2012/09/08

青水晶(ブラジル産)


青水晶 Blue Quartz
Jenipapo, Itinga, Minas Gerais, Brazil



先日、鉱物のインクルージョンに対する自分の認識の甘さを痛感した。
そこで、前々から気になっていた、インクルージョンの不思議に迫ってみたい。

写真は、過去にブラジルから産出した青水晶、ブルークォーツ。
この青は水晶に内包されたインディゴライト・トルマリンに由来するとされ、インディゴライト・イン・クォーツとして絶大な人気を誇った。
俗にブルールチルと呼ばれる青い針の満載された水晶。
これも同様の原理に因るとされている(ルチルの詳細と意味、効果はこちらにございます!)。

私が鉱物に興味を持った頃、青水晶・ブルークォーツといえば専らこれだった。
スペイン・マラガからの青水晶の流通もまたあったが、多くの人々は「ブルークォーツ=インディゴライト」と受け止めていた。
私が初めて手にした青水晶も、2005年頃流通したこのブラジル産になる。

水晶のインクルージョンというのは非常に難しい。
特に青水晶の場合、発色の原因となる鉱物は多岐に渡り、すべてのインクルージョンを特定することは不可能に近い。
例としては、トルマリンのほか、リーベカイト、クロシドライト、アクチノライト、デュモルチェライト、ラズライト、アエリナイト、シャッタカイト、プーランジェ鉱、パパゴアイト、ギラライトなど。
私自身、水晶や水晶の内包物については勉強不足であり、物足りなさを感じている。

写真にあるのは、過去のブルークォーツ。
当時はインディゴライト・イン・クォーツ、ブルーファントムクォーツなどと呼ばれていた。
出始めの頃は細長いポイント状に結晶し、写真のようにショール(ブラックトルマリン)の柱状結晶と共生するのが常であった。
二つのポイントが交差し、さらにショールを伴うという点で、現在主流となっている青水晶とは異なるものと考える。
内包されたインディゴライトは、ここでは針状というよりむしろ毛状というべきか。
非常に繊細なトルマリンがブルーの濃淡となって、幻想的な光景を創り出している(本文下の写真)。

インディゴライト・イン・クォーツに対しては、かねてから疑問があった。
インディゴライトは純粋な青ではない。
ブルーとグリーンとの絶妙なバランスが求められる。
仮にインディゴライト・イン・クォーツが存在するとすれば、文字通りインディゴカラーになるのではあるまいか。
写真の標本はブルーグレーである。

内包物というのは本当に難しい。
一般に、外観からの特定は困難である。
インクルージョンが何であるかは、同じ鉱脈から採れた標本を参考に推測することが多いが、複数の鉱物のインクルージョンによる発色であることも少なくない。
この難解さゆえに、収集家を魅了してやまないともいえるだろう。
さらに、日本においては、インクルージョンのみられる透明水晶の人気は極めて高い。
産地や内包物に関する情報の混乱が、人々を困惑させるのは想像に難くない。
水晶の中身を特定しておくことは、国内においては重要である。

反省を込め、ブラジル産青水晶のインクルージョンは、本当にインディゴライトなのか、考察してみたい。
まず、大雑把に説明すると、インディゴライトは以下のように位置づけられる。

インディゴライト<ブルートルマリン<エルバイト<トルマリン

定義上、インディゴライトはブルートルマリンの一種ということになる。
また、ブルートルマリンとインディゴライトには連続性がある。
全米宝石学会(GIA)では混乱を防ぐために、ブルートルマリンとの表記を推奨しているそうだ。
つまり一般には、インディゴライトの色合いは純粋な青ではなく、グリーンとの絶妙なバランスが求められる。
"ブルーグリーンルチル" にしか見えないブレスも実在するいっぽうで、純粋なブルーの針が確認できることがあるのもまた、事実である。

過去に流通したブルークォーツの特徴は、灰青色の濃淡のみならず、美しいショールの結晶を伴うこと。
以前インディゴライトの原石を紹介した(→記事はこちら)。
写真で確認できるように、エルバイト・トルマリンにはブルー、グリーン、イエロー、またピンクがある。
ブラックトルマリンとブルートルマリンは異なるグループに属する。
ショールも水晶のインクルージョンとして珍しくはないのだから、二色の針が認められてもおかしくないはずなのだが、この標本に関しては、青と黒が混在している様子はない。
いっぽう、柱状に結晶したショールは鉱物標本としても価値があり、キロ売りで販売中の岩のようなブラックトルマリンとは別格とされている。

