2012/02/05

ソーダライト/ハックマナイト


ソーダライト
Sodalite (Var: Hackmanite)
Pegmatite No.62, Karnasurt Mountain, Lovozaro Massif
Kola Peninsula, Murmanskaja Oblast', Russia



鉱物に紫外線(ブラックライトなど)をあてると蛍光することがある。
これをテネブレッセンス効果と呼んでいる。
この言葉を一躍有名にしたのが、ハックマナイト(→記事はこちら)。
もともとハックマナイトはソーダライトの成分の一部が硫黄に置き換わったもの。
ソーダライトの変種にあたる鉱物である。

ソーダライトといえば青が一般的だが、ときに白または淡いグリーンを帯びていることがある。
この種のソーダライトに、テネブレッセンスがみられることが多々あるようだ。
また、ハックマナイトと似て非なる独特の色変化(太陽光→不変、紫外線→蛍光→その後しばらく色が残る)が起きるという。

先日倉庫から出てきた謎の石。
ラベルには事細かな産地とともに、「ソーダライト(ハックマナイト)」と記されている。
外見からはどちらとも判断できない。
ハックマナイトであれば、外に置けば紫に変わるであろうということで、直射日光の下に三十分放置。
しかし白とグリーンの色合いのまま変化無い。

ではブラックライトではどうなるか実験してみた(本文下に写真を掲載)。
写真左が、写真にある白にグリーンの入ったソーダライト。
右側はアフガニスタン産の色濃い紫のハックマナイト(→もとの姿の写真)。
撮影を終えて照明をつけた。
アフガン産ハックマナイトは濃い紫のまま。
いっぽう、先ほどまで白かったソーダライトは、一部が淡いピンクに変わっており、次第に白へ戻った。
調べたところ、前述の通りソーダライト(ハックマナイト)には産地限定でこうしたテネブレッセンスのパターンがみられることがわかった。

ハックマナイトは元々無色~褐色であるが、少し窓辺に置いただけで、紫外線に反応して鮮やかな紫色に変化する。
しかしこのソーダライト(ハックマナイト)の場合、一般的なハックマナイトのように太陽光で紫にはならず、元の色合いのまま変化しない(ご覧の通り、照りつける直射日光の下で撮影している)。
いっぽう、ブラックライトを照射すると、ハックマナイト同様オレンジ~赤に蛍光し、見分けが付かないほど。

もともと希少石に数えられるハックマナイトだが、従来のミャンマー産に加え、近年アフガニスタンからの流通が急速に増加、知名度、人気ともに高まる一方である。
かたやソーダライトのほうは、量産型薄利多売商品(パワーストーン)の一種に格下げされてしまった。
人気は下降気味で、最近ではブレスレット売り場ですら見かけない。
消費者の関心はより珍しく希少性の高い鉱物に移行している。
ひとついえること、それはソーダライトであっても稀に蛍光するということ。
ただし、ハックマナイトとの境界線は曖昧なものとなっている。
では、なにをもってソーダライトとハックマナイトを区別すべきなのだろうか。

  • 鉱物学上ソーダライトと表記する例
  • ソーダライトのうち、テネブレッセンスを示すものをハックマナイトと呼ぶ例
  • 成分に硫黄が含まれている場合ハックマナイトとする例
  • 色で判断「透明感ある濃い青色で方ソーダ石とするのが相応しい」
     参考:http://www.hori.co.jp/hori/list/137.pdf( C1. 方ソーダ石 )
  • 産地によりソーダライトとみなす例(カナダ、グリーンランド、アフガニスタンなど)
  • アフガニスタン産の場合、アフガナイトと混同されることがある

ざっと見たところでは、以上のように解釈は多様であり、明確な定義はないようだ。
外見だけではこの標本、グリーンランド産のブルーグリーンのソーダライトと区別がつかない。
通常のハックマナイトとは異なる独特のテネブレッセンスを示すさまも共通している。
ソーダライトと呼びたくなる。
しかし困ったことに、この石はロシア・コラ半島産。
この産地からは青緑色のハックマナイトが産出するとされている。
ラベルを見る限り外国人から購入したようであるが、どうしてこんなややこしいものをわざわざ選んだのか覚えていない。

