2012/07/31

フローライト(ケイヴ・イン・ロック)


フローライト Fluorite
Minerva #1 Mine, Cave-in-Rock, Hardin Co., Illinois, USA



伝説のイリノイ州ケイヴ・イン・ロック、ミネルヴァ鉱山のフローライト(蛍石)。
世界でも有数のフローライトの産地であるケイヴ・イン・ロックには、かつて数多くの鉱山が存在した。
現在はすべて閉山し、古いコレクションを中心に流通している。
中でもミネルヴァ鉱山のフローライトは、歴史に残る標本を多く産したことで知られている。

数ヶ月前入手した、コレクターからの流出品。
明るいパープルからオレンジ色が見え隠れする面白い標本で、一部にクラックが入ってしまっているために、一桁お安くなっていた。
ミネルヴァ鉱山ならではのパープルの結晶にイエローが混ざりこみ、オレンジやピンクに見える。
幻想的と表現されることの多いフローライトだが、とりわけ華やかな色彩が目をひく。
この産地からの標本は、黒に近いパープルが多い。
写真の石も、直射日光で撮影したため明るい色合いに見えるが、一見すると暗い。
この標本の持つ明暗に、まだ見ぬイリノイの街や歴史、人々の行き交うさまを思う。

フローライトは一般に、色あせが起こりやすいとされる鉱物。
日のあたる場所に置いたために、なにか別のモノに変身してしまい、衝撃を受けたことが数回ある。
濃厚な色合いがほんのりパステルカラーと化すなど、私に予想できようか。
紫だったアメジストがミルキークォーツに変わり、驚いた方はおられるかもしれないが、これも同様の現象。
いったい何が起きたのだろう。

鉱物の退色や変色は、その色合いの原因が、カラーセンターによる発色(他色/仮色)である場合に起きるとされる。
説明するのは非常にややこしいので、興味のある方は資料を参照していただきたい。
大雑把にいうと、分子や原子のレベルで異変が起きている。
鉄分や銅、クロムなど、不純物に由来する着色ではない場合、発色は安定しないとされる。
放射線処理による色味の改善は、その性質を利用したもの。
退色するおそれのある鉱物として知られるのは水晶やクンツァイトとその仲間たち、トパーズ、ダイヤモンド等々、またフローライトは特に紫は要注意とのこと。
"日光浴・日光による浄化を避ける" と記載のあるパワーストーンに同じ。
詳細は以下のサイトがものすごく、詳しい。

参考:天然石の色
http://www.yebiya.com/material/about_stone/color.html

その他参考:ケイブ・イン・ロックの消息(イリノイの蛍石に対する愛が満載です)
http://www.ne.jp/asahi/lapis/fluorite/column/illinoisfr.html

私の想いを告白するなら、フローライトによりいっそう興味を持った頃合いが最も危険である。
ついついケースに入れて飾り、色別に並べて、光による色の移り変わりを楽しみたくなる。
それが命取りになる。
歴史的価値のある標本を購入する前に、泣いておいて良かったと思う。
失われた色合いは戻らない。
それは、ひとつの石の歴史が終わることを意味する。
この標本のかつての持ち主は、戦後に活躍したニューヨークのミネラルハンターで、98年死去。
ラベルの状態を見た感じ、1950~60年代の採取品だろうか。
偉大なコレクションは長い年月を経てもなお、私たちに感動を伝えてくれる。


45×40×32mm  89.35g

2012/07/30

フローライト入り水晶


フローライト入り水晶
Quartz, Fluorite Inclusions
Miandrivazo, Amoron'i Mania, Fianarantsoa Province, Madagascar



クリアな水晶に浮かぶフローライトのインクルージョンが清々しい。
2005年頃、マダガスカルからわずかに発見されたという。
ちょうどその頃、命と引き換えに(?)鉱物の世界にたどりついた私は、すぐに興味を抱いた。
スーパーセブンの流行で水晶のインクルージョンに対する関心が高まり、「とりあえず水晶に入ってる何か」を探していた人々が、この美しい石に夢中になったのは必然的なこと。

