2012/01/11

サンムーンストーン


サンムーンストーン
Sun & Moon Stone
Potaniaskie Mountains, South Ural, Russia



女子高生?
いいえ、伝説のロシア・南ウラルのサンムーンストーンです。
ある意味ピンクファイヤー。
もはやそれすらも超越した、エレクトリカルパレードのような石である。

サンストーンのアヴェンチュレッセンス(輝き)とムーンストーンのアデュラレッセンス(シラー/輝き)が同時にみられることから、サンムーンストーンの愛称で呼ばれている希少石のひとつ。
鉱物としてはアノーソクレース(曹微斜長石)にヘマタイトが混入したものとされている。
多くはカットされ、研磨品として流通している。

ツーソンで知り合った台湾人ディーラーに、半ば強引に勧められて購入した思い出の一品。
貼りっぱなしのラベルには、$45.00とある。
かなりの高級品と覚悟して購入した。
ピンクファイヤークォーツの項でもこの話題を出したが、意図したつもりはない。
今考えると不思議ではある。
ピンクのファイアはこの石にも出ていると考えられるからだ。

名前からしていかにもパワーストーンのような印象を受けるが、専ら鉱物標本として流通している。
おそらく、ビーズなどに加工するほどの原石が確保できないのだろう。
さきほどサンムーンストーンの名でブレスが販売されているのを見て驚いた。
しかしそれはどう見ても、ブラウンオレンジのムーンストーンであった。
混同されているのかもしれない。
不当な価格での販売に仰天している。

自宅で楽しめるエレクトリカルパレード。
きっとあなたも、女子高生になれる。
もうすぐ自分のお誕生日であるからして、当日は煌くレインボーの光に乗り、夢の世界に連れて行ってもらう予定である。




55×28×12mm  39.29g

2012/01/09

ビクトリアストーン


ヴィクトリアストーン
Victoria Stone/Imori Stone
USA - Iimori Laboratory, Japan



幻想的な模様が好奇心をそそる美しい宝石。
グリーンのほかにブルー、イエロー、オリーブなどさまざまな色合いがある。
欧米、特にアメリカでの評価は高く、概ね100ドル以上で取引されている。
ビクトリアストーンは人工的に作られた宝石である。
しかしながら、開発者がその製造過程を誰にも明かすことなく死去したため、今後新しく作られることはないとされている。
その希少性と神秘性、美しさから、海外では有名な合成石の一つ。
石のカリスマブログライターさんが(ややこしいので省略)予定されていることを知った。
国内では見たことのなかったビクトリアストーン。
タブーではあるまいかと避けていたが、真相を問うべく書かせていただく。
福島での原発事故の熱が冷める前に。

3年ほど前にアメリカのディーラー経由で知ったビクトリアストーン。
イモリストーンとの併記があった。
イモリ=爬虫類?
何事と思ってよく読んだら、日本の研究者である飯盛里安(いいもりさとやす)博士が開発した人工石であり、iimoriが訛ってimoriとして定着してしまったようだった。
日本人が開発したにも関わらず、日本国内にビクトリアストーンが存在しないばかりか、適切な資料さえ見当たらないのは不可解であった。
まるで封印されたかのよう。

飯盛博士は放射性鉱物や発光性鉱物、希元素などの研究、放射能測定機の考案等の功績を持つ化学者で、1982年に96歳で亡くなっている。
戦時中に日本で極秘に行われた原爆開発。
このプロジェクトに関わった研究者の一人に、彼の名前が挙げられている。
資料をあたり、封印された二つの実績がリンクしていないことに違和感を覚えた。
原爆とビクトリアストーンの開発者は別人なのか。
比較的珍しいお名前だから、どちらもご本人であろうと思う。
もしこの矛盾が事実であるならば、彼はおそらく利用されたのではないか。
日本軍が福島県石川町で原爆を製造した歴史が封印されたことは燐灰ウラン鉱で取り上げた。
事故のあった東京電力福島第一原発にほど近いその土地で、動員された学生らが放射性鉱物の採掘に従事し、失敗に終わったという皮肉である。

飯盛博士は97歳でこの世を去るまで精力的に宝石の開発に取り組んだ。
志半ばで亡くなったわけではないから、レシピが残っていないというのは不自然で、意図的なものではないかと疑いたくなる。
彼自身、過去を封印したとしか思えないからだ。
唯一の被爆国、日本。
その日本が原爆を作ろうとしていた事実。
重要なのは、彼が核開発を望んでいたとは思えないこと。