この標本は1998年に上記の鉱脈から発見されたハックマナイトのひとつで、ブルーグリーンを基調とする独特の風貌を特徴とする。
購入元のラベル表記に従い、ここではソーダライトとする。
なお、アフガニスタンのラピスラズリ鉱山からは、見事な紺色のハックマナイトが産出することがあるという。
素人にはラピスラズリにしか見えない(ラピスラズリはソーダライトを含む複合鉱物。詳細はアフガナイト問題に記載)。
呼び名が統一されていないせいかもしれない。
色合いやテネブレッセンスの微妙な経過の違いをもって、細かく分けてはくれまいか。
ついついハックマナイトに目がいくのもわかるけれど、元祖ソーダライトのほうも忘れないであげてほしい。




34×30×24mm  14.19g

2012/02/03

ジルコン


ジルコン Zircon
Gilgit, Gilgit-Baltistan, Pakistan



鮮やかなワインレッド。
ジルコンの結晶は褐色であることが多いが、パキスタンからは透明感に富む色鮮やかな標本が産出している。
その強い光沢ゆえ、宝石として扱われることも多い。
過去には、処理により無色透明に改色したジルコンをカットし、ダイヤモンドの代用品として使用した。
現在はジルコンからケイ素(Si)を取り除いた、キュービックジルコニアがその主流となっている。

ジルコンは放射性鉱物である。
微量のウラン、トリウム等を含み、日用雑貨や電化製品などの素材として活躍している。
私たちは知らない間に放射能のお世話になっている。
ちなみに、前述のキュービックジルコニアは放射性物質ではない。
キュービックジルコニアとジルコンが混同されているのを頻繁に見かける。
気になる場合は放射線の有無を確認してみよう。

ところで、最近懐かしい名前をよく聞く。
ユリゲラー。
かなり昔の人だが、覚えておられる方もいらっしゃるかもしれない。
スプーンを念力で曲げてみせ、テレビ番組の人気者となった外国人である。
自分は当時小学生であった。
当然ながらスプーンを曲げる「ユリゲラーごっこ」が教室で大流行した。
給食時間に皆が皆、力まかせにスプーンを曲げるものだから、先生が怒りに満ちていたのを覚えている。
案の定、すぐに「ユリゲラーごっこ」は禁止された。

月日は流れ、私が鉱物に興味を持ち始めた頃のこと。
100円~500円程度の石をたまに買い、気に入った石を数個、お手製のポーチに入れて持ち歩いていた。
石繋がりでたまたま、同世代の女性と仲良くなった。
驚いたことに、彼女はユリゲラーのお弟子さんだという。

「スプーン曲げるのは禁止やで!アレはただの手品で宗教や!」

もはや聞き飽きていた。
コツをつかめばスプーンなどすぐに曲がることも知っていた。
ユリゲラーがまだ生きて活動していて、宗教家や手品師などではなく、日本に弟子までいる霊能力者だった…ことに衝撃を受ずにはいられなかった。

彼女がユリゲラーからもらったというペンダント。
スプーンとは全く関係ない上品なものだった。
その頃にはもう、トリックを駆使する危険なパフォーマーにすぎないという話が定着していたが、そうした理由で他者を遠ざけるのは好きではなかった。
ユリゲラーがどこの誰なのかは知らぬ。
現在もなお活躍中で、実に不可解な理由から再評価されつつあることを知り、複雑な心境である。

ある日、彼女が私の石を見たいと言い出した。
せっかくなので宝物をと、ポーチに入れて持ち歩いていた石を数個、写メに撮って送った。
「ひとつ、嫌な感じのする石がある。黒い。処分したほうがいいよ」
彼女がそう言ったのは、ジルコンだった。
綺麗な八面体に結晶していた。
写メのジルコンはブラウンに写っていて黒くなどなかったし、宝物のひとつだったのだけれど、頑固な自分には珍しく、手放すことに決めた。
そればかりか、以降ジルコンを頑なに避けてきた。
いつしか連絡は途絶え、自分がなぜジルコンを避けているのかも忘れてしまっていた。