鉱物標本として、またヒーリングストーンとして、高い評価を受けたフローライト入り水晶、フローライト・イン・クォーツ。
同じくマダガスカル産の星入り水晶とともに量販された。
しかし実際には、産出は200kgほどしかなかったらしい。
流通は減り、質の悪化とともに人気は失速していく。
現在流通しているフローライト入り水晶は透明感に乏しく、内部の様子が見えるようカット、研磨することが多いようである。

初期に流通したフローライト入り水晶の原石ポイント。
水晶に含まれる青紫の鉱物がフローライトである。
よく見ると八面体に結晶している。
氷のように清らかな水晶は変形していて、フローライトのインクルージョンの魅力を引き立てている。
本文下に外観の写真を掲載した。
中央は空洞になっている。
表面には多角形の刻印のようなくぼみが多数みられる。
これは、かつて存在したフローライトが、何らかの原因で外れた跡だといわれている。
周囲の白いインクルージョンもフローライトであると考えられている。

数箇所に切断面(削られた部分)があるため、鉱物標本ではなくヒーリングストーンとして販売されていた。
当時は安価だったため他にも原石の手持ちがあるが、透明感はこれがベスト。
空洞に関しては、自然に形成されたとみられる。
まさかこの空洞にも、元々フローライトが入っていた…
か、どうかは、わからない。
表面の至るところにフローライトの痕跡があり、模様のようになっているから、かつてはフローライトだらけだったのだろう。
もしかしたら、空洞部分もフローライトだったのかもしれない。

フローライトには六面体と八面体がある(→うさこふ作成の図解参照)。
もしインクルージョンが六面体結晶であったなら、評価は若干かわっていたかもしれないと思うときがある。
八面体フローライトは一般に、高温の環境下で形成されるといわれている。
夏は暑い。
暑は夏い。
涼しい風を運んできそうな、今となっては貴重なこのフローライト入り水晶(の画像)を、頑張っているあなたにお届けします。




60×30×26mm  39.38g

2012/07/25

ストロマトライト


ストロマトライト
Stromatolite
Sevaruyo, Eduardo Avaroa, Oruro department, Bolivia



太古の昔、地球の大気は二酸化炭素で占められていた。
ストロマトライトとは、30億年もの昔に生息していたシアノバクテリアと呼ばれる藍藻類の一種。
地球上に初めて酸素を供給した生物として知られている。
この石の独特の模様は、シアノバクテリアと海中の蓄積物が化石化し、層を成したもの。
厳密には、化石ではなく岩石の扱いとなる。
化石類についてはまだわかっていないことが多いが、ストロマトライトも例外ではない。
30億年前のそれとは異なる、27億年前に登場したシアノバクテリアが地球環境に変化をもたらしたという説が有力となっている。
1億年違うというだけで相当な時間が宙に浮く。
まさに気の遠くなるような話。

ストロマトライトはいわば生命の起源となる存在。
シアノバクテリアの光合成によって増加した酸素により、オゾン層が形成され、生命が陸へ上がる条件が整っていったと考えられている。
生命の創造主としてストロマトライトを神聖視するのは、西洋におけるキリスト教の価値観の影響によるものだろう。
キリスト教においては、神が生命を創り、人々を高みへと導き、時に厳しく裁きを下すということになっている。
日本人の考える神様とは少し事情が異なる点、押さえておきたい。

ストロマトライトがヒーリングストーンとして注目を集めたのもその流れ。
スーパーセブンでお馴染みの、メロディ氏が著書で取り上げた。
化石全般に言えることだが、ストロマトライトは外観としては地味であり、どちらかというと不気味である。
そんな岩石が、パワーストーンを支持する女性層の心をつかんだ理由は、生命の誕生というキーワードとクリスタルヒーラーの声、そして形状ではないかと私は考えている。
小さくカットされ、タンブルになったストロマトライトは、かわいい。
ポーチに入れて持ち歩きたくなる。
しかし、化石標本として並べられているストロマトライトにかわいさは微塵も無い。
かわいさが功を奏して、小さなストロマトライトが太古のメッセージを宿したクリスタルとして大流行…したような気がするのである。

さて、Wikipediaのストロマトライトの項では、非常に地味な泥の塊としてのありのままのストロマトライトを存分に参照することができる。
これは一体何事か(→写真

