2012/05/30

モリオン/スモーキークォーツ(ポーランド産黒水晶)


モリオン/スモーキークォーツ
Morion/Smoky Quartz
Strzegom, Dolnośląskie, Poland



珍しいものを見かけた。
ポーランド産モリオン。
なんだろう、こんなの聞いたことが無い。
そう思って問い合わせてみたところ、在庫を見せていただけるというお話になった。
産地はデータベースにも掲載されている、ポーランドの有名なペグマタイト。
歴史に残る鉱物を数多く産したが、採り尽くされてしまったようだ。
現在は古いコレクションが、ヨーロッパの愛好家たちの間でささやかに取引されているという。

私の対応に不備があり、話が消えそうになりながらも、なんとか日本まで送っていただけることに。
被災地から戻って間もなく、ポーランドの黒い水晶と対面することになった。
ひとつひとつ、チェックする。
個性豊かな黒水晶が次々に現れる。
クローライトのまりも状インクルージョンが入ったモリオン(!)まで出てきた(そのことに気づかれた、お世話になっている社長にプレゼント)。
漆黒のモリオンから透明に近いスモーキークォーツまで、色合いの幅は広い。
資料にあるとおり、モリオンの上にさらにスモーキークォーツが成長している標本が最も多い。
そのため結晶表面に光沢があり、優美な印象を受ける。
気になるのは、エピドートと共生している確率が極めて高いということ。
結晶内部から表面に至るまで、もじゃもじゃのエピドートで埋め尽くされている(本文下、左の石)。
ダークスモーキークォーツに幽かに浮かぶ風景。
モリオンの場合は中が見えないから、はみ出したものを見て思いを馳せるしかない。
なんて贅沢な悩みであろう。

被災地への旅の前日、私は大阪ミネラルショーに来ていた。
いつもながら師匠とともに。
彼はいつも気の利いたプレゼントを用意してくださる趣味人にして、あらゆる分野における大先輩。
その日プレゼントしてくださったのは、切手だった。
祖父(石の収集家でないほう)が切手の収集家だったこともあり懐かしかった。

大好きなうさぎの切手に混じって、鉱物の切手が数枚ある。
その中に、明らかに見覚えのある水晶の切手があった。


旧東ドイツ(DDR)発行の切手。左はエピドートがはみ出している?

茶色の水晶からはみ出した黄緑色の何か。
これって、ポーランドのモリオンにそっくりじゃないか。
実際に届けられた標本を見て、確信した。
社長にお話を伺った。
水晶とエピドートの共生は、特に珍しいことではないそうだ。
同じものとは限らないとのご意見であった。

確かにそうだ。
しかし、わざわざ切手にするからには、それなりの歴史的評価と産出量があったはず。
切手にはその国の誇りや美意識、歴史が刻まれている。
モリオンは真っ黒な単結晶、或いは長石と共生したものが好まれる。
よりによって、もじゃもじゃしている標本を切手にするというのは、奇妙である。
何を記念して発行された切手なのだろう。
譲ってくださった方もわからないとのこと。
古い切手だから当然だろう(書いてある文字についてもコメントはなかった)。
ドイツでは鉱物収集が盛んだから、ヨーロッパ各地から出ているモリオンを取り上げたものなのかもしれない。
ヨーロッパにおいては、イタリアやルーマニアから発見されるモリオンが有名で、現在も多くの流通がある。
いずれも外観は異なっている。
大さといい、態度といい、もじゃもじゃといい、この絵柄はまるでポーランドのそれ。

