2012/04/27

クォーツ(フローライト仮晶)


クォーツ(フローライト仮晶)
Quartz after Fluorite
Derwentwater, Lake District, England



フローライトが長いときを経て石英に変化した珍しい標本。
もともとの姿については、ナミビアのフローライトを見ていただくとわかりやすいかもしれない。
むしろ、あまりのわかりやすさに、当初見かけたときは仰天した。
形状はフローライトそのもの。
フローライトの面影だけを残して、石英に変わってしまった。

このように、元々の鉱物が他の鉱物に変化、若しくは入れ替わったものを仮晶と呼んでいる(参考:仮晶について素人なりにまとめたクリソコラの例)。
仮晶には、必然的に生成される大量生産ラインと、偶然に生成された限定ラインの二種類がある。
どんな世界においても、ファンに好まれるのは限定品。
過去に紹介したエジプトの星プロフェシーストーン、ノルウェーのアイオライトなどは後者にあたる。
これらは限定品ではあるが、いっとき頻繁に見かけたので、お持ちの方も多いと思う。

この標本も偶然の産物で、一度きりの産出であったものと思われる。
他に見かけたことは無いので、詳しいことはわからない。
産地は英国、湖水地方。
ピーターラビットの物語が生まれたことでも知られる湖水地方は、その作者であるビアトリクス・ポターが愛し、生涯をかけて守った土地である。
現在、このエリアの大半は、日本でいう国立公園に該当し、政府により保護されている。
この地に眠る貴重な資源の持ち出しは許されない。
鉱物の産地としては一般的ではなく、詳しいことはわからない。

鉱山から出た標本だが、鉱山の資料が見当たらないため、記載は避ける(※興味のある方はお問い合わせください)。
なお、ピーターラビットは、100年ほど前に実在したうさぎである。
彼女が飼っていたこのうさぎが、後に絵本の主人公となって世に出たのは偶然らしい。
ポターが家庭教師として教えていた身体の弱い子供のために作った絵本がその始まりと聞いている。
ビアトリクス・ポターの植物のスケッチはそれは見事なもので、素人の見解で申し訳ないのだが、絵本作家の領域を超えている。
以上はすべて私が中学生のときの記憶に基づく記述である。
間違っていたらツッコミをお願いしたい。

彼女の植物についての研究は、論文として紹介されるほどの内容にも関わらず、女性であるという理由で公にされることはなかった。
高校生の頃だったか、ナショナルトラストに興味を持ったのは、彼女がこの土地を守ろうとした理由がうわべだけのものではないと感じたから。
古いコレクションであるこの標本は、その事実を垣間見ることができる貴重な資料だと考える。
なお、私が幼い頃最も好んだポターの絵本は、「こわいわるいうさぎのはなし」であったという。


52×35×16mm  22.62g

2012/04/23

ダークスモーキー/エッチングクォーツ(アルプス)


ダークスモーキークォーツ/蝕像水晶
Dark Smoky Quartz
Bristenstock Mountain 3450m, Uri, Switzerland



鉱物に詳しい方なら、なぜ?と思われるかもしれない。
一般人は持つことの許されない、水晶の頂点。
それが、スイス・アルプス山脈から産する水晶である。
フランス側から出たものは比較的流通があるが、いずれもジャンクに近いものがいい値段で販売されている。
アルプスといわれただけで購入してしまうのが日本人。
そう思われても仕方ない。

外観は、モリオンのよう。
しかし、内部は極めてクリア、内包物は見られない。
太陽の下ではこれでもかといわんばかりに輝く。
私でも知っている、あるコレクターの所蔵品で、世界的に有名な鉱物店で販売されていたものを、運よく入手した。
どこから見ても、美しく、言葉にできない。
アイスクリスタルを思わせる変形ぶりや侵食の跡、平らな面(C面でいいのだろうか)などに、アルプス水晶ならではの透明感が加わった、美意識満載の豪華標本。

驚きのあまり夢中で写真を撮ったため、2回ほど床に落した。
若干欠けてしまったが、意外に頑丈であった。
オールドコレクションを破損してしまったショックは大きい。
現地からは他にもこうしたエッチングクォーツのほか、見事なポイントやクラスター、フローター/ファーデンクォーツなども出ている。
ただし、いずれも高度は異なるとみられる。
色合いは無色透明、内包物でグリーンになったものなどさまざまで、黒に近いスモーキークォーツが他にあるかどうか、この標本がどういった状況下で発見されたかについては謎である。
また、この地に由来する水晶は歴史的コレクションばかり。
半世紀以上前に得られたものも少なくない。
今世紀に入ってから産出があったかどうかについてはわからない。

