夕日で撮影)。
スウェーデンからはピンク系、グリーンランドからはダークレッド、
米からはオレンジなど、産地によって色合いが違っている。
所構わずロシア産ユーディアライトとして販売されていることがある。


20×14×7mm

2012/05/18

ダイヤモンド



ダイヤモンド Diamond
産地不明



宝石の頂点、ダイヤモンド。
古代より人類を惹きつけてやまぬ石。
何千年が経ってもその価値は失われることなく輝く。

ダイヤモンドは贅沢品。
天然に存在する鉱物の中では最も硬度が高い。
4月の誕生石。
結婚指輪。
イメージとしてはそんな感じだろうか。
決して安いものではないが、驚くほど高いものではない。

鉱物としては炭素の一種。
一応のランクはあるが、店によってはテキトウな印象を受けることも少なくない。
透明感に乏しいダイヤモンドは数千円で入手できる。
ただ、資産価値がある石は1ctを超えるものに限られるそうだ。
資産として所有する場合、鑑定書が必要となる。
宝石については、鑑定料(意外に高額)込みであると思っていいかも。
いっぽう、ピンクダイヤなど、産地が限られ枯渇の危機に瀕しているものを探す場合は、非常に高い買い物になる。

宝石についてはまだ勉強中の身である。
宝石の世界は非常に難解。
専門の教育を受けた人間の活躍する場と聞いている。
鉱物標本としてのダイヤモンドは少なく、大半はカットされ宝飾業界に流れている。
ダイヤモンドの原石の多くは双晶を成しており、標本としての面白さや産地の確かさから信頼性は高いものの、カットすることでかえってランクが下がることが多いという。
複雑構造を持つ結晶からは小さな石しかカットできず、高い技術が必要だ。
カットされることでよりいっそう輝くのがダイヤモンド。
私が持っているのもすべてカット石。
長い歴史において、イミテーションが数多く存在したのも、呪われたダイヤが存在したのも、この石の美しさに人を狂わせる力があったためだろう。

※ダイヤモンドについての詳細をお調べの方、ご購入を検討中の方は、下記リンクをご参考にどうぞ。これより先はうさこふ個人のエピソードです。
http://usakoff.blogspot.com/2013/02/blog-post_6632.html

神戸宝飾展のお仕事をいただいた。
以前お世話になったスリランカの宝石商様の紹介だった。
宝石の世界を垣間見る絶好の機会である。
本当に嬉しかった。

私に仕事を下さったのは、VIPブースの出店者。
建前上、この展示会は特権階級の人間しか入れないということになっている。

VIP会場は、昨今のミネラルショーでは相手にされない中国人業者のビーズショップや、売れ残りの宝飾品を法外な値段で並べている店ばかり。
客層は東南アジア系が大半。
一人だけ白人女性を見かけたが、不機嫌そうな顔で足早に立ち去っていった。
あちこちで中国語が飛び交うさまは、ツーソンどころか国内のミネラルショーでさえ見たことのない光景だった。

私が知りたかったのはダイヤモンドやパライバトルマリンなど、資産価値のある宝石に関する知識。
加熱シトリンや放射能処理されたトパーズについて学びに来たのではない。
こうしたビジネスに関わり、人々を騙してジャンクを売りつける度胸は私には無い。
もちろん高級宝石は若い方には手が出ない価格帯だから、少しでも興味を持っていただけるかどうかは今後の宝石業界を左右する。
しかし、高齢社会を迎えるにあたって、眠っている宝石を発掘することができなければ、やがて没落を見ることになるだろう。

石をこよなく愛する誠実な宝石ディーラーさんから購入したダイヤモンド。
私の宝物。
確かに、大粒の素晴らしいダイヤモンドを販売している店はあった。
だけど、これを超えるダイヤを身につけている客を見ていない。
未だバブル気分の人々がいるのは知っていた。
お金がなくなれば哀れな抜け殻である。
重要なのは、後世に残るミュージアムピースを客に提供することではないか。
使い捨ての石を売るようでは、やがて客も離れていくだろう。

