2012/08/24

セルサイト


セルサイト/白鉛鉱
Cerussite
Tsumeb Mine, Tsumeb, Otjikoto Region, Namibia



太陽の下で七色に輝く光の結晶、セルサイト(白鉛鉱)。
アゼツライトもびっくりの堂々たるお姿である。
透明感あふれる見事な連晶で、ツメブ鉱山からの産出品とのこと。

ナミビアのツメブ鉱山は、世界を代表する鉱物の産地。
歴史的な標本を数多く産した。
ロシアのコラ半島、カナダのモンサンチレールに並ぶ稀産鉱物の宝庫として知られている。
ツメブ鉱山からの標本はいくつか手持ちがあるが、世界中の収集家が絶えず目を光らせているから、素人が入手できるような標本はしれている。
私自身、ツメブのセルサイトを手にしたのは、これが初めて。
まほろばというのは、このことをいうのだろう。

セルサイトは鉛を含む鉱物。
見た目は軽そうだが、持ち上げるとずっしり重い。
では頑丈なのかというとむしろ逆で、非常にもろく、意図せず崩れてしまうこともあるようだ。
硬度は3と、カルサイト程度ということだが、扱いの難しさはカルサイトの比ではない。
鉛のメタリックなイメージからは想像もつかない。
輸送中に壊れてしまうこともあるという。
その性質ゆえ、アクセサリーなどに用いることができず、専ら観賞用となる。
ビーズになることなどまず無いから、パワーストーンとしての知名度も低い。
そもそも「セルサイト」という名前自体、これといったインパクトがなく見逃しがち。

ツメブ鉱山からはスミソナイト、マラカイト、ミメタイト、モットラマイト、ダイオプテーズ、マンガンカルサイトなど250種類に及ぶ鉱物が発見された。
鉱山の名を冠したツメブ石に代表される、55種類の稀産鉱物はここツメブを原産とする。
ツメブ鉱山が閉山したのは15年ほど前。
水没し、消えてしまった。
産地からの標本の流通は減り、需要に供給が追いつかず、今後の高騰は避けられない。
セルサイトそのものは世界各地から産出があるが、その品質の差は明らか。
世界中の収集家に絶大な支持を得ていることにも納得がいく。

このセルサイトはツメブの魅力を伝える片鱗に過ぎない。
歴史的価値のある標本であれ何であれ、金の力で手に入れることはできる。
収集家の信念が問われるところであろう。




28×26×20mm  34.04g

2012/08/19

モリオン(ウクライナ産黒水晶)


黒水晶/モリオン
Quartz var. Morion
Volodarsk-Volynskii, Zhytomyr Oblast', Ukraine



昨年、2年ぶりに鉱物の世界へ戻って、違和感を感じたことが二つある。
一つは2年前には既に馴染みのあった石がまさに売り出し中であったこと。
もう一つは、市場価格が十万を越えることもあった天然黒水晶(モリオン)の相場が、一万円をきっていたことだ。
後者に関しては、衝撃であった。
産地は軒並み中国、東は山東省(朝鮮半島側)、西は四川省及びチベット自治区などから、モリオンが同時多発的に発見されている。
いずれもペグマタイトから産出したとみられるスタンダードな天然モリオン。
偽物ではない。

放射線の照射さえ行えば、すべての水晶が黒くなるわけではない。
特殊な条件を備えた水晶のうち、地中の放射線を長期間に渡って浴びる環境にあって、ごく稀に生成される。
大半はスモーキークォーツの段階で発見されている。
光さえ透さない漆黒のモリオンは、長い間、誰もが憧れる幻の石であった。
放射能を防ぐパワーストーンとしてお茶の間で話題になるなど、想像できようか。
短期間に相当量の産出があったとしか思えない。
それらは薄利多売ビジネスを目論む業者のもとへ渡り、ブレスレットに姿を変え量産されている。
中国がいかに広いとて、奇妙である。