見た限りでは、この産地の水晶は数が限られ、趣味人が資産を投じて購入するものであり、一般人は手出し無用。
大自然と闘うミネラルハンターの、まさかの根性を垣間見ることが出来る歴史的珍品たち。
価格はとんでもないことになっている。
欧州のコレクターは層が厚く、気合いからして違うため、流動層の多い日本に良品が流れてくることは少ない。

なぜこんなものを私が入手できたか。
それは、日本円にして500円にも満たない処分価格で、大放出されていたからである。
本当に、謎である。
撮影者の腕前がまずかったとしか、解釈のしようが無い。
まるでベツモノであるから、検索してそれとわかった方がおられたら、自信を持っていただきたい。

先人への感謝を込め、私が2回も落下させてしまったこの美しい標本の写真をもって、しめくくりたいと思う。
商品画像は相当まずかった。
だが、ウリマウンテンの名に負け、決断した。

ウリウリウリ!
予想を遥かに超えた美しさに、驚いてコケた。
感動をありがとう。






色合いは右下の写真が最も近いです。あとはすべて直射日光にあてて撮影しています。モリオンという言い方は適切ではありませんが、ケアンゴームとはいえると思います。カテゴリではスモーキークォーツとしました。


48×34×30mm  37.15g

2012/04/20

スギライト/杉石(原産)



スギライト Sugilite
愛媛県越智郡上島町岩城船越(旧岩城村)



世界三大ヒーリングストーンのひとつ、スギライト。
当初はヒーリングストーンって何?と思ったかたのほうが多かったかもしれない。
"三大なんとか" というのを比較的良く耳にするが、誰が認定し、好んで使っているのか疑問を投げかけずにはいられない。
そんな世界のトップ3にランクインしている、スギライト。
気高い美しい紫の色合いはもちろんのこと、日本原産であり、和名が杉石、発見が杉博士というある種の話題性も手伝って、日本では特にもてはやされ、売り上げを伸ばした人気商品であった。
現在も、杉博士が発見した杉石として、あちこちで紹介されている(要注意事項についてはアフリカのスギライトのページでご覧下さい)。

ところで、杉博士とはいったい誰なのだろう。
前回のスギライトの考察にあたっては、社会現象としてのこの石の側面に焦点を絞り、そのオチとして「1942年に杉博士らによって発見されたスギライトは、うぐいす色であったという」wiki情報をパクるなど、たいへん失礼な行為が見受けられる。
うぐいす色っていっても石だから、絶対あてになんないよね。
そんな話をしながら、これを見た。
その場にいた全員がこう言ったのである。

「うぐいす色だ」

誰もが驚いた。
原産地からのスギライトは、wikiにあるとおり、見事な淡いうぐいす色であった。
ただ、そうでないものもある(以下のリンクにみえる杉石は色が濃すぎる)。
この標本が、何年ごろ、島のどのあたりで、誰の手によって持ち帰られたかについては、あえて伺っていない。
杉博士らがかつて杉石のサンプルを持ち帰ったとされる、瀬戸内海の島からやってきたものには間違い無い。
この標本も研究のために、島を離れたということだった。
長いときを経て我が家にたどりついてしまった。
管理が不十分で申し訳なく思う。

少なくとも、意識して「うぐいす色」のスギライトを見たのはこれが初めて。
スギライトは紫でなければならないから、うぐいす色のほうを気にする人は少なかった。
私は、非常に気になっていた。
ブログにそれをアピールした直後の出会いだっただけに、心臓がとまりそうになったのを覚えている。
くわしいことはわからない。
発見地は上記の住所に浮かぶ、小さな島だという。
その島以外からは出ていない。
また、現在採取は禁止されている。
貴重品であるというのは確かで、販売されているのを見た記憶がない。
発見当時のスギライトについて言及している方は多いようだが、その姿は専門家のみぞ知るといった状況のよう。
日本人が発見したという事実は、スギライトの魅力を引きたてるためにあるというほかない。
かつては、スギライトフィーバーが盛り上がりすぎたために、一部に杉博士とメロディ氏を混同している人までいたくらいであった(クリスタルヒーラーであるとの意見は比較的よく聞かれた/実話)。
では、杉博士とはどんな方だったのだろう。