宝石は時に人を狂わせる。
歴史がそれを物語っている。
だからこそ誠実な販売が必要な時に来ていると思えてならない。

0.41ct

2012/04/16

スフェーン


スフェーン Sphene
Badakshan, Afghanistan



スフェーン、くさび石、チタナイト、チタン石などと呼ばれる希少石のひとつ。
鉱物学上はチタナイト(titanite/チタン石)の呼称が正しいそうだ。
宝石の場合スフェーンの名が一般的だから、ここではそう呼ぶことにする。

産出は少なく、大きな結晶は滅多に採れない。
多くはカットされ、コレクション用のルースとして流通している。
色はイエローまたはグリーン。
ダイヤモンドをしのぐ分散(輝き)を示し、鮮烈なファイアを放つことで知られる。
現物はクリアでシャープ、ファイアのひときわ強い見事なルースなのだが、私の撮影技術では再現できなかった。
この神々しい輝きを、サードアイ経由にて、どうにか感じ取っていただきたい。
スフェーンは硬度が5.5と低く、微量の放射能を有するため、アクセサリーに加工されることは滅多にない。
もう少し硬度があれば、とため息をつく方が後を絶たないほどに、魅力的な鉱物なのである。

かなり初期の段階で目をつけた。
宇宙の神秘を感じた。
最初に入手したのは300円程度、くさび形の結晶がいくつか入ったお買い得パックで、ブラジル産だった。
初期からの私のお気に入りで、ジルコンとともに持ち歩いていたのを思い出す。
その後パキスタン産の若草色の原石(クロム・スフェーン)に出会う。
ルースにはあまり興味がなかった。
少なくともコレに出会うまでは。

これまでにない圧倒的な透明感。
まぶしいゴールドの輝き。
飛び散る虹色のファイア。
1ct超えの大きさに加え、インクル(不純物)が肉眼で確認できない良石にもかかわらず、べらぼうに安かったのである。
そんなうまい話があるものか。

スフェーンの処理石はほぼ無いという。
あるとしたら別の鉱物をスフェーンとして扱っているケース。
ファイアが全くみられないグリーンはペリドットなど、ファイヤが強くともオレンジの色味が強い場合はスファレライトの可能性がある。
ただし、後者はスフェーンにならぶ希少石で、美しいものは稀産かつ高額となる。
次に疑われるのが、産地の偽造。
ルース/カット石は、産地の特定が困難と、プロの方も嘆いておられるくらい難しい。
こちらはスペイン産とあった。
価格面のみならず、すべてにおいて違和感がある。
また、チタニアダイヤにも類似点が多く見受けられるが、合成宝石は意外に高額なもの。
少なくとも一般的には、今回のスフェーンの数倍の価格で取引されている。
庶民ゆえもっと安いルートがあるかもしれぬが、わからない。

調べていくうちに、このクオリティのイエロー・スフェーンが、意外な場所から発見されていることを知る。
アフガニスタンである。
アフガンの鉱物の販売権を事実上握っているパキスタンだが、パキスタン自体、スフェーンの有名な産地。
パキスタン産のスフェーンは美しい若草色を特徴とし、世界的評価を受けている。
ただ、イエローは見たことが無かった。
そのため今回はアフガンからのルートは全く視野に入れず、中国やイエローの出ているマダガスカルを疑った。
しかし、またもやアフガンという結論に至る(前例にパライバトルマリンクンツァイトなど。この件に関しては謎が多く言及は控えたい)。

