2012/07/04

コスモクロア(マウ・シット・シット)


マウ・シット・シット
コスモクロア
Kosmochlor(Maw-Sit-Sit)
Tawmaw, Myitkyina-Mogaung, Kachin State, Myanmar



明るく、深みのある緑が印象的な鉱物。
ミャンマー・カチン州名物のこの石は、産地の名に因みマウ・シット・シットと呼ばれている。
鉱物としては、コスモクロア(ユレアイト/宇宙輝石)を主成分とする混合石にあたる。
ひすいやネフライト(ややこしい)、クローライト、アルバイトなどの鉱物と共生した状態で発見されるという。
本来なら希少石に分類されるところだが、流通は比較的多い。
どこからどこまでをマウ・シット・シットと呼ぶかについては、意見が分かれるようである。

写真はマウ・シット・シットの現地カット品として、5年ほど前に譲っていただいたもの。
濃厚な緑に黒が混ざり込み、まるでスイカのようなユニークなカットに仕上がっている。
私が希少石に興味をもつきっかけとなる大先輩から譲り受けた、思い出の一品。

私がこの石を知ったとき、「マウ・シット・シット」はあくまで流通名であり、正式名は「ジェード・アルバイト」であると説明がなされていた。
しばらくして、どうも違うっぽいということになる。
マウ・シット・シットの名で呼ばれ始めたのは知っていたが、鉱物名として定着していたことは知らなかった。
現在はコスモクロアと呼ぶのが一般的となっている。
2年ほど鉱物の世界を離れていたため、以下は推測になる。

ミャンマー語はわからないが、ミャンマー語をカタカナ読みするのが難しいというのはわかる。
マウ・シット・シットのほか、マウシッシ、マウシッシッ、モーシッシ、モウシシなど、表記は統一されていない。
モシッシシ、マーウッシッシーと読んでいた方もおられるかもしれぬ。
この石の知名度が急上昇した背景に、コスモクロアという名前への切り替えがあったような印象は受ける。
名前の親しみやすさ、宇宙から来た鉱物というエピソードは、人を惹きつける魅力にあふれている。
しかし、マウ・シット・シット=コスモクロア、ではなかったはず。
大雑把に図解すると、

コスモクロア<マウ・シット・シット<ひすい


となる。
混合鉱物の扱いは難しい。
現在もジェード・アルバイトの名で呼ばれていたり、ひすいに分類されてしまったり(正確にはひすいの一部)、クロロメラナイトという類似の鉱物と混同されているケースもあることから、コスモクロアの呼称にまとめるのは合理的。

コスモクロアの発見は1897年。
隕石中から見つかった未知の鉱物だった。
その神秘的ともいえる発見に因み、「宇宙の緑」を意味するコスモクロアの名を与えられた。
1984年、地球上にも同じ鉱物が存在することが明らかになった。
ミャンマーのマウ・シット・シットからコスモクロアが出てきた。
そういう流れらしい。

かつて正式に紹介された、マウ・シット・シットという呼び名については、疑問を拭えずにいた。
コテコテの日本人である私には、発音のミスが命取りになるとしか思えない呼称だからである。
英語圏でもこの名称は使われているから、許容範囲内なんだろう。
いっぽうで、「マウ・シット・シット」と唱えると、宇宙意識を直観することができるという記事を国内にみかけた。
これはさすがに奇妙である。
世界にはカルピス(※注1)しかり、ネズミのアレを予感してしまう人のほうが多いのでは。
コスモクロア/宇宙輝石という美しい名前にインスピレーションを受けただけという理由なのであれば、例のごとく注意を促しておかねばなるまい。

※注1:カルピスが倫理的問題から米国でカルピコとして販売されているように、Maw-Sit-Sitという言葉には、深刻なトラブルの元になりかねない要素がある。
ミャンマーの知名度の問題か、欧米諸国でのこの石の取扱いは少ないのだが、一部では "Maw-Si-Si" という表記に変更がなされている。この名称が国際的に定着してしまった背景について考えてみるのも面白そう。


日本の鉱物界に名を遺した偉人、益富寿之助博士。
コスモクロアにまつわる、益富博士のエピソードは非常に興味深い。
ひすいが産することで有名な新潟県糸魚川市から発見された、ひすいのような緑の鉱物。
博士は、それがコスモクロアであることにお気づきだったらしい。
当時、地球上にコスモクロアが存在することは、まだ明らかになっていなかった。
博士の死からわずか4年後の1997年、その緑の鉱物がユレアイト(コスモクロア)であったことが、ようやっと発表されるに至ったとのこと。

参考:日本でも発見されていたコスモクロア
http://www2.ocn.ne.jp/~miyajima/detail-menu2/min107-kosmochlor/kosmochlor.html

