2012/06/07

サルファー(阿蘇山)


サルファー Sulphur
熊本県阿蘇市阿蘇山



お菓子のような可愛い結晶。
サクサクと噛めばとろけてしまいそう。
しかし、絶対に食べてはならない。
この結晶には、毒性がある。
日本を代表する鉱物のひとつ、サルファー(自然硫黄)である。

サルファーは、単一の元素のみで構成される元素鉱物のひとつ。
火山列島である日本では、多くの産出があった。
古くから工業用、産業用に用いられ、その名残りを硫黄島などの名にみることができる(参考:硫黄島の鉱物 - うずら石)。
サルファーといえば温泉。
世界的にみると通好みの鉱物だが、日本では癒しや健康の象徴として、わりと人気がある。

鉱物に興味を持ち始めた頃、天然レモンクォーツなるものと出合った。
サルファーが内包されることによって、淡いレモンイエローに染まった水晶だった。
強くこすると硫黄のにおいがする…
じゃあ、硫黄の原石ってどんなものだろう?
それがきっかけで出会ったのが、この阿蘇山のサルファーだった。
一目見て気に入った。

サルファーは世界中から産出し、産地により形状や質感は異なっている。
ボリビア産の大きなクラスター、ロシアの透明結晶、イタリアの鮮やかなレモンイエローの結晶などが有名。
資源としては枯渇しているが、国産標本も流通はある。
私の大好きな阿蘇山のサルファーは、半透明の塊状で産し、軽くほどよい大きさ、独特の質感を特徴とする。
常に側に置いておきたくなる。

※サルファーの管理にはくれぐれもご注意を。人体への毒性の他にも、鉱物や金属類が変質することがある(あった)。魔を除けるパワーは半端ないらしい。聖書では、神が人を罰するための道具として登場し、中国においては世界最初の火薬を作るための原料となったという(ジュディ・ホール)。

地獄谷という場所をご存知だろうか。
小学生の頃、富山県は立山の地獄谷を訪れた。
地獄の名にふさわしい荒涼とした土地に道は続いていた。

吹き出すサルファー!
地獄からなんか出る前に走れ!

立ち込める硫黄の臭いに呼吸を我慢しながら、必死で岩を駆け下りた。
地獄から脱出したときの安堵を、今でも覚えている。
立山の地獄谷は古くから信仰の場とされ、なんと136もの地獄があるらしい。

月日は過ぎ、私も大人になった。
今でも地獄谷のことは忘れられない。
いっぽうで、サルファーは私のお気に入りの鉱物のひとつとなった。
遥かな子供時代を想起させる、冒険と安らぎの石。
温泉はご褒美。
そういえば、北海道の登別温泉にも地獄谷があった。
以前ヒッチハイクの旅で訪れたさい、遠くから見物した。
硫黄のかおりは、旅の思い出とともに。


未測定

2012/06/05

ムーンストーン


ムーンストーン Moon Stone
Tamil Nadu, India



昨夜、月蝕の話題が出たばかりなので、今日は月にまつわるパワーストーンを取り上げようと思う。
ムーンクォーツではなく本家・ムーンストーン。
ムーンストーンの中でも、ブルーのシラー(輝き)が浮かび上がるものはブルームーンストーンと呼ばれ、価値が高いとされる。
多くはカットされ、宝石やビーズとなって流通している。
写真は、意外に珍しい、ブルームーンストーンの原石。

この原石をいつどこで購入したのかについては覚えていない。
産地と名前のメモが入っていなかったら、見落としていたかもしれない。
ムーンストーンのシラーを楽しむには、研磨加工が必要。
この標本も、結晶の一面がカットされている…はずだったのだが、どうも天然結晶のまま加工を免れている。
母岩のうえに付いた原石が薄いため、光を透しやすいのが原因だろうか。
オレンジを帯びたブルーの炎が結晶全体を包むさまを昼間から拝めるとは思わなかった。
実際の月と同様、原石の場合、太陽光でそれを見ることはなかなか難しい。