実は、発見者の杉博士は、1942年の杉石発見後すぐに他界している。
48歳の若さであったということだ。
杉さんご本人は、クリスタルヒーリングの人気に伴っておかしな誤解を受け、多くの人にその名を利用されたことを知らない。
それどころか、ご自身が新鉱物の発見者であることも、死後に名を残したこともご存じない。
この石に何かを感じ、周囲の誤解にみまわれながらも熱心に研究されていたようだ。
そもそもこの特異な島をも見つけ出したのだから、杉博士は計り知れない霊的なお力があった、という推測も可能ではある。
杉石の命名は1975年。
九州大学で杉健一博士の跡を引き継いだ、村上允英博士による命名ということである。
それまでは保留となっていた。
ユーディアライトではないかと疑われたこともあったらしい。
よくわかんない…けどもしかしたら、奇跡がおきるかもしれない。
つまり、そんな認識だったものと思われる。
現在も研究なさっている方がおられると聞くほどだから、研究し甲斐のある鉱物なのだろう。

命名から5年後に、南アフリカから紫のスギライトが発表され、原産地からの標本の影は薄くなってしまう。
瀬戸内海の島には何島か上陸しているから、私など気づかず通り過ぎる位、産地が狭いと思われ、さらにそれ以外の場所からは見つからない。
つまり、発見場所の特定が可能なうえに、産地/期間限定品であって、意外に美しい。
少なくとも末期の、ギトギトに着色されたスギライトとは比較にならぬほどに、美しいと私は感じる。
この標本にまつわる複雑な事情等もなんとなく想像できるが、あえて聞いていない。
エジリンや稀産鉱物・バラトフ石と共生しているとのお話で、それゆえに紫外線で蛍光するなどの魅力も。
共生のバラトフ石にかんしても、不穏な論争の形跡が伺える。

参考:「バラトフ石」http://kobutubako.web.fc2.com/Baratovite.htm

この奇妙な島にはどうも、かの幻の大陸とのつながりが感じ取れる。
意外な話を続けよう。
杉博士には幼少時、霊媒と騒がれた特殊能力があった。
周囲からは新鉱物であることすら理解されなかったというのに、氏はこの石が霊的に群を抜いた特殊な存在であることにいちはやく気づき、波動の差異で他の石とは違うという本質を見抜かれたのである。
その類い稀なる能力のために、若くして現世を離れることになった杉博士。
その波動は、今も現地に面影を残し、能力者のあいだでは伝説となっているという。


【注意事項】

最終段落は創作です。絶対にコピペしてご利用ください。ソース無しの無断転載による被害を受け、杉博士がお嘆きになっているようで心配です。
このような発言にいっさい責任を感じない愚かな私に、貴重な標本の半分をお分けくださり、ブログやラベルのお心遣いまでいただいた偉大な国産鉱物収集家、O様には、心からお礼申し上げます。貴重なきっかけをありがとうございました。収集した鉱物を後世に残すことは、今我々に与えられた課題のひとつではないでしょうか。


57×48×35mm  83.63g

2012/04/16

スフェーン


スフェーン Sphene
Badakshan, Afghanistan



スフェーン、くさび石、チタナイト、チタン石などと呼ばれる希少石のひとつ。
鉱物学上はチタナイト(titanite/チタン石)の呼称が正しいそうだ。
宝石の場合スフェーンの名が一般的だから、ここではそう呼ぶことにする。

産出は少なく、大きな結晶は滅多に採れない。
多くはカットされ、コレクション用のルースとして流通している。
色はイエローまたはグリーン。
ダイヤモンドをしのぐ分散(輝き)を示し、鮮烈なファイアを放つことで知られる。
現物はクリアでシャープ、ファイアのひときわ強い見事なルースなのだが、私の撮影技術では再現できなかった。
この神々しい輝きを、サードアイ経由にて、どうにか感じ取っていただきたい。
スフェーンは硬度が5.5と低く、微量の放射能を有するため、アクセサリーに加工されることは滅多にない。
もう少し硬度があれば、とため息をつく方が後を絶たないほどに、魅力的な鉱物なのである。

かなり初期の段階で目をつけた。
宇宙の神秘を感じた。
最初に入手したのは300円程度、くさび形の結晶がいくつか入ったお買い得パックで、ブラジル産だった。
初期からの私のお気に入りで、ジルコンとともに持ち歩いていたのを思い出す。
その後パキスタン産の若草色の原石(クロム・スフェーン)に出会う。
ルースにはあまり興味がなかった。
少なくともコレに出会うまでは。

これまでにない圧倒的な透明感。
まぶしいゴールドの輝き。
飛び散る虹色のファイア。
1ct超えの大きさに加え、インクル(不純物)が肉眼で確認できない良石にもかかわらず、べらぼうに安かったのである。
そんなうまい話があるものか。