アフガニスタン産であることは確認した。
なんたること。
憧れのアフガンは、遥か彼方に。


1.60ct

2012/01/19

アンデシン/ラブラドライト


ラブラドライト Labradrite
産地不明



透明感のある赤にグリーンが混ざりこみ、所々イエローに透けるさまが、手の込んだ抽象画を思わせる。
2009年頃に出回った、中国産のアンデシンにそっくりだが、こちらはアフリカのコンゴ産出、鑑定の結果ラブラドライトと判明したらしい。
実は、宝石質のアンデシンはまだ持っていなかった。
以前から気になってはいたのだが、高すぎて買えなかった。
昨年末、ようやく池袋ショーで購入したのがこれ(表記はラブラドライト)。

2002年にコンゴのニイラゴンゴ火山で発見されたというこの石は当初、ラブラドライトかアンデシンかの議論で盛り上がったという。
宝石質のアンデシンは非常に稀で、そうとわかったときは誰もが驚いたそうだ。
アンデシンはナトリウム:カルシウム=6:4、ラブラドライトはナトリウム:カルシウム=4:6と成分は極めて近いため、この石は微妙な差異によりラブラドライトと判定されたのだろう。
見た目は中国・内モンゴル産のアンデシンと同じで、素人には区別がつかない。
価格は1カラット越えで2000円弱(酷い値切り方をしたのでわからない)。
鮮やかなレッド、グリーンの発色は、銅のインクルージョンによるものらしい。
ラブラドライトだから特価なのだろう思い、購入した。

実は、コンゴやチベットからアンデシンが産出するというのは知らなかった。
ずっとモンゴルのあたりから来るものと思い込んでいた。
お店の人に尋ねると、わからないという。
昨今のレッドアンデシンのほとんどはビーズで流通しており、原石標本を見かける機会がなかったため、見落としていた。
ただ、コンゴからの産出は僅かな量に過ぎず、現在は産出していない貴重品のようである。
なぜここまで値下がりしたのだろう。
ニイラゴンゴ火山における産状を、具体的に示す資料がないのも不可解ではあった。

つい先ほど、それに関連するとみられる記述を発見した。
真偽については触れないが、実に興味深い推論が展開されている。

コンゴ産アンデシンは中国の内モンゴル産、赤や緑の色合いは人工処理による発色
http://www15.plala.or.jp/gemuseum/gemus-sustn.htm

ここでは内モンゴル産の黄褐色のアンデシンが、処理により赤や緑となり、コンゴ産・チベット産として流通した旨説明されている。
中国の研究者の技術情報が流出したようである。
異なる三つの産地から発見されたにも関わらず、組成や特性がほぼ同じであることが判明し、改めて調査が行われたらしい。
処理した原石を各鉱山にばら撒いたものとする大胆な仮説は非常に興味深い。
なぜなら、私も同じことを考えていたからだ。
では一昨年、スピ系のイベントでアンデシンのブレスレットのみ販売していた、無口なクリスタルヒーラー(?)は偽物だったということになるのだろうか。

このところ人工宝石に興味が向いていたので、お手ごろ価格で美しい石が購入できて満足している。
おそらく中国産だと考えられるが、コンゴ産と明記されていたため、産地は不明としておきたい。
いわゆるレッドアンデシンは、現在も数万程度で販売されている。
タイ経由で仕入れるなどして、販売者に悪気はないのだとするなら、この件に関して大声で文句を言う気にはなれない。
なお、中国では2008年北京オリンピックのさい、公式宝石/国家の象徴としてその赤いアンデシンを掲げ、開催を祝ったといわれている。



※この件に関する研究論文が幾つかあり、いずれも合成石という結果が出ていました。また、商業サイトにおける鉱山の写真は、素人が見ても不自然で、強い違和感を覚えます。ディーラーの良心を信じたいものです。(12/08/05 追記)


