ラベル 水晶 の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示
ラベル 水晶 の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示

2012/03/17

雷水晶


ライトニングクォーツ/雷水晶
Lightning Strike Quartz
Diamantina, Minas Gerais, Brazil



世界には、雷に打たれ崩壊の危機に晒されながらも、奇跡的にその存在をとどめた水晶があるという。
それらはライトニングクォーツといわれている。
ライトニングとは、雷の意味。
雷水晶と呼ばれることも多い。
現地では "Pedra de Raio" (雷水晶と同意)と呼ばれており、欧米での呼称であるライトニング・ストライク・クォーツは、メロディ氏による命名と聞いている。

ライトニングクォーツは世界中から発見されているというが、主な産地はブラジルのディアマンティーナ。
水晶の名産地として知られる土地である。
ディアマンティーナ産のライトニングクォーツは、雷との相互作用を語る上で、非常に重要な特徴を備えているという。
また、土地の特性なのか産出も多いようで、現在も安定した流通がある。

私が鉱物にすこしばかりディープに関わるようになった頃、話題になっていたのがライトニングクォーツだった。
なんじゃそりゃ。
そう思ってさっそく手にしたライトニングクォーツは、透明感にあふれ、とても崩壊の危機に晒されたようには見えなかった。
確かに、結晶の所々に破損やデコボコがあるのだけれど、本当に雷に打たれたのか。

ライトニングクォーツには一応の基準がある。

  • 電流が流れた形跡があること。
  • 結晶の柱面の少なくとも半分に、巻きつくように水晶が成長していること。
  • 落雷時の熱により、一部がクリストバライト(白い付着物)に変化していること。

このライトニングクォーツは、たまたま収集品の中から出てきた。
写真の水晶ポイントはその拡大写真。
巻き巻きとはいい難いが、小さな結晶が貼りつくような格好でポイントを覆っているのが見えるかと思う。
意外に気づかないものだが、重要事項なので、押さえておきたい。
写真にある激しい侵蝕が、電流の流れた痕?

ここまで激しい浸食が刻まれているものは珍しいようだ。
ただ、落雷の衝撃で折れてしまうことはある。
トップのないライトニングクォーツも倉庫のどこかにあったはず。
ディアマンティーナから産する水晶は、透明度が極めて高く、採掘も丁寧なのか、もともときれい。
雷に打たれても、きれい。
かえって雷の痕が映えるというわけ。

ところで、先日某オークションを見ていたら、ライトニングクォーツのブレスレットなるものを発見した。
色合いから察するに、放射線処理を施したスモーキーシトリンであった。
販売者が、ライトニングクォーツに放射能を浴びせ、売れ筋商品にしたかったという可能性もある。
しかし、これでは全くわからない。
クラックひとつないきれいな珠が、ふんだんに使用されている(本文下に写真を掲載。後日さらなる衝撃的物体を確認)。
売れ残りのブレスを、むりやりライトニングクォーツと名づけ、さばこうとしたように見えてならない。
いろんな意味で有名な、中華系の業者だった気がするのだが、まだ居るのか。
かれらは金を積んでオークションのトップに商品を並べているため、マトモな人々がドン引きして立ち去ってしまう。
これでは新しい人が入ってこない。

中華系の業者は、欧米においては、鉱物市場を襲った類い稀なる脅威とみなされ、恐れられているという。
市場はまさにライトニングクォーツ、といった状況。
彼らをとめる者はいないのかと、不思議になってくる。

ライトニングクォーツ。
激しい衝撃に打たれ、崩壊の危機にさらされながらも、その存在を打ち消されない。
人間は、そうなり得るだろうか。
この美しい水晶は、私に人間とは何かを、深く考えさせるものである。




60×15×12mm  15.58g

2012/03/14

サチャロカアゼツライト


サチャロカアゼツライト
Satyaloka Azeztulite
Satyaloka Monastery, Satyaloka, India



思えばサチャロカアゼツライトほど不確かな存在はなかった。
私がその存在を知ったときは、ミルキークォーツの塊だった。
やがて極小の結晶が主流となる。
H&E社の商品である「アゼツライト」(→アゼツライトの項参照)の名を冠するのはいかがなものかとの声を受け、H&E社の商品のひとつに加わったさいには、褐色を帯びた不透明な石英の塊と化していた。
当初「サチャロカクォーツ」の名で発売されたが、産出の激減を受けて生産中止。
代わりとして、現地から新たに発見されたという透明水晶「サチャマニクォーツ」が発表された。

2年が過ぎ、鉱物の世界に戻ってみると、「サチャマニクォーツ」は生産中止に。
そのH&E社から最近になって「サチャロカアゼツライト」と明記された商品が発表されたことを知る。
シモンズ氏にはお世話になったから、言及は控える。

アゼツライト同様、サチャロカアゼツライトもまた、形而上の概念である。
サチャロカとは南インドの地名。
その地から出現するというサチャロカアゼツライトは、数年前までニューエイジストーンの代表格であった。
高い波動と崇高な輝きを放ち、霊能力の強化やヒーリングに欠かせない存在として、高い人気を誇った。
かのH&E社が販売権を独占するまでは、その複雑な入手経路ゆえに、限られた売り手しか扱わなかった。
需要に供給が追いつかず、価格は異常とも思えるほどに高騰した。
H&E社が販売権を独占するまでは。
ただ、色や形、質感や大きさなどに随時変化が生じる、産地の様子がいっさい伝わってこないなど、謎は多い。
ある時は透明水晶、ある時は石英の塊。
米粒大かと思いきや巨大化し、オレンジや赤などもたまに登場する。
共通点はサチャロカ地方産出の石英ということだけ。
そうと言われなければ判断できないのは、高額商品だけに致命的な問題であった。

※パワーで鑑定できる人もいるとは思うが、それだけを根拠に販売すると逮捕されることがあるので注意したい。

写真の石は、販売権がH&E社に移る直前まで流通していた、幻のサチャロカアゼツライト。
米粒大だがポイント状の水晶だった。
いっぽう、H&E社から発売されたのは、ほんのりイエローを帯びた石英のポリッシュ(写真)。
現在販売されている「サチャロカアゼツライト」に似ている。
1988年に Dharma Dharini 氏によって世界に紹介されたというサチャロカアゼツ。
その不確かな存在に翻弄され、対応に追われた小売業者。
ある意味修行だったのかもしれぬ。

かつて、サチャロカアゼツは、南インドの寺院で、現地の僧侶が手作業で採掘しているということになっていた。
当地から産する水晶を拾い集めるのが修行の一環ということらしかった。
奇妙な印象は否めずにいた。
南インドという土地柄、また関係者の面持ちから察するに、欧米の若者向けのアシュラム若しくはコミューン、といった実態が想像されたからである。
調べたら実際そんな感じだった。
機会があれば訪れてみたいとよく人に話していたのだが、ほとんどの方は「?」という表情をされていた。
サチャロカアゼツは、インドでもトップレベルの修行者が得た、霊験あらたかな賜り物。
そう考えた人がほとんどだったのかも。

サチャロカ寺院、という翻訳が誤解を招いたのは確実。
それらがコピペされ、広まったせいでは?
寺院、僧侶という表現で語られると、少なくとも若い白人には結びつかない。
H&E社の従業員にお会いしたさい、サチャロカの実態について尋ねたことがあるのだが、「行ったことがないのでわからない」とのことだった。

サチャロカアゼツについては「持つ人を選ぶ」という特権意識が強調され、入手の難しさばかりが語られた。
難しいと感じたことはない。
興味を抱いた石はだいたい手元に来る。
なぜなら私は石に選ばれないよう努力しているからである。
冗談である。
少なくとも、ずっと欲しいと思っているがご縁がない、という方はおられなかったはず。
ただ、20年前のサチャロカアゼツについては全くわからない。

サチャロカのコミュニティを訪れるのがここ数年の夢であった。
歴代のサチャロカアゼツをコンプリートしてる人物は、きっとここにいる。
サチャロカアゼツを認定する人物は、きっとここにいる。
水晶や石英がアゼツライトに昇格する基準を明らかにするため、一度訪れる必要がある。
サチャロカのコミュニティまでの道のりや、施設の位置はだいたいわかっている。
ただし、主力商品を失って倒産したおそれがあり、現在も採掘が続いているかどうかはわからない。

かつてインドを旅したとき、私はサチャロカ近くを確実に通過している。
奇しくも全盛期であったために、無念でならない。
しかし、私は当時、石に全く興味がなかった。
偶然コミュニティを見つけても、サチャロカアゼツを持ち帰ることはまずなかった。
実際、南インドでは、現地の宝石商に気に入られ、宝石を次々にプレゼントされて、正直困った。
日本人の感覚からすると宝石は大きすぎて、成金に間違えられること必至。
また、現地加工のためデザイン性皆無であり、日本ではとても身につけられないシロモノであった。
知り合いの家に向かう途中に彼の店があったため、通るたびに呼び止められ、断るわけにいかなかったのだ。
邪魔だったので、後に知り合った人たちに全部あげてしまった。
今更ながら記憶をたどると、けっこうな品質の貴石も混ざっていたのだが、日本に持ち帰っても数年後に失う運命だったから、むしろそれで良かったんだろう。

