2012/05/22

グリーンファーデンクォーツ


ファーデンクォーツ
Green Faden Quartz
Kharan, Baluchistan, Pakistan



ファーデンとはドイツ語で「糸」の意味。
うすい板状の結晶の中心に、糸のようなつなぎ目がみえる水晶をさして、ファーデンクォーツと呼んでいる。
以前はアルプス産出の高級品が中心だったが、近年パキスタンから比較的安価な標本が流通するようになり、一気に身近な存在となった。
クリスタルヒーリングにおいては、再生、復活、魂のパートナーとの繋がりを意味するとされ、人気は高い。
ファーデンクォーツの奇妙な形状とその生成過程については諸説ある。

最も一般的な説としては、もともと二つあった結晶が、地殻変動などによって割れ、再結晶した、というもの。
中央を貫く糸はつまり、修復された跡というわけ。
いっぽう、糸はいわば芯で、それを中心に結晶が成長していったという説もある。
また、上記の二つの過程が順番に起きたという説もあるようだ。
水晶は何億年の時を経て私たちのもとに届けられる。
その過程において何が起きたかについては、推測の域を出ない。
実験室で短期間のうちに合成水晶を作ることはできる。
しかし、自然界で起きている様々な出来事を、何億年もかけて実証してみせることは、事実上不可能であろう。

緑に染まったファーデンクォーツ。
結晶表面から内部に至るまで、ふりかけのように点在している緑の鉱物は、クローライト(アクチノライトとの説も)とのこと。
ファーデンクォーツの成長過程において、クローライトが取り込まれ、表面にびっしり付着するほどに、両者は密接した状態であったものと考えられる。
長期間にわたって同じ環境下で成長したということである。
ゆえに、地殻変動などが原因で結晶が二つに割れるほどの大規模な環境の変化が起きたという説には、違和感を覚える。
仮に地殻変動との関係があるとするなら、この結晶が形成されるごく初期の段階での出来事ではないだろうか。
「修復」後に起きることも、ファーデンクォーツの正体に迫るうえで重要な手がかりになるという推測が可能だ。

さて、このグリーンファーデンクォーツには、一般的なそれとは異なる特徴がみられる。
一見して興味を惹かれるのは、20本余りのダブルポイントの水晶が束になっていること。
やや板状ではあるが、一つ一つのポイントが生々しくその姿をとどめている。
ファーデンクォーツの多くは、再結晶を繰り返すうちに、本来の形は崩れていく。
極めて薄い板状の連晶となって発見され、そこにかつての面影は無い。
結晶の本数が数えられるほどに形を留めていて、そのすべてがダブルポイント(両錐水晶)となっているのは興味深い。

水晶には普通、上下がある。
両錐水晶は、どちらかの先端が先に形成され、その後反対方向に結晶が成長していくことにより出来るといわれている(写真)。
一つの水晶に二つ以上のトップ(先端)が見られる場合、それらは別途形成されたものと解釈する。
よく観察すると、あとから出来たトップはどちらかわかることが多い。
しかし、この標本の場合、二つのトップがほぼ同時に出来たように見えるのである。
それらが押し固められて、束になった状態。
いったいどうして、こんなことになってしまったのだろう。

ファーデンクォーツについて、調べてみた。
誰もが異なる意見を主張をしている。
専門家(?)の意見がこうも食い違うということは、実際のところよくわかっていないってことだろう。
クリスタルヒーリングで多用される、修復という推論は、こじつけの感がある。
かつて2つあったものが折れ、修復されただけなのであれば、日本式双晶のようなシンプルな形になるんじゃなかろうか(本文下の写真右)。
一部にはそうしたシンプルなファーデンクォーツも存在する。
ただし、先輩方のご意見をまとめると、その生成過程は、時と場合により異なるものと考えるのが妥当だろう。