ロイヤルブルームーンストーン、レインボームーンストーン。
鉱物としては非常にわかりにくい。
ムーンストーンの呼び名は、特定の鉱物を指す言葉ではない。
うっすらとブルーの浮かぶ鉱物名を挙げていくと、きりがないほどにその種類は多く、特定が難しいために混乱を招いている。
ムーンストーンと呼ばれる石の正体は、サニディン、アノーソクレース、ラブラドライト
いずれも長石に類するが、その中のどれか一つを指定せよといわれると、専門家も言葉に詰まってしまうようである。

ムーンストーンの偽物 "ペリステライト" という鉱物も存在する。
どこからか、それはムーンストーンじゃなくてペリステライトだ!という声があがり、大騒ぎになったのも懐かしい。
俗にいわれる「戦慄のムーンストーン・えちごや騒動」である(無い)。
しかしながらペリステライトもまた、長石の一種である。
詳細について記すと長文になってしまうため、専門書を参照していただきたい。

パワーストーンは大衆文化、鉱物標本は学問に近いものと捉えている。
議論は堂々巡りで、建設的とはいえぬ。
子供が鉱物名を誤解していたとして、それを教えたところでなんになろう。
元来、ムーンストーンは白かったと思っている。
もしそれが黒ければ、「冥王星(※追記)」「ブラックホール」等、別の名前で定着していたはずだ。
月にまつわる、神秘的な伝説が数多く存在するように。

※追記:冥王星の名を冠した元素はプルトニウムである(→詳細:テルル)。

日本では、月はたいそう縁起のよいものとして、好まれてきた歴史がある。
サンストーンよりムーンストーンのほうが人気が高いのも、そのせいかもしれない。
例えば、月にはうさぎが棲んでいるという伝説がある。
満月には白うさぎが餅をつく、ということになっている。
月にうさぎのいる国は、意外に多いようだ。
直接聞いただけなので、文化的には異なるのかもしれないが、少なくともインド、西ドイツの方から直接「自分の国も月にうさぎがいる」と聞いたことがある。


ここではジャータカ(仏教説話)に出てくるうさぎの物語が起源となって、月にうさぎがいるという伝説が生まれた旨、記されている。
ジャータカは私が物心ついたとき、既に私の心の中にあった。
兎本生と呼ばれるその物語は、私がうさぎに興味を持ち、インドに行くきっかけともなった思い入れのある説話。
インド、日本については、ジャータカが月のうさぎの言い伝えの由来になったとしている。
いっぽうで、世界には月光が狂気をもたらすとされ、忌み嫌う土地があると聞く。
月の影響で恐ろしい狼に変身する人もいた気がする。
一般に、欧米人は月を好まないとされている。
調べてみると発祥はどうも、ドイツ。
月は悪魔や魔女の象徴として描かれているという(ドイツは魔女狩りがもっとも盛んだった国)。
実際、欧米ではムーンストーンに対し、邪悪で背徳的な意味合いを与えることも少なくないようである。
うさぎがいるんじゃなかったのか。
ドイツの夜空にうさぎがいると教えてくれたのは、西ドイツの学者の息子。
父の跡を追い研究者を目指していた青年だ。
彼の性格や風貌は、オカルト的寓話とは全く結びつかないし、とくに仏教徒というわけでもなかったから、不思議なのだ。
欧州のオカルトは根が深い。
なぜドイツに両極端な二つの月のイメージが並存するのかについて、これ以上の言及は控える。

話を戻そう。
ムーンストーンは鉱物名ではない。
サニディンだったりアノーソクレースだったり、時々ラブラドライトやペリステライトであったりもする。

参考:ペリステライトとムーンストーン、ラブラドライト
http://www.cgl.co.jp/latest_jewel/gemmy/128/index.html

上記の3つの鉱物は、いずれも長石の一種。
宝石の場合は区別をするべきだが、大量生産が常であり、また消耗品でもあるパワーストーンの場合、かえって混乱の原因になりそう。
写真の石はインド産だから、ラブラドライトの可能性が高い。
しかしながら、産地からはペリステライトも出ている。
ムーンストーンより先は、鑑定するしかない。
そこまでして何になろう。
正式なムーンストーンとされるサニディンのすべてが、月の輝きを想わせるとは限らないのだから。

