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2012/02/12

ラリマー


ラリマー Larimer
Barahona, Dominican Republic



ドミニカ共和国から産出する、カリブ海の青い宝石、ラリマー。
ラリマー(ラリマール)とは現地での呼び名で、正式にはブルー・ペクトライトという。
「三大ヒーリングストーン」の一つとして、スギライト、チャロアイトとともに人気を博した。
中でも美しいスカイブルーのラリマーは、愛と平和、人と自然との調和を象徴するパワーストーンとして、誰もが憧れた人気商品だった。
先日、大阪市N成区のスラム街にある違法露店でラリマーのブレスを見ていたら、店主から「それは世界三大ヒーリングストーンだ」と声を掛けられた。
我に返った。
そういえば最近聞かない。
スギライトはその存在すら危ういし、残りの二つは枯渇寸前。
かつての謳い文句も、それらが幻とわかった今、死語になりつつあるのかもしれない。

写真のラリマーは、荷物を整理していたら偶然出てきたもの。
発送のために梱包して段ボールに仕舞ってあった。
こげ茶色の母岩の中に柔らかな質感のラリマーが詰め込まれているさまは、巨大なキウイを思わせる。
スライスした研磨品は今も流通があるが、こうした未研磨(割ってはあるかも)の原石は滅多に見かけなくなった(スライスについては本文下に写真を掲載、二つで約五百円。この状態では、私には本物か偽物かは判別できない)。

ペクトライトは世界各地から発見されているが、独特の濃淡を伴うスカイブルーのペクトライトは、ドミニカ共和国産のみ。
もともと希少性が高かったこと、また近年世界的に注目を集めたために、産出は激減。
発見から30年余りで枯渇の危機に晒されることとなった。
採掘現場はより危険な場所へと移っている。
噂では現場はもはや崖、らしい。
事実かどうかはわからぬが、転落事故による死者が相次いでいるといわれている。
人間と自然との調和を表す石、のはずだった。
最近では霊能力者がラリマーを見て「呪われている!」と大騒ぎすることも珍しくないという。

産出の激減とともに、価格は上昇を続けている。
ラリマーのブレスの販売価格は、概ね十万を越えている。
天然石の加工に関しては世界一の技術を誇る中国での需要の急増にも原因があるという。
また、質も低下している。
黒や赤など不純物の混在した原石、色味の無い原石は製品にならないため、改良される。

なお、新型(※偽物ではない)のラリマーがブレスになって登場している。
色は美しいスカイブルー。
しかし、不自然な水玉模様が均等に入っており、中まで透けて見える。
「質を落とした廉価版」との説明だったが、どうも充填処理(色合いや形を整えるために他の物質で補強するなどして、作り変えること)を施されているよう。
本来ラリマーは不透明で、海中から見上げた青空のような、変化に富む模様を楽しむものだった。
廉価版といっても決して安いわけではない。
池袋ショーで並んでいたそれよりも、雑貨店で選んだプラスティックのアクセのほうがモノとして自然に感じるのは、私だけだろうか。

アイスラリマーと呼ばれている模様。人工石、処理石の如何を明らかにせず、ばらまかれている状態とみられる。また、ブルーアラゴナイトが極めてラリマーににており、原石であっても見分けがつかないことには、十分注意したい。業者側の見極めと、良心にかかっているといえるだろう。

ペクトライトでない他の岩石が染色され、ラリマーとして流通しているという話は有名だが、加工技術のほうも飛躍的に向上している。
リスクの高い買い物になることは覚悟しておいたほうがいいかも。
できればビーズではなく原石をおすすめしたいけれど、こちらも質は落ちている。
発送しなかったのはわざと。
久しぶりに再会し、神妙な気分になった。




52×45×31mm  74.08g

2012/02/01

ダイアナイト


ダイアナイト
Dianite/Potassic Richterite

Murunskii Massif, Sakha Republic, Eastern-Siberian Region, Russia



ロシア・サハ共和国から産出するブルージェイド。
シベリアンブルージェイドとも呼ばれている。
その存在が知られ始めた矢先、死去が伝えられたダイアナ元皇太子妃を偲んで、ダイアナイトの名を与えられた。
その美しいブルーの色合いが、青を好んだ彼女をイメージさせるからともいわれている。
鉱物としては、リヒター閃石を主成分とするネフライト・ジェイドの一種で、主に研磨され流通している。
原石の質にはばらつきがある。
こうした深みのあるロイヤル・ブルーの石は稀で、全体的に淡い水色であることが多い。

私がダイアナイトを知ったのはいつだったか。
海外では比較的流通があったが、国内では見かけなかった。
ところが最近になって、日本においてこの石の人気が急上昇しているらしい。
入手困難との声も聞かれる。
この状況には、どうも納得しかねるものがある。
以前ある方がダイアナ元皇太子妃について独特の視点で言及しておられたので、私もここでダイアナイトについて私なりにまとめてみようと思う。

彼女はなぜ石の名となったのだろう。
ダイアナ・スペンサー、ダイアナ元皇太子妃。
彼女は生前多くの問題を抱えた人物だった。
つまり、その人柄を偲ばれるのは当然だが、石の名前になるほどに幸福な人物であったかということ。
誤解を恐れずに言うなら、マイケル・ジャクソンもまた同じ。
二人は生前、スキャンダラスな私生活を取り沙汰され、ともすれば奇行を繰り返す、倫理を犯すなどといった、心無い評価を受けた。
故人を想う気持ちが募り、すべてが美化される。
その扱いのあまりの違いに違和感を覚えることは過去に幾度もあった。
私がダイアナイトに複雑な気持ちを抱くのは、ダイアナ妃についてもまた、そうした違和感を感じずにはいられなかったからだ。

名門・スペンサー家に生まれたダイアナは家庭環境に恵まれず、6歳で両親の離婚を経験している。
20歳でチャールズ皇太子と結婚し、イギリス王室に入るものの、結婚生活は思うようにいかなかった。
人一倍愛を求めていた彼女にとって、過酷としかいえない状況が続いた。
お互いに不倫に走った結果、二人は1996年に離婚という結末を迎えた。
その間、彼女は摂食障害に悩まされ、自殺未遂を繰り返したとされている。
離婚後、ダイアナ妃が熱心に慈善活動に関わったのは有名なエピソードであるが、愛に飢えた満たされないその心が彼女の原動力となっていたという説には共感せざるを得ない。
ダイアナ妃の生涯に、男性の噂が絶えなかったこと、それらは公人として許されるとはいえない内容であったこと、葛藤と苦しみ、自傷行為、そしてプライバシーのない生活。
心身ともに追い詰められた末に起きた事故。

彼女は幸せだったろうか。
彼女の心は常に安らぎに満ち、輝いていたといえるだろうか。
彼女の愛と苦難に満ちた波乱の人生を、この石をもって称えることは、彼女への哀悼の念にふさわしい。
しかしそのいっぽうで、彼女の抱えていた心の闇をも美化するのは、ややもすれば残酷なことと思えてならないのである。

1997年、わずか36歳でこの世を去ったダイアナ元皇太子妃。
世界中の人々が、彼女の死を悼み、冥福を祈った。

-We'll always love you Princess Diana, we'll never forget you.

『私たちはあなたのことを、忘れないだろう。あなたの深い愛は我々の心の中で永遠となった。あなたは輝ける星となり、我々を照らし続ける。』(世界の声より)


22×11×5mm  16.55ct

2012/01/26

エレスチャル(オレンジリバー)


エレスチャルクォーツ
Elestial/Skeletal Quartz
Orange River, Northern Cape, South Africa



長い時間をかけて成長したために、内部から表面に至るまで、複雑な構造を示す水晶。
エレスチャルクォーツ、スケルタルクォーツなどと呼ばれている。
幾層もの結晶が折り重なり、光を反射して輝く。
標本の一部が白くみえるのは、粘土鉱物を取り込んだ状態で結晶しているため。
まるで迷路をのぞきこむかのような気分である。

世界の至る所から、個性豊かなエレスチャルクォーツが見つかっている。
形状や色合いから、おおよその産地は推測できる。
有名なのはブラジル産だろう。
さまざまなエレスチャルが産出しており、中にはゴツゴツとした形状のジャカレーや、ヒーリングストーンとして名高いスーパーセブンなども。
他に無色透明のメキシコ産、セプター寄りの形状と内包物のみられるマダガスカル産、濃厚なスモーキーアメジストが味わえるナミビア・ブランドバーグ産、通好みのアルプス産、鮮やかなアメジスト・カラーが神秘的なインド産、近年流通し始めたパキスタン産など。
ニューヨークのハーキマーダイヤモンド及びハーキマータイプ水晶、オーストラリアのモララクォーツなどもこれに分類されていることがある。
どこまでがエレスチャルかを定義するのは難しい。
現在はランダムな結晶構造を持つ水晶を総じてエレスチャル、もしくはエレスチャル風と表現している。

