2012/06/17

ユーディアライト


ユーディアライト Eudialyte
Lovozero, Kola Peninsular, Russia



確か、一番最初に買った希少石がユーディアライト(ユージアル石)だった。
恩師の店で見つけたビーズがきっかけだったと記憶している。
お店の人に聞いても正体がわからない。
ありました、と見せていただいた本には、今でも忘れられない衝撃の一節があった。

無意識のうちに宇宙の秩序や法則が理解できるようになり、自然の流れに身をゆだねることが一番良いことが認識できるよう導く力があるといわれています(「パワーストーン百科全書」八川シズエ著)

間違いなく個人差はある。
私には宇宙の秩序など理解できそうにないからだ。
それでも気に入って500円程度の標本を幾つか購入した。
原産地であるグリーンランド産の、まるで岩のような標本が先日出てきたときには仰天した。
単に安かったから買うという初心者に有りがちな動機で、このような通好みの標本を購入していたというのは興味深い。
その後、幾つかユーディアライトを紹介させていただく機会に恵まれたが、どちらかというと収集家向けの鉱物標本という扱いだった。

ユーディアライトの主要な産地はロシアとカナダ。
一般に赤、白、黒の3色で構成されていることが多い。
白はネフェリーン、黒はエジリン。
赤い部分がユーディアライトで、それ以外はおまけである。
過去には紅赤色の透明石もカットされたという。
ロシア・コラ半島産ユーディアライトの醍醐味でもあった、ガラス光沢の煌きを伴うダークラズベリーカラー。
産出の激減に伴い、見かけなくなった。
写真のカットストーンは先日出てきたもの。
宝石質と言うのは憚られるが、不純物の少ない素朴な一品。
ロシア産ならではの色合いが出ている。
当時は千円もしなかったのだけれど、ざっと見た感じ、私にはもう買えないみたいだ。

先日、ユーディアライトのオールドストックを紹介させていただく機会があった。
思いのほか好評で、人々の鉱物への関心が深化しているものと、嬉しくてたまらなかった。
リクエストまで頂戴した。
さっそく探したのだが、イメージ通りのものが無い。
取り扱いはむしろ増えている。
しかし、赤い部分がほとんど見られない。
ユーディアライトの入っていないユーディアライトっておかしいと思うのだが、軒並み一万を越えている。
ヒーリングストーンとしての扱いも急増している。
3つの鉱物の相乗効果というやつなのかもしれないが、この石の場合はそうとはいいきれない難しさがある。
以前は殆ど見かけなかった赤みの強いカナダ産ユーディアライトも見かける。
ブレスにまでなっている。
限られた土地からしか産出しないこの希少石に何が起きたのか。

以下は、素人のたわ言と軽く流していただけたらと思う。
もしお読みになって、強い不快感を覚えられたかたがおられたら、深くお詫び申し上げる。

日本人の特徴というものについて考える機会をいただいた。
アメリカの価値観に倣って、自己主張さえしていれば間違いないと思い込む。
少なくとも私の周囲のアメリカ人は、それが愚かなことと知っている。
或いは、社会的に良いとされるものに憧れ、自らもそうありたいと努力する傾向。
裏をかえせば、誰かに良いといわれなければ、関心を持つことも持たれることもない、ということ。
その崖っぷちを突っ走った結果、私の珍コレクションが存在している。

以前から気になっていた、鉱物標本を「子」と呼ぶ習慣。
「この子はちょっとクセのある子でね」「この子は凄く人を選ぶ子で…」という言い回しは、今に始まったことではない。
ショップの店員さんも使うようになった。
愛着からそう呼ぶのは決して悪いことではないし、石を愛する気持ちが伝わってくるから、きらいではない。
いっぽうで、さまざまな側面において、日本人的な考え方だと感じる。

極端かもしれないが「子は親に尽くすもの」という価値観もひとつ。
経済的自立と精神的自立は違うと思っている。
物理的に親元、或いは保護者のもとを離れるのは容易なこと。
かれらを一人の人間として受け入れられるようになったとき、それが精神的自立だと思うのだ。
自立しろと言いたいのではない。
私自身できているとは考えていない。

