2013/04/07

ウッシンジャイト/ツグツパイト


ウッシンジャイト Ussingite
Ilimaussaq complex, Narsaq, Kitaa Province, Greenland



ウッシンジャイト(アッセンガイト/ウッシンガイト/ウッシャンジャイト/ウッシング石/ウシン石)。
グリーンランドを代表する、名前に統一感の感じられない希少石である。

同様の印象を受ける石に、ツグツパイト(タグタパイト/タグツパイト/トゥグツパイト/ツグツープ石/ベリリウム方ソーダ石/トナカイ石など)が挙げられる。
両者はいずれもソーダライトの仲間で、グリーンランド、ロシアのコラ半島、カナダのモンサンチレールの3ヶ所から僅かに発見されている。
当初、私のこよなく愛するウッシンジャイトをメインに記す予定だったが、興味深いことがわかってきた。
ここでは現地から産する蛍光レアストーンについてまとめてみたい。

私とウッシンジャイトとの出会いは、米H&E社の研磨品。
独特のミルキーピンクにダークブラウンのエジリンが混在するさまは、まるで絵画のように美しかった。
決して安くはなかったのにリピートしてしまうこと数回。
手持ちのウッシンジャイトはというと、これまでH&E社製品に独特の三角形の研磨品だけ。
他所ではまったく見かけなかったのだ。
先日、思いがけずウッシンジャイトの原石が格安で出ているのを見かけた。
勢い余ってをようやっと手に入れたのが冒頭の写真の石。
瑞々しい桜色とカルセドニーのようなデリケートな質感に、春の訪れを感じる。
まるで桜餅のよう。

H&E社のウッシンジャイト、現在は産地がグリーンランドからロシアへ変更になっている。
質の低下は著しい。
ヒーリングストーンとして製品化されることもある石だが、ピンと来なかった方もいらっしゃるかもしれない。
ウッシンジャイトは世界的に稀産であり、美しい原石を大量に製品化するのには無理がある。

さて、改めて調べてみたところ、ウッシンジャイトはブラックライトで蛍光するとあった。
初耳だった。
ただ、グリーンランド産はグリーン、ロシア産はオレンジと、産地によって異なる色合いに発光するという。
全く蛍光しないこともあるらしい。
同じ鉱物に異なる特性が認められるというのは奇妙である。
ソーダライトの仲間だというのもまた、アヤシイ(参考3を参照のこと)。
ならばと早速、手持ちのブラックライトを引っ張り出して撮影したのが、本文下の写真。

不可解なことになった。
グリーンでもオレンジでも無蛍光でもない。
一部のみ、ピンク色に光っているのである。
部屋の明かりをつけて思った。
もしやコレ、蛍光性の無いウッシンジャイトにツグツパイトが共生しているのでは?
というのもこの標本、しばらく経っても一部が淡いローズピンクに蛍光したままなのだ。
照明をつけたのちも、暗所における蛍光時のピンクの色合いが依然として残るという特異な性質が、希少石ツグツパイトが愛されてやまない理由のひとつではなかったか。

実はウッシンジャイトとツグツパイトの産地は全く同じである。
ウッシンジャイトに共生する、ツグツパイトだけが蛍光したのだとしたら、実に興味深いではないか。
蛇足ながら現地からは、ヌーマイトやアルベゾン閃石、そしてソーダライトやハックマナイトも産出する。
これらの鉱物が共生して発見されることも珍しくないという。
まさに豪華絢爛、希少な蛍光鉱物の謎に迫る格好のチャンス到来である。

参考1)蛍光するウッシンジャイト(Ussingite)とツグツパイト(Tugtupite)の様子
http://www.minershop.com/html/ussingite_mindata.html


ソーダライトにまつわる蛍光鉱物についてまとめると以下のようになる。

(1)ウッシンジャイトグリーンまたはオレンジに蛍光する
(2)オレンジに蛍光するのはソーダライトである
(3)ソーダライトハックマナイトオレンジアフガナイトピンクスキャポライトイエローに蛍光する。
(4)ウッシンジャイトが必ずしも蛍光するとは限らない
(5)ウッシンジャイトツグツパイトと共生することがある
(6)ツグツパイトローズピンクに蛍光する
(7)産地は蛍光鉱物の宝庫である(グリーンランドはウランの産地としても知られている)