論争に決着が着いたかどうかはわからない。
ペリステライトはブルームーンストーンの偽物というのは言いすぎであろう。
ムーンストーンと呼ばれるのはひとつの鉱物ではない。
鉱物が違えば問題も起きるから、パワーストーンにもある程度の定義は必要だ。
ただ、宝石の場合はともかく、産地すら明らかにされない消耗品としてのパワーストーンに、細かな決め事が必要だろうか。

以下、素人の意見。
パワーストーンに限っては、青白いシラーの出る長石類をムーンストーンに統一してしまおう。
成分でなく外観や質を基準にし、規定の範囲内でムーンストーンの呼称を使ってしまおう。
いっぽう、お馴染みのオレンジムーン、ダークグレームーンなどについては、ムーンストーンとしての扱いは甚だ疑問であり、月のビジュアルとして考えると、どうにも不吉であり、不気味である。
ムーンストーンを邪悪な石にしてはいけない。
別途、名称の考案を望む。


47×30×12mm  19.15g

2012/05/30

モリオン/スモーキークォーツ(ポーランド産黒水晶)


モリオン/スモーキークォーツ
Morion/Smoky Quartz
Strzegom, Dolnośląskie, Poland



珍しいものを見かけた。
ポーランド産モリオン。
なんだろう、こんなの聞いたことが無い。
そう思って問い合わせてみたところ、在庫を見せていただけるというお話になった。
産地はデータベースにも掲載されている、ポーランドの有名なペグマタイト。
歴史に残る鉱物を数多く産したが、採り尽くされてしまったようだ。
現在は古いコレクションが、ヨーロッパの愛好家たちの間でささやかに取引されているという。

私の対応に不備があり、話が消えそうになりながらも、なんとか日本まで送っていただけることに。
被災地から戻って間もなく、ポーランドの黒い水晶と対面することになった。
ひとつひとつ、チェックする。
個性豊かな黒水晶が次々に現れる。
クローライトのまりも状インクルージョンが入ったモリオン(!)まで出てきた(そのことに気づかれた、お世話になっている社長にプレゼント)。
漆黒のモリオンから透明に近いスモーキークォーツまで、色合いの幅は広い。
資料にあるとおり、モリオンの上にさらにスモーキークォーツが成長している標本が最も多い。
そのため結晶表面に光沢があり、優美な印象を受ける。
気になるのは、エピドートと共生している確率が極めて高いということ。
結晶内部から表面に至るまで、もじゃもじゃのエピドートで埋め尽くされている(本文下、左の石)。
ダークスモーキークォーツに幽かに浮かぶ風景。
モリオンの場合は中が見えないから、はみ出したものを見て思いを馳せるしかない。
なんて贅沢な悩みであろう。

被災地への旅の前日、私は大阪ミネラルショーに来ていた。
いつもながら師匠とともに。
彼はいつも気の利いたプレゼントを用意してくださる趣味人にして、あらゆる分野における大先輩。
その日プレゼントしてくださったのは、切手だった。
祖父(石の収集家でないほう)が切手の収集家だったこともあり懐かしかった。

大好きなうさぎの切手に混じって、鉱物の切手が数枚ある。
その中に、明らかに見覚えのある水晶の切手があった。


旧東ドイツ(DDR)発行の切手。左はエピドートがはみ出している?

茶色の水晶からはみ出した黄緑色の何か。
これって、ポーランドのモリオンにそっくりじゃないか。
実際に届けられた標本を見て、確信した。
社長にお話を伺った。
水晶とエピドートの共生は、特に珍しいことではないそうだ。
同じものとは限らないとのご意見であった。

確かにそうだ。
しかし、わざわざ切手にするからには、それなりの歴史的評価と産出量があったはず。
切手にはその国の誇りや美意識、歴史が刻まれている。
モリオンは真っ黒な単結晶、或いは長石と共生したものが好まれる。
よりによって、もじゃもじゃしている標本を切手にするというのは、奇妙である。
何を記念して発行された切手なのだろう。
譲ってくださった方もわからないとのこと。
古い切手だから当然だろう(書いてある文字についてもコメントはなかった)。
ドイツでは鉱物収集が盛んだから、ヨーロッパ各地から出ているモリオンを取り上げたものなのかもしれない。
ヨーロッパにおいては、イタリアやルーマニアから発見されるモリオンが有名で、現在も多くの流通がある。
いずれも外観は異なっている。
大さといい、態度といい、もじゃもじゃといい、この絵柄はまるでポーランドのそれ。