参考資料:

1)オーストラリアの西オーストラリア州ハメリンプールに発達するストロマトライト
2)同じくハメリンプール・シャークベイのストロマトライト群がまるで地蔵群
3)群馬県立自然史博物館のストロマトライトの模型にロマンをかきたてられている様子の筆者
4)ストロマトライトの唄



生きた化石として現代に君臨するストロマトライト。
生物が陸に上がったのち、高等生命の餌食となりながらも、たくましく生き延びている。
そんなストロマトライトと生命の起源については、目下研究が進められている段階。
素人が論ずるのは憚られるから、詳細については上記のサイトや論文などを参考にしていただきたい。
ロマンを愛でる男性方には魅力的な存在に違いない。
しかしながら西オーストラリアでその雄姿を見届けるのは、私には難しい。
できることなら、写真にあるようなかわいいストロマトライトに神秘を準え、太古のメッセージに酔いしれたいものである。

なお、今年80歳になる私の父親は、ストロマトライトを見て、怖ろしい殺人蜂の巣が脳裏をよぎったという。
以降、当家において、この石を居間に放置することは固く禁じられている。


22×15×14mm  11.02g

2012/07/24

ヒマラヤレッドアゼツライト


ヒマラヤレッドアゼツライト
Unofficial Himalaya Red Azeztulite
Himalaya Mts., India



Heaven&Earth社から発表された新しいアゼツライト、ヒマラヤレッドアゼツ。
ヒマラヤゴールドアゼツと同じ、インド北部の山地から発見されたといわれている。
ぱっと見て、おかしいと思ったあなたは通の人。
どこがおかしいか。
ペンデュラムに加工されたこの石は、ヒマラヤレッドアゼツと同じもの。
しかし、H&E社のカタログにはない。

アゼツライトは石の名前だと考えている人も多いかもしれない。
正確には、H&E社とその代表であるロバート・シモンズ氏が発掘し、普及を手がけた商品の名称である(詳細はこちら)。
ご縁を頂戴した方から、日本の能力者により独自にアレンジされたアゼツライトが出回っているというお話を伺った。
アゼツライトの価値の認定及び加工、流通、販売等は全てシモンズ氏の管理下にある。
無関係な人が販売することでさらなる付加価値がつくというのは疑問が残る。
販売者に求められるのは、流通過程においていかに本来の魅力を損なわず、本物のアゼツライトを消費者に届けるかということではないだろうか。

では、カタログにないこの "ヒマラヤレッドアゼツ" の正体はというと、やはり全く同じものである。
シモンズ氏に原石を卸している業者が関係しているというが、言及は控える。
先日、参考までに購入した。
本国アメリカ産出のアゼツライトは、H&E社より厳しく管理されているが、インドのほうは無防備になりがち。
何らかの手違いにより加工された製品が、"ヒマラヤレッドアゼツライト" として流出したものとみられる。
ヒマラヤゴールドアゼツライトについても、まったく同じイエローの石が裏で取引されているのを目撃している。
価格としては微々たるもの。

このところ、石に独自の価値をつけて高値で販売するというH&E社の手法を真似た日本人業者が目につく。
ブレスなどの製品は出処と原価がある程度わかってしまうから、どうしてそれほどまでの過剰な利益が必要なのかと、驚かされることも多い。
H&E社製品でなければ価値のつかなかったものを、目的はなんであれ利用するのは危険なこと。
ただ一瞬の評価のために人の道を誤り、多くの人を悲しませるというのがパワーストーンの使い途だったか。
石は人の幸せを願うためにあったはず。
自分がやったことは、必ず返ってくる。
取り返しのつかないことになる前に、そのことを思い出してほしい。


2012/07/22

ベニトアイト/ネプチュナイト


ベニトアイト/ネプチュナイト
Benitoite, Neptunite
Benitoite Gem Mine, San Benito Co., California, USA



ベニトアイト(ベニト石)の散りばめられた母岩から、ネプチュナイト(海王石)の結晶が飛び出した豪華な標本。
どちらも稀産鉱物として知られ、小さいながら多くの結晶とその形態を楽しめる良品となっている。
写真の右上に見られる、赤みを帯びた黒い結晶もネプチュナイト。
マンガン成分が多いほど赤く見えるそうだ。
結晶のほうは真っ黒だから、それらを同時に観察できるのも嬉しい。
母岩はソーダ沸石とのこと。