人はいつか死ぬ。
生みの親や育ての親を、一人の人間として見送ることができなかったとき、自我に混乱が起きる。
逆であったなら事態はさらに深刻で、遺された親が日常生活に支障をきたし、危機的状況に陥ることもある。
それを見るたび、悲しくてならないのだ。
家族を一人の人間として受け入れられないために起きる問題のひとつに、境界性人格障害がある。
愛情を求めながらも孤独で満たされることのない心は、当事者だけでなく親にもあって、その孤独と渇望の連鎖から抜け出すことは容易ではない。
子は親の所有物ではないと、わかっていても。

話が飛躍してしまった。
全く別の場所で感じたことを、こうしてひとつにまとめてしまったことを、お許しいただきたい。
一生を親に尽くし捧げるのと、一生親に反発して生きることは似ている。
石を「子」と呼べない自分は何か歪んでいるのかと悩むときがある。
投影もひとつの業。
私の手持ちの石は、いずれ然るべき持ち主のもとへ導かれることが多くあるから、自分の所有物になることはない…そんな、ひがみなのかもしれぬ。
霊的な感性は皆無ゆえ。



右が有名なロシアのダークラズベリーカラー。
左が近年主流になっているカナダ産で、やや赤みが強いのが特徴(いずれも夕日で撮影)。
スウェーデンからはピンク系、グリーンランドからはダークレッド、
米からはオレンジなど、産地によって色合いが違っている。
所構わずロシア産ユーディアライトとして販売されていることがある。


20×14×7mm

2012/06/15

ハウライト(本物)


ハウライト Howlite
Tick Canyon, Lang, Los Angeles Co., California, USA



今となってはほとんど産出のない希少石、ハウライト(ハウ石)。
手に入るのはコレクターからの流出品が殆ど。
写真は鉱物学者ヘンリー・ハウ氏が、1868年に発見した土地(原産地)から届けられた貴重なハウライトで、一面が研磨されている。
ハウライトの有名な産地、カリフォルニア付近では、コレクションの流出が少なからずある。
"本物" とされるハウライトをいくつか見る機会に恵まれたが、正直なところマグネサイトと全く見分けがつかない。

高価なパワーストーンの偽物とされ、きらわれるハウライト。
しかしながら、染色加工したハウライトとみなされ嫌悪されていたのは、マグネサイト(菱苦土石)という鉱物である。
本物のハウライトをイミテーションに用いようものなら、大損益となりかねない。(→詳細はハウライト/マグネサイトに記しました)。
つまりハウライトは、戦後ターコイズのイミテーションとして用いられる程度の産出はあったが、現在はターコイズよりも手に入れ難い高級品となってしまった。

前回のハウライト/マグネサイトにかんする記事は、この標本との出会いがきっかけだった。
馴染みのハウライトが希少石に分類されている。
確認したところ、事実であった。
ハウライトとは全く別の鉱物にハウライトの名が与えられ、流通しているのではないか。
ふと目に留まったパワーストーンの一覧表。
美しいビーズの一覧に混じって「ハウライト:別名マグネサイト」なる商品がある。
つまり、ハウライトとマグネサイトが混同されていたことに、業界はとっくに気づいていた(中には本当に別名であるものと信じている販売者もいる)。
ビーズには疎いから、盲点だった。
昨年秋の時点で、この問題が明らかになってから、かなりの時間が経っているという印象を受けた。

ビーズやアクセサリーなど、品揃えを加工製品に頼る業者は、ハウライトの名を外すことが出来なかったのかもしれない。
知名度の関係で、ハウライトの名をマグネサイトに変更するのは極めて困難。
ハウライト・トルコ、ハウライト・ラピスなどはパワーストーンの定番商品。
消費者のほうがむしろそれを知り、受け入れる必要がある。