若気の至りか、もらうだけもらっておきながら、彼には内緒で町を去った。
インド人はよく物をくれる。
価値がわからなければ、とりあえずもらっておいたほうがいいかもしれない。
ただし、あなたが女性であれば、絶対に与えてはならない。


8×5×3mm(最大)計1.55g






追記

1)この記事をアップした3月に、サチャロカのコミュニティが消滅したとの噂が流れ、無断転載を疑われた件について

まず、偶然の一致を信じるかどうか悩むとして、私なりの考えを追記させていただいたのが以下の文章です。


サチャロカアゼツがH&E社の管理下となる以前は、サチャロカ・コミュニティの敷地内、もしくは周辺で小規模な採掘作業が行われているとされていました。
写真の石にも手掘りの形跡があります。
その後、この石の権利がH&E社に移り、大量生産が求められたために、採掘地が同地方の山岳地帯に移されたものと考えるのが妥当ではないでしょうか。
サチャロカのコミュニティを紹介したブログは、何年も前に更新が途絶えています。
なおこの記事は、私が独自に調べ、過去の経験をもとに記したものであること、ご理解願います。

しかしながら、さらに追記しますと、結論としては偶然の一致でありました。
正確には、私のほうが一週間遅いので、無断転載を疑われた方のほうが多かったかもしれません。というのも、ソースが全く同じなのです。
ただ、何年も前からあったサイトで、以前から気に入って愛読していたために、私には全く予想できませんでした。
ソースの提示は、(存続していれば)今後のコミュニティの運営に支障をきたすという懸念があり、あえて伏せました。
無関係であることを関係者様から伺い、感謝すると同時に、申し訳なく思っています。
噂については、サチャロカのコミュニティに非常に詳しい方が3月8日に言及されたとみられます。
この記事自体は3月入ってすぐに書いたものと記憶しておりますので、私自身困惑しています。
私が噂の存在を知ったのは7月末、そして確認が取れたのが今日ということになります。
ブログ主様、情報の持ち主様にはご迷惑をおかけしたことをお詫びすると共に、現状としては、まさかの偶然の一致を信じていただくしかなく無念に思います。
また、サチャロカ・コミュニティの閉鎖疑惑については、冗談のつもりで記したものであり、事実関係は把握できていません。(2012/08/06 追記)


2)サチャロカマスターアゼツライトの真偽について

南インド・サチャロカ地方から水晶が産出するという地質学的データはありません。
また、サチャロカコミュニティは水晶を採取するための組織ではなく、あくまでスピリチュアリティを探求するための修行の場でした。
いつの間にか鉱物の名産地になっているのは奇妙です。
サチャロカアゼツライトとして流通している水晶が、実はアメリカ・アーカンソー産水晶だったとして問題になっています。
関係者の情報が漏れ、明るみに出たようです。
比較的大きさのあるサチャロカマスターアゼツライトについては、ブラジル産やアーカンソー産の水晶と考えるのが妥当であり、サチャロカから産したとするには無理があります。

お世話になっている女性のご厚意で、原石をお預かりし、確認させていただきました。
ブラジル産水晶であると考えられます(→サチャロカマスターグランドアース)。
T様、いつもありがとうございます。

アーカンソー産水晶については、過去にも "ノースカロライナ産アゼツライト透明原石" と称して販売され、ファンの顰蹙(ひんしゅく)をかったことでも有名です。
決して悪いものではなく、世界で最もクリアな水晶のひとつとして、収集家にも高い人気があります。
ただ、小さなポイントが3000円以上の値を付けるようなことはまずありません。
偽物にはご注意ください。

サチャロカは広大な南インドのごく一部に過ぎず、インド人にも知らない人がいるほど。
コミュニティは欧米人を中心とし、ミレニアムをピークに稼動していた宗教団体の一種であって、古くから存在するインドの聖地ではないというのが私の見解です。(2013/08/18 最終追記)


2012/02/18

ストロベリークォーツ(& チェリークォーツ)


ストロベリークォーツ
Strawberry Quartz
Djezkazgan, Bektau Hills, Chemkent, Kazakhstan



盛り盛りいちご。
ストロベリークォーツと呼ばれる水晶は数あれど、元祖ストロベリークォーツといったらこれ。
カザフスタン産出のこのクラスターは、いちご女王の座に君臨して久しい。
その希少性、美しさから、収集家にとっては憧れの存在となっている。
赤い色合いは、水晶に内包されたゲーサイト(針鉄鉱)による発色とされる。
切断して研磨すると、中央に向かって赤~白のグラデーションとなっていることが多く、まるで本物のいちごのよう。

少し前までは数万もの貴重品だった。
幾度となく見かけたが、購入は後にも先にも一つだけと決め、見送っていた。
念願のストロベリークォーツをようやく手に入れたのは、昨年の終わり。
五千円まで下がっていたので、決断に踏み切った。

カザフスタン産ストロベリークォーツは、先端にかけてスモーキーの色合いが入っていることがある。
まるで、少しいたんだいちご。
果物は新鮮がよろしい。
写真ではやや赤みが強く映っているが、現物は素朴な色合い。
研磨し樹脂でコーティングして外観を整えた標本が、これまでの主流だった。
昨今の原石標本は未加工品に価値を置かれているよう。
美しく自然でとてもいい。
ダメージのある個所もみられるが、気にならない程度。
むしろ険しい道のりをよく耐えたものだ。

ストロベリークォーツはカザフスタンの標高四千メートルもの山岳地帯から産出するという。
採掘には困難が伴い、険しい山道を経て、馬を使い街まで運ばれているそうだ。
立ち入れるシーズンは限られているとのこと。
現地の情勢は決して良好とはいえず、採掘がいつ中断されてもおかしくない状況ともいわれている。

ストロベリークォーツと呼ばれる水晶は他にも存在する。
ブラジルやマダガスカルなどから産する、ハーレークインクォーツ、ファイヤークォーツと呼ばれる水晶がそう。
外観と価格で判断できるから、一通り見て目を鍛えておこう。
時にはクォーツと呼べないものも混ざっている。
アヴェンチュリン(クォーツァイト/岩石)やマスコバイト(雲母)、中国製のチェリークォーツ(グラスビーズ)などがストロベリークォーツとして流通している。

中でもチェリークォーツは呪われた石。
というのも当初、チェリークォーツが天然石として紹介されたために、誰もがそれを信じてしまったのだ。
「美しいチェリーピンクの水晶」はすぐに注目を浴び、高い人気を得た。
その正体が明らかになったとき、誰もが唖然とした。
チェリークォーツを取り扱った多くの業者が損害を受け、廃業する者も少なくなかった。
当時の在庫は未ださばけておらず、グラスビーズとして二束三文で流通している。
天然石と明記している場合はお店の人に聞いてみよう。

日本に偽物が集中するのには訳がある。
たぶん仏教国だからだろう、数珠が大いに好まれるのである。
石がビーズに加工される場合、専門家でも真偽の見分けは難しい。
原石を見れば一目瞭然なのに、原形をとどめていないのだから。
男女問わず数珠に走るのが不思議でならない。
ビーズに本物を求めるなど、滅茶苦茶だ。
宝石と異なり、すべてを鑑定することができない(サンプルのみの鑑定になる)から、リスクは高まる。
あなたのそのブレスがカザフスタン産のストロベリークォーツで作られたものなら、べらぼうに高かったはず。
ゆえに、より一層のご利益が期待できる。
信じる者は救われる。
ストロベリークォーツは、チェリークォーツの被害に遭われた犠牲者への祈りを捧げるにふさわしいパワーストーンであるといえよう。


40×35×22mm  33.68g

2012/01/12

星入り水晶


星入り水晶
Hollandite in Quartz
Fianaratsoa, Anketsaketsa, Madagascar



ホランダイト(ホランド鉱)のインクルージョンが放射状に広がり、まるで星のように見える水晶。
キャンドルクォーツに似たミルキーカラーを呈し、丸みを帯びたポイント状で発見されることが多い。
ホランダイト・イン・クォーツ、またその外観から星入り水晶、スパイダークォーツなどと呼ばれ、ビーズや装飾品になるほどの人気を誇った。
しかしながらその後新しく発見されることはなく、絶産したという。

アフリカ沖、西インド洋に浮かぶマダガスカル(とその周辺諸島)。
1億6千年前に島として孤立したため、珍しいいきものが生息し、貴重な食材が産出する。
鉱物の宝庫でもある。
ユニークかつ高品質な各種水晶のほか、セレスタイト、ラブラドライトなどが近年大ヒットを記録、マダガスカルはその産地として瞬く間に知名度を上げた。
セプタリアンなどの化石類、ペツォッタイトなど稀産鉱物の数々も報告されている。
まさに宝の島である。
世界最貧国に類されるマダガスカルでは、鉱物は専ら輸出用に採掘されており、多くは中国に持ち込まれて加工されている。

スーパーセブンの全盛期、インクルージョン入り水晶はちょっとしたブームになっていた。
星入り水晶もその一つだった。
希望の星、幸運の星。
写真の石は研磨されていないため、はっきりと星が確認できるのは一箇所のみだが、ちょこんと自立するカワイイ一品(多くはたくさんの星が観察できるよう研磨されている)。
ホランダイトの塊もみえる。