その福島において、歴史に残る深刻な原発事故が起きた。
以前カポジョンカットをお願いしたアメリカ人に、こうした事実関係について先ほど確認した。
見事にスルーされた。
日本とアメリカには、今もなお見えない壁がある。

※後日談…「研磨してもっと用意する」との一言(日本人との取引は私が初めて、通常は断っていたようなニュアンス)。のちに彼の正体が判明するが…

推測するならば、彼は平和を望み、自らの死をもってビクトリアストーンを封印した。
その宝石は今、アメリカで高く評価されている。
趣味の悪いアメリカンジョークとしか思えない。
飯盛博士がかつて福島で見た絶望的な光景。
明かされることのない想い。
それらは、この美しい宝石に秘められたまま、伝説となった。(2011年12月20日付)


飯盛里安(1885―1982)
http://www.kanazawa-museum.jp/ijin/sugao/main-iimori.htm




36×16mm  37.00ct



【続・ヴィクトリアストーン】

その後、明たな事実が判明しました。残念ながら、アメリカ人は飯盛博士やこの石の正体にはいっさい興味なく、事実関係にも無関心。「歴史から消えた宝石」というミステリーは好奇の対象に過ぎないというのが現実です。飯盛博士そのものが評価されているわけではありません。

ここに続編を含めた記事を、新たにアップさせていただきます。2012年明けてすぐ、初夢に晩年の飯盛博士が出てきたために、なにかあるのかと思い立ち、引き続き調べようと資料をあたったところ、わかったものです。以下に昨夜、音楽と鉱物と映画を愛する大切な友人に送った手紙を引用します。なお、国内でも「メタヒスイ」(別物です)として僅かに流通はあったようなのですが、宝石としての美しさより翡翠らしさを重んじる日本では、その存在は忘れられてしまったようです。


"クリスマスに見せたビクトリアストーンの話の続きがあります。親父と同い年の反日アメリカ人が所有していたあの石です。

昨日知りました。飯盛博士は、実は二人いたのです。名前も経歴も、職業どころか職場も同じだったために、同一人物だと思い込んでいました。

原爆の開発に直接関わったのは、飯盛博士のご長男、武夫氏でした。かの「二号研究」に携わってたった半年、終戦を待たずして、31歳の若さで亡くなったそうです。

博士がビクトリアストーンの開発に成功したのは、1955年。自分を追って東大理科学研究所に入り、研究を共にした息子を失った後悔の念を抱え、博士は終戦後、宝石の開発に没頭していったものと思われます。1952年に理化学研究所を引退し、飯盛研究所を設立してすぐ、彼は合成宝石の研究に取り組んでいます。

息子が最後に過ごした、ウラン資源の採掘現場ともなった福島県石川町の水晶山。博士がその山で収集したという、キャッツアイに彩られた美しいネフライト(軟玉ひすい)のコレクションが、博士に残された唯一の楽しみだった。しかしその宝物さえも、終戦の年に自宅共々焼け落ちたそうです。武夫氏の死去からわずか二年後のことでした。

ビクトリアストーンは、空襲により焼失した彼のコレクションを再現すべく開発された宝石だといわれています。しかしながら私は、失った思い出のネフライトと、自分の跡を追ったために早世した息子への想いを、博士が宝石という形で蘇らせたものと思えてなりません。アメリカは彼にとってかけがえのない宝物をすべて奪い去った恐ろしい存在だったはずです。同じく原爆開発に関わった湯川秀樹とは異なり、暴力的ともいえる言動でその無念をはらすことはせず、飯盛博士は研究者としての立場を貫き、天寿を全うされました。

福島第一原発の事故圏内に位置する福島県伊達郡。当地から発見された新鉱物に、飯盛石があります。飯盛博士とご長男・武夫博士、お二人の功績にちなんで1970年に命名されたそうです。ただ、奇妙なこともあります。飯盛武夫博士は、歴史から消されたも同然なのです。この石はその例外ともいえる貴重な存在です。