旧東ドイツから歴史的なモリオンが産したという話は聞いている。
この水晶の産地に同じである。
つまり現地は戦前、東ドイツ領だった。

写真は私が一番気に入っている標本。
半分は完全に黒、上部はダークスモーキーとなっており、太陽光の下で内部の様子を観察することができる。
両端が結晶し、この地に原産の鉱物Strzegomiteが内包されているという。
インクルージョンの実に多彩なこと。
真っ黒で中身など見えないはずなのに、親切にはみだしているというのも、興味深い。
モリオンの一面にびっしり付着したエピドートは、ふさふさと生い茂った芝生のよう。
付着物といえばフィンランド産モリオンだが、ここまで派手ではない。
こんなものが世界各地から産出しているのか。
なにより不思議なのは、友人がなぜこのタイミングで切手をプレゼントしてくださったか、ということ。
私の趣味はだいたいご存知だ。
黒水晶にはさほど興味のないことだって、知っている。
ただ、私が子供時代、切手に興味があったことは伝えていなかった。
数枚あった鉱物の切手のうち3枚に、モリオンの絵柄が入っている。
偶然にしては出来すぎている。
ご協力いただいたすべての方に感謝し、美しい黒水晶を生んだ遠き彼の地に思いを馳せる。




いくつかストックがございますので、興味のあるかたはお問い合わせください(詳細ページ)。夕日で撮影したので、エピドートが黄色っぽく写っている点、お許しを。


60×33×30mm  78.04g

2012/05/28

フェナカイト/アクアマリン/フローライト


フェナカイト×アクアマリン×フローライト
Phenacite/w Aquamarine, Fluorite
Siyany Mountains, Deposit Snowy, Buryatia, Russia



フェナカイト(フェナサイト/フェナス石)の大きな結晶に、水色のアクアマリンが見え隠れし、紫のフローライトが華を添えている。
ホワイト~クリーム色のフェナカイトは、主役ながら素朴で地味。
何も言われなかったら脇役に見えてしまうかもしれない。
もともと、産出そのものが少ないため、希少価値・相場ともに年々上昇を続けている。
多くは1グラムに満たない欠片で、10gを超える標本は貴重品となっている。
フェナカイト、アクアマリン、フローライト。
この類い稀なる組み合わせは、ロシアから近年、僅かに発見されたものだという。
数年前に、欧米のヒーラーの間で流れていたものを運よく入手した。
現在も流通はある。
産出があるかどうかについてはわからない。

ロシア産のフェナカイトは貴重品で、なかなか拝む機会がなかった。
確かに、表面には土が付着していて、あまり綺麗とは言えない。
しかし、当時の私にこの大きさは衝撃であった。
洗う気になれず、そのまま保管してあった。
先日、たまたま見つけて、手に取った。
私の撮影技術ではその魅力を存分に引き出せなかったことが悔やまれる。

ロシア産フェナカイトは、クリスタルヒーリングを嗜む人々に特に人気が高い。
透明感においてはミャンマー産のほうが優れているし、形状のバリエーションにおいてはブラジル産が群を抜いている。
しかしながらロシアンフェナカイトの波動は、それらとは比較にならないということである。
ヒーリングストーンの頂点は、フェナカイトとアゼツライト。
次いでモルダバイト、ダンビュライト、ブルッカイト、水晶やニューエイジストーン各種が並ぶということになっている。
選ばれし人々のみが手にする石、フェナカイト。
そんな扱い。

驚く方もおられるかもしれないので、補足しておく。
波動はともかく、石が人を選ぶのには理由がある。
流通の少なく相場の高い石は、タイミングや予算などが違えば入手できないのが常。
また、入手ルートが限られることもある。
サチャロカアゼツライトはその典型的な例だろう。
フェナカイトはれっきとした鉱物で、専門家が見ないとそれとわからない、という曖昧さはない。
それどころか、一目でロシア産とわかってしまうような、独特の魅力を放っている。
クリスタルヒーラーのみならず、鉱物収集家にも好まれる希少品であるがゆえに、入手が難しいのだ。
一生モノを手にするためには、最低限の購入資金と、鋭いアンテナが必要となる。