かつては300円程度でたくさん売られていたから、気に入って何回か購入した。
先日実家にてたまたま見つけたのがこれ。
売り物用のダンボールに無造作に入っていた。
最近見かけないと思ったら、もう出ていないのか。
貴重品になるなど思いもしなかったから、大切に扱うことをしなかった。
誰にも気づかれることなく、この星は消えていたのだ。

どうも最近中国から、これによく似た水晶が発見された様子。
パイロクシン、トルマリンなどの鉱物が透明水晶に入り込み、放射状に広がっている。
その姿はまるで、ダークグリーンの蜘蛛のよう。
クリアな水晶に内包されているため、今にも動き出しそうな臨場感がある。
原石は見かけていないが、産地がモンゴルの辺りなので、大半は加工に回されているものと考えられる。

奇妙なことに、この緑色の蜘蛛の入った水晶のブレスが、「マダガスカル産・ホランダイトクォーツ!(星入り水晶/スタークォーツ)」として販売されている。
どう考えても蜘蛛である。
私は蜘蛛が苦手であるからして、たくさん並んでいるのを見るのは恐怖である。
また、明らかに中国産であり、ホランダイトは入っていないと思われるため、ここで注意を喚起しておきたい。

おお怖い。
夜中にトイレに行けない。


20×14×13mm  4.71g

2012/01/03

シャッタカイト入り水晶


シャッタカイト入り水晶
Shattuckite In Quartz
Kaokaveld, Kunene Region, Namibia



シャッタカイトのボール状結晶を内包する水晶。
鉱物標本業界の最先端を行く有名鉱物店がウェブ上で紹介し、収集家の間で専ら話題になっていた。
鉱物界の権威、H先生とは全く面識がないし、鉱物愛好家のバイブル『楽しい鉱物図鑑』も見たことがない(怒らないで下さい)。
サイトを拝見したのも初めてだった。
さすがの品揃えと情報量、そして紹介されていたシャッタカイト入り水晶の見事なこと。
まりものような濃青色のシャッタカイトが水晶の内部に浮かぶさまは、時間さえ忘れるほどに楚楚たる風景であった。
残念ながら、サイトで紹介されていた標本の展示即売会は、既に終了していた。

こちらは先月池袋ショーにて、外国人ディーラーのブースで見つけた研磨品。
2003年にツーソンショーで仕入れたものとのことだった。
これから流通が増える可能性があるなら待つところだが、それ以降見ていないとのお話。
競争率を考えると即決が妥当かと思われた。
驚くほど高価なものでもなかった。

先月私がネットで見かけたシャッタカイト入り水晶の原石は、一瞬で売切れてしまったらしい。
一目見ようと多くの収集家が詰め掛けたが、展示即売会の会場にその姿を見た人は誰一人いなかったという。
ネット上で見た限り、即売会を待たずに高額で売却された可能性あり?
こちらは研磨品だが、見た目はそっくり。
同じ産地から出たものかどうかはわからない。

池袋ショーで出会ったとある業者さん。
シャッタカイト入り水晶の話題が出たので、購入したばかりである旨伝えたところ、目を丸くしておられた。
その方も例のシャッタカイト入り水晶に一目惚れしたらしいのである。
渦中の標本は、その方の知る有名な収集家の手に渡ったという話であった。

不思議に思うのは、十年近く前に出たはずのこの石が、なぜここまで注目を集めたのかということ。
まるで世界に数個しかないようなこの騒ぎは何事か。

銅の二次鉱物であるシャッタカイトは、希少石の中でも人気が高い。
特に、石英と共生して発見される美しいブルーの結晶は、高価であるが比較的流通はある。
大流行したクォンタムクアトロシリカ(→詳細はシャッタカイト/カルサイトに記)に、シャッタカイトが含まれていると噂されたのも記憶に新しい。
シャッタカイトが透明水晶に内包される可能性もあり得る。
私ですらすぐに見つけたのだから、プロのディーラーも探すほど珍しいものではないはずだ。
また、皆が注目したと思われる標本の写真には、結晶の先端のごく一部しか写っていなかった。

池袋ショーの会場、一発目の店で見つけた研磨品。
どうして残っていたのか。
パパゴアイト入り水晶と並んで販売されていたため、気づかず通り過ぎた人が多かったのかもしれない。
十年近く売れなかったのだから、価値など無いのかもしれない。
素人には、これで十分。
むしろ勿体無いくらいの美しさだ。
スーツ姿の不審者(急いでるのに執拗に追っかけてきて参った。サイコパスの暇つぶしに付き合わされるなんてマジ悲劇!唖然として見守る飲食店の店員たち、助けろ!)に行く手を阻まれ、会場に到着した頃には日が暮れていた。
最後まで迷惑をかけてしまったにも関わらず、迎えてくださった方々に恐縮し、多くの出会いに感謝した。

もしこの石に価値があるのだとしたら、いずれ誰かがもっと素晴らしい標本を仕入れ、紹介するはず。
慌てて探すよりも、気長に待つほうがいいんじゃないかと思う。
思いがけない出会いもまた、鉱物の魅力の一つだから。


19×11mm  6.75ct

2011/12/10

オレンジルチル


オレンジルチル
Orange Rutilated Quartz
Cotovelo Mine, Sertanejo, Bahia, Brazil



ルチルクォーツには様々なカラー・バリエーションがある。
写真のラフカットは、オレンジルチルと呼ばれている。
明るいオレンジ・カラーの針状インクルージョンが、くっきりと入っているのが特徴。
内包されているのは、ブルールチル(トルマリン)とは違い、鉱物学上のルチル(金紅石)のはず…なのだが、真偽のほどはわからない。
というのも、このオレンジルチル、数が極めて少なく、データが殆ど残っていないのである。

ゴールデン・オレンジ・ルチレイテッドクォーツ。
2006年にブラジルのコトビロ鉱山から250kgのみ産出、その後絶産したといわれている。
現在もわずかに出回っているが、原石など産地の特定できるものばかり。
当時はルチルクォーツがレアストーンになるなど、思いもしなかった。
なお、現在市場に流通しているオレンジルチルのビーズは、淡いイエローゴールド若しくはオレンジブラウンのルチルクォーツ。
コトビロ鉱山のオレンジルチルとは対称的に、極細の針が密集していることが多い。
このところ流通しているオレンジルチルのビーズに、頻繁にキャッツアイがみられるのはそのためか。

写真のオレンジルチルは、数年前のミネラルショーで、白人のディーラーがサンプルとして展示していたラフカット。
無理を言って何周目かでようやく譲ってもらった。
売り物は高すぎて買えなかったのだ。
コトビロ鉱山産のオレンジルチルが貴重品だとは知らなかったから、相当値切ってしまった記憶がある。
オッサンの苦笑いを今でも覚えている。
消えていくと言われながら残っている鉱物が多い中、人知れず消えてゆく鉱物も少なからず存在したということなんだろう。

金運、仕事運、勝負運をアップさせ、成功を勝ち取ることができるというルチルクォーツ。
夢を叶えるパワーストーンとして広く知られており、現在も人気は高い。
特にオレンジルチルは凄いらしい。
億万長者セレブ御用達。
とにかくパワーが半端ないとされておる。
持つ人を選び、自発的に上昇しようとしている人や、強い運気を感じる人の所に行こうとするという。

どうして私のところに来たのか。
まったくもって、疑問である。


コトビロ鉱山の資料を探していたらたどりついたサイト。
彼らが発見者?
http://www.minec.com.br/arq_news/0606.htm


60×31×16mm  25.25g

2011/11/27

ヒマラヤアイスクリスタル


ヒマラヤアイスクリスタル
Himalayan Ice Etched Crystal
Kullu Valley, Himachal Pradesh, India



全体が淡いフロストピンク。
ふんわりと光を包み込むような不思議な質感。
絹のような光沢とその特異な形状は、見る者を惹きつけてやまない魅力に溢れている。

2006年にインドで発見された触像水晶の一種。
ヒマラヤアイスクリスタル(アイスクリスタル)、ニルヴァーナクォーツ、ヒマラヤエッチドクリスタル、ピンクエッチドクォーツなど、さまざまな呼び名がある。
ヒマラヤ山脈の標高6000m級の氷河地帯で、地球温暖化の影響で溶けた氷の下から姿を現したことから、人類へのメッセージではないかと騒がれた。
地球温暖化の影響で氷河から発見された例としては、他に南米コロンビア産の水晶など。

初期は細長い柱状で、トップもボトムもフラット(C面)、上下のわからないアイスクリスタルが流通し、誰もが仰天した。
色はピンクとホワイトの2種類。
「地中からこのままの形で一本一本発見される」という表現が使われた。
まるでスーパーで売っている12本入りのアイスのようだから、アイスクリスタル?
そんなことは決して思わなかったけれど、冷凍庫の中から一本ずつ色違いで発見されるイメージだ。