こちらは南アフリカとナミビアの境界を流れるオレンジリバー流域から届けられたエレスチャル。
パキスタン産に似ているが、より大きく、より豪快。
繊細なガラスに喩えられることの多い水晶。
このエレスチャルはガラスどころではなく、プラスティックのように頑丈かつ半端ない透明感を漂わせておる。
濃厚なスモーキーのふちどりもまた、この水晶の個性を引き立てている。

アフリカまで行って採ってきたという、国籍不明のオッサン(どことなくカナダ風のハンター風?)から、数年前にいくつか購入した。
オッサンは確かコレしか売っていなかった。
後にも先にも同じようなエレスチャルには出会っていない。
写真ではポイントのように見えるのだけれど、途中でグネっと曲がっていて、先端も水晶とは言い難い不思議な姿をしている。

何億年もかけて結晶し、太古の叡智を宿すとされるエレスチャルクォーツ。
天使の祝福を受けたヒーリングストーンとして話題になり、いっときは誰もが買い求めた人気商品だった。
しかし、徐々に質は落ち、白濁した内部さえ見えない粗悪な原石が蔓延する。
エレスチャルということばが一人歩きを始める。
人気は蝕像水晶に移行していく。
パキスタン・ワジリスタン産の登場で、再び注目を集めつつあるエレスチャル。
比較的大きさがあり、透明感にあふれ、内包物によって時にゴールドに輝き、かつこれまでにない激安特価を叩きだした恐るべき救世主である。

正月に実家で見つけた、思い出の一品。
焼き魚のような香ばしさ。
世界に一つだけの、個性豊かな世界を楽しみたい。




75×37×35mm  77.95g

2012/01/17

エイラットストーン


エイラットストーン
Eilat Stone
Eilat, Be'er Sheva, Israel



石は、霊的交流のしるしである。このような神の石、行動を表す石、示現や信仰の場所の部類は、容易に偶像崇拝の対象になっていた。そこで、モーセの命令でこれらは破壊されねばならなかった。( Lev. 26,1 ; Num. 33,52 )

イスラエルの青い涙、エイラットストーン。
ソロモン王が愛した石として、キングソロモンストーンとも呼ばれている。
銅の二次鉱物から成る混合鉱物で、クリソコラ、ターコイズ、マラカイト、テノライトなどから成り、アースカラー(ブルーグリーンの色合い)が強いほど高品質とされる。
イスラエルのナショナルストーン(注2)としてご存知の方も多いかもしれない。
紀元前から神聖視され、旧約聖書にも登場する歴史ある石である。

著名なクリスタルヒーラー、メロディ氏やジュディ・ホール氏が著書で取り上げたため、英米で盛り上がり、その後日本にも飛び火した。
ヒーラーには欠かせない石、超能力をもたらし、あらゆる問題を解決する奇跡の石として、高い人気がある。
ただし、イスラエル政府が輸出を制限しているため、入手は極めて困難。
そのため、コンゴやメキシコのクリソコーラ、マラカイトやターコイズなど外観の似た天然石をエイラットストーンと紹介していることが多い(注1:本文下に詳細及び参考写真を掲載)。
エイラットの土地の名を冠した由緒ある石だから、産地は問わないものとする売り方には違和感を覚える。

私がこのエイラットストーンを知ったのはいつだったか。
日本での流通はまだ無かった。
しかしながら日本からのオファーがイスラエルに殺到し、価格は跳ね上がり、ユダヤの民が富を得るのはもはや時間の問題と思われた。
写真のエイラットストーンは、先手を打って(?)現地の骨董商に連絡をとり、入手したもの。
イスラエルの民芸品として、エイラットストーンを入手しておきたいと思った。
使いみちがわからないのでお守りにしている。

写真のイスラエルからの民芸品と、欧米のヒーラーの間で数年前から流れているグレーの入った研磨品(注1)、恩師でもある鉱物店の社長さんがイスラエルの鉱山まで視察に行かれ、仕入れたという原石。
以上の3種類が、私の手持ちのエイラットストーンである。
この中で最も信頼性のあるのは、社長から直接譲っていただいた原石だが、衝撃的に地味だった。
「粉砕した白のチョーク10グラムに、ターコイズ粉末をひとつまみ入れてよくかき混ぜ、天日干しで固めた」ような感じ。
店頭に並ぶ箱詰めの段階でそれを知り、ひたすら選ばせてもらったにも関わらず、いわゆるアースカラーの石はひとつもなかった。
社長の話では、鉱山にはかすかに青緑をおびた岩と、その欠片が残るのみであったという。
樹脂加工しても色味が改善されるかどうかは微妙。
つまり、事実上絶産している。
消滅の危機に瀕しているナショナルストーンに、政府が規制をかけるのは当然のこと。

それから数年が経つにも関わらず、エイラットストーンが今なお絶賛販売中なのは如何なる現象か。
イスラエル産ではない旨、明記しているところもある。
しかし「イスラエルの鉱山で採掘を行う関係者から入手したもの」と明記している販売店を、かなりの頻度で見かける。
イスラエルに、積極的に国外へ輸出している奴らがおる…

参考:エイラットストーンの輸出販売
http://www.stoneageminerals.com/

真偽については触れないが、私はこの業者から仕入れる気にはなれぬ。
なぜなら「その他」の品揃えがヤバすぎる。

ユダヤの民はビジネスに熱心、かつぬかりない。
政府に目をつけられるようなことは裏でやる。
どうしても本物の、美しいエイラットストーンを手に入れたいなら、直接イスラエルまで行くことだ。
難しいなら、ブラックマーケットを通す覚悟で臨まれるべき。
そのような行為に、奇跡がもたらされるかどうかは抜きにして。

もうずいぶん前、イスラエル人コミュニティで過ごし、その質素な生活に驚かされた。
彼らの厳しさ、結束の固さ、そして残酷さも感じた。
アジアを旅しているラエリは平和的な人が多いけど、現実を生きている人にそれが当てはまるとは限らない。
私はこれからも、行方不明になったリオを探し続けるのだろう。

このエイラットストーンはおそらく本物では。かなり早い段階でお持ちだった様子。
はて、「イスラエルの青い涙」とは。





注1)写真左はコンゴ産のクリソコラ、マラカイト、テノライトの混合石。チーターストーンと呼ばれ、グリーンも存在するとのこと。写真右は、現在も入手可能な「エイラットストーン」。似た色合いの石はメキシコをはじめ、アフガニスタンや中国、台湾などからも産出する。

注2)イスラエルは誕生石の起源となる重要な土地でもあるが、Wikipediaの国家の石一覧にエイラットストーンの掲載は無い。またロシアはアレキサンドライト、中国はアンデシンのほうが有名。すべて絶産した模様。


30×5mm  3.81g

2012/01/15

レイクカウンティダイヤモンド


レイクカウンティダイヤモンド
Lake County Diamonds
Mt. Konocti area, Lake County, California, USA



カリフォルニア州レイクカウンティから産出する火山性シリカ。
いわば天然ガラスだが、その輝きからダイヤモンドの名を与えられた。
遥か昔、先住民族の長に恋をした月が、叶わぬ願いと知って流した涙が石になったもの、という伝説があることから、"Moon Tears"(月の涙)とも呼ばれているという。
地名の通り、現地は美しい湖と豊かな自然に恵まれたリゾート地。
この石が発見される火山地帯は、現地に暮らす先住民族の聖地でもある。
北米で最も古い湖とされるクリアレイクに連なるこの山を、移民たちはアンクルサムの山と呼んだそうだ。

きっかけは、あるアメリカ人ヒーラーとの出会い。
レイクカウンティダイヤモンドはアゼツライトより凄いと仰る。
従って、ヒーリングストーンとして紹介した。
当時のお客さんから「波動が凄くて驚いた」と感想をいただいたのが、印象的だった。

私がレイクカウンティダイヤモンドに出会った頃、これを持っている日本人収集家は皆無に近かったんじゃないだろうか。
なぜなら私は間違えた。
「レイクカントリーダイヤモンド」と紹介したのである(カウンティは「~郡」の意味)。
しばらく経って、自分と同じ間違いを起こしている業者さんが現れた。
他に紹介している日本人を見たのは初めてだったので、驚いた。
この石がヒーリングストーンとして注目されつつあった頃なので、おそらく偶然だと思うが、調子に乗って周囲に自慢していた記憶がある。