1.06ct

2012/01/09

ビクトリアストーン


ヴィクトリアストーン
Victoria Stone/Imori Stone
USA - Iimori Laboratory, Japan



幻想的な模様が好奇心をそそる美しい宝石。
グリーンのほかにブルー、イエロー、オリーブなどさまざまな色合いがある。
欧米、特にアメリカでの評価は高く、概ね100ドル以上で取引されている。
ビクトリアストーンは人工的に作られた宝石である。
しかしながら、開発者がその製造過程を誰にも明かすことなく死去したため、今後新しく作られることはないとされている。
その希少性と神秘性、美しさから、海外では有名な合成石の一つ。
石のカリスマブログライターさんが(ややこしいので省略)予定されていることを知った。
国内では見たことのなかったビクトリアストーン。
タブーではあるまいかと避けていたが、真相を問うべく書かせていただく。
福島での原発事故の熱が冷める前に。

3年ほど前にアメリカのディーラー経由で知ったビクトリアストーン。
イモリストーンとの併記があった。
イモリ=爬虫類?
何事と思ってよく読んだら、日本の研究者である飯盛里安(いいもりさとやす)博士が開発した人工石であり、iimoriが訛ってimoriとして定着してしまったようだった。
日本人が開発したにも関わらず、日本国内にビクトリアストーンが存在しないばかりか、適切な資料さえ見当たらないのは不可解であった。
まるで封印されたかのよう。

飯盛博士は放射性鉱物や発光性鉱物、希元素などの研究、放射能測定機の考案等の功績を持つ化学者で、1982年に96歳で亡くなっている。
戦時中に日本で極秘に行われた原爆開発。
このプロジェクトに関わった研究者の一人に、彼の名前が挙げられている。
資料をあたり、封印された二つの実績がリンクしていないことに違和感を覚えた。
原爆とビクトリアストーンの開発者は別人なのか。
比較的珍しいお名前だから、どちらもご本人であろうと思う。
もしこの矛盾が事実であるならば、彼はおそらく利用されたのではないか。
日本軍が福島県石川町で原爆を製造した歴史が封印されたことは燐灰ウラン鉱で取り上げた。
事故のあった東京電力福島第一原発にほど近いその土地で、動員された学生らが放射性鉱物の採掘に従事し、失敗に終わったという皮肉である。

飯盛博士は97歳でこの世を去るまで精力的に宝石の開発に取り組んだ。
志半ばで亡くなったわけではないから、レシピが残っていないというのは不自然で、意図的なものではないかと疑いたくなる。
彼自身、過去を封印したとしか思えないからだ。
唯一の被爆国、日本。
その日本が原爆を作ろうとしていた事実。
重要なのは、彼が核開発を望んでいたとは思えないこと。

その福島において、歴史に残る深刻な原発事故が起きた。
以前カポジョンカットをお願いしたアメリカ人に、こうした事実関係について先ほど確認した。
見事にスルーされた。
日本とアメリカには、今もなお見えない壁がある。

※後日談…「研磨してもっと用意する」との一言(日本人との取引は私が初めて、通常は断っていたようなニュアンス)。のちに彼の正体が判明するが…

推測するならば、彼は平和を望み、自らの死をもってビクトリアストーンを封印した。
その宝石は今、アメリカで高く評価されている。
趣味の悪いアメリカンジョークとしか思えない。
飯盛博士がかつて福島で見た絶望的な光景。
明かされることのない想い。
それらは、この美しい宝石に秘められたまま、伝説となった。(2011年12月20日付)


飯盛里安(1885―1982)
http://www.kanazawa-museum.jp/ijin/sugao/main-iimori.htm




36×16mm  37.00ct



【続・ヴィクトリアストーン】

その後、明たな事実が判明しました。残念ながら、アメリカ人は飯盛博士やこの石の正体にはいっさい興味なく、事実関係にも無関心。「歴史から消えた宝石」というミステリーは好奇の対象に過ぎないというのが現実です。飯盛博士そのものが評価されているわけではありません。