今であれば、放射性鉱物だからじゃないの?と思われる方もおられるだろう。
当時一般人が入手できた放射性鉱物は、人体にほとんど影響しないものばかりであり、滅多に話題に上ることはなかった。
また、霊能力者やクリスタルヒーラーは放射性鉱物を好み、神聖なものとして扱うことが多い。
処分しろとまでいう人は珍しい。
最近では、それらを内服、飲用または吸引することにより、内部被ばくを実践させている指導者もいるという。

彼女がジルコンに何を感じたのかについては、あえて聞かなかった。
そういえば、石の名前すら伝えていなかった。
彼女が福島に住んでいたことを思い出し、先日衝動的に購入したジルコン。
あの言葉が何を意味していたのかは、今となってはもう、わからない。


20×18×10mm  7.51g

2012/02/01

ダイアナイト


ダイアナイト
Dianite/Potassic Richterite

Murunskii Massif, Sakha Republic, Eastern-Siberian Region, Russia



ロシア・サハ共和国から産出するブルージェイド。
シベリアンブルージェイドとも呼ばれている。
その存在が知られ始めた矢先、死去が伝えられたダイアナ元皇太子妃を偲んで、ダイアナイトの名を与えられた。
その美しいブルーの色合いが、青を好んだ彼女をイメージさせるからともいわれている。
鉱物としては、リヒター閃石を主成分とするネフライト・ジェイドの一種で、主に研磨され流通している。
原石の質にはばらつきがある。
こうした深みのあるロイヤル・ブルーの石は稀で、全体的に淡い水色であることが多い。

私がダイアナイトを知ったのはいつだったか。
海外では比較的流通があったが、国内では見かけなかった。
ところが最近になって、日本においてこの石の人気が急上昇しているらしい。
入手困難との声も聞かれる。
この状況には、どうも納得しかねるものがある。
以前ある方がダイアナ元皇太子妃について独特の視点で言及しておられたので、私もここでダイアナイトについて私なりにまとめてみようと思う。

彼女はなぜ石の名となったのだろう。
ダイアナ・スペンサー、ダイアナ元皇太子妃。
彼女は生前多くの問題を抱えた人物だった。
つまり、その人柄を偲ばれるのは当然だが、石の名前になるほどに幸福な人物であったかということ。
誤解を恐れずに言うなら、マイケル・ジャクソンもまた同じ。
二人は生前、スキャンダラスな私生活を取り沙汰され、ともすれば奇行を繰り返す、倫理を犯すなどといった、心無い評価を受けた。
故人を想う気持ちが募り、すべてが美化される。
その扱いのあまりの違いに違和感を覚えることは過去に幾度もあった。
私がダイアナイトに複雑な気持ちを抱くのは、ダイアナ妃についてもまた、そうした違和感を感じずにはいられなかったからだ。

名門・スペンサー家に生まれたダイアナは家庭環境に恵まれず、6歳で両親の離婚を経験している。
20歳でチャールズ皇太子と結婚し、イギリス王室に入るものの、結婚生活は思うようにいかなかった。
人一倍愛を求めていた彼女にとって、過酷としかいえない状況が続いた。
お互いに不倫に走った結果、二人は1996年に離婚という結末を迎えた。
その間、彼女は摂食障害に悩まされ、自殺未遂を繰り返したとされている。
離婚後、ダイアナ妃が熱心に慈善活動に関わったのは有名なエピソードであるが、愛に飢えた満たされないその心が彼女の原動力となっていたという説には共感せざるを得ない。
ダイアナ妃の生涯に、男性の噂が絶えなかったこと、それらは公人として許されるとはいえない内容であったこと、葛藤と苦しみ、自傷行為、そしてプライバシーのない生活。
心身ともに追い詰められた末に起きた事故。

彼女は幸せだったろうか。
彼女の心は常に安らぎに満ち、輝いていたといえるだろうか。
彼女の愛と苦難に満ちた波乱の人生を、この石をもって称えることは、彼女への哀悼の念にふさわしい。
しかしそのいっぽうで、彼女の抱えていた心の闇をも美化するのは、ややもすれば残酷なことと思えてならないのである。

1997年、わずか36歳でこの世を去ったダイアナ元皇太子妃。
世界中の人々が、彼女の死を悼み、冥福を祈った。

-We'll always love you Princess Diana, we'll never forget you.

