2012/06/17

ユーディアライト


ユーディアライト Eudialyte
Lovozero, Kola Peninsular, Russia



確か、一番最初に買った希少石がユーディアライト(ユージアル石)だった。
恩師の店で見つけたビーズがきっかけだったと記憶している。
お店の人に聞いても正体がわからない。
ありました、と見せていただいた本には、今でも忘れられない衝撃の一節があった。

無意識のうちに宇宙の秩序や法則が理解できるようになり、自然の流れに身をゆだねることが一番良いことが認識できるよう導く力があるといわれています(「パワーストーン百科全書」八川シズエ著)

間違いなく個人差はある。
私には宇宙の秩序など理解できそうにないからだ。
それでも気に入って500円程度の標本を幾つか購入した。
原産地であるグリーンランド産の、まるで岩のような標本が先日出てきたときには仰天した。
単に安かったから買うという初心者に有りがちな動機で、このような通好みの標本を購入していたというのは興味深い。
その後、幾つかユーディアライトを紹介させていただく機会に恵まれたが、どちらかというと収集家向けの鉱物標本という扱いだった。

ユーディアライトの主要な産地はロシアとカナダ。
一般に赤、白、黒の3色で構成されていることが多い。
白はネフェリーン、黒はエジリン。
赤い部分がユーディアライトで、それ以外はおまけである。
過去には紅赤色の透明石もカットされたという。
ロシア・コラ半島産ユーディアライトの醍醐味でもあった、ガラス光沢の煌きを伴うダークラズベリーカラー。
産出の激減に伴い、見かけなくなった。
写真のカットストーンは先日出てきたもの。
宝石質と言うのは憚られるが、不純物の少ない素朴な一品。
ロシア産ならではの色合いが出ている。
当時は千円もしなかったのだけれど、ざっと見た感じ、私にはもう買えないみたいだ。

先日、ユーディアライトのオールドストックを紹介させていただく機会があった。
思いのほか好評で、人々の鉱物への関心が深化しているものと、嬉しくてたまらなかった。
リクエストまで頂戴した。
さっそく探したのだが、イメージ通りのものが無い。
取り扱いはむしろ増えている。
しかし、赤い部分がほとんど見られない。
ユーディアライトの入っていないユーディアライトっておかしいと思うのだが、軒並み一万を越えている。
ヒーリングストーンとしての扱いも急増している。
3つの鉱物の相乗効果というやつなのかもしれないが、この石の場合はそうとはいいきれない難しさがある。
以前は殆ど見かけなかった赤みの強いカナダ産ユーディアライトも見かける。
ブレスにまでなっている。
限られた土地からしか産出しないこの希少石に何が起きたのか。

以下は、素人のたわ言と軽く流していただけたらと思う。
もしお読みになって、強い不快感を覚えられたかたがおられたら、深くお詫び申し上げる。

日本人の特徴というものについて考える機会をいただいた。
アメリカの価値観に倣って、自己主張さえしていれば間違いないと思い込む。
少なくとも私の周囲のアメリカ人は、それが愚かなことと知っている。
或いは、社会的に良いとされるものに憧れ、自らもそうありたいと努力する傾向。
裏をかえせば、誰かに良いといわれなければ、関心を持つことも持たれることもない、ということ。
その崖っぷちを突っ走った結果、私の珍コレクションが存在している。

以前から気になっていた、鉱物標本を「子」と呼ぶ習慣。
「この子はちょっとクセのある子でね」「この子は凄く人を選ぶ子で…」という言い回しは、今に始まったことではない。
ショップの店員さんも使うようになった。
愛着からそう呼ぶのは決して悪いことではないし、石を愛する気持ちが伝わってくるから、きらいではない。
いっぽうで、さまざまな側面において、日本人的な考え方だと感じる。

極端かもしれないが「子は親に尽くすもの」という価値観もひとつ。
経済的自立と精神的自立は違うと思っている。
物理的に親元、或いは保護者のもとを離れるのは容易なこと。
かれらを一人の人間として受け入れられるようになったとき、それが精神的自立だと思うのだ。
自立しろと言いたいのではない。
私自身できているとは考えていない。

人はいつか死ぬ。
生みの親や育ての親を、一人の人間として見送ることができなかったとき、自我に混乱が起きる。
逆であったなら事態はさらに深刻で、遺された親が日常生活に支障をきたし、危機的状況に陥ることもある。
それを見るたび、悲しくてならないのだ。
家族を一人の人間として受け入れられないために起きる問題のひとつに、境界性人格障害がある。
愛情を求めながらも孤独で満たされることのない心は、当事者だけでなく親にもあって、その孤独と渇望の連鎖から抜け出すことは容易ではない。
子は親の所有物ではないと、わかっていても。

話が飛躍してしまった。
全く別の場所で感じたことを、こうしてひとつにまとめてしまったことを、お許しいただきたい。
一生を親に尽くし捧げるのと、一生親に反発して生きることは似ている。
石を「子」と呼べない自分は何か歪んでいるのかと悩むときがある。
投影もひとつの業。
私の手持ちの石は、いずれ然るべき持ち主のもとへ導かれることが多くあるから、自分の所有物になることはない…そんな、ひがみなのかもしれぬ。
霊的な感性は皆無ゆえ。



右が有名なロシアのダークラズベリーカラー。
左が近年主流になっているカナダ産で、やや赤みが強いのが特徴(いずれも夕日で撮影)。
スウェーデンからはピンク系、グリーンランドからはダークレッド、
米からはオレンジなど、産地によって色合いが違っている。
所構わずロシア産ユーディアライトとして販売されていることがある。


20×14×7mm

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What Mineral Would You Take with You to A Deserted Island?