ここに続編を含めた記事を、新たにアップさせていただきます。2012年明けてすぐ、初夢に晩年の飯盛博士が出てきたために、なにかあるのかと思い立ち、引き続き調べようと資料をあたったところ、わかったものです。以下に昨夜、音楽と鉱物と映画を愛する大切な友人に送った手紙を引用します。なお、国内でも「メタヒスイ」(別物です)として僅かに流通はあったようなのですが、宝石としての美しさより翡翠らしさを重んじる日本では、その存在は忘れられてしまったようです。


"クリスマスに見せたビクトリアストーンの話の続きがあります。親父と同い年の反日アメリカ人が所有していたあの石です。

昨日知りました。飯盛博士は、実は二人いたのです。名前も経歴も、職業どころか職場も同じだったために、同一人物だと思い込んでいました。

原爆の開発に直接関わったのは、飯盛博士のご長男、武夫氏でした。かの「二号研究」に携わってたった半年、終戦を待たずして、31歳の若さで亡くなったそうです。

博士がビクトリアストーンの開発に成功したのは、1955年。自分を追って東大理科学研究所に入り、研究を共にした息子を失った後悔の念を抱え、博士は終戦後、宝石の開発に没頭していったものと思われます。1952年に理化学研究所を引退し、飯盛研究所を設立してすぐ、彼は合成宝石の研究に取り組んでいます。

息子が最後に過ごした、ウラン資源の採掘現場ともなった福島県石川町の水晶山。博士がその山で収集したという、キャッツアイに彩られた美しいネフライト(軟玉ひすい)のコレクションが、博士に残された唯一の楽しみだった。しかしその宝物さえも、終戦の年に自宅共々焼け落ちたそうです。武夫氏の死去からわずか二年後のことでした。

ビクトリアストーンは、空襲により焼失した彼のコレクションを再現すべく開発された宝石だといわれています。しかしながら私は、失った思い出のネフライトと、自分の跡を追ったために早世した息子への想いを、博士が宝石という形で蘇らせたものと思えてなりません。アメリカは彼にとってかけがえのない宝物をすべて奪い去った恐ろしい存在だったはずです。同じく原爆開発に関わった湯川秀樹とは異なり、暴力的ともいえる言動でその無念をはらすことはせず、飯盛博士は研究者としての立場を貫き、天寿を全うされました。

福島第一原発の事故圏内に位置する福島県伊達郡。当地から発見された新鉱物に、飯盛石があります。飯盛博士とご長男・武夫博士、お二人の功績にちなんで1970年に命名されたそうです。ただ、奇妙なこともあります。飯盛武夫博士は、歴史から消されたも同然なのです。この石はその例外ともいえる貴重な存在です。

福島での原子爆弾開発に熱心に取り組んだ仁科芳雄博士。現在もその名を知られる偉大なる研究者です。ところが、仁科博士のもとで何も知らずに研究に取り組んだ武夫博士については、仁科プロジェクトに参加した研究者のリストから削除されているだけでなく、その死因すら明らかにされていないようなのです。里安氏については戦時中、仁科博士とともに国家幹部より原爆開発に関する相談を受けた記録が残っています。つまり、父親である里安氏も原爆の開発に関わっていた事実があった。同じ「飯盛博士」として一部で混同されているのもまた現実であるようです。

初夢に、飯盛博士らしきおじいさんが出てきました。たぶん晩年だと思います。博士は海を見つめたまま、何も話してくれなかった。本には博士の愛した海岸の写真がありました。彼の故郷、石川県にある、海沿いのペグマタイトだそうです。それは、確かに夢に出てきた光景でした(博士と記念撮影した場所にあった、謎の銅像は見当たらなかったけれど?)。

失われた歴史を知る二人の名を冠した飯盛石。そして日本においてはその姿さえ見ることのできない、幻のビクトリアストーン。ビクトリアストーンに平和への祈りとともに、我が子への愛と後悔が込められているように感じるのは私だけでしょうか。"
(12/01/15)






【特集】

ヴィクトリアストーンの真相
2012年 ~飯盛博士没後三十年を祈念して~


その後明らかになったヴィクトリアストーンの隠された真実に、うさこふが挑みます。

どうしてヴィクトリアストーンは日本から消えたのか。
飯盛博士はこの石に何を見て、何をしようとしたのか。
2012年、日本における突然のブームにより明らかになった、日本人には扱えない宝石、ヴィクトリアストーンの正体とは?


