2012/02/28

インディゴライト


インディゴライト
Indicolite Tourmaline
Galiléia, Minas Gerais, Brazil



平和な日々をすごしています。
私は元気です。
今夜はブルールチルでお馴染みのインディゴライトの話をしましょう。
そう、憧れのあの青い針が、なんと束になっての登場です。
母岩が無いから丸ごとインディゴ。

だけど、なんだろう?この無言の圧力は。

エルバイト(リチアトルマリン)の中でも、緑色を帯びた青~濃紺色を示す結晶をインディゴライトと呼んでいる。
絶妙なブルーとグリーンのバランスがその基準となるため、判断は難しい。
ブルートルマリンよりも価値は高いとするのが一般的。
インディゴライト≠ブルートルマリン、とするなら、俗にいうブルールチルの定義に新たな見直しが必要かもしれぬ。
インディゴライトよりも、ブルートルマリンの針状結晶を内包する水晶としたほうが適切と考えられるからだ。
青緑の針の目立つブルールチルは、歓迎されない。
ジュディ・ホール氏の著書では、ブルー・トルマリンの入った水晶を青水晶としている。

この標本はインディゴライトとして入手した。
確かに全貌はインディゴライトだが、多彩すぎて意見はわかれそう。
一部にアクアブルーやグリーン(ヴェルデライト)、イエロー(カナリー?)の箇所が見られる(本文下に写真を掲載)。
いずれもエルバイトに属する。
あとはピンクがあれば勢揃いなのだけれど、残念ながら確認できず。

100gを越える大きさ。
手持ちのトルマリンの中で最も大きい。
そして分厚い。
鍋の底から現れたまさかの昆布のようなフォルムには、圧迫感すら感じる。
さほど高かった記憶がないのは、付着物・ダメージがみられることと、透明度や形状に「トルマリンらしさ」が欠けているためではないかと思う。
トルマリンといえば柱状のシャープな結晶体。
真っ直ぐな条線が光に透けてつやつやと輝くさまを楽しむもの。
複数の色味を持つ場合は、そのグラデーションの絶妙さも評価の対象となる。
だが、この標本は分厚すぎて、向こう側が見えない。
そこが光に満ちているのか、闇に包まれているのかは、わからない。

表面の至るところに、細かい毛状のなにかが貼り付いている。
シルバー?
水洗いしたら溶けて見えなくなった。
乾燥させて再び確認すると、復活している。
こすって落としても元に戻るコレ(本文下写真参照)は何?

カビの類いだろうか?
マイナスイオンで空間を清浄にするという美と健康の象徴・トルマリンに、カビなど有り得ないはずだ。
もしや水晶の中に入ってるアレ?
でも色がシルバーというか灰色。





追記:青い針のみのブルールチルは、インディゴライトによる発色ではないかもしれません。詳細はブルークォーツに記しました。(2012年9月8日 記)


91×46×32mm  125.5g

2012/02/26

モリオン(蛭川産黒水晶)


黒水晶/モリオン
Morion
岐阜県中津川市蛭川田原(旧恵那郡)



国内有数の鉱物の産地として知られる岐阜県中津川市。
中でも蛭川の花崗岩ペグマタイトからは美しい黒水晶が産出することで知られており、古くからコレクションとして愛されてきた。
現在も多くのミネラルハンターが、蛭川を訪れる。
町の至るところに、現地の石材を使用した歩道や建築物がみられるという。
これらの中から魅力的な鉱物が出てくるのではないか…とうっとりしてしまうロマンチスト(大先輩でございます)もいらっしゃる。

写真は古いコレクションで、過去にはこうした漆黒の結晶が多くみられたと伺った。
小ぶりながらもバランス良く、二つの結晶が組み合わせられ成長した、ユニークかつ見栄えの良い標本となっている。

このところ出回っているのは、蛭川産モリオンという名のスモーキークォーツ。
残念ながら、蛭川の黒水晶の流通は減るいっぽう。
モリオン(
黒水晶)が注目を集めたのがきっかけで、このところ国産モリオンの評価が急上昇している。
異常ともいえる高騰ぶり。
だが、それらの大半はスモーキークォーツといったほうが適切。
ファントムタイプのモリオンというモノを見かけたのだが、ツッコミどころがありすぎてどう反応していいのかわからない。
むしろ消費者はより警戒を強めることだろう。

モリオン(黒水晶)については以前も記した。
天然の放射線の影響で水晶の結晶構造が破壊され、真っ黒に変わったものをそう呼ぶとしている。
黒水晶は蛭川産以外存在しない、あとはケアンゴーム、と仰る専門家もおられるほど。
手にとって「なんだ、スモーキークォーツか」とがっかりされる方がおられたら、そうではないとお伝えしたい。
こんなにも神秘的であり、美しいのだ。

なお、意外に知られていないようなのだが、岐阜県は放射性鉱物の産地として有名。
中津川市だけでなくその近隣、また土岐市のウランも有名。
従って、県内の一部の放射線量は、他の地域に比べ格段に高くなっている。
全国有数の放射線量を誇る蛭川だからこそ、ミネラルハンターに愛されてやまないというもの。
日本三大ペグマタイトといえば岐阜県苗木地方と福島県石川町、滋賀県田上山の三箇所。
中でも福島県石川町は、戦時中に原爆開発のため採掘が行われたほどの放射性鉱物を産出した(→詳しくはビクトリアストーンにて)。