福島での原子爆弾開発に熱心に取り組んだ仁科芳雄博士。現在もその名を知られる偉大なる研究者です。ところが、仁科博士のもとで何も知らずに研究に取り組んだ武夫博士については、仁科プロジェクトに参加した研究者のリストから削除されているだけでなく、その死因すら明らかにされていないようなのです。里安氏については戦時中、仁科博士とともに国家幹部より原爆開発に関する相談を受けた記録が残っています。つまり、父親である里安氏も原爆の開発に関わっていた事実があった。同じ「飯盛博士」として一部で混同されているのもまた現実であるようです。

初夢に、飯盛博士らしきおじいさんが出てきました。たぶん晩年だと思います。博士は海を見つめたまま、何も話してくれなかった。本には博士の愛した海岸の写真がありました。彼の故郷、石川県にある、海沿いのペグマタイトだそうです。それは、確かに夢に出てきた光景でした(博士と記念撮影した場所にあった、謎の銅像は見当たらなかったけれど?)。

失われた歴史を知る二人の名を冠した飯盛石。そして日本においてはその姿さえ見ることのできない、幻のビクトリアストーン。ビクトリアストーンに平和への祈りとともに、我が子への愛と後悔が込められているように感じるのは私だけでしょうか。"
(12/01/15)






【特集】

ヴィクトリアストーンの真相
2012年 ~飯盛博士没後三十年を祈念して~


その後明らかになったヴィクトリアストーンの隠された真実に、うさこふが挑みます。

どうしてヴィクトリアストーンは日本から消えたのか。
飯盛博士はこの石に何を見て、何をしようとしたのか。
2012年、日本における突然のブームにより明らかになった、日本人には扱えない宝石、ヴィクトリアストーンの正体とは?


国内のウェブショップに続々登場するヴィクトリアストーンという名のカラーストーンに、私が強く感じた違和感。
背後に存在する思惑に、独自の視点で迫ります!
2012年末~明けて2013年、明らかになるその実態をお楽しみ下さい。



【第一話】メタヒスイ
http://usakoff.blogspot.com/2012/12/blog-post_27.html

【第二話】本当の意味
http://usakoff.blogspot.com/2012/12/blog-post_31.html


【第三話】父の愛
http://usakoff.blogspot.com/2013/01/blog-post.html


【第四話】おわりとはじまりの場所
http://usakoff.blogspot.com/2013/01/blog-post_6.html


完結!ありがとうございました



2012/01/07

シヴァリンガム


シヴァリンガム Shiva Lingam
Narmada River, Mandhata, Madhya Pradesh, India



インド・ナルマダ川から採取されるという、シヴァ神の化身、シヴァリンガム。
隕石由来の物質であるとか、このままの形で川底から発見されるなどのミステリアスな噂は人々を仰天させた。
しかし、実際はジャスパーの一種で、ナルマダ川から得た原石を現地の人が加工しているということらしい。
私が石に興味を持ったとき、すでにシヴァリンガムは人気商品として定着しつつあった。
アクセサリーにして楽しんだり、ヒーリングツールとして用いる方も多いと聞く。
その人気は衰えるどころか、高まる一方のよう。

初めて見たとき笑ってしまったのは私だけだろうか。
神聖なものだけに申し訳ないが、罰ゲームにもってこいじゃないか。
これで瞑想するのはある意味大変だと思った。
どうしてこれほどに需要があるのか、長い間不思議でたまらなかった。

シヴァリンガムの「シヴァ」はインドのシヴァ神、「リンガム(リンガ)」はサンスクリット語で男性器を意味する。
シヴァリンガムとはつまり、見たまんま。
男性の象徴である。
あくまで信仰の対象で、それ以上の意味はないものと捉えてほしい。
ただし、子宝に恵まれる、村を守るといわれるくらいだから、性的な意味合いもまた含んでいる。
よって、日本では男子は18歳、女子は16歳まで手にしてはならぬ。
立てて置くなどもってのほか。

と、ずっと思っているのだけれど、今ネットでみた感じだと、かなり都合の良い解釈をされ、多岐にわたるご利益を期待されているようである(それもだいたいコピペ)。
聖なるシヴァリンガムの誤用を防ぐため、今一度注意を喚起したい。