スフェーンの処理石はほぼ無いという。
あるとしたら別の鉱物をスフェーンとして扱っているケース。
ファイアが全くみられないグリーンはペリドットなど、ファイヤが強くともオレンジの色味が強い場合はスファレライトの可能性がある。
ただし、後者はスフェーンにならぶ希少石で、美しいものは稀産かつ高額となる。
次に疑われるのが、産地の偽造。
ルース/カット石は、産地の特定が困難と、プロの方も嘆いておられるくらい難しい。
こちらはスペイン産とあった。
価格面のみならず、すべてにおいて違和感がある。
また、チタニアダイヤにも類似点が多く見受けられるが、合成宝石は意外に高額なもの。
少なくとも一般的には、今回のスフェーンの数倍の価格で取引されている。
庶民ゆえもっと安いルートがあるかもしれぬが、わからない。

調べていくうちに、このクオリティのイエロー・スフェーンが、意外な場所から発見されていることを知る。
アフガニスタンである。
アフガンの鉱物の販売権を事実上握っているパキスタンだが、パキスタン自体、スフェーンの有名な産地。
パキスタン産のスフェーンは美しい若草色を特徴とし、世界的評価を受けている。
ただ、イエローは見たことが無かった。
そのため今回はアフガンからのルートは全く視野に入れず、中国やイエローの出ているマダガスカルを疑った。
しかし、またもやアフガンという結論に至る(前例にパライバトルマリンクンツァイトなど。この件に関しては謎が多く言及は控えたい)。

アフガニスタン産であることは確認した。
なんたること。
憧れのアフガンは、遥か彼方に。


1.60ct

2012/04/14

レインボーガーネット


レインボーガーネット
Rainbow Garnet
奈良県吉野郡天川村 行者還岳



日本が誇るレアストーン、奈良県吉野郡天川村産のレインボーガーネット。
その名の通りメラメラと輝く虹色のイリデッセンスを特徴とし、角度によってさまざまな表情をみせる。
鉱物学上は、アンドラダイトの変種とされる。

レインボーガーネットは、2005年9月、付近を探索していた鉱物愛好家のグループによって発見された。
虹色のイリデッセンスを示す、いわゆる "レインボーガーネット" が最初に発見されたのは1943年、米・ネバダ州。
その後メキシコのソノーラで僅かに発見されているが、限られた人しか手にすることのない幻の宝石であった。
ここ日本で質の高いレインボーガーネットがまとまって産出したのは、歴史的に重大な出来事であった。
噂を聞きつけた愛好家やお宝ハンター、ジャーナリストや近所の人まで押しかけ、我こそはと掘りつくした結果、産地は燦々たる状況に。
現在この一帯の採掘は禁止されている。
その後世界各国でその存在は確認されているものの、質は安定せず、産出も僅かな量にすぎない。
教科書に載るレインボーガーネットの概要はここまで。

さて、先ほど登場した「鉱物愛好家のグループ」であるが、実際はお2人のはず。
発見者は、Sさんという。
鉱物が好きな方なら、一度はファンレターを送られたことと思う。
私が初めて手にしたレインボー・ガーネットは、Sさんご本人から譲っていただいたもの。
光り輝くレインボーガーネットの原石が袋からゴロゴロ出てきたときの興奮を、今でも覚えている(本文下の画像、右側)。

発見から一年あまり。
Sさんはまさに旬の人でありながら、ミネラルハンティングに余念が無く、日々山へ入る生活を続けておられた。
お姿を拝見したことはない。
熱心で飾らない、若手鉱物収集家のカリスマにして、さわやかな草食系男子に違いないものと思われた。
併せて発見されたという、より激しい虹の閃光を放つガーネット「スーパーレインボーガーネット」の名は、Sさんがノリノリで思いついたネーミングだと聞いている。
国内では正式に使われている呼称であるからして、見かけるたびに笑ってしまう。
現在、Sさんは商売のほうに熱心に取り組まれている様子。
お変わりないことを願いたい。

枯渇してのち、高騰を続け、レインボーガーネットの希少価値が増している現在も、Sさんご本人の素性や功績が大々的に取り上げられることはない。
少し違和感はある。
なお、2009年発見のネオンレインボーガーネットも奈良県からの産出であるが、私はこの頃鉱物の世界を離れており、詳しいことはわからない。

随所で発見されているとはいえ、レインボーガーネットとして世界的に認知されているのは我らが奈良県産。
全国的に地味な存在であった奈良県(当家先祖代々生誕の地)を伝説に変え、誕生石としては微妙な存在であったガーネット(私の誕生石)を日本の誇りへと昇格させたSさんの功績は、大きい。
レインボーガーネットをいっときのブームとして扱う向きがあるのは残念なこと。
私情を挟むべきではないといいたくなる。