参考2)参考サイト(英語)
http://www.minershop.com/html/pg_4.html

参考3)ソーダライトの仲間たち(過去記事より)

以上から、この標本は、希少石ウッシンジャイトとツグツパイトの共生した、豪華レアストーンの可能性がある。
先月ヌーマイトとアルベゾン閃石の謎に迫ることができたのは幸運であった。
おかげでグリーンランド独特の産状が見えてきた。

蛍光ソーダライトの謎が未だ解明されていないのは事実のよう。
誰もが混乱を起こしている。
ソーダライトがその鍵を握っているのは明らか。
グリーンランドにはその手がかりであるソーダライトと、その仲間たちが眠っている。




ご縁あって手に取ったグリーンランドの鉱物たち。
写真左、右の石は、ツグツパイトに共生したウッッシンジャイト。
奥はソーダライトに共生したウッシンジャイトとみられる。
左はなんと、ハックマナイトと共生したウッシンジャイト。

写真右は非常にやっかいな例。
どちらもツグツパイトに見えるが、右側はおそらくハックマナイト。
蛍光したさいの色合いから判断した。
一見するとわからないため、誤ってツグツパイトとして流出した模様。
以上、資料提供にご協力いただいたT様に心から感謝申し上げる。

本文下の写真は、冒頭の写真にある標本の蛍光写真。
考察に従うと、わずかに見えるピンクの発光部分はツグツパイトとなろう。
このウッシンジャイト/ツグツパイトやヌーマイト/アルベゾン閃石の他にも、現地から産出する稀産鉱物は数知れない。
カコートカイト、グリーンランダイトなど、珍しいだけでなく純粋に美しいと感じさせる素晴らしい鉱物が産出している。

希少石ながらニューエイジストーンとして根強い人気のあるウッシンジャイト。
光沢のある、混ざりけのない色濃いピンクの石を見かけられたら、ぜひ手にしていただきたい。
美しさのみならず、なんと超能力の開発やテレパシーの強化に関与するというから驚きだ。
ただし、使いみちを誤ると取り返しのつかないことになるという。
或いは持つ人に主体性をもたらし、絶望を希望に変え、実りある人生へ導くということであった。




40×33×15mm  16.81g

2013/04/03

ピンクフローライト(ペルー)


フローライト Fluorite
Huanzala Mine, Huallanca District, Dos de Mayo Province, Peru



欧米にはフローライト専門の収集家が数多く存在する。
彼らのこだわりと財力は果てしない。
もともとは鉱山の副産物であったフローライトが、閉山後に主役に取って代わる例も多い。
なかでもピンクのフローライトは、収集家が求めてやまないとされる貴重品である。

好まれるのは、透明感のある結晶にピンクの色合いが入ったもの。
スイス産やフランス産のチェリーピンクが有名だが、貴重品であり、日本には良品は入ってこない。
近年注目されているのはパキスタン産。
こちらは直接日本に入ってくることもあるが、彼らもプロだから簡単には落とせない。
世界規模で需要があるパキスタンのピンクフローライトだけに、現地のディーラーたちも強気なのだ。
なお、メキシコ産のパープルピンクはいっとき大いに流通があったが、ピンクフローライトに含めるかどうかは議論の分かれるところ。
色としてはパープルに近いため、安価なピンクフローライトとして扱われることが多い。

ペルーやモロッコから産出するピンクフローライトは、控えめなピンク。
写真の標本はペルー産出、骸晶の発達したデリケートな標本。
意外にピンクが濃い。
溶けて原形を留めておらず、元々どんな形だったかはわからない。
最初の発見は1980年頃、その後も断続的に発見されているという。
お世話になっている社長から譲っていただいたもの。
調べてみたら高級品だった。