アメリカでは収集家には知られた存在のようで、量り売りが一般的。
写真はそのごく一部である。
土が付着しているが、透明感に富む美しい欠片。
稀に紫の色合いを示すこともある。
カットされ、宝石としても流通している。
鉱物としては天然ガラスに過ぎず、またカットに適した大粒の石は少ないことから、市場に流通するには無理があると思うのだが、それらしきものも販売されている。
価格は100ドルを超える。
手出ししないほうが無難かも。

現在は、この石を国内で見かけることも珍しくなくなった。
お持ちの方も多いことと思う。
まだ誰も知らない宝物。
私の中ではそういうことになっている。
レイクカウンティダイヤモンドは、これを見つけたときの興奮を私に思い出させてくれる。
ダイヤモンドより永遠…かもしれない。


16×9×8mm(最大) 4.93g

2012/01/12

星入り水晶


星入り水晶
Hollandite in Quartz
Fianaratsoa, Anketsaketsa, Madagascar



ホランダイト(ホランド鉱)のインクルージョンが放射状に広がり、まるで星のように見える水晶。
キャンドルクォーツに似たミルキーカラーを呈し、丸みを帯びたポイント状で発見されることが多い。
ホランダイト・イン・クォーツ、またその外観から星入り水晶、スパイダークォーツなどと呼ばれ、ビーズや装飾品になるほどの人気を誇った。
しかしながらその後新しく発見されることはなく、絶産したという。

アフリカ沖、西インド洋に浮かぶマダガスカル(とその周辺諸島)。
1億6千年前に島として孤立したため、珍しいいきものが生息し、貴重な食材が産出する。
鉱物の宝庫でもある。
ユニークかつ高品質な各種水晶のほか、セレスタイト、ラブラドライトなどが近年大ヒットを記録、マダガスカルはその産地として瞬く間に知名度を上げた。
セプタリアンなどの化石類、ペツォッタイトなど稀産鉱物の数々も報告されている。
まさに宝の島である。
世界最貧国に類されるマダガスカルでは、鉱物は専ら輸出用に採掘されており、多くは中国に持ち込まれて加工されている。

スーパーセブンの全盛期、インクルージョン入り水晶はちょっとしたブームになっていた。
星入り水晶もその一つだった。
希望の星、幸運の星。
写真の石は研磨されていないため、はっきりと星が確認できるのは一箇所のみだが、ちょこんと自立するカワイイ一品(多くはたくさんの星が観察できるよう研磨されている)。
ホランダイトの塊もみえる。

かつては300円程度でたくさん売られていたから、気に入って何回か購入した。
先日実家にてたまたま見つけたのがこれ。
売り物用のダンボールに無造作に入っていた。
最近見かけないと思ったら、もう出ていないのか。
貴重品になるなど思いもしなかったから、大切に扱うことをしなかった。
誰にも気づかれることなく、この星は消えていたのだ。

どうも最近中国から、これによく似た水晶が発見された様子。
パイロクシン、トルマリンなどの鉱物が透明水晶に入り込み、放射状に広がっている。
その姿はまるで、ダークグリーンの蜘蛛のよう。
クリアな水晶に内包されているため、今にも動き出しそうな臨場感がある。
原石は見かけていないが、産地がモンゴルの辺りなので、大半は加工に回されているものと考えられる。

奇妙なことに、この緑色の蜘蛛の入った水晶のブレスが、「マダガスカル産・ホランダイトクォーツ!(星入り水晶/スタークォーツ)」として販売されている。
どう考えても蜘蛛である。
私は蜘蛛が苦手であるからして、たくさん並んでいるのを見るのは恐怖である。
また、明らかに中国産であり、ホランダイトは入っていないと思われるため、ここで注意を喚起しておきたい。

おお怖い。
夜中にトイレに行けない。


20×14×13mm  4.71g

2012/01/07

シヴァリンガム


シヴァリンガム Shiva Lingam
Narmada River, Mandhata, Madhya Pradesh, India



インド・ナルマダ川から採取されるという、シヴァ神の化身、シヴァリンガム。
隕石由来の物質であるとか、このままの形で川底から発見されるなどのミステリアスな噂は人々を仰天させた。
しかし、実際はジャスパーの一種で、ナルマダ川から得た原石を現地の人が加工しているということらしい。
私が石に興味を持ったとき、すでにシヴァリンガムは人気商品として定着しつつあった。
アクセサリーにして楽しんだり、ヒーリングツールとして用いる方も多いと聞く。
その人気は衰えるどころか、高まる一方のよう。

初めて見たとき笑ってしまったのは私だけだろうか。
神聖なものだけに申し訳ないが、罰ゲームにもってこいじゃないか。
これで瞑想するのはある意味大変だと思った。
どうしてこれほどに需要があるのか、長い間不思議でたまらなかった。

シヴァリンガムの「シヴァ」はインドのシヴァ神、「リンガム(リンガ)」はサンスクリット語で男性器を意味する。
シヴァリンガムとはつまり、見たまんま。
男性の象徴である。
あくまで信仰の対象で、それ以上の意味はないものと捉えてほしい。
ただし、子宝に恵まれる、村を守るといわれるくらいだから、性的な意味合いもまた含んでいる。
よって、日本では男子は18歳、女子は16歳まで手にしてはならぬ。
立てて置くなどもってのほか。

と、ずっと思っているのだけれど、今ネットでみた感じだと、かなり都合の良い解釈をされ、多岐にわたるご利益を期待されているようである(それもだいたいコピペ)。
聖なるシヴァリンガムの誤用を防ぐため、今一度注意を喚起したい。

インドは広い。
イスラム教徒や仏教徒、キリスト教徒、シーク教徒など、さまざまな信仰を持つ人々が暮らしている。
ヒンドゥ教においても派閥があるらしいから、すべての人がシヴァを信仰しているわけではない。
シヴァリンガムの意味を知らないインド人も多いと考えるのが妥当だろう。
寺院に性器を象った「リンガ」が安置されているという話は聞いている。
男性器と女性器を組み合わせた衝撃的なご本尊様である。
写真では見たことがあるし、それを見た人の話も聞いている。
インドでは私も実際に見ようと出かけたのだけれど、寺院にはあまりにも人が多すぎた。
すぐに引き返した。
ヒンドゥ教徒ではない自分がウロウロしていては、礼拝に来る人々の邪魔になる。

シヴァは破壊と再生の神。
インドの人々は、一族の幸せと繁栄のため、リンガムに祈りを捧げるのだろう。
日本人の考える宗教とは異なり、試練や精進という感覚なのかもしれない。
性に関してはむしろ、日本よりも厳格な印象を受ける。
インドでは大半をインド人と過ごしていたが、信仰の領域にこちらから踏み込むことはしなかった。
リゾート地、動物園や博物館、或いは観光地としての聖地を堪能し、たまにコミューンをのぞいたりもした。
あくまで日本人としての立場を貫きたかった。

写真は2009年の米・ツーソンショーで、かなりのスペースを利用して、シヴァリンガムが販売されている衝撃の現場を撮影したもの。
大小さまざまなシヴァリンガムが所狭しと並んでいる。
ちなみに「大」は数メートルある。
こんなものが川から拾えるなどと言い出したのは、どこの誰であろう。
もはや、信仰の対象というより、世界規模のビジネスである。
外国人はインドに神秘を求め、インド人はそれに応える。

シヴァリンガムはいくつか手元にある。
あえてこの写真にしたのは、シヴァリンガムが世界規模で商業ラインに乗っている事実を見てほしかったから。
確かヒンドゥ教徒は売り場にいなかったし、宣伝もしていなかった。

寺院に安置されているシヴァリンガムと、世界的に流通しているシヴァリンガムの外観が異なるのはなぜだろう。
シヴァリンガムが、現地の人々の間で用いられているのは間違いないと思う。
ただ、私たちがシヴァリンガムを見る感覚とは、視点が異なるのではないだろうか。
少なくとも、これを持ち歩いているインド人を私はまだ見たことがない。
さすがにインドの方には聞けないので、調べてみた。
用途について書かれたと思われる記事を見つけたので、あくまで参考としてみていただけたらと思う。
罰ゲームにだけは使わないように。
シヴァリンガムは、神聖です。


【注意】

インドの文化や信仰に関してわかりやすく述べられており、危険な内容とは感じません。
宗教に抵抗のある方、シヴァリンガムに霊的な用途のみを求められる方はお読みにならないほうがいいと思います。
また、性的表現が含まれますので、その旨ご注意ください。


(参考)シヴァリンガムとその信仰について
http://www.bhagavati.de/site06aj.htm

(参考)シヴァリンガムの用途
http://web.kyoto-inet.or.jp/people/tiakio/antiGM/lingam.html


※この石が18禁的な意味合いを持たないというのは確かなようです。ナルマダ川にあるすべての石をシヴァリンガムと呼ぶということならば、いくつかの疑問が生じます。極端な例をあげると、中国産の水晶がシヴァリンガムになり得るのか、など。
シヴァ神は無知の破壊者というくだりは非常に興味深いものです。


