2011/10/16

日本式三連双晶


日本式三連双晶
Japan Law Twin "Triple"
群馬県甘楽郡南牧村三ッ岩岳



二つの結晶が84゜33'の角度で接合し、ハート型になった水晶を日本式双晶と呼んでいる。
日本式三連双晶は、一つのポイントを軸に、二つの水晶がそれぞれ84゜33'に結合したもので、なかなか見かけない。
先日の秋のミネラルショーにて購入したもの。
平板状の結晶が左右対称に飛び出しているのがわかると思う。

日本式双晶は、たぶん、最も好きな鉱物。
ハート型は避ける性格なのだけれど、初めてこの水晶を見たときは、素直に感動した。
このような結晶が自然にできること。
日本が代表的産地で、"Japanese"というネーミングが世界的に定着していることにも興味を引かれた。
それまでは、狭い日本にマトモな鉱物標本など存在しないと思い込んでいた。
このブログの一発目に取り上げたのも、トップページに画像をくっつけているのも、メールアドレスにしているのも、お気に入りだったから。
ただ、積極的に集めたことはない。
国産鉱物の世界には、知識・経験ともに豊富な年配のファンが多く、何も知らない私には敷居が高かった。
気に入った形の日本式双晶が見つからないというのもあった。

水晶には思い出がある。
私がまだ幼かったとき、家族が山へ水晶を採りに行こうと言い出した。
魔法の結晶。
そんなイメージだった。
日帰りで行ける距離に、そんな場所があると聞いて、嬉しくて眠れなかった。
光り輝くクリスタルを拾う夢を見たほど。

待ちに待ったその日、私は一番に水晶を見つけようと、山を歩いてまわった。
しかし、水晶など何処にも落ちていなかった。
むき出しになった土を入念に調べても、キラキラした結晶はひとつとして現れなかった。
夕方になり、諦めるよう家族に言われた。
裏切られたような気持ちになった。
夢にまで見た水晶は、幻に過ぎないとわかったから。

その後、水晶をプレゼントしていただく機会はあったが、自分から探すことは意図的に避けてきた。
必ず裏切られる、だから絶対に求めてはいけない。
そう思うようにしていた。

鉱物に興味を持ってすぐ、かつてはその山から、美しい水晶が数多く発見されていたことを知る。
噂を聞いた人々がすべて掘り尽くしてしまったのである。
中には、ショベルカーで山を崩しにかかった者もいたらしい。
現地は今、山崩れを防ぐための柵に覆われている。
国内の有名な鉱物の産地のほとんどは、そうした理由で立入禁止になっている。
家族が嘘を言ったわけではなかった。

ふとしたきっかけで知り合った国産鉱物のディーラーであり、収集家でもある大先輩にお会いした。
予想を裏切らない、素晴らしい人物だった。
緊張した。
その方に、どんな鉱物に興味があるかと聞かれ、うろたえてしまった。
所詮は広く浅く、とっさに出てくるはずもない。
言葉に詰まっている私に、その方が薦めてくださったのが、写真の石。
日本式双晶のクラスターかと思ったが、それだけではない。
鳥が羽を広げたような形から、鳥形日本式三連双晶と呼ばれている、極めて珍しい双晶とのことだった。
まったく知らなかった。
福島のほうはなんとか落ち着いていると、笑顔でお答えになった。
涙が出そうになった。

鳥形日本式三連双晶の存在は古くから知られており、日本各地から発見されていたが、長い間幻の水晶として語られていたという。
10年ほど前に群馬からまとまった産出があったものの、すぐに採り尽くされてしまった。
そのうちの一つがこれ。

参考:日本式三連双晶の図解
http://web.kyoto-inet.or.jp/people/pegma/index.html

鳥形日本式三連双晶には、左右対称に成長した双晶の間隔が、60度のものと、120度の二種類がある。
どちらかひとつ。
60度のほうを譲っていただいた。
今にも羽ばたかんとする鳥の羽根に、希望を感じた。
探し求めた究極の日本式双晶がここにある。


21×15×14mm

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