世界的に入手困難であったが、2009年頃から状況は一変する。
当初一万円近くしたアイスクリスタルは、市場に溢れ、数百円程度まで下落した。
同時に小型化、形の多様化、質の低下が進んだ。
酸化鉄に覆われた茶色いアイスクリスタルもみかけるようになった。
多くは塊状の標本であり、「一本一本発見される」という表現はもはや使われなくなった。
いっぽう、欧米では100ドル以上が相場のようであった。
相場の下落は日本人業者による買い占めが原因かと思われたが、つい先ほど海外の相場を見たところ、日本と同程度にまで下落していた。
共通するのは、表面の酸化鉄。
内部が無色透明であることがわかるのは、表面のダメージゆえか。

アイスクリスタルを語る上で、①蝕像水晶であること、②C面が発達していること、③トライゴーニック(先端方向に対して▽の刻印、レコードキーパーの逆バージョン)が浮かび上がること、以上3点は欠かせない。
どちらも意識したことがなかったので、今更調べた。
C面とは鉱物の結晶構造に関する専門用語。
アイスクリスタルに関しては、トップもボトムも平らであるという特徴を指して使われた模様。
トライゴーニックについては未確認(本文下の写真左、下の方にいくつか小さく光る箇所?)だが、そもそもアイスクリスタルに上下はあるのかという疑問が生じる。

最も不思議なのは、過去のアイスクリスタルと現在主流となっているアイスクリスタルとの明らかな違いについてである。
相場は再び上昇している。
アイスクリスタルの発見されたヒマラヤの氷河は、さらに標高の高いところまで溶解が進んでいるらしい。
しかしながら、期待された蝕像水晶は、ある時を境に、いっさい発見されなくなってしまったという。

人類へのメッセージのオチがこれ?
光の歌が奏でる結末とは、これいかに。




41×17×16mm  12.82g

2011/11/11

アゼツライト/ローゾフィア


アゼツライト/ローゾフィア
Azeztulite & Rosophia
From Mr.Robert Simmons



アゼツライト、名も無き光。
鉱物というよりは、形而上の概念である。
ニューエイジストーンの発掘・普及に貢献してきたHeaven&Earth社の代表作。
既存の鉱物に独自のネーミングを与えることで知られる。
その反響の大きさゆえ、著名人からの反発の声も聞かれるほどであった。

今でこそ人気は安定した感があるが、業界のリーダー的存在であり、一部の人々にとっては神であり、パワーストーンブームを支えた偉大なる存在である。
代表でクリスタルヒーラーでもあるロバート・シモンズ氏の写真を掲げ、アゼツライトを販売するショップが後を絶たない。

今回はアゼツライトと、ロバート・シモンズ氏にまつわるエピソード。
2009年2月、米アリゾナ、ツーソンミネラルショーにて。

***

ツーソンショーも終わりに近づき、安宿に滞在する不幸な女たちは、博物館へ出かけていった。
私も誘われたが、どうせ女性の自立やらDVやらの話になるだろうから、一人で会場をまわることにした。
IDカードは台湾人に借りた。
これで業者割引が効く。

まだ見ていない会場は一つだけ。
リムジンバスから降りると、なにやら怪しい香りがする。
肌の黒い少年が、ジョイントを片手に、カゴを売っている。
「マリファナか?」と聞いてみる。
「そうだ。お前もどうだ」と少年。
荷物を持ち帰るのに丁度いいカゴだった。
一番大きなものを購入した。

あたりを散策していると、同じ宿の女性に遭遇。
なにやってんの、と言われたので、石を見ていると答えた。
彼女はアクセサリーを売っていた。
私のベッドの下に、持ち主のわからないダンボールが乱暴に積まれていて、足の踏み場がなかった。
中身はアレだったのか、と納得。
投げやりな荷物の扱いが、常にヒステリックな彼女らしくて、可笑しかった。

奥の建物には、ニューエイジ系のショップが集まっていた。
セージの束に、怪しげなお香。
いかにもなお姉さんがいろいろ説明してくれるのだが、石の産地などについて尋ねると、○○の近くなどといった曖昧な返答。

H&Eのブース。
たくさんのお客で賑わっている。
お馴染みのワイヤー・ペンダントもズラリ。
足元には、しゃがみこんで必死にそれをカゴに入れている日本人バイヤー2人組。
うっかり踏むところだった。
ツーソンで日本人と出会ったのは初めて。
向こうも気づいたので、挨拶した。
「今日の2時で終わりですよ。私たち急いでいるので!」と、素っ気ない。
時計は11時過ぎ。
私は奇跡的に、H&E社のショーに間に合ったのだった。

フロアで色とりどりの石を眺めていると、女性が親しげに近づいてきた。
ロバート・シモンズ氏の奥様だった。
シモンズも後で来るかもしれないとおっしゃる。

ほどなくして、シモンズ氏が登場。
当時の日記には、石の聖地に君臨した神、とある。
それくらいの衝撃だった。
喩えるなら、日展で天皇陛下に会った時、もしくはインドのマハ・クンブメーラにて、目下話題になっていた尊師と食堂で会った時くらいのインパクト。

アメリカ人のオバチャン達がサインをねだりに群がる。
日本人にしかウケないと揶揄する人もいるが、現地でもかなり人気があるようだ。
ボーっとながめていると、シモンズ氏がこちらにやってきた。
親日家であることは知っていた。
台湾人のIDカードを付けているにも関わらず、私を日本人だと思ってくれたようである。

いろんな話をした。
私にはどんな石が必要かという問いに、シモンズ氏が出してきてくれたのが、ローゾフィア(赤いほうの石)。
氏が最初に発見し、インスピレーションを受けたという、大きな塊状の原石だった。
触るよう言われ、目を閉じて手を当ててみる。

H&E社から先月発表されたばかりのローゾフィア。
いくつか紹介された新商品の中では、私の一番のお気に入りだった。
フェルドスパーとクォーツから成るありふれた石ではあるのだけれど、アゼツライトを初めて手にしたときくらいの高揚感があった。
その最初のインパクトが目の前にある。
愛に関連する石だと思っていた。
それはおそらく他者の存在しない孤独な愛。
愛を知らず、生まれ、育ってきた人生。
彼らは人を愛せないばかりか、自分自身を愛することも知らない。
1から覚えるのではない、0から考えるのだ。
他人が理解させることではない。
本人がそれに気づくまで、旅は続く。
「君にはハートに欠けている部分がある。この石を持つといいだろう」とシモンズ氏は私に言った。

愛を知ったとき、人は普遍的な真実に一歩近づく。
心の奥に眠っていた無限の可能性が次々に開花し、別人のように輝くのである。
もちろんそれで終わりじゃない。
人生の最後の瞬間まで、その歩みは続くのである。

シモンズ氏からアゼツライトとローゾフィアのさざれを一連ずつ、奥様からはハートのモチーフをプレゼントしていただいた。
これをリーディングして送るようにと、メールアドレスまで受け取った。
石のリーディングなどやったことがない。
後日、仕方ないので感想を送った。

さきほどの日本人バイヤー2人。
引き続き血眼になりながら、カゴに商品を詰め込んでいる。
ローゾフィアも入ってる。
目の前にシモンズ氏がいるのに、どうして見えないんだろう。
そんなことを思ったショー最終日。
明日はいよいよクライマックス、ツーソン・ミネラルショーだ。



夫妻と一緒に証明写真

ハートのモチーフ 25×7mm  32.7g~34.1g

2011/10/16

日本式三連双晶


日本式三連双晶
Japan Law Twin "Triple"
群馬県甘楽郡南牧村三ッ岩岳



二つの結晶が84゜33'の角度で接合し、ハート型になった水晶を日本式双晶と呼んでいる。
日本式三連双晶は、一つのポイントを軸に、二つの水晶がそれぞれ84゜33'に結合したもので、なかなか見かけない。
先日の秋のミネラルショーにて購入したもの。
平板状の結晶が左右対称に飛び出しているのがわかると思う。

日本式双晶は、たぶん、最も好きな鉱物。
ハート型は避ける性格なのだけれど、初めてこの水晶を見たときは、素直に感動した。
このような結晶が自然にできること。
日本が代表的産地で、"Japanese"というネーミングが世界的に定着していることにも興味を引かれた。
それまでは、狭い日本にマトモな鉱物標本など存在しないと思い込んでいた。
このブログの一発目に取り上げたのも、トップページに画像をくっつけているのも、メールアドレスにしているのも、お気に入りだったから。
ただ、積極的に集めたことはない。
国産鉱物の世界には、知識・経験ともに豊富な年配のファンが多く、何も知らない私には敷居が高かった。
気に入った形の日本式双晶が見つからないというのもあった。

水晶には思い出がある。
私がまだ幼かったとき、家族が山へ水晶を採りに行こうと言い出した。
魔法の結晶。
そんなイメージだった。
日帰りで行ける距離に、そんな場所があると聞いて、嬉しくて眠れなかった。
光り輝くクリスタルを拾う夢を見たほど。

待ちに待ったその日、私は一番に水晶を見つけようと、山を歩いてまわった。
しかし、水晶など何処にも落ちていなかった。
むき出しになった土を入念に調べても、キラキラした結晶はひとつとして現れなかった。
夕方になり、諦めるよう家族に言われた。
裏切られたような気持ちになった。
夢にまで見た水晶は、幻に過ぎないとわかったから。