『私たちはあなたのことを、忘れないだろう。あなたの深い愛は我々の心の中で永遠となった。あなたは輝ける星となり、我々を照らし続ける。』(世界の声より)


22×11×5mm  16.55ct

2012/01/26

エレスチャル(オレンジリバー)


エレスチャルクォーツ
Elestial/Skeletal Quartz
Orange River, Northern Cape, South Africa



長い時間をかけて成長したために、内部から表面に至るまで、複雑な構造を示す水晶。
エレスチャルクォーツ、スケルタルクォーツなどと呼ばれている。
幾層もの結晶が折り重なり、光を反射して輝く。
標本の一部が白くみえるのは、粘土鉱物を取り込んだ状態で結晶しているため。
まるで迷路をのぞきこむかのような気分である。

世界の至る所から、個性豊かなエレスチャルクォーツが見つかっている。
形状や色合いから、おおよその産地は推測できる。
有名なのはブラジル産だろう。
さまざまなエレスチャルが産出しており、中にはゴツゴツとした形状のジャカレーや、ヒーリングストーンとして名高いスーパーセブンなども。
他に無色透明のメキシコ産、セプター寄りの形状と内包物のみられるマダガスカル産、濃厚なスモーキーアメジストが味わえるナミビア・ブランドバーグ産、通好みのアルプス産、鮮やかなアメジスト・カラーが神秘的なインド産、近年流通し始めたパキスタン産など。
ニューヨークのハーキマーダイヤモンド及びハーキマータイプ水晶、オーストラリアのモララクォーツなどもこれに分類されていることがある。
どこまでがエレスチャルかを定義するのは難しい。
現在はランダムな結晶構造を持つ水晶を総じてエレスチャル、もしくはエレスチャル風と表現している。

こちらは南アフリカとナミビアの境界を流れるオレンジリバー流域から届けられたエレスチャル。
パキスタン産に似ているが、より大きく、より豪快。
繊細なガラスに喩えられることの多い水晶。
このエレスチャルはガラスどころではなく、プラスティックのように頑丈かつ半端ない透明感を漂わせておる。
濃厚なスモーキーのふちどりもまた、この水晶の個性を引き立てている。

アフリカまで行って採ってきたという、国籍不明のオッサン(どことなくカナダ風のハンター風?)から、数年前にいくつか購入した。
オッサンは確かコレしか売っていなかった。
後にも先にも同じようなエレスチャルには出会っていない。
写真ではポイントのように見えるのだけれど、途中でグネっと曲がっていて、先端も水晶とは言い難い不思議な姿をしている。

何億年もかけて結晶し、太古の叡智を宿すとされるエレスチャルクォーツ。
天使の祝福を受けたヒーリングストーンとして話題になり、いっときは誰もが買い求めた人気商品だった。
しかし、徐々に質は落ち、白濁した内部さえ見えない粗悪な原石が蔓延する。
エレスチャルということばが一人歩きを始める。
人気は蝕像水晶に移行していく。
パキスタン・ワジリスタン産の登場で、再び注目を集めつつあるエレスチャル。
比較的大きさがあり、透明感にあふれ、内包物によって時にゴールドに輝き、かつこれまでにない激安特価を叩きだした恐るべき救世主である。

正月に実家で見つけた、思い出の一品。
焼き魚のような香ばしさ。
世界に一つだけの、個性豊かな世界を楽しみたい。




75×37×35mm  77.95g

2012/01/22

フローライト(レインボー)


フローライト Fluorite
China/中华人民共和国



パワーストーンとしてお馴染みの、フローライト。
フローライトは本来、衝撃や温度差により破損しやすく、光により退色する性質があるため、加工には向かない。
欧米では原石の造形美を楽しむものとして、専らコレクションの対象となる。
中国は世界有数のフローライトの産出国に数えられ、豊富なバリエーションと高い品質を示す原石標本は世界的評価を受けている。

中国の鉱物は日本への輸出に際し、加工を視野に独自のルートをたどるため、産地不明となってしまうことが大半。
このフローライトの研磨品も、中国産ということ以外わからない。
湖南省のYaogangxian鉱山のフローライトに似ているような気はするが、いかんせん中国は広すぎる。
原形を留めておらず産地も不明瞭。
鉱物標本としての価値は失われたということを意味している。