かつては放射線処理によって人工的に黒く改変させた黒水晶/モリオンが中国で製造され、半ば暗黙の了解のもと市場に流通していた。
何も知らずに初めて手に取ったとき、気分が悪くなった。
私だけではない。
周囲の人々が皆、怖がるものだから、手放さざるを得なかった。
モリオンが放射能を利用して作れるものと知ったのは、ある方との出会いがきっかけ。
チェルノブイリ事故の影響で、ロシアから大量にモリオンが発見されている、と私に教えてくださった。
おそらく事実ではない。
しかし人間たるもの、よからぬ想像をしてしまう。
天然の放射線によって水晶が黒くなるのであれば、半人工的に出来た黒水晶も存在するのではないか。
放射能汚染の顕著な地域に的を絞って掘り当てたのではないか。
折りしも福島での原発事故直後。
被害に遭われた方々の心情を思うと、大きな声で言えるはずもなく、人々の不安を助長させる行為に及ぶのは憚られた。

結論からいうと、おそらく中国の核とモリオンは無関係。
というのも、最も信頼性の高いモリオンの産地・山東省は、北京にほど近い "安全" な地域にあたる。
チベット産や内モンゴル産については産出の確認が取れていない(→モンゴル近くの黒龍江省からチベットモリオンが出ている可能性あり。くわしくはこちら)。
最も放射能汚染が深刻な新疆ウイグル自治区からは、美しい透明水晶が発見されている。

中国政府の発表によると、1964年から1996年までの32年間、新疆ウイグル自治区において46回に及ぶ核実験が行われたという。
実際にはそれを上回る原水爆が使用されたおそれがあり、現在も多くの人々が苦しんでいるといわれている。
チベット自治区では、放射性廃棄物処理施設による汚染が問題になっているほか、複数の核兵器関連施設における事故の噂があり、詳細は明らかにされていない。
内モンゴルにおいても同様の問題が取り沙汰されている。
いずれも少数民族の居住地であり、首都・北京から遠く離れているのがその理由とのこと。

いっぽう、チェルノブイリ原発事故の影響で、ロシアからモリオンが発見されていたという説に対しても、信憑性は薄い。
旧ソビエトとロシアを混同しているのは明らか。
放射能による被害が最も大きかったのは、チェルノブイリのある現ウクライナ、隣接のベラルーシ。
ロシアでも深刻な被害が出ているとのこと(→チタニアダイヤに記)であったが、ロシアの特定の場所からモリオンが大量に見つかっているという事実はない。

その手がかりを探るべく捜していたウクライナ産モリオン。
先日ようやく見つけ出したのが写真の石である。
格安で出ていたので即決した。
真っ黒でずっしり重く、エレスチャル状に成長した文句なしのモリオン。
ペグマタイトの匂いがプンプンする。
底面中央には穴があり、内部が漆黒の結晶で満たされている(本文下の写真)。
ウクライナには、大自然の創り上げたモリオンが存在する。
チェルノブイリとモリオンの関連性については、噂に過ぎなかったものと信じたい。

このモリオンが発見された場所は、このブログを作るきっかけとなったヘリオドールに同じ。
チェルノブイリから車で2時間半かかる距離だというから、関連性は無いと考えるのが妥当であろう。
ウクライナにおいて、1986年頃を境に、放射線処理が必要なはずの幻の宝石がいくつか発見され数年後に枯渇していること、また人工照射に失敗したとみられる不自然なウクライナ産モリオン(→wikipediaからは削除されていました/参考写真)が存在する理由については、直接手にとっていないため、分からない。

なお、wikipediaによると、かの毛沢東氏は「たとえ地球に大穴が開いても、あるいは地球が粉々に吹き飛ばされたとしても、太陽系にとっては大きなことかもしれないが、宇宙全体から見ればとるにたらない」と、地球の終焉を示唆している。
また、核汚染がきわめて深刻とされるタクラマカン砂漠やゴビ砂漠の砂は、黄砂となって日本に飛来している。



この標本は1990年産出とのこと。
ヘリオドール鉱山が閉山した年にあたる。


80×55×48mm  182.1g

2012/08/17

ゴールデンダンビュライト


ゴールデン ダンビュライト
Gorlden Danburite
Munaraima, Kivuwa, Uluguru Mts., Tanzania



タンザニア産ダンビュライトといえば、米Heaven&Earth社より発売された、アグニゴールドダンビュライト(→写真)を思い浮かべる人が多いかもしれない。
高次の意識へのアクセスを助け、偉大なるグレート・セントラル・サンからのエネルギーをもたらすという、奇跡のヒーリングストーンである。
写真を見て、いやコレ少し違う、と判ったあなたは通の人。

