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2012/09/12

マグネサイト


マグネサイト Magnesite
Serra das Éguas, Brumado, Bahia, Brazil



カルサイト?フローライト?
いいえ。ハウライト 別名 マグネサイトです。
イミテーションの素材としてきらわれたハウライト(→詳細は本物のハウライトに記)の、さらなる偽物として知名度を上げ続けるマグネサイトに、鉱物標本として高い評価が与えられることが稀にある。
写真はブラジル名物のマグネサイト・クラスター。
この産地からの透明結晶は、世界で最も美しいとされ、各方面での評価は高い。
宝石にカットされることもある。

通常、マグネサイトは白く粗い塊状で産出する。
色合いや質感、網目のような模様はハウライトに非常によく似ている。
そのため、両者はしばしば混同されるが、全く別の鉱物である。
マグネサイトは重要なマグネシウム資源に位置づけられ、その用途は幅広い。
世界各地から産出があり、現在も膨大なマグネサイトが地中に眠っているといわれている。

この立派なクラスターは4年ほど前、お世話になっている社長から譲っていただいたもの。
マグネサイトの安価なイメージからは想像も出来ない高級品である。
この美しいキューブ状のマグネサイトがヒーリングストーンとして注目を集めたのも、ちょうどその頃。
ひとつひとつの結晶から放たれるやわらかな光は高い霊性を宿し、特に瞑想に向いているとされ、高値で取引された。
瞑想を趣味とする私が殊更大事にしているレアストーンのひとつなのだけれど、既に過去のものとなってしまった印象を受ける。

マグネサイト(ハウライト)若しくはハウライト(マグネサイト)というややこしい表記が常識となった今、かつての輝きは忘れられつつあるようだ。
ウバイト・トルマリンと共生した小さな結晶は僅かに流通があるようだが、もはや廉価な白い研磨品が主流となっている。
パワーストーンとしてのマグネサイトの位置づけは、危ういものとなっている。
ハウライトだと思っている人もいらっしゃるかもしれない。
マグネサイトの本質は、"厄介な偽物" だけではなかったはず。
やわらかな光に満ちたこの至極の輝きこそ、マグネサイトの醍醐味であり、本来評価の対象となるべき姿であると私は考えている。




60×43×38mm  85.92g

2012/09/08

青水晶(ブラジル産)


青水晶 Blue Quartz
Jenipapo, Itinga, Minas Gerais, Brazil



先日、鉱物のインクルージョンに対する自分の認識の甘さを痛感した。
そこで、前々から気になっていた、インクルージョンの不思議に迫ってみたい。

写真は、過去にブラジルから産出した青水晶、ブルークォーツ。
この青は水晶に内包されたインディゴライト・トルマリンに由来するとされ、インディゴライト・イン・クォーツとして絶大な人気を誇った。
俗にブルールチルと呼ばれる青い針の満載された水晶。
これも同様の原理に因るとされている(ルチルの詳細と意味、効果はこちらにございます!)。

私が鉱物に興味を持った頃、青水晶・ブルークォーツといえば専らこれだった。
スペイン・マラガからの青水晶の流通もまたあったが、多くの人々は「ブルークォーツ=インディゴライト」と受け止めていた。
私が初めて手にした青水晶も、2005年頃流通したこのブラジル産になる。

水晶のインクルージョンというのは非常に難しい。
特に青水晶の場合、発色の原因となる鉱物は多岐に渡り、すべてのインクルージョンを特定することは不可能に近い。
例としては、トルマリンのほか、リーベカイト、クロシドライト、アクチノライト、デュモルチェライト、ラズライト、アエリナイト、シャッタカイト、プーランジェ鉱、パパゴアイト、ギラライトなど。
私自身、水晶や水晶の内包物については勉強不足であり、物足りなさを感じている。

写真にあるのは、過去のブルークォーツ。
当時はインディゴライト・イン・クォーツ、ブルーファントムクォーツなどと呼ばれていた。
出始めの頃は細長いポイント状に結晶し、写真のようにショール(ブラックトルマリン)の柱状結晶と共生するのが常であった。
二つのポイントが交差し、さらにショールを伴うという点で、現在主流となっている青水晶とは異なるものと考える。
内包されたインディゴライトは、ここでは針状というよりむしろ毛状というべきか。
非常に繊細なトルマリンがブルーの濃淡となって、幻想的な光景を創り出している(本文下の写真)。

インディゴライト・イン・クォーツに対しては、かねてから疑問があった。
インディゴライトは純粋な青ではない。
ブルーとグリーンとの絶妙なバランスが求められる。
仮にインディゴライト・イン・クォーツが存在するとすれば、文字通りインディゴカラーになるのではあるまいか。
写真の標本はブルーグレーである。

内包物というのは本当に難しい。
一般に、外観からの特定は困難である。
インクルージョンが何であるかは、同じ鉱脈から採れた標本を参考に推測することが多いが、複数の鉱物のインクルージョンによる発色であることも少なくない。
この難解さゆえに、収集家を魅了してやまないともいえるだろう。
さらに、日本においては、インクルージョンのみられる透明水晶の人気は極めて高い。
産地や内包物に関する情報の混乱が、人々を困惑させるのは想像に難くない。
水晶の中身を特定しておくことは、国内においては重要である。

反省を込め、ブラジル産青水晶のインクルージョンは、本当にインディゴライトなのか、考察してみたい。
まず、大雑把に説明すると、インディゴライトは以下のように位置づけられる。

インディゴライト<ブルートルマリン<エルバイト<トルマリン

定義上、インディゴライトはブルートルマリンの一種ということになる。
また、ブルートルマリンとインディゴライトには連続性がある。
全米宝石学会(GIA)では混乱を防ぐために、ブルートルマリンとの表記を推奨しているそうだ。
つまり一般には、インディゴライトの色合いは純粋な青ではなく、グリーンとの絶妙なバランスが求められる。
"ブルーグリーンルチル" にしか見えないブレスも実在するいっぽうで、純粋なブルーの針が確認できることがあるのもまた、事実である。

過去に流通したブルークォーツの特徴は、灰青色の濃淡のみならず、美しいショールの結晶を伴うこと。
以前インディゴライトの原石を紹介した(→記事はこちら)。
写真で確認できるように、エルバイト・トルマリンにはブルー、グリーン、イエロー、またピンクがある。
ブラックトルマリンとブルートルマリンは異なるグループに属する。
ショールも水晶のインクルージョンとして珍しくはないのだから、二色の針が認められてもおかしくないはずなのだが、この標本に関しては、青と黒が混在している様子はない。
いっぽう、柱状に結晶したショールは鉱物標本としても価値があり、キロ売りで販売中の岩のようなブラックトルマリンとは別格とされている。

さて、インディゴライト・イン・クォーツに関して海外サイトを検索したところ、日本のサイト以外出てこない。
海外では、ブラジルの青水晶は、オレナイト(オーレン電気石)のインクルージョンに因るものと説明されている(→参考写真)。
なんじゃそりゃ、知らなかった。
オレナイトとは、ピンクまたはブルーを示す珍しいトルマリンで、エルバイトやショールとは異なるグループに属するようである。
希少石オレナイトを華麗にフューチャーし、その価値をアピールしているところもある。
なお、同じブラジル産水晶に、ブルーターラクォーツがある。
こちらもリーベカイト及びオレナイト由来の発色といわれているが、リーベカイトのインクルージョンとするのが妥当であろう。
パキスタンのザギマウンテンからもリーベカイト由来の青水晶が発見されている。

オレナイトは産出そのものが少ないから、まだ確定というわけではない。
気になるのは、過去のブルークォーツと共生するブラックトルマリンが、直射日光下で赤紫に見えること(→参考写真)。
他所からはインディゴライトとショールの針が同時に入った水晶も発見されているようである。
現時点ではブルートルマリンとするのが無難であると考えている。
水晶の内包物というのは、難しい。




35×24×22mm  14.11g

2012/08/27

ゼノタイム(ザギマウンテン産)


ゼノタイム Xenotime
Zagi Mountain, Mulla Ghori, Khyber Agency, FATA, Pakistan



イットリウムを含む希少石、ゼノタイム。
アプリコットのような優しい色合いが印象的だが、立派な放射性鉱物である。
ゼノタイムは一般に、不透明なダークブラウンの結晶となって産出する。
パキスタンから近年発見されたオレンジやレッドに輝くゼノタイムは、世界中の愛好家たちを熱狂させた。

写真はゼノタイムをラベルに載せて撮影した。
出処は米国、表記はアフガニスタン。
当初、この標本はアフガニスタン産として流通したらしいのだ。
再調査の結果、パキスタンのザギマウンテン産であることが判明、業者側で産地を訂正したという。
セイクリッドシャーマン、ザギマウンテンクォーツで有名になった聖なる山、ザギマウンテンからは、多くの資源、魅力的な希少石の数々が発見されている。
中でも、この産地からのゼノタイムの美しさには定評がある。
アフガンの鉱物が、諸般の事情からパキスタン産として流通していることを不審に思われている方もおられることと思う(→詳細はパライバじゃなかったパライバトルマリンに記、主にアメリカ)。