ずっと、考えてきた。
中国の人々は難しい。
これは中国、香港などを渡り歩いてきた日本人からもしばしば聞かれる言葉である。
これまでに(チベット系中国人も含め)多くの中国人に出会ったが、心を開いて打ち解けることのできる人にめぐり会うことは無かった。
私の性格上の問題と少なからず関係しているように思えた。
協調性のなさ、隙だらけの言動、成り行き任せの仕事ぶりは、彼らの目指すものとは間逆に思えた。
いつだったか、飛行機で隣に居合わせた、日本語を話す年老いた男性。
彼が中国人だとわかったとき、歴史的な溝もまた、感じた。

「中国に来るつもりなら、最低限中国語は話せるようにしろ。自分の身は自分で守れ」
そう教えてくれた人がいる。
彼は、同じ中学の出身で、バイト先で一緒になった、いわゆる在日中国人。
予測不能な行動と豪快で無敵の発言、スマートな仕事ぶりは、わりと個性的なバイトたちの中にあって、異彩を放っていた。
彼は誰よりも仕事ができた。
彼女は8人くらいいた(あやうく自分もカウントされそうになったので逃げた)。
しかし、彼が社会的に認められることはなかった。
日本人ではない、ただそれだけの理由で、就職のさいに本来の実力を評価されず、無念の表情を浮かべていた。
彼は亡くなった私の母のお気に入りで、幼かった彼は母を慕っていたそうだ。

あれから十年以上が経つ。
まだ石を集めはじめた頃、美しさのみに惹かれ購入したフローライトのエッグ。
箱を開けるたびに広がる虹色の光景は、夢のように美しかった。
大切に箱に入れ、自室に保管していた。

近所の店で働く中国人留学生、Rさん。
いつも笑顔で裏表がなく、かなりの天然である。
誰に対しても誠実に、謙虚に接する姿が印象的だった。
震災の折、帰国するよう泣く母を振り切って日本に残った。
お名前を中国語読みでいうとどのような発音か?という私の問いに、彼は日本語読みで呼んでほしいと繰り返した。
週七日勤務し、大学に通うというハードな生活。
彼は日本をどう思っているのだろう。
どうしても聞けないまま月日は過ぎていった。

師匠に薦められて年末に観にいった映画、『新世界の夜明け』。
正確には見逃して、諦めていた中でのアンコール上映だった。
謎が解けた。(※文末に詳細を記しました)

国籍など関係ない、ありのままのその人を見なければ意味がない、そう思っていた。
なのに自分はいつの間にか、意図的に彼らを避けるようになっていた。
想いは通じないものと、諦めてはいたのではないか。
国境は越えられるかもしれない。
石もまた同じ。
そのことに気づかせてくださった素晴らしい人々との出会いを、今後に生かすことができるかどうか。

私はもうすぐこの街を離れる。
Rさんに聞いてみたかったことはある。
聞くべきでないことも理解している。
私には希望がある。
宝物だったこのフローライトと同じくらい大切なものが、世界にはまだきっとある。



『新世界の夜明け』
サイト:http://shinsekainoyoake.jimdo.com/

中国系マレーシア人、リム・カーワイ監督の映画作品。
大阪・新世界のドヤ街(?)に、うっかり中国から来日した場違いなお嬢様の波乱万丈なクリスマスを描いた涙と笑いと希望の物語。以下、感想。

関西以外の人には馴染みのない土地かもしれない。
主に大阪市西成区、浪速区(及び近隣地区)の一部を指して使われる。
新世界のすべてを知り尽くす人は、おそらく世界中探してもいないだろう。
テレビカメラが入ることの許されないエリアも多い。
そのため、大阪在住の人々ですら、大半はこの街で何が起きているか知らない。
中国人有名監督がこのストーリーを撮ればこれほど日本人に支持されることはないだろうし、日本人有名監督が撮れば完成するかどうかも微妙。そんな街。
国際的にニュートラルな立場に立つ新鋭、リム・カーワイ監督だからこそ作れた作品だと思う。
監督の両国への愛情と理解が、この作品を支えている。
人懐っこいのかしらないが、海外では日本人の立ち入れない領域まで入れていただくことの多い自分も、この街にはかなわないと思った。
少なくとも、映画を撮る自信は無い。
観客を笑わせ、泣かせる自信は全く無い。