世界各地から発見されるダンビュライト(ダンブリ石)。
ダンビュライトは一般に、透明または白。
トパーズに似た細長い柱状結晶となって発見される。
他に、ピンクやシャンペンカラー、ゴールドやブラウン、グレー、稀にグリーンなど、産地によって色合いや形状に特色がある。
また、国産のダンブリ石には内包物が入ることが多い。
宝石質のダンビュライトはコレクション用にカットされ、収集家に愛されている。
クリスタルヒーリングにおいても、高い浄化作用を持つ天使の石として根強い人気がある。
明るいブライトイエローのダンビュライトは、ロシアのインペリアルカラーを凌ぐ美しさと騒がれ、その希少性もあいまって、幅広い層から支持を得た。
しかし、産出は少なかったのか、質は低下するいっぽう。
3年ほど前にはヒーリングストーンとして、カット品として、鉱物標本としても頻繁に見かけた。
この石もまた、やがて忘れられていく運命にあるのかもしれない。

このほど、同じタンザニア産出のダンビュライトに、ややグリーンをおびた、結晶質のゴールデンダンビュライトがあることを知った。
写真では完全にイエローに写ってしまったが、現物はオーロベルディを思わせるグリーンゴールド。
アグニゴールドダンビュライトが不透明な塊状で産出するのに対して、こちらは透明かつ結晶している。
産出は同じタンザニア。
アグニゴールドダンビュライトの産出する鉱山から北東へ約200kmほど進んだ山地から、この特異なダンビュライトは見つかった。
両端の結晶した綺麗な原石で、通常は細長いダンビュライトと比べ、全体にボリューム感があるのも面白い。
中央にクラックがあるために、カットを免れたのかも。
グリーンのダンビュライトは非常に珍しく、収集家の憧れとなっている。
光源によってはグリーンにも見えるこのタンザニア産ゴールデンダンビュライト、なかなかの珍品かもしれない。

しかしながら、ダンビュライトを放射線処理し、シャンペン~ブラウンに改色しているケースも少なくない。
カットされてしまうと、識別は困難。
意外に知られていないが、実は処理石には、特別な注意が必要である。
何故なら放射線処理によって、石のパワーがなくなってしまうらしいのだ!
染色するだけでそのパワーに影響があるというから、衝撃的である!


パワーの無いパワーストーンなど、ただの石である!

オーロベルディに似た色合いの、このダンビュライトは大丈夫なのか?
そもそもオーロベルディは、メタモルフォシスに放射線処理を施すことによって生まれるわけだから…
と、オーロベルディをクリック。
パワーがアップする、と書いてある。
処理石は他にも販売されている。
風水的には、細かいことは気にするな、ということなのだな。
ダンビュライトも然り。
くれぐれも、思い悩まれることなきよう。

参考:風水そうじ術
http://gbiz.jpn.org/fusui/pstn205.html


28×23×15mm  12.30g

2012/08/16

コサム・マーブル(ストロマトライト)


コサムマーブル Cotham Marble
Cotham, Bristol, England



パワーストーンブームに象徴される現在の日本において、鉱物や岩石のもつ絵画のような模様が重視されることは少ない。
鉱物収集の醍醐味ともいえる、アゲートやめのうに抵抗を示す人々が多いのは非常に残念なこと。
アゲートやめのうに関しては、中国製造の加工品、模造品が国内市場を圧倒している。
まがい物を出来る限り回避したいと考えるのは当然のこと。
しかし、美しい加工品を望む限り偽物は避けらず、世界市場において我々がもっぱらその標的になっているのもまた、現実である。

いっぽう、古い収集家の中には、アゲートやめのうの創り出す芸術的な模様を愛でる人々が少なからず存在している。
ヴィクトリアストーンの項で私が手紙を書いた、大先輩の目に留まった類い稀なる石をご紹介したい。
写真にあるのは私のコレクションではなく、近々その方のもとへ旅立つ石であることをここに明記する。