パキスタンの鉱物の産地が曖昧にされることは多い。
理由のひとつは、掘る人と売る人とが同じではないこと。
隣接した国々からパキスタンに運ばれてきた鉱物を、現地のディーラーが扱うこともある。
特にアフガニスタンの鉱物の場合、同時多発テロの恐怖が売り上げに影響するのを危惧し、パキスタン産と言い換えることも考え得る。
また、複雑な事情のある地域では、実際に採掘に入れる人を限定し、詳細を伏せることがあるとみている。
売り手にもどこから来た石なのかわからないことがある。
それを責めるわけにはいかない。
この標本の産地が訂正された理由についても、想像することは可能である。
つまり、産地には厳しいこだわりを示す欧米諸国の収集家でさえ、ザギマウンテンを特定できたのはごく最近のことだったのだ。
十年以上経った現在も、世界中がザギの謎に当惑している状態ということになる。
産地で何が起きているかわからないといえば、中国も同じ。
ただ、中国であれば専門家が入ることもある。
調査の結果、素晴らしい鉱物の存在が認められ、詳細な産地や産状が明らかになることも多い。
余程の事情がない限り。

パキスタン北部、アフガン国境に位置するザギマウンテン。
レアアースの宝庫として近年注目を浴びる土地である。
ゼノタイム以外にも、稀にみる品質を誇る稀産鉱物が多く発見され、研究者や収集家たちを驚かせた。
宝の山なのは明らか。
だが、国外の専門家が現地入りすることは、固く禁じられているそうだ。
鉱物研究の進んだ国の専門家にしかわからないことはある。
いまだ存在の明らかにされていない希少石も少なくないとみられる。
おそらく、誰もがザギに入りたくてたまらないはずだ。

もし、どうしてもザギへ入るつもりなら、少し荒業を使う必要がある。
あのテロリストの息の根を止めたカラシニコフくらいは用意したほうがいい。
宝の山が意味するところ、それは戦争である。
我々が世界中の美しい鉱物を手に出来るのは、日本が平和だからである。
我が国の資源はほぼ枯渇している。
それがいかに幸運なことか、戦地を旅した人々は知っている。
世界には、いまだ眠ったままになっている資源は数知れず、それらが必ずしも平和的な目的で採掘されるとは限らない。
戦争が人を狂わせるのは、今に始まったことではない。

鉱物資源は、戦争の資金源として重要な役目を担う。
鉱物だけとは限らない。
外国人に見られてはならないことがザギで行われている…
そう考えることも、可能だ。
レアアースはヘロインに並ぶ利益をもたらす、とは面妖な。
パキスタン全土が危険なわけではない。
ただし、ザギのあるパキスタン・アフガン国境を目指すことは、現実的とは言えない。

参考)アフガンの鉱物資源に関する記事だが、パキスタン国境付近の状況についても言及がある:
http://www.asyura2.com/10/warb4/msg/886.html

鉱物をこよなく愛する人々にとって、曖昧な産地は悩みの種となる。
情報が欠けていることによって、石の評価は下がってしまう。
コレクションの分類に頭を抱えるはめにもなる。
しかし、真実を追求したがために不幸な事件に巻き込まれ、命を落すことがあるのもまた、現実だ。
過酷な状況を耐え抜いて届けられたザギの鉱物に、何をみるかということだと思う。
この初初しいゼノタイムの伝えるもの、それは美しさや希少価値、神秘性だけだろうか。
世界には、平和を叫べない土地がある。





18×12×10mm  4.15g

2012/08/24

セルサイト


セルサイト/白鉛鉱
Cerussite
Tsumeb Mine, Tsumeb, Otjikoto Region, Namibia



太陽の下で七色に輝く光の結晶、セルサイト(白鉛鉱)。
アゼツライトもびっくりの堂々たるお姿である。
透明感あふれる見事な連晶で、ツメブ鉱山からの産出品とのこと。

ナミビアのツメブ鉱山は、世界を代表する鉱物の産地。
歴史的な標本を数多く産した。
ロシアのコラ半島、カナダのモンサンチレールに並ぶ稀産鉱物の宝庫として知られている。
ツメブ鉱山からの標本はいくつか手持ちがあるが、世界中の収集家が絶えず目を光らせているから、素人が入手できるような標本はしれている。
私自身、ツメブのセルサイトを手にしたのは、これが初めて。
まほろばというのは、このことをいうのだろう。

セルサイトは鉛を含む鉱物。
見た目は軽そうだが、持ち上げるとずっしり重い。
では頑丈なのかというとむしろ逆で、非常にもろく、意図せず崩れてしまうこともあるようだ。
硬度は3と、カルサイト程度ということだが、扱いの難しさはカルサイトの比ではない。
鉛のメタリックなイメージからは想像もつかない。
輸送中に壊れてしまうこともあるという。
その性質ゆえ、アクセサリーなどに用いることができず、専ら観賞用となる。
ビーズになることなどまず無いから、パワーストーンとしての知名度も低い。
そもそも「セルサイト」という名前自体、これといったインパクトがなく見逃しがち。

ツメブ鉱山からはスミソナイト、マラカイト、ミメタイト、モットラマイト、ダイオプテーズ、マンガンカルサイトなど250種類に及ぶ鉱物が発見された。
鉱山の名を冠したツメブ石に代表される、55種類の稀産鉱物はここツメブを原産とする。
ツメブ鉱山が閉山したのは15年ほど前。
水没し、消えてしまった。
産地からの標本の流通は減り、需要に供給が追いつかず、今後の高騰は避けられない。
セルサイトそのものは世界各地から産出があるが、その品質の差は明らか。
世界中の収集家に絶大な支持を得ていることにも納得がいく。

このセルサイトはツメブの魅力を伝える片鱗に過ぎない。
歴史的価値のある標本であれ何であれ、金の力で手に入れることはできる。
収集家の信念が問われるところであろう。




28×26×20mm  34.04g

2012/08/19

モリオン(ウクライナ産黒水晶)


黒水晶/モリオン
Quartz var. Morion
Volodarsk-Volynskii, Zhytomyr Oblast', Ukraine



昨年、2年ぶりに鉱物の世界へ戻って、違和感を感じたことが二つある。
一つは2年前には既に馴染みのあった石がまさに売り出し中であったこと。
もう一つは、市場価格が十万を越えることもあった天然黒水晶(モリオン)の相場が、一万円をきっていたことだ。
後者に関しては、衝撃であった。
産地は軒並み中国、東は山東省(朝鮮半島側)、西は四川省及びチベット自治区などから、モリオンが同時多発的に発見されている。
いずれもペグマタイトから産出したとみられるスタンダードな天然モリオン。
偽物ではない。

放射線の照射さえ行えば、すべての水晶が黒くなるわけではない。
特殊な条件を備えた水晶のうち、地中の放射線を長期間に渡って浴びる環境にあって、ごく稀に生成される。
大半はスモーキークォーツの段階で発見されている。
光さえ透さない漆黒のモリオンは、長い間、誰もが憧れる幻の石であった。
放射能を防ぐパワーストーンとしてお茶の間で話題になるなど、想像できようか。
短期間に相当量の産出があったとしか思えない。
それらは薄利多売ビジネスを目論む業者のもとへ渡り、ブレスレットに姿を変え量産されている。
中国がいかに広いとて、奇妙である。

かつては放射線処理によって人工的に黒く改変させた黒水晶/モリオンが中国で製造され、半ば暗黙の了解のもと市場に流通していた。
何も知らずに初めて手に取ったとき、気分が悪くなった。
私だけではない。
周囲の人々が皆、怖がるものだから、手放さざるを得なかった。
モリオンが放射能を利用して作れるものと知ったのは、ある方との出会いがきっかけ。
チェルノブイリ事故の影響で、ロシアから大量にモリオンが発見されている、と私に教えてくださった。
おそらく事実ではない。
しかし人間たるもの、よからぬ想像をしてしまう。
天然の放射線によって水晶が黒くなるのであれば、半人工的に出来た黒水晶も存在するのではないか。
放射能汚染の顕著な地域に的を絞って掘り当てたのではないか。
折りしも福島での原発事故直後。
被害に遭われた方々の心情を思うと、大きな声で言えるはずもなく、人々の不安を助長させる行為に及ぶのは憚られた。

結論からいうと、おそらく中国の核とモリオンは無関係。
というのも、最も信頼性の高いモリオンの産地・山東省は、北京にほど近い "安全" な地域にあたる。
チベット産や内モンゴル産については産出の確認が取れていない(→モンゴル近くの黒龍江省からチベットモリオンが出ている可能性あり。くわしくはこちら)。
最も放射能汚染が深刻な新疆ウイグル自治区からは、美しい透明水晶が発見されている。

中国政府の発表によると、1964年から1996年までの32年間、新疆ウイグル自治区において46回に及ぶ核実験が行われたという。
実際にはそれを上回る原水爆が使用されたおそれがあり、現在も多くの人々が苦しんでいるといわれている。
チベット自治区では、放射性廃棄物処理施設による汚染が問題になっているほか、複数の核兵器関連施設における事故の噂があり、詳細は明らかにされていない。
内モンゴルにおいても同様の問題が取り沙汰されている。
いずれも少数民族の居住地であり、首都・北京から遠く離れているのがその理由とのこと。