その後、水晶をプレゼントしていただく機会はあったが、自分から探すことは意図的に避けてきた。
必ず裏切られる、だから絶対に求めてはいけない。
そう思うようにしていた。

鉱物に興味を持ってすぐ、かつてはその山から、美しい水晶が数多く発見されていたことを知る。
噂を聞いた人々がすべて掘り尽くしてしまったのである。
中には、ショベルカーで山を崩しにかかった者もいたらしい。
現地は今、山崩れを防ぐための柵に覆われている。
国内の有名な鉱物の産地のほとんどは、そうした理由で立入禁止になっている。
家族が嘘を言ったわけではなかった。

ふとしたきっかけで知り合った国産鉱物のディーラーであり、収集家でもある大先輩にお会いした。
予想を裏切らない、素晴らしい人物だった。
緊張した。
その方に、どんな鉱物に興味があるかと聞かれ、うろたえてしまった。
所詮は広く浅く、とっさに出てくるはずもない。
言葉に詰まっている私に、その方が薦めてくださったのが、写真の石。
日本式双晶のクラスターかと思ったが、それだけではない。
鳥が羽を広げたような形から、鳥形日本式三連双晶と呼ばれている、極めて珍しい双晶とのことだった。
まったく知らなかった。
福島のほうはなんとか落ち着いていると、笑顔でお答えになった。
涙が出そうになった。

鳥形日本式三連双晶の存在は古くから知られており、日本各地から発見されていたが、長い間幻の水晶として語られていたという。
10年ほど前に群馬からまとまった産出があったものの、すぐに採り尽くされてしまった。
そのうちの一つがこれ。

参考:日本式三連双晶の図解
http://web.kyoto-inet.or.jp/people/pegma/index.html

鳥形日本式三連双晶には、左右対称に成長した双晶の間隔が、60度のものと、120度の二種類がある。
どちらかひとつ。
60度のほうを譲っていただいた。
今にも羽ばたかんとする鳥の羽根に、希望を感じた。
探し求めた究極の日本式双晶がここにある。


21×15×14mm

2011/10/08

ザギマウンテンクォーツ


ザギマウンテンクォーツ
Zagi Mountain Quartz
Zagi Mountain, Mulla Ghori, Khyber Agency, FATA, Pakistan



ザギマウンテンクォーツ。
パキスタンのザギ・マウンテンから産出する水晶である。
さまざまな呼び名があるようだが、ここではザギマウンテンクォーツと呼ぶことにする。
ヒーリングストーンとして名高い石で、その存在は以前から知っていた。
ピンと来ないというのが正直な感想だった。

ザギマウンテンクォーツの特徴は、その多彩な内包物。
エジリン、アストロフィライトのほか、トルマリン(ブラックトルマリンなど)、アンフィボール類(アクチノライト、リーベカイトなど)を含む。
ベースはクリアクォーツ。
内包物によって、赤やオレンジ、グリーン、ブラウン~ダークブラウン、黒などの色合いを示す。
初期は大小さまざまな、シンプルなポイントが中心だった(本文下右側の写真)。
現在はエレスチャル状、ポイント状、塊状など、多様化が進んでいる。
スモーキークォーツやミルキークォーツ・ベースのザギマウンテンクォーツも見かけるようになった。
今やその存在の不透明さは加速するいっぽう。

写真の石は、プレゼントとして偶然に付けていただいたもの。
うわ、なんじゃこりゃと思った。
よくわからんが、すごい。
後日、ザギマウンテンクォーツであることが判明。
小粒にしてこの存在感、本物だ。

大好きな西アジア。
これは絶対にザギマウンテンに登らねばならない。
標高175メートルなら余裕だ

今はほとんど使っていない、バックパックの出番が来たようである

※聖地ザギマウンテン付近の様子はこちらからどうぞ

現実は甘くない。
調べてみると、そう簡単には行けない土地であることがわかった。
聖地により外国人立入禁止説、乱獲により規制が入った説、タリバン出現につき国際的に入山不可能説、などが推測されたが、いずれにせよ外国人が入るのは容易いことではないと感じた。
ネットショップでは、聖地である旨説明されていることが大半。
もし最後の説が本当だったとしたら、命を覚悟しなければならない。
パキスタンの情勢が極めて不安定なのは、ご存知の通り。

聖地に関しては思うところある。
外国人、特に日本人の海外での評判は、悪い。
現地の人々の感覚に合わせることをしないからだ。
意図的に遠ざけられた可能性はある。
パキスタンのように信仰が根付いている国においては、外国人が現地の人に打撃を与えることも少なくない。

パキスタンには好戦的な人が多いと思っている人が多いが、そうではない。
飾ることなく誠実で、温かな心をお持ちの方々だ。
宗教の異なる日本人に対しても、親切に接してくれることが多い。
我々日本人は、宗教と聞いただけで抵抗感を持ってしまいがちだが、現地での信仰心は、日本でいう法律であり、道徳であり、生活の一部でもある。
例外はある。
たとえば、戦争のあった地域で生まれ育った人々。
家や家族を失い、心に深い傷を負った彼らが、やむなく道を外れることもある。
詐欺や麻薬取引などの犯罪に関わっていたのは、私の知る限りでは、戦地など複雑な環境に育った人間だ。

ザギマウンテンについて、この石を譲ってくださった方に伺ってみた。
情勢が悪いというのは現実のよう。
ザギに登るのは厳しいと感じた。
私のような外国人が間違いを犯す(犯した)可能性も十分に考えられる。

ザギマウンテンからはバストネサイトのほか、ゼノタイム、イルメナイト、モナズ石などの希少石が産出することで知られている。
現地がレアアースの宝庫であることが判明したのは、ごく最近。
2001年頃だといわれている。
これも不思議な偶然で、近年においては最も危険だった時期である。
殺害されたテロリストが、アフガニスタンからパキスタンに逃亡したのは有名な話。
私がパキスタンを旅したのは11年前。
テロ発生の前年だが、空港は厳戒態勢が敷かれており、税関で厳しい検査があったのを鮮明に覚えている。

話を戻そう。
ザギマウンテンクォーツは、多彩な内包物を持つことで知られる。
中でも、アストロフィライト、エジリンが入ったものは人気があるようだ。
本文下、左は、手持ちのザギマウンテンクォーツの拡大写真。
最近入手したもので、アストロフィライトが内包されているということだった。

結晶中の太く黒い針がエジリンだという(→拡大写真)。
一本だけ確認できる太いオレンジの針は、なにか。
実は、過去のザギマウンテンクォーツに、このオレンジの針が高い確率で含まれていた(本文下の写真参照)。
エジリンではないし、ルチルにしては色が濃く太すぎる。

一般的に、アストロフィライトは繊細な繊維状のインクルージョンとなって、結晶全体をレッド~オレンジに染めるといわれているが、私にはオレンジの針が本来のそれではないかと思えてならならないのだ。
アストロフィライトとされる、オレンジの微細な毛状のインクルージョンは、私にはどうも、アンフィボール(角閃石)の類いにみえる。
マダガスカル産のアンフィボール入り水晶に、このような色合いを頻繁に見かける。
アストロフィライトのインクルージョンというのは他では聞かないから、相当珍しいはずだ。

なんとなく、気になる。
まあ、いいや。
この石にはきっと、危険を承知でザギへ入っていったパキスタンの人々の勇気、そして温かな心が、あふれんばかりに詰め込まれている。




14×11×6mm  7.78ct

2011/10/07

サラードクォーツ


サラードクォーツ Sarado Quartz
Diamantina, Minas Gerais, Brazil



サラードクォーツ。値札つき。
蝕像水晶(→レコードキーパーの項、注1参照)の一種。
角が溶けて丸くなっているのが特徴だろうか。
サラードは地名ではなく、現地の言葉で「回復」という意味。
透明感のある爽やかな水晶に、ビシビシと刻まれた侵食の跡が強烈である。
今でこそ価値を認められたサラードクォーツだが、価値がわからなければ「少し変わった水晶」でしかない。
そのため、こちらのサラードクォーツも、最近まで当家において不当な扱いを受けていた。

出会いは4年ほど前、某ミネラルショーにて。
無造作に並べられた水晶の山の中に、コレがあった。
ブースには、ぶっきらぼうな中年女性が2人。

「コレ、何の石ですか?」
「水晶です」
「面白い形ですね」
「パワーあるわよ」
「どんなパワーがあるのですか?」
「…」
「おいくらですか?」
「3000円」
「何か、意味があるのですか?」
「お買い得だと思うわよ」

やる気が全く感じられない。
ヒーリングストーンの知識にかけては半端ないはずの連れも、まったく興味のない様子。
つまるところ、誰にも価値がわからない。
この名も無きクリスタルに、3000円を投じるべきか否か。
今を逃すと後悔する、そう直感した。