さて、インディゴライト・イン・クォーツに関して海外サイトを検索したところ、日本のサイト以外出てこない。
海外では、ブラジルの青水晶は、オレナイト(オーレン電気石)のインクルージョンに因るものと説明されている(→参考写真)。
なんじゃそりゃ、知らなかった。
オレナイトとは、ピンクまたはブルーを示す珍しいトルマリンで、エルバイトやショールとは異なるグループに属するようである。
希少石オレナイトを華麗にフューチャーし、その価値をアピールしているところもある。
なお、同じブラジル産水晶に、ブルーターラクォーツがある。
こちらもリーベカイト及びオレナイト由来の発色といわれているが、リーベカイトのインクルージョンとするのが妥当であろう。
パキスタンのザギマウンテンからもリーベカイト由来の青水晶が発見されている。

オレナイトは産出そのものが少ないから、まだ確定というわけではない。
気になるのは、過去のブルークォーツと共生するブラックトルマリンが、直射日光下で赤紫に見えること(→参考写真)。
他所からはインディゴライトとショールの針が同時に入った水晶も発見されているようである。
現時点ではブルートルマリンとするのが無難であると考えている。
水晶の内包物というのは、難しい。




35×24×22mm  14.11g

2012/09/06

インディゴチャイルドクォーツ


インディゴチャイルドクォーツ
Indigo Child Quartz
Ambatondrazaka, Toamasina Province, Madagascar



マダガスカル産出、セプタークォーツ(王冠若しくは松茸水晶)、テッシンハビットクォーツ(先細り水晶)、ベータクォーツ(高温石英)といった特異な形状を示すアメジスト。
内部にヘマタイト、レピドクロサイト、カコクセナイトを含むことから、マダガスカル産スーパーセブン若しくはスーパーエイトなどと呼ばれた過去がある。
現在はインディゴチャイルドクォーツと呼ぶのが一般的。
文字通り、インディゴチルドレンと呼ばれる人々のためのクリスタルということである。

インディゴチルドレンという言葉に聞き覚えのある方は多いかと思う。
ここ4,5年で一気に知名度を上げたのは、発達障害の子どもを抱え自己嫌悪に陥る母親たちに希望を与えるためでもあった。
おそらく、ADHDやアスペルガー症候群といった社会適応の困難な子どもたちに、特別な使命を見出し、生きづらさを回避させる動きとみている。
しかしそれが飛躍した結果、自立に向けたトレーニングを行わず放置してしまうケースもある。

発達障害が必ずしも天才を意味するわけではない。
彼らの多くは支援学校に進学し、自立を目指しトレーニングを受ける。
IQは75以上と定義されている。
つまり、知的障害とのボーダーであるIQ75の子どもと、IQ130の子どもの発達障害では、その後の成長過程において大きな差異が生じる。
発達障害者に天才が現れる確率は健常者のそれと変わらないということである。
多くの発達障害者が才能を開花させることなく、就労すらできず、将来的に生活保護という受け皿しかないという現状がそれを示している。

自閉症者が天才であるという誤解を受けた原因のひとつに、自閉症にごく稀に現れるサヴァン症候群の影響があったのではないかと考えている。
天才ばかりとは考えにくい。
なぜなら私自身、自閉症及びアスペルガー症候群の診断を受けているからである。
自閉症の診断を知った保護者は、私に暴力を振るい続けた。
彼らが天才であり、特別な使命を持って生まれたという希望は、こうした子どもたちへの虐待を防ぎ、母親の落胆を自信に変えるというメリットがある。

さて、インディゴチルドレンの話に戻ろう。
世界には、インディゴチルドレン及びクリスタルチルドレン、レインボーチルドレンなる人々がいるらしい。
地球を変えるために君臨したという彼らの詳細を探ってみよう。