純粋、崇高、目覚めを意味するとされるハウライト。
なんて気高く麗しい響きだろう。
私自身、ごく初期にたいそう気に入って、周囲にプレゼントしてまわった石だっただけに、衝撃的だった。
ハウライトのほうがマグネサイトよりも僅かに半透明、表面の網目模様が黒い(マグネサイトは茶系)という説明は見かけた。
それをもってしてもわからない。

人気のパワーストーンは、中国や香港などのアジア諸国に持ち込まれ、加工されている。
出荷され日本に届く頃には、詳細な産地はおろか、産出国も不明となってしまうケースが往々にしてある。
不可抗力である。
そのため、販売者は製品の入荷後、消費者に馴染みある無難な産出国を決定のうえ、販売を行っているという。

マグネサイトはアフリカや中国など世界中から産出し、加工は容易で色もよく載る。
今後も天然石ビーズの素材として活躍するものと考えられる。
なお、北朝鮮には36億トンものマグネサイト資源が眠っているらしい。

参考:韓国の情報サイト(日本語):
http://japanese.joins.com/article/079/145079.html

例外として、ブラジルから産出する宝石質のマグネサイト・クラスターがある。
非常に美しく透明感に富み、各方面での評価も高い。
マグネサイトに興味のある方は、是非探していただきたい。
パワーストーンブームが盛り上がりをみせる中、よくもわるくも知名度を上げたハウライト。
「パワーストーンの偽物」としてのハウライトは、おそらく存在しなかった。
純粋、崇高、目覚めを意味する鉱物に間違いは無かった。
おそるべし、ハウライト。


ブラジルからは出ないはずのハウライトだが、もしかすると?

90×57×15mm  60.0g

2012/06/11

イットリウムフローライト


イットリウムフローライト
Yttrium Fluorite
Little Patsy Quarry, Jefferson Co., Colorado, USA



ラベンダーカラーのなめらかなフローライト。
透明感のあるピンキッシュパープルが光を包み込むさまは、まだ見ぬ天上の楽園を思わせる。
イットリウムフローライトは、フローライトのカルシウム成分がイットリウムに置き換わることによって生まれる、希少石のひとつ。
不透明~半透明の珍しいフローライトで、癒しや平和、開放をキーワードとする人気のヒーリングストーンでもある。
イットリウムフローライトは一般に、ブドウの房のような塊状で産するらしい。
そのため、原石の流通は少なく、研磨品やスライスなどの加工品を中心に流通している。
美しく魅力的、しかし謎だらけ。
私にとってはそんな存在。

かねてから好きな石だった。
確か、最初に興味を持ったフローライトはこれだった。
イットリウムという響きは神秘的な魅力にあふれている。
しかしながら謎が多い石である。
限られた人しか手に出来ない希少石とのことであるが、比較的入手は容易であり、現在もコンスタントな産出、及び流通がある。
イットリウムを含む鉱物の多くは放射性鉱物。
このフローライトもかなりのイットリウムを含んでいるという。
果たして安全なのか。
そのあたりについては、全くわからない。
もっぱら霊的存在としての扱いを受け、鉱物としての明確な定義は定かでない。
つまり、好きなのに正体がわからない。
記事も保留になっていた。

イットリウムフローライトの産地とされるエリアは、メキシコ及び北米に集中している。
これまでは硬く不透明なパープルのスライスであることが大半だった。
今回入手したのは、半透明のミルキー・パープル。
コロラド産とある。
アメリカ随所から産出があるにも関わらず、世界的に珍しいというのは不自然に思えてくる。
淡い紫のフローライトを総称してそう呼んでいるようにもみえる。
結晶質の原石も僅かに流通があるが、まるでカルセドニーのようである。
カルセドニーとごっちゃになってない?