先日オリンピックで注目を集めたロンドンから100kmほど西に位置する、海に面した街、ブリストル。
彼の地より採取される、一風変わったストロマトライト。
およそ2億年前の石灰岩質の地層から僅かに発見されるという。
研磨することにより、絵画のような模様が現れるため、現地ではランドスケープ・マーブル、また産地に因んでコサム・マーブルと呼ばれ、愛されてきた。
ストロマトライトの化石がこうした模様を示すのは英国産に特異な現象とされる。
一般的なストロマトライト(→記事はこちら)と比較すると、その差は明らかである。
史料としても実に興味深い存在といえよう。

英国の鉱物が英国から出ることは滅多にない、という現状を考慮すると、これは非常に貴重であり、限りある芸術品であることを再認識させられる。
上空にUFOらしき飛行物が確認できるのも微笑ましい。
それはともかくこの "絵画"、日本における「禅」に似た美意識を感じさせる。
西洋人が日本の文化を指して禅、と表現することは少なくない。
行き過ぎた解釈による誤解もしばしば見受けられる。
禅のもつシンプルさに対する西洋人の憧れ、或いは東洋回帰の志向を反映しているのだろう。
こうした素朴な石に価値が置かれるのもまた、西洋人の東洋への憧れが少なからず関係しているのかもしれない。
しかしながら、日本においては西洋文化への憧憬から、禅という美意識が忘れられようとしている。

禅に関しては、私自身誤解している部分が多いと自覚している。
大半の人にとって禅は、わかるようでわからない難解な世界という認識であろうことと思う。
外国人に禅について訊ねられ、面食らった人も多いのでは。

昨年惜しまれながらも死去した、米・アップル社のスティーブ・ジョブズ氏。
氏の遺した名言に、その価値観が見事に表れている。
私自身、かのロイターでこの言葉が紹介されているのを見て、驚きは隠せなかった。
西洋人の発言とは到底思えない、極めて東洋的な内容だったからである。
氏が禅に傾倒していたという背景を知り、ようやく合点がいった。
いっときは窮地に陥った米・アップル社の再建に尽力され、アップルの復活を見届けられた。
世界中からの賞賛と期待の絶頂期にあって、不治の病に倒れ、この世を去ったジョブズ氏。
氏の言葉もまた、失われつつある禅の美意識を我々に再認識させた、ひとつの快挙であったと私は考えている。


自分が近く死ぬだろうという意識が、人生における大きな選択を促す最も重要な要因となっている。外部のあらゆる見方、あらゆるプライド、あらゆる恐怖や困惑もしくは失敗など、ほとんどすべてのことが死の前では消え失せ、真に大切なものだけが残ることになる。やがて死ぬと考えることが、自分が何かを失うという考えにとらわれるのを避ける最善の方法だ。自分の心に従わない理由はない。

(スティーブ・ジョブズ/ロイタージャパン)

http://jp.reuters.com/article/wtInvesting/idJPnTK052018720111006


38×23mm  41.65ct

2012/08/13

幸せのガネッシュヒマール


ガネッシュヒマール
Quartz/w Calcite
Ganesh Himal, Himalayan Mts., Dhading, Nepal



ネパール・ガネッシュヒマール産、両端がフラット、奇妙な干渉の形跡がみられる変形水晶。
全体がグリーンのクローライトに覆われている。
傷跡のような箇所から、さらに小さな結晶の成長した様子も伺える。
それらが本体に入り込んでいるから、貫入水晶でもある。
中央付近には内部の見える透明部分があり、クローライトに混じって、細かなルチルの針が見える。
ボトムには、カルサイトの結晶が挟まっている(本文下の写真)。
昨年冬の池袋ショーで見つけた珍石。
売り手がネパール人だったので、ともだち価格(※ネパールを旅したことのある人に与えられる特価)で購入した。

トップの画像がなんだかわからなかった方もおられるかもしれないが、これは上から撮影した。
両端が、何かにつっかえたためか、平らになっている。
根元付近は白濁しているが、ダメージが修復され、次世代の結晶たちに囲まれている。
こうした水晶は、何と呼べばいいのだろう。

お店の方は、グリーンの内包物の隙間から見えるルチルにもっぱら価値を置かれていた。
なにしろ、

●商売繁盛を意味するガーデンクォーツ!(緑や赤の内包物が浮かぶ水晶)
●金運アップのルチルクォーツ!
●全ての水晶の中でもっともパワーがあるとされるガネッシュヒマール!