インディゴ・クリスタルチルドレンの役目



クリスタルチルドレンであるという女性のインタビューを関連動画から視聴し、うちゅうのおともだち・インスピレーションを得るに至った。
社会への不適合、強すぎる感受性、またオカルトに傾倒している点を考慮すると、スキゾタイパル(※注)の可能性も考えられる。
ちなみにうさこふはスキゾタイパルとアスペルガー症候群の併発であるが、インディゴやクリスタルの可能性は極めて低い。
詳細は後に記す。

※注)スキゾタイパル

十種類ある人格障害のうちのひとつ。統合失調型人格障害と呼ばれることもあるが、統合失調症とは関係ない。思考や行動、外観が奇妙であり、神秘的な現象に興味を示す。いっぽうで大多数に反発する傾向及び自閉的傾向を有する。宇宙人と間違えられやすい。スキゾタイパルであったと推測されているのはC.ユング、夏目漱石、ピカソ、鳩山由紀夫など。学会ではアインシュタインの名も挙がっているようだが、私は疑問視している。アスペルガー症候群への転向が可能。

人格障害と聞いて境界性人格障害(ボーダー)を連想する方が多いようであるが、異なる障害である。人格障害はA群・B群・C群に分類され、大多数を占めるのが『不安定な対人関係や衝動的な行動』を特徴とする人格障害B群である。発達障害になりきる境界性人格障害自己愛性人格障害、また発達障害への転向可能な反社会性人格障害など。

A群は変わっているため、B群は情緒不安定なため、C群は強い不安により、いずれも社会適応が困難とされている。


ある先生から伺ったのだが、インディゴ及びクリスタルチルドレンと、ADHDやアスペルガー症候群とは全く関係ないそうである。
かつては "特別な子ども" の定義に、発達障害が前提としてあった。
インディゴやクリスタルと称する人物の大半が、結婚や出産、子育てすら可能であり、社会生活や日常生活に支障なく、大多数の意見に違和感なく馴染み、強調性を発揮することができる。
特別な子どもたちにも種類がある。
インディゴやクリスタルの大多数は、障害者というハンディを背負わないマジョリティであり、むしろ強者という印象である。

発達障害の子どもを持つ親御さんには気の毒だが、彼らはインディゴチルドレン、クリスタルチルドレンではない。
おそらく、純粋な弱者である。
過度の期待はご本人を苦しめることになりかねない。
発達障害の人間が極めて生きづらいことは、私が身をもって知っている。
コミュニケーション不足に由来する対人恐怖や自己愛ではないことは明らか。
なお、インディゴチャイルドクォーツは、インディゴチルドレンが日本で注目を集める以前から流通があった。
かつてロットで入ってきたものが大量にあるので、インディゴの方に是非お譲りしたい。
現在は流通が減り、安価での入手は難しいとみられる。

なお、以下のブログでは可愛いお子様に対し、現実的な考察を行っている勇気ある父上の姿を見ることができる。

参考:私の子供は地球を救う「クリスタルチルドレン」ではなかったらしい
http://secret.de-blog.jp/secret/2009/06/post_273a.html


22×16×14mm(最大) 計6.46g


2012/08/30

ブラックマトリックスオパール


ホンデュラス マトリックス オパール
Honduran Matrix Opal
Erandique Region, Honduras



このところ頻繁にみかける石がある。
ホンデュラス・マトリックスオパール(ブラックマトリックスオパール)という、なんとも強烈な名前がついている。
写真はそのカット品。
黒い地に虹色の輝きが炎のように浮かぶさまは、世界的に一定の傾向を示すオパールの中にあって、一見珍しく思える。

オパールは遊色(多彩な輝きが浮かんでみえる様子)の有無によって二つに分類される。
遊色のみられるオパールを一般にプレシャスオパール、遊色のないオパールをコモンオパールと呼んでいる。
コモンオパールの代表的な例としては、ペルーのピンクオパールやオレゴンのブルーオパールなど。
これらがパワーストーンとして親しまれているのは、原価が安いためである。
宝石としては専ら遊色のみられるオパールが好まれ、中でも赤やオレンジの遊色が浮かぶものは最も価値が高いとされている。
これはどうも赤が入っている…から高級品なのかもしれない。
だが実際のところ、非常に安かった。
先日参考までに購入した。

