2012/03/14

サチャロカアゼツライト


サチャロカアゼツライト
Satyaloka Azeztulite
Satyaloka Monastery, Satyaloka, India



思えばサチャロカアゼツライトほど不確かな存在はなかった。
私がその存在を知ったときは、ミルキークォーツの塊だった。
やがて極小の結晶が主流となる。
H&E社の商品である「アゼツライト」(→アゼツライトの項参照)の名を冠するのはいかがなものかとの声を受け、H&E社の商品のひとつに加わったさいには、褐色を帯びた不透明な石英の塊と化していた。
当初「サチャロカクォーツ」の名で発売されたが、産出の激減を受けて生産中止。
代わりとして、現地から新たに発見されたという透明水晶「サチャマニクォーツ」が発表された。

2年が過ぎ、鉱物の世界に戻ってみると、「サチャマニクォーツ」は生産中止に。
そのH&E社から最近になって「サチャロカアゼツライト」と明記された商品が発表されたことを知る。
シモンズ氏にはお世話になったから、言及は控える。

アゼツライト同様、サチャロカアゼツライトもまた、形而上の概念である。
サチャロカとは南インドの地名。
その地から出現するというサチャロカアゼツライトは、数年前までニューエイジストーンの代表格であった。
高い波動と崇高な輝きを放ち、霊能力の強化やヒーリングに欠かせない存在として、高い人気を誇った。
かのH&E社が販売権を独占するまでは、その複雑な入手経路ゆえに、限られた売り手しか扱わなかった。
需要に供給が追いつかず、価格は異常とも思えるほどに高騰した。
H&E社が販売権を独占するまでは。
ただ、色や形、質感や大きさなどに随時変化が生じる、産地の様子がいっさい伝わってこないなど、謎は多い。
ある時は透明水晶、ある時は石英の塊。
米粒大かと思いきや巨大化し、オレンジや赤などもたまに登場する。
共通点はサチャロカ地方産出の石英ということだけ。
そうと言われなければ判断できないのは、高額商品だけに致命的な問題であった。

※パワーで鑑定できる人もいるとは思うが、それだけを根拠に販売すると逮捕されることがあるので注意したい。

写真の石は、販売権がH&E社に移る直前まで流通していた、幻のサチャロカアゼツライト。
米粒大だがポイント状の水晶だった。
いっぽう、H&E社から発売されたのは、ほんのりイエローを帯びた石英のポリッシュ(写真)。
現在販売されている「サチャロカアゼツライト」に似ている。
1988年に Dharma Dharini 氏によって世界に紹介されたというサチャロカアゼツ。
その不確かな存在に翻弄され、対応に追われた小売業者。
ある意味修行だったのかもしれぬ。

かつて、サチャロカアゼツは、南インドの寺院で、現地の僧侶が手作業で採掘しているということになっていた。
当地から産する水晶を拾い集めるのが修行の一環ということらしかった。
奇妙な印象は否めずにいた。
南インドという土地柄、また関係者の面持ちから察するに、欧米の若者向けのアシュラム若しくはコミューン、といった実態が想像されたからである。
調べたら実際そんな感じだった。
機会があれば訪れてみたいとよく人に話していたのだが、ほとんどの方は「?」という表情をされていた。
サチャロカアゼツは、インドでもトップレベルの修行者が得た、霊験あらたかな賜り物。
そう考えた人がほとんどだったのかも。

サチャロカ寺院、という翻訳が誤解を招いたのは確実。
それらがコピペされ、広まったせいでは?
寺院、僧侶という表現で語られると、少なくとも若い白人には結びつかない。
H&E社の従業員にお会いしたさい、サチャロカの実態について尋ねたことがあるのだが、「行ったことがないのでわからない」とのことだった。

サチャロカアゼツについては「持つ人を選ぶ」という特権意識が強調され、入手の難しさばかりが語られた。
難しいと感じたことはない。
興味を抱いた石はだいたい手元に来る。
なぜなら私は石に選ばれないよう努力しているからである。
冗談である。
少なくとも、ずっと欲しいと思っているがご縁がない、という方はおられなかったはず。
ただ、20年前のサチャロカアゼツについては全くわからない。