コピペで申し訳ないが、人気要素が満載だ。
だが、本質はもう少し深いところにあるような気がするのである。
特殊な環境下において、複雑な過程を経て形成されたと考えられるからである。

ヒマラヤ山脈を代表する水晶の産地、標高7110mもの高さを誇るガネッシュヒマール。
緑のクローライトをまとった水晶は、ガネッシュヒマールの5000m級の高所から産するといわれている。
かつてはダメージを受けた標本、白濁した標本が一般的だった。
私が2年ぶりに鉱物の世界に戻って驚いたことのひとつに、ガネッシュヒマール産水晶の質が、驚くほど向上していたということ。
その価値に気づいたネパールの人々が、以前より丁寧に扱うようになったためだと聞いている。
ミネラルショーにおいて、氷のように澄んだクリアなガネッシュヒマールが並ぶさまは圧巻であった。
この美しさを知らないまま、鉱物の世界を離れていった人々のことを想った。

特定されてしまうおそれがあるので細かな描写は控えるが、ネパール人のアシスタントをされていた日本人男性は、元バックパッカーとみられる。
世界(主にアジア)において放浪の旅を続ける怠惰な人々を指して、バックパッカーと呼んでいる。
彼もヒマラヤで放心しているさい、たまたま水晶の価値を知ったのだろう。

ヒマラヤといえば、アンナプルナ産水晶をご存知だろうか。
アンナプルナ産水晶は、数は少ないものの、比較的流通がある。
それは私にとって、とても嬉しいこと。
アンナプルナは一般人も登ることのできるごく普通の観光地である。
私は体力がないため、途中までしか登っていないが、思い出深い土地に変わりない。
アンナプルナは標高8091mと、非常に高い山である。
具体的には、空が山に覆われて見えない。
圧迫感すら覚える。
高山病を避けるため、外国人は数日をかけて登頂する。
麓にあるポカラの街は観光地として知られている。
トレッキングを趣味とする人々だけでなく、バックパッカーやヒッピーたちもポカラに集まり、穏やかな日々を満喫する。
現地ネパールの人々は高山に慣れているため、ガイドとして活躍している。
怠惰きわまりないバックパッカーの中にあって、果敢に頂上を目指す者も少なくない。
同室の日本人によると、アンナプルナの頂上に無事到着した彼らは、折角だから記念にバレーボールをしようぜ!
と、いうことになったらしい。
当初、余裕の表情を浮かべていたバックパッカーたちは、次々と高山病にかかり、倒れた。
ネパール人ガイドらはバレーボールに夢中になり、それに気づくのが遅れたという。
アンナプルナから瀕死の状態で戻ってきた同室の面々が持ち帰った、悪そうな植物の山を眺めるにとどめておいた。
水晶を持ち帰った人はいなかった。

私は当時、怠惰この上ないことで有名な(?)バックパッカーだった。
アンナプルナへは途中までバイクで登り、満足して宿に戻った。
ある事情があって、外国人に明かすことは許されない(と現地の人が)という、ポカラにおける最高位の聖者が棲む寺院には行った。
根性を試すため、湖の先のダムを徒歩で渡るなど、命知らずな行為にも及んだ。
あとはネパール人に誘われて、どこかの山に(バイクで)登ったくらいだ。
頂上から見た朝焼けを今でも覚えている。
徐々に霧が晴れ、ポカラの街や湖が遠くに見えるさまは、買い付けの旅に終わらない新しい世界の始まりを予感させた。
瀕死のバレーボール青年とは、のちに偶然インドで再会することになるのだが、その話はまた、いつか。

お店の元バックパッカーに、ガネッシュヒマールを見たことが無いというと、あれはガネーシャの形をしているんだ、と教えられた。
なるほど、神の棲む山なのだな。
ルチルやガーデンが商売繁盛(=幸福)に結びつくのは東南アジアに独特の傾向で、欧米の人々には、この水晶の何が幸せなのか理解しがたいであろう。
また、ガネッシュヒマールという名の鉱物は存在しない。
山の名称である。