ベニトアイトは希少石の中でも人気の高い鉱物。
カットすると美しい輝きが出るため、収集家の間で長く愛されてきた。
カリフォルニア州では "州の石" とされ、珍重されているという。
ベニトアイトは1906年、カリフォルニアのベニトアイト鉱山から発見された。
原産地からの採掘は終了している。
カリフォルニアのベニトアイト鉱山が唯一の産地とされることから、希少性は増すばかり。
多くはカットされ流通しており、宝石としての人気も高い。
何故こんなものを持っていたのか忘れてしまったが、先日倉庫から出てきた。

この標本の見所は、水晶のような端正なネプチュナイトの結晶のサイドに、ベニトアイトがくっついていること。
もともと産地からはベニトアイトとネプチュナイトが産出することで知られているが、互いにくっついているのは見たことが無い。
誰もが憧れる二つの鉱物が仲良く共生している姿は、なんだか微笑ましい。




32×20×12mm  3.88g

2012/07/21

フローライト(ナミビア)


フローライト Fluorite
Okurusu Mine, Otjiwarongo, Namibia



ブルー・グリーン・パープルの絶妙な組み合わせ。
ナミビア産出のフローライト(蛍石)。
背たけの低い群晶の底面がゆるやかにカーブを描く。
まるで、アンティークのガラス食器のように、幻想的な光景が広がる。

2007年のツーソンミネラルショーにて、特に何も考えずに購入したもの。
当時、私はフローライトを「鉱物の一種」程度にしか捉えていなかった。
安いわりに目立つからストックしておこう…
などという、愚かな動機で購入した。
まさかその後自分がフローライトに目覚めるなど、思いもしなかった。

ツーソンの卸売りコーナーの一角を占拠し、大量に積まれていたナミビアンフローライト。
まるで人の手で造られたかのような、乱れの無い完璧な結晶だった。
興味のない人間が見ても気に入るようなフローライトが、ナミビアから大量に採れるものと勘違いしてしまった。
山積みのダンボールに詰め込まれていた鉱物の中には、今となってはもう見ることの無い石も含まれていた。
このナミビアンフローライトも、ざっと見た感じ、そのひとつに含まれるようである。
てっきりこうした形の整った良品が、コンスタントに出ているものと思い込んでしまったが、そうではなかったようだ。
アンバランスな欠片や破損品、切断面の目立つ原石が、良いお値段で販売されている。

鉱物標本を集めている人たちは、しばしば加工品を見て腹を立てる。
水晶と同様、フローライトにもその傾向が見て取れる。
このナミビア産をはじめ、南アフリカ産、英国産、ドイツ産など、比較的色幅のある標本なら、原石につきる。
表面の構造(骸晶やエッチングなど)が完全に光を通さないために、複数の色が溶け込んだかのような幻想的な光景が広がるというわけ。

しかし、当時これに似たナミビア産フローライトを購入した人々は、一体なにをしておられるのか。
少なくとも2、3年前、ツーソン買い付け品として、国内でもかなりの量が出回った。
私がこれを手放さなかったのは、単に忘れていただけで、先日見つけて驚いた。
感動の再会が待っているかもしれないから、あなたもどうか見つけ出していただきたい。
お手持ちの標本がやがて、産地別・カラー別・結晶構造別などに分類され始めたら、あなたも立派な「フローライトに魅了された人」である。
高価な標本が多いので、無理はなさらずに。

インパクトやわかりやすさに関しては水晶に及ばないが、見るたびに味わいが増すとすれば、フローライトのほうだろう。
光をとどめた結晶内に溶け込む色彩がさらなる色を生み、調和するさまは、ちょっとした万華鏡のようだ。
無限の可能性を秘めた光の幻影。
水晶がアッパーなら、フローライトはChill Outかな。


60×45×19mm  54.81g

今週、話題性が確認された10の鉱物

What Mineral Would You Take with You to A Deserted Island?