蛭川(ひるかわ):古くから鉱業が盛んであった。現在鉱山は閉山しているが、鉱物愛好家にはよく知られた土地。人口は4,000人弱。日本有数の黒水晶の産地として有名である。他にトパーズ、ベリル、ジルコン、モリブデナイト、鉄コルンブ石など。水晶や長石の色合いが変わっているのは、天然の放射線の影響だとされている。

苗木(なえぎ):人口は6,500人ほど。天然の放射線量はトップレベルというが意外に人が住んでいる。砂金をはじめ多彩な鉱物を産し、日本三大ペグマタイトのひとつに数えられる。他にサファイア、トパーズ、ベリル、マイクロクリンの豪華結晶、スモーキークォーツなどが産出。稀にチンワルド雲母や放射性鉱物として知られるゼノタイムなどレア物も出るらしい。

福岡(ふくおか):人口は7,000人を超え、そこそこ発展している様子。有名な木積沢のトパーズのほか、バラエティに富んだ放射性鉱物の名産地。ジルコンのほか、フェルグソン石、モナズ石、サマルスキー石、ゼノタイムなどの各種レアアースが眠っており、鉱物鉱物愛好家は必ず礼拝に訪れるものとされている。なお、フェルグソン石は現地の人々に糞石と呼ばれ、ぞんざいな扱いを受けていたらしい。


「うちの近辺は線量が高い」という場合、土地そのものに問題があることも多い。
放射能をもつ天然石は、意外に身近に眠っていたりする。
流行のガイガーを買って、はじめてその事実を知る方もおられるようである。
敏感な方々は、家を購入するさいにガイガーを持参し、住環境の安全性を確認するのが常識になっているものと思い込んでいた。

ペグマタイトを掘っているうち、地層から放射性物質がこぼれ落ちるのはよくあること。
お子様の命が心配な方はまず、お住まいの市町村のペグマタイトの有無を確認しよう。
被ばくが心配なかたは、大自然はむしろ避け、金を惜しまず徹底的に安全性にこだわった、高層マンションに住むなどの対策が必要である。
当然であるが、外出はいっさい控えるのが望ましい。

「西日本の線量が高い」と言い出したのは誰なんだろう?
データがあるなら、西日本に放射性鉱物が大量にあるということなのだろうか。
誰もデータそのものを知らないようなので、不思議に思っている
放射性鉱物の産出はむしろ、東海~東北のほうが多いような気がする。
近畿なら、滋賀のペグマタイト、あとは京都や三重から若干といった感じで、数は少ない。
思い当たるのは岡山くらいで、それ以上向こうになると、もはやどこまで西日本なのかわからない。
中国から飛来するアレが西日本を直撃するのは確かなことである。
そのことに触れると怒り狂う方がいらっしゃるので、触れない。
中国のアレにどれくらいの放射性物質が含まれているかを、調べてはいけないんであれば、仕方ない。

ところで、昨日不思議に思ったことがある。
原発批判に盛り上がりをみせるツイッターにて、脱原発のカリスマとされる人物が、中津川市の蛭川にお住まいであることを知った。
あの方のツイートは、情報というよりインパクトの一種だと受け止めている。
素人でも考えうるシンプルな内容だから、報道を見るのであればわざわざ読む必要は感じない。
しかしながら蛭川で検索をかけたら、あの方が出てきてしまった。
福島から逃げろと執拗に繰り返される方が、よりによって蛭川在住というのは、違和感がありすぎる。

蛭川付近の放射線量は、少なくとも他所より3倍近く高いという。
なぜにご本人が蛭川にこだわっておられるのか、不思議でならない。
こんなことを質問したら、電波攻撃と受け止められ悲しまれるに違いないので、ご存知の方がおられたら、教えていただきたい。
また、困ったことに、その方の存在自体が著作権等に違反するのである。
以下は夢にすぎず、電波攻撃によるまやかしの類いであると捉えていただきたい。


twtterにおける "このメディアは取り扱いに注意を要する" 氏のさけび
https://twitter.com/#!/tokaiama

URL

鉱物採集家にとって憧れの地である放射性鉱物の宝庫、蛭川を背景に
脱原発のカリスマによる意外な告白が記されている


49×25×23mm  38.93g(ベース含)

2012/02/24

クンツァイト(バイカラー)


バイカラークンツァイト
Bi-Color Spodumene, Kunzite
Mawi, Laghman Province, Afghanistan



まるでキャンディみたい。
パステルカラーが可愛らしいクンツァイトの原石。
ひとつの結晶に2色の色合いが出ているものを選んだ。
パープル~ブルー(クンツァイト)を2点、ピンク~ブルー(クンツァイト)、ピンク(クンツァイト)~イエロー(トリフェーン)、グリーン(ヒデナイト)~クリア(スポデューメン)を1点ずつ。
 
※この石の持つ多色性のため、光源によってはまた別の色合いになる。

スポデューメン/クンツァイトの呼び名とその論議についてはブルークンツァイトにまとめたのだけど、現在はどの色であってもクンツァイトと呼んでしまっていいような感じ。
なのでここではクンツァイトと総称することにする。

クンツァイトを無造作に並べ、何がしたかったのかというと、バイカラーのクンツァイトをひととおり揃えてみたかったのである。
手持ちのクンツァイトにたまたま、二色の色合いが出るバイカラーの石があった。
ここはひとつ、極めてみようと思った。
それだけ。
鉱物学上何の石かと言われたら、説明に困る。
色味によって名前が分れているのは、この石の特性からすると不便ではあると思う。