さて、昨年Heaven&Earth社から、セラフィナイト入りフェナカイトなるものが登場し、話題を呼んでいる。
産地はウラルのエメラルド鉱山とのことだから、マリシェボからの産出ということになるのだろう。
フェナカイトとしては大きく見応えがあり、清らかで颯爽とした印象が心地よい。
気に入って大切にしている。
石としては文句のつけようがない。
ただ、違和感は拭えない。
当初は金雲母とセラフィナイト、フェナカイトが共生した状態で発見されたという。

ピンときた方もおられるかもしれない。
以前、ゴールデンセラフィナイトという鉱物を取り上げた。
セラフィナイトの産地は本来、ロシアのバイカル湖付近に限定されるということだった。
この "セラフィナイト入りフェナカイト" の産地と推測される、ウラル・マリシェボ鉱山からはかなりの距離がある。
手持ちの石に関しては、何らかの鉱物が共生していることがわかる程度。
セラフィナイト(もしくは鉱物名:クリノクロア)なのかどうかについては、肉眼での判断は困難であった。
天使の羽根という喩えの由来となった、独特の模様や深いグリーンの色合い、柔らかな質感などはみられない。
出処はモスクワ、地質博物館の学芸員とのこと。

白くてふんわりしたものが好きだ。
ロシアンフェナカイトの特徴でもある、雪のように白く、まるみをおびた姿。
結晶中に時折みられる透明な窓は、光を受けて虹色に煌く。
波動については素人ゆえ判らぬが、可愛らしくてたまらない。
数あるフェナカイトの中でもひときわユニークな「アクアマリン・フローライトの結晶を伴うフェナカイト」を私はおすすめしたい。
残念なことに、私のもとにはこれひとつ。
どうかあなたのもとにも、届きますように。


35×32×23mm  26.02g

2012/05/26

ハックマナイト(結晶化)


ハックマナイト Hackmanite
Sar-e-Sang, Koksha Valley, Badakhshan Province, Afghanistan



アメジスト?
フローライト?
いいえ、うさこふさんです。
春のミネラルショーで見つけて、何の石か訊ねようと店主を探していると、どこからか私の名を呼ぶ声がした。
いつも興味深い鉱物を届けてくださる馴染みの業者さんだった。
覚えていてくださって、うれしい。
しかし、いつもながら難解なものを届けてくださる。

一見しただけではわからなかった。
優しいラベンダーカラーと絹状光沢、結晶形から、フローライトやレピドライトを連想した。
価格は1,000円。
いつもながらの良心価格。
ハックマナイト、とのことだった。
紫の透明石は初めて見る。
よくハックマナイトとわかったものだ。
ブラックライトでオレンジに蛍光するさまは、まさにハックマナイトのそれ(本文下に写真を掲載、共生の青紫は不明
)。

結晶し、さらに侵食を受けた姿が興味深い、宝石質のこの標本は、ラピスラズリが採取されることで有名なアフガニスタン某所(※注1)からやってきた。
過去にソーダライトの考察において、ハックマナイトとラピスラズリとの混同が見受けられるとした(→ソーダライト/ハックマナイト及びアフガナイトに記)。
現在もこの件については意見がわかれる模様。
宝石として流通しているアフガンからのハックマナイトの多くはブルーの透明石。
ソーダライトと呼ぶほうが自然なのでは。
ハックマナイトはソーダライトの変種にあたる。

※注1)この標本の産地について、鉱山までは確認できていない。有名な産地は以下:Lajur Madan; Lapis-lazuli Mine, Sar-e-Sang District, Koksha Valley, Badakhshan Province, Afghanistan.