では、このグリーンファーデンの場合はどうか。
一本の白く太い糸が、結晶の中央を貫ぬくからには、ファーデンクォーツだろう。
いっぽうで、フロータークォーツ(大雑把に説明すると、特殊環境で宙に浮かんだ状態で成長したために、上下がない水晶のこと)のようにも見える。
ただし、フロータークォーツが自由奔放に成長し、方向性が定まらないのとは異なり、この標本は左右対称である。
水晶の束は、中央の糸を境に同じ方向を向いて成長している(本文下の写真左)。
ふりかけのようにちりばめられた、緑のクローライトが謎を加速させる。
以下は、あくまで想像である。

このファーデンクォーツはきっと、始まったばかり。
実はこの先にはまだ、続きがあったのだ。
それを誰かが見つけて、持ち帰ってしまった。
中央を貫く太くまっすぐな糸が、この結晶をより複雑で神秘的な姿に導くはずだった。
ゆえに、このファーデンクォーツは、無限の可能性を秘めている。
私にはそう感じられてならないのである。





左は裏からみたところ。やや板状となった結晶の中心に、糸がみえる。右はマダガスカル産の日本式双晶。こちらも中央に「糸」がみえるが、その定義や生成過程は異なる。マダガスカルからファーデンクォーツが産するという話は聞かない。


40×38×12mm  16.48g

2012/05/21

ポリクロームジャスパー


ポリクロームジャスパー
Polychrome Jasper
Near Analalava, Tulear province, Madagascar



まるで砂漠に建つ城のよう。
2006年にマダガスカルで発見されたジャスパーの一種である。
多彩で変化に富む絵画のような模様は、塊状の原石を研磨することにより自然に現れたもの。
ポリクロームの名は、その幅広い色合いに因む。
その名の示すとおり、赤からイエロー、ブルーやパープルなど、あらゆる色がこの石に現れるのは非常に興味深い。
砂漠から産することから、デザートジャスパーとも呼ばれている。

ジャスパーは日本では人気がない。
国内の天然石の需要の多くはビーズ。
模様を楽しむには小さすぎる。
ゆえに、国内で流通しているジャスパーの多くは、中国で染色された岩石である。
ジャスパーの類いはすべて偽物だと割り切っている人々もいる(詳細はアゲートに記しました)。

欧米ではジャスパーの評価は高く、専門のコレクターもいるほど。
中でも研磨により風景の浮かぶジャスパーは、ランドスケープジャスパーとして、高額で取引されている。
しかしジャスパーに現れる風景を楽しむ日本人はごく一部。
多くは偽物扱いされ、二束三文の価値とみなされる。
例外はある。
マダガスカル産のオーシャンジャスパー、オーストラリアのムーカイトなど、ヒーリングストーンとして評価を受けたジャスパーの人気は高い。

このポリクロームジャスパーもヒーリングストーンとして注目されつつある。
それに伴い、国内での人気も上昇している。
なんでもこのポリクロームジャスパーを用いて瞑想すると、高次の世界へ導かれるのだとか。
癒しの石というのも、絵画療法に使えそうだからわかる気がする。
アセンションストーンという呼び方もある模様(参考:パワーで選んでしまった好例)。
ジャスパーに価値が与えられるのは大変嬉しいこと。
ただ、パワーだけで選ぶと二束三文のジャンクを掴むことになる(参考:日本人がいかに舐められているか実感できる好例2)。
できるなら、パワーと併せ、自然が作り出した美しい情景を楽しみたい。

イメージはバビロンの空中庭園かな。
砂漠を彷徨った旅人がようやく見つけた楽園。
バグダッドの遥か南。


55×12mm  50.95g

2012/05/18

ダイヤモンド



ダイヤモンド Diamond
産地不明



宝石の頂点、ダイヤモンド。
古代より人類を惹きつけてやまぬ石。
何千年が経ってもその価値は失われることなく輝く。

ダイヤモンドは贅沢品。
天然に存在する鉱物の中では最も硬度が高い。
4月の誕生石。
結婚指輪。
イメージとしてはそんな感じだろうか。
決して安いものではないが、驚くほど高いものではない。