インドは広い。
イスラム教徒や仏教徒、キリスト教徒、シーク教徒など、さまざまな信仰を持つ人々が暮らしている。
ヒンドゥ教においても派閥があるらしいから、すべての人がシヴァを信仰しているわけではない。
シヴァリンガムの意味を知らないインド人も多いと考えるのが妥当だろう。
寺院に性器を象った「リンガ」が安置されているという話は聞いている。
男性器と女性器を組み合わせた衝撃的なご本尊様である。
写真では見たことがあるし、それを見た人の話も聞いている。
インドでは私も実際に見ようと出かけたのだけれど、寺院にはあまりにも人が多すぎた。
すぐに引き返した。
ヒンドゥ教徒ではない自分がウロウロしていては、礼拝に来る人々の邪魔になる。

シヴァは破壊と再生の神。
インドの人々は、一族の幸せと繁栄のため、リンガムに祈りを捧げるのだろう。
日本人の考える宗教とは異なり、試練や精進という感覚なのかもしれない。
性に関してはむしろ、日本よりも厳格な印象を受ける。
インドでは大半をインド人と過ごしていたが、信仰の領域にこちらから踏み込むことはしなかった。
リゾート地、動物園や博物館、或いは観光地としての聖地を堪能し、たまにコミューンをのぞいたりもした。
あくまで日本人としての立場を貫きたかった。

写真は2009年の米・ツーソンショーで、かなりのスペースを利用して、シヴァリンガムが販売されている衝撃の現場を撮影したもの。
大小さまざまなシヴァリンガムが所狭しと並んでいる。
ちなみに「大」は数メートルある。
こんなものが川から拾えるなどと言い出したのは、どこの誰であろう。
もはや、信仰の対象というより、世界規模のビジネスである。
外国人はインドに神秘を求め、インド人はそれに応える。

シヴァリンガムはいくつか手元にある。
あえてこの写真にしたのは、シヴァリンガムが世界規模で商業ラインに乗っている事実を見てほしかったから。
確かヒンドゥ教徒は売り場にいなかったし、宣伝もしていなかった。

寺院に安置されているシヴァリンガムと、世界的に流通しているシヴァリンガムの外観が異なるのはなぜだろう。
シヴァリンガムが、現地の人々の間で用いられているのは間違いないと思う。
ただ、私たちがシヴァリンガムを見る感覚とは、視点が異なるのではないだろうか。
少なくとも、これを持ち歩いているインド人を私はまだ見たことがない。
さすがにインドの方には聞けないので、調べてみた。
用途について書かれたと思われる記事を見つけたので、あくまで参考としてみていただけたらと思う。
罰ゲームにだけは使わないように。
シヴァリンガムは、神聖です。


【注意】

インドの文化や信仰に関してわかりやすく述べられており、危険な内容とは感じません。
宗教に抵抗のある方、シヴァリンガムに霊的な用途のみを求められる方はお読みにならないほうがいいと思います。
また、性的表現が含まれますので、その旨ご注意ください。


(参考)シヴァリンガムとその信仰について
http://www.bhagavati.de/site06aj.htm

(参考)シヴァリンガムの用途
http://web.kyoto-inet.or.jp/people/tiakio/antiGM/lingam.html


※この石が18禁的な意味合いを持たないというのは確かなようです。ナルマダ川にあるすべての石をシヴァリンガムと呼ぶということならば、いくつかの疑問が生じます。極端な例をあげると、中国産の水晶がシヴァリンガムになり得るのか、など。
シヴァ神は無知の破壊者というくだりは非常に興味深いものです。


10~60mm程度、数点

2012/01/05

アクロアイト


アクロアイト
Achroite Tourmaline
Merelani Hills, Arusha, Tanzania



カラーレスのトルマリン。
聞いたことはあったが、現物を見たのはたぶん、初めて。
同じくカラーレスのガーネット、リューコガーネットが産することで知られる、メレラニ鉱山から届けられたと伺っている。

さまざまなカラーバリエーションを持ち、無色透明の石に価値を置かれる宝石に、ガーネットがある。
ガーネットは私の誕生石でもあったので、ぼちぼち集めていた。
無色透明の石があると知ったときには必死で探したものだ。
トルマリンもまた同様、無色透明の石はアクロアイトと呼ばれ、収集家の憧れと聞いている。
パライバトルマリンなど、ダイヤモンドの価値を上回るような石も存在するため、それらの華やかさに隠れてしまいがちだけれど、探してもすぐに出会えるものではない。

このアクロアイトは、ある日偶然に目にとまった。
それも、初めて見つけたお店で、一目惚れしてしまった。
宝石の世界が無知に甘くないことは知っている。
また、長年お世話になった業者さんとの別れを機に、しばらく宝石の購入は控えるつもりでいた。