ガーネットは、積み重ねてきた努力を実らせるとされる鉱物。
周囲の人々からの信頼や友情、愛情を得て、成功を勝ち取ることができるよう、力になってくれるといわれている。




約10mm前後

2012/04/11

アトランティサイト


アトランティサイト
Atlantisite
(Stichtite-Serpentine)
Stichtite Hill, North Dundas, Tasmania, Australia



黄緑色のサーペンティン(リザーダイド)と紫色のスティッチタイト。
鮮やかな色彩のハーモニーが印象的である。
クリスタルヒーラーのメロディ氏によって紹介されたヒーリングストーンのひとつに数えられる、アトランティサイト。
産地に因んでタスマナイトとも呼ばれている。
その希少性と、メロディ氏のネームバリューも手伝って、長い間その人気は衰えることを知らない。
アトランティサイトの名の由来は、言うまでも無い。
失われた幻の大陸、アトランティスの叡智にアクセスできるというこの奇跡のクリスタルは、ヒーリングの分野のみならず、標本業界にも多大なインパクトを与えた。
事実上ニューエイジストーンの統括に関わって久しい、米・HEAVEN&EARTH社のカタログにもその姿を見ることができる。

パワーストーンとしてもお馴染みのサーペンティン。
正式には、鉱物のグループ名にあたり、アンチゴライト、クリソタイル、リザーダイトの三種類に分類される(アトランティサイトの黄緑色はリザーダイド)。
それぞれ色合いや質感が異なり、産地もさまざま。
また、特に珍しい鉱物とは言い難い。

鍵を握るのはスティッチタイト。
1910年、オーストラリア・タスマニアで発見された希少石である。
発見当時はサーペンティンと混在した状態だったという。
つまり、初期の段階において、その外観は "アトランティサイト" であったものと考えられる。
新しい鉱物という扱いを受けるこの石だが、発見から100年余りが経っているということになる。
スティッチタイトはサーペンティンの変化によって生じる鉱物。
両者には密接な繋がりがある。
しかしながら、スティッチタイトの産出はオーストラリア、タスマニアに集中している。
南アフリカやチェコからも報告されているが、数は少ない。
アトランティサイトが希少石として扱われる所以であろう。

先日、とても有り難いリクエストをいただいた。
この石には思い入れがあり、いつかまとめてみたいとある方にお伝えしたばかりだった。
アトランティサイトは、メロディ氏が命名した石のひとつ…であり…?
だったっけか?
命名までそうと聞いた記憶がない。
早速調べてみた。
日本では "メロディ氏が命名した石"というふれこみで、こぞって紹介されている。
しかし、メロディ氏による命名と明記している資料は(日本を除いて)見当たらない。
そればかりか、アトランティサイトの名付け親を名乗る人物が、世界各地に存在するようである。

アトランティサイトが世に知れ渡るきっかけとなるのは1998年。
関係者がスティッチタイト鉱山の権利を獲得した直後のことだという。
原石を得るため現地入りしたメロディ氏のはしゃいでいる姿が、タスマニアにて確認されている。
彼女が初期からこの石に関わり、普及に尽力したのは間違いない。
ちなみに、あまり知られていないが、クリスタルヒーラー・メロディ氏は、科学者/数学者という側面もお持ちである。
理系であったとは。
グランドフォーメーションを連発、鉱物に対して独自の見解を示し、世界を混乱させるカリスマ・我らがメロディ女史。
お会いしたことはないが、もしかしたら天然なのかもしれない。
彼女については、あくまでアトランティサイトを紹介した、という表現にとどめるべきかと思う。

メロディ氏を含む関係者に、鉱物のサンプルを提供した人物がいるという。
のちにアトランティサイトと呼ばれることになる、スティッチタイトの標本である。
そのやりとりにおける流れで、タスマニアとアトランティスとの関連性が話題に上り、命名に至ったのではなかろうか。
ただし、接点のみえない名付け親も存在する。

参考:オーストラリアの鉱物業者
http://www.openallday.au.com/StitchSerp.html

私のアトランティサイトとの出会いは、石に興味を持ってすぐ。
その鮮やかで個性的な姿を見て、一目で気に入ったのを覚えている。
発表年代としては前後するが、日本ではかつてスーパーセブンは高級品であって、気軽に入手できるものではなかった。
比較的安価で入手できるアトランティサイトのほうが、知名度は高かったはず。
だが、スーパーセブンとは異なり、その後定番商品として定着するほどの流通は無く、相場はむしろ上昇している。
現在もお探しの方は多いようだ。