いっぽう、チェルノブイリ原発事故の影響で、ロシアからモリオンが発見されていたという説に対しても、信憑性は薄い。
旧ソビエトとロシアを混同しているのは明らか。
放射能による被害が最も大きかったのは、チェルノブイリのある現ウクライナ、隣接のベラルーシ。
ロシアでも深刻な被害が出ているとのこと(→チタニアダイヤに記)であったが、ロシアの特定の場所からモリオンが大量に見つかっているという事実はない。

その手がかりを探るべく捜していたウクライナ産モリオン。
先日ようやく見つけ出したのが写真の石である。
格安で出ていたので即決した。
真っ黒でずっしり重く、エレスチャル状に成長した文句なしのモリオン。
ペグマタイトの匂いがプンプンする。
底面中央には穴があり、内部が漆黒の結晶で満たされている(本文下の写真)。
ウクライナには、大自然の創り上げたモリオンが存在する。
チェルノブイリとモリオンの関連性については、噂に過ぎなかったものと信じたい。

このモリオンが発見された場所は、このブログを作るきっかけとなったヘリオドールに同じ。
チェルノブイリから車で2時間半かかる距離だというから、関連性は無いと考えるのが妥当であろう。
ウクライナにおいて、1986年頃を境に、放射線処理が必要なはずの幻の宝石がいくつか発見され数年後に枯渇していること、また人工照射に失敗したとみられる不自然なウクライナ産モリオン(→wikipediaからは削除されていました/参考写真)が存在する理由については、直接手にとっていないため、分からない。

なお、wikipediaによると、かの毛沢東氏は「たとえ地球に大穴が開いても、あるいは地球が粉々に吹き飛ばされたとしても、太陽系にとっては大きなことかもしれないが、宇宙全体から見ればとるにたらない」と、地球の終焉を示唆している。
また、核汚染がきわめて深刻とされるタクラマカン砂漠やゴビ砂漠の砂は、黄砂となって日本に飛来している。



この標本は1990年産出とのこと。
ヘリオドール鉱山が閉山した年にあたる。


80×55×48mm  182.1g

2012/08/10

シプリン


シプリン Cyprine
Sauland, Hjartdal, Telemark, Norway



本日は、涼しくなれそうな一品を。
レアストーン・シプリンで味付けした特製かき氷でござる。

白い石英を流れるように染めるスカイブルーとピンクの色彩。
春のミネラルショーで目に留まり、思いのほか安価だったので購入した。
シプリン(含銅ベスプ石)はべスピアナイトの変種で、美しいブルーの色合い。
ベースはクォーツ(石英)。
シプリンが石英に取り込まれているため、色が明るくなって見える。
他に、チューライト(桃れん石)、グロッシュラー・ガーネット、フローライトが入っていると記載があるが、肉眼では判別できなかった。
鮮やかなピンクはおそらく、ノルウェーを代表する鉱物、チューライトの発色ではないかと想われる。
なお、このところ流通しているチューライトのタンブルは、異常なほどに鮮やかな色をしている。
よく確認したほうがいいだろう。

ベスピアナイトには様々な色合いがあり、原石の様子や呼び名が異なることがある。
素人には同じ鉱物とわからない。
カナダのジェフリー鉱山から産出するオリーブグリーンのべスピアナイトはアイドクレースと呼ばれ、カットされて宝石になる。
同じくジェフリー鉱山からのパープルの透明石、中国のテリのあるアンバーブラウンの結晶も大変美しい。
また、手持ちのアフガニスタン産シプリンのルースは、サファイアのような深いブルーの色合い。

暑い夏にはかき氷。
以前お手伝いしていたアートカフェで、氷の塊をガリガリやった夏の日を思い出す。
古い家屋をアレンジしたお店だったので、冷房がきかない。
食欲が失せるへんなカフェ。
レトロな扇風機がいくつも並ぶ。
謎の人物が次々に店を訪れる。
常連の犬もいる。
オーナーは指定席でずっと酒を飲んでいる。
かと思いきや、出かけたまま帰ってこなかったりする。
誰かが演奏を始め、毎日のように議論に参加させられ、閉店後も眠ったまま起きないお客さんを放置して帰る。
今となっては懐かしいあの店の顔ぶれは、今も変わり無いだろうか。


61×53×32mm  84.39g

2012/07/31

フローライト(ケイヴ・イン・ロック)


フローライト Fluorite
Minerva #1 Mine, Cave-in-Rock, Hardin Co., Illinois, USA



伝説のイリノイ州ケイヴ・イン・ロック、ミネルヴァ鉱山のフローライト(蛍石)。
世界でも有数のフローライトの産地であるケイヴ・イン・ロックには、かつて数多くの鉱山が存在した。
現在はすべて閉山し、古いコレクションを中心に流通している。
中でもミネルヴァ鉱山のフローライトは、歴史に残る標本を多く産したことで知られている。

数ヶ月前入手した、コレクターからの流出品。
明るいパープルからオレンジ色が見え隠れする面白い標本で、一部にクラックが入ってしまっているために、一桁お安くなっていた。
ミネルヴァ鉱山ならではのパープルの結晶にイエローが混ざりこみ、オレンジやピンクに見える。
幻想的と表現されることの多いフローライトだが、とりわけ華やかな色彩が目をひく。
この産地からの標本は、黒に近いパープルが多い。
写真の石も、直射日光で撮影したため明るい色合いに見えるが、一見すると暗い。
この標本の持つ明暗に、まだ見ぬイリノイの街や歴史、人々の行き交うさまを思う。

フローライトは一般に、色あせが起こりやすいとされる鉱物。
日のあたる場所に置いたために、なにか別のモノに変身してしまい、衝撃を受けたことが数回ある。
濃厚な色合いがほんのりパステルカラーと化すなど、私に予想できようか。
紫だったアメジストがミルキークォーツに変わり、驚いた方はおられるかもしれないが、これも同様の現象。
いったい何が起きたのだろう。

鉱物の退色や変色は、その色合いの原因が、カラーセンターによる発色(他色/仮色)である場合に起きるとされる。
説明するのは非常にややこしいので、興味のある方は資料を参照していただきたい。
大雑把にいうと、分子や原子のレベルで異変が起きている。
鉄分や銅、クロムなど、不純物に由来する着色ではない場合、発色は安定しないとされる。
放射線処理による色味の改善は、その性質を利用したもの。
退色するおそれのある鉱物として知られるのは水晶やクンツァイトとその仲間たち、トパーズ、ダイヤモンド等々、またフローライトは特に紫は要注意とのこと。
"日光浴・日光による浄化を避ける" と記載のあるパワーストーンに同じ。
詳細は以下のサイトがものすごく、詳しい。

参考:天然石の色
http://www.yebiya.com/material/about_stone/color.html

その他参考:ケイブ・イン・ロックの消息(イリノイの蛍石に対する愛が満載です)
http://www.ne.jp/asahi/lapis/fluorite/column/illinoisfr.html

私の想いを告白するなら、フローライトによりいっそう興味を持った頃合いが最も危険である。
ついついケースに入れて飾り、色別に並べて、光による色の移り変わりを楽しみたくなる。
それが命取りになる。
歴史的価値のある標本を購入する前に、泣いておいて良かったと思う。
失われた色合いは戻らない。
それは、ひとつの石の歴史が終わることを意味する。
この標本のかつての持ち主は、戦後に活躍したニューヨークのミネラルハンターで、98年死去。
ラベルの状態を見た感じ、1950~60年代の採取品だろうか。
偉大なコレクションは長い年月を経てもなお、私たちに感動を伝えてくれる。


45×40×32mm  89.35g

2012/07/30

フローライト入り水晶


フローライト入り水晶
Quartz, Fluorite Inclusions
Miandrivazo, Amoron'i Mania, Fianarantsoa Province, Madagascar



クリアな水晶に浮かぶフローライトのインクルージョンが清々しい。
2005年頃、マダガスカルからわずかに発見されたという。
ちょうどその頃、命と引き換えに(?)鉱物の世界にたどりついた私は、すぐに興味を抱いた。
スーパーセブンの流行で水晶のインクルージョンに対する関心が高まり、「とりあえず水晶に入ってる何か」を探していた人々が、この美しい石に夢中になったのは必然的なこと。

鉱物標本として、またヒーリングストーンとして、高い評価を受けたフローライト入り水晶、フローライト・イン・クォーツ。
同じくマダガスカル産の星入り水晶とともに量販された。
しかし実際には、産出は200kgほどしかなかったらしい。
流通は減り、質の悪化とともに人気は失速していく。
現在流通しているフローライト入り水晶は透明感に乏しく、内部の様子が見えるようカット、研磨することが多いようである。