昨年末、池袋ショーでの購入品。
夜に宿にて撮影した。
世界中から訪れるディーラーの中で、いま最も勢いのあるパキスタン人業者。
奴らは魅力的なアフガニスタンの鉱物を多数ストックしておる。
当初このクンツァイト、3つで4,500円と言われた。
裏技を使ったら、5つで4,000円になった。

さて、売り手の青年に、産地を書いてくれとメモを渡したところ、彼の名前(サイン?)までていねいに記入されたものが返ってきた。
カタカナで書かれてあった。
日本語を喋れても、書ける外国人は少ない…はず。
そもそも、先程まで英語で会話していたアナタが、なぜに?
などとは聞かなかった。

改めてメモを見て気づいた。
「クソザイト」と書いてあった。
なんじゃそりゃ。
主力商品にその間違え方はまずいだろ。


30×15×12mm(最大) 27.78g

2012/02/22

フォンセンブルー


フォンセン・ブルー
Vonsen Blue Jade
Vonsen Ranch, Petaluma, Marin Co., California, USA



南の島の海を思わせる、穏やかなブルーグリーン。
パシフィック・ブルー・ジェイドの別名にも納得がいく。
古風にいえば、納戸色といったところだろうか。
発見者であるマグナス・フォンセン氏に因んで、フォンセン・ブルーと呼ばれることが多い。
ロシアから産出するダイアナイトに似ていることから、同じものかどうか問い合わせたのがきっかけでその名を知った。
販売先も詳細をご存じなく、卸元からの情報でわかったもの。
当時送っていただいた文章を以下に引用させていただく。


かつてアメリカで活躍したミネラル・ハンター、フォンセン氏が、1949年にカリフォルニア州ペタルマ付近の牧場で発見した、フォンセン・ブルーと呼ばれるネフライトジェイドの一種です。
農場主が頻繁な立ち入りを許可しなかったため、採掘はほとんど行われませんでした。
最近になって農場主が代わり、手掘りで採取が進められ、市場に出回るようになったとのことです。

見た目はそっくりだが、ダイアナイトとは別の鉱物。
かつてダイアナイトを知っている人は少なかったが、フォンセン・ブルーを知っている人はもっと少なかった。
現在も国内でほとんど流通がないのが不思議なくらい。
ブルージェイドもそうであるが、ピンクジェイド、パープルジェイド等々、ジェイドではない天然石を使った染めビーズが多く流通し、市場は混乱している。
或いは、ダイアナイトと混同されているのかもしれない。

鉱物としてはさほど珍しいものではない。
ネフライトの一種である。
成分は主にトレモライト(透角閃石)。
他にサーペンティン類を含み、青い色はアルミニウムに由来するとされている。
原産地、アメリカでは安定した人気があるようだ。
アメリカから良質なネフライトが産出する例は意外に少なく、色合いの珍しさもあって、けっこうなお値段が付いている。

平和を象徴し、持つ人を深いリラックス状態に導くとして、ヒーリングストーンの扱いを受けていることもある。
ダイアナイトとの共通点を感じさせるこの石が、熱心な鉱物収集家によって発見され、価値を与えられたという事実は興味深い。




アメリカで活躍したミネラルハンター・フォンセン氏は、イケメンである。
酪農家の出身で、研究者ではない。
新鉱物の発見、研究や出版にも貢献した彼だが、鉱物の知識についてはほぼ独学だったという。
日々採取に明け暮れる彼のコレクションはとどまるところを知らず、膨大なコレクションを保管するため、自宅のとなりに自宅(保管用と展示用)を建てたほど。
フォンセン氏の収集した鉱物は、アメリカで最も素晴らしいコレクションの一つとして、現在も高い評価を受けている。


ドイツ・ミュンヘンショーで展示された氏のコレクション
http://www.the-vug.com/vug/article111.html


34×25×15mm  14.98g

2012/02/18

ストロベリークォーツ(& チェリークォーツ)


ストロベリークォーツ
Strawberry Quartz
Djezkazgan, Bektau Hills, Chemkent, Kazakhstan



盛り盛りいちご。
ストロベリークォーツと呼ばれる水晶は数あれど、元祖ストロベリークォーツといったらこれ。
カザフスタン産出のこのクラスターは、いちご女王の座に君臨して久しい。
その希少性、美しさから、収集家にとっては憧れの存在となっている。
赤い色合いは、水晶に内包されたゲーサイト(針鉄鉱)による発色とされる。
切断して研磨すると、中央に向かって赤~白のグラデーションとなっていることが多く、まるで本物のいちごのよう。

少し前までは数万もの貴重品だった。
幾度となく見かけたが、購入は後にも先にも一つだけと決め、見送っていた。
念願のストロベリークォーツをようやく手に入れたのは、昨年の終わり。
五千円まで下がっていたので、決断に踏み切った。

カザフスタン産ストロベリークォーツは、先端にかけてスモーキーの色合いが入っていることがある。
まるで、少しいたんだいちご。
果物は新鮮がよろしい。
写真ではやや赤みが強く映っているが、現物は素朴な色合い。
研磨し樹脂でコーティングして外観を整えた標本が、これまでの主流だった。
昨今の原石標本は未加工品に価値を置かれているよう。
美しく自然でとてもいい。
ダメージのある個所もみられるが、気にならない程度。
むしろ険しい道のりをよく耐えたものだ。