鉱物としては炭素の一種。
一応のランクはあるが、店によってはテキトウな印象を受けることも少なくない。
透明感に乏しいダイヤモンドは数千円で入手できる。
ただ、資産価値がある石は1ctを超えるものに限られるそうだ。
資産として所有する場合、鑑定書が必要となる。
宝石については、鑑定料(意外に高額)込みであると思っていいかも。
いっぽう、ピンクダイヤなど、産地が限られ枯渇の危機に瀕しているものを探す場合は、非常に高い買い物になる。

宝石についてはまだ勉強中の身である。
宝石の世界は非常に難解。
専門の教育を受けた人間の活躍する場と聞いている。
鉱物標本としてのダイヤモンドは少なく、大半はカットされ宝飾業界に流れている。
ダイヤモンドの原石の多くは双晶を成しており、標本としての面白さや産地の確かさから信頼性は高いものの、カットすることでかえってランクが下がることが多いという。
複雑構造を持つ結晶からは小さな石しかカットできず、高い技術が必要だ。
カットされることでよりいっそう輝くのがダイヤモンド。
私が持っているのもすべてカット石。
長い歴史において、イミテーションが数多く存在したのも、呪われたダイヤが存在したのも、この石の美しさに人を狂わせる力があったためだろう。

※ダイヤモンドについての詳細をお調べの方、ご購入を検討中の方は、下記リンクをご参考にどうぞ。これより先はうさこふ個人のエピソードです。
http://usakoff.blogspot.com/2013/02/blog-post_6632.html

神戸宝飾展のお仕事をいただいた。
以前お世話になったスリランカの宝石商様の紹介だった。
宝石の世界を垣間見る絶好の機会である。
本当に嬉しかった。

私に仕事を下さったのは、VIPブースの出店者。
建前上、この展示会は特権階級の人間しか入れないということになっている。

VIP会場は、昨今のミネラルショーでは相手にされない中国人業者のビーズショップや、売れ残りの宝飾品を法外な値段で並べている店ばかり。
客層は東南アジア系が大半。
一人だけ白人女性を見かけたが、不機嫌そうな顔で足早に立ち去っていった。
あちこちで中国語が飛び交うさまは、ツーソンどころか国内のミネラルショーでさえ見たことのない光景だった。

私が知りたかったのはダイヤモンドやパライバトルマリンなど、資産価値のある宝石に関する知識。
加熱シトリンや放射能処理されたトパーズについて学びに来たのではない。
こうしたビジネスに関わり、人々を騙してジャンクを売りつける度胸は私には無い。
もちろん高級宝石は若い方には手が出ない価格帯だから、少しでも興味を持っていただけるかどうかは今後の宝石業界を左右する。
しかし、高齢社会を迎えるにあたって、眠っている宝石を発掘することができなければ、やがて没落を見ることになるだろう。

石をこよなく愛する誠実な宝石ディーラーさんから購入したダイヤモンド。
私の宝物。
確かに、大粒の素晴らしいダイヤモンドを販売している店はあった。
だけど、これを超えるダイヤを身につけている客を見ていない。
未だバブル気分の人々がいるのは知っていた。
お金がなくなれば哀れな抜け殻である。
重要なのは、後世に残るミュージアムピースを客に提供することではないか。
使い捨ての石を売るようでは、やがて客も離れていくだろう。

宝石は時に人を狂わせる。
歴史がそれを物語っている。
だからこそ誠実な販売が必要な時に来ていると思えてならない。

0.41ct

2012/05/16

ベリル(ピンクファイヤー)


サンベリル/ヘマタイト in ベリル
Beryl/w Hematite Inclusions
Gairo, Dodoma, Tanzania



ベリル(緑柱石)とは鉱物のグループ名。
濃厚な緑はエメラルド、淡いブルーやグリーンはアクアマリン、ピンクはモルガナイト、赤はビクスバイトと呼ばれ、宝石として親しまれている。
無色透明のベリルはゴシェナイトといい、コレクション用にカットされることが多い。
イエローについてはイエローベリル、ヘリオドールの二種類があり、発色の原因物質によって区別している。
いずれも透明石が好まれ、内包物はあまり歓迎されない。
成分にベリリウムを含むだけに、原子力の研究開発に消えたベリルも多かったろう。