サチャロカのコミュニティを訪れるのがここ数年の夢であった。
歴代のサチャロカアゼツをコンプリートしてる人物は、きっとここにいる。
サチャロカアゼツを認定する人物は、きっとここにいる。
水晶や石英がアゼツライトに昇格する基準を明らかにするため、一度訪れる必要がある。
サチャロカのコミュニティまでの道のりや、施設の位置はだいたいわかっている。
ただし、主力商品を失って倒産したおそれがあり、現在も採掘が続いているかどうかはわからない。

かつてインドを旅したとき、私はサチャロカ近くを確実に通過している。
奇しくも全盛期であったために、無念でならない。
しかし、私は当時、石に全く興味がなかった。
偶然コミュニティを見つけても、サチャロカアゼツを持ち帰ることはまずなかった。
実際、南インドでは、現地の宝石商に気に入られ、宝石を次々にプレゼントされて、正直困った。
日本人の感覚からすると宝石は大きすぎて、成金に間違えられること必至。
また、現地加工のためデザイン性皆無であり、日本ではとても身につけられないシロモノであった。
知り合いの家に向かう途中に彼の店があったため、通るたびに呼び止められ、断るわけにいかなかったのだ。
邪魔だったので、後に知り合った人たちに全部あげてしまった。
今更ながら記憶をたどると、けっこうな品質の貴石も混ざっていたのだが、日本に持ち帰っても数年後に失う運命だったから、むしろそれで良かったんだろう。

若気の至りか、もらうだけもらっておきながら、彼には内緒で町を去った。
インド人はよく物をくれる。
価値がわからなければ、とりあえずもらっておいたほうがいいかもしれない。
ただし、あなたが女性であれば、絶対に与えてはならない。


8×5×3mm(最大)計1.55g






追記

1)この記事をアップした3月に、サチャロカのコミュニティが消滅したとの噂が流れ、無断転載を疑われた件について

まず、偶然の一致を信じるかどうか悩むとして、私なりの考えを追記させていただいたのが以下の文章です。


サチャロカアゼツがH&E社の管理下となる以前は、サチャロカ・コミュニティの敷地内、もしくは周辺で小規模な採掘作業が行われているとされていました。
写真の石にも手掘りの形跡があります。
その後、この石の権利がH&E社に移り、大量生産が求められたために、採掘地が同地方の山岳地帯に移されたものと考えるのが妥当ではないでしょうか。
サチャロカのコミュニティを紹介したブログは、何年も前に更新が途絶えています。
なおこの記事は、私が独自に調べ、過去の経験をもとに記したものであること、ご理解願います。

しかしながら、さらに追記しますと、結論としては偶然の一致でありました。
正確には、私のほうが一週間遅いので、無断転載を疑われた方のほうが多かったかもしれません。というのも、ソースが全く同じなのです。
ただ、何年も前からあったサイトで、以前から気に入って愛読していたために、私には全く予想できませんでした。
ソースの提示は、(存続していれば)今後のコミュニティの運営に支障をきたすという懸念があり、あえて伏せました。
無関係であることを関係者様から伺い、感謝すると同時に、申し訳なく思っています。
噂については、サチャロカのコミュニティに非常に詳しい方が3月8日に言及されたとみられます。
この記事自体は3月入ってすぐに書いたものと記憶しておりますので、私自身困惑しています。
私が噂の存在を知ったのは7月末、そして確認が取れたのが今日ということになります。
ブログ主様、情報の持ち主様にはご迷惑をおかけしたことをお詫びすると共に、現状としては、まさかの偶然の一致を信じていただくしかなく無念に思います。
また、サチャロカ・コミュニティの閉鎖疑惑については、冗談のつもりで記したものであり、事実関係は把握できていません。(2012/08/06 追記)


2)サチャロカマスターアゼツライトの真偽について

南インド・サチャロカ地方から水晶が産出するという地質学的データはありません。
また、サチャロカコミュニティは水晶を採取するための組織ではなく、あくまでスピリチュアリティを探求するための修行の場でした。
いつの間にか鉱物の名産地になっているのは奇妙です。
サチャロカアゼツライトとして流通している水晶が、実はアメリカ・アーカンソー産水晶だったとして問題になっています。
関係者の情報が漏れ、明るみに出たようです。
比較的大きさのあるサチャロカマスターアゼツライトについては、ブラジル産やアーカンソー産の水晶と考えるのが妥当であり、サチャロカから産したとするには無理があります。