ストロベリークォーツはカザフスタンの標高四千メートルもの山岳地帯から産出するという。
採掘には困難が伴い、険しい山道を経て、馬を使い街まで運ばれているそうだ。
立ち入れるシーズンは限られているとのこと。
現地の情勢は決して良好とはいえず、採掘がいつ中断されてもおかしくない状況ともいわれている。

ストロベリークォーツと呼ばれる水晶は他にも存在する。
ブラジルやマダガスカルなどから産する、ハーレークインクォーツ、ファイヤークォーツと呼ばれる水晶がそう。
外観と価格で判断できるから、一通り見て目を鍛えておこう。
時にはクォーツと呼べないものも混ざっている。
アヴェンチュリン(クォーツァイト/岩石)やマスコバイト(雲母)、中国製のチェリークォーツ(グラスビーズ)などがストロベリークォーツとして流通している。

中でもチェリークォーツは呪われた石。
というのも当初、チェリークォーツが天然石として紹介されたために、誰もがそれを信じてしまったのだ。
「美しいチェリーピンクの水晶」はすぐに注目を浴び、高い人気を得た。
その正体が明らかになったとき、誰もが唖然とした。
チェリークォーツを取り扱った多くの業者が損害を受け、廃業する者も少なくなかった。
当時の在庫は未ださばけておらず、グラスビーズとして二束三文で流通している。
天然石と明記している場合はお店の人に聞いてみよう。

日本に偽物が集中するのには訳がある。
たぶん仏教国だからだろう、数珠が大いに好まれるのである。
石がビーズに加工される場合、専門家でも真偽の見分けは難しい。
原石を見れば一目瞭然なのに、原形をとどめていないのだから。
男女問わず数珠に走るのが不思議でならない。
ビーズに本物を求めるなど、滅茶苦茶だ。
宝石と異なり、すべてを鑑定することができない(サンプルのみの鑑定になる)から、リスクは高まる。
あなたのそのブレスがカザフスタン産のストロベリークォーツで作られたものなら、べらぼうに高かったはず。
ゆえに、より一層のご利益が期待できる。
信じる者は救われる。
ストロベリークォーツは、チェリークォーツの被害に遭われた犠牲者への祈りを捧げるにふさわしいパワーストーンであるといえよう。


40×35×22mm  33.68g

2012/02/16

スギライト


スギライト Sugilite
Karahali Mn Field, Northern Cape, South Africa



パワーストーンブームに火を着けた重要な鉱物。
日本人が最初に発見した高貴な紫色のヒーリングストーンとして紹介され、定着している。
和名の杉石は発見者の一人、杉博士に因むもの。
スギライトの名がそこから来ているのは有名なエピソードである。

前回のラリマーチャロアイト同様、今となっては懐かしい「世界三大ヒーリングストーン」のひとつ。
90年代後半、クリスタルヒーラーのジェーン・アン・ダウ氏(2008年没)に見い出され、ニューエイジの石として紹介されたのがきっかけで、世界的に注目を集めることとなった。
浄化要らずのマルチパワーを発揮し、敏感な人は石酔い(石のパワーにより飲酒したように酔いがまわる状態。いかに優れた感性の持ち主かということを示している)するといわれている。
しかし、どうも最近見かけない。
日本最大のスラム街でも話題になるくらい人気のパワーストーン・スギライト。
もしこれが実体のないものだったとしたら、皆様はどう思われるだろう。

賢い主婦は、見た目の良い野菜より、見た目は悪くとも安全な野菜を買い求める。
同様に賢い消費者は、見た目にこだわらず、本物のスギライトを買い求め、そのパワーを享受する権利がある。
しかしブレスの場合、同じ色合いで統一しなければ、商品としての見栄えが悪く不利になる。
天然石においては非常に難しいことなのである。

スギライトには本来、これといった色味はない。
紫のほか、白や黒、赤や青、グレーなど、色合いには幅がある。
要は紫色とは限らない。
しかし、紫の石として定着してしまった以上、売り手は考えうる限りの手段を駆使し、紫のスギライトを販売せねばならない。
そのため「紫の天然石=スギライト」という大胆かつ分かりやすい売り方が常識となっていく。
消費者は、不自然なまでに紫なビーズをふんだんに使用した「スギライト」のブレスを、言われるがままに買い求めた。
いっぽうで本物のスギライトが偽物扱いされるなど、事態は混乱を極めた。

南アフリカから美しい紫のスギライトが産出していたのは確かである。
ただし、色は紫だけではなかったようだ。
いつ頃からスギライトが別のモノに切り替えられたかについてはわからない。
自分はスギライトは原石しか扱った記憶がない。
4年程前には既に、怪しい気配が漂い始めていたような気がする。
恩師さえもトラブルに悩んだと聞かされた。
現在も入手可能なスギライト製品の多くは、パープルジェイドとよばれる石の類いであろう。

原石のほうはまだ流通があるけれど、スギライトのブレスは最近見ていない。
もしまだ紫のみの石で統一された商品を販売しているところがあれば、怪しいと思っていいだろう。
混ざりけのない高貴な紫。
「石酔いで頭がボーっとする、触ると手が痺れるようだ」
誰もが口を揃えてこう言った。
大いに崇められた気高い紫の石は、人の手によって創られた幻想に過ぎなかったのである。