ヒーリングストーンの詳細な産地が明らかにされることは珍しい。
今回は幸いにも産地がわかった。
石の正体を探るにあたって、産地は重大な手がかりとなる。
表記の産地、リトル・パッツィは、コロラドの有名なペグマタイト。
イットリウムフローライトと思しき鉱物も出ている。
この石の正式名称は "Yttrofluorite" 若しくは "Yttrocererite" にあたるものと思われる。
鉱物として確かに存在する。
やっとわかったイットリウムフローライトの正体。

以下、イットリウムフローライトの概要。
最初の発見は1911年、ノルウェー。
その判断基準は豊富に含まれたイットリウム成分。
紫以外の色もあるが、社会通念上は紫色の蛍石を指し、色合いがその基準となっているという。
産地はコロラドの他にニューメキシコ、ノースカロライナ、テキサス、米以外ではカナダ、中国、エジプト、ロシア、ウクライナ、ナミビアなど。
なんと、日本からも発見されている。
記載は福島県川俣町!
日本三大ペグマタイトにして放射性鉱物の宝庫、福島からもイットリウムフローライトの産出があった。
いっぽう、メキシコから産したという記録は無い。

ヒーリング関係の資料では、イットリウムフローライトの産地はメキシコのみ、色は紫のみと記されている。
しかしながらそれは、必ずしも鉱物としてのイットリウムフローライトであるとは限らない。
また、健康被害については不明との描写も。
大丈夫なのか。
フローライトの発色にイットリウムが関与することは珍しくないようなので、ヒーリングを旨とするものに関しては、色合いを基準にイットリウムフローライトと呼んでいる可能性も考えられる。
パープル・カルセドニーと混同されているケースもあるかもしれない。
このタンブルに関しては、クラックなどを見る限りではフローライトに相違ない。

石にまつわる謎や神秘性がヒーリングストーンのウリとなっているのは事実。
この記事を見てがっかりされた方もおられるかもしれない。
神秘性が石の本質ではないと信じたい。
鉱物としては、相当量のイットリウムを含む。
砕いて服用することのなきよう。
個人的には大好きな石だが、念のため。


28×23×15mm  15.33g

2012/06/09

テルル


テルル
Tellurite, Quartz
Bambolla Mine, Moctezuma, Sonora, Mexico



Terraという言葉をご存知だろうか。
そうです、地球です。
もともとはラテン語のTellusから。
地球のどこかには、地球という名の鉱物があるという。
天体に因んで命名された鉱物は多いが、地球がその命名の由来となった鉱物の存在については、あまり知られていない。

鉱物に興味を持って間もなく、テルルという鉱物を知った。
最初に手に入れた八川シズエ氏のガイドブックにあった、テルル。
なんて可愛らしい名前だろう。
「地球」に因んで命名された鉱物だという。
探したのだが、誰も知らない。
稀産ゆえなかなか手にする機会はなく、先日ようやく入手した。

テルルは元素の名で、鉱物として一般的なのはテルライト/テルル石(Tellurite)。
自然テルル(Tellurium)の産出も稀にあり、元素鉱物として知られている。
テルル、またテルル鉱物は希産だが、日本からもかつて産出があった。
現在は採取禁止となっている。

写真は、テルル鉱物の宝庫とされるメキシコの鉱山から産したオールドコレクション。
中央に見える、黄色い束のような結晶がテルライトで、ガラス光沢と数センチに及ぶ大きさは、非常に見応えがある。
このような大ぶりの結晶は珍しいそうなのだが、驚くほど安価だったので、上には上があるのだろう。
結晶全体が黄色く見えるのは、石英に内包されたテルルに因る。
水晶をイエローに染める鉱物としては、前回取り上げたサルファーなど。

本文下、左に掲載した写真はテルルの原産地、Moctezuma Mineからの貴重な自然テルル。
銀色の部分がそれにあたる。
自然テルルとテルライトの区別がつかない段階で、両方購入したのは単に安くて綺麗だったからなのだが、あやうく後悔するところだった。
テルルの化学変化により生じるとされるテルル鉱物は多岐にわたり、表面に付着した粉末状の黄色の物質も、そのひとつだそうだ。