クリアな淡いブルーグリーンのベリルにヘマタイトの入った珍しい標本。
ヘマタイトの混入によりオレンジのアベンチュレッセンス(輝き)を示す。
正式にはヘマタイト・イン・べリルだが、サンストーンに似ているせいか、サンベリル、サンストーンベリル、インクルージョンベリルなどと呼ばれ、流通している。
多くはイエローベリルにヘマタイトが内包された状態。

春のミネラルショーで見つけた、ブルーグリーンベースの興味深い標本。
アクアマリンともいえそうなクリアなブルーベリルに浮かぶピンクのフラッシュは、ピンクファイヤーの浮かぶサンストーンそっくり。
共通点は、結晶に内包されたヘマタイト由来のアベンチュレッセンス。
なんとなく勘づいた方もおられることと思う。
アイスブルーのベリルから飛び出すピンクのファイアは、ピンクファイヤークォーツの煌きそのもの。

昨年の冬の池袋ミネラルショーで、ピンクファイヤーの浮かぶサンストーンを偶然見つけた(→サンストーン/ピンクファイヤー)。
直後にこの石の存在を知った。
もしかしたらベリルにもピンクファイヤーの類いがあるんじゃないか。
そう思って購入したが、世の中はそう甘くない。
浮かぶのはオレンジの煌きばかり。
ペンライトをあててもピンクの閃光は確認できなかった。
ヘマタイトを含むベリルを取り扱うお店は少なく、ネット上で買うほかなかった。
不可抗力だった。
現物を見て選ぶチャンスのないまま、月日は過ぎていった。
出会いは例の如く、突然にやって来た。

先日開催された、春の大阪ショー。
私はペンライトとルーペを手に参戦していた。
完全にネタのつもりだった。
友人がたまたまカラーチェンジトルマリン(ウサンバラ効果を示すトルマリン)とおぼしき石を手にとった。
ツッコミ狙いですかさずペンライトを取り出したそのとき、どこかでピンクのファイヤーが炎を上げたのである。

サンベリルだった。
私が以前ネットで見かけて購入したお店だった(注:ウサンバラもこのお店で購入したのですぐわかった)。
長年お世話になっている店長さんとお話する機会までいただいた。
あの店長さんでさえ気づかなかったとのこと。
ただ、ピンクのファイアが浮かぶサンベリルはこれひとつ。
他はすべてオレンジ。
タンザニア産のサンストーンにそっくりなのもひっかかる。
その区別の根拠として、素人の私には表記名と詳細な産地の違い、としか答えられぬ。

写真は屋外の自然光にて撮影した。
ピンクファイヤークォーツがあるならば、ピンクファイヤーサンストーンもあるからして、ピンクファイヤーベリルも有り得る。
か、どうかはわからない。
そんな単純なものではないとわかっている。
しかしながら、このベリルを知ったとき、ピンクファイヤークォーツの中身の正体はまだ謎であった。
私がなぜこれに目をつけたのか、それは素人だから。
実際に存在した。
ヘマタイトのインクルージョンならば、つじつまが合う。

水色だから、いっそアクアマリンと呼んでしまうのもいいかもしれない。
ピンクファイヤー・アクアマリン。
アクアマリンは、結婚指輪に好んで用いられる鉱物。
指輪からピンクのファイアが浮かぶなんて、粋な演出じゃないか。
アクアマリンから飛び出す愛の炎は、宇宙のふしぎに起因している。




※無事にPCが戻ってきました。詳細は前回の記事に追記してあります。なお、サンベリルとタンザニア産オリゴクレースとの類似については、引き続き調べていきたいと思います。お譲りいただいたのは長年お世話になっている信頼の置ける業者様であること、また今回に限っては、いわば顔のみえる買い物であったことから、ベリルであるとの判断のもと、記しました。新しい事実がわかれば追記します。