なお、1942年に愛媛県で杉博士らによって発見された最初のスギライトは、淡~いミントグリーン(wikiでは「うぐいす色」表記)であったという。


15×10×5mm  1.51g

2012/02/12

ラリマー


ラリマー Larimer
Barahona, Dominican Republic



ドミニカ共和国から産出する、カリブ海の青い宝石、ラリマー。
ラリマー(ラリマール)とは現地での呼び名で、正式にはブルー・ペクトライトという。
「三大ヒーリングストーン」の一つとして、スギライト、チャロアイトとともに人気を博した。
中でも美しいスカイブルーのラリマーは、愛と平和、人と自然との調和を象徴するパワーストーンとして、誰もが憧れた人気商品だった。
先日、大阪市N成区のスラム街にある違法露店でラリマーのブレスを見ていたら、店主から「それは世界三大ヒーリングストーンだ」と声を掛けられた。
我に返った。
そういえば最近聞かない。
スギライトはその存在すら危ういし、残りの二つは枯渇寸前。
かつての謳い文句も、それらが幻とわかった今、死語になりつつあるのかもしれない。

写真のラリマーは、荷物を整理していたら偶然出てきたもの。
発送のために梱包して段ボールに仕舞ってあった。
こげ茶色の母岩の中に柔らかな質感のラリマーが詰め込まれているさまは、巨大なキウイを思わせる。
スライスした研磨品は今も流通があるが、こうした未研磨(割ってはあるかも)の原石は滅多に見かけなくなった(スライスについては本文下に写真を掲載、二つで約五百円。この状態では、私には本物か偽物かは判別できない)。

ペクトライトは世界各地から発見されているが、独特の濃淡を伴うスカイブルーのペクトライトは、ドミニカ共和国産のみ。
もともと希少性が高かったこと、また近年世界的に注目を集めたために、産出は激減。
発見から30年余りで枯渇の危機に晒されることとなった。
採掘現場はより危険な場所へと移っている。
噂では現場はもはや崖、らしい。
事実かどうかはわからぬが、転落事故による死者が相次いでいるといわれている。
人間と自然との調和を表す石、のはずだった。
最近では霊能力者がラリマーを見て「呪われている!」と大騒ぎすることも珍しくないという。

産出の激減とともに、価格は上昇を続けている。
ラリマーのブレスの販売価格は、概ね十万を越えている。
天然石の加工に関しては世界一の技術を誇る中国での需要の急増にも原因があるという。
また、質も低下している。
黒や赤など不純物の混在した原石、色味の無い原石は製品にならないため、改良される。

なお、新型(※偽物ではない)のラリマーがブレスになって登場している。
色は美しいスカイブルー。
しかし、不自然な水玉模様が均等に入っており、中まで透けて見える。
「質を落とした廉価版」との説明だったが、どうも充填処理(色合いや形を整えるために他の物質で補強するなどして、作り変えること)を施されているよう。
本来ラリマーは不透明で、海中から見上げた青空のような、変化に富む模様を楽しむものだった。
廉価版といっても決して安いわけではない。
池袋ショーで並んでいたそれよりも、雑貨店で選んだプラスティックのアクセのほうがモノとして自然に感じるのは、私だけだろうか。

アイスラリマーと呼ばれている模様。人工石、処理石の如何を明らかにせず、ばらまかれている状態とみられる。また、ブルーアラゴナイトが極めてラリマーににており、原石であっても見分けがつかないことには、十分注意したい。業者側の見極めと、良心にかかっているといえるだろう。

ペクトライトでない他の岩石が染色され、ラリマーとして流通しているという話は有名だが、加工技術のほうも飛躍的に向上している。
リスクの高い買い物になることは覚悟しておいたほうがいいかも。
できればビーズではなく原石をおすすめしたいけれど、こちらも質は落ちている。
発送しなかったのはわざと。
久しぶりに再会し、神妙な気分になった。




52×45×31mm  74.08g

2012/02/09

クリストバライト


クリストバル石中の鉄かんらん石
Fayalite, Cristobalite
Cougar Butte, Siskiyou Co., California, USA



鉱物の魅力を知った翌年、私は東京にいた。
初めて入った有名鉱物店で、最初に買った標本がコレだった。
どうしてこんな変わったものを選んだんだろう。
壮絶なインパクトを感じて手に取ったとしか思えない。

ざっと見たところ、この産地のクリストバライトは世界的に有名なようだが、鉱物標本としての取り扱いは意外に少なく、調べなければ出てこない。
忘れていてもおかしくない。
購入から5年経つにも関らず、手元にコレがあることははっきり覚えていて、先日ようやく見つけ出した。

説明しよう。
中央に見える白い塊が、クリストバライト(クリストバル石/方珪石)。
鉄かんらん石(ファヤライト)はこの塊のどこかにある…はず。
黒い部分はオブシディアン(黒耀石)で、今回はオマケである。
パワーストーンとしては、スノーフレークオブシディアンと呼ばれるものがこれにあたる。

オブシディアンは、溶岩が地表で急速に冷え固まって出来る天然ガラスの一種。
それに加え、溶岩に含まれるシリカ成分がクリストバライトとなり分離した結果、このような物体が生成されるらしい。
クリストバライトと水晶は同じ成分でできている。
運命を分けるのは、冷却される速度や圧力など、複雑な環境条件に因り、必ずしもクリストバライトが生成されるとは限らない。
まだわかっていないこともあるそうだ。
一部にクリストバライトが確認できる例としては、オブシディアンの他にライトニングクォーツ(雷水晶)、リビアングラス(インパクトグラス/テクタイト)など。