東京に出発する直前のこと。
気力も体力も果てつつあったが、この石について質問せずにはいられなかった。
対応してくださった社長さんが親切な方だったために、夢中でお話を伺った。
謙虚で誠実、かつ気さくな方なれど、宝石にたいする情熱と鋭い眼差しを、私は見逃さぬ。
どんな人にも平等に、わかりやすく物事の魅力を伝えられるというのは、限られた人に与えられた才能に他ならない。
社長さんとは、もっとお話ししたかったのだが、途中で力尽きてしまった。

池袋ショーをまわるにあたって、その方からいただいた助言の数々は、非常に意味のあるものだった。
本物を知らずして偽物を語るなかれ。
そう、それが私の口癖だったのに。
私はようやっと、大切なことを思い出したのである。

疲れ果てて宿に戻ったら、ベッドの上に荷物が置かれているのに気づいた。
社長さんが東京まで送ってくださったのだ。
その輝きは、今までにない鮮烈な光を放ち、私は圧倒された。
カラーレスのトルマリンは、数々の混乱を経て、リセットされた心に似ている。
無限の可能性を秘めているようにすら感じさせる。
完全に透明ではなく、僅かに(といっても自分にはほとんどわからない)グリーンを帯びているところもまた自然で、とてもいい。

熱意あふれるディーラーさんとのご縁に恵まれた年であった。
もう少し磨かねばなるまいな。
やっとのことでお礼を書いて、そう思った。
長く険しい一年が、ようやく終わりを告げようとしていた。


0.34ct

2012/01/03

シャッタカイト入り水晶


シャッタカイト入り水晶
Shattuckite In Quartz
Kaokaveld, Kunene Region, Namibia



シャッタカイトのボール状結晶を内包する水晶。
鉱物標本業界の最先端を行く有名鉱物店がウェブ上で紹介し、収集家の間で専ら話題になっていた。
鉱物界の権威、H先生とは全く面識がないし、鉱物愛好家のバイブル『楽しい鉱物図鑑』も見たことがない(怒らないで下さい)。
サイトを拝見したのも初めてだった。
さすがの品揃えと情報量、そして紹介されていたシャッタカイト入り水晶の見事なこと。
まりものような濃青色のシャッタカイトが水晶の内部に浮かぶさまは、時間さえ忘れるほどに楚楚たる風景であった。
残念ながら、サイトで紹介されていた標本の展示即売会は、既に終了していた。

こちらは先月池袋ショーにて、外国人ディーラーのブースで見つけた研磨品。
2003年にツーソンショーで仕入れたものとのことだった。
これから流通が増える可能性があるなら待つところだが、それ以降見ていないとのお話。
競争率を考えると即決が妥当かと思われた。
驚くほど高価なものでもなかった。

先月私がネットで見かけたシャッタカイト入り水晶の原石は、一瞬で売切れてしまったらしい。
一目見ようと多くの収集家が詰め掛けたが、展示即売会の会場にその姿を見た人は誰一人いなかったという。
ネット上で見た限り、即売会を待たずに高額で売却された可能性あり?
こちらは研磨品だが、見た目はそっくり。
同じ産地から出たものかどうかはわからない。

池袋ショーで出会ったとある業者さん。
シャッタカイト入り水晶の話題が出たので、購入したばかりである旨伝えたところ、目を丸くしておられた。
その方も例のシャッタカイト入り水晶に一目惚れしたらしいのである。
渦中の標本は、その方の知る有名な収集家の手に渡ったという話であった。

不思議に思うのは、十年近く前に出たはずのこの石が、なぜここまで注目を集めたのかということ。
まるで世界に数個しかないようなこの騒ぎは何事か。

銅の二次鉱物であるシャッタカイトは、希少石の中でも人気が高い。
特に、石英と共生して発見される美しいブルーの結晶は、高価であるが比較的流通はある。
大流行したクォンタムクアトロシリカ(→詳細はシャッタカイト/カルサイトに記)に、シャッタカイトが含まれていると噂されたのも記憶に新しい。
シャッタカイトが透明水晶に内包される可能性もあり得る。
私ですらすぐに見つけたのだから、プロのディーラーも探すほど珍しいものではないはずだ。
また、皆が注目したと思われる標本の写真には、結晶の先端のごく一部しか写っていなかった。