22×20×9mm  4.36g

2012/05/11

【ご報告】更新について

昨日、旅を終え帰宅しました。
うっかりしており、最終日にパソコンを東京にて紛失しました。
現在、データや写真等が手元になく、更新ができない状態です。
そこで、ささやかではありますが旅の報告をさせていただこうと思いました。

パソコンは無事に見つかりましたが、ブログを更新できるのは最短で来週、万一破損していた場合は休止となります。
大変申し訳ありません。

動画は鉱物とは直接関係のない内容です。
被災地の一年後を、公共交通機関と徒歩とデジカメのみで記録した、素人の撮影になります。
テレビをほとんど見ないので、撮影中まるで無人島から来た人のようですが、私です。
お見苦しい点お許しいただけましたら幸いです。




After the Earthquake



One year after the great Earthquake in Japan.

-Yamamoto Town, Miyagi prefecture, Tohoku
-Haranomachi Station, Fukushima prefecture, Tohoku
-Minami Soma City, Fukushima prefecture, Tohoku

To every thing there is a season,
and a time to every purpose under the heaven.
My personal view of human nature is;

http://youtu.be/r6-IddJEjXk





宮城県及び福島県住民の皆様、JR関係者様、ご通行中の皆様
またこのような私の旅を支えてくださったうちゅうのおともだち(※注)に心より感謝申し上げます。


【後日談】

パソコンは無事に戻ってきました。
この悪運の強さに頼らずに強く生きられるようになりたいと願わずにいられません。
どうかこれからもよろしくお願いします。
ささやかですが更新しました。

2012/05/08

ブルークンツァイト


ブルー クンツァイト
Spodumene var. Blue Kunzite
Paprok, Kamdesh, Nuristan Province, Afghanistan



クンツ博士が最初に発見したカリフォルニア・アイリスを覚えておられる方はおられるだろうか。
もともとクンツァイトは、クンツ博士が副顧問を務めた米・ティファニー社から世界に紹介された鉱物。
パワーストーンとして絶大な人気を誇るこのライラックピンクの宝石は、将来を約束された輝ける存在だった。
残念ながら、良質のクンツァイトの産出は減るいっぽう。
多くは放射線処理を施され、お馴染みのライラックピンクの色合いに改良されているという。
産出の激減に伴い、その出処はカリフォルニアからブラジル、ブラジルからアフガニスタンへと移行している。

より見事な研磨品を、心ある方からお譲りいただいた。
感謝の気持ちを込め、新しくわかったことなども含めて、改めて紹介させていただこうと思う。
この石を譲ってくださったパキスタン人ディーラーには大変お世話になった。
彼らの置かれている状況を考慮し、ご迷惑にならぬよう心掛けたい。

まずは前回記したクンツァイトの概要から。
鉱物としてはスポデューメン(リチア輝石)の一種になる。
名称は色合いにより異なっている。
発見年代順に並べると以下のようになる。

スポデューメン Spodumen ー 無色または白 1800年/スウェーデン
トリフェーン Triphane ー イエロー 1877年/ブラジル
ヒデナイト Hiddenite ー グリーン 1879年/ノースカロライナ州
クンツァイト Kunzite ー ピンク~バイオレット 1902年/カリフォルニア州

ブルークンツァイトが登場したのはごく最近。
それまではヒデナイトとして扱われていたようで、正式な名前はなかった。
いつどこで誰が目をつけたのかわからないが、2009年頃からブルークンツァイトの名で頻繁に見かけるようになった。
本来ならブルー・スポデューメンと呼ぶべきところ。
その呼び名について問題視する声はあったが、新しい呼称が確定することなく、ブルークンツァイトの名で定着している。
確かに、新しく名前がつくとややこしい。
上記のように、クンツァイトの発見は1902年と最も新しい。
しかし、知名度、人気ともにずば抜けて高い。
ブレスなどの販売にあたっては、誰もがわかるようクンツァイトの呼称を用いる。
スポデューメンはホワイト・クンツァイト、トリフェーンはイエロー・クンツァイトといった具合に、クンツァイトの変種として扱われているのが現状。
宝石の場合は正式な名称での販売が一般的だが、いずれ何らかの動きはあるかも。