本来の主役は、クリストバライト中の鉄かんらん石。
その名の通り8月の誕生石、ペリドットの仲間にあたる。
クリストバライトのどこかに微細な結晶体がみられるということだが、見えない。
ルーペがあれば見えるのかもしれないが、見えない。
マグマや隕石由来のペリドットは有名だから、その類いなのかもしれない。
素人ゆえこれ以上の言及は控える。

なお、クリストバライトに発がん性があるとして、国際的に問題視され、我が国でも厚生省により使用に制限が設けられている。
アスベスト同様、建築現場から粉塵となって生じることがあり、結晶構造もアスベストに似ているために、肺がんのリスクが指摘されているという。
クリストバライトは危険な化学物質であるとして、神経質になっている方が多く見受けられる。
いつものように注意を喚起しておきたい。

写真にあるように、クリストバライトは天然石である。
また、成分はSiO2、水晶やめのう、石英と同じ。
長期にわたって吸い込むことによる健康被害が指摘されているもの、と捉えるべきか。
しかしながら、クリストバライトへの恐怖が飛躍した結果、石英(※)さえ危険物質に含めている団体もあるようだ。

※代表的な石英に、ローズクォーツがある。

粉塵には概ね発がんのリスクが伴う。
建築現場においては、木材の粉塵さえも、発がん性物質に認定されている。
たとえ美しい天然水晶であっても、粉末にし長期に渡って吸引すれば、肺がんになるおそれがある。
死は人を選ばない。
本人の心がけとは無関係に、すべての人に平等に訪れる。
危険を避けるために、常にマスクをしていたとしても何れ、死ぬ。
クリストバライトは、妄信を諭し、真実を見極める力を授けるため、人類に与えられたパワーストーンなのかもしれない。


67×60×34mm  152.1g

2012/02/07

小川山の水晶


スモーキークォーツ Smoky Quartz
長野県南佐久郡川上村 小川山



豊かな自然に恵まれた日本アルプスには、有名な水晶の産地が数多く存在する。
長野県と山梨県の境界に位置する、標高2418mの小川山。
その地味すぎるネーミングから想像できるように、登山家には殆ど知られていない。
いっぽうで国内有数の水晶の産地として知られ、ミネラルハンターにとっては憧れの地でもある。
そんな小川山より採取されたという、優美なたたずまいのスモーキークォーツ。

吸い込まれるかのような透明感、柱面のほとんどみられない独特の結晶構造、そして噴きつけたかのようなイエローのコーティング。
この色合いは、結晶表面を薄く覆う鉄分に因るもの。
水晶がゴールドに輝くさまに特別な力があるとして、クリスタルヒーリングを愛する人々の間で「ゴールデンヒーラー」と呼ばれ神聖視されている。
元々はアメリカ・アーカンソー産の水晶を指して使われたものと記憶している。
国内からは、他にもゴールデンヒーラーの認められる水晶が得られたようだが、それらの多くは現在、貴重品となっている。
利欲にとらわれることなく、先人への敬意を以って賜るべきものと心得よ。

トップのみ発達した水晶は、アメリカから産出するスモーキーアメジストなどによく見られるが、この色合いは意外に見かけない。
小川山からは、他にも素晴らしい各種鉱物が発見されるらしい。
それが何なのかは、勇敢なミネラルハンターのみぞ知る。
日本には、美しい水晶を拝める秘境がある。
小春日和の太陽の下で、くつろぎながら味わいたい一品。


26×22×20mm  12.35g

2012/02/05

ソーダライト/ハックマナイト


ソーダライト
Sodalite (Var: Hackmanite)
Pegmatite No.62, Karnasurt Mountain, Lovozaro Massif
Kola Peninsula, Murmanskaja Oblast', Russia



鉱物に紫外線(ブラックライトなど)をあてると蛍光することがある。
これをテネブレッセンス効果と呼んでいる。
この言葉を一躍有名にしたのが、ハックマナイト(→記事はこちら)。
もともとハックマナイトはソーダライトの成分の一部が硫黄に置き換わったもの。
ソーダライトの変種にあたる鉱物である。

ソーダライトといえば青が一般的だが、ときに白または淡いグリーンを帯びていることがある。
この種のソーダライトに、テネブレッセンスがみられることが多々あるようだ。
また、ハックマナイトと似て非なる独特の色変化(太陽光→不変、紫外線→蛍光→その後しばらく色が残る)が起きるという。

先日倉庫から出てきた謎の石。
ラベルには事細かな産地とともに、「ソーダライト(ハックマナイト)」と記されている。
外見からはどちらとも判断できない。
ハックマナイトであれば、外に置けば紫に変わるであろうということで、直射日光の下に三十分放置。
しかし白とグリーンの色合いのまま変化無い。

ではブラックライトではどうなるか実験してみた(本文下に写真を掲載)。
写真左が、写真にある白にグリーンの入ったソーダライト。
右側はアフガニスタン産の色濃い紫のハックマナイト(→もとの姿の写真)。
撮影を終えて照明をつけた。
アフガン産ハックマナイトは濃い紫のまま。
いっぽう、先ほどまで白かったソーダライトは、一部が淡いピンクに変わっており、次第に白へ戻った。
調べたところ、前述の通りソーダライト(ハックマナイト)には産地限定でこうしたテネブレッセンスのパターンがみられることがわかった。