ペルーのピンクフローライトは意外な掘り出し物。
当たり外れはあるが、写真のような色濃く大きな標本が見つかることもある。
春の訪れを教えるかのように、先日姿を現した。
外はもう春真っ盛り。
桜が満開だ。


31×25×16mm  12.77g

2013/03/24

スーパーセブン(ジンバブエ産)


ルチル入りアメジスト
Amethyst/w Rutile Inclusions
Chundu, Kazangarare, Zimbabwe



タイトルはスーパーセブンだが、写真の石は定義上、スーパーセブンではない。
被害が拡大中の "スーパーセブンもどき" に渇を入れるため、ここで改めてスーパーセブンについて考察するのが、今回の目的である。

あちこちで見かける昨今のスーパーセブン(セイクリッドセブン・メロディストーン)は、実はスーパーセブンではない。
スーパーセブンに関する前回の記事(→こちら)にも記したように、ブラジルのエスピリトサント州のインクルージョン入りアメジストを指して、スーパーセブンと呼んでいる。
現在国内で主流となっているスーパーセブンは、アフリカや中国から産出したもの。
鉄由来の成分であるレピドクロサイトやゲーサイト、ヘマタイトなどが見えるアメジストが、高波動の石スーパーセブンとなって、量産されているのである。


今一度、スーパーセブンの定義を見てみよう。

  • ブラジルのエスピリトサント州の鉱山から1995年に発見されたスモーキーアメジスト
  • 水晶、アメジスト、スモーキークォーツ、ルチル、ゲーサイト、レピドクロサイト、カコクセナイトの7つの要素から構成される
  • エレスチャル成長していることが多い
  • 鉱山は水没し、絶産している
  • 南インド産など他の産地から出た似た石は、定義上スーパーセブンと呼ぶことはできない

以上が現時点でわかっているスーパーセブンの基準。
既に絶産しており、1995年発見のオールドストックにはプレミアが付いている。
市場に流通している信頼のおける確実なエスピリトサント産スーパーセブンは、鉱物標本として流通しているスモーキーアメジスト。
実は2004年に新しく発見された鉱脈から得られたものらしい。
世界的にも主流となっているのもこれ。
エスピリトサントの他所から次々にインクルージョン入りアメジストが発見され、あたかもオリジナルのような価値を与えられて現在に至るというわけである。

後発の新しいスーパーセブンには、ヘマタイトが含まれていることが多々あった。
そのためスーパーセブンには8つの要素が…と解説していたり、最初からヘマタイトが入っていると説明しているサイトさまを見かける。
しかしもともとスーパーセブンの7つの要素にヘマタイトは無い。
また、ルチルが入っているスーパーセブンが見当たらないというのは謎である。

写真は意外に見かけない、ルチルの金の針が入ったアメジスト。
近年ジンバブエから発見されたこの美しいアメジストには、見事な細い金の針が詰まっている。

カコクセナイトについては諸説あるが、昨年エスピリトサント州フンダンより半世紀前のストックが発見され、カコクセナイト入りとして高く評価された。
私も昨年、偶然にも鉱山主さんから直接入手した。
同じ時期に米Heaven&Earth社より独占買収があり、鉱山主さんからの放出は無くなったそうだ。
それらはロバートシモンズ氏によりパープルアンジェリンの名を与えられて、小さくカットされて流通している(→詳細はカコクセナイトアメジストにて)。

私は例のごとく、違和感を受けた。
エスピリトサント産インクルージョンアメジストであれば、正統派スーパーセブン。
…のはず、だった。
しかし、カコクセナイトアメジストは、エスピリトサント産にも関わらず、スーパーセブンではないことが明記されていた。
調べてみたら、エスピリトサント州は世界に名だたるアメジストの名産地で、複数のアメジスト鉱山が稼動中だった。
つまり、現在手に入る本家スーパーセブンというのも所詮、偽物に過ぎなかったのである。