国内のウェブショップに続々登場するヴィクトリアストーンという名のカラーストーンに、私が強く感じた違和感。
背後に存在する思惑に、独自の視点で迫ります!
2012年末~明けて2013年、明らかになるその実態をお楽しみ下さい。



【第一話】メタヒスイ
http://usakoff.blogspot.com/2012/12/blog-post_27.html

【第二話】本当の意味
http://usakoff.blogspot.com/2012/12/blog-post_31.html


【第三話】父の愛
http://usakoff.blogspot.com/2013/01/blog-post.html


【第四話】おわりとはじまりの場所
http://usakoff.blogspot.com/2013/01/blog-post_6.html


完結!ありがとうございました



2012/01/05

アクロアイト


アクロアイト
Achroite Tourmaline
Merelani Hills, Arusha, Tanzania



カラーレスのトルマリン。
聞いたことはあったが、現物を見たのはたぶん、初めて。
同じくカラーレスのガーネット、リューコガーネットが産することで知られる、メレラニ鉱山から届けられたと伺っている。

さまざまなカラーバリエーションを持ち、無色透明の石に価値を置かれる宝石に、ガーネットがある。
ガーネットは私の誕生石でもあったので、ぼちぼち集めていた。
無色透明の石があると知ったときには必死で探したものだ。
トルマリンもまた同様、無色透明の石はアクロアイトと呼ばれ、収集家の憧れと聞いている。
パライバトルマリンなど、ダイヤモンドの価値を上回るような石も存在するため、それらの華やかさに隠れてしまいがちだけれど、探してもすぐに出会えるものではない。

このアクロアイトは、ある日偶然に目にとまった。
それも、初めて見つけたお店で、一目惚れしてしまった。
宝石の世界が無知に甘くないことは知っている。
また、長年お世話になった業者さんとの別れを機に、しばらく宝石の購入は控えるつもりでいた。

東京に出発する直前のこと。
気力も体力も果てつつあったが、この石について質問せずにはいられなかった。
対応してくださった社長さんが親切な方だったために、夢中でお話を伺った。
謙虚で誠実、かつ気さくな方なれど、宝石にたいする情熱と鋭い眼差しを、私は見逃さぬ。
どんな人にも平等に、わかりやすく物事の魅力を伝えられるというのは、限られた人に与えられた才能に他ならない。
社長さんとは、もっとお話ししたかったのだが、途中で力尽きてしまった。

池袋ショーをまわるにあたって、その方からいただいた助言の数々は、非常に意味のあるものだった。
本物を知らずして偽物を語るなかれ。
そう、それが私の口癖だったのに。
私はようやっと、大切なことを思い出したのである。

疲れ果てて宿に戻ったら、ベッドの上に荷物が置かれているのに気づいた。
社長さんが東京まで送ってくださったのだ。
その輝きは、今までにない鮮烈な光を放ち、私は圧倒された。
カラーレスのトルマリンは、数々の混乱を経て、リセットされた心に似ている。
無限の可能性を秘めているようにすら感じさせる。
完全に透明ではなく、僅かに(といっても自分にはほとんどわからない)グリーンを帯びているところもまた自然で、とてもいい。

熱意あふれるディーラーさんとのご縁に恵まれた年であった。
もう少し磨かねばなるまいな。
やっとのことでお礼を書いて、そう思った。
長く険しい一年が、ようやく終わりを告げようとしていた。