初期に流通したフローライト入り水晶の原石ポイント。
水晶に含まれる青紫の鉱物がフローライトである。
よく見ると八面体に結晶している。
氷のように清らかな水晶は変形していて、フローライトのインクルージョンの魅力を引き立てている。
本文下に外観の写真を掲載した。
中央は空洞になっている。
表面には多角形の刻印のようなくぼみが多数みられる。
これは、かつて存在したフローライトが、何らかの原因で外れた跡だといわれている。
周囲の白いインクルージョンもフローライトであると考えられている。

数箇所に切断面(削られた部分)があるため、鉱物標本ではなくヒーリングストーンとして販売されていた。
当時は安価だったため他にも原石の手持ちがあるが、透明感はこれがベスト。
空洞に関しては、自然に形成されたとみられる。
まさかこの空洞にも、元々フローライトが入っていた…
か、どうかは、わからない。
表面の至るところにフローライトの痕跡があり、模様のようになっているから、かつてはフローライトだらけだったのだろう。
もしかしたら、空洞部分もフローライトだったのかもしれない。

フローライトには六面体と八面体がある(→うさこふ作成の図解参照)。
もしインクルージョンが六面体結晶であったなら、評価は若干かわっていたかもしれないと思うときがある。
八面体フローライトは一般に、高温の環境下で形成されるといわれている。
夏は暑い。
暑は夏い。
涼しい風を運んできそうな、今となっては貴重なこのフローライト入り水晶(の画像)を、頑張っているあなたにお届けします。




60×30×26mm  39.38g

2012/07/22

ベニトアイト/ネプチュナイト


ベニトアイト/ネプチュナイト
Benitoite, Neptunite
Benitoite Gem Mine, San Benito Co., California, USA



ベニトアイト(ベニト石)の散りばめられた母岩から、ネプチュナイト(海王石)の結晶が飛び出した豪華な標本。
どちらも稀産鉱物として知られ、小さいながら多くの結晶とその形態を楽しめる良品となっている。
写真の右上に見られる、赤みを帯びた黒い結晶もネプチュナイト。
マンガン成分が多いほど赤く見えるそうだ。
結晶のほうは真っ黒だから、それらを同時に観察できるのも嬉しい。
母岩はソーダ沸石とのこと。

ベニトアイトは希少石の中でも人気の高い鉱物。
カットすると美しい輝きが出るため、収集家の間で長く愛されてきた。
カリフォルニア州では "州の石" とされ、珍重されているという。
ベニトアイトは1906年、カリフォルニアのベニトアイト鉱山から発見された。
原産地からの採掘は終了している。
カリフォルニアのベニトアイト鉱山が唯一の産地とされることから、希少性は増すばかり。
多くはカットされ流通しており、宝石としての人気も高い。
何故こんなものを持っていたのか忘れてしまったが、先日倉庫から出てきた。

この標本の見所は、水晶のような端正なネプチュナイトの結晶のサイドに、ベニトアイトがくっついていること。
もともと産地からはベニトアイトとネプチュナイトが産出することで知られているが、互いにくっついているのは見たことが無い。
誰もが憧れる二つの鉱物が仲良く共生している姿は、なんだか微笑ましい。




32×20×12mm  3.88g

2012/07/21

フローライト(ナミビア)


フローライト Fluorite
Okurusu Mine, Otjiwarongo, Namibia



ブルー・グリーン・パープルの絶妙な組み合わせ。
ナミビア産出のフローライト(蛍石)。
背たけの低い群晶の底面がゆるやかにカーブを描く。
まるで、アンティークのガラス食器のように、幻想的な光景が広がる。

2007年のツーソンミネラルショーにて、特に何も考えずに購入したもの。
当時、私はフローライトを「鉱物の一種」程度にしか捉えていなかった。
安いわりに目立つからストックしておこう…
などという、愚かな動機で購入した。
まさかその後自分がフローライトに目覚めるなど、思いもしなかった。

ツーソンの卸売りコーナーの一角を占拠し、大量に積まれていたナミビアンフローライト。
まるで人の手で造られたかのような、乱れの無い完璧な結晶だった。
興味のない人間が見ても気に入るようなフローライトが、ナミビアから大量に採れるものと勘違いしてしまった。
山積みのダンボールに詰め込まれていた鉱物の中には、今となってはもう見ることの無い石も含まれていた。
このナミビアンフローライトも、ざっと見た感じ、そのひとつに含まれるようである。
てっきりこうした形の整った良品が、コンスタントに出ているものと思い込んでしまったが、そうではなかったようだ。
アンバランスな欠片や破損品、切断面の目立つ原石が、良いお値段で販売されている。

鉱物標本を集めている人たちは、しばしば加工品を見て腹を立てる。
水晶と同様、フローライトにもその傾向が見て取れる。
このナミビア産をはじめ、南アフリカ産、英国産、ドイツ産など、比較的色幅のある標本なら、原石につきる。
表面の構造(骸晶やエッチングなど)が完全に光を通さないために、複数の色が溶け込んだかのような幻想的な光景が広がるというわけ。

しかし、当時これに似たナミビア産フローライトを購入した人々は、一体なにをしておられるのか。
少なくとも2、3年前、ツーソン買い付け品として、国内でもかなりの量が出回った。
私がこれを手放さなかったのは、単に忘れていただけで、先日見つけて驚いた。
感動の再会が待っているかもしれないから、あなたもどうか見つけ出していただきたい。
お手持ちの標本がやがて、産地別・カラー別・結晶構造別などに分類され始めたら、あなたも立派な「フローライトに魅了された人」である。
高価な標本が多いので、無理はなさらずに。

インパクトやわかりやすさに関しては水晶に及ばないが、見るたびに味わいが増すとすれば、フローライトのほうだろう。
光をとどめた結晶内に溶け込む色彩がさらなる色を生み、調和するさまは、ちょっとした万華鏡のようだ。
無限の可能性を秘めた光の幻影。
水晶がアッパーなら、フローライトはChill Outかな。


60×45×19mm  54.81g

2012/07/18

シャッタカイト/カルサイト


シャッタカイト Shattackite
Kaokaveld, Kunene Region, Namibia



美しいブルーの希少石、シャッタカイト(シャッツク石)。
以前水晶に内包されたものをアップしたが、こちらは水晶でコーティングされたもの。
ざらめのような細かい水晶の粒が、水色に染まっている。
シャッタカイトに独特の、ボール状の結晶形の名残りがみられる。
大きなカルサイト上に2箇所、水晶に彩られたシャッタカイトが顔を覗かせる、面白い標本。

シャッタカイトを知ったきっかけは、ナミビアから産出するというクォンタムクアトロシリカ(→写真)というヒーリングストーンだった。
クリソコラ、マラカイト、シャッタカイトが石英に入ったという鮮やかな色彩のその石は、タンブルに磨かれて広く流通した。
その後、シャッタカイトは入っていないという話になったため、動揺した方は多かったはず。
私はシャッタカイトの名に惹かれて入手したも同じだった。
ではあのブルーはなんだったのか。
現在も真相は明かされていないようである。

シャッタカイトは1914年、米・アリゾナ州でマラカイトの仮晶となって発見された銅にまつわる鉱物。
銅を含む石として有名なのは、シャッタカイトの他にマラカイト、クリソコラ、アズライト、ダイオプテーズ、ターコイズ、キュプライト、アジョイト/パパゴアイトなど。
銅の二次鉱物として最も一般的なのはマラカイト。
古い十円玉に発生する緑の物体(緑青/ろくしょう)は、実はマラカイトである。
上記の鉱物がマラカイトと混在して発見されることは多い(例:アズライトマラカイト、マラカイトキュプライト、エイラットストーン、ターコイズもそう)。
クォンタムクアトロシリカに含まれる青についても、上記のいずれかに該当する可能性はある。
名前が挙がらないということは、銅の類いであったに違いない。

アズライトとマラカイトなのか、シャッタカイトとマラカイトなのか、素人には見分けがつかない。
シャッタカイトがアジュラマラカイトと誤解されているケースよりむしろ、とりあえず青いからシャッタカイトと呼ばれているケースのほうが多いような気がしてきた。
ターコイズカラーのシャッタカイトも研磨されて流通している。

標本の産地はシャッタカイトが発見されることで有名な土地。
特に石英と共生して発見される標本は高い人気がある。
強いバイブレーションを持つ霊的存在としてヒーリングの世界で珍重されているシャッタカイト。
そのバイブレーションが本物かどうか、今一度確かめる必要がありそうだ。




50×43×30mm  43.98g

2012/07/08

スファレライト


スファレライト Sphalerite
Las Manforas Mine, Picos de Europa National Park, Cantabria, Spain



閃亜鉛鉱の名でも知られるスファレライト。
主にコレクション用のカットストーン(ルース/宝石)として流通していて、ビーズなどに加工されることはない。
希少石ながら世界中から産出があり、色合いはさまざま。
他の鉱物と共生することも多く、その魅力は一言では語りつくせない。
スファレライトは黒褐色の塊であることが一般的だが、スペインから産出したこの宝石質の標本は、鮮やかな色彩とメタリックな光沢を特徴とし、世界中の収集家から愛されている。
宝石質のスファレライトは、かつて日本からも発見され「べっ甲」と呼ばれ親しまれていたそうだ。
いずれも採掘は終了している。