ルチルはどこから出てきたのか。
ルチルを内包するクリアクォーツ、或いはスモーキークォーツは、世界中から発見されている。
しかしアメジストに関しては、ヘマタイトやゲーサイトなど鉄関連鉱物のみ。

先日、大先輩にあたるK女史が、ルチル入りアメジストというのは実在するのか?と指摘されていた。
存在はしていることを思い出した。
このジンバブエ産アメジストはルチル入りアメジストとして購入したもの。
アフリカ産出にも関わらず、詳細な産地もわかっている。
ゲーサイトやレピドクロサイトなどの赤い針に混じって見える細いゴールドの針は、明らかにルチル。
極太の金のインクルージョンは一般にカコクセナイトとされているが、その様子とは明らかに異なるものである。




同じジンバブエ産アメジストの裏側が写真左。
右は側面から撮影している。
ルチルの針が見えるのはおわかりだろうか。
一見するとクラスター、途中からエレスチャル状に結晶している。
ジンバブエ産は主にエレスチャルアメジスト、他にセプタータイプが特徴となっている。

南インド・カルール産アメジストにも似た透明感、豊富な内包物、そして美しい結晶形。
紫の色合いの美しさはカルール産アメジストには及ばないが、内包物そのものの美しさや豊富さにおいてはジンバブエ産を推したい。
現在宝石やペンダントとなって高額で流通している "レアな本物のスーパーセブン" は、南インド、カルール産である。
スモーキーの色が少なく、どちらかというとシトリンの割合が多い。
高いからといって本物とは限らないので、注意していただきたい。

パワーストーンブームに火をつけるかのように登場し、インクルージョンという言葉を一気に身近にした魔法のクリスタル、スーパーセブン。
2004年の時点で、もう違うものが流通を始めていたということになる。
2年後に私が鉱物の世界にたどりついた時には、既に南インド産が主流になっていた。
現在主流の中国産 "スーパーセブン" は内包物に乏しく、美しさに欠ける。
期待のオーラライトにはインクルージョンそのものが見えない。

スーパーセブンのブレスレットは中国産アメジストなのだから、チベタンセブン等に改名するべきである。
などと思っていたある日、私は1995年発見とされる本物のスーパーセブンを拝む機会に恵まれ、ようやく納得した。
メロディ氏が発見したスーパーセブンには、ルチルが入っていた。
当時のサンプルからはヘマタイトが出なかったってことなんだろう。
世界的にはヘマタイトを内包した水晶のほうが一般的であり、ピンクファイヤークォーツや、カザフスタンのストロベリークォーツも現在はヘマタイトインクルージョンというのが通説となっている。

クリスタルヒーラーのA・メロディ氏によって見出された最初のスーパーセブン。
現在はクリスタルヒーラーのオールドコレクションがわずかに流れているだけのよう。
発見者のメロディ氏自身、分けてくださるような手持ちはないと踏んでいる。
入手は極めて困難である。
ただ、スーパーセブンのパワーがいまいちよく伝わってこないと思っておられた皆様にとっては、朗報となろう。




41×40×32mm  36.16g

2013/03/20

スペクトロライトキャッツアイ/スキャポライトキャッツアイ


スペクトロライトキャッツアイ
Cat’s Eye Spectorolite
from India



先日、不思議なものを見かけた。
スペクトロライトキャッツアイなる石があるという。
ラブラドライトの輝きをより強めたかのようなスペクトロライト(→記事)は、れっきとしたレアストーン。
まるで別物だ。
スペクトロライトほど高くなかったのは不可解である。
スキャポライトという文字が頭をよぎる。
スペクトロライトとして販売されていた写真の石、スキャポライトキャッツアイにそっくりなのだ。

産地は不明、加工はインドということだった。
スペクトロライトとスキャポライトはつづりが似ている。
インド人が読み違えたという推測が可能だ。
タンザニアやスリランカからは、赤味を帯びたスキャポライトが発見されているという。
写真の石とそっくりで見分けが付かない。
スキャポライトキャッツアイが誤ってスペクトロライトキャッツアイとなって流通しているということかもしれない。