旧東ドイツから歴史的なモリオンが産したという話は聞いている。
この水晶の産地に同じである。
つまり現地は戦前、東ドイツ領だった。

写真は私が一番気に入っている標本。
半分は完全に黒、上部はダークスモーキーとなっており、太陽光の下で内部の様子を観察することができる。
両端が結晶し、この地に原産の鉱物Strzegomiteが内包されているという。
インクルージョンの実に多彩なこと。
真っ黒で中身など見えないはずなのに、親切にはみだしているというのも、興味深い。
モリオンの一面にびっしり付着したエピドートは、ふさふさと生い茂った芝生のよう。
付着物といえばフィンランド産モリオンだが、ここまで派手ではない。
こんなものが世界各地から産出しているのか。
なにより不思議なのは、友人がなぜこのタイミングで切手をプレゼントしてくださったか、ということ。
私の趣味はだいたいご存知だ。
黒水晶にはさほど興味のないことだって、知っている。
ただ、私が子供時代、切手に興味があったことは伝えていなかった。
数枚あった鉱物の切手のうち3枚に、モリオンの絵柄が入っている。
偶然にしては出来すぎている。
ご協力いただいたすべての方に感謝し、美しい黒水晶を生んだ遠き彼の地に思いを馳せる。




いくつかストックがございますので、興味のあるかたはお問い合わせください(詳細ページ)。夕日で撮影したので、エピドートが黄色っぽく写っている点、お許しを。


60×33×30mm  78.04g

2012/05/28

フェナカイト/アクアマリン/フローライト


フェナカイト×アクアマリン×フローライト
Phenacite/w Aquamarine, Fluorite
Siyany Mountains, Deposit Snowy, Buryatia, Russia



フェナカイト(フェナサイト/フェナス石)の大きな結晶に、水色のアクアマリンが見え隠れし、紫のフローライトが華を添えている。
ホワイト~クリーム色のフェナカイトは、主役ながら素朴で地味。
何も言われなかったら脇役に見えてしまうかもしれない。
もともと、産出そのものが少ないため、希少価値・相場ともに年々上昇を続けている。
多くは1グラムに満たない欠片で、10gを超える標本は貴重品となっている。
フェナカイト、アクアマリン、フローライト。
この類い稀なる組み合わせは、ロシアから近年、僅かに発見されたものだという。
数年前に、欧米のヒーラーの間で流れていたものを運よく入手した。
現在も流通はある。
産出があるかどうかについてはわからない。

ロシア産のフェナカイトは貴重品で、なかなか拝む機会がなかった。
確かに、表面には土が付着していて、あまり綺麗とは言えない。
しかし、当時の私にこの大きさは衝撃であった。
洗う気になれず、そのまま保管してあった。
先日、たまたま見つけて、手に取った。
私の撮影技術ではその魅力を存分に引き出せなかったことが悔やまれる。

ロシア産フェナカイトは、クリスタルヒーリングを嗜む人々に特に人気が高い。
透明感においてはミャンマー産のほうが優れているし、形状のバリエーションにおいてはブラジル産が群を抜いている。
しかしながらロシアンフェナカイトの波動は、それらとは比較にならないということである。
ヒーリングストーンの頂点は、フェナカイトとアゼツライト。
次いでモルダバイト、ダンビュライト、ブルッカイト、水晶やニューエイジストーン各種が並ぶということになっている。
選ばれし人々のみが手にする石、フェナカイト。
そんな扱い。

驚く方もおられるかもしれないので、補足しておく。
波動はともかく、石が人を選ぶのには理由がある。
流通の少なく相場の高い石は、タイミングや予算などが違えば入手できないのが常。
また、入手ルートが限られることもある。
サチャロカアゼツライトはその典型的な例だろう。
フェナカイトはれっきとした鉱物で、専門家が見ないとそれとわからない、という曖昧さはない。
それどころか、一目でロシア産とわかってしまうような、独特の魅力を放っている。
クリスタルヒーラーのみならず、鉱物収集家にも好まれる希少品であるがゆえに、入手が難しいのだ。
一生モノを手にするためには、最低限の購入資金と、鋭いアンテナが必要となる。