ホンデュラスの名は、南米にあるホンジュラス共和国(正式にはホンジュラスの表記が正しいらしい)からこのオパールが産出することに由来するという。
全く聞いたことがない国である。
実際、アフリカと混同している人も見受けられる。
調べてみたが南米のどこかにあるらしいこと、「バナナ共和国」と揶揄されていることくらいしかわからない。
折角、鉱物で世界一周しているのに、こんなレアな国を素通りしてしまうとは残念である。
国名が付くことで誤解を受けそうな国としては、他にリヒテンシュタインが挙げられよう。
リヒテンシュタインからの若い観光客が、たまたま当時お手伝いしていたお店に寄ってくださったことがある。
その時はいったい何を意味するのか判らず、申し訳ないことをしてしまった(バンドをやっている人かと思った。たぶんノイバウテンとごっちゃになっている)。
特に違和感のない普遍的なイケメンであった。
世界は広い。

さて、ホンジュラスに戻ろう。
どうやらこのホンデュラス・マトリックスオパール、加工して作られるものらしい。
もともとブラウンであった母岩を、人工的に黒い色合いに変え、樹脂加工をもって輝きを安定させているようである。
オパールをアクセサリーにする場合、樹脂加工で強度を高める必要があるから、とりたてて騒ぐ必要はない。
ホンデュラス・マトリックス・オパールの真相に関しては、世界中で激しい論争が展開されている。
地の色をブラウンからブラックに改良していることが問題ということのようだ。
砂糖を加えて加熱する、とある。
加工前のマトリックスオパールを見た感じ、特に黒くする必要性は感じない。
ホンジュラスの人々が何ゆえ砂糖にこだわるのかについては、よくわからない。

オパールというと、高価な宝石というイメージがある。
実際に価値あるものは非常に高額になる。
大きさにもよるが、ホンデュラス・マトリックスオパールの相場は、遊色のないコモンオパールと同程度。
原価を考慮するとビーズになる可能性もあるとみて調べたら、既にビーズになって流通していた。
国内ではブラックマトリックスオパールと呼ばれており、気づかなかった(本来はオーストラリア産)。
どうも大量に出回っている。
ブラックマトリックスオパールについては、未加工の状態である旨明記され、紹介しているところが圧倒的。
天然オパールという鑑別を出している鑑定機関もある。
ここは確かギベオン隕石においても不可解な鑑定結果が出ていたのだが、大丈夫なんだろうか。

参考:鑑別書、鑑定書、保証書の違いとオパールへの適用について
http://www.gemstory.com/howtoPart2.html

つまり、鑑別書からは、石の名前(と、処理の有無を書くべきであり、パワーストーンに関しては書かなくてもよいとは聞かない。鑑定機関そのものが詐欺行為に及んでいる可能性が高い)しかわからない。
万が一、ダイヤモンドにしか付かないはずの鑑定書が付いてきた場合は、深刻な犯罪に巻き込まれたとみていいだろう。
鑑定書や鑑別書は「安心」の基準にはなり得ないことを忘れないでほしい。
本来は、いずれも宝石を第三者に託すさい(質入や相続など)に必要となるものである。

ブラックマトリックスオパールについては "処理を前提とする天然石" としての購入を検討されるほうがよさそう。
最も価値の高いとされるブラックオパールと混同し、とんでもない高額で販売しているケースもある。
オパールとパワーストーンのあやうい関係については、以下の資料から読み取れるので、参照していただきたい。
砂糖じゃ相手にされない。
宝石の価値というのは甘くない。


参考:オパールの価値
http://gemopal.info/free_ohanashi/free.html

参考:オーストラリアのオパールマスターによる、動画で楽しむブラックオパールの世界




やはり赤が良いようだがブルーにピンクがお好きな様子


18×13mm  7.39ct

2012/08/27

ゼノタイム(ザギマウンテン産)


ゼノタイム Xenotime
Zagi Mountain, Mulla Ghori, Khyber Agency, FATA, Pakistan



イットリウムを含む希少石、ゼノタイム。
アプリコットのような優しい色合いが印象的だが、立派な放射性鉱物である。
ゼノタイムは一般に、不透明なダークブラウンの結晶となって産出する。
パキスタンから近年発見されたオレンジやレッドに輝くゼノタイムは、世界中の愛好家たちを熱狂させた。