参考:さまざまな産地のハックマナイト
http://www.cgl.co.jp/latest_jewel/gemmy/135/02.html

ここではハックマナイトを産地別に分け、産地に拠って異なる特徴を示す原因について報告されている。
ミャンマー・パキスタン・アフガニスタン・ロシア・カナダ・グリーンランドからそれぞれ採取されたサンプルを用いている。
私がセットと思い込んでいたミャンマー産とアフガニスタン産だが、それらが異なるグループに属するという部分は非常に興味深い。
またパキスタンからは、どのハックマナイトとも違う特徴を示す石が出ているらしい。

さて、パキスタンのハックマナイトを探す旅が始まった。
しかしながら、アフガニスタン産のスキャポライト(マリアライトに分類されることが多い模様)にたどりついてしまった。
紫の色といい、質感といい、そっくりである。
カットしてしまうと全く見分けがつかない。
表記の産地は同じ(注1)。
無色透明~アクアブルー、濃紫色に至るまで、さまざまな色合いの結晶が出ているようだ。
いずれも蛍光し、イエローまたはブルー、レッド、ピンクなど、テネブレッセンスの色は石によって異なっている。
興味深いのは、ラピスラズリやアフガナイト同様、ピンクに蛍光する場合があるということ(→アフガナイト参照。アフガナイトはレッド~ピンク、ソーダライトやハックマナイトはオレンジ~レッドに蛍光するようだが、それらは持ち主によって異なるとみられる)。
同じ産地の同じ鉱物であっても、石によってテネブレッセンスの色合いが異なる、という現象は起こり得るのだろうか。
成分が著しく異なるのでないなら、違和感を感じずにいられぬ。
そんな素人がここにいる。

まとめよう。
同地からは無色透明~アクアブルー~濃紫色を示す蛍光鉱物が多数発見されている。
つまり、アフガニスタンのラピスラズリ鉱山からは、アフガナイト、ソーダライト、ハックマナイト、スキャポライト(マリアライト)、またダイオプサイドが産出し、しばしば混同されている?

蛍光鉱物について研究されている方に詳しく伺いたい。
何処におられるだろうか。
なお、異例の特徴を示すとされるパキスタン産ハックマナイトについては、入手できる可能性は極めて低い(Balochistanから産した例が一件のみ。以下ソース省略)。
またパキスタンに隣接する中国某所から、紫のスキャポライトが産出、産地を偽って市場に流れているということであった。




30×22×19mm  9.35g

2012/05/25

ブルートパーズ(川流れ)


ブルートパーズ Blue Topaz
Aracuai River, Aracuai, Minas Gerias, Brazil



ガラスのようなブルーの石ころ。
一見すると、川流れ水晶のように見える。
青い色の水晶は無いはずだから、何事かと思ってしまう。

二年前の秋のミネラルショー、ブラジル産鉱物専門ブースの500円コーナーにあったもの。
上流に有名なブルートパーズの産地があり、そこから流れ出たものだろうとのことだった。
川流れトパーズ。
半分に割って、中を見てみたい衝動にかられる(川流れ水晶は半分に割って、内部が観察できるような状態で流通している)。

天然のブルートパーズというのは珍しい。
天然石志向がピークにあった頃、天然ブルートパーズのブレスを30万で購入した人がいたほど。
一般に知られているブルートパーズの多くは、熱処理・放射線処理によって青い色合いに変化させたもの。
もともとは宝石として使えない色だった。
スイスブルートパーズ、ロンドンブルートパーズなどと呼ばれる処理石は、大きいものでも千円以下で入手できる。

処理により色合いを変えることが可能なトパーズをFタイプという。
ブルートパーズはFタイプにあたる。
現在はシェリートパーズやピンクトパーズ、パープルトパーズなどに人気が集中している。
それらはOHタイプと呼ばれ、その希少性、色合いの珍しさ、美しさなどから高い評価を得ている。
いっとき希少品とされた天然のブルートパーズは、それらとは比べ物にならないほど流通した。
天然ブルートパーズは意外に珍しくないもの、として定着してしまった。
ゆえに、人気は下降気味。
このブルートパーズもまた、時代の流れに取り残され、処分されていたのだろう。

調べてみた。
"川流れトパーズ" という流通名は実際にあるようだ。
7月24日の誕生日石にも指定されている。
ただし見た目はこれとは別モノ。
大半は欠片のような状態で、まんまるなタイプはみかけなかった。