さて、昨年Heaven&Earth社から、セラフィナイト入りフェナカイトなるものが登場し、話題を呼んでいる。
産地はウラルのエメラルド鉱山とのことだから、マリシェボからの産出ということになるのだろう。
フェナカイトとしては大きく見応えがあり、清らかで颯爽とした印象が心地よい。
気に入って大切にしている。
石としては文句のつけようがない。
ただ、違和感は拭えない。
当初は金雲母とセラフィナイト、フェナカイトが共生した状態で発見されたという。

ピンときた方もおられるかもしれない。
以前、ゴールデンセラフィナイトという鉱物を取り上げた。
セラフィナイトの産地は本来、ロシアのバイカル湖付近に限定されるということだった。
この "セラフィナイト入りフェナカイト" の産地と推測される、ウラル・マリシェボ鉱山からはかなりの距離がある。
手持ちの石に関しては、何らかの鉱物が共生していることがわかる程度。
セラフィナイト(もしくは鉱物名:クリノクロア)なのかどうかについては、肉眼での判断は困難であった。
天使の羽根という喩えの由来となった、独特の模様や深いグリーンの色合い、柔らかな質感などはみられない。
出処はモスクワ、地質博物館の学芸員とのこと。

白くてふんわりしたものが好きだ。
ロシアンフェナカイトの特徴でもある、雪のように白く、まるみをおびた姿。
結晶中に時折みられる透明な窓は、光を受けて虹色に煌く。
波動については素人ゆえ判らぬが、可愛らしくてたまらない。
数あるフェナカイトの中でもひときわユニークな「アクアマリン・フローライトの結晶を伴うフェナカイト」を私はおすすめしたい。
残念なことに、私のもとにはこれひとつ。
どうかあなたのもとにも、届きますように。


35×32×23mm  26.02g

2012/05/26

ハックマナイト(結晶化)


ハックマナイト Hackmanite
Sar-e-Sang, Koksha Valley, Badakhshan Province, Afghanistan



アメジスト?
フローライト?
いいえ、うさこふさんです。
春のミネラルショーで見つけて、何の石か訊ねようと店主を探していると、どこからか私の名を呼ぶ声がした。
いつも興味深い鉱物を届けてくださる馴染みの業者さんだった。
覚えていてくださって、うれしい。
しかし、いつもながら難解なものを届けてくださる。

一見しただけではわからなかった。
優しいラベンダーカラーと絹状光沢、結晶形から、フローライトやレピドライトを連想した。
価格は1,000円。
いつもながらの良心価格。
ハックマナイト、とのことだった。
紫の透明石は初めて見る。
よくハックマナイトとわかったものだ。
ブラックライトでオレンジに蛍光するさまは、まさにハックマナイトのそれ(本文下に写真を掲載、共生の青紫は不明
)。

結晶し、さらに侵食を受けた姿が興味深い、宝石質のこの標本は、ラピスラズリが採取されることで有名なアフガニスタン某所(※注1)からやってきた。
過去にソーダライトの考察において、ハックマナイトとラピスラズリとの混同が見受けられるとした(→ソーダライト/ハックマナイト及びアフガナイトに記)。
現在もこの件については意見がわかれる模様。
宝石として流通しているアフガンからのハックマナイトの多くはブルーの透明石。
ソーダライトと呼ぶほうが自然なのでは。
ハックマナイトはソーダライトの変種にあたる。

※注1)この標本の産地について、鉱山までは確認できていない。有名な産地は以下:Lajur Madan; Lapis-lazuli Mine, Sar-e-Sang District, Koksha Valley, Badakhshan Province, Afghanistan.


