2011/10/08

ザギマウンテンクォーツ


ザギマウンテンクォーツ
Zagi Mountain Quartz
Zagi Mountain, Mulla Ghori, Khyber Agency, FATA, Pakistan



ザギマウンテンクォーツ。
パキスタンのザギ・マウンテンから産出する水晶である。
さまざまな呼び名があるようだが、ここではザギマウンテンクォーツと呼ぶことにする。
ヒーリングストーンとして名高い石で、その存在は以前から知っていた。
ピンと来ないというのが正直な感想だった。

ザギマウンテンクォーツの特徴は、その多彩な内包物。
エジリン、アストロフィライトのほか、トルマリン(ブラックトルマリンなど)、アンフィボール類(アクチノライト、リーベカイトなど)を含む。
ベースはクリアクォーツ。
内包物によって、赤やオレンジ、グリーン、ブラウン~ダークブラウン、黒などの色合いを示す。
初期は大小さまざまな、シンプルなポイントが中心だった(本文下右側の写真)。
現在はエレスチャル状、ポイント状、塊状など、多様化が進んでいる。
スモーキークォーツやミルキークォーツ・ベースのザギマウンテンクォーツも見かけるようになった。
今やその存在の不透明さは加速するいっぽう。

写真の石は、プレゼントとして偶然に付けていただいたもの。
うわ、なんじゃこりゃと思った。
よくわからんが、すごい。
後日、ザギマウンテンクォーツであることが判明。
小粒にしてこの存在感、本物だ。

大好きな西アジア。
これは絶対にザギマウンテンに登らねばならない。
標高175メートルなら余裕だ

今はほとんど使っていない、バックパックの出番が来たようである

※聖地ザギマウンテン付近の様子はこちらからどうぞ

現実は甘くない。
調べてみると、そう簡単には行けない土地であることがわかった。
聖地により外国人立入禁止説、乱獲により規制が入った説、タリバン出現につき国際的に入山不可能説、などが推測されたが、いずれにせよ外国人が入るのは容易いことではないと感じた。
ネットショップでは、聖地である旨説明されていることが大半。
もし最後の説が本当だったとしたら、命を覚悟しなければならない。
パキスタンの情勢が極めて不安定なのは、ご存知の通り。

聖地に関しては思うところある。
外国人、特に日本人の海外での評判は、悪い。
現地の人々の感覚に合わせることをしないからだ。
意図的に遠ざけられた可能性はある。
パキスタンのように信仰が根付いている国においては、外国人が現地の人に打撃を与えることも少なくない。

パキスタンには好戦的な人が多いと思っている人が多いが、そうではない。
飾ることなく誠実で、温かな心をお持ちの方々だ。
宗教の異なる日本人に対しても、親切に接してくれることが多い。
我々日本人は、宗教と聞いただけで抵抗感を持ってしまいがちだが、現地での信仰心は、日本でいう法律であり、道徳であり、生活の一部でもある。
例外はある。
たとえば、戦争のあった地域で生まれ育った人々。
家や家族を失い、心に深い傷を負った彼らが、やむなく道を外れることもある。
詐欺や麻薬取引などの犯罪に関わっていたのは、私の知る限りでは、戦地など複雑な環境に育った人間だ。

ザギマウンテンについて、この石を譲ってくださった方に伺ってみた。
情勢が悪いというのは現実のよう。
ザギに登るのは厳しいと感じた。
私のような外国人が間違いを犯す(犯した)可能性も十分に考えられる。

ザギマウンテンからはバストネサイトのほか、ゼノタイム、イルメナイト、モナズ石などの希少石が産出することで知られている。
現地がレアアースの宝庫であることが判明したのは、ごく最近。
2001年頃だといわれている。
これも不思議な偶然で、近年においては最も危険だった時期である。
殺害されたテロリストが、アフガニスタンからパキスタンに逃亡したのは有名な話。
私がパキスタンを旅したのは11年前。
テロ発生の前年だが、空港は厳戒態勢が敷かれており、税関で厳しい検査があったのを鮮明に覚えている。

話を戻そう。
ザギマウンテンクォーツは、多彩な内包物を持つことで知られる。
中でも、アストロフィライト、エジリンが入ったものは人気があるようだ。
本文下、左は、手持ちのザギマウンテンクォーツの拡大写真。
最近入手したもので、アストロフィライトが内包されているということだった。

結晶中の太く黒い針がエジリンだという(→拡大写真)。
一本だけ確認できる太いオレンジの針は、なにか。
実は、過去のザギマウンテンクォーツに、このオレンジの針が高い確率で含まれていた(本文下の写真参照)。
エジリンではないし、ルチルにしては色が濃く太すぎる。