しかしながら、スペクトロライトには知名度がない。
いっぽう、スキャポライトはインドからも大量に産出する。
インド人が読み違えるのは奇妙である。
そう思って引き続き調べてみた。
スペクトロライトの和名は曹灰長石、つまり長石の一種。
キャッツアイを示す長石をあたったところ、とんでもないものを見つけた。

参考)スペクトロライトキャッツアイ
http://www.a-original.co.jp/gem/gem/spectrolite/1091.htm

上記リンクでは鑑別書にフェルスパー(長石)の文字が見える。
鑑別はなんと、中央宝研。
日本で最も信頼のおける鑑定機関だから間違えるはずがない。
もっぱらパワーストーンの鑑別を行っている、例のアヤシゲな機関とは格が違う。
スペクトロライトかどうかまではわからないが、長石グループのいずれかにあたるブロンズカラーのキャッツアイが存在する。
スキャポライト(柱石)とは異なる鉱物ということになる。
写真の石も、まさかのスペクトロライトキャッツアイ?

参考)※英語サイト
http://www.dandennis.com/scapolite.htm

上記サイトでは、ラブラドライト(スペクトロライト)とスキャポライトは同じ場所から産出することがあり、しばしばスキャポライトと間違えられて流通する、と述べられている。
と、いうことは…
あっている。
それだけではない。
スキャポライトキャッツアイとして流通している石の中に、写真と同じ石、つまりスペクトロライトキャッツアイが混在している?


4.21ct

2013/03/15

チベットモリオン(黒竜江省産)


チベットモリオン
Quartz var. Morion
Heilongjiang, Daxing'anling Prefecture, China



かねてから、チベットモリオンは実在するのかという疑問があった。
高波動満載のヒーリングストーンが多数発見されているといわれるチベット。
古くから旅人を魅了してやまなかった伝説の地、シャングリラからも、モリオン(黒水晶)が大量に発見されているという。
聖地チベットから産出する神秘のパワーあふれる黒水晶・モリオン。
そんな都合のいい話がこの世にあるだろうか。

以前アンデシンの記事にて、中国で産地の捏造が日常的に行われているおそれがあることを記した(注:チベットアンデシンについてはこちらの記事にて)。
未知の産地をとらえた写真がネット上に流れる時、善からぬ思惑が入り混じることがある。
パワーストーンの売り上げアップのために、採掘現場と称して撮影にモデルを起用し、チベットの神秘を演出してしまったという残念な例が実際にある。
今回は、人気のチベットモリオンの存在の如何について、大胆にも考察していきたい。

きっかけはチベット産レッドアンデシン。
採掘現場の写真をネット上でたまたま見かけ、違和感を感じた。
鉱山内の一箇所に、不自然なほどに宝石質の赤い結晶が、まとまった状態で詰め込んである。
選別作業において、選別を終えたアンデシンは見当たらない。
素人目にみても実際の採掘現場ではない。
その後、産地のねつ造が行われていたことが発覚した。
ひとつの疑問が生じる。
アンデシン同様、他所から産したモリオンをチベットにばら撒き、神秘性を高めた…としたら?

以前ウクライナ産モリオンにおいて、山東省でモリオン産出の確認がとれている旨、記した。
山東省産モリオンは長石を伴う一般的な黒水晶。
鉱物標本店で見かける、信頼性のあるモリオンは、もっぱら山東省産だ。
チベットモリオンはパワーストーン系のショップで見かけるのみ。

私は幸運である。
ある方のご厚意で、内モンゴル産モリオンの産地や原石の様子の写真を入手することができた。
産地の状況もみえてきた。
正確には、内モンゴル産ではなかった。
山東省産に匹敵する見事なモリオンが産出しているのは、内モンゴルに隣接の中国黒竜江省。