参考:さまざまな産地のハックマナイト
http://www.cgl.co.jp/latest_jewel/gemmy/135/02.html

ここではハックマナイトを産地別に分け、産地に拠って異なる特徴を示す原因について報告されている。
ミャンマー・パキスタン・アフガニスタン・ロシア・カナダ・グリーンランドからそれぞれ採取されたサンプルを用いている。
私がセットと思い込んでいたミャンマー産とアフガニスタン産だが、それらが異なるグループに属するという部分は非常に興味深い。
またパキスタンからは、どのハックマナイトとも違う特徴を示す石が出ているらしい。

さて、パキスタンのハックマナイトを探す旅が始まった。
しかしながら、アフガニスタン産のスキャポライト(マリアライトに分類されることが多い模様)にたどりついてしまった。
紫の色といい、質感といい、そっくりである。
カットしてしまうと全く見分けがつかない。
表記の産地は同じ(注1)。
無色透明~アクアブルー、濃紫色に至るまで、さまざまな色合いの結晶が出ているようだ。
いずれも蛍光し、イエローまたはブルー、レッド、ピンクなど、テネブレッセンスの色は石によって異なっている。
興味深いのは、ラピスラズリやアフガナイト同様、ピンクに蛍光する場合があるということ(→アフガナイト参照。アフガナイトはレッド~ピンク、ソーダライトやハックマナイトはオレンジ~レッドに蛍光するようだが、それらは持ち主によって異なるとみられる)。
同じ産地の同じ鉱物であっても、石によってテネブレッセンスの色合いが異なる、という現象は起こり得るのだろうか。
成分が著しく異なるのでないなら、違和感を感じずにいられぬ。
そんな素人がここにいる。

まとめよう。
同地からは無色透明~アクアブルー~濃紫色を示す蛍光鉱物が多数発見されている。
つまり、アフガニスタンのラピスラズリ鉱山からは、アフガナイト、ソーダライト、ハックマナイト、スキャポライト(マリアライト)、またダイオプサイドが産出し、しばしば混同されている?

蛍光鉱物について研究されている方に詳しく伺いたい。
何処におられるだろうか。
なお、異例の特徴を示すとされるパキスタン産ハックマナイトについては、入手できる可能性は極めて低い(Balochistanから産した例が一件のみ。以下ソース省略)。
またパキスタンに隣接する中国某所から、紫のスキャポライトが産出、産地を偽って市場に流れているということであった。




30×22×19mm  9.35g

2012/05/25

ブルートパーズ(川流れ)


ブルートパーズ Blue Topaz
Aracuai River, Aracuai, Minas Gerias, Brazil



ガラスのようなブルーの石ころ。
一見すると、川流れ水晶のように見える。
青い色の水晶は無いはずだから、何事かと思ってしまう。

二年前の秋のミネラルショー、ブラジル産鉱物専門ブースの500円コーナーにあったもの。
上流に有名なブルートパーズの産地があり、そこから流れ出たものだろうとのことだった。
川流れトパーズ。
半分に割って、中を見てみたい衝動にかられる(川流れ水晶は半分に割って、内部が観察できるような状態で流通している)。

天然のブルートパーズというのは珍しい。
天然石志向がピークにあった頃、天然ブルートパーズのブレスを30万で購入した人がいたほど。
一般に知られているブルートパーズの多くは、熱処理・放射線処理によって青い色合いに変化させたもの。
もともとは宝石として使えない色だった。
スイスブルートパーズ、ロンドンブルートパーズなどと呼ばれる処理石は、大きいものでも千円以下で入手できる。

処理により色合いを変えることが可能なトパーズをFタイプという。
ブルートパーズはFタイプにあたる。
現在はシェリートパーズやピンクトパーズ、パープルトパーズなどに人気が集中している。
それらはOHタイプと呼ばれ、その希少性、色合いの珍しさ、美しさなどから高い評価を得ている。
いっとき希少品とされた天然のブルートパーズは、それらとは比べ物にならないほど流通した。
天然ブルートパーズは意外に珍しくないもの、として定着してしまった。
ゆえに、人気は下降気味。
このブルートパーズもまた、時代の流れに取り残され、処分されていたのだろう。

調べてみた。
"川流れトパーズ" という流通名は実際にあるようだ。
7月24日の誕生日石にも指定されている。
ただし見た目はこれとは別モノ。
大半は欠片のような状態で、まんまるなタイプはみかけなかった。

しかし、よくトパーズとわかったものだ。
レアな青い川流れ水晶だと言われたら、信じてしまうかも。


30×24×18mm  24.89g


今週、話題性が確認された10の鉱物

What Mineral Would You Take with You to A Deserted Island?