しかし、よくトパーズとわかったものだ。
レアな青い川流れ水晶だと言われたら、信じてしまうかも。


30×24×18mm  24.89g


2012/05/22

グリーンファーデンクォーツ


ファーデンクォーツ
Green Faden Quartz
Kharan, Baluchistan, Pakistan



ファーデンとはドイツ語で「糸」の意味。
うすい板状の結晶の中心に、糸のようなつなぎ目がみえる水晶をさして、ファーデンクォーツと呼んでいる。
以前はアルプス産出の高級品が中心だったが、近年パキスタンから比較的安価な標本が流通するようになり、一気に身近な存在となった。
クリスタルヒーリングにおいては、再生、復活、魂のパートナーとの繋がりを意味するとされ、人気は高い。
ファーデンクォーツの奇妙な形状とその生成過程については諸説ある。

最も一般的な説としては、もともと二つあった結晶が、地殻変動などによって割れ、再結晶した、というもの。
中央を貫く糸はつまり、修復された跡というわけ。
いっぽう、糸はいわば芯で、それを中心に結晶が成長していったという説もある。
また、上記の二つの過程が順番に起きたという説もあるようだ。
水晶は何億年の時を経て私たちのもとに届けられる。
その過程において何が起きたかについては、推測の域を出ない。
実験室で短期間のうちに合成水晶を作ることはできる。
しかし、自然界で起きている様々な出来事を、何億年もかけて実証してみせることは、事実上不可能であろう。

緑に染まったファーデンクォーツ。
結晶表面から内部に至るまで、ふりかけのように点在している緑の鉱物は、クローライト(アクチノライトとの説も)とのこと。
ファーデンクォーツの成長過程において、クローライトが取り込まれ、表面にびっしり付着するほどに、両者は密接した状態であったものと考えられる。
長期間にわたって同じ環境下で成長したということである。
ゆえに、地殻変動などが原因で結晶が二つに割れるほどの大規模な環境の変化が起きたという説には、違和感を覚える。
仮に地殻変動との関係があるとするなら、この結晶が形成されるごく初期の段階での出来事ではないだろうか。
「修復」後に起きることも、ファーデンクォーツの正体に迫るうえで重要な手がかりになるという推測が可能だ。

さて、このグリーンファーデンクォーツには、一般的なそれとは異なる特徴がみられる。
一見して興味を惹かれるのは、20本余りのダブルポイントの水晶が束になっていること。
やや板状ではあるが、一つ一つのポイントが生々しくその姿をとどめている。
ファーデンクォーツの多くは、再結晶を繰り返すうちに、本来の形は崩れていく。
極めて薄い板状の連晶となって発見され、そこにかつての面影は無い。
結晶の本数が数えられるほどに形を留めていて、そのすべてがダブルポイント(両錐水晶)となっているのは興味深い。

水晶には普通、上下がある。
両錐水晶は、どちらかの先端が先に形成され、その後反対方向に結晶が成長していくことにより出来るといわれている(写真)。
一つの水晶に二つ以上のトップ(先端)が見られる場合、それらは別途形成されたものと解釈する。
よく観察すると、あとから出来たトップはどちらかわかることが多い。
しかし、この標本の場合、二つのトップがほぼ同時に出来たように見えるのである。
それらが押し固められて、束になった状態。
いったいどうして、こんなことになってしまったのだろう。

ファーデンクォーツについて、調べてみた。
誰もが異なる意見を主張をしている。
専門家(?)の意見がこうも食い違うということは、実際のところよくわかっていないってことだろう。
クリスタルヒーリングで多用される、修復という推論は、こじつけの感がある。
かつて2つあったものが折れ、修復されただけなのであれば、日本式双晶のようなシンプルな形になるんじゃなかろうか(本文下の写真右)。
一部にはそうしたシンプルなファーデンクォーツも存在する。
ただし、先輩方のご意見をまとめると、その生成過程は、時と場合により異なるものと考えるのが妥当だろう。