ハックマナイトは元々無色~褐色であるが、少し窓辺に置いただけで、紫外線に反応して鮮やかな紫色に変化する。
しかしこのソーダライト(ハックマナイト)の場合、一般的なハックマナイトのように太陽光で紫にはならず、元の色合いのまま変化しない(ご覧の通り、照りつける直射日光の下で撮影している)。
いっぽう、ブラックライトを照射すると、ハックマナイト同様オレンジ~赤に蛍光し、見分けが付かないほど。

もともと希少石に数えられるハックマナイトだが、従来のミャンマー産に加え、近年アフガニスタンからの流通が急速に増加、知名度、人気ともに高まる一方である。
かたやソーダライトのほうは、量産型薄利多売商品(パワーストーン)の一種に格下げされてしまった。
人気は下降気味で、最近ではブレスレット売り場ですら見かけない。
消費者の関心はより珍しく希少性の高い鉱物に移行している。
ひとついえること、それはソーダライトであっても稀に蛍光するということ。
ただし、ハックマナイトとの境界線は曖昧なものとなっている。
では、なにをもってソーダライトとハックマナイトを区別すべきなのだろうか。

  • 鉱物学上ソーダライトと表記する例
  • ソーダライトのうち、テネブレッセンスを示すものをハックマナイトと呼ぶ例
  • 成分に硫黄が含まれている場合ハックマナイトとする例
  • 色で判断「透明感ある濃い青色で方ソーダ石とするのが相応しい」
     参考:http://www.hori.co.jp/hori/list/137.pdf( C1. 方ソーダ石 )
  • 産地によりソーダライトとみなす例(カナダ、グリーンランド、アフガニスタンなど)
  • アフガニスタン産の場合、アフガナイトと混同されることがある

ざっと見たところでは、以上のように解釈は多様であり、明確な定義はないようだ。
外見だけではこの標本、グリーンランド産のブルーグリーンのソーダライトと区別がつかない。
通常のハックマナイトとは異なる独特のテネブレッセンスを示すさまも共通している。
ソーダライトと呼びたくなる。
しかし困ったことに、この石はロシア・コラ半島産。
この産地からは青緑色のハックマナイトが産出するとされている。
ラベルを見る限り外国人から購入したようであるが、どうしてこんなややこしいものをわざわざ選んだのか覚えていない。

この標本は1998年に上記の鉱脈から発見されたハックマナイトのひとつで、ブルーグリーンを基調とする独特の風貌を特徴とする。
購入元のラベル表記に従い、ここではソーダライトとする。
なお、アフガニスタンのラピスラズリ鉱山からは、見事な紺色のハックマナイトが産出することがあるという。
素人にはラピスラズリにしか見えない(ラピスラズリはソーダライトを含む複合鉱物。詳細はアフガナイト問題に記載)。
呼び名が統一されていないせいかもしれない。
色合いやテネブレッセンスの微妙な経過の違いをもって、細かく分けてはくれまいか。
ついついハックマナイトに目がいくのもわかるけれど、元祖ソーダライトのほうも忘れないであげてほしい。




34×30×24mm  14.19g

2012/02/03

ジルコン


ジルコン Zircon
Gilgit, Gilgit-Baltistan, Pakistan



鮮やかなワインレッド。
ジルコンの結晶は褐色であることが多いが、パキスタンからは透明感に富む色鮮やかな標本が産出している。
その強い光沢ゆえ、宝石として扱われることも多い。
過去には、処理により無色透明に改色したジルコンをカットし、ダイヤモンドの代用品として使用した。
現在はジルコンからケイ素(Si)を取り除いた、キュービックジルコニアがその主流となっている。

ジルコンは放射性鉱物である。
微量のウラン、トリウム等を含み、日用雑貨や電化製品などの素材として活躍している。
私たちは知らない間に放射能のお世話になっている。
ちなみに、前述のキュービックジルコニアは放射性物質ではない。
キュービックジルコニアとジルコンが混同されているのを頻繁に見かける。
気になる場合は放射線の有無を確認してみよう。

ところで、最近懐かしい名前をよく聞く。
ユリゲラー。
かなり昔の人だが、覚えておられる方もいらっしゃるかもしれない。
スプーンを念力で曲げてみせ、テレビ番組の人気者となった外国人である。
自分は当時小学生であった。
当然ながらスプーンを曲げる「ユリゲラーごっこ」が教室で大流行した。
給食時間に皆が皆、力まかせにスプーンを曲げるものだから、先生が怒りに満ちていたのを覚えている。
案の定、すぐに「ユリゲラーごっこ」は禁止された。

月日は流れ、私が鉱物に興味を持ち始めた頃のこと。
100円~500円程度の石をたまに買い、気に入った石を数個、お手製のポーチに入れて持ち歩いていた。
石繋がりでたまたま、同世代の女性と仲良くなった。
驚いたことに、彼女はユリゲラーのお弟子さんだという。

「スプーン曲げるのは禁止やで!アレはただの手品で宗教や!」

もはや聞き飽きていた。
コツをつかめばスプーンなどすぐに曲がることも知っていた。
ユリゲラーがまだ生きて活動していて、宗教家や手品師などではなく、日本に弟子までいる霊能力者だった…ことに衝撃を受ずにはいられなかった。

彼女がユリゲラーからもらったというペンダント。
スプーンとは全く関係ない上品なものだった。
その頃にはもう、トリックを駆使する危険なパフォーマーにすぎないという話が定着していたが、そうした理由で他者を遠ざけるのは好きではなかった。
ユリゲラーがどこの誰なのかは知らぬ。
現在もなお活躍中で、実に不可解な理由から再評価されつつあることを知り、複雑な心境である。