0.34ct

2011/12/13

チタニアダイヤ


チタニアダイヤ/合成ルチル
Titania Diamond/Rutile
Moscow, Russia



1940年代にダイヤモンドの代用品として登場したものの、ダイヤモンドよりも美しかったがために消えていった幻の宝石。
ダイヤモンドの極めて高い屈折率や分散(輝き)を再現すべく開発された。
しかし、その輝きはダイヤモンドを圧倒しており、むしろ過剰であって、品位に欠けるという声も聞かれるようになる。
数年後には、より自然な輝きと色味を持つチタン酸ストロンチウムが主流となった。
今でいうキュービックジルコニアのような存在。

ヴィンテージの宝石をコレクションに加える人は多い。
中には人工石も含まれる。
人工石というとアヤシゲな感じがするかもしれない。
かつてまだ技術のない時代、本物の宝石を再現するにはそれなりの研究や人手、資金が必要だった。
ヴィンテージであれば価値がつき、コレクションの対象となる。
このチタニアダイヤもそう。
ルチル等のチタン系鉱物から精製されたというこの石、希少石を扱う宝石店では取り扱いがあり、人気商品として定着している。
少し前にブームになった(?)ウランガラスもそうだし、合成ルビー、合成水晶などはヴィンテージのみならず、現在も製造され、工業用として幅広く活躍している。
中にはシベリアンブルークォーツなど、ヒーリングストーンとして価値を与えられた人工石も。

池袋ショーで購入した、青いチタニアダイア。
合成ルチルとして売られていた淡いイエローの石を見ていたら、青もあるという話になった。
そんなもの見たことがなかった。
翌日わざわざ持ってきていただいた。

一見アクアマリンのよう。
光の角度を変えるとギラギラとファイヤー(輝き)が放たれ、鮮烈な虹が浮かぶ。
ダイヤモンドとは異なり、硬度が6しかない(ダイヤモンドは10)ため、年代によるスレやカケがみられる。
また、当時の感覚なのかもしれないが、5ct超えの大きさ。
アクセサリーに使うにはでかすぎる。
相場がわからないのでお買い得だったかどうかはわからない。
初期にロシアで作られたヴィンテージの合成ルチルで鑑定済み、色合いの原因までは鑑定していないとのこと。

池袋ショーが終わり、宿でくつろいでいる。
サンクトペテルブルグから来た、このチタニアブルーダイアに興味を示した人がいた。
彼とは、初日に携帯の話し声と深夜のPCの照明が発端となり、関係が悪化していた。
名前を聞くまでわからなかった。
父親がロシア人なのだそうだ。

彼は一度も父親の故郷を訪れていないという。
ウクライナとの国境近くに位置するその街は、チェルノブイリ原発事故の被害に遭っている。
おそらく、彼が生まれた直後だろう。
隣町では多くの死者が出ている。
彼はもうすぐロシアに発つ。
日本とソビエト連邦の残したもの。
その両方を背負う彼の眼に映るのは何か。


5.05ct

2011/11/25

パライバトルマリン


パライバトルマリン
Paraiba Tourmaline
Pegmatites of Laghman, Nuristan-Laghman, Afghanistan



1989年にブラジルのパライバ州で発見され、瞬く間に高価な宝石となったパライバトルマリン。
産出の激減に伴い、定義の見直しが行われた。
「銅及びマンガンを含有するブルー~グリーンのエルバイト・トルマリン(産地は問わない)」(2006年)
現在は以上のように定義されている。
ブラジルでは事実上絶産し、低品質の原石が僅かに残っている程度。
ナイジェリアやモザンピークから産出するエルバイト・トルマリンがカットされ、流通しているとされる。
しかしながら、ブラジルから初期に得られたような美しいブルーグリーンのトルマリンは希産で、色合いを整えるため加熱処理に頼っているのが現状という。

世の中には不思議なこともある。
原石の段階で美しいパライバカラーを示す、ブラジル原産のトルマリンが安価で大量に出回っているのである。
写真の石もそう。
以前から思っていたが、この感じ…
もしかしたらアフガニスタン産ではないか。
後日、販売元に確認した。
ブラジル産に間違いないとのことであった。(※本文下に追記あり)