写真は、選りすぐりのカポジョンを、友人にお願いして作ってもらったオリジナルのペンダント。
デザインにこだわり、あれこれ注文を付けたので、けっこうな額を請求された。
ジェットをアクセントにした理由は覚えていない。
後にも先にもこれひとつ。
厳選された素材を使った力作にして、今となっては二度と作れない幻のペンダント。
宝物はいつしか、思い出へと変わっていく。


31×25×10mm Handmade by Jun; Kyoto

2012/04/08

スモーキーローズ


スモーキーローズ
Rose Quartz
Pitorra Mine, Galiléia, Minas Gerais, Brazil



ローズクォーツが結晶することは滅多にない。
前ここで見たんすけど…という方にはもれなくプレゼントを差し上げたい。
ローズクォーツはまだ2回目。
単に私が珍しいモノ好きだから、ローズクォーツには出来る限り結晶していてほしいのである。
結晶化ローズクォーツが、以前よりも身近な存在になったのは確か。
ただ結晶しているだけでは売れなくなった。
出始めのころは、結晶というだけで高値が付いたものだが、買い手も賢くなり、ローズクォーツは案外結晶する、ということを知っている。

写真はちょうど一年前、春のミネラルショーで3,0xx円で売られていたもの。
桜の季節、今年も春のミネラルショーがやってくる。
ふと、思い出した。
エレスチャル成長した色濃いローズクォーツ。
その結晶に溶け込むかのような、淡いスモーキークォーツの色合い。
かねてからその存在は知っていたが、実際に遭遇するとは思っておらす、驚いたのを覚えている。
まず見所はというと、大きい。
ローズクォーツの結晶としては、相当の大きさがある。
また、エレスチャルと呼ばれる、非常に複雑な構造をしている。
ブラジルから産する結晶化ローズクォーツはポイント状にはならず、概ねエレスチャルクォーツになるという見方もできるのだけれど、これほど明快にエレスチャル成長したローズクォーツというのは興味深い。
かつ、この透明感。
これだけで十分価値はある。
これだけ?

そう、つまるところ、スモーキー部分はオマケになる。
ラベルには「Rose Quartz(ローズクォーツ)」とだけあるから、ラベリングした人も同じことを考えたに違いない。
これを手に取ったときにはわからなかった。
二つの色合いに価値があると思い込んでいた。
モリオンと共生した、あの気高いアフガンローズを見るまでは。

去年の春のミネラルショーでは、他にも似た面持ちの標本を幾つか見かけた。
かなりの流出があったのかと思いきや、あれ以降みかけない。
数そのものは、多くはなかったのだろう。
連れに止められたのをふりきって、(何周かしたあと)買っておいてよかった。

人生は甘くない。
後になって気づいたときには後悔ばかり。
石だけは例外なのかもしれない。
本当の意味に気づいたとき、いかに救われたことかと、心底思い知らされることがある。
ギャンブルの類いはいっさいダメ。
なのに石に限っては、たびたびある。
川石の収集家だった祖父が自分を守ってくれている。
人生をふりかえったとき、そう思うことが、たびたび、ある。

私を育ててくれた祖父。
あれからもう二十年になる。
前日まで元気だった。
立ち寄った叔母一家と曾孫を外まで見送り、さよなら、と手を振ったのが最後だったそうだ。
来客を見送るような人ではなかったから(さすがじいちゃん!)、叔母はこれはおかしいと直感したという。

つかみどころのない不思議な人だった。
常に酒を呑んでいた。
時々、ライカや植物、石の台座をいじっていた。
私が何よりも怖がる「指が取れる技」を繰り出し、キセルの煙で輪っかをつくってみせ、にやにやしている。
祖父と一言も話さなかったのが、今でも不思議でならない。
石を集め始めて間もない頃、渋いからという理由だけで購入した、ドイツのデンドライトが供えっぱなしになっているのを思い出した。
夜があけたら、拝みにいこう。




48×29×17mm  26.08g

2012/04/06

スラティシェールレコードストーン


スラティシェール・レコードストーン
Melody's Slaty Shale Record Stone
Melody Green Mine, Mt. Ida, Arkansas, USA



スラティシェール・レコードストーン。
著名なクリスタルヒーラー、メロディ氏のお墨付きで登場し、一部で話題になったものの、数は少なく、ほとんど日本に入ってこなかった。
紺とアイボリーのパターンから成る縞模様は、まるで絵画のよう。
どの石にもこの模様が出ていて、一目でそれと判る。
メロディ・グリーン・マイン(既に閉山した氏所有の鉱山)から発見された、カオリナイトと鉄から成る岩石である。
ニューエイジストーンと呼ばれる石が概ねそうであるように、その価値はクリスタルヒーラーの感性や直観に委ねられる。