鉱物に興味を持ち始めた頃、真っ先に注目した石のひとつ。
なんでも、古くから「霊力を高める石」として、世界各地の民族の間で儀式に用いられてきたらしい。
感性を高め、メッセージを受け取りやすくする力はなんとなく欲しい。
なんと、思考の偏りを正す力もあるというから、ひねくれ者の自分には最も適したパワーストーンである。
それまでは黒褐色のスファレライトしか入手できなかっただけに、ようやくこの標本を入手したときは、嬉しくてたまらなかった。

ところがある日、異変は起きた。
標本を取り出してみたところ、衝撃的な事態が発生していた。
なんと、表面に無数の暗灰色の結晶が発生しておるではないか。
結晶の一部は陥没しており、手の施しようがない状態だった。

本文下の写真を見ていただきたい。
左がビフォー、右がアフター。
当初見られなかった付着物で覆われている。
しばらく立ち直れなかった。

譲ってくださった方に問い合わせてみた。
閃亜鉛鉱が変質を起こすことは滅多になく、長時間水に浸しても変化するのは稀、とのこと。
何かしらこの石に緊急事態が発生したのは間違いないようである。
今までこのようなことはなかったために、油断していた。
左と右の写真の違いといったら!
原石というのは一点物。
もう一回探そうとして、あきらめた。
それから一年近く経つが、同じような雰囲気をもつ標本は見ていない。

以前も記したが、天然石=天然、だから安全とはいえない。
いわば天然の化学物質だから、化学変化は起きる。
珍しい鉱物を身につける場合は、どんな要素で出来ているかを十分に確認し、思わぬ事故を防ぎたい。
浄化の不手際や霊的予兆を疑うのは最後でいい。
しかしながらこれは最後まで原因がわからない。

ひねくれ者にはこのようなメッセージが届けられるということ?




34×22×15mm  25.53g

2012/07/04

コスモクロア(マウ・シット・シット)


マウ・シット・シット
コスモクロア
Kosmochlor(Maw-Sit-Sit)
Tawmaw, Myitkyina-Mogaung, Kachin State, Myanmar



明るく、深みのある緑が印象的な鉱物。
ミャンマー・カチン州名物のこの石は、産地の名に因みマウ・シット・シットと呼ばれている。
鉱物としては、コスモクロア(ユレアイト/宇宙輝石)を主成分とする混合石にあたる。
ひすいやネフライト(ややこしい)、クローライト、アルバイトなどの鉱物と共生した状態で発見されるという。
本来なら希少石に分類されるところだが、流通は比較的多い。
どこからどこまでをマウ・シット・シットと呼ぶかについては、意見が分かれるようである。

写真はマウ・シット・シットの現地カット品として、5年ほど前に譲っていただいたもの。
濃厚な緑に黒が混ざり込み、まるでスイカのようなユニークなカットに仕上がっている。
私が希少石に興味をもつきっかけとなる大先輩から譲り受けた、思い出の一品。

私がこの石を知ったとき、「マウ・シット・シット」はあくまで流通名であり、正式名は「ジェード・アルバイト」であると説明がなされていた。
しばらくして、どうも違うっぽいということになる。
マウ・シット・シットの名で呼ばれ始めたのは知っていたが、鉱物名として定着していたことは知らなかった。
現在はコスモクロアと呼ぶのが一般的となっている。
2年ほど鉱物の世界を離れていたため、以下は推測になる。

ミャンマー語はわからないが、ミャンマー語をカタカナ読みするのが難しいというのはわかる。
マウ・シット・シットのほか、マウシッシ、マウシッシッ、モーシッシ、モウシシなど、表記は統一されていない。
モシッシシ、マーウッシッシーと読んでいた方もおられるかもしれぬ。
この石の知名度が急上昇した背景に、コスモクロアという名前への切り替えがあったような印象は受ける。
名前の親しみやすさ、宇宙から来た鉱物というエピソードは、人を惹きつける魅力にあふれている。
しかし、マウ・シット・シット=コスモクロア、ではなかったはず。
大雑把に図解すると、

コスモクロア<マウ・シット・シット<ひすい


となる。
混合鉱物の扱いは難しい。
現在もジェード・アルバイトの名で呼ばれていたり、ひすいに分類されてしまったり(正確にはひすいの一部)、クロロメラナイトという類似の鉱物と混同されているケースもあることから、コスモクロアの呼称にまとめるのは合理的。

コスモクロアの発見は1897年。
隕石中から見つかった未知の鉱物だった。
その神秘的ともいえる発見に因み、「宇宙の緑」を意味するコスモクロアの名を与えられた。
1984年、地球上にも同じ鉱物が存在することが明らかになった。
ミャンマーのマウ・シット・シットからコスモクロアが出てきた。
そういう流れらしい。

かつて正式に紹介された、マウ・シット・シットという呼び名については、疑問を拭えずにいた。
コテコテの日本人である私には、発音のミスが命取りになるとしか思えない呼称だからである。
英語圏でもこの名称は使われているから、許容範囲内なんだろう。
いっぽうで、「マウ・シット・シット」と唱えると、宇宙意識を直観することができるという記事を国内にみかけた。
これはさすがに奇妙である。
世界にはカルピス(※注1)しかり、ネズミのアレを予感してしまう人のほうが多いのでは。
コスモクロア/宇宙輝石という美しい名前にインスピレーションを受けただけという理由なのであれば、例のごとく注意を促しておかねばなるまい。

※注1:カルピスが倫理的問題から米国でカルピコとして販売されているように、Maw-Sit-Sitという言葉には、深刻なトラブルの元になりかねない要素がある。
ミャンマーの知名度の問題か、欧米諸国でのこの石の取扱いは少ないのだが、一部では "Maw-Si-Si" という表記に変更がなされている。この名称が国際的に定着してしまった背景について考えてみるのも面白そう。


日本の鉱物界に名を遺した偉人、益富寿之助博士。
コスモクロアにまつわる、益富博士のエピソードは非常に興味深い。
ひすいが産することで有名な新潟県糸魚川市から発見された、ひすいのような緑の鉱物。
博士は、それがコスモクロアであることにお気づきだったらしい。
当時、地球上にコスモクロアが存在することは、まだ明らかになっていなかった。
博士の死からわずか4年後の1997年、その緑の鉱物がユレアイト(コスモクロア)であったことが、ようやっと発表されるに至ったとのこと。

参考:日本でも発見されていたコスモクロア
http://www2.ocn.ne.jp/~miyajima/detail-menu2/min107-kosmochlor/kosmochlor.html

宇宙から来た鉱物というイメージが先行する中、それが既に地球にあったことを博士は見抜かれていた。
世界的な発見を前に、堅く口を閉ざされたことに対しては、激動の時代を生き、日本の発展に貢献された昭和の研究者たちの生きざまを想うのみ。
鉱物を愛し、地学研究に生涯を捧げた益富博士の深く鋭い眼差しが、時を超えて伝わってくる。
氏の活動拠点となった京都に生まれ育ちながら、お会いすることは叶わなかった。
どこかで益富博士とすれ違っていたかもしれない、と思うときはある。
この石にはきっと、遥かなる宇宙のロマンが刻まれている。

財団法人益富地学会館:
http://www.masutomi.or.jp/


43×12mm 8.53ct

2012/06/26

カイヤナイト/ガーネット/バイオタイト


カイヤナイト・ガーネット・バイオタイト
Kyanite–Garnet–Biotite
Khit Ostrov, Karelia Republic, Russia



カイヤナイトの藍色の結晶に、バイオタイト(黒雲母)、ピンクのアルマンディンガーネットのキラキラの粒がちりばめられた表情豊かな標本。
白い石英が三つの色合いを引き立てている。
宝石質のカイヤナイトとしては、ネパール産に匹敵する美しさ。
色合いはより深く、味わいがある。
ガーネットの色彩や透明感、バイトタイトの漆のような光沢、雪のように真っ白な石英など、見どころが満載となっている。
話題のシュンガイトと同じ、カレリア共和国からの産出とのこと。

カイヤナイトと共生して発見される鉱物といえばルビー。
タンザニア産のルビー・イン・カイヤナイトは、これまでパワーストーンの定番商品だったルビー・イン・ゾイサイドを圧倒する人気ぶり。
カイヤナイトの深い青とルビーの赤い輝きの美しさは驚きに満ちていた。
ロシアからのカイヤナイト・ガーネット・バイオタイトはそれにまさる素晴らしさ。
鉱物標本として、またヒーリングストーンとしても密かな人気があるようだ。
新しく発見された鉱物というわけではなく、以前から流通はあり、むしろ減ってきているようである。
価格としてはブラジル産の水色のカイヤナイトと変わらない。
もっと注目されてもよさそうな気がする。

見どころはやはり、深い藍色の煌きを持つシャープなカイヤナイトの結晶。
透明感、ガラス光沢などの見られるノンダメージの二つの結晶が、バイオタイトと石英をまっすぐに貫いているのがわかる。
ロシアのカイヤナイトは神々しい。




70×27×18mm  45.78g

2012/06/22

ギベオン隕石(シホーテ・アリン、カンポ・デル・シエロ)