そしてこの「謎の水晶」は、我が家の倉庫に奉納された。
たまに見かけて、手に取る程度。
そうして、4年が経った。

今年の夏、サラードクォーツなるものをネットで見かけ、興味を持った。
さっそく注文した翌日の晩、立ち寄った実家で写真の石と再会した。
目を疑った。
ネットで見たものと、全く同じではないか。
Saradoというラベルまで貼ってある(貼りっぱなし)から、間違いない。
ようやっと正体が判明し、日の目を見ることになったサラードクォーツ。
あの頃はまだ蝕像水晶という言葉は一般的ではなく、アイスクリスタルも流通し始めたばかりで、先のミネラルショーで出会ったお店の方もご存じなかったのだろう。

ネットショップさんには、あわててキャンセルをお願いした。
お店の方にはご迷惑をおかけしたが、入金前だったのが幸いし、キャンセルをお許しいただいた。
実家には半年に一度寄る程度。
このタイミングでの再会も、何かのご縁ということか。

帰宅後、調べてみた。
ディアマンティーナ産の蝕像水晶を、総じてサラードクォーツと呼んでいるようである。
ネットショップで見かけたものは、手持ちのサラードクォーツと同じ、角が溶けて丸くなっているタイプだった。
諸説あるのかもしれない。

水晶の名産地・ブラジルでは、どんな個性的な水晶にも愛称を与え、お守りにする習慣があるようだ。
日本人にはわかりづらい感覚かもしれない。
こうして今、サラードクォーツが評価されているのは、とても嬉しい。
一部が削れてしまっているのは、私のいい加減な保管によるもの。
床に置くのはやめ、箱にしまった。
付加価値を考慮せず、直感だけで購入した水晶に価値がわかることは滅多にないから、不思議な偶然に驚いている。


81×30×26mm  77.3g

2011/10/05

オーロベルディ


オーロベルディ Oro Verde
Diamantina, Minas Gerais, Brazill



メタモルフォシスをご存知だろうか。
見た目は普通のミルキークォーツ。
ガンマ線を照射すると真っ黒になり、その後300℃程度で加熱すると美しいグリーンゴールドに変化することから、変容・変革の象徴として、メロディ氏(→スーパーセブン参照)によりメタモルフォシスの名を与えられた。
オーロベルディは、いわばメタモルフォシスの変革後の姿。

ポイント状のオーロベルディは珍しい。
メタモルフォシスは塊状で産出し、オーロベルディも同様の形状を持つことで知られている。
こちらはメロディ氏と交流のあった海外のクリスタルヒーラーが所有していたオールドストック。
ごく初期に得られたオーロベルディのポイントとのこと。

元祖メタモルフォシスは、多少クラックの入った、大き目のタンブルだった。
形はいびつで、決して格好いいものではなかった。いっぽう、オーロベルディは、切り取られたような破片状の塊。
比較的小さな原石が多く、加工品の場合はそのほとんどに激しいクラックが入っている。
現在は、タンブルではない破片状のメタモルフォシスも、メロディ氏経由で出回っている。

実はこのメタモルフォシス、現地では以前からミルキークォーツとして知られており、珍しいとされるピンク・メタモルフォシスのほうも、ローズクォーツとして流通していた。
メタモルフォシスが知られ始めた段階で、既に国内に在庫のある業者もあったため、姿勢は二つに分かれた。
あくまでもミルキークォーツ・ローズクォーツとして売る業者もあった。
しかし、ミルキークォーツをメタモルフォシス、ローズクォーツをレアなピンクのメタモルフォシスとして扱い、国内で「変容」させたものをオーロベルディとして高値で販売、メロディ氏の人気に便乗しようとする人々も。

美しいグリーンゴールドを示すオーロベルディ。
こちらも以前から流通があった。
海外ではオーロベルディ・シトリンと呼ばれており、放射線処理を施した宝石として認識されている。
同じく放射線処理によって作られる、レモンクォーツと同じような扱い(レモンクォーツは淡いイエロー)。
見た感じ、シトリンの代用品として扱われているに過ぎず、色合いもグリーンゴールドとは言い難いので、大量生産が可能なレモンクォーツと混同されているのかもしれない。
ポイントの流通も多いが、多くはレモンクォーツの色合い。

オーロベルディの名について、メロディ氏が命名したという記述は見られない。
ただ、いっとき海外のヒーラーの間でも話題になっているので、この石にメロディ氏が関わっているのは事実。
メロディ氏はもともとあった石にインスピレーションを受け、特別な名称を与えることが多いようだ。
本物か偽物かを問う以前に、付加価値の有無に問題があるように思う。
正規のルートで仕入れた場合、オーロベルディは「変容後」の姿で日本に入ってくる。

彼女のネームバリューはかなりのものであり、売り手にとっては死活問題。
そのため、メロディ氏の紹介した石が、彼女自身から仕入れたものかどうかが度々問題になった。
付加価値をつけるならメロディ氏を通すのは当然のこと。
メロディ氏経由で仕入れているところもある。
どちらを選ぶかは好みの問題で、出所にこだわる必要はない。
流通経路が不明、かつあまりにも高額な場合は、購入元に問い合わせてみよう。


メロディ氏によると、オーロベルディは持ち主に人生の深い意味を体験させ、成熟した人間性を育くむという。
また、強いエネルギーで持ち主を保護し、新しい未来を切り開いていくための意志と力を運んでくるとされている。


30×18×14mm 10.2g

2011/09/12

レコードキーパー


レコードキーパー Record Keeper
Ganesh Himal, Himalayan Mts, Dhading, Nepal



レコードキーパー。
鉱物名ではなく、水晶の特徴を示す用語である。
水晶の先端に浮き出ている(もしくは刻まれている)、△のかたちをした刻印のようなものがそう。
このレコードキーパーに触れ、瞑想すると、古代文明の記憶に導かれ、しかるべきメッセージを得られるという。
また、自らの内面の探求を促し、魂のブロックを取り除き、生まれてきた意味を見出す助けとなって、持つひとのあらゆる可能性を引き出すとされる。
ニューエイジ系のショップでは特別な水晶として扱われ、お値段もかなりのもの。

売り手からすると、非常にやっかいな石。
特にネットショップさんからは愚痴を聞かれることが多い。
私自身かなり難しいと感じた。
売れないのである。
写真でレコードキーパーの魅力を伝えるのは大変なのだ。
なんせこのレコードキーパー、単にカメラを構えただけでは写らない。
うっすらと浮かび上がる模様を忠実に再現するなど、テクニックもカネもない凡人には無理というもの。
画像のピンボケぶりから、なんとなく感じていただけたら有り難い。
レコードキーパー満載の蝕像水晶(注1)である。
トップから柱面、裏側に至るまで、△マークがこれまでかといわんばかりに出ているのだが、写らない。
他の方の健闘ぶりをご覧頂きたいと思う。

お見事 
http://www.ishi-imi.com/vari/record.htm
http://www.occn.zaq.ne.jp/crystal/crystal-garden/gazou/recordkeeper.jpg

苦労してるぞ
http://elders.exblog.jp/13809836/

レコードキーパーといえるか微妙(参考)
http://bodhitree.blog87.fc2.com/blog-entry-402.html
http://image.space.rakuten.co.jp/lg01/46/0000249946/98/imgde370dcazik0zj.jpeg


レコードキーパーは、実際にショップに赴いて、水晶の山の中から見つけ出すことにしている。
もちろん、パワフルなレコードキーパーをご所望なら、専門店をお勧めする。
私は敢えて鉱物標本店を狙う。
レコードキーパーに付加価値をつけないからだ。
また、レコードキーパー出現率の極めて高い蝕像水晶(注1)は、標本業界ではジャンク品とみなされる。
六角柱に結晶した透明感のある水晶に価値が置かれるため、運がよければ格安で入手できる。
写真のレコードキーパーは、ガネッシュヒマール産の蝕像水晶で、150円(税込)。
むしろ売られていたこと自体が奇跡で、通常は店頭にすら並ばない。
誰もが知っているH鉱物店の方にうっかり見られてしまい、「あー?そういうのって、好みですよね!」とコメントされた、恥ずかしい過去さえある。

ジャンクとはいえ、風水系のショップで絶大な人気を誇るヒマラヤ水晶の代表格、ガネッシュヒマールである。
セルフヒールド(注2)が著しく、ノンダメージ。
人工的に切断された形跡がなければ問題なし。
結晶の至るところにレコードキーパーがバキバキと刻まれ、浮き出ているという珍品。
気に入って窓辺に飾っていたところ、エアコンの工事に来たオッサンが蹴り落とし、ガネッシュヒマールは床に転落した。
ものすごいダメージを食らったが、150円なので仕方ないと笑える。
これがもし15,000円だったら、オッサンごと窓辺から蹴り落とす。

すぐにレコードキーパーが欲しければ、蝕像水晶をあたるのがてっとり早い。
だがネットで買うとなると、価値をわかっている所では高値がつくし、価値を与えない所では商品画像からは確認できない。
独特の構造、不思議な刻印、あり得ない形状。
まだ見たことがないという方がおられたら、店頭で選ばれることをおすすめする。
もう持っているという方は、鉱物標本店に突撃し、お宝探しに励んでいただきたい。
レコードキーパーといえばトライゴーニック
興味のある方はこちらも是非に。