写真はゼノタイムをラベルに載せて撮影した。
出処は米国、表記はアフガニスタン。
当初、この標本はアフガニスタン産として流通したらしいのだ。
再調査の結果、パキスタンのザギマウンテン産であることが判明、業者側で産地を訂正したという。
セイクリッドシャーマン、ザギマウンテンクォーツで有名になった聖なる山、ザギマウンテンからは、多くの資源、魅力的な希少石の数々が発見されている。
中でも、この産地からのゼノタイムの美しさには定評がある。
アフガンの鉱物が、諸般の事情からパキスタン産として流通していることを不審に思われている方もおられることと思う(→詳細はパライバじゃなかったパライバトルマリンに記、主にアメリカ)。

パキスタンの鉱物の産地が曖昧にされることは多い。
理由のひとつは、掘る人と売る人とが同じではないこと。
隣接した国々からパキスタンに運ばれてきた鉱物を、現地のディーラーが扱うこともある。
特にアフガニスタンの鉱物の場合、同時多発テロの恐怖が売り上げに影響するのを危惧し、パキスタン産と言い換えることも考え得る。
また、複雑な事情のある地域では、実際に採掘に入れる人を限定し、詳細を伏せることがあるとみている。
売り手にもどこから来た石なのかわからないことがある。
それを責めるわけにはいかない。
この標本の産地が訂正された理由についても、想像することは可能である。
つまり、産地には厳しいこだわりを示す欧米諸国の収集家でさえ、ザギマウンテンを特定できたのはごく最近のことだったのだ。
十年以上経った現在も、世界中がザギの謎に当惑している状態ということになる。
産地で何が起きているかわからないといえば、中国も同じ。
ただ、中国であれば専門家が入ることもある。
調査の結果、素晴らしい鉱物の存在が認められ、詳細な産地や産状が明らかになることも多い。
余程の事情がない限り。

パキスタン北部、アフガン国境に位置するザギマウンテン。
レアアースの宝庫として近年注目を浴びる土地である。
ゼノタイム以外にも、稀にみる品質を誇る稀産鉱物が多く発見され、研究者や収集家たちを驚かせた。
宝の山なのは明らか。
だが、国外の専門家が現地入りすることは、固く禁じられているそうだ。
鉱物研究の進んだ国の専門家にしかわからないことはある。
いまだ存在の明らかにされていない希少石も少なくないとみられる。
おそらく、誰もがザギに入りたくてたまらないはずだ。

もし、どうしてもザギへ入るつもりなら、少し荒業を使う必要がある。
あのテロリストの息の根を止めたカラシニコフくらいは用意したほうがいい。
宝の山が意味するところ、それは戦争である。
我々が世界中の美しい鉱物を手に出来るのは、日本が平和だからである。
我が国の資源はほぼ枯渇している。
それがいかに幸運なことか、戦地を旅した人々は知っている。
世界には、いまだ眠ったままになっている資源は数知れず、それらが必ずしも平和的な目的で採掘されるとは限らない。
戦争が人を狂わせるのは、今に始まったことではない。

鉱物資源は、戦争の資金源として重要な役目を担う。
鉱物だけとは限らない。
外国人に見られてはならないことがザギで行われている…
そう考えることも、可能だ。
レアアースはヘロインに並ぶ利益をもたらす、とは面妖な。
パキスタン全土が危険なわけではない。
ただし、ザギのあるパキスタン・アフガン国境を目指すことは、現実的とは言えない。

参考)アフガンの鉱物資源に関する記事だが、パキスタン国境付近の状況についても言及がある:
http://www.asyura2.com/10/warb4/msg/886.html

鉱物をこよなく愛する人々にとって、曖昧な産地は悩みの種となる。
情報が欠けていることによって、石の評価は下がってしまう。
コレクションの分類に頭を抱えるはめにもなる。
しかし、真実を追求したがために不幸な事件に巻き込まれ、命を落すことがあるのもまた、現実だ。
過酷な状況を耐え抜いて届けられたザギの鉱物に、何をみるかということだと思う。
この初初しいゼノタイムの伝えるもの、それは美しさや希少価値、神秘性だけだろうか。
世界には、平和を叫べない土地がある。