ギベオン隕石
Gibeon Meteorite

Gibeon, Mariental District, Hardap Region, Namibia



もし明日隕石が地球を直撃するとしたら、やっておきたいことは?
そんなお題をたまに見かける。

世間には、空から隕石が降ってきやしないかと、日々不安にさいなまれている人々がわりと多いようである。
巨大隕石の落下で、恐竜が一瞬にして滅びたという伝説が、人類滅亡を想起させるのかもしれない。
私はよく冗談で、明日隕石が落ちるなら、お宝を拾いに行く旅の準備をすると話しているが、?という顔をされる方が多い。
不幸にして隕石の犠牲になったのは、記録の上では一人とされている。
人類の長い歴史において、世界でたった一人の犠牲者となったのは、年老いたインド人男性であったと知ったとき、深い悲しみにさいなまれた記憶がある。
いっぽう、隕石を用いたアクセサリーは、宇宙のロマンを代弁するレアなパワーストーンとして人気は高く、定番商品となって久しい。

隕石と聞いて、子供のように瞳を輝かせるロマンチストはうちゅうのおともだち。
宇宙の神秘が手元に届く待ち遠しさに、夜も眠れなくなってしまう方もおられるかもしれない。
希少価値ぶっちぎり!とんでもないお宝!残り僅か!といった煽り文句には、注意が必要だ。
我々がふだん目にする隕石関連グッズは、シホーテアリン、カンポデルシエロ、サハラ隕石と記載があることと思う。
上記の3つの隕石は地球上に大量に存在し、隕石としての希少価値は無きに等しい。
隕石の世界は日本人が考えるほど甘くはない。
隕石の収集が盛んな欧米やオーストラリアでは、上記の3種は収集家がコレクションの対象とする隕石には含まれず、特殊な要素を持つ場合を除き、子供の教育に用いられる化石類と同等の扱いを受けている。
はるか昔、人類が鉄を利用しはじめたとき、隕石が用いられたとする説もある。
我々が考えるよりずっと、身近な存在なのだ。

隕石は星の数だけ存在する。
隕石の価格は、資料としての価値とその特異性、落下の量に応じて決定される。
希少価値の高いものは研究機関にまわされてしまうから、販売にまわされる頃にはグラムあたり一千万を超えることも稀ではない。
それでも手に入れたい人が世界中から集まり、ため息をつく。
カルマである。
日本で人気の隕石のグラムあたりの価格については、ここでは触れないこことする。

国内のミネラルショーでは、袋いっぱいの隕鉄が千円ほどで販売されている。
要は、日本に入ってくるのは、大量に落下し余っている銘柄で、量産用なのだ。
サハラ隕石の場合は事情が異なってくるが、発見される場所が場所だけに、扱いが難しいのが不人気の理由だと聞いた。
命名のアバウトさはそのためか。
隕石の世界は深いゆえ、詳細はわからない。

この価値観の格差の原因のひとつに、気候の差がある。
日本は湿度が高く、海に囲まれた島国である。
隕石の多くが金属から成る以上、管理に気をつけていてもいずれ錆びてしまう。

隕石には三種類がある。
惑星の大部分を占めるのは石質隕石。
コアの部分は隕鉄、それらの境界にあたる部分はパラサイトと呼ばれる。
しかしながら石質隕石は、大気圏を通過するさいの高熱で燃え尽きてしまうため、発見されるのは僅かな量にすぎない。
パラサイトは数そのものが少ないから、最後まで残るのは隕鉄が中心、ということになる。
湿度の高い日本の気候では劣化しやすく、コレクションとして大量に管理するのは困難を極める。
そのため、日本に隕石市場が発展することはなく、一部の熱心な愛好家によって支持されるにとどまった。
乾燥した欧米の気候は収集家にとって圧倒的に有利。

写真のギベオン隕石のペンダントは、ウィドマンシュテッテン(特定の性質を持つ隕鉄を酸処理することによって、表面に出現する幾何学的な模様)のネーミングに負けて購入したもの。
アクリルかなにかで厚みをもたせ、見栄えよく作ってある。
錆びにくいという点では理にかなっている。
価格的に、隕石そのものはアルミホイルに等しい量だと思われる。
ギベオン隕石についてはご存知の方も多いだろう。
1836年ナミビアのギベオンで発見され、隕石の研究に貢献した最も有名な隕鉄のひとつである。
およそ4億5000年前に地球に落下したとされ、ニッケルを豊富に含むオクタヘドライトに分類される。
なお、かの有名なエルサレムにも、ギベオンという都市があったらしく、ギベオンだけだと誤解を受けることがあるようだ。

宇宙のロマンがビジネスに変わるとき、さまざまな興味深い現象が起きる。
星の彼方まで飛躍したかのような壮大な解釈が展開され、煽り文句は宇宙人との会話のようである。
参考に挙げたサイトは、その一般的な例。
以前から、こうした鑑定機関は位置づけとしては非常に難しいものと感じていたが、実際のところはどうなのだろう。

参考サイト:http://www.raku-kin.com/item/gibeon/index.html

資産価値を問わないのであれば、銘柄やグラム数などは無関係。
隕鉄をそのままブレスやペンダントに加工しようものなら、汗などですぐに錆びてしまう。
相当量の人工物が混在しているものを、偽物とするのは夢がない。
それでも買ってしまうのは私も同じだから。
いまだ解明されることのない、宇宙の謎の数々。
銀河の彼方には、古代から人々をひきつけてやまない魅力が確かに存在している。


20×10mm

2012/06/17

ユーディアライト


ユーディアライト Eudialyte
Lovozero, Kola Peninsular, Russia



確か、一番最初に買った希少石がユーディアライト(ユージアル石)だった。
恩師の店で見つけたビーズがきっかけだったと記憶している。
お店の人に聞いても正体がわからない。
ありました、と見せていただいた本には、今でも忘れられない衝撃の一節があった。

無意識のうちに宇宙の秩序や法則が理解できるようになり、自然の流れに身をゆだねることが一番良いことが認識できるよう導く力があるといわれています(「パワーストーン百科全書」八川シズエ著)

間違いなく個人差はある。
私には宇宙の秩序など理解できそうにないからだ。
それでも気に入って500円程度の標本を幾つか購入した。
原産地であるグリーンランド産の、まるで岩のような標本が先日出てきたときには仰天した。
単に安かったから買うという初心者に有りがちな動機で、このような通好みの標本を購入していたというのは興味深い。
その後、幾つかユーディアライトを紹介させていただく機会に恵まれたが、どちらかというと収集家向けの鉱物標本という扱いだった。

ユーディアライトの主要な産地はロシアとカナダ。
一般に赤、白、黒の3色で構成されていることが多い。
白はネフェリーン、黒はエジリン。
赤い部分がユーディアライトで、それ以外はおまけである。
過去には紅赤色の透明石もカットされたという。
ロシア・コラ半島産ユーディアライトの醍醐味でもあった、ガラス光沢の煌きを伴うダークラズベリーカラー。
産出の激減に伴い、見かけなくなった。
写真のカットストーンは先日出てきたもの。
宝石質と言うのは憚られるが、不純物の少ない素朴な一品。
ロシア産ならではの色合いが出ている。
当時は千円もしなかったのだけれど、ざっと見た感じ、私にはもう買えないみたいだ。

先日、ユーディアライトのオールドストックを紹介させていただく機会があった。
思いのほか好評で、人々の鉱物への関心が深化しているものと、嬉しくてたまらなかった。
リクエストまで頂戴した。
さっそく探したのだが、イメージ通りのものが無い。
取り扱いはむしろ増えている。
しかし、赤い部分がほとんど見られない。
ユーディアライトの入っていないユーディアライトっておかしいと思うのだが、軒並み一万を越えている。
ヒーリングストーンとしての扱いも急増している。
3つの鉱物の相乗効果というやつなのかもしれないが、この石の場合はそうとはいいきれない難しさがある。
以前は殆ど見かけなかった赤みの強いカナダ産ユーディアライトも見かける。
ブレスにまでなっている。
限られた土地からしか産出しないこの希少石に何が起きたのか。

以下は、素人のたわ言と軽く流していただけたらと思う。
もしお読みになって、強い不快感を覚えられたかたがおられたら、深くお詫び申し上げる。

日本人の特徴というものについて考える機会をいただいた。
アメリカの価値観に倣って、自己主張さえしていれば間違いないと思い込む。
少なくとも私の周囲のアメリカ人は、それが愚かなことと知っている。
或いは、社会的に良いとされるものに憧れ、自らもそうありたいと努力する傾向。
裏をかえせば、誰かに良いといわれなければ、関心を持つことも持たれることもない、ということ。
その崖っぷちを突っ走った結果、私の珍コレクションが存在している。

以前から気になっていた、鉱物標本を「子」と呼ぶ習慣。
「この子はちょっとクセのある子でね」「この子は凄く人を選ぶ子で…」という言い回しは、今に始まったことではない。
ショップの店員さんも使うようになった。
愛着からそう呼ぶのは決して悪いことではないし、石を愛する気持ちが伝わってくるから、きらいではない。
いっぽうで、さまざまな側面において、日本人的な考え方だと感じる。