テルルについて調べたところ、不穏な記事にたどり着いた。
昨年起きた東京電力福島第一原発事故において、翌日にテルルの同位体が検出されたらしい。
ゆえに、テルルと聞いて、得体の知れない恐怖を連想する方も多いかもしれない。
詳しくは下記の資料を参照していただきたい。

参考:テルル132検出に関して
http://hiroakikoide.wordpress.com/2011/06/06/tanemaki-jun6/

ちょうど去年の今頃、この問題が発覚し、何も知らない人たちの間で騒ぎになっていたとある。
全く知らなかった。
私の長年の憧れだったテルルが、大衆の恐怖を煽っていたのか。
ご存知の通り、ヨウ素と同様(たぶん)、テルルそのものは放射性鉱物ではない。
毒性はあるが、レアメタルとして工業用に用いられる貴重な資源である。

テルルが発見されたのは1782年。
1798年、新元素として確認されたさい、地球の名を意味するラテン語から名づけられたという。
このような希な元素に対し、我々にとってかけがえのない地球の名を与えたのはどういうことだろう。

一説では、直前に発見されたウランに対する皮肉を交えて名付けられたという。
ウランは海王星に因んで命名された。
前回ムーンストーンを取り上げたさい、ムーンストーンがもともと黒に近い鉱物であったなら、「冥王星」などと命名されていてもおかしくないのでは、と記した。
冥王星に、冥界の王を連想したからである。
追記したのは、テルルについて調べるうちに、冥王星に因んで名づけられた元素がプルトニウムであることを知り、その偶然に恐怖を感じたせい。
地球から遠く離れた闇に位置する2つの天体に、ウランやプルトニウムの名が冠せられたことはなかなかに興味深い。
研究者たちはウランやプルトニウムに、人類が侵されるであろう狂気と、その結果我々が直面する不吉な予兆を垣間見たのではないかとすら思えてくる。

海外では、テルルのヒーリングストーンとしての扱いも少なからずある様子。
サードアイに働きかけ、真実を見極める力と、異次元の旅をサポートするらしい。
妙に説得力を感じてしまう。
Terraという言葉が大好きだった。
人類の罪は私たちの罪。
誰かを悪者にするのみならず、自然にすら罪をなすりつけるのは人として正しいか。
地球に恐れを抱くのはおそらく、間違っていない。
私たちは試されている。

参考:History of the Ancient Stars and the Origins of A Rare Element:
http://peacefulearthangel.wordpress.com/

参考:Whispering Woods Crystal Grimoire:
http://www.peacefulmind.com/stones2.htm




61×45×23mm  57.65g

2012/06/07

サルファー(阿蘇山)


サルファー Sulphur
熊本県阿蘇市阿蘇山



お菓子のような可愛い結晶。
サクサクと噛めばとろけてしまいそう。
しかし、絶対に食べてはならない。
この結晶には、毒性がある。
日本を代表する鉱物のひとつ、サルファー(自然硫黄)である。

サルファーは、単一の元素のみで構成される元素鉱物のひとつ。
火山列島である日本では、多くの産出があった。
古くから工業用、産業用に用いられ、その名残りを硫黄島などの名にみることができる(参考:硫黄島の鉱物 - うずら石)。
サルファーといえば温泉。
世界的にみると通好みの鉱物だが、日本では癒しや健康の象徴として、わりと人気がある。

鉱物に興味を持ち始めた頃、天然レモンクォーツなるものと出合った。
サルファーが内包されることによって、淡いレモンイエローに染まった水晶だった。
強くこすると硫黄のにおいがする…
じゃあ、硫黄の原石ってどんなものだろう?
それがきっかけで出会ったのが、この阿蘇山のサルファーだった。
一目見て気に入った。

サルファーは世界中から産出し、産地により形状や質感は異なっている。
ボリビア産の大きなクラスター、ロシアの透明結晶、イタリアの鮮やかなレモンイエローの結晶などが有名。
資源としては枯渇しているが、国産標本も流通はある。
私の大好きな阿蘇山のサルファーは、半透明の塊状で産し、軽くほどよい大きさ、独特の質感を特徴とする。
常に側に置いておきたくなる。