ヒマラヤ山脈の西端を形成するヒンドゥークシュ山中に位置するアフガニスタン。
鉱物の採掘と販売は地元の人々が個人的に行っている。
政治情勢が不安定なため、海外のバイヤーが現地に立ち入ることは難しく、大半は国境を越えて密輸され、パキスタンのギルギットやペシャワール、若しくはペシャワールから約300キロほど離れたアフガニスタン・カブールなどで取引されているらしい。
ヌーリスタン州とラグマーン州の中間部に位置するペグマタイトからは、非常に質の良いエルバイト・トルマリンが産出する。
美しいパライバカラーを示すトルマリンも珍しくない。
産出そのものも多く、世界市場に占める割合の高いことが推測される。
同時多発テロにおける被害者感情による売り上げへの影響を危惧してか、アフガンを避けて譲らないアメリカ人業者は多い。

ヌーリスタン、ラグマーンともに、きな臭い噂が絶えない土地である。
現地は鉱物資源の宝庫。
トルマリンの他に、優れた品質のエメラルド、クンツァイト、ガーネットなどが産出することで知られている。
また、ベリリウムやポルサイト、タンタライトなどの資源が大量に眠っており、政府によって規制がかけられている。
これらの資源の意味するところ、それは殺戮に他ならない。
アフガンの鉱物に関する、大変ためになるサイト。
古い資料だが、いろいろな場面で見かけるので、目を通しておきたいところ。


この石がブラジル産でないことは確かだと思われるので、産地については "ラグマーンのペグマタイト" とおおまかに記した。
アフガニスタン産であることを明記の上、パライバトルマリンを販売している業者もある。
ラグマーンのメータルラムから産出したという、見事なバイカラーのパライバトルマリンを追いかけていくうちに、こんなニュースに行き着いた。

10月12日、メータルラム郊外で路肩爆弾の爆発により9人が死亡
http://www.bostnews.com/details.php?id=2807&cid=2

"mine" には鉱山、宝庫、地雷の3つの意味がある。
鉱山名で検索をかけたために、地雷関連の記事が出たわけだが、この2つが繋がる偶然に嘆かざるを得ない。
わずか3週間前、メータルラムで地雷による死者が出ている。
目を覆うような悲惨な出来事が、アフガンの美しい宝石のすぐ側で日常的に起きている。




【追記】

この標本に関して「色合いが濃く、パライバトルマリンと呼ぶのは疑問」との貴重なご意見をいただきました。確かに、本来のパライバトルマリンは水色に近い色合い、宝石質の場合は眩いネオンブルーの色合いです(写真)。


 
ブラジル・バターリヤのパライバトルマリン

冒頭で取り上げたトルマリンについては、パライバトルマリンではなく、「ブルーグリーントルマリン」(パキスタン産)として販売されている石である可能性が高いと考えられます。

残念なことに、これをパライバトルマリンとして販売している業者がいるのは事実で、小さくカットしてしまうと、ごく一般の人々が判断するのは困難です。
専門家にあっても、判断を誤るケースがあったようでした。
すべては宝石ディーラーさんの手腕と良心にかかっているといえるでしょう。
以上、アドバイスをいただきました宝石店代表・M様に心より感謝申し上げます。

見分け方としては、色合い。また、ブラジルに特有の鉱物かどうかが疑われ、かつアフガン近辺から多数産出がある鉱物(まんまですがラピスラズリの類い/文中に挙げた鉱物のほか、ピンクトパーズ、ハックマナイト、スフェーン、パープルスキャポライト等々)を列挙している宝石店にこの石が多く認められた場合、疑って良いと思います。(2011/12/30)
 

24×15×10mm  16.23ct

今週、話題性が確認された10の鉱物

What Mineral Would You Take with You to A Deserted Island?