宇宙から来た鉱物というイメージが先行する中、それが既に地球にあったことを博士は見抜かれていた。
世界的な発見を前に、堅く口を閉ざされたことに対しては、激動の時代を生き、日本の発展に貢献された昭和の研究者たちの生きざまを想うのみ。
鉱物を愛し、地学研究に生涯を捧げた益富博士の深く鋭い眼差しが、時を超えて伝わってくる。
氏の活動拠点となった京都に生まれ育ちながら、お会いすることは叶わなかった。
どこかで益富博士とすれ違っていたかもしれない、と思うときはある。
この石にはきっと、遥かなる宇宙のロマンが刻まれている。

財団法人益富地学会館:
http://www.masutomi.or.jp/


43×12mm 8.53ct

2012/07/03

ゴールドシーンオブシディアン


ゴールドシーンオブシディアン
Golden Sheen Obsidian
Chihuahua, México



突然にして、金色の輝きが浮かび上がる黒耀石。
ゴールドシーンオブシディアンと呼ばれていた。
他に銀色のシーンの現れるシルバーシーンオブシディアン。
以上の二種類がある。
大好きだったこれらの石に、ここにきて強い違和感を覚えた。
まだ流通があるにも関わらず、お探しの方が多すぎる。
卸価格は異常なまでに高騰している。
いっぽうで、ゴールデンオブシディアン、ゴールデンシャインオブシディアンなどの名称で、金色の黒曜石が安価で大量に流通している。

これらがいったい何を意味するのかわからないまま、月日は過ぎていった。
二種類をおすそ分け、として用意させていただいたことがきっかけで、その違和感の正体が明らかになったので、報告したい。
高騰の折、なぜ意地になってまで用意したのか。
自分にも理由はわからない。
ゴールド/シルバーシーンオブシディアンの持ち主様は見つかった。
かねてからお持ちの石に違和感を感じておられたという持ち主様からお話を伺った。

現在、ゴールデンシャインオブシディアンの名で流通のある黒耀石をよく見ると、これまでに無かった透明感があるように見える。
アリゾナ産のアパッチティア(アパッチの涙)と呼ばれる黒耀石に似ている。
アパッチティアにシーンが浮かぶという話は聞かないし、私の手持ちを見た限りでは、透明感は無いはずだった。
また、かつてのように黒い石に突然輝きが浮かび上がることはなく、石全体が金色に染まっている。
どうも、以前とは全く違うものが流通しているのではないか。
私が思い描いていたのは、一見すると黒く不透明な黒耀石。
角度を変えると、写真のようにゴールド、またはシルバーのシーンが劇的に浮かび上がる。
もし、透明感があり、ゴールドの輝きが常に見えるのだとしたら、別物ということになる。
シルバーシーンオブシディアン(後日掲載します)に至っては、現在行方不明である。

持ち主様に現物をご確認いただき、お手持ちの石とは別物であったというお返事をいただいた。
全く予想していなかった結末だった。
3年位前には、ビーズに製品化されるほどの流通があった。
入手困難だったレインボーオブシディアンについては状況はむしろ好転していて、良質なビーズの流通が増えているから、盲点だった。

ゴールド/シルバーシーンオブシディアンは、いつの間にか市場から姿を消した。
ゴールドは代替品に切り替えられ、シルバーは初めから無かったことになっている。
正式に発表された情報ではないから、詳しいことはわからない。
もし同様の疑問を抱いている方がおられたら、そうお答えするほかない。
私にはもう扱えない。
消えゆく石を独占したいという欲望に支配されるようなことがあれば、どういうことになるかはわかっている。

残りあと僅か!

私たちはあちこちでこんな謳い文句に出会う。
本当に残り僅かな場合は、業界は慎重になる。
物事にはやがて、終わりが訪れる。
この石については、絶産の噂は無かっただけに、希望は捨てきれない。
春のオークションで、ラストに紹介させていただいた、オールドストックのシルバーシーンオブシディアン。
記録がまだ残っていた。
恐縮ながら、最後に自分の言葉足らずな説明文を引用させていただこうと思う。


"オブシディアン(黒曜石)に、稀にゴールドやシルバーの色合いが浮かび上がることがあります。
ヴェルヴェットと表現されることもある、奥ゆかしく神秘的な輝きです。
過去に流通がありましたが、末期におけるビーズなどは、色の乗ったオブシディアンでしかありませんでした。
ホログラムのように浮かび上がる幻想的なシーンは、幻となってしまったかのようでした。

自己破壊、自己攻撃を和らげるとして、アルコール依存症や拒食症の治療に用いられるというオブシディアン。
このシルバーの輝きが、暗闇を歩く人を照らす光にたとえられることもあります。
静寂の夜空に広がる星雲。
この石に何度救われたことでしょう。
それはきっと、絶望の中に確かに存在する、希望という輝きに似ています"