※サルファーの管理にはくれぐれもご注意を。人体への毒性の他にも、鉱物や金属類が変質することがある(あった)。魔を除けるパワーは半端ないらしい。聖書では、神が人を罰するための道具として登場し、中国においては世界最初の火薬を作るための原料となったという(ジュディ・ホール)。

地獄谷という場所をご存知だろうか。
小学生の頃、富山県は立山の地獄谷を訪れた。
地獄の名にふさわしい荒涼とした土地に道は続いていた。

吹き出すサルファー!
地獄からなんか出る前に走れ!

立ち込める硫黄の臭いに呼吸を我慢しながら、必死で岩を駆け下りた。
地獄から脱出したときの安堵を、今でも覚えている。
立山の地獄谷は古くから信仰の場とされ、なんと136もの地獄があるらしい。

月日は過ぎ、私も大人になった。
今でも地獄谷のことは忘れられない。
いっぽうで、サルファーは私のお気に入りの鉱物のひとつとなった。
遥かな子供時代を想起させる、冒険と安らぎの石。
温泉はご褒美。
そういえば、北海道の登別温泉にも地獄谷があった。
以前ヒッチハイクの旅で訪れたさい、遠くから見物した。
硫黄のかおりは、旅の思い出とともに。


未測定

2012/06/05

ムーンストーン


ムーンストーン Moon Stone
Tamil Nadu, India



昨夜、月蝕の話題が出たばかりなので、今日は月にまつわるパワーストーンを取り上げようと思う。
ムーンクォーツではなく本家・ムーンストーン。
ムーンストーンの中でも、ブルーのシラー(輝き)が浮かび上がるものはブルームーンストーンと呼ばれ、価値が高いとされる。
多くはカットされ、宝石やビーズとなって流通している。
写真は、意外に珍しい、ブルームーンストーンの原石。

この原石をいつどこで購入したのかについては覚えていない。
産地と名前のメモが入っていなかったら、見落としていたかもしれない。
ムーンストーンのシラーを楽しむには、研磨加工が必要。
この標本も、結晶の一面がカットされている…はずだったのだが、どうも天然結晶のまま加工を免れている。
母岩のうえに付いた原石が薄いため、光を透しやすいのが原因だろうか。
オレンジを帯びたブルーの炎が結晶全体を包むさまを昼間から拝めるとは思わなかった。
実際の月と同様、原石の場合、太陽光でそれを見ることはなかなか難しい。

ロイヤルブルームーンストーン、レインボームーンストーン。
鉱物としては非常にわかりにくい。
ムーンストーンの呼び名は、特定の鉱物を指す言葉ではない。
うっすらとブルーの浮かぶ鉱物名を挙げていくと、きりがないほどにその種類は多く、特定が難しいために混乱を招いている。
ムーンストーンと呼ばれる石の正体は、サニディン、アノーソクレース、ラブラドライト
いずれも長石に類するが、その中のどれか一つを指定せよといわれると、専門家も言葉に詰まってしまうようである。

ムーンストーンの偽物 "ペリステライト" という鉱物も存在する。
どこからか、それはムーンストーンじゃなくてペリステライトだ!という声があがり、大騒ぎになったのも懐かしい。
俗にいわれる「戦慄のムーンストーン・えちごや騒動」である(無い)。
しかしながらペリステライトもまた、長石の一種である。
詳細について記すと長文になってしまうため、専門書を参照していただきたい。

パワーストーンは大衆文化、鉱物標本は学問に近いものと捉えている。
議論は堂々巡りで、建設的とはいえぬ。
子供が鉱物名を誤解していたとして、それを教えたところでなんになろう。
元来、ムーンストーンは白かったと思っている。
もしそれが黒ければ、「冥王星(※追記)」「ブラックホール」等、別の名前で定着していたはずだ。
月にまつわる、神秘的な伝説が数多く存在するように。