流通名を、最も親しまれているクンツァイトで統一したのは、賢明な判断であったかもしれない。
以前も記したが、この石には多色性という性質がある。
同じ石でも角度によって色が変わって見えることがあり、その色変化の幅が大きい場合は混乱の原因となる(例:バイカラークンツァイト)。
クンツァイトの名をピンク・スポデューメンに変更するのは事実上不可能。

ここ数年、よく見かけるようになった青いスポデューメン。
当初はルース/カット石として、ごくたまに見かける程度だった。
鉱物に再び関わるようになって、ブルークンツァイトが以前よりもずっと身近なものとなっていることを知る。
池袋ショーでは、巨大な水色の結晶を、自慢げに披露してくださるベテラン収集家の男性も。
もはやヒデナイトではなくなった。
ブルークンツァイトは業界を超えて注目され、高い評価を得ている。
以前から産出があったのか、アフガニスタンから特に産出が目立つのか、それとも改良技術が格段に進歩したためなのか。

写真の研磨品は、どこから見てもブルーそのもの。
お世話になっているパキスタン人ディーラーが、奥からわざわざ出してきてくださったもの。
クラックはあるものの、クンツァイトに特有の条線(チューブ状インクルージョン)のみられないクリアな結晶。
宝石質にしてこの大きさ。
直射日光下での撮影にも関わらず、色濃いブルーのままである。
こんなもの、見たことが無い。
一瞬処理を疑ったが、これを譲ってくださった方を私は知っている。
良心価格で譲っていただいたことを今でも申し訳なく思うほど、お世話になっている。

以前ご紹介したのは、ほんのりブルーなスポデューメン。
特定の角度から見るとブルーをおびて見える程度だった。
また、不透明なブルークンツァイトのビーズについては、アクアマリンもしくはアクアマリンカラーの何かであろう。
クンツァイトの処理の如何については、現段階では判定できないそうである。
この石の発色の原因が、マンガンやクロムといった着色成分だけではないためで、それゆえに退色が起きるということらしい。
ビーズなど格安で入手できるクンツァイトは、特別な理由がない限り、処理石だという。
このブルークンツァイトについても、一瞬処理を疑ったが、今のところ色合いに変化は無い。
譲ってくださったのは信頼のおける数少ないパキスタン人ディーラー。
のどかにみえて実はシリアスなパキスタンの鉱物業界。
ルートや間に入る人間は限られている。
狭い世界だから苦労も多いことだろう。

私がこれを手に取った瞬間、彼の表情が青ざめたのは、奥様には内緒である。
まさにブルークンツァイト。
先日のミネラルショーではお会いできなかった。
いつか、謝りにいこう。


※2011年6月13日付けでアップした記事に加筆、訂正し、画像を入れ替えて再度アップしたものです。産地も確認の上、訂正しました。信憑性のある産地の一つですが、確証するものではありません。
なお、近年マダガスカルからの産出が急増しているという記事を見かけました。流通はあるようですが、加工品が中心です。品質は両極端、色合いの不自然さも気になるところです(中国産の白~灰色のスポデューメン同様、工業用に採掘された原石の一部を処理したものかも)。国内で原石標本として流通しているのを見たことが無いため、詳細はわかりません。現時点ではアフガニスタン産、ブラジル産の流通がメインであると考えられます。
また、オーストラリア産のマットな質感のクンツァイトがHEAVEN&EARTH社から発売され人気を博しましたが、こちらも宝石、原石標本としては一般的ではないようです。


58×34×5mm  20.1g

今週、話題性が確認された10の鉱物

What Mineral Would You Take with You to A Deserted Island?