極端かもしれないが「子は親に尽くすもの」という価値観もひとつ。
経済的自立と精神的自立は違うと思っている。
物理的に親元、或いは保護者のもとを離れるのは容易なこと。
かれらを一人の人間として受け入れられるようになったとき、それが精神的自立だと思うのだ。
自立しろと言いたいのではない。
私自身できているとは考えていない。

人はいつか死ぬ。
生みの親や育ての親を、一人の人間として見送ることができなかったとき、自我に混乱が起きる。
逆であったなら事態はさらに深刻で、遺された親が日常生活に支障をきたし、危機的状況に陥ることもある。
それを見るたび、悲しくてならないのだ。
家族を一人の人間として受け入れられないために起きる問題のひとつに、境界性人格障害がある。
愛情を求めながらも孤独で満たされることのない心は、当事者だけでなく親にもあって、その孤独と渇望の連鎖から抜け出すことは容易ではない。
子は親の所有物ではないと、わかっていても。

話が飛躍してしまった。
全く別の場所で感じたことを、こうしてひとつにまとめてしまったことを、お許しいただきたい。
一生を親に尽くし捧げるのと、一生親に反発して生きることは似ている。
石を「子」と呼べない自分は何か歪んでいるのかと悩むときがある。
投影もひとつの業。
私の手持ちの石は、いずれ然るべき持ち主のもとへ導かれることが多くあるから、自分の所有物になることはない…そんな、ひがみなのかもしれぬ。
霊的な感性は皆無ゆえ。



右が有名なロシアのダークラズベリーカラー。
左が近年主流になっているカナダ産で、やや赤みが強いのが特徴(いずれも夕日で撮影)。
スウェーデンからはピンク系、グリーンランドからはダークレッド、
米からはオレンジなど、産地によって色合いが違っている。
所構わずロシア産ユーディアライトとして販売されていることがある。


20×14×7mm

2012/06/15

ハウライト(本物)


ハウライト Howlite
Tick Canyon, Lang, Los Angeles Co., California, USA



今となってはほとんど産出のない希少石、ハウライト(ハウ石)。
手に入るのはコレクターからの流出品が殆ど。
写真は鉱物学者ヘンリー・ハウ氏が、1868年に発見した土地(原産地)から届けられた貴重なハウライトで、一面が研磨されている。
ハウライトの有名な産地、カリフォルニア付近では、コレクションの流出が少なからずある。
"本物" とされるハウライトをいくつか見る機会に恵まれたが、正直なところマグネサイトと全く見分けがつかない。

高価なパワーストーンの偽物とされ、きらわれるハウライト。
しかしながら、染色加工したハウライトとみなされ嫌悪されていたのは、マグネサイト(菱苦土石)という鉱物である。
本物のハウライトをイミテーションに用いようものなら、大損益となりかねない。(→詳細はハウライト/マグネサイトに記しました)。
つまりハウライトは、戦後ターコイズのイミテーションとして用いられる程度の産出はあったが、現在はターコイズよりも手に入れ難い高級品となってしまった。

前回のハウライト/マグネサイトにかんする記事は、この標本との出会いがきっかけだった。
馴染みのハウライトが希少石に分類されている。
確認したところ、事実であった。
ハウライトとは全く別の鉱物にハウライトの名が与えられ、流通しているのではないか。
ふと目に留まったパワーストーンの一覧表。
美しいビーズの一覧に混じって「ハウライト:別名マグネサイト」なる商品がある。
つまり、ハウライトとマグネサイトが混同されていたことに、業界はとっくに気づいていた(中には本当に別名であるものと信じている販売者もいる)。
ビーズには疎いから、盲点だった。
昨年秋の時点で、この問題が明らかになってから、かなりの時間が経っているという印象を受けた。

ビーズやアクセサリーなど、品揃えを加工製品に頼る業者は、ハウライトの名を外すことが出来なかったのかもしれない。
知名度の関係で、ハウライトの名をマグネサイトに変更するのは極めて困難。
ハウライト・トルコ、ハウライト・ラピスなどはパワーストーンの定番商品。
消費者のほうがむしろそれを知り、受け入れる必要がある。

純粋、崇高、目覚めを意味するとされるハウライト。
なんて気高く麗しい響きだろう。
私自身、ごく初期にたいそう気に入って、周囲にプレゼントしてまわった石だっただけに、衝撃的だった。
ハウライトのほうがマグネサイトよりも僅かに半透明、表面の網目模様が黒い(マグネサイトは茶系)という説明は見かけた。
それをもってしてもわからない。

人気のパワーストーンは、中国や香港などのアジア諸国に持ち込まれ、加工されている。
出荷され日本に届く頃には、詳細な産地はおろか、産出国も不明となってしまうケースが往々にしてある。
不可抗力である。
そのため、販売者は製品の入荷後、消費者に馴染みある無難な産出国を決定のうえ、販売を行っているという。

マグネサイトはアフリカや中国など世界中から産出し、加工は容易で色もよく載る。
今後も天然石ビーズの素材として活躍するものと考えられる。
なお、北朝鮮には36億トンものマグネサイト資源が眠っているらしい。

参考:韓国の情報サイト(日本語):
http://japanese.joins.com/article/079/145079.html

例外として、ブラジルから産出する宝石質のマグネサイト・クラスターがある。
非常に美しく透明感に富み、各方面での評価も高い。
マグネサイトに興味のある方は、是非探していただきたい。
パワーストーンブームが盛り上がりをみせる中、よくもわるくも知名度を上げたハウライト。
「パワーストーンの偽物」としてのハウライトは、おそらく存在しなかった。
純粋、崇高、目覚めを意味する鉱物に間違いは無かった。
おそるべし、ハウライト。


ブラジルからは出ないはずのハウライトだが、もしかすると?

90×57×15mm  60.0g

2012/06/09

テルル


テルル
Tellurite, Quartz
Bambolla Mine, Moctezuma, Sonora, Mexico



Terraという言葉をご存知だろうか。
そうです、地球です。
もともとはラテン語のTellusから。
地球のどこかには、地球という名の鉱物があるという。
天体に因んで命名された鉱物は多いが、地球がその命名の由来となった鉱物の存在については、あまり知られていない。

鉱物に興味を持って間もなく、テルルという鉱物を知った。
最初に手に入れた八川シズエ氏のガイドブックにあった、テルル。
なんて可愛らしい名前だろう。
「地球」に因んで命名された鉱物だという。
探したのだが、誰も知らない。
稀産ゆえなかなか手にする機会はなく、先日ようやく入手した。

テルルは元素の名で、鉱物として一般的なのはテルライト/テルル石(Tellurite)。
自然テルル(Tellurium)の産出も稀にあり、元素鉱物として知られている。
テルル、またテルル鉱物は希産だが、日本からもかつて産出があった。
現在は採取禁止となっている。

写真は、テルル鉱物の宝庫とされるメキシコの鉱山から産したオールドコレクション。
中央に見える、黄色い束のような結晶がテルライトで、ガラス光沢と数センチに及ぶ大きさは、非常に見応えがある。
このような大ぶりの結晶は珍しいそうなのだが、驚くほど安価だったので、上には上があるのだろう。
結晶全体が黄色く見えるのは、石英に内包されたテルルに因る。
水晶をイエローに染める鉱物としては、前回取り上げたサルファーなど。

本文下、左に掲載した写真はテルルの原産地、Moctezuma Mineからの貴重な自然テルル。
銀色の部分がそれにあたる。
自然テルルとテルライトの区別がつかない段階で、両方購入したのは単に安くて綺麗だったからなのだが、あやうく後悔するところだった。
テルルの化学変化により生じるとされるテルル鉱物は多岐にわたり、表面に付着した粉末状の黄色の物質も、そのひとつだそうだ。

テルルについて調べたところ、不穏な記事にたどり着いた。
昨年起きた東京電力福島第一原発事故において、翌日にテルルの同位体が検出されたらしい。
ゆえに、テルルと聞いて、得体の知れない恐怖を連想する方も多いかもしれない。
詳しくは下記の資料を参照していただきたい。

参考:テルル132検出に関して
http://hiroakikoide.wordpress.com/2011/06/06/tanemaki-jun6/

ちょうど去年の今頃、この問題が発覚し、何も知らない人たちの間で騒ぎになっていたとある。
全く知らなかった。
私の長年の憧れだったテルルが、大衆の恐怖を煽っていたのか。
ご存知の通り、ヨウ素と同様(たぶん)、テルルそのものは放射性鉱物ではない。
毒性はあるが、レアメタルとして工業用に用いられる貴重な資源である。

テルルが発見されたのは1782年。
1798年、新元素として確認されたさい、地球の名を意味するラテン語から名づけられたという。
このような希な元素に対し、我々にとってかけがえのない地球の名を与えたのはどういうことだろう。