お世話になっている女性のご厚意で、原石をお預かりし、確認させていただきました。
ブラジル産水晶であると考えられます(→サチャロカマスターグランドアース)。
T様、いつもありがとうございます。

アーカンソー産水晶については、過去にも "ノースカロライナ産アゼツライト透明原石" と称して販売され、ファンの顰蹙(ひんしゅく)をかったことでも有名です。
決して悪いものではなく、世界で最もクリアな水晶のひとつとして、収集家にも高い人気があります。
ただ、小さなポイントが3000円以上の値を付けるようなことはまずありません。
偽物にはご注意ください。

サチャロカは広大な南インドのごく一部に過ぎず、インド人にも知らない人がいるほど。
コミュニティは欧米人を中心とし、ミレニアムをピークに稼動していた宗教団体の一種であって、古くから存在するインドの聖地ではないというのが私の見解です。(2013/08/18 最終追記)


2012/03/12

フローライト(ロジャリー)


フローライト Fluorite
Penny's Pocket, Rogerley Mine, Frosterley, Weardale
North Pennines, Co. Durham, England



数あるフローライトの中で最も格調高いとされる、英国・ロジャリー鉱山のフローライト。
微量のユーロピウムを含み、極めて強い蛍光性を示す。
本来はグリーン。
太陽光、或いは室内灯にあてただけでブルーに色変化を起こす。
曇り空にて撮影したが、結晶全体がブルーグリーンに写っているのは、ロジャリー産フローライトならでは。

フローライトの中には、紫外線に反応し、色合いが変化するものがある。
イギリスや中国、モロッコ産などが有名(日本からも稀に産出するらしい)。
色変化の度合いはさまざまで、全く蛍光しないフローライトもある。
また、多くはブラックライトが必要。
このロジャリーのグリーン・フローライトの豪快な色変化は、世界的にも稀なんだそうだ。

こちらは2011年産出の貫入双晶。
極めてクリア、比較的大きさのあるシャープな結晶体で、ひときわ青が濃い。
ロジャリー鉱山から発見されるのは、グリーンフローライトが中心だが、発見年代や鉱床の違いによる特性についても重視される。
そのわずかな差異もまた、収集家に愛される所以となっている。

さて、以前から気になっていたのだが、フローライトの結晶内に、白い内包物がみられることがある。
この標本もそう(本文下の写真がわかりやすいかも)。
私はこの内包物が大好き。
空にうかぶ雲のような、南国の海の泡のような、この何か。
ざっとみた感じ、気にかけている方はおられない様子なので、これ以上触れない。

この標本は、往年のロジャリー産フローライトの魅力を凝縮したかのような貫禄の品といえる。
なお、歴史と伝統を重んじる英国では、各地から産出する特徴的な鉱物に、格調高いネーミング(愛称)を与えることが多い。
見ていると、けっこう面白い。
詳しくはまたの機会に。




32×31×28mm  37.30g

2012/03/10

グランドキャニオンワンダーストーン


グランドキャニオンワンダーストーン
Grand Canyon Wonderstone
Grand Canyon Area, Arizona, USA



グランドキャニオンワンダーストーン。
なんだかすごい名前である。
鉱物としては、鉄分に富むライオライト(流紋岩)の一種。
米アリゾナ・グランドキャニオンの50万年前の地層から採取されるという。
グランドキャニオン国立公園の敷地内から採れるわけではなく(たぶん捕まる)、産地はあくまでその周辺らしい。
しかしながら、パワースポットのエネルギーを宿したヒーリングストーンとして、一部で人気があるようだ。

特徴は、レッド、オレンジ、イエローの暖色系パターン。
規則的な縞模様は、すべての石に現れる訳ではない。
また、莫大な人気を誇る石というわけではない。
ヨーロッパのごく一部では知られているようだが、扱いは地味。
ヒーリングストーンとしての扱いは少なく、むしろこの色合いの美しさに焦点が当てられ、宝飾品として注目されているようだ。