池袋ショーの会場、一発目の店で見つけた研磨品。
どうして残っていたのか。
パパゴアイト入り水晶と並んで販売されていたため、気づかず通り過ぎた人が多かったのかもしれない。
十年近く売れなかったのだから、価値など無いのかもしれない。
素人には、これで十分。
むしろ勿体無いくらいの美しさだ。
スーツ姿の不審者(急いでるのに執拗に追っかけてきて参った。サイコパスの暇つぶしに付き合わされるなんてマジ悲劇!唖然として見守る飲食店の店員たち、助けろ!)に行く手を阻まれ、会場に到着した頃には日が暮れていた。
最後まで迷惑をかけてしまったにも関わらず、迎えてくださった方々に恐縮し、多くの出会いに感謝した。

もしこの石に価値があるのだとしたら、いずれ誰かがもっと素晴らしい標本を仕入れ、紹介するはず。
慌てて探すよりも、気長に待つほうがいいんじゃないかと思う。
思いがけない出会いもまた、鉱物の魅力の一つだから。


19×11mm  6.75ct

2012/01/01

ルチル(原石)


ルチル Rutile
Diamantina, Minas Gerais, Brazil



ルチルクォーツを見たことのない人っているのだろうか。
全盛期には、手のひらサイズのスフィアが400万という、破格の値段を付けるほどに大流行した。
いっぽうで問題を起こし、論争を巻き起こし、善からぬ人々を招きいれ、それらが現在も解決していないという奇妙な存在。
なぜ、未だに解決しないのか。
正月だけに、縁起のよさそうなルチルで新年を祝いつつ、考察をしてみたい。

ことのなりゆきはブルールチルで取り上げた。
要は、ルチルクォーツには様々な色合いがあり、人々はもはや、水晶に入ってる針=「ルチル」であるものと認識していた。
鉱物をこよなく愛する人々にとって、その誤認の定着は、不愉快極まりない出来事であった。
ルチルはあくまで鉱物のひとつでなければならない。
俗に言われる『阿鼻叫喚のルチル闘争』がそれである(無い)。

ふと、思った。
ルチルの原石を見たこのある人ってどれくらいいるのだろうか。
あれからかなり経つのに、現在もあちこちで論争を見かける。
以前は、誤認ゆえの成功と記したが、ルチルの原石にも原因があるように思える。
ルチルクォーツのゴールドの針のイメージとはかけ離れた姿、と説明することはできる。
色合いは?結晶の形は?
そう聞かれても、一言では説明できない。
じゃあ結局、ルチルの原石ってどんな石?

写真の標本はルチルクォーツの全盛期に、ひっそりと棚に並んでいた、ルチル(金紅石)の原石。
「網状双晶を示すルチル」と書いてあった。
小さいながらも、メタリックでキラキラしていて、形もカワイイ。
当時ルチルクォーツのブレスは、安いところでもこれを10個、通常は100個近く買ってようやっと手に入る高級品だった。
幾つも並んでいたから、私のルチル原石のイメージは長い間コレだったのだ。

この手のルチルはその後、見かけていない。
大抵は他の鉱物と共生している。
ルチルクォーツならばいくら掘っても出てくる。
しかし、ルチルの原石はやはり、少ない。
ルチルは鉱物だといわれても、具体的なイメージが出てこないのは致命的。

ルチルクォーツのご利益が凝縮されて出来た、半端なく凄い石のはずなのに、どうして誰も探さないんだろう。
トルマリンやアクチノライトより珍しくて、こんなに美しいのに。
わかってる。
大半の人は、そんなことどうでもいいのだ。
客層をみればわかる。
ルチルクォーツをご購入されたお客様の声は、たぶんこんな感じだろう。

「スロットで負け続け、ますます借金が増えていきます」(Aさん/千葉県)
「ロレックスより高かったのに質屋が取らんぞゴラ」(Bさん/大阪府)
「幸せになれないのは浄化の仕方に問題があるのでしょうか」(Cさん/福岡県)
「ブラックルチルって偽物なんですか?」(Dさん/北海道)
「ヒーラーになれないんですけど!」(Eさん/東京都)
「買いすぎて自己破産しました」(Fさん/愛知県)


パワーストーン・ルチルクォーツの効能は、以上である。


約10mm  数点

今週、話題性が確認された10の鉱物

What Mineral Would You Take with You to A Deserted Island?