※追記:冥王星の名を冠した元素はプルトニウムである(→詳細:テルル)。

日本では、月はたいそう縁起のよいものとして、好まれてきた歴史がある。
サンストーンよりムーンストーンのほうが人気が高いのも、そのせいかもしれない。
例えば、月にはうさぎが棲んでいるという伝説がある。
満月には白うさぎが餅をつく、ということになっている。
月にうさぎのいる国は、意外に多いようだ。
直接聞いただけなので、文化的には異なるのかもしれないが、少なくともインド、西ドイツの方から直接「自分の国も月にうさぎがいる」と聞いたことがある。


ここではジャータカ(仏教説話)に出てくるうさぎの物語が起源となって、月にうさぎがいるという伝説が生まれた旨、記されている。
ジャータカは私が物心ついたとき、既に私の心の中にあった。
兎本生と呼ばれるその物語は、私がうさぎに興味を持ち、インドに行くきっかけともなった思い入れのある説話。
インド、日本については、ジャータカが月のうさぎの言い伝えの由来になったとしている。
いっぽうで、世界には月光が狂気をもたらすとされ、忌み嫌う土地があると聞く。
月の影響で恐ろしい狼に変身する人もいた気がする。
一般に、欧米人は月を好まないとされている。
調べてみると発祥はどうも、ドイツ。
月は悪魔や魔女の象徴として描かれているという(ドイツは魔女狩りがもっとも盛んだった国)。
実際、欧米ではムーンストーンに対し、邪悪で背徳的な意味合いを与えることも少なくないようである。
うさぎがいるんじゃなかったのか。
ドイツの夜空にうさぎがいると教えてくれたのは、西ドイツの学者の息子。
父の跡を追い研究者を目指していた青年だ。
彼の性格や風貌は、オカルト的寓話とは全く結びつかないし、とくに仏教徒というわけでもなかったから、不思議なのだ。
欧州のオカルトは根が深い。
なぜドイツに両極端な二つの月のイメージが並存するのかについて、これ以上の言及は控える。

話を戻そう。
ムーンストーンは鉱物名ではない。
サニディンだったりアノーソクレースだったり、時々ラブラドライトやペリステライトであったりもする。

参考:ペリステライトとムーンストーン、ラブラドライト
http://www.cgl.co.jp/latest_jewel/gemmy/128/index.html

上記の3つの鉱物は、いずれも長石の一種。
宝石の場合は区別をするべきだが、大量生産が常であり、また消耗品でもあるパワーストーンの場合、かえって混乱の原因になりそう。
写真の石はインド産だから、ラブラドライトの可能性が高い。
しかしながら、産地からはペリステライトも出ている。
ムーンストーンより先は、鑑定するしかない。
そこまでして何になろう。
正式なムーンストーンとされるサニディンのすべてが、月の輝きを想わせるとは限らないのだから。

論争に決着が着いたかどうかはわからない。
ペリステライトはブルームーンストーンの偽物というのは言いすぎであろう。
ムーンストーンと呼ばれるのはひとつの鉱物ではない。
鉱物が違えば問題も起きるから、パワーストーンにもある程度の定義は必要だ。
ただ、宝石の場合はともかく、産地すら明らかにされない消耗品としてのパワーストーンに、細かな決め事が必要だろうか。

以下、素人の意見。
パワーストーンに限っては、青白いシラーの出る長石類をムーンストーンに統一してしまおう。
成分でなく外観や質を基準にし、規定の範囲内でムーンストーンの呼称を使ってしまおう。
いっぽう、お馴染みのオレンジムーン、ダークグレームーンなどについては、ムーンストーンとしての扱いは甚だ疑問であり、月のビジュアルとして考えると、どうにも不吉であり、不気味である。
ムーンストーンを邪悪な石にしてはいけない。
別途、名称の考案を望む。


47×30×12mm  19.15g

今週、話題性が確認された10の鉱物

What Mineral Would You Take with You to A Deserted Island?