ワンダーストーンの名を持つ石は、アメリカほか世界中から産出する。
キロ単位で取引され、工芸品の素材として、また建築用素材としても用いられる。
いずれもマグマ由来のライオライトである。
なお、同地から得られる「グランドキャニオンジャスパー」、こちらは全く別の石。
さまざまな色合いが混在したシックな石で、印象としてはピクチャージャスパーに近い。

グランドキャニオンワンダーストーンは、いうなれば、これからの石。
この石のもつ温かみは、多くの人々を虜にする魅力に満ちている。
数あるワンダーストーンの中で、今後特別な扱いを受ける可能性を秘めているのは、このグランドキャニオンワンダーストーンくらい。
さほど高価なものでもないので、手に入れていただきたい。


27×22×19mm  15.32g





2012/03/07

パープルアパタイト


パープルアパタイト
Purple Apatite
Shingus, Haramosh Mts., Skardu District, Baltistan, Pakistan



淡いパープルのアパタイトに、紺色のインディゴライト(エルバイトトルマリン)が共生する豪華な標本。
先端に広がるアパタイトの結晶群は、まるで花のよう。

アパタイトといえば歯みがき?
石がちょっと好きな人であれば、ブルーを連想するかもしれない。
アパタイトにはブルーのほかに無色、イエロー、グリーン、ピンクなどさまざまな色合いがある。
紫色のアパタイトは、けっこう珍しい。
カットされコレクション用のルースとして流通しているが、誰もが気軽に買える価格とはいえない。
また、透明石は極めて稀で、霧のようなインクルージョンが入っているのが一般的。
もし、全くダメージのないパープルアパタイトのルースが格安で販売されていたら、お店の人に訳を聞いてみよう。

パープルアパタイトはなんとなく盛り上がっている…ような気がする。
イエローやピンクは比較的安価で入手できるが、これまでパープルは本当に少なかった。
若干流通の増えた今が買い時かも。

写真の標本は、実は安かった。
確かに透明感はいまひとつ。
また、アパタイト全体がパープルではなく、淡いグリーン~パープル~ピンクの3色に分かれている。
大きさはあるから私はこれで満足。
上質のパープルアパタイトは、透明感に富むラベンダーカラーを示し、大きく柱状に結晶している。
見かけたら拝んでおこう。
ちなみにアパタイトには三種類あり、パープルアパタイトをはじめ、私たちが目にするアパタイトの多くは、フローアパタイト(フッ素燐灰石)に分類される。

アパタイトにはさほど興味がなかった。
今回は、おまけ(インディゴライト)に惹かれて衝動買い。
シャープで繊細な、インディゴライトの輝きに負けた。
内部にも結晶が入り込んでいて、母岩のあちこちがインディゴブルーに彩られている。
これだけでも十分価値があるのに、ラベンダーを思わせるアパタイトとの組み合わせは、まるで見知らぬ芸術家の作品のようだった。
神様はよくぞこんな不思議なものを創られたと思う(以前も書いたような気がする)。

気になるのは産地である。
アフガニスタン、またその周辺諸国から産出する鉱物は、情勢などの理由から、複雑なルートをたどる。
産地不明となってしまうことも少なくない。
収集家、特に欧米では産地を重視するため、それっぽい地名を宛がうこともあるようだ。
この標本も、アフガンから出たものではないかと考えた。
美しすぎる違和感。
アフガニスタンでは、見栄えを良くするために、母岩や結晶にまでも手を加えることがある。
この標本ももしかしたら…?と、疑いたくなるのが人の心。
情勢の不安定な国々と隣接するパキスタンの業者が、鉱物資源の闇取引に関わっているという噂まで聞こえるほどの難しさが、そこにはある。

上記の土地は多数の鉱物を産する有名なペグマタイトにあたり、アパタイトの産出もあること、また色としてはパープルというよりパープルピンクに近いことから、パキスタン産だと思うことにする。
実際のところは、わからない。
売っている人も知らなかったりする。
この標本の産地とされるスカルドゥは、鉱物資源の宝庫ということになっている。
いっぽう、スカルドゥは鉱物の取引がさかんな町で、アフガンだけでなくタジキスタンや新疆ウイグル自治区(中国)産出の鉱物まで流れてくるという噂があったりもする。
知らないほうがいいことが、この世にはある。
パキスタンからの鉱物がこのところ業界を圧倒しているのは、私たちには知り得ない複雑な事情が絡んでいるんだろう。