10~60mm程度、数点

2011/12/28

レインボーオブシディアン


レインボーオブシディアン
Rainbow Obsidian
Guadalajara, Jalisco, México



オブシディアン(黒耀石)は溶岩が冷え固まって出来た天然ガラス。
メキシコや米・アリゾナ州が世界的に有名な産地である。
その土地柄、先住民族/インディアンに珍重された歴史があり、出土品も流通している。
メキシコの先住民族の間では、"神々の贈り物" とされ、矢じりや装飾品、魔術の道具などとして用いられてきたそうだ。
そんなオブシディアンの中で、光の下で虹色のシラー(光彩)が浮かび上がるものを、特にレインボーオブシディアンと呼んでいる。
はっきりとレインボーが浮かぶ石は意外に珍しい。
このシラーはアンフィボール(角閃石)のインクルージョンに因るものとされている。

現地では民芸品として、ハートフラワー、スターなどのモチーフに加工されているほか、タンブルとしても流通している。
大きな塊状の原石を切り出してレインボーの状態を確認の上、熟練した職人によって彫刻を施され、レインボーのシラーが生きるよう工夫されている。
日本で流通しているのは主にビーズであるが、ごく淡い虹が浮かぶならまだ良いほうで、シラーの出ない黒耀石をレインボーオブシディアンとして販売しているところもある。
メキシコからの民芸品を見て、これが本来のレインボーオブシディアンかと驚かれる方もおられる。

気に入って幾度も紹介させていただいた、思い出の石。
自己破壊や自己攻撃を和らげて、自らを保つ力があるとして、海外では薬物中毒やアルコール依存症、摂食障害の治療に使われることもあるという。
すべての物事をありのままに受け止める眼を養うともいわれている。
鑑賞石として愛される一方、クリスタルヒーリングの世界でも人気は高い。
そのレインボーの光彩は、たとえ一瞬の出会いに過ぎずとも、まるで虹のごとく、逆境を乗り越える祝福の光となって人々に降り注ぐのであろう。

暗闇を歩く人を照らす光。
すべての人が光のもとに導かれ、本来の輝きを取り戻されることを祈って。


23×8mm  6.23g

2011/12/18

ローズクォーツ/モリオン


モリオン/ローズクォーツ
Rose Quartz on Morion
Paroon, Nuristan Privince, Afganistan



モリオン(黒水晶)にローズクォーツが彩りを添える珍しい標本。
本体は大きめのダブルポイント(両錐水晶)の黒水晶。
完全に真っ黒というわけではなく、所々にダメージがあり、透き通って見える箇所がある。
スモーキークォーツ、ケアンゴーム、モリオン。
どれが適切なのかはわからない。

黒水晶の先端に咲いたローズクォーツ。
見事な結晶であるが、途中から溶けている。
あまりに溶けているので、当初フローライトかと思ったが、先輩方のご意見を総合すると、エッチング(蝕像)により変形したローズクォーツということみたい。

そもそも、アフガニスタンからローズクォーツが出るなんて知らなかった。
昔から鉱物を集めている先輩方の間では、「アフガンローズ」と呼ばれ、伝説になっているそうだ。
初めて出会ったアフガンローズの実にユニークなこと。
ローズクォーツは通常、塊状で発見される。
結晶しているローズクォーツというのは珍しく、ブラジルから僅かに発見される程度。
多くは小さく、色合いも薄い。
堂々たるアフガンローズ。
男性でさえ夢中になるのも無理はない。

産地を聞いて驚いた。
採りたくても採りに行けないのかもしれない。
地球上には、立ち入ってはいけない場所がある。
モリオンの表面にちりばめられた、長石とみられる純白の結晶と、色濃く微細なローズクォーツの結晶たち。
力強さと優しさ、絶望と希望が同居する。
来るところまで来てしまったような気さえする、遠くアフガンから届けられた孤高の薔薇の花束。




85×43×35mm  約200g

2011/11/27

ヒマラヤアイスクリスタル


ヒマラヤアイスクリスタル
Himalayan Ice Etched Crystal
Kullu Valley, Himachal Pradesh, India



全体が淡いフロストピンク。
ふんわりと光を包み込むような不思議な質感。
絹のような光沢とその特異な形状は、見る者を惹きつけてやまない魅力に溢れている。

2006年にインドで発見された触像水晶の一種。
ヒマラヤアイスクリスタル(アイスクリスタル)、ニルヴァーナクォーツ、ヒマラヤエッチドクリスタル、ピンクエッチドクォーツなど、さまざまな呼び名がある。
ヒマラヤ山脈の標高6000m級の氷河地帯で、地球温暖化の影響で溶けた氷の下から姿を現したことから、人類へのメッセージではないかと騒がれた。
地球温暖化の影響で氷河から発見された例としては、他に南米コロンビア産の水晶など。

初期は細長い柱状で、トップもボトムもフラット(C面)、上下のわからないアイスクリスタルが流通し、誰もが仰天した。
色はピンクとホワイトの2種類。
「地中からこのままの形で一本一本発見される」という表現が使われた。
まるでスーパーで売っている12本入りのアイスのようだから、アイスクリスタル?
そんなことは決して思わなかったけれど、冷凍庫の中から一本ずつ色違いで発見されるイメージだ。

世界的に入手困難であったが、2009年頃から状況は一変する。
当初一万円近くしたアイスクリスタルは、市場に溢れ、数百円程度まで下落した。
同時に小型化、形の多様化、質の低下が進んだ。
酸化鉄に覆われた茶色いアイスクリスタルもみかけるようになった。
多くは塊状の標本であり、「一本一本発見される」という表現はもはや使われなくなった。
いっぽう、欧米では100ドル以上が相場のようであった。
相場の下落は日本人業者による買い占めが原因かと思われたが、つい先ほど海外の相場を見たところ、日本と同程度にまで下落していた。
共通するのは、表面の酸化鉄。
内部が無色透明であることがわかるのは、表面のダメージゆえか。

アイスクリスタルを語る上で、①蝕像水晶であること、②C面が発達していること、③トライゴーニック(先端方向に対して▽の刻印、レコードキーパーの逆バージョン)が浮かび上がること、以上3点は欠かせない。
どちらも意識したことがなかったので、今更調べた。
C面とは鉱物の結晶構造に関する専門用語。
アイスクリスタルに関しては、トップもボトムも平らであるという特徴を指して使われた模様。
トライゴーニックについては未確認(本文下の写真左、下の方にいくつか小さく光る箇所?)だが、そもそもアイスクリスタルに上下はあるのかという疑問が生じる。

最も不思議なのは、過去のアイスクリスタルと現在主流となっているアイスクリスタルとの明らかな違いについてである。
相場は再び上昇している。
アイスクリスタルの発見されたヒマラヤの氷河は、さらに標高の高いところまで溶解が進んでいるらしい。
しかしながら、期待された蝕像水晶は、ある時を境に、いっさい発見されなくなってしまったという。

人類へのメッセージのオチがこれ?
光の歌が奏でる結末とは、これいかに。




41×17×16mm  12.82g

2011/11/22

ボリストーン


ボリストーン Boli Stone
Rub'Al Khali Desert, Saudi Arabia



鉱物で世界を一周している。
今回は、初のサウジアラビア上陸である。
写真にある白いクリスタルは、ボリストーンと呼ばれるニューエイジストーン。
アラビア半島の大部分を占めるルブアルハリ砂漠から、一つ一つ手作業で採取されているそうだ。
その正体はホワイト・カルサイト。

ユニークな形をしている。
本文下の写真左は正面の拡大写真、写真右は反対側の様子。
中央にみえる三角形の面。
裏側にはヘコミがあって、上からフタがしてある感じ。

ボリストーンがどのような状態で発見されるのかについては、わからない。
おそらく砂漠の表面近くから発見されるはずで、砂嵐に吹き飛ばされ、長い時間をかけて丸く磨かれていくものと思い込んでいた。
このように端正な犬牙状結晶で発見されるとは意外。
実際、ネットで紹介されていたボリストーンの多くは丸みを帯びていたが、中には犬牙状の結晶も存在するようだった。
ボリストーンにカルサイトの結晶面が残ることは、珍しくないのかも。
手を加えたような印象はないし、砂漠の砂らしき付着物やインクルージョンも確認できる。
ゆえに問題ない。
専門的なことはわからないので、これ以上触れない。

サウジアラビア、アラブ首長国連合、オマーン、イエメンにまたがるルブアルハリ砂漠。
発見されるのは、カルサイトだけではない。
動植物の化石や人骨、フリントストーン(石器)なども見つかっている。
ルブアラハリとは "空白" の意味。
現在は広大な砂漠が広がるのみだが、かつてはそこに文明があり、生命が暮らしていた。