スラティシェール・レコードストーンは、薄いプレート状となっており、神秘的な縞模様が両面にみられるのが特徴である。
なんでも、この模様には、霊的な領域の情報が刻まれているという。
当時の記録が残っていたので、コピペ。

  • 異次元からの情報の記録媒体である。
  • あらゆるヒーリングに適している。
  • 霊的にふさわしいパートナーに出会えるよう導く。その相手がたとえ古代文明にあった場合でも、その繋がりを叶える。
  • 望んだ願いを実現させる力がある。それが本当に必要な願いであるかどうかを見極める能力も備わるよう導く。
  • 2つを並べると蝶の羽根に見えることから「バタフタイ・ストーン」とも称され、霊的なパートナー同士で持つと、この石の力が存分に発揮されるという。

よくぞシンプルにまとめたものだ(自画自賛)。
メロディ氏からのコメントは熟読したが、正確に伝えるための基礎知識が自分には不十分だった。
氏の文章はもともと難解かつかつクセがあり、専門用語の頻度も高い。
ニューエイジ方面に詳しい方もわからないとおっしゃっていたくらい。
よってこのあとにお詫びの文章が続く。

スラティシェール・レコードストーンの名前自体、翻訳できなかった。
今回は他サイトを参考にさせていただいた。
混乱された方がおられたら、申し訳なく思う。

もともとはバラフライ・ストーンとして、ペアで譲っていただいたもの。
多くの人に知っていただく機会と思い、片方は売りに出した。
写真はその当時のもの。
買い手は付いたが、やむを得ぬ事情により現在も当家に鎮座しておられる。
つまり、キャンセルを繰り返し、多くの人を窮地に陥れたそのお客様と、私は霊的パートナーになってしまうところだった。
2つとも、私のところにとどまる宿命だったのかもしれない。
現在も販売されているようだが、驚くべきことに、この石を特徴付けるはずの縞模様が見当たらぬ。
事実上消滅したものと捉えるべきか。
大好きな石のひとつだった。
ご紹介できず、残念に思う。
ラストは当時私が素直に書いた、お詫びの文章で締めくくりたい。


【お詫び】

原文が非常に難解で、十分な翻訳ができませんでした。
世界的に入手困難で、資料も少ない石です。
情報などございましたら、是非お寄せくださいませ。
大変申し訳ございません。


71×51×3mm  9.99g

2012/04/03

青水晶(マラガ産)


青水晶 Blue Quartz
Juanona Mine, Antequera, Malaga, Valencian Community, Spain



水晶にはさまざま色合いがある。
クリアクォーツ、ミルキークォーツ、アメジスト、シトリン、ローズクォーツ、スモーキークォーツ、モリオン、プラシオライト。
以上は水晶そのものの発色。
微量のイオンや地熱、放射線との深い関連があるとされる。
いっぽう、水晶の内包物(不純物)や付着物により水晶全体の色合いが変わることがある。

写真はスペイン・マラガ特産の青水晶/ブルークォーツ。
天然青水晶として古くから知られ、収集家から高い評価を受けている。
水晶そのものが青いわけではない。
アエリナイトという青い鉱物のインクルージョンが色合いの原因とされている。
スペインといえば赤水晶も有名だが、こちらもインクルージョンによる発色。
たまに見かける、自然界に存在し得ない色合いの水晶については、今回は省略する。

※着色岩石、着色ガラス及びキャッツアイなどのビーズは、手芸店で売っている。パック入りで数百円程度。最寄りのスーパーに出向くことをおすすめする。

青水晶にもいろいろある。
最近ではブラジルから産出する、ブルートルマリンを内包した青水晶(主に二種類。ブルールチルに記載した針状インクルージョンの見えるタイプ、若しくは全体が内包物により青く染まったタイプ。後者は小さく、ブラックトルマリンを伴うのが特徴)が多く流通している。
マラガ産よりブラジル産のほうが産出も多く手頃なため、知名度、人気ともに高まりつつある。
青水晶の内包物として他に思いつくのは、ブラジルのギラライト(パライバクォーツ)、南アフリカのパパゴアイト、ナミビアのシャッタカイト、マダガスカルのラズライト、ペンシルバニアの青石綿、ルーマニアのプーランジェ鉱など。
パキスタン、マラウイ産出の青い石英も持っているが、これらはカルセドニーといったほうが適切かも。