本当に美しい。
白い部分は長石、インディゴライトの隙間にみえる赤は雲母と思われる。
ペグマタイト(※)から出てきた感が満載だ。
それ以上は考えないことにする。
春を待たずして、こんなにも魅力的な花にめぐりあうことができたのだから。


※ペグマタイト

おおざっぱにいうと、売れ筋パワーストーンが豊富に出てくる地層のこと。モリオンやトパーズ、放射性鉱物などが、日本の某ペグマタイトから産出するのは有名である。アフガニスタンのラグマーン・ヌーリスタン付近のペグマタイトからは、トルマリン、クンツァイト、ベリル(アクアマリン、エメラルド、モルガナイトほか)、雲母や長石、放射性鉱物各種など、高品質かつ多彩な鉱物が多く産出している模様(→詳細はパライバトルマリンにて)。




45×30×28mm  24.98g

2012/03/05

サニディン


サニディン Sanidine
Volkesfeld, Eifel, Germany



うっすらと浮かぶ虹が美しい。
ドイツからやってきただけあって、まるでビールのよう。
サニディン(サニジン)は長石の一種で、ドイツから産出する代表的な鉱物のひとつ。
不規則な結晶形を特徴とし、無色透明~白、ブラウンや灰色などさまざまな色合いを示す。
ドイツ・アイフェル地方から産する、ライトブラウン/ゴールドのサニディンの美しさは世界的に有名で、ファンは多い。

「超能力と結びつく力が強く、それを言語化または文字化して、現実のものとして残しておくことが可能となるよう導く力があると言われています」(『パワーストーン百科全書』八川シズエ著)

初めて手に入れた鉱物のガイドブックにあった、衝撃の一節。
真っ先に目をつけた。
初期に入手したサニディンは、灰色の欠片。
確か国産で、どこかの大学の地質学者の採取品だった。
最も美しいとされるドイツ・アイフェルのサニディンをようやっと手に入れたのは、昨年春のこと。
その堂々たるジャーマンビールカラーに圧倒された。

ドイツ南西部に位置するアイフェル地方は、希産鉱物の産地として知られている。
サニディンやアウインほか、ここでしか採れないといわれる鉱物も数多く産出する。
アイフェルは、太古の火山活動により形成された湖と、緑豊かな景色が広がるリゾート地。
雪解けを待って、鉱物の採集に訪れるファンは多い。
火山岩の中には未知なる感動が隠れている。

ドイツの鉱物はマニアックである。
ドイツの鉱物愛好家もまた同じ。
彼らの鉱物に対するこだわりは半端ないらしい。
王道をきらう国民性と関係があるそうだが、まだはっきりとは確認できていない。
ドイツのミュンヘンショーは世界的に有名なミネラルショーの一つだが、内容の濃さには定評がある。
標本の鑑賞にあたっては、片手にビールを持ちつつ腕を組み、眉間にしわをよせて考察を述べなければならない。
部屋にはもちろんミネラルカレンダー "Mineralien" を掲げ、こだわりをアピール。
なんせゲーテを生んだ国である。
ゲーサイトがゲーテに因んで名づけられた鉱物であることをご存知の方は多いと思う。
詩人、小説家、哲学者など、さまざまな側面を持つゲーテは、熱心な鉱物収集家でもあった。
ゲーサイトはゲーテを知る鉱物学者によって、彼の存命中にその名を与えられたという。

メロディ氏によるとサニディンは、生きづらさを抱える人々のサンクチュアリ的存在であるらしい。
この石を、人生に行き詰ったあなたにささげたい。
もちろんアイフェルのジャーマンビール色のサニディン、これでもう間違いない。