一般的に、アストロフィライトは繊細な繊維状のインクルージョンとなって、結晶全体をレッド~オレンジに染めるといわれているが、私にはオレンジの針が本来のそれではないかと思えてならならないのだ。
アストロフィライトとされる、オレンジの微細な毛状のインクルージョンは、私にはどうも、アンフィボール(角閃石)の類いにみえる。
マダガスカル産のアンフィボール入り水晶に、このような色合いを頻繁に見かける。
アストロフィライトのインクルージョンというのは他では聞かないから、相当珍しいはずだ。

なんとなく、気になる。
まあ、いいや。
この石にはきっと、危険を承知でザギへ入っていったパキスタンの人々の勇気、そして温かな心が、あふれんばかりに詰め込まれている。




14×11×6mm  7.78ct

2011/10/07

サラードクォーツ


サラードクォーツ Sarado Quartz
Diamantina, Minas Gerais, Brazil



サラードクォーツ。値札つき。
蝕像水晶(→レコードキーパーの項、注1参照)の一種。
角が溶けて丸くなっているのが特徴だろうか。
サラードは地名ではなく、現地の言葉で「回復」という意味。
透明感のある爽やかな水晶に、ビシビシと刻まれた侵食の跡が強烈である。
今でこそ価値を認められたサラードクォーツだが、価値がわからなければ「少し変わった水晶」でしかない。
そのため、こちらのサラードクォーツも、最近まで当家において不当な扱いを受けていた。

出会いは4年ほど前、某ミネラルショーにて。
無造作に並べられた水晶の山の中に、コレがあった。
ブースには、ぶっきらぼうな中年女性が2人。

「コレ、何の石ですか?」
「水晶です」
「面白い形ですね」
「パワーあるわよ」
「どんなパワーがあるのですか?」
「…」
「おいくらですか?」
「3000円」
「何か、意味があるのですか?」
「お買い得だと思うわよ」

やる気が全く感じられない。
ヒーリングストーンの知識にかけては半端ないはずの連れも、まったく興味のない様子。
つまるところ、誰にも価値がわからない。
この名も無きクリスタルに、3000円を投じるべきか否か。
今を逃すと後悔する、そう直感した。

そしてこの「謎の水晶」は、我が家の倉庫に奉納された。
たまに見かけて、手に取る程度。
そうして、4年が経った。

今年の夏、サラードクォーツなるものをネットで見かけ、興味を持った。
さっそく注文した翌日の晩、立ち寄った実家で写真の石と再会した。
目を疑った。
ネットで見たものと、全く同じではないか。
Saradoというラベルまで貼ってある(貼りっぱなし)から、間違いない。
ようやっと正体が判明し、日の目を見ることになったサラードクォーツ。
あの頃はまだ蝕像水晶という言葉は一般的ではなく、アイスクリスタルも流通し始めたばかりで、先のミネラルショーで出会ったお店の方もご存じなかったのだろう。

ネットショップさんには、あわててキャンセルをお願いした。
お店の方にはご迷惑をおかけしたが、入金前だったのが幸いし、キャンセルをお許しいただいた。
実家には半年に一度寄る程度。
このタイミングでの再会も、何かのご縁ということか。

帰宅後、調べてみた。
ディアマンティーナ産の蝕像水晶を、総じてサラードクォーツと呼んでいるようである。
ネットショップで見かけたものは、手持ちのサラードクォーツと同じ、角が溶けて丸くなっているタイプだった。
諸説あるのかもしれない。

水晶の名産地・ブラジルでは、どんな個性的な水晶にも愛称を与え、お守りにする習慣があるようだ。
日本人にはわかりづらい感覚かもしれない。
こうして今、サラードクォーツが評価されているのは、とても嬉しい。
一部が削れてしまっているのは、私のいい加減な保管によるもの。
床に置くのはやめ、箱にしまった。
付加価値を考慮せず、直感だけで購入した水晶に価値がわかることは滅多にないから、不思議な偶然に驚いている。


81×30×26mm  77.3g

2011/10/05

オーロベルディ


オーロベルディ Oro Verde
Diamantina, Minas Gerais, Brazill



メタモルフォシスをご存知だろうか。
見た目は普通のミルキークォーツ。
ガンマ線を照射すると真っ黒になり、その後300℃程度で加熱すると美しいグリーンゴールドに変化することから、変容・変革の象徴として、メロディ氏(→スーパーセブン参照)によりメタモルフォシスの名を与えられた。
オーロベルディは、いわばメタモルフォシスの変革後の姿。