日本にあって日本でない新世界という特異な街を知る上で、この映画は重要な内容となっている。
インターネットの影響か、興味本位でこの街に土足で踏み入る人が増えていると聞く。
彼らにはすべて見えている。
この土地に生きる人々に対して失礼であり、極めて危険な行為であることを知ってほしい。
現実に泣き崩れる前に、まずはこの映画を見て泣いてほしい。


41×31mm  87.48g

2012/01/19

アンデシン/ラブラドライト


ラブラドライト Labradrite
産地不明



透明感のある赤にグリーンが混ざりこみ、所々イエローに透けるさまが、手の込んだ抽象画を思わせる。
2009年頃に出回った、中国産のアンデシンにそっくりだが、こちらはアフリカのコンゴ産出、鑑定の結果ラブラドライトと判明したらしい。
実は、宝石質のアンデシンはまだ持っていなかった。
以前から気になってはいたのだが、高すぎて買えなかった。
昨年末、ようやく池袋ショーで購入したのがこれ(表記はラブラドライト)。

2002年にコンゴのニイラゴンゴ火山で発見されたというこの石は当初、ラブラドライトかアンデシンかの議論で盛り上がったという。
宝石質のアンデシンは非常に稀で、そうとわかったときは誰もが驚いたそうだ。
アンデシンはナトリウム:カルシウム=6:4、ラブラドライトはナトリウム:カルシウム=4:6と成分は極めて近いため、この石は微妙な差異によりラブラドライトと判定されたのだろう。
見た目は中国・内モンゴル産のアンデシンと同じで、素人には区別がつかない。
価格は1カラット越えで2000円弱(酷い値切り方をしたのでわからない)。
鮮やかなレッド、グリーンの発色は、銅のインクルージョンによるものらしい。
ラブラドライトだから特価なのだろう思い、購入した。

実は、コンゴやチベットからアンデシンが産出するというのは知らなかった。
ずっとモンゴルのあたりから来るものと思い込んでいた。
お店の人に尋ねると、わからないという。
昨今のレッドアンデシンのほとんどはビーズで流通しており、原石標本を見かける機会がなかったため、見落としていた。
ただ、コンゴからの産出は僅かな量に過ぎず、現在は産出していない貴重品のようである。
なぜここまで値下がりしたのだろう。
ニイラゴンゴ火山における産状を、具体的に示す資料がないのも不可解ではあった。

つい先ほど、それに関連するとみられる記述を発見した。
真偽については触れないが、実に興味深い推論が展開されている。

コンゴ産アンデシンは中国の内モンゴル産、赤や緑の色合いは人工処理による発色
http://www15.plala.or.jp/gemuseum/gemus-sustn.htm

ここでは内モンゴル産の黄褐色のアンデシンが、処理により赤や緑となり、コンゴ産・チベット産として流通した旨説明されている。
中国の研究者の技術情報が流出したようである。
異なる三つの産地から発見されたにも関わらず、組成や特性がほぼ同じであることが判明し、改めて調査が行われたらしい。
処理した原石を各鉱山にばら撒いたものとする大胆な仮説は非常に興味深い。
なぜなら、私も同じことを考えていたからだ。
では一昨年、スピ系のイベントでアンデシンのブレスレットのみ販売していた、無口なクリスタルヒーラー(?)は偽物だったということになるのだろうか。

このところ人工宝石に興味が向いていたので、お手ごろ価格で美しい石が購入できて満足している。
おそらく中国産だと考えられるが、コンゴ産と明記されていたため、産地は不明としておきたい。
いわゆるレッドアンデシンは、現在も数万程度で販売されている。
タイ経由で仕入れるなどして、販売者に悪気はないのだとするなら、この件に関して大声で文句を言う気にはなれない。
なお、中国では2008年北京オリンピックのさい、公式宝石/国家の象徴としてその赤いアンデシンを掲げ、開催を祝ったといわれている。



※この件に関する研究論文が幾つかあり、いずれも合成石という結果が出ていました。また、商業サイトにおける鉱山の写真は、素人が見ても不自然で、強い違和感を覚えます。ディーラーの良心を信じたいものです。(12/08/05 追記)


1.06ct

今週、話題性が確認された10の鉱物

What Mineral Would You Take with You to A Deserted Island?