(2012年3月31日付 記)




37×26×22mm



追記:3年前のオールドストックのビーズが出てきましたので写真を差し替えました。これがおそらく現在主流となっているゴールデンシャインオブシディアンで、既にその頃から切り替えられていた可能性があります。というのも、本来のゴールドシーンオブシディアンのビーズの手持ちもあるからです。ラストの解説における末期のジャンク、というのは3年前の自分の記述からの引用ですが、このビーズを見たときにそう思ったのかもしれません。色はゴールドで輝きはなく、産地もわかりません。全く違うものであることは明らかです。(2012/08/09 追記)



2012/06/28

スモーキーアメジスト(ハレルヤクォーツ)


スモーキーアメジスト
Morion, Smoky Amethyst
Royal Scepter Mine, Hallelujah Junction, Washoe Co., Nevada, USA



スモーキークォーツ、アメジスト、シトリン、クリアクォーツ、そしてモリオン。
5つの色合いが混在した豪華な標本。
エレスチャル、もしくはジャカレーなどと呼ばれる複雑で変化に富む結晶構造を示し、かつ圧倒的な透明感を誇る。
切断面のほとんどみられない完全な結晶体で、結晶の至るところに水晶のさまざまな形態が観察できる。
300g近い本体の至るところにちりばめられた結晶の数々。
いくら眺めていても興味は尽きること無いが、重い。
このような歴史的コレクションがさかんに取引されるのも、歴代の鉱物ハンターを英雄に位置づけるアメリカならでは。

ロイヤル・セプター鉱山は、その名の通り、見事なセプタークォーツ(松茸水晶)を数多く産出する。
スモーキーの色合いが多いようだが、写真の標本から想像できるように、なんでもあり。
クリアクォーツやシトリン、アメジストファントム、スモーキーアメジストやアメトリン、さらにはモリオンまで。
形状も変わっていて、ダブルポイント(DT)、セプター、リバースセプター、セプター二段重ね、三段重ね(呼び名が不明)、いっぱいセプターダブルポイント(もはやエレスチャルの類い)といったユニークな標本が続々登場する。
鉱山のあるハレルヤジャンクションに因み、ハレルヤジャンクションクォーツ、ハレルヤクォーツとも呼ばれている。
この標本も例に漏れず、かつてセプタークォーツだったとみられる結晶が連なるように成長した痕跡がある。
水晶の持つあらゆる色を有する、往年のハレルヤクォーツの魅力を凝縮したかのような珍品である。

豊富な資源を有し、ハンターたちの憩いの地ともなっているネバダ州。
アメリカでは特に人気の高いターコイズ鉱山、鉱物標本としても評価の高いウラン鉱山などが有名。
この標本の産地ロイヤル・セプター鉱山もまた、ハンターたちの目指すネバダの宝の山の一つ。
現在も入ることはできるが良質な水晶の産出は減り、環境保護を訴える声も上がっているようだ。

これまでいくつか見たことはあったが、ここまで衝撃的な標本は初めて。
採取が丁寧で保存状態も良かったのだろう。
ハレルヤクォーツの魅力を語るにはこれひとつで十分かもしれない。
水晶は硬いがクラックが入りやすく、大きくなるほど透明感は失われていくものだが、この標本は向こう側が見えてしまう。
優しい色合いが印象に残るいっぽう、平凡な日本の家庭には優しくない大きさでもある。

記憶にある限り、ハレルヤクォーツはもっぱらヒーリングストーンとして紹介され、鉱物標本としての魅力に言及されることはなかった。
あったのかもしれないが、ハレルヤ産に凝っている人にはまだ出会ったことが無い。
ヒーリングストーンは名称優位なところがあって、質は特に問わない。
当然ながら、アメリカ産出の良品のほとんどは、アメリカ人収集家が所有している。
日本に流れてくることは滅多に無いから、希少価値も上がっていく。
ハレルヤクォーツが何なのかと悩んでおられた方には、単なる地名であることをお伝えしておきたい。




なお、ニューメキシコ州にもロイヤル・セプターの名を持つ同名の鉱山が存在する。
そのため、ニューメキシコ産の水晶が、一部でハレルヤクォーツとして混同されている様子である。
ヒーリングストーンの場合、外観の似ていることがその名称の基準となったりもするので、ニューメキシコ産ハレルヤクォーツが必ずしも偽物というわけではない。
「ハレルヤ」はキリスト教における念仏のようなもので、聖書や賛美歌などにしばしば登場する聖なる言葉である。
その神秘的な地名がクリスタルヒーラーたちの支持を得て広まったものと信じたい。

イットリウムフローライトでも取り上げたが