2012/09/08

青水晶(ブラジル産)


青水晶 Blue Quartz
Jenipapo, Itinga, Minas Gerais, Brazil



先日、鉱物のインクルージョンに対する自分の認識の甘さを痛感した。
そこで、前々から気になっていた、インクルージョンの不思議に迫ってみたい。

写真は、過去にブラジルから産出した青水晶、ブルークォーツ。
この青は水晶に内包されたインディゴライト・トルマリンに由来するとされ、インディゴライト・イン・クォーツとして絶大な人気を誇った。
俗にブルールチルと呼ばれる青い針の満載された水晶。
これも同様の原理に因るとされている(ルチルの詳細と意味、効果はこちらにございます!)。

私が鉱物に興味を持った頃、青水晶・ブルークォーツといえば専らこれだった。
スペイン・マラガからの青水晶の流通もまたあったが、多くの人々は「ブルークォーツ=インディゴライト」と受け止めていた。
私が初めて手にした青水晶も、2005年頃流通したこのブラジル産になる。

水晶のインクルージョンというのは非常に難しい。
特に青水晶の場合、発色の原因となる鉱物は多岐に渡り、すべてのインクルージョンを特定することは不可能に近い。
例としては、トルマリンのほか、リーベカイト、クロシドライト、アクチノライト、デュモルチェライト、ラズライト、アエリナイト、シャッタカイト、プーランジェ鉱、パパゴアイト、ギラライトなど。
私自身、水晶や水晶の内包物については勉強不足であり、物足りなさを感じている。

写真にあるのは、過去のブルークォーツ。
当時はインディゴライト・イン・クォーツ、ブルーファントムクォーツなどと呼ばれていた。
出始めの頃は細長いポイント状に結晶し、写真のようにショール(ブラックトルマリン)の柱状結晶と共生するのが常であった。
二つのポイントが交差し、さらにショールを伴うという点で、現在主流となっている青水晶とは異なるものと考える。
内包されたインディゴライトは、ここでは針状というよりむしろ毛状というべきか。
非常に繊細なトルマリンがブルーの濃淡となって、幻想的な光景を創り出している(本文下の写真)。

インディゴライト・イン・クォーツに対しては、かねてから疑問があった。
インディゴライトは純粋な青ではない。
ブルーとグリーンとの絶妙なバランスが求められる。
仮にインディゴライト・イン・クォーツが存在するとすれば、文字通りインディゴカラーになるのではあるまいか。
写真の標本はブルーグレーである。

内包物というのは本当に難しい。
一般に、外観からの特定は困難である。
インクルージョンが何であるかは、同じ鉱脈から採れた標本を参考に推測することが多いが、複数の鉱物のインクルージョンによる発色であることも少なくない。
この難解さゆえに、収集家を魅了してやまないともいえるだろう。
さらに、日本においては、インクルージョンのみられる透明水晶の人気は極めて高い。
産地や内包物に関する情報の混乱が、人々を困惑させるのは想像に難くない。
水晶の中身を特定しておくことは、国内においては重要である。

反省を込め、ブラジル産青水晶のインクルージョンは、本当にインディゴライトなのか、考察してみたい。
まず、大雑把に説明すると、インディゴライトは以下のように位置づけられる。

インディゴライト<ブルートルマリン<エルバイト<トルマリン

定義上、インディゴライトはブルートルマリンの一種ということになる。
また、ブルートルマリンとインディゴライトには連続性がある。
全米宝石学会(GIA)では混乱を防ぐために、ブルートルマリンとの表記を推奨しているそうだ。
つまり一般には、インディゴライトの色合いは純粋な青ではなく、グリーンとの絶妙なバランスが求められる。
"ブルーグリーンルチル" にしか見えないブレスも実在するいっぽうで、純粋なブルーの針が確認できることがあるのもまた、事実である。

過去に流通したブルークォーツの特徴は、灰青色の濃淡のみならず、美しいショールの結晶を伴うこと。
以前インディゴライトの原石を紹介した(→記事はこちら)。
写真で確認できるように、エルバイト・トルマリンにはブルー、グリーン、イエロー、またピンクがある。
ブラックトルマリンとブルートルマリンは異なるグループに属する。
ショールも水晶のインクルージョンとして珍しくはないのだから、二色の針が認められてもおかしくないはずなのだが、この標本に関しては、青と黒が混在している様子はない。
いっぽう、柱状に結晶したショールは鉱物標本としても価値があり、キロ売りで販売中の岩のようなブラックトルマリンとは別格とされている。

さて、インディゴライト・イン・クォーツに関して海外サイトを検索したところ、日本のサイト以外出てこない。
海外では、ブラジルの青水晶は、オレナイト(オーレン電気石)のインクルージョンに因るものと説明されている(→参考写真)。
なんじゃそりゃ、知らなかった。
オレナイトとは、ピンクまたはブルーを示す珍しいトルマリンで、エルバイトやショールとは異なるグループに属するようである。
希少石オレナイトを華麗にフューチャーし、その価値をアピールしているところもある。
なお、同じブラジル産水晶に、ブルーターラクォーツがある。
こちらもリーベカイト及びオレナイト由来の発色といわれているが、リーベカイトのインクルージョンとするのが妥当であろう。
パキスタンのザギマウンテンからもリーベカイト由来の青水晶が発見されている。

オレナイトは産出そのものが少ないから、まだ確定というわけではない。
気になるのは、過去のブルークォーツと共生するブラックトルマリンが、直射日光下で赤紫に見えること(→参考写真)。
他所からはインディゴライトとショールの針が同時に入った水晶も発見されているようである。
現時点ではブルートルマリンとするのが無難であると考えている。
水晶の内包物というのは、難しい。




35×24×22mm  14.11g

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