注1)なんらかの物質(熱水やフッ化水素、酸など)の侵食を受け、溶けたようにみえる水晶。エッチングクォーツとも呼ばれる。表面に模様がみられる程度のもの、結晶の形が完全に崩れてしまったものまでさまざま。代表的なものとしては、世界的評価を受けたインドのアイスクリスタル。ブラジルのコリントクォーツ、サラードクォーツなども、女性を中心に人気がある。

注2)水晶がその成長過程で折れるなどして破損することがある。その破損箇所から、新たに別の水晶が成長した結果、ダメージのない水晶が得られる。こうした現象をセルフヒールド(自己修復)と呼ぶ。水晶の自己修復の過程を、人の運命になぞらえ、希望や復活の象徴として扱うもの。代表的な例として、両錐水晶(ダブルターミネイテッドクォーツ/DT)がある。


43×28×20mm  35.9g

2011/08/19

ブルールチル


ブルールチル
Tourmalinated Quartz
Jenipapo, Minas Gerais, Brazil



インディゴライト(ブルートルマリン)の藍色の針を内包する水晶。
ブルークォーツ、インディゴライト入り水晶、インディゴライト・イン・クォーツ、トルマリネイテッド・クォーツ、青針水晶などと呼ばれている。

現在、パワーストーンとして定着している「ブルールチル」の名は愛称。
皆様もご存知かと思うが、ルチルは鉱物名であり、青いルチルは存在しない(→ルチルの原石についての考察)。
ルチルクォーツの知名度が上がりすぎたために、水晶に含まれる針状インクルージョンを、総じてルチルと呼ぶようになった。
流通し始めた当初は、「ブルールチル」という呼び名は鉱物学的に誤りであるとの批判が相次いだ。
ここで今一度、ブルールチルという存在の意味について考えてみたい。

本文下の写真にあるビーズは、手持ちのブルールチル。
ごく初期に出回ったもので、先日確認したら、予想以上に手元に残っていた。
撮影のさい光源の関係で、一部に色ムラが出てしまったが、実物はきわめて透明度の高い綺麗なビーズ。
まだ販売されているのを見たことがない段階で決断を迫られ、私なりに賭けに出た。

メチャクチャ売れた。
必死すぎるくらい売れた。
現在、まだ半連以上残っているということは、途中からどうでもよくなったんであろうと思われる。
数が少ないために、当初枯渇は時間の問題だといわれていた。
しかし現在もなお、ブルールチルのブレスは人気商品として定着している。

写真の石は、ブルークォーツとして今年購入した。
藍色のインディゴライトの針が内包された、いわばビーズに加工される前の原石。
こうした標本の流通が増えており、相場は下落している模様。
こちらのエレスチャル状結晶のほか、エッチングの入ったもの(蝕像水晶)、なぜか加工用大原石も格安で販売されていたので購入した。
ブレスには、それらの原石の100倍近い値段が付いている。
なんと、ホームレスの行き交う大阪市N成区の違法露店でも、ブルールチルが売れ筋だというからたいしたものだ。
白濁した、青い針も満足に見えない玉を使ったブレスでさえ、いいお値段で販売されている。
あれはさすがにどうかと思う。
また、アクチノライトを内包した青緑色や青灰色の水晶もブルールチルとして扱われているようだが、原価が全く違うのだから、一緒にするべきではない。
では、なぜブレスと原石の評価に、ここまで差が開いてしまったのだろう。

ルチルクォーツが爆発的ヒットを飛ばしたのを覚えておられるだろうか。
誰もがルチルのブレスを手に入れた。
ゴールド・シルバーカラーのルチルだけでは、いずれ飽きられてしまうから、先手を打たなければ折角の市場が台無しになってしまう。
そこで、ユニクロの如く、さまざまなカラーのルチルを取り揃え、幅広い層にアピールしてしまおうとする声があがった(想像)。

ゴールド・シルバーに続くのは、ブラックルチル、グリーンルチル、レッドルチル、ホワイトルチル。
加えてやや入手の難しいプラチナルチル、オレンジルチルなど。
最後に最も入手困難な激レアカラー、ブルールチルをプレミア価格にて販売。
消費者は誰よりも素晴らしいブレスを手に入れるため、躍起になる。
ルチルで金運UPを期待するのはもう時代遅れ?

そんなわけで、ルチルじゃなくて!トルマリンとかアンフィボールとかだ!などと騒いでいた標本業界は、パワーストーン業界に遅れを取ってしまった。
価格の暴落の意味するところ、それは石に対するこだわりが過ぎた結果ではないだろうか。
めちゃくちゃ適当な推測なので、本気にしないでいただきたい。

ブルールチル、若しくはインディゴライト入り水晶。
どちらの表記のショップで買い求めるかについては、目的によって選び分けたい。
幸せになれるのなら死んでもいいというあなたは前者、石さえあれば(以下同文)後者がおすすめだ。




40×23×21mm  22.18g

2011/08/11

ピンクファイヤークォーツ


ピンクファイヤークォーツ
Pink Fire Quartz
Minas Gerais, Brazil



透明、もしくはスモーキークォーツ。
しかし突然、ネオンピンクの閃光が石から浮かび上がる。
飛び出す、と言ったほうがいいかも。

あるとき、ブラジルの牧場で、家主が偶然見つけたらしい。
その発見は高く評価され、いつしかピンクファイヤークォーツという名で世界中に流通するようになった。
コヴェライトクォーツ、ティンカーベルクォーツとも呼ばれている。
流通し始めたのは2005年とごく最近のことだが、既に絶産している。
産出そのものが30kg程度しかなかったらしい。
後にも先にも見つかっていない。
大半はカットされ、ルースなどで出回っているが、概ね高価である。

なにがいいのかわからなかった。
写真を見てもピンと来ず、名前も気に入らなかったので、たいして興味はなかった。
2009年、アリゾナのツーソン・ミネラルショーで偶然知り合った台湾人ディーラー。
まだ持っていないと言ったら、「コレは絶対買っとけ!」と迫られた。
日本では一万円近くするピンクファイヤークォーツ。
3000円で12.95ctだからと、騙されたと思って買った。

すぐに、誰もが絶賛する理由がわかった。
ネットなどで画像を見ただけでは、安物のラメ入りマニキュア程度にしか見えない。
どうすごいのか知りたい方は、ショップなどへ出向き、ご自身の目で確かめていただきたい。

ちなみにその台湾人に薦められて、半ば無理矢理、ロシアのサンムーンストーンを買った。
日本に戻ってから、とんでもないレアストーンだと知った。
さすが石の聖地、ツーソン。
ツワモノどもが集まるので、人の話はちゃんと聞いておいたほうがいい。

写真は、ピンクファイヤークォーツの原石。
格安だったので、先日参考に購入。
写真を見ても、なにが面白いのかわからないだろうと思う。
わざとピンボケさせて躍動感を表現したつもりだが、やはり安物のマニキュア(ラメ入り)にしか見えない。

さて、ネオンピンクの閃光が浮かび上がるメカニズムは、いかなるものか。
以前は、「コヴェライト/コベリンという希少鉱物が、水晶に内包されることにより起きる特殊な現象」であるといわれていた。
その後、どうも違うということになっているようである。

藍色のコヴェライトが、なぜピンクに光るのだろうか。
ざっとネットで見た感じだと、プロも含め、誰もが悩んでいるようだ。
コヴェライトは和名を銅藍といい、銅を含んでいる。
銅が水晶に混入すると、赤くなる。
チャルコパイライト(黄銅鉱)を酸化させ、人工的にコヴェライトを作ることがあるそうだが、どちらかというとその色に近いような気がする。

珍しい説を唱えているサイトを見つけた。
興味深いのでコピペ。

・針鉄鋼(ゲータイト)=針状の内包物:紅色
・赤鉄鉱(ヘマタイト)=粒状小結晶の内包物:赤色透明
・緑泥石(クローライト)=六角薄板状の内包物
:透過光…緑色
:反射光…紅紫色

他にも、レピドクロサイト混入説などをみかけた。
本文下に原石の外観を載せたので、よろしければ参照していただきたい。
新手のルチルかと見紛うような、見事な針状インクルージョンが確認できる。
ピンクファイヤークォーツに内包されているのが上記の鉱物であれば、比較的産出は多いはずで、例えば光るガーデンクォーツがあってもおかしくない。
ここまでに希産であり、ブラジルのたった一箇所からしか発見されていないのは奇妙。

結論はもう少し待つべきかと思う。
通常は、結晶を破壊して中身を取り出し、成分を特定した上で市場に出す。
物自体が少なく、高価な石ゆえ採算が取れない。
だから誰も鑑定しようとしなかったのかもしれないが、今になって疑惑が浮上するなど、おかしな話である。
高級品ゆえに責任は重い。
そもそも最初にコヴェライトが入っている!と発言した人は誰だ。
場所的にメロディさんか?