ある日、彼女が私の石を見たいと言い出した。
せっかくなので宝物をと、ポーチに入れて持ち歩いていた石を数個、写メに撮って送った。
「ひとつ、嫌な感じのする石がある。黒い。処分したほうがいいよ」
彼女がそう言ったのは、ジルコンだった。
綺麗な八面体に結晶していた。
写メのジルコンはブラウンに写っていて黒くなどなかったし、宝物のひとつだったのだけれど、頑固な自分には珍しく、手放すことに決めた。
そればかりか、以降ジルコンを頑なに避けてきた。
いつしか連絡は途絶え、自分がなぜジルコンを避けているのかも忘れてしまっていた。

今であれば、放射性鉱物だからじゃないの?と思われる方もおられるだろう。
当時一般人が入手できた放射性鉱物は、人体にほとんど影響しないものばかりであり、滅多に話題に上ることはなかった。
また、霊能力者やクリスタルヒーラーは放射性鉱物を好み、神聖なものとして扱うことが多い。
処分しろとまでいう人は珍しい。
最近では、それらを内服、飲用または吸引することにより、内部被ばくを実践させている指導者もいるという。

彼女がジルコンに何を感じたのかについては、あえて聞かなかった。
そういえば、石の名前すら伝えていなかった。
彼女が福島に住んでいたことを思い出し、先日衝動的に購入したジルコン。
あの言葉が何を意味していたのかは、今となってはもう、わからない。


20×18×10mm  7.51g

2012/02/01

ダイアナイト


ダイアナイト
Dianite/Potassic Richterite

Murunskii Massif, Sakha Republic, Eastern-Siberian Region, Russia



ロシア・サハ共和国から産出するブルージェイド。
シベリアンブルージェイドとも呼ばれている。
その存在が知られ始めた矢先、死去が伝えられたダイアナ元皇太子妃を偲んで、ダイアナイトの名を与えられた。
その美しいブルーの色合いが、青を好んだ彼女をイメージさせるからともいわれている。
鉱物としては、リヒター閃石を主成分とするネフライト・ジェイドの一種で、主に研磨され流通している。
原石の質にはばらつきがある。
こうした深みのあるロイヤル・ブルーの石は稀で、全体的に淡い水色であることが多い。

私がダイアナイトを知ったのはいつだったか。
海外では比較的流通があったが、国内では見かけなかった。
ところが最近になって、日本においてこの石の人気が急上昇しているらしい。
入手困難との声も聞かれる。
この状況には、どうも納得しかねるものがある。
以前ある方がダイアナ元皇太子妃について独特の視点で言及しておられたので、私もここでダイアナイトについて私なりにまとめてみようと思う。

彼女はなぜ石の名となったのだろう。
ダイアナ・スペンサー、ダイアナ元皇太子妃。
彼女は生前多くの問題を抱えた人物だった。
つまり、その人柄を偲ばれるのは当然だが、石の名前になるほどに幸福な人物であったかということ。
誤解を恐れずに言うなら、マイケル・ジャクソンもまた同じ。
二人は生前、スキャンダラスな私生活を取り沙汰され、ともすれば奇行を繰り返す、倫理を犯すなどといった、心無い評価を受けた。
故人を想う気持ちが募り、すべてが美化される。
その扱いのあまりの違いに違和感を覚えることは過去に幾度もあった。
私がダイアナイトに複雑な気持ちを抱くのは、ダイアナ妃についてもまた、そうした違和感を感じずにはいられなかったからだ。

名門・スペンサー家に生まれたダイアナは家庭環境に恵まれず、6歳で両親の離婚を経験している。
20歳でチャールズ皇太子と結婚し、イギリス王室に入るものの、結婚生活は思うようにいかなかった。
人一倍愛を求めていた彼女にとって、過酷としかいえない状況が続いた。
お互いに不倫に走った結果、二人は1996年に離婚という結末を迎えた。
その間、彼女は摂食障害に悩まされ、自殺未遂を繰り返したとされている。
離婚後、ダイアナ妃が熱心に慈善活動に関わったのは有名なエピソードであるが、愛に飢えた満たされないその心が彼女の原動力となっていたという説には共感せざるを得ない。
ダイアナ妃の生涯に、男性の噂が絶えなかったこと、それらは公人として許されるとはいえない内容であったこと、葛藤と苦しみ、自傷行為、そしてプライバシーのない生活。
心身ともに追い詰められた末に起きた事故。

彼女は幸せだったろうか。
彼女の心は常に安らぎに満ち、輝いていたといえるだろうか。
彼女の愛と苦難に満ちた波乱の人生を、この石をもって称えることは、彼女への哀悼の念にふさわしい。
しかしそのいっぽうで、彼女の抱えていた心の闇をも美化するのは、ややもすれば残酷なことと思えてならないのである。

1997年、わずか36歳でこの世を去ったダイアナ元皇太子妃。
世界中の人々が、彼女の死を悼み、冥福を祈った。

-We'll always love you Princess Diana, we'll never forget you.

『私たちはあなたのことを、忘れないだろう。あなたの深い愛は我々の心の中で永遠となった。あなたは輝ける星となり、我々を照らし続ける。』(世界の声より)


22×11×5mm  16.55ct

今週、話題性が確認された10の鉱物

What Mineral Would You Take with You to A Deserted Island?