さて、この標本の本質とは。
人気要素のみならず、通好みの要素も満載されているのである。
ロシアのダルネゴルスクから産するグロースインターフェレンスクォーツ(→参考写真。これらは極端な例だが、干渉による変形水晶たち。右上のみ産地は異なる)のような切り込みが、ザクザクと入っている。
グロースインターフェレンスクォーツは、カルサイトなどの異物が水晶の成長を妨げた結果、通常の水晶にはない独特の形状を示すものをいう。
有り難いことに、この標本にはカルサイトが挟まったまま残っている。
ダルネゴルスク産グロースインターフェレンスクォーツは、あたかもリストカットのように平行に刻まれた痛々しい痕跡を特徴とし、白濁して発見されることも多い。
この水晶には、そこまで激しい傷跡はみえない。
しかしよく見ると、切り刻まれた跡が修復され、別の結晶が成長している?
随所にダルネゴルスク産グロースインターフェレンスクォーツとの共通点が見受けられるのは興味深い。

この石のパワーや効能については、わからない。
どんな病気や困難も乗り越えられる奇跡の水晶と解釈される方もおられるかもしれないが、人間である以上それは困難である。
もしかすると、こうした標本も意外に存在するのかもしれないが、外国人が入るには、体力的に無理がある。
見た目が冴えないから見逃されている?

可能であればお手持ちのガネッシュヒマールを、今一度チェックしていただきたい。
グロースインターフェレンスクォーツは、持ち主に危険が迫っていることをいちはやく知らせるとともに、困難を乗り越える力を与えてくれるといわれている。




未測定

2012/08/11

ミッドナイトレースオブシディアン




ミッドナイトレースオブシディアン
Midnight Lace Obsidian
Glass Buttes, Oregon, USA



墨を溶かしたような幻想的な風景の見えるオブシディアン(黒耀石)。
透明感のあるスモーキーオブシディアンに、レースのような黒い模様が入っている。
傾けることで光の屈折が起こり、その光景が揺らいでみえるさまは、なるほど深夜の蝋燭を思わせる。
原石は黒い塊。
これを薄くスライスすることによって、ようやく本来の魅力が発揮される。
米・オレゴン州の秘境まで車を飛ばし、ハンターたちは今日もオブシディアンハンティングに余念がない。
自分で見つけ、自分で磨くのはアメリカに限ったことではないが、英雄の頂点になりたいアメリカンたちにはそうした傾向が強いようである。

ミッドナイトレースオブシディアンは、もともとはアルメニアで採掘されていた。
このところ、オレゴン州から質の良い原石が多く見つかっている。
クリスタルヒーラーのメロディ氏が著書で紹介したため、ヒーリングストーンとしても流通するようになった。
この石の魅力はやはり模様の美しさ。
だが、こうした石の模様を愛でる人というと、少し年齢層が上がる印象がある。
近年のパワーストーンブームにおいては、模様は重視されない。
ビーズの場合、石の個性がかえって邪魔になってしまうことがある。
模様を楽しむはずの石なのに、模様が無い。
石そのものより名前、そしてその名前の持つパワーに価値が置かれた結果かもしれない。
日本におけるパワーストーンは、いわば言霊のようなもの。
ある程度大きさがないと楽しめないから、日本では人気は出ないのではないか。
そう考えていた。

しかしながら、今見たら、ビーズに加工され、絶賛発売中であった。
これはまったく予想していなかったので、驚いた。
本来の流れるような黒い模様は損なわれている。
もともと天然ガラスなだけあってピカピカなものだから、スーパーのアクセサリー売り場で量販されている感が否定できない。
縞瑪瑙と間違える人も現れそうな気がする。
これは好き嫌いがわかれるのでは。
珠に磨くことでずいぶん印象が変わってしまうので、オーバルカットなどを選ぶといいかもしれない。
いっぽうで、磨き上げてしまうことより、光の移り変わるさまは見られなくなることが予想される。
禅のこころをあらわすかのような、この趣あるミッドナイトレースオブシディアンを私は選ぶ。


118×76×3mm  60.86g

今週、話題性が確認された10の鉱物

What Mineral Would You Take with You to A Deserted Island?