18×12×10mm  4.15g

2012/08/24

セルサイト


セルサイト/白鉛鉱
Cerussite
Tsumeb Mine, Tsumeb, Otjikoto Region, Namibia



太陽の下で七色に輝く光の結晶、セルサイト(白鉛鉱)。
アゼツライトもびっくりの堂々たるお姿である。
透明感あふれる見事な連晶で、ツメブ鉱山からの産出品とのこと。

ナミビアのツメブ鉱山は、世界を代表する鉱物の産地。
歴史的な標本を数多く産した。
ロシアのコラ半島、カナダのモンサンチレールに並ぶ稀産鉱物の宝庫として知られている。
ツメブ鉱山からの標本はいくつか手持ちがあるが、世界中の収集家が絶えず目を光らせているから、素人が入手できるような標本はしれている。
私自身、ツメブのセルサイトを手にしたのは、これが初めて。
まほろばというのは、このことをいうのだろう。

セルサイトは鉛を含む鉱物。
見た目は軽そうだが、持ち上げるとずっしり重い。
では頑丈なのかというとむしろ逆で、非常にもろく、意図せず崩れてしまうこともあるようだ。
硬度は3と、カルサイト程度ということだが、扱いの難しさはカルサイトの比ではない。
鉛のメタリックなイメージからは想像もつかない。
輸送中に壊れてしまうこともあるという。
その性質ゆえ、アクセサリーなどに用いることができず、専ら観賞用となる。
ビーズになることなどまず無いから、パワーストーンとしての知名度も低い。
そもそも「セルサイト」という名前自体、これといったインパクトがなく見逃しがち。

ツメブ鉱山からはスミソナイト、マラカイト、ミメタイト、モットラマイト、ダイオプテーズ、マンガンカルサイトなど250種類に及ぶ鉱物が発見された。
鉱山の名を冠したツメブ石に代表される、55種類の稀産鉱物はここツメブを原産とする。
ツメブ鉱山が閉山したのは15年ほど前。
水没し、消えてしまった。
産地からの標本の流通は減り、需要に供給が追いつかず、今後の高騰は避けられない。
セルサイトそのものは世界各地から産出があるが、その品質の差は明らか。
世界中の収集家に絶大な支持を得ていることにも納得がいく。

このセルサイトはツメブの魅力を伝える片鱗に過ぎない。
歴史的価値のある標本であれ何であれ、金の力で手に入れることはできる。
収集家の信念が問われるところであろう。




28×26×20mm  34.04g

2012/08/19

モリオン(ウクライナ産黒水晶)


黒水晶/モリオン
Quartz var. Morion
Volodarsk-Volynskii, Zhytomyr Oblast', Ukraine



昨年、2年ぶりに鉱物の世界へ戻って、違和感を感じたことが二つある。
一つは2年前には既に馴染みのあった石がまさに売り出し中であったこと。
もう一つは、市場価格が十万を越えることもあった天然黒水晶(モリオン)の相場が、一万円をきっていたことだ。
後者に関しては、衝撃であった。
産地は軒並み中国、東は山東省(朝鮮半島側)、西は四川省及びチベット自治区などから、モリオンが同時多発的に発見されている。
いずれもペグマタイトから産出したとみられるスタンダードな天然モリオン。
偽物ではない。

放射線の照射さえ行えば、すべての水晶が黒くなるわけではない。
特殊な条件を備えた水晶のうち、地中の放射線を長期間に渡って浴びる環境にあって、ごく稀に生成される。
大半はスモーキークォーツの段階で発見されている。
光さえ透さない漆黒のモリオンは、長い間、誰もが憧れる幻の石であった。
放射能を防ぐパワーストーンとしてお茶の間で話題になるなど、想像できようか。
短期間に相当量の産出があったとしか思えない。
それらは薄利多売ビジネスを目論む業者のもとへ渡り、ブレスレットに姿を変え量産されている。
中国がいかに広いとて、奇妙である。