では、このグリーンファーデンの場合はどうか。
一本の白く太い糸が、結晶の中央を貫ぬくからには、ファーデンクォーツだろう。
いっぽうで、フロータークォーツ(大雑把に説明すると、特殊環境で宙に浮かんだ状態で成長したために、上下がない水晶のこと)のようにも見える。
ただし、フロータークォーツが自由奔放に成長し、方向性が定まらないのとは異なり、この標本は左右対称である。
水晶の束は、中央の糸を境に同じ方向を向いて成長している(本文下の写真左)。
ふりかけのようにちりばめられた、緑のクローライトが謎を加速させる。
以下は、あくまで想像である。

このファーデンクォーツはきっと、始まったばかり。
実はこの先にはまだ、続きがあったのだ。
それを誰かが見つけて、持ち帰ってしまった。
中央を貫く太くまっすぐな糸が、この結晶をより複雑で神秘的な姿に導くはずだった。
ゆえに、このファーデンクォーツは、無限の可能性を秘めている。
私にはそう感じられてならないのである。





左は裏からみたところ。やや板状となった結晶の中心に、糸がみえる。右はマダガスカル産の日本式双晶。こちらも中央に「糸」がみえるが、その定義や生成過程は異なる。マダガスカルからファーデンクォーツが産するという話は聞かない。


40×38×12mm  16.48g

2012/05/21

ポリクロームジャスパー


ポリクロームジャスパー
Polychrome Jasper
Near Analalava, Tulear province, Madagascar



まるで砂漠に建つ城のよう。
2006年にマダガスカルで発見されたジャスパーの一種である。
多彩で変化に富む絵画のような模様は、塊状の原石を研磨することにより自然に現れたもの。
ポリクロームの名は、その幅広い色合いに因む。
その名の示すとおり、赤からイエロー、ブルーやパープルなど、あらゆる色がこの石に現れるのは非常に興味深い。
砂漠から産することから、デザートジャスパーとも呼ばれている。

ジャスパーは日本では人気がない。
国内の天然石の需要の多くはビーズ。
模様を楽しむには小さすぎる。
ゆえに、国内で流通しているジャスパーの多くは、中国で染色された岩石である。
ジャスパーの類いはすべて偽物だと割り切っている人々もいる(詳細はアゲートに記しました)。

欧米ではジャスパーの評価は高く、専門のコレクターもいるほど。
中でも研磨により風景の浮かぶジャスパーは、ランドスケープジャスパーとして、高額で取引されている。
しかしジャスパーに現れる風景を楽しむ日本人はごく一部。
多くは偽物扱いされ、二束三文の価値とみなされる。
例外はある。
マダガスカル産のオーシャンジャスパー、オーストラリアのムーカイトなど、ヒーリングストーンとして評価を受けたジャスパーの人気は高い。

このポリクロームジャスパーもヒーリングストーンとして注目されつつある。
それに伴い、国内での人気も上昇している。
なんでもこのポリクロームジャスパーを用いて瞑想すると、高次の世界へ導かれるのだとか。
癒しの石というのも、絵画療法に使えそうだからわかる気がする。
アセンションストーンという呼び方もある模様(参考:パワーで選んでしまった好例)。
ジャスパーに価値が与えられるのは大変嬉しいこと。
ただ、パワーだけで選ぶと二束三文のジャンクを掴むことになる(参考:日本人がいかに舐められているか実感できる好例2)。
できるなら、パワーと併せ、自然が作り出した美しい情景を楽しみたい。

イメージはバビロンの空中庭園かな。
砂漠を彷徨った旅人がようやく見つけた楽園。
バグダッドの遥か南。


55×12mm  50.95g

今週、話題性が確認された10の鉱物

What Mineral Would You Take with You to A Deserted Island?