黒竜江省モリオンは、大きさといい産出量といい、見事としかいいようがない。
表面が白や緑の衣に覆われているのがその特徴と考えられる。
工事中に偶然見つかったとのこと。
ただ、多くは巨大な塊で産出するため、鉱物標本として扱えなかった模様。
そのため、ほとんどがビーズなどに加工されてしまったということだ。
市場を賑わせているチベットモリオンのブレスレット。
黒竜江省モリオンを加工して作られたものだったのだとしたら、実に残念なことになる。
いっぽう、現地の産状や詳細な産出場所については謎につつまれたまま。
資料にある鉱山の写真には、半ば砂漠のような荒野と、海か湖のようなものが見える。
産地の地名から調べても、はっきりした場所はわからない。

さて、まずは中国黒竜江省産の天然モリオンのサンプルを手に入れなければならない。
そんなものは市場には出回っていない。
おそらくはチベットモリオンにその名を変えて、ブレスレットなどの製品になって流出してしまっている。
まさかとは思うが、中には "人工的につくられた" モリオンも含まれているかもしれない。
モリオン(黒水晶)は、水晶に放射能をあて、原子炉で人工的に作り出すことが可能である。

中国黒竜江省モリオンの特徴である、白やグリーンの衣をまとった大きさのある黒水晶。
チベットモリオンとして流出している石をあたれば、見つかるかもしれない。
そんなことを考えていたある日、私は中国黒竜江省産とみられる天然モリオンを格安で発見した。

昨年の池袋ショーにてお世話になったブース。
お隣のブースに黒いブツが並んでいる。
チベットモリオンの看板が出ている。
お店の方には、チベット産ではなくモンゴル産のモリオンを探している旨、告げた。
「混ざってます」とのお返事だった。
いや、混ざってなんかいないはずだ。
すべて中国黒竜江省産のモリオンであると、私は想定した。
というのも、池袋ショーで購入した写真のチベットモリオンは、見事な白や緑の衣をまとっており、中国黒竜江省産モリオンの特徴に酷似しているのである。
数年前から人気商品として定番化しているチベットモリオン。
これが偽物だったら大変なことになる。

日本人からすれば、チベットとモンゴルはだいたい同じ場所。
だが実際のところ、モンゴルとチベットには、相当の距離がある(→地図/イエローの部分がモンゴル産モリオンの産地付近か)。
日本列島が3つほど入ってしまうくらい離れた産地の鉱物が同じものとはいえない。
内モンゴル付近から素晴らしいクオリティの稀産鉱物が産したことは、専門家によって多数報告されている。
しかしながら、現地に外国人が入る機会は少ない。

以上の考察の結果、チベットモリオンは、残念ながら産地偽造品であったと断定する。
チベットモリオンと呼ばれ日本中のファンを虜にした神聖なビーズのほとんどは、中国黒竜江省産。
産地偽造の発覚は、販売者にとっては大問題。
だが、消費者も真実を知る必要がある。

気になるのは中国の放射能汚染とチベットモリオンの関係性である(→詳細はチェルノブイリと黒水晶にて)。
チベットモリオンの産地は赤と青で示した(→地図)。
イエローで示したのがチベットモリオンが産出したとみられる場所。
中国北端、モンゴル自治区境界及びロシアとの国境付近にあたるということだが、正確な位置はわからなかった。
現地は肥沃な土地を有し農作物の産地として知られているという。
しかしながら、場所がよくない。
中国にとって最も "不要な地域" にあたるのは一目瞭然。
核実験が行われた可能性がある。
仮に核汚染で半人工的に "処理" されたモリオンがこの世に存在するとしたら、うわさになったチェルノブイリのあるウクライナではなく、中国なのではないか、と私は推測する。

参考までに、写真の標本と一緒に購入したチベットモリオンのポイント(→画像)を例に挙げる。
放射線処理を施され黒くなった、有名なアーカンソー産の人工モリオン同様、色ムラが著しい。

中国から大量の天然モリオンが発見される以前は、放射能で人工処理したモリオンが主流であった。
一般に人工処理の如何は、白い色ムラの有無、根元付近に透明部分が残っているかどうかで見分けることができるといわれる。
標本を裏返すと、根元部分に無色透明の結晶が見えるのは、この標本及び上記リンクの画像にある通り。