ポイント状のオーロベルディは珍しい。
メタモルフォシスは塊状で産出し、オーロベルディも同様の形状を持つことで知られている。
こちらはメロディ氏と交流のあった海外のクリスタルヒーラーが所有していたオールドストック。
ごく初期に得られたオーロベルディのポイントとのこと。

元祖メタモルフォシスは、多少クラックの入った、大き目のタンブルだった。
形はいびつで、決して格好いいものではなかった。いっぽう、オーロベルディは、切り取られたような破片状の塊。
比較的小さな原石が多く、加工品の場合はそのほとんどに激しいクラックが入っている。
現在は、タンブルではない破片状のメタモルフォシスも、メロディ氏経由で出回っている。

実はこのメタモルフォシス、現地では以前からミルキークォーツとして知られており、珍しいとされるピンク・メタモルフォシスのほうも、ローズクォーツとして流通していた。
メタモルフォシスが知られ始めた段階で、既に国内に在庫のある業者もあったため、姿勢は二つに分かれた。
あくまでもミルキークォーツ・ローズクォーツとして売る業者もあった。
しかし、ミルキークォーツをメタモルフォシス、ローズクォーツをレアなピンクのメタモルフォシスとして扱い、国内で「変容」させたものをオーロベルディとして高値で販売、メロディ氏の人気に便乗しようとする人々も。

美しいグリーンゴールドを示すオーロベルディ。
こちらも以前から流通があった。
海外ではオーロベルディ・シトリンと呼ばれており、放射線処理を施した宝石として認識されている。
同じく放射線処理によって作られる、レモンクォーツと同じような扱い(レモンクォーツは淡いイエロー)。
見た感じ、シトリンの代用品として扱われているに過ぎず、色合いもグリーンゴールドとは言い難いので、大量生産が可能なレモンクォーツと混同されているのかもしれない。
ポイントの流通も多いが、多くはレモンクォーツの色合い。

オーロベルディの名について、メロディ氏が命名したという記述は見られない。
ただ、いっとき海外のヒーラーの間でも話題になっているので、この石にメロディ氏が関わっているのは事実。
メロディ氏はもともとあった石にインスピレーションを受け、特別な名称を与えることが多いようだ。
本物か偽物かを問う以前に、付加価値の有無に問題があるように思う。
正規のルートで仕入れた場合、オーロベルディは「変容後」の姿で日本に入ってくる。

彼女のネームバリューはかなりのものであり、売り手にとっては死活問題。
そのため、メロディ氏の紹介した石が、彼女自身から仕入れたものかどうかが度々問題になった。
付加価値をつけるならメロディ氏を通すのは当然のこと。
メロディ氏経由で仕入れているところもある。
どちらを選ぶかは好みの問題で、出所にこだわる必要はない。
流通経路が不明、かつあまりにも高額な場合は、購入元に問い合わせてみよう。


メロディ氏によると、オーロベルディは持ち主に人生の深い意味を体験させ、成熟した人間性を育くむという。
また、強いエネルギーで持ち主を保護し、新しい未来を切り開いていくための意志と力を運んでくるとされている。


30×18×14mm 10.2g

2011/10/04

チンカルコナイト


チンカルコナイト
Tincalconite after Borax
Boron Open Pit, Boron, Kern County, California, USA



チンカルコナイト(チンカルコ石)。
その名のとおり、珍石である。
もし持っておられるなら、余程のレアミネラル収集家か、ネタとして購入した方ではないだろうか。

チンカルコナイトは、透明なボラックス(硼砂)という鉱物が、空気に晒されることによってできる。
専ら工業用、産業用に用いられる。
その用途は多彩で、過去には放射能漏れ事故のさいの応急処置に活躍したこともあるそうだ。

標本としてはほとんど出回っていない。
地味な上に、取り扱いが難しいからだ。
うっかり水で浄化しようものなら、溶けて無くなるらしい。
乾燥が過ぎると崩れて粉末になる。
加えて、もろく破損しやすい。
非常に軽く、風に吹かれてどこかへいってしまうこともあるという。

同じタイプの名前の石に、チンワルド雲母がある。
こちらも雲母だけあって、取り扱いが難しく、撮影中にヒビが入ってしまった。
とてもデリケートな鉱物たちなのである。

ちなみに、チンワルド雲母の名の由来は、ツィンヴァルト・ゲオルゲンフェルトというドイツの街。
ツィンヴァルト・ゲオルゲンフェルト雲母と呼んだほうがかっこいいような気がする。