マラガの青水晶を初めて見たときは、正直落ち込んだ。
何がいいのかよくわからなかった。
私には青カビが生えた岩にしかみえなかった。
よく見ると背たけの低い、くすんだブルークォーツが、岩の表面にいくつも貼り付いていた。
とにかく地味で、青が冴えない。
ブラジルのブルークォーツを見慣れているヤングには、マラガの青水晶の極意はわかりにくい。
もちろん、然るべき金を積めば、全体が青に染まった素晴らしい標本が手に入る(と、いうことは、後日知った)が、マラガからの青水晶の産出は激減している。

そんなある日、私は美意識満載の青水晶をみかけた。
スペイン・マラガ産とあった。
あれ?
こんなにきれいだったっけか。
お値段のほうも手頃だったので、参考に購入。
手持ちのマラガ産青水晶と並べてみたのが本文下の写真。

盲点だった。
色彩心理学を忘れていた。
母岩の色相が違いすぎるから、水晶の色が違って見えたのだ。
背景が白ければ、確かに青が映える。
現在流通しているマラガの青水晶の大半は、写真左にみえる畳色の母岩にわずかに付着しているのみ。
ただ、白いほうは大丈夫なのか。
微妙にセメントっぽい。
そう思い、譲ってくださった方に、母岩の色合いの原因について尋ねた。
採取された場所が若干離れているのでは、というご返答であった。
マラガの青水晶は、広い範囲で採取されるため、地質が変わることがあるそうだ。

アエリナイトらしき色味の入ったほんのり青い母岩に、美しいブルーのクォーツが載った姿は、青水晶の代表格と称されるのもわかる気がする。
しかし、写真右に示した青水晶にのほうは美意識に欠け、納得がいかない。
日に焼けた畳のようなこの母岩、いったい何事か。
訳をご存知の方はおられるだろうか。
世界的に情報を募るべく、またもや英作文を試みたが、スペインの方が見たらお怒りになられるだろう。
いつになく体調が優れす、朦朧としている。



In above picture, you can see the Japanese "TaTami" flooring
and you can also look at similar color in a rock on the right side.
That's nothing but a poor geek for me.
What would you say, if both of two specimens were all the same?
They are the Blue Quartz coming from Malaga in Spain.


約35×55×35mm  92g

2012/04/01

ローザサイト


ローザサイト Rosasite
Cumbres Vein, Level 6, Ojuela Mine, Mapimi, Durango, México



有名なメキシコ・オハエラ鉱山のローザサイト(亜鉛孔雀石)。
ビロードのような質感と、鮮やかなスカイブルーが美しい。
カルサイトやヘミモルファイトなどの透明結晶を伴って発見されることが多く、レンズの中で光るかのようなローザサイトの標本には圧倒される。
いっぽうで、シンプルなこの標本もまた、深い味わいがある。
黄褐色の母岩とのコントラストが青をいっそう際立たせている。

和名の亜鉛孔雀石は、まるで孔雀のような華やかさからその名を与えられた、のではない。
おおざっぱに説明すると、マラカイト=孔雀石+亜鉛=亜鉛孔雀石。
ということらしい。
マラカイトとローザサイトには密接な繋がりがある。
例えば、この標本がマラカイト化したところを想像していただくと、わかりやすいかもしれない。
ウッとなった方もおられるかもしれない。
ブドウ状に成長したマラカイトは、実に不気味である。
私もアレは無理である。
しかし、同じブドウ状でも、スカイブルーなら許せてしまう。
許さない方もおられるかもしれないが、少なくとも私は一目惚れであった。
いずれも銅の二次鉱物。
マラカイトより珍しいが、比較的安価で入手できる。

問題は、ローザサイトが非常にデリケートな鉱物であるということ。
触ったら潰れた。
オーケン石など、見るからにデリケートな鉱物なら覚悟はするのだが、これほど脆いとは思わなかった。
水や酸は禁忌である。
注意を怠ると、取り返しの付かないことになるからして、ローザサイトを手に取るさいには白衣及び手袋を着用のうえ、瞑想ののち臨みたい。
すると霊力が高まり、物事の真実が明らかになり、宇宙の真理までも理解できるという(「パワーストーン百科全書」より)。

実は今、困っている。
目が覚めて気づいた。
このブログの画像が、残らず外れてしまっている。
4月1日にこれは有り得ない。
元に戻すには、少し時間がかかりそう。

4月か。
もう春なんだな。
いつになく厳しい冬だった。
遅い春。
まだ向こう側にあって、届かない。


48×25×24mm  25.32g

今週、話題性が確認された10の鉱物

What Mineral Would You Take with You to A Deserted Island?