一説では、直前に発見されたウランに対する皮肉を交えて名付けられたという。
ウランは海王星に因んで命名された。
前回ムーンストーンを取り上げたさい、ムーンストーンがもともと黒に近い鉱物であったなら、「冥王星」などと命名されていてもおかしくないのでは、と記した。
冥王星に、冥界の王を連想したからである。
追記したのは、テルルについて調べるうちに、冥王星に因んで名づけられた元素がプルトニウムであることを知り、その偶然に恐怖を感じたせい。
地球から遠く離れた闇に位置する2つの天体に、ウランやプルトニウムの名が冠せられたことはなかなかに興味深い。
研究者たちはウランやプルトニウムに、人類が侵されるであろう狂気と、その結果我々が直面する不吉な予兆を垣間見たのではないかとすら思えてくる。

海外では、テルルのヒーリングストーンとしての扱いも少なからずある様子。
サードアイに働きかけ、真実を見極める力と、異次元の旅をサポートするらしい。
妙に説得力を感じてしまう。
Terraという言葉が大好きだった。
人類の罪は私たちの罪。
誰かを悪者にするのみならず、自然にすら罪をなすりつけるのは人として正しいか。
地球に恐れを抱くのはおそらく、間違っていない。
私たちは試されている。

参考:History of the Ancient Stars and the Origins of A Rare Element:
http://peacefulearthangel.wordpress.com/

参考:Whispering Woods Crystal Grimoire:
http://www.peacefulmind.com/stones2.htm




61×45×23mm  57.65g

2012/06/07

サルファー(阿蘇山)


サルファー Sulphur
熊本県阿蘇市阿蘇山



お菓子のような可愛い結晶。
サクサクと噛めばとろけてしまいそう。
しかし、絶対に食べてはならない。
この結晶には、毒性がある。
日本を代表する鉱物のひとつ、サルファー(自然硫黄)である。

サルファーは、単一の元素のみで構成される元素鉱物のひとつ。
火山列島である日本では、多くの産出があった。
古くから工業用、産業用に用いられ、その名残りを硫黄島などの名にみることができる(参考:硫黄島の鉱物 - うずら石)。
サルファーといえば温泉。
世界的にみると通好みの鉱物だが、日本では癒しや健康の象徴として、わりと人気がある。

鉱物に興味を持ち始めた頃、天然レモンクォーツなるものと出合った。
サルファーが内包されることによって、淡いレモンイエローに染まった水晶だった。
強くこすると硫黄のにおいがする…
じゃあ、硫黄の原石ってどんなものだろう?
それがきっかけで出会ったのが、この阿蘇山のサルファーだった。
一目見て気に入った。

サルファーは世界中から産出し、産地により形状や質感は異なっている。
ボリビア産の大きなクラスター、ロシアの透明結晶、イタリアの鮮やかなレモンイエローの結晶などが有名。
資源としては枯渇しているが、国産標本も流通はある。
私の大好きな阿蘇山のサルファーは、半透明の塊状で産し、軽くほどよい大きさ、独特の質感を特徴とする。
常に側に置いておきたくなる。

※サルファーの管理にはくれぐれもご注意を。人体への毒性の他にも、鉱物や金属類が変質することがある(あった)。魔を除けるパワーは半端ないらしい。聖書では、神が人を罰するための道具として登場し、中国においては世界最初の火薬を作るための原料となったという(ジュディ・ホール)。

地獄谷という場所をご存知だろうか。
小学生の頃、富山県は立山の地獄谷を訪れた。
地獄の名にふさわしい荒涼とした土地に道は続いていた。

吹き出すサルファー!
地獄からなんか出る前に走れ!

立ち込める硫黄の臭いに呼吸を我慢しながら、必死で岩を駆け下りた。
地獄から脱出したときの安堵を、今でも覚えている。
立山の地獄谷は古くから信仰の場とされ、なんと136もの地獄があるらしい。

月日は過ぎ、私も大人になった。
今でも地獄谷のことは忘れられない。
いっぽうで、サルファーは私のお気に入りの鉱物のひとつとなった。
遥かな子供時代を想起させる、冒険と安らぎの石。
温泉はご褒美。
そういえば、北海道の登別温泉にも地獄谷があった。
以前ヒッチハイクの旅で訪れたさい、遠くから見物した。
硫黄のかおりは、旅の思い出とともに。


未測定

2012/05/30

モリオン/スモーキークォーツ(ポーランド産黒水晶)


モリオン/スモーキークォーツ
Morion/Smoky Quartz
Strzegom, Dolnośląskie, Poland



珍しいものを見かけた。
ポーランド産モリオン。
なんだろう、こんなの聞いたことが無い。
そう思って問い合わせてみたところ、在庫を見せていただけるというお話になった。
産地はデータベースにも掲載されている、ポーランドの有名なペグマタイト。
歴史に残る鉱物を数多く産したが、採り尽くされてしまったようだ。
現在は古いコレクションが、ヨーロッパの愛好家たちの間でささやかに取引されているという。

私の対応に不備があり、話が消えそうになりながらも、なんとか日本まで送っていただけることに。
被災地から戻って間もなく、ポーランドの黒い水晶と対面することになった。
ひとつひとつ、チェックする。
個性豊かな黒水晶が次々に現れる。
クローライトのまりも状インクルージョンが入ったモリオン(!)まで出てきた(そのことに気づかれた、お世話になっている社長にプレゼント)。
漆黒のモリオンから透明に近いスモーキークォーツまで、色合いの幅は広い。
資料にあるとおり、モリオンの上にさらにスモーキークォーツが成長している標本が最も多い。
そのため結晶表面に光沢があり、優美な印象を受ける。
気になるのは、エピドートと共生している確率が極めて高いということ。
結晶内部から表面に至るまで、もじゃもじゃのエピドートで埋め尽くされている(本文下、左の石)。
ダークスモーキークォーツに幽かに浮かぶ風景。
モリオンの場合は中が見えないから、はみ出したものを見て思いを馳せるしかない。
なんて贅沢な悩みであろう。

被災地への旅の前日、私は大阪ミネラルショーに来ていた。
いつもながら師匠とともに。
彼はいつも気の利いたプレゼントを用意してくださる趣味人にして、あらゆる分野における大先輩。
その日プレゼントしてくださったのは、切手だった。
祖父(石の収集家でないほう)が切手の収集家だったこともあり懐かしかった。

大好きなうさぎの切手に混じって、鉱物の切手が数枚ある。
その中に、明らかに見覚えのある水晶の切手があった。


旧東ドイツ(DDR)発行の切手。左はエピドートがはみ出している?

茶色の水晶からはみ出した黄緑色の何か。
これって、ポーランドのモリオンにそっくりじゃないか。
実際に届けられた標本を見て、確信した。
社長にお話を伺った。
水晶とエピドートの共生は、特に珍しいことではないそうだ。
同じものとは限らないとのご意見であった。

確かにそうだ。
しかし、わざわざ切手にするからには、それなりの歴史的評価と産出量があったはず。
切手にはその国の誇りや美意識、歴史が刻まれている。
モリオンは真っ黒な単結晶、或いは長石と共生したものが好まれる。
よりによって、もじゃもじゃしている標本を切手にするというのは、奇妙である。
何を記念して発行された切手なのだろう。
譲ってくださった方もわからないとのこと。
古い切手だから当然だろう(書いてある文字についてもコメントはなかった)。
ドイツでは鉱物収集が盛んだから、ヨーロッパ各地から出ているモリオンを取り上げたものなのかもしれない。
ヨーロッパにおいては、イタリアやルーマニアから発見されるモリオンが有名で、現在も多くの流通がある。
いずれも外観は異なっている。
大さといい、態度といい、もじゃもじゃといい、この絵柄はまるでポーランドのそれ。

旧東ドイツから歴史的なモリオンが産したという話は聞いている。
この水晶の産地に同じである。
つまり現地は戦前、東ドイツ領だった。

写真は私が一番気に入っている標本。
半分は完全に黒、上部はダークスモーキーとなっており、太陽光の下で内部の様子を観察することができる。
両端が結晶し、この地に原産の鉱物Strzegomiteが内包されているという。
インクルージョンの実に多彩なこと。
真っ黒で中身など見えないはずなのに、親切にはみだしているというのも、興味深い。
モリオンの一面にびっしり付着したエピドートは、ふさふさと生い茂った芝生のよう。
付着物といえばフィンランド産モリオンだが、ここまで派手ではない。
こんなものが世界各地から産出しているのか。
なにより不思議なのは、友人がなぜこのタイミングで切手をプレゼントしてくださったか、ということ。
私の趣味はだいたいご存知だ。
黒水晶にはさほど興味のないことだって、知っている。
ただ、私が子供時代、切手に興味があったことは伝えていなかった。
数枚あった鉱物の切手のうち3枚に、モリオンの絵柄が入っている。
偶然にしては出来すぎている。
ご協力いただいたすべての方に感謝し、美しい黒水晶を生んだ遠き彼の地に思いを馳せる。




いくつかストックがございますので、興味のあるかたはお問い合わせください(詳細ページ)。夕日で撮影したので、エピドートが黄色っぽく写っている点、お許しを。


60×33×30mm  78.04g

今週、話題性が確認された10の鉱物

What Mineral Would You Take with You to A Deserted Island?