2008年11月、ボリストーンは特別な使命をもって地球上に降り立った。
神聖なる光を宿し、人類のレベルアップを実現するべく登場したのである。
バトルフィールドアースって何?
印象としては、清涼感のあるラムネみたい。
降り注ぐ光は軽やかで明るい。
気分転換したいとき、勢いがほしいときに持つといいかもしれない。





18×12×10mm  2.00g

2011/11/11

アゼツライト/ローゾフィア


アゼツライト/ローゾフィア
Azeztulite & Rosophia
From Mr.Robert Simmons



アゼツライト、名も無き光。
鉱物というよりは、形而上の概念である。
ニューエイジストーンの発掘・普及に貢献してきたHeaven&Earth社の代表作。
既存の鉱物に独自のネーミングを与えることで知られる。
その反響の大きさゆえ、著名人からの反発の声も聞かれるほどであった。

今でこそ人気は安定した感があるが、業界のリーダー的存在であり、一部の人々にとっては神であり、パワーストーンブームを支えた偉大なる存在である。
代表でクリスタルヒーラーでもあるロバート・シモンズ氏の写真を掲げ、アゼツライトを販売するショップが後を絶たない。

今回はアゼツライトと、ロバート・シモンズ氏にまつわるエピソード。
2009年2月、米アリゾナ、ツーソンミネラルショーにて。

***

ツーソンショーも終わりに近づき、安宿に滞在する不幸な女たちは、博物館へ出かけていった。
私も誘われたが、どうせ女性の自立やらDVやらの話になるだろうから、一人で会場をまわることにした。
IDカードは台湾人に借りた。
これで業者割引が効く。

まだ見ていない会場は一つだけ。
リムジンバスから降りると、なにやら怪しい香りがする。
肌の黒い少年が、ジョイントを片手に、カゴを売っている。
「マリファナか?」と聞いてみる。
「そうだ。お前もどうだ」と少年。
荷物を持ち帰るのに丁度いいカゴだった。
一番大きなものを購入した。

あたりを散策していると、同じ宿の女性に遭遇。
なにやってんの、と言われたので、石を見ていると答えた。
彼女はアクセサリーを売っていた。
私のベッドの下に、持ち主のわからないダンボールが乱暴に積まれていて、足の踏み場がなかった。
中身はアレだったのか、と納得。
投げやりな荷物の扱いが、常にヒステリックな彼女らしくて、可笑しかった。

奥の建物には、ニューエイジ系のショップが集まっていた。
セージの束に、怪しげなお香。
いかにもなお姉さんがいろいろ説明してくれるのだが、石の産地などについて尋ねると、○○の近くなどといった曖昧な返答。

H&Eのブース。
たくさんのお客で賑わっている。
お馴染みのワイヤー・ペンダントもズラリ。
足元には、しゃがみこんで必死にそれをカゴに入れている日本人バイヤー2人組。
うっかり踏むところだった。
ツーソンで日本人と出会ったのは初めて。
向こうも気づいたので、挨拶した。
「今日の2時で終わりですよ。私たち急いでいるので!」と、素っ気ない。
時計は11時過ぎ。
私は奇跡的に、H&E社のショーに間に合ったのだった。

フロアで色とりどりの石を眺めていると、女性が親しげに近づいてきた。
ロバート・シモンズ氏の奥様だった。
シモンズも後で来るかもしれないとおっしゃる。

ほどなくして、シモンズ氏が登場。
当時の日記には、石の聖地に君臨した神、とある。
それくらいの衝撃だった。
喩えるなら、日展で天皇陛下に会った時、もしくはインドのマハ・クンブメーラにて、目下話題になっていた尊師と食堂で会った時くらいのインパクト。

アメリカ人のオバチャン達がサインをねだりに群がる。
日本人にしかウケないと揶揄する人もいるが、現地でもかなり人気があるようだ。
ボーっとながめていると、シモンズ氏がこちらにやってきた。
親日家であることは知っていた。
台湾人のIDカードを付けているにも関わらず、私を日本人だと思ってくれたようである。

いろんな話をした。
私にはどんな石が必要かという問いに、シモンズ氏が出してきてくれたのが、ローゾフィア(赤いほうの石)。
氏が最初に発見し、インスピレーションを受けたという、大きな塊状の原石だった。
触るよう言われ、目を閉じて手を当ててみる。

H&E社から先月発表されたばかりのローゾフィア。
いくつか紹介された新商品の中では、私の一番のお気に入りだった。
フェルドスパーとクォーツから成るありふれた石ではあるのだけれど、アゼツライトを初めて手にしたときくらいの高揚感があった。
その最初のインパクトが目の前にある。
愛に関連する石だと思っていた。
それはおそらく他者の存在しない孤独な愛。
愛を知らず、生まれ、育ってきた人生。
彼らは人を愛せないばかりか、自分自身を愛することも知らない。
1から覚えるのではない、0から考えるのだ。
他人が理解させることではない。
本人がそれに気づくまで、旅は続く。
「君にはハートに欠けている部分がある。この石を持つといいだろう」とシモンズ氏は私に言った。

愛を知ったとき、人は普遍的な真実に一歩近づく。
心の奥に眠っていた無限の可能性が次々に開花し、別人のように輝くのである。
もちろんそれで終わりじゃない。
人生の最後の瞬間まで、その歩みは続くのである。

シモンズ氏からアゼツライトとローゾフィアのさざれを一連ずつ、奥様からはハートのモチーフをプレゼントしていただいた。
これをリーディングして送るようにと、メールアドレスまで受け取った。
石のリーディングなどやったことがない。
後日、仕方ないので感想を送った。

さきほどの日本人バイヤー2人。
引き続き血眼になりながら、カゴに商品を詰め込んでいる。
ローゾフィアも入ってる。
目の前にシモンズ氏がいるのに、どうして見えないんだろう。
そんなことを思ったショー最終日。
明日はいよいよクライマックス、ツーソン・ミネラルショーだ。



夫妻と一緒に証明写真

ハートのモチーフ 25×7mm  32.7g~34.1g

2011/11/08

フェアリーストーン


フェアリーストーン Fairy Stone
Harricana River, Abitibi, Quebec, Canada



UFOみたい。
そっとあの人のデスクに忍ばせておきたくなる、地蔵色のストーン。
カナダではフェアリーストーンと呼ばれてお守りにされているらしい。
日本風にいうと、座敷童子石?
コレは流石に言われてみないと価値がわからぬ。

フェアリーストーンの誕生は、カナダがまだ湖の底だった氷河期。
湖底において積もり積もった泥や有機物の化石などが、長い時間をかけて石になったものだといわれている。
フェアリーストーンはカナダ・ケベック州、Harricana川から、このままの姿で見つかるのだそうだ(思わずシヴァリンガムを思い出してしまった)。
色目はライトグレーというか地蔵色。
一見すると路傍の石だが、形に規則性があるので見分けがつく。
写真に見える、白い輪のようなくぼみもそのひとつ。
この円がひとつだけのもの、2つも3つもあるもの、くっついて変形してしまったものなど、さまざまなタイプの原石がある。

現地の先住民族・アルゴンキンたちの間では、狩りの成功をもたらす幸運の石とされたほか、恋人への贈り物として、また災いを遠ざけるお守りとして大切にされてきたらしい。
フェアリーストーンの産出する「Harricana」の川の名は、アルゴンキンの言葉で、"ビスケットの川" という意味。
確かにビスケットに見えないこともない。
釣りの最中にこの石を見つけたときは、さぞ嬉しかったことだろう。
獲物が釣れた方が嬉しい人が多かったような気もするけど。

なぜ平たく滑らかな円盤形で発見されるのか、また円を描いたようなくぼみが刻まれている原因については、謎。
粘土質の土壌と特殊な地形ゆえに、この石が形成される条件が揃っていったのではないかという説があるようだが、詳しくは誰も調べていないようだ。
カナダのケベック北部でしか見つからないというのは確かに不思議。
似た名前にフェアリークォーツがあるが、表面に白く微細な結晶を伴うサボテン水晶の一種で、全く別の鉱物になる。

そんなフェアリーストーン、近年ヒーリングストーンとして注目され、日本にも入ってくるようになった。
この石は、某オークションをながめていているときに、たまたま目に留まったもの。
オークションというのは実にやっかい。
ジャンルを問わず「偽物の流通はオークションから」といわれて久しい。
鉱物についても例外ではなく、トラブルが相次いだ。
どの世界も同じこと。
慣れと、良い先輩とのご縁だと思う。
ちなみに、このフェアリーストーンを出品されていた方を、私は知っていた。
連絡先を聞いて驚いた。
向こうはなんとなくしかご存じないとのお返事。
遠く離れた見知らぬあなたのご住所、お名前が次々に私の記憶から飛び出してくるなど!
フェアリーストーンの起こした神秘?