ツィンヴァルト・ゲオルゲンフェルト雲母

25×13×6mm

2011/09/27

ピーターサイト


ピーターサイト Pietersite
Outjo, Damaraland District, Kunene Region, Namibia



ピーターサイトの塊。
濃紺色で描かれた抽象画のような、なにものにも喩えがたい独特の模様。
カットすると、まるで台風の目のようにみえることから、テンペスト・ストーン(嵐の石)とも呼ばれている。

その正体はクロシドライト(青石綿)。
猛毒として知られるだけに、驚かれる方もおられるかもしれない。
こちらはめのう化して固まっており、危険物が飛び散る心配はない。
一般には、クロシドライトを含んだ石英(ブルータイガーアイ)が地殻変動によって粉砕され、ふたたび浸透した石英によって、鉱物として蘇ったものとされている。

意外に知られていないが、タイガーアイやブルータイガーアイはクロシドライトから成る鉱物である。
青いクロシドライトが酸化してゴールドになったものがタイガーアイ。
両者は通常、混ざることはない。
しかし、いったん粉砕されたのちに形成されるこの石の場合は、青とゴールドが混ざり合った状態で発見される。
純粋な濃紺色は、原産地でもあるナミビア産のみに見られ、非常に高額で取引される。
なお、ゴールド~赤茶系のピーターサイトは、中国河南省から産出するもの。
ナミビア産とは成分が若干異なるらしい。
ピーターサイトには含めない、としているところも。
1962年に発見されたばかりの比較的新しい鉱物であり、その定義ははっきりしていないのかもしれない。

写真のピーターサイトは、昔たいそう気に入って手に入れた、大きな塊状の原石。
ところどころ酸化していて、濃紺色の嵐がうずまくさまが確認できる。
通常はカボション・カットされたり、ビーズなどで流通するピーターサイトだが、原石の美しさもなかなかのもの。
ちなみに、何も飛び散った形跡がないので、このままの状態で問題ないと思われる。

ジャンルを問わず広く日本人に愛されているタイガーアイ。
成分は同じであるものの、ピーターサイトのほうはヒーリングストーンとしての色合いが濃い。
シャーマニック・トラベルに欠かせない存在として知られているほか、瞑想にも向いているそうだ。
自分自身と向き合うための石でもある。
嵐の中にあっては、前も後ろも見えず、混乱し、何も考えられなくなってしまう。
しかし、台風の中心は、実に平穏なのだ。
安らぎと平和に満ちた世界に立ち戻ることによって、本来の自分自身を取り戻し、物事の本質をより深く理解することができるようになる。

先日、生まれて初めて石のブレスが千切れた。
ピーターサイトのブレスだった。
波乱万丈な運命に嘆く人に捧げる石である。
日常生活が波乱万丈すぎたのか。
いや、物事を見誤り、いつの間にか嵐の渦中を外れて、自ら突風に飛び込んでしまっていたのかもしれない。


約150g(未測定)

2011/09/24

スペクトロライト(各種)


スペクトロライト Spectrolite
Ylämaa, Etelä-Karjalan, Finland



二度目のご紹介。

スペクトロライトの名は、七色の輝きに由来するわけだから、当然七色の色合いがある。
しかし、七色!七色!と謳いながらも、実際に七色のスペクトロライトを紹介しているところはほとんどない。
私自身、「スペクトロライト=青く強い閃光を放つ鉱物」だと思い込んでいた。

そこで、今回はギャラリー形式にて、その魅力をご紹介させていただきます。
前回のスペクトロライトと併せてお楽しみくだされ。




スペクトロライトが発見されたのは1940年。
第二次世界大戦のさなかだった。
なんでもフィンランド軍が、ロシアとの国境付近にあるユレマーの地で、ソビエト軍の侵入を防ぐための穴を掘っていた際、青く輝く岩が見つかったという。

鉱脈の発見の瞬間だった。
軍を指揮していた将校は、奇しくもフィンランドの地質調査研究所長の息子であった。
研究は進められ、地質研究所長(親父?)によってスペクトロライトと命名されたという。




もともと1781年にロシアのサンクト・ペテルブルグに近い氷河からラブラドライトが発見されており、フィンランドからラブラドライトが出ることも推測されていた。
このようなとんでもないモノが出てくるということも、ある程度予想されていたのかもしれない。
しかし、地質学者が長年調査を続けていたにも関わらず、見つかることはなかった。
スペクトロライトの発見は、不思議な偶然が重なって実現したものだった。




スペクトロライトは、夢と深いかかわりがあるといわれている。
ラブラドライト同様、宇宙の叡智を運んでくるとされているが、そのメッセージはより深く難解であるという。
どんなメッセージが送られてくるかは、今宵の夢にて。


約30~60mm

今週、話題性が確認された10の鉱物

What Mineral Would You Take with You to A Deserted Island?