2012/03/07

パープルアパタイト


パープルアパタイト
Purple Apatite
Shingus, Haramosh Mts., Skardu District, Baltistan, Pakistan



淡いパープルのアパタイトに、紺色のインディゴライト(エルバイトトルマリン)が共生する豪華な標本。
先端に広がるアパタイトの結晶群は、まるで花のよう。

アパタイトといえば歯みがき?
石がちょっと好きな人であれば、ブルーを連想するかもしれない。
アパタイトにはブルーのほかに無色、イエロー、グリーン、ピンクなどさまざまな色合いがある。
紫色のアパタイトは、けっこう珍しい。
カットされコレクション用のルースとして流通しているが、誰もが気軽に買える価格とはいえない。
また、透明石は極めて稀で、霧のようなインクルージョンが入っているのが一般的。
もし、全くダメージのないパープルアパタイトのルースが格安で販売されていたら、お店の人に訳を聞いてみよう。

パープルアパタイトはなんとなく盛り上がっている…ような気がする。
イエローやピンクは比較的安価で入手できるが、これまでパープルは本当に少なかった。
若干流通の増えた今が買い時かも。

写真の標本は、実は安かった。
確かに透明感はいまひとつ。
また、アパタイト全体がパープルではなく、淡いグリーン~パープル~ピンクの3色に分かれている。
大きさはあるから私はこれで満足。
上質のパープルアパタイトは、透明感に富むラベンダーカラーを示し、大きく柱状に結晶している。
見かけたら拝んでおこう。
ちなみにアパタイトには三種類あり、パープルアパタイトをはじめ、私たちが目にするアパタイトの多くは、フローアパタイト(フッ素燐灰石)に分類される。

アパタイトにはさほど興味がなかった。
今回は、おまけ(インディゴライト)に惹かれて衝動買い。
シャープで繊細な、インディゴライトの輝きに負けた。
内部にも結晶が入り込んでいて、母岩のあちこちがインディゴブルーに彩られている。
これだけでも十分価値があるのに、ラベンダーを思わせるアパタイトとの組み合わせは、まるで見知らぬ芸術家の作品のようだった。
神様はよくぞこんな不思議なものを創られたと思う(以前も書いたような気がする)。

気になるのは産地である。
アフガニスタン、またその周辺諸国から産出する鉱物は、情勢などの理由から、複雑なルートをたどる。
産地不明となってしまうことも少なくない。
収集家、特に欧米では産地を重視するため、それっぽい地名を宛がうこともあるようだ。
この標本も、アフガンから出たものではないかと考えた。
美しすぎる違和感。
アフガニスタンでは、見栄えを良くするために、母岩や結晶にまでも手を加えることがある。
この標本ももしかしたら…?と、疑いたくなるのが人の心。
情勢の不安定な国々と隣接するパキスタンの業者が、鉱物資源の闇取引に関わっているという噂まで聞こえるほどの難しさが、そこにはある。

上記の土地は多数の鉱物を産する有名なペグマタイトにあたり、アパタイトの産出もあること、また色としてはパープルというよりパープルピンクに近いことから、パキスタン産だと思うことにする。
実際のところは、わからない。
売っている人も知らなかったりする。
この標本の産地とされるスカルドゥは、鉱物資源の宝庫ということになっている。
いっぽう、スカルドゥは鉱物の取引がさかんな町で、アフガンだけでなくタジキスタンや新疆ウイグル自治区(中国)産出の鉱物まで流れてくるという噂があったりもする。
知らないほうがいいことが、この世にはある。
パキスタンからの鉱物がこのところ業界を圧倒しているのは、私たちには知り得ない複雑な事情が絡んでいるんだろう。

本当に美しい。
白い部分は長石、インディゴライトの隙間にみえる赤は雲母と思われる。
ペグマタイト(※)から出てきた感が満載だ。
それ以上は考えないことにする。
春を待たずして、こんなにも魅力的な花にめぐりあうことができたのだから。


※ペグマタイト

おおざっぱにいうと、売れ筋パワーストーンが豊富に出てくる地層のこと。モリオンやトパーズ、放射性鉱物などが、日本の某ペグマタイトから産出するのは有名である。アフガニスタンのラグマーン・ヌーリスタン付近のペグマタイトからは、トルマリン、クンツァイト、ベリル(アクアマリン、エメラルド、モルガナイトほか)、雲母や長石、放射性鉱物各種など、高品質かつ多彩な鉱物が多く産出している模様(→詳細はパライバトルマリンにて)。




45×30×28mm  24.98g

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