たぶん、石を売っていただく側になったのは初めて。
私は単純に、再会が嬉しくて声を掛けただけだった。
ただそれだけだった。
個人情報の類いはいっさい残していないから誤解かもしれない。
思うところあって、このオークションで石を買うのは避けていたから、今まで出会わなかったのかもしれない。

数日後、薄い茶封筒にて届けられたフェアリーストーン。
なんだか申し訳ない気がして、愛用のお香に載せて、記念撮影。
後日、立ち寄った実家に忘れてきてしまった。
クリスタルヒーリングでは母なる大地の守護石といわれているが、私には地蔵菩薩の化身に見えてならない。
今頃は実家の座敷童子として活躍しているはずである。


27×22×8mm  6.97g

2011/11/05

モルダバイト


モルダバイト Moldavite
Moldau River Valley, Czech Republic



もはや知らない人はいないだろう。
パワーストーンとして、ヒーリングストーンとして、レアストーンとして、誰もが一度は憧れ、手にしたことがあるはず。
隕石の衝突に伴って生み出されるインパクトグラス(テクタイト)。
その存在価値を世に広めたきっかけが、モルダバイトだと思っている。

モルダバイトは、約1500万年前にドイツに落下した、リース隕石の衝突に伴って生成されたインパクトグラス。
1836年に命名された当時は、隕石だと思われていた。
インパクトグラスの大半は黒く不透明な塊。
透明感に富み、美しい深緑を示すモルダバイトは文字通り異色の存在であった。
ニューエイジ方面から火がつき、世界中から注目されることとなった。

私が石に目覚めたとき、既にモルダバイトは人気商品として定着しつつあった。
かなり初期の段階で偽物が出回っていることを知り、驚いた記憶がある。
モルダバイトはいわば天然ガラス。
人工的に作るのは実に簡単なことだった。
特にカットストーンやビーズ。
以前から微妙な色合いのモルダバイトをよく見かけたが、今ほど高くはなかった。
モルダバイトの市場価格は上がるいっぽう。
産出が激減し、今後十年以内に枯渇するともいわれている。

ここで、意外に焦点の当たらないモルダバイトの原石について取り上げてみたい。
写真は手持ちのモルダバイト。
どれが一番お好きだろうか。
大きさでいえば、左上が一番。
形のユニークさでいえば右上か。
右下は可も不可もなく、ゴーヤっぽいといったところ。

実はこの3つの原石のうち、一番良しとされるのは、実は右下のゴーヤ。
流れるような模様が立体感をなしているものは、概ね好まれる。
右上の筒状の原石も面白いが、意外に評価は普通。
左上は加工用。
シダのような模様が放射状に広がり、あたかも花のようにみえるモルダバイトは、「フラワーバースト」と呼ばれ、希少価値が付く。
博物館級と称される最高級品だ。

加工してしまえば、元の形など無関係。
ビーズのクオリティよりもわかりやすく、かつ入手困難なモルダバイトの原石たち。
この機会に探してみてはいかがだろう。
もう時間がないから、お早めに。


39×30×8mm(最大) 18.64g

2011/11/01

エクリプス/マスタードジャスパー


エクリプス Eclipse Stone
The Voccanic Areas, Java, Indonesia



エクリプスとは皆既日食の意味。
不思議な模様と珍しさに惹かれ購入したものの、正体がわからない。
購入元に詳細を問い合わせてから、どれくらい経つだろう。
いまだ返事がない。

2009年7月22日、日本では46年ぶりとなる皆既日食が観測された。
のりぴー夫妻が逮捕される直前、それを見るべく奄美大島に渡っていたことが話題になった。
私も危うく踊りに行くところだったので、大雨で中止になったことは今でも覚えている。
あの頃、アメリカのヒーラーの間では、このエクリプス・ストーンが話題になっていたそうだ。
日本のショップでも取り扱いがあり、現在も入手可能である。
ただ、この石に関する情報が少ないせいか、どこも同じ説明をしている。
まとめると以下のようになる。

  • 2009年7月の皆既日食のさい、海外のヒーラーの間で話題になった
  • 皆既日食にちなんで、著名なヒーラーがエクリプスと命名 
  • アメリカの鉱物誌の表紙になった
  • カボション・カットが一般的(ビーズや原石は無し) 
  • インドネシア産
  • 非常に珍しく、入手困難

2009年夏、自分はもう石の世界にはいなかった。
エクリプス・ストーンが盛り上がっていたかどうかは分からない。
現在も多くの流通があり、入手困難とは言い難く、命名したヒーラーも特定できない。
また、エクリプス・ストーンが表紙を飾ったというアメリカの雑誌というのは、どうも米・ツーソンショーで配られたフリーペーパーのようである。
つまるところ、よくわからん。

出会いは忘れた頃にやってくる。
2011年、秋の京都ミネラルショー。
石の模様に並々ならぬこだわりを発揮する連れが、ある石に反応した。
黄色にダークブラウン、産地はインドネシア。
怪しい。
模様が違うが、絶対に怪しい。
そう思って探したら、エクリプス・ストーンと全く同じ模様の石が出てきた。

ところが、店の人は、これはあくまで「マスタードジャスパー」という石だという。
初めて聞く名前。
連れは手を止めて、不思議そうな顔をしている。



マスタードジャスパー
Mustard Jasper
The Voccanic Areas, Java, Indonesia



こちらは今回参考に購入したマスタードジャスパー。
微妙である。
危険区域に立ち入るみたいな、心穏やかでない配色が特徴だ。
連れがいなかったら、確実に通り過ぎていた。
ただでさえ節約志向の連れが、気に入って2つも購入していたのが不思議でならない。

お店の人はヨーロピアンで、"Eclipse" が通じなかった。
太陽と宇宙の説明をしたらわかってもらえた。
「ああ、同じだよ」とのこと。
千歳飴の原理で、縦方向にスライスしたのがマスタードジャスパー、横方向にスライスするとエクリプス、要は切断方向が違うだけ。
閑散としたブース。
ヨコにスライスしておけば、売れただろうに。

天然のアゲート、ジャスパーの収集が盛んな欧米市場とは異なり、日本では石になんらかのご利益を付けないと苦戦を強いられる。
ちなみにマスタードジャスパーのほうは千円でおつりが来る。
まさかと思うが、注意していただきたい。

詳しいお話を伺った。
マスタード・ジャスパーは、オーピメント(雌黄)、マンガン、シリカ、火山灰などから成るジャスパーの一種。
イエローの部分がオーピメントだと思われる。
エクリプスとはよくひらめいたものだ。
マスタードジャスパーであれば買わなかった。
産地がジャワ島であろうということは予測していたのだけど、火山灰が鉱物(おそらく化石の類いか)に変わるほどの火山地帯で、それが現在まで続いているとは。
火山性オブシディアンの産出国だけあって、インドネシアの火山は半端ないようである。

インドネシアの首都、ジャカルタのあるジャワ島には多くの人々が暮らしているが、現在も広い範囲で火山活動が盛んであり、付近は大地震多発地帯として知られている。
断続的に火山の噴火が起き、被害が出ている模様。
報道を全くみないので、具体的にどういう状況なのかはわからないが、現在も予断を許さない状態のようだ。

参考:世界中の天変地異を事細かにまとめたサイト
http://macroanomaly.blogspot.com/2010/04/blog-post_18.html

もし、エクリプス・ストーンが2009年以前に採取されたもので、もう採りに行けないのだとしたら、確かに貴重だといえるが、果たして真相は。
宇宙と地球、空と大地、蔭りゆく太陽、そして天変地異。
すべてがこの石に集約されている。
どこか暗示的な存在といえるかもしれない。


28×16×6mm  21.46ct

2011/10/08

ザギマウンテンクォーツ


ザギマウンテンクォーツ
Zagi Mountain Quartz
Zagi Mountain, Mulla Ghori, Khyber Agency, FATA, Pakistan



ザギマウンテンクォーツ。
パキスタンのザギ・マウンテンから産出する水晶である。
さまざまな呼び名があるようだが、ここではザギマウンテンクォーツと呼ぶことにする。
ヒーリングストーンとして名高い石で、その存在は以前から知っていた。
ピンと来ないというのが正直な感想だった。