かつては放射線処理によって人工的に黒く改変させた黒水晶/モリオンが中国で製造され、半ば暗黙の了解のもと市場に流通していた。
何も知らずに初めて手に取ったとき、気分が悪くなった。
私だけではない。
周囲の人々が皆、怖がるものだから、手放さざるを得なかった。
モリオンが放射能を利用して作れるものと知ったのは、ある方との出会いがきっかけ。
チェルノブイリ事故の影響で、ロシアから大量にモリオンが発見されている、と私に教えてくださった。
おそらく事実ではない。
しかし人間たるもの、よからぬ想像をしてしまう。
天然の放射線によって水晶が黒くなるのであれば、半人工的に出来た黒水晶も存在するのではないか。
放射能汚染の顕著な地域に的を絞って掘り当てたのではないか。
折りしも福島での原発事故直後。
被害に遭われた方々の心情を思うと、大きな声で言えるはずもなく、人々の不安を助長させる行為に及ぶのは憚られた。

結論からいうと、おそらく中国の核とモリオンは無関係。
というのも、最も信頼性の高いモリオンの産地・山東省は、北京にほど近い "安全" な地域にあたる。
チベット産や内モンゴル産については産出の確認が取れていない(→モンゴル近くの黒龍江省からチベットモリオンが出ている可能性あり。くわしくはこちら)。
最も放射能汚染が深刻な新疆ウイグル自治区からは、美しい透明水晶が発見されている。

中国政府の発表によると、1964年から1996年までの32年間、新疆ウイグル自治区において46回に及ぶ核実験が行われたという。
実際にはそれを上回る原水爆が使用されたおそれがあり、現在も多くの人々が苦しんでいるといわれている。
チベット自治区では、放射性廃棄物処理施設による汚染が問題になっているほか、複数の核兵器関連施設における事故の噂があり、詳細は明らかにされていない。
内モンゴルにおいても同様の問題が取り沙汰されている。
いずれも少数民族の居住地であり、首都・北京から遠く離れているのがその理由とのこと。

いっぽう、チェルノブイリ原発事故の影響で、ロシアからモリオンが発見されていたという説に対しても、信憑性は薄い。
旧ソビエトとロシアを混同しているのは明らか。
放射能による被害が最も大きかったのは、チェルノブイリのある現ウクライナ、隣接のベラルーシ。
ロシアでも深刻な被害が出ているとのこと(→チタニアダイヤに記)であったが、ロシアの特定の場所からモリオンが大量に見つかっているという事実はない。

その手がかりを探るべく捜していたウクライナ産モリオン。
先日ようやく見つけ出したのが写真の石である。
格安で出ていたので即決した。
真っ黒でずっしり重く、エレスチャル状に成長した文句なしのモリオン。
ペグマタイトの匂いがプンプンする。
底面中央には穴があり、内部が漆黒の結晶で満たされている(本文下の写真)。
ウクライナには、大自然の創り上げたモリオンが存在する。
チェルノブイリとモリオンの関連性については、噂に過ぎなかったものと信じたい。

このモリオンが発見された場所は、このブログを作るきっかけとなったヘリオドールに同じ。
チェルノブイリから車で2時間半かかる距離だというから、関連性は無いと考えるのが妥当であろう。
ウクライナにおいて、1986年頃を境に、放射線処理が必要なはずの幻の宝石がいくつか発見され数年後に枯渇していること、また人工照射に失敗したとみられる不自然なウクライナ産モリオン(→wikipediaからは削除されていました/参考写真)が存在する理由については、直接手にとっていないため、分からない。

なお、wikipediaによると、かの毛沢東氏は「たとえ地球に大穴が開いても、あるいは地球が粉々に吹き飛ばされたとしても、太陽系にとっては大きなことかもしれないが、宇宙全体から見ればとるにたらない」と、地球の終焉を示唆している。
また、核汚染がきわめて深刻とされるタクラマカン砂漠やゴビ砂漠の砂は、黄砂となって日本に飛来している。



この標本は1990年産出とのこと。
ヘリオドール鉱山が閉山した年にあたる。


80×55×48mm  182.1g

今週、話題性が確認された10の鉱物

What Mineral Would You Take with You to A Deserted Island?