中国の核汚染を持ち出すのは安直かつ危険と承知している。
ただ、内モンゴルが放射能で汚染されているのは事実。
聖なる土地のはずのチベットについても、核汚染は著しい。
四川省大地震では核施設が爆発し、多くの即死者が出たと聞いている。
意外に知られていないが、中国は日本以上の地震大国である。
チベットモリオンと最初に耳にしたとき、チベットにおける深刻な放射能汚染由来のモリオンを疑った。
しかしながら、より汚染の深刻なモンゴル付近から不自然なモリオンが産出し、誤ってチベットモリオンとして流通した、というのが現実のようだ。

以前から、チベットモリオンを好きになれなかった。
山東省産モリオンは手持ちがあるが、チベットモリオンは持っていない。
モンゴル産(黒竜江省産)も気味が悪いので倉庫には置かないようにしている。
チベットモリオンのパワーを信じて購入された方には、残念な内容になってしまった。
少なくとも、放射能の影響で黒くなった天然黒水晶に間違いないこと、記させていただく。
真実は石のみぞ知るということになろう。



右は裏面の拡大写真。
ところどころに透明水晶が見えるのは人工照射モリオンの特徴。
この黒さは原子炉で短期間に黒く加工されたとは考えにくい。
左は緑の衣をまとった堂々たる正面写真で、チベットモリオンに顕著。


約150g

2013/03/10

マンドラビラ隕石


マンドラビラ隕石
Mundrabilla Iron Meteorite
Mundrabilla, Nullarbor Plain, Australia



前回うちゅうのおともだちをご紹介させていただいたところ、スピリチュアルだったというご意見が相次いだ。
残念なことに、うさこふにはスピリチュアルな要素が皆無である。
取り急ぎそれを表明しておく必要がある。

確か出始めはスピリチュアルカウンセリングだったか。
当時カウンセリングの勉強をしていた自分は、漠然とした不安を覚えた。
カウンセリングは占いや人生相談とは異なるはずだった。
不安は的中した。
カウンセリングは危険だと考える人も増えている。
人の人生を左右するという意味では、危険性は否定できない。
しかしながら、霊感商法の類いと混同されているのもまた現実。

そこで今回、まったくスピリチュアルな要素を感じさせない宇宙のお友達をご紹介させていただく。
マンドラビラ隕石という。
いろいろとツッコミどころが満載だ。
おどろおどろしいマンドラビラの名は、単に地名らしい。

鉱物を集めるようになってすぐ、購入した。
知識なんて全く無い状態で、どうしてこんなものを購入したのかわからない。
隕石といえばギベオン。
そしてロシアのシホーテ・アリンやアルゼンチンのカンボ・デル・シエロ。
購入した初の隕石がマンドラビラだったという方は他にいらっしゃるだろうか。

さきほど調べてみたら、意外に流通があった。
しかしながら私のこの素晴らしいマンドラビラに匹敵する標本は見当たらなかった。
このマンドラビラ、酸処理によってギベオンに似たウィドマンシュテッテン構造が現れるため、もっぱら処理されている様子。
サビを取り除かれ、ピカピカのシルバーのプレートに生まれ変わったマンドラビラ隕石たち。
まるで新品の工業製品のよう。
見た感じはギベオンとたいして変わらない。
鉱物市場の拡大に伴って、人々の興味はより珍しいもの、誰も持っていないものへとシフトしているが、不要な個性は取り除かれてしまうのが常だ。

マンドラビラ隕石は1911年、西オーストラリアのマンドラビラにて発見された。
種類としては鉄隕石(隕鉄)、専門的にいうとオクタヘドライトに分類される。
酸処理により、ウィドマンシュテッテン構造が確認できることは先ほども記した。
レアだとは思う。
こんなうちゅうのおともだちを持っているようでは、神秘のかけらもない。
恐竜のふんの化石だと言われても、どうか信じないでほしい。



今週、話題性が確認された10の鉱物

What Mineral Would You Take with You to A Deserted Island?