41×35×24mm  41.37g

2012/03/02

アンデシン/うずら石


アンデシン/うずら石
Andesine
東京都小笠原村字硫黄島



硫黄島、南海岸に分布しているという、不思議な形の鉱物。
白い部分がアンデシン。
グレーの部分は溶岩に由来する。
その外観がまるでうずら(の玉子?)のようにみえることから、かつては現地の人々の間で "うずら石" と呼ばれ、親しまれたそうだ。
白いアンデシンが立体的に交差するさまは、どことなく十字石を思わせる。
過去には島で商業的に硫黄の採掘が行われ、島名の由来となったほか、この奇妙なアンデシン/うずら石の産地として、鉱物愛好家には知られた存在のよう。
なお、近年注目を集めている赤いアンデシンについては「アンデシン/ラブラドライト」に記した。

硫黄島(いおうとう)。
行政上の都合で東京都に含まれるが、都内からは見ることができない。
東京湾の遥か南、太平洋に浮かぶ小笠原諸島。
火山から成る小笠原の島々からは、興味深い鉱物が数多く産出することで知られている。
日本列島から南に向けて点在する小笠原諸島の南端に位置するのが、硫黄島。
東京からは約1200kmもの距離がある。
ちなみに、さらに約1200km南下すると、グアム島に着いてしまうらしい。
沖縄よりずっとずっと南にある、亜熱帯気候の島。
なのに、陽気な南の楽園といったイメージが出てこないのは、やはり戦争のせいか。

硫黄島は第二次世界大戦末期、多くの犠牲者を出した激戦地として有名である。
戦前は千人を越える日本人が生活していたが、現在、関係者以外の島への立入りは禁止されている。
故郷に戻ることの許されぬ元島民やその子孫、戦没者の遺族らが時折硫黄島を訪れ、うずら石を祈念に持ち帰るという。

不勉強ゆえ、硫黄島で激戦が繰り広げられていたことは知らなかった。
昭和二十年、米軍・日本軍あわせて5万人もの兵士がこの島で命を落した。
硫黄島は米軍の占領下に置かれ、1968年に我が国に返還された後、自衛隊の基地となっている。
日米両国による硫黄島での合同慰霊祭で、アメリカと日本の代表らが握手を交わし、平和を誓ったのは、80年代に入ってから。
戦没者の遺骨は現在も収容されず島に残されている(戦争についてはサッパリなので、詳しくはWikipediaを参照して下さい!)。

硫黄島の名前はよく聞く。
自分はどうも、兵士を乗せた船が沈没し、生き残った人々が流れ着いた島だと思い込んでいた。
この島をめぐる戦時中、及び戦後の蟠りについては全くの無知であった。
重い歴史を背負ったこの石を、何も知らない私が持っていても良いものかと悩み、社長さんにお話を伺ったところ、意外な事実が判明した。
実はこの標本、戦前から私の実家近くにあったとのこと。
不思議なご縁だった。
貴重品だから、スリリングだからと、怖いもの見たさで採りに行くようなものでは無いと思っている。
日米間を往復し、最終的には反日感情を抱くアメリカンと、世界平和について語り合うほどの構えが必要となろう。
うずら石はそれらをやり遂げたのち、ようやっと手にすべきものと心得よ。
誰コイツ?偉そうな奴だね。

さて、硫黄島のアンデシンは、稀にみるレアストーンなのかというと、そうでもないらしい。
南海岸がうずら石によって埋め尽されている状態だという噂も。
島に行くことさえできれば、素人でも短時間で採取が可能だそうだ。
ただ、写真の石とは異なり、花のように広がっている標本が多く見受けられる。
まるで黒い砂漠の薔薇。
中には空き缶のようにぺしゃんこになったものも。

小笠原諸島において、硫黄島が発見されたのは、記録の上では18世紀に入ってから。
日本人の入植が始まったのは1904(明治37)年頃とされている。
硫黄島には先住民族がいたというが、その時既に無人島と化していたようである。
無人島から持ってきた鉱物が、東京うまれ・地元育ち?
非常に興味深い現象かもしれない。


※なお、鹿児島県にも硫黄島と呼ばれる島があり、硫黄の産地として知られている。
同じく火山島であり、産出する鉱物も似通っているため、一部で混同されている様子。
薩摩硫黄島とあれば鹿児島県のほうになる。


14×11×8mm(最大)

今週、話題性が確認された10の鉱物

What Mineral Would You Take with You to A Deserted Island?