コヴェライトの原石は美しい。
超能力を高めるという、なんだか凄い石でもあるらしいので、気に入って集めている
比較的よく見かけるが、パイライトもしくは前述のチャルコパイライトを酸処理して作られたものがほとんどで、天然のコヴェライトは希産。
自称霊能力者は、ニセモノをつかまされるといわれている。





【後日談】

内包物がコヴェライトでないことが確定しました。2011年12月15日付けで、ピンクファイヤーの浮かぶサンストーンについて取り上げ、ここで、銅ではなく鉄のほうではないかという推測をしました。
2012年3月18日、某デパートにてその事実を確認しました。
以下に、詳細を追記したいと思います。
右の写真はツーソンで半ば強引に購入させられた思い出のルースです。


18×14×11mm  2.2g




【速報】

親切な内田さんのおかげで、あのピンクファイヤークォーツの中身がわかりました。




ヘマタイトでした。
誰か発表した後だったとしたら、残念!



It's called Covellite in Quartz aka Pink Fire Quartz. The bright pink colored reflections have been believed as a effect of Covellite inclusions. but according to the connoisseur there are Hematite inside of. It's sure that "Covellite Quartz" no longer exists. People all over the world have no doubt what this sucker's brightness is, I never know what's true.

販売されていた内田さんは、ピンクファイヤークォーツについてはご存じなく、仕入れが高かったためこのような扱いになった模様。驚いておられました。鑑定した結果、ヘマタイトだったとのこと。海外でもコヴェライトクォーツと呼ばれているので、情報の共有がうやむやになったまま、石だけがあちこちに広まったものと思われます。この石が世界規模で誤解をうけたことが不思議でなりません。

(2012年3月18日 追記)

2011/08/01

アホー石/パパゴ石


アホー石 / パパゴ石
Ajoite & Papagoite
Messina Mine, Limpopo, South Africa



グリーンがアホー石(アジョイト)、ブルーがパパゴ石(パパゴアイト)。
透明感のある水晶に、アホー石とパパゴ石の2種類が入っているクラスター。
あくまで水晶に内包された状態でなければならない。
単体、或いはアゲートなどに内包されていて不透明な場合、その価値は下がるとされる。

アホー石入り水晶、パパゴ石入り水晶ともに希産であり、その美しさから究極の石と称えられてきた。
2種類が混在する結晶はさらに貴重で、鉱物に魅せられた人々にとって、いわばシャングリラのような存在だった。
ダイヤモンドよりも高額な標本が一般的であったが、ここにきて値崩れが起きている。
一生縁がないと思っていた、アホー石とパパゴ石の両方を含む標本が10万円を切ったのは、私にとって衝撃的な出来事だった。

産出は南アフリカ・メッシーナ鉱山のみ。
現在は閉山後に取り出された原石が出回っている。
2006~2008年頃に比較的多くの結晶が発見され、店頭でもチラホラ見かけるようになった。
ただ、本で見たそれとは異なり、形が不完全なものや極端に小さいもの、鉄分で内部が見えないものなどが多く、破損も目立つ。
だからといって、以前より質が落ちたというわけではない。
現在主に流通しているのは未処理石。
つまり、現在流通しているアホー石・パパゴ石入り水晶が本来の姿ということらしい。

では、かつて流通していた、容姿の整った色濃い標本は、何だったのか。
古いコレクションはどれも同じような形をしている。
これらの大半は、原石をカットし、形を整えて、内部の様子が見えやすいよう処理されたものだという。
確かに博物館クラスの標本でさえ、よく見ると結晶面がカットされている。
中には、結晶に穴を開け、不純物を取り除いた上で、石英成分でコーティングしたものも存在するようである。
要は人の手で作り変えられたものだったらしい。

先輩方は、こうした加工処理の事実を知っていたのだろうか、と思うときがある。
中高年の収集家の中には、いくつものアホー石、パパゴ石入り水晶を所有している方がおられる。
その中に、明らかに作り変えられた標本があったのを覚えている。
これだけ値が下がるなら、かつての購入資金で金塊でも買っておき、今購入するほうが安いし価値もある。
複雑な思いだ。

ではなぜ処理する必要があったのか。
そのままでは鑑賞に耐えなかったためである。
南アフリカは植民地として、鉱物資源の採掘がさかんであった。
現在も数多くの鉱山が残されている。
メッシーナは銅鉱山。
銅以外は副産物にすぎない。
そのため、アホー石やパパゴ石に価値が判明するまで、それらは長期間に渡って破棄されていたという。

こんなにも美しい石を、いとも簡単に捨ててしまったのか。
確かに、銅は人体には毒だから、鉱夫たちは、長くは生きられなかったろう。
美しいと感じる心を失うほどに、過酷な人生を生きねばならなかったのかもしれない。
だが、人間はそれほどに単純なものだろうか。

以下、想像。
当時は価値がわかっていなかっただけであり、仮に出てきても内部まで確認できるものは少なかった可能性がある。
その鮮やかな色彩を見て何を想ったか、自宅へ持ち帰った者もいたようだ。
かつての鉱夫のコレクションの存在が、その事実を物語っている。
美しいと思う心は、時を越え、私に教えてくれる。
人間も捨てたものではない、と。


46×43×25mm 38.28g

2011/06/16

ムーンクォーツ


ムーンクォーツ Moon Quartz
Skardu District, Gilgit-Baltistan, Pakistan



満月で月蝕ということで、月にまつわる鉱物を。
ムーンストーン?いいえ、ムーンクォーツです。
正式には、ミルキークォーツ(乳石英)。
ブルーをおびた美しい輝きが、ムーンストーンを想起させることから、その名がついたという。

2年ぶりに鉱物の世界に戻り、すぐに目に留まったのがコレ。
ヒマラヤ山脈はK2で産出するという、ヒマラヤブルームーンクォーツと呼ばれる神秘的な水晶である。

K2は標高8,611m、世界第2位であるが、その難易度はエベレストを上回るといわれている。
大好きなヒマラヤ山脈。
これは絶対に欲しい。
しかし、販売されているのはビーズばかり。
原石の存在について何件か問い合わせてみたが、「わからない」とのこと。
奇妙なことに、誰も原石を見たことがないという。

4月の時点では、原石の存在は確認できず、その正体は謎に包まれていた。
幸い、良心的なディーラーさんのおかげで、いくつか手がかりが得られた。
産出はK2のふもと。
これが重大なヒントとなった。
それらしきパキスタンのディーラーにアタック、一発目でヒット。

写真にあるのが探し当てたヒマラヤムーンクォーツの原石。
実際に採取したオッサン(社長?)から直接譲っていただいた、産地直送品である。
ところどころブルーをおび、あちこちに虹が輝いている。
ジラソルよりは不透明、メタモルフォシスよりは透明といったところ。
その美しさは、ビーズとは比較にならない。
2キロあるという原石のほうも見せていただいた(写真は本文下に掲載)。
一見、巨大な石英の塊。
ビーズに磨けば青く光るなど、これだけでは判断できない。

では、いつ誰がどのように広めたのか。
似たような石が、世界各地で見つかっているという。
ビーズのみ流通しているということは、ほぼ間違いなく中国人が関わっている。

※中華以外も関わっているとの情報をいただいた。詳細については不明であり、言及は控えたい。(2011/6/22追記)

中華は産地を隠蔽するのが大好き。
買い占め、産地偽造、模造品の製作などにことのほか熱心に取り組んでいる。
また、原石は中華式ではつまらないものとされており、どんな珍しい石も輸出用に加工を施す習慣がある。
欧米ではあまり相手にされないので、もっぱら流行に敏感な日本人をターゲットにしている。

気になって調べてみた。
どうやらこの石は、パキスタンの業者の間では知られた存在らしい。
ただ、あまりにムーンストーンそっくりなため、長石として取引されることもあった模様。
欧米の一部でもヒーリングストーンとして扱われていて、Moon Quartz の名で流通があるようだ。

産地は情勢が良いとはいえず、土地としてはあまり良くないと思うのだが、非常にすがすがしい清らかな印象の石で、メロディ氏でおなじみのメタモルフォシスより好きかもしれない(どっちかというとオーロベルディ好き)。
さほど高価な石ではないので、是非原石を手に入れていただきたい。
ムーンストーンやペリステライトとはまた違った魅力がある。




44×39×21mm  22.81g (最大)

2011/05/31

日本式双晶


日本式双晶 Japan law twin
長崎県五島市奈留島水晶岳(旧南松浦郡)



二つの結晶が84°34’の角度で接合し、ハート型になった水晶。
その定義は複雑で、ただ単にハート型にみえるだけでは日本式双晶とは呼ばない。
明治時代、日本で多く発見されたことから、ドイツの学者V.Goldschmidtが命名した。

世界中から産出するが、国産は透明感、形状など、どれをとっても美しい。
国外からはアメジストやスモーキークォーツ、シトリンをはじめ、さまざまな日本式双晶が見つかっている。
しかし、何かが違うのである。
きれいなものももちろん存在する。
全体的にボッテリしており、よーく肥えていて、どことなくマヌケ。
目を凝らさないと何処にあるのかすらわからない標本が多かったりする。
日本を代表する鉱物であるからして、常に国産を携帯しておくのが望ましい。

奈留島産は薄く平らな板状結晶。パーフェクト。
現在は天然記念物に指定され、採掘することはできない。
知名度が上がったのか、評価が高まったのか、相場は年々上昇している。
日本の国石として、ひとつといわず大量に持っておきたい。


20×16×3mm

今週、話題性が確認された10の鉱物

What Mineral Would You Take with You to A Deserted Island?