ザギマウンテンクォーツの特徴は、その多彩な内包物。
エジリン、アストロフィライトのほか、トルマリン(ブラックトルマリンなど)、アンフィボール類(アクチノライト、リーベカイトなど)を含む。
ベースはクリアクォーツ。
内包物によって、赤やオレンジ、グリーン、ブラウン~ダークブラウン、黒などの色合いを示す。
初期は大小さまざまな、シンプルなポイントが中心だった(本文下右側の写真)。
現在はエレスチャル状、ポイント状、塊状など、多様化が進んでいる。
スモーキークォーツやミルキークォーツ・ベースのザギマウンテンクォーツも見かけるようになった。
今やその存在の不透明さは加速するいっぽう。

写真の石は、プレゼントとして偶然に付けていただいたもの。
うわ、なんじゃこりゃと思った。
よくわからんが、すごい。
後日、ザギマウンテンクォーツであることが判明。
小粒にしてこの存在感、本物だ。

大好きな西アジア。
これは絶対にザギマウンテンに登らねばならない。
標高175メートルなら余裕だ

今はほとんど使っていない、バックパックの出番が来たようである

※聖地ザギマウンテン付近の様子はこちらからどうぞ

現実は甘くない。
調べてみると、そう簡単には行けない土地であることがわかった。
聖地により外国人立入禁止説、乱獲により規制が入った説、タリバン出現につき国際的に入山不可能説、などが推測されたが、いずれにせよ外国人が入るのは容易いことではないと感じた。
ネットショップでは、聖地である旨説明されていることが大半。
もし最後の説が本当だったとしたら、命を覚悟しなければならない。
パキスタンの情勢が極めて不安定なのは、ご存知の通り。

聖地に関しては思うところある。
外国人、特に日本人の海外での評判は、悪い。
現地の人々の感覚に合わせることをしないからだ。
意図的に遠ざけられた可能性はある。
パキスタンのように信仰が根付いている国においては、外国人が現地の人に打撃を与えることも少なくない。

パキスタンには好戦的な人が多いと思っている人が多いが、そうではない。
飾ることなく誠実で、温かな心をお持ちの方々だ。
宗教の異なる日本人に対しても、親切に接してくれることが多い。
我々日本人は、宗教と聞いただけで抵抗感を持ってしまいがちだが、現地での信仰心は、日本でいう法律であり、道徳であり、生活の一部でもある。
例外はある。
たとえば、戦争のあった地域で生まれ育った人々。
家や家族を失い、心に深い傷を負った彼らが、やむなく道を外れることもある。
詐欺や麻薬取引などの犯罪に関わっていたのは、私の知る限りでは、戦地など複雑な環境に育った人間だ。

ザギマウンテンについて、この石を譲ってくださった方に伺ってみた。
情勢が悪いというのは現実のよう。
ザギに登るのは厳しいと感じた。
私のような外国人が間違いを犯す(犯した)可能性も十分に考えられる。

ザギマウンテンからはバストネサイトのほか、ゼノタイム、イルメナイト、モナズ石などの希少石が産出することで知られている。
現地がレアアースの宝庫であることが判明したのは、ごく最近。
2001年頃だといわれている。
これも不思議な偶然で、近年においては最も危険だった時期である。
殺害されたテロリストが、アフガニスタンからパキスタンに逃亡したのは有名な話。
私がパキスタンを旅したのは11年前。
テロ発生の前年だが、空港は厳戒態勢が敷かれており、税関で厳しい検査があったのを鮮明に覚えている。

話を戻そう。
ザギマウンテンクォーツは、多彩な内包物を持つことで知られる。
中でも、アストロフィライト、エジリンが入ったものは人気があるようだ。
本文下、左は、手持ちのザギマウンテンクォーツの拡大写真。
最近入手したもので、アストロフィライトが内包されているということだった。

結晶中の太く黒い針がエジリンだという(→拡大写真)。
一本だけ確認できる太いオレンジの針は、なにか。
実は、過去のザギマウンテンクォーツに、このオレンジの針が高い確率で含まれていた(本文下の写真参照)。
エジリンではないし、ルチルにしては色が濃く太すぎる。

一般的に、アストロフィライトは繊細な繊維状のインクルージョンとなって、結晶全体をレッド~オレンジに染めるといわれているが、私にはオレンジの針が本来のそれではないかと思えてならならないのだ。
アストロフィライトとされる、オレンジの微細な毛状のインクルージョンは、私にはどうも、アンフィボール(角閃石)の類いにみえる。
マダガスカル産のアンフィボール入り水晶に、このような色合いを頻繁に見かける。
アストロフィライトのインクルージョンというのは他では聞かないから、相当珍しいはずだ。

なんとなく、気になる。
まあ、いいや。
この石にはきっと、危険を承知でザギへ入っていったパキスタンの人々の勇気、そして温かな心が、あふれんばかりに詰め込まれている。




14×11×6mm  7.78ct

2011/10/07

サラードクォーツ


サラードクォーツ Sarado Quartz
Diamantina, Minas Gerais, Brazil



サラードクォーツ。値札つき。
蝕像水晶(→レコードキーパーの項、注1参照)の一種。
角が溶けて丸くなっているのが特徴だろうか。
サラードは地名ではなく、現地の言葉で「回復」という意味。
透明感のある爽やかな水晶に、ビシビシと刻まれた侵食の跡が強烈である。
今でこそ価値を認められたサラードクォーツだが、価値がわからなければ「少し変わった水晶」でしかない。
そのため、こちらのサラードクォーツも、最近まで当家において不当な扱いを受けていた。

出会いは4年ほど前、某ミネラルショーにて。
無造作に並べられた水晶の山の中に、コレがあった。
ブースには、ぶっきらぼうな中年女性が2人。

「コレ、何の石ですか?」
「水晶です」
「面白い形ですね」
「パワーあるわよ」
「どんなパワーがあるのですか?」
「…」
「おいくらですか?」
「3000円」
「何か、意味があるのですか?」
「お買い得だと思うわよ」

やる気が全く感じられない。
ヒーリングストーンの知識にかけては半端ないはずの連れも、まったく興味のない様子。
つまるところ、誰にも価値がわからない。
この名も無きクリスタルに、3000円を投じるべきか否か。
今を逃すと後悔する、そう直感した。

そしてこの「謎の水晶」は、我が家の倉庫に奉納された。
たまに見かけて、手に取る程度。
そうして、4年が経った。

今年の夏、サラードクォーツなるものをネットで見かけ、興味を持った。
さっそく注文した翌日の晩、立ち寄った実家で写真の石と再会した。
目を疑った。
ネットで見たものと、全く同じではないか。
Saradoというラベルまで貼ってある(貼りっぱなし)から、間違いない。
ようやっと正体が判明し、日の目を見ることになったサラードクォーツ。
あの頃はまだ蝕像水晶という言葉は一般的ではなく、アイスクリスタルも流通し始めたばかりで、先のミネラルショーで出会ったお店の方もご存じなかったのだろう。

ネットショップさんには、あわててキャンセルをお願いした。
お店の方にはご迷惑をおかけしたが、入金前だったのが幸いし、キャンセルをお許しいただいた。
実家には半年に一度寄る程度。
このタイミングでの再会も、何かのご縁ということか。

帰宅後、調べてみた。
ディアマンティーナ産の蝕像水晶を、総じてサラードクォーツと呼んでいるようである。
ネットショップで見かけたものは、手持ちのサラードクォーツと同じ、角が溶けて丸くなっているタイプだった。
諸説あるのかもしれない。

水晶の名産地・ブラジルでは、どんな個性的な水晶にも愛称を与え、お守りにする習慣があるようだ。
日本人にはわかりづらい感覚かもしれない。
こうして今、サラードクォーツが評価されているのは、とても嬉しい。
一部が削れてしまっているのは、私のいい加減な保管によるもの。
床に置くのはやめ、箱にしまった。
付加価値を考慮せず、直感だけで購入した水晶に価値がわかることは滅多にないから、不思議な偶然に驚いている。


81×30×26mm  77.3g

2011/10/05

オーロベルディ


オーロベルディ Oro Verde
Diamantina, Minas Gerais, Brazill



メタモルフォシスをご存知だろうか。
見た目は普通のミルキークォーツ。
ガンマ線を照射すると真っ黒になり、その後300℃程度で加熱すると美しいグリーンゴールドに変化することから、変容・変革の象徴として、メロディ氏(→スーパーセブン参照)によりメタモルフォシスの名を与えられた。
オーロベルディは、いわばメタモルフォシスの変革後の姿。

ポイント状のオーロベルディは珍しい。
メタモルフォシスは塊状で産出し、オーロベルディも同様の形状を持つことで知られている。
こちらはメロディ氏と交流のあった海外のクリスタルヒーラーが所有していたオールドストック。
ごく初期に得られたオーロベルディのポイントとのこと。

元祖メタモルフォシスは、多少クラックの入った、大き目のタンブルだった。
形はいびつで、決して格好いいものではなかった。いっぽう、オーロベルディは、切り取られたような破片状の塊。
比較的小さな原石が多く、加工品の場合はそのほとんどに激しいクラックが入っている。
現在は、タンブルではない破片状のメタモルフォシスも、メロディ氏経由で出回っている。

実はこのメタモルフォシス、現地では以前からミルキークォーツとして知られており、珍しいとされるピンク・メタモルフォシスのほうも、ローズクォーツとして流通していた。
メタモルフォシスが知られ始めた段階で、既に国内に在庫のある業者もあったため、姿勢は二つに分かれた。
あくまでもミルキークォーツ・ローズクォーツとして売る業者もあった。
しかし、ミルキークォーツをメタモルフォシス、ローズクォーツをレアなピンクのメタモルフォシスとして扱い、国内で「変容」させたものをオーロベルディとして高値で販売、メロディ氏の人気に便乗しようとする人々も。

美しいグリーンゴールドを示すオーロベルディ。
こちらも以前から流通があった。
海外ではオーロベルディ・シトリンと呼ばれており、放射線処理を施した宝石として認識されている。
同じく放射線処理によって作られる、レモンクォーツと同じような扱い(レモンクォーツは淡いイエロー)。
見た感じ、シトリンの代用品として扱われているに過ぎず、色合いもグリーンゴールドとは言い難いので、大量生産が可能なレモンクォーツと混同されているのかもしれない。
ポイントの流通も多いが、多くはレモンクォーツの色合い。

オーロベルディの名について、メロディ氏が命名したという記述は見られない。
ただ、いっとき海外のヒーラーの間でも話題になっているので、この石にメロディ氏が関わっているのは事実。
メロディ氏はもともとあった石にインスピレーションを受け、特別な名称を与えることが多いようだ。
本物か偽物かを問う以前に、付加価値の有無に問題があるように思う。
正規のルートで仕入れた場合、オーロベルディは「変容後」の姿で日本に入ってくる。

彼女のネームバリューはかなりのものであり、売り手にとっては死活問題。
そのため、メロディ氏の紹介した石が、彼女自身から仕入れたものかどうかが度々問題になった。
付加価値をつけるならメロディ氏を通すのは当然のこと。
メロディ氏経由で仕入れているところもある。
どちらを選ぶかは好みの問題で、出所にこだわる必要はない。
流通経路が不明、かつあまりにも高額な場合は、購入元に問い合わせてみよう。


メロディ氏によると、オーロベルディは持ち主に人生の深い意味を体験させ、成熟した人間性を育くむという。
また、強いエネルギーで持ち主を保護し、新しい未来を切り開いていくための意志と力を運んでくるとされている。


30×18×14mm 10.2g

2011/09/27

ピーターサイト


ピーターサイト Pietersite
Outjo, Damaraland District, Kunene Region, Namibia



ピーターサイトの塊。
濃紺色で描かれた抽象画のような、なにものにも喩えがたい独特の模様。
カットすると、まるで台風の目のようにみえることから、テンペスト・ストーン(嵐の石)とも呼ばれている。

その正体はクロシドライト(青石綿)。
猛毒として知られるだけに、驚かれる方もおられるかもしれない。
こちらはめのう化して固まっており、危険物が飛び散る心配はない。
一般には、クロシドライトを含んだ石英(ブルータイガーアイ)が地殻変動によって粉砕され、ふたたび浸透した石英によって、鉱物として蘇ったものとされている。

意外に知られていないが、タイガーアイやブルータイガーアイはクロシドライトから成る鉱物である。
青いクロシドライトが酸化してゴールドになったものがタイガーアイ。
両者は通常、混ざることはない。
しかし、いったん粉砕されたのちに形成されるこの石の場合は、青とゴールドが混ざり合った状態で発見される。
純粋な濃紺色は、原産地でもあるナミビア産のみに見られ、非常に高額で取引される。
なお、ゴールド~赤茶系のピーターサイトは、中国河南省から産出するもの。
ナミビア産とは成分が若干異なるらしい。
ピーターサイトには含めない、としているところも。
1962年に発見されたばかりの比較的新しい鉱物であり、その定義ははっきりしていないのかもしれない。

写真のピーターサイトは、昔たいそう気に入って手に入れた、大きな塊状の原石。
ところどころ酸化していて、濃紺色の嵐がうずまくさまが確認できる。
通常はカボション・カットされたり、ビーズなどで流通するピーターサイトだが、原石の美しさもなかなかのもの。
ちなみに、何も飛び散った形跡がないので、このままの状態で問題ないと思われる。

ジャンルを問わず広く日本人に愛されているタイガーアイ。
成分は同じであるものの、ピーターサイトのほうはヒーリングストーンとしての色合いが濃い。
シャーマニック・トラベルに欠かせない存在として知られているほか、瞑想にも向いているそうだ。
自分自身と向き合うための石でもある。
嵐の中にあっては、前も後ろも見えず、混乱し、何も考えられなくなってしまう。
しかし、台風の中心は、実に平穏なのだ。
安らぎと平和に満ちた世界に立ち戻ることによって、本来の自分自身を取り戻し、物事の本質をより深く理解することができるようになる。

先日、生まれて初めて石のブレスが千切れた。
ピーターサイトのブレスだった。
波乱万丈な運命に嘆く人に捧げる石である。
日常生活が波乱万丈すぎたのか。
いや、物事を見誤り、いつの間にか嵐の渦中を外れて、自ら突風に飛び込んでしまっていたのかもしれない。


約150g(未測定)

2011/09/21

エジプトの星


エジプトの星
Hematite after Marcasite
White Desert, Farafra Oasis, Matruh Governorate, Egypt



エジプトのサハラ砂漠の奥地から産出する、「エジプトの星」と呼ばれる鉱物。
その名から、希望の星になぞらえて語られることもある。
正体はゲーサイト(針鉄鉱)若しくはヘマタイト。
マーカサイトという鉱物が、長い時間をかけてゲーサイトに変化した。
つまり、マーカサイトの仮晶ということになる。
比較的よくみかけるが、他所からは発見されておらず、産出には限りがある。
エジプトがまだ海の底だった頃に形成されたといわれる、太古の石である。

ゲーサイトといえば、水晶の内包物としてご存知の方も多いと思う。
ストロベリークォーツやスーパーセブンに含まれる、赤やピンクのインクルージョンの本体がコレ。
鉄の一種であるからして、メタリックブラックの重厚な質感を持つ。
針状、塊状で産出することが多いゲーサイトだが、大自然が生み出した彫刻のようなものも存在する。
こちらの「エジプトの星」もそのひとつ。
松ぼっくりのような外観からは意外なほど頑丈、かつ繊細な結晶形を示す。
こうしたユニークな形状は仮晶ならでは。

産地はリビアとの国境にほど近い、ホワイトデザートと呼ばれるエリア。
現地にたどりつくにはサハラ砂漠の険しい道のりを辿らねばならず、採取には危険や困難が伴うとされている。
しかし、「エジプトの星」に関しては、産出も比較的安定しており、流通も多い。
その不思議な構造や神秘性から、内外を問わず人気は高い。
ホワイトデザートからは、他にもドーナツのような形を示すゲーサイトなど、興味深い石が多数発見されている。プロフェシーストーンが見つかるのもこの一帯らしい。
中にはこんなものもある(→エジプトの星になった貝化石)。

余談だが、H&E社(注1)から最近発表されたという「Zストーン」は、これと全く同じものらしい。
なぜZなのかは不明である。
なんでも、パワーが非常に強く、酔ってハイになることから、ミネラル・マリファナとの異名を与えられたという。
この石を持って車の運転をしてはいけないというから本格的だ。

確かに見た目はマリファナに似ている。
ここはいっそ「エジプトの星」をやめて、「秘境のマリファナ」とし、大麻愛好家向けに紹介してみてはどうだろうか。
大麻開放運動関係者の方から聞くところでは、決して好ましいとはいえない状況が続いている様子。
この石がマリファナ・ファンの希望の星となることも十分考えられる。
そこのフリークのあなたも、おひとついかが?
すべての人の心に、平和が訪れることを祈って。


注1)Heaven&Earth社の略。アゼツライトなど、ニューエイジストーンの発掘・普及に貢献してきたアメリカの企業で、業界のリーダー的存在。名も無き石に独自のネーミングを与えることも多く、その反響の大きさゆえ、著名人からの反発の声も聞かれるほどであった。代表でクリスタルヒーラーでもあるロバート・シモンズ氏は親日家として知られる。

余談だが、シモンズ氏はイケメンである。ウインクされ戸惑った経験から考えて、若い頃ヤンチャだった可能性があるが、現在は強力な奥方によって支えられている様子である。


35×28×20mm

今週、話題性が確認された10の鉱物

What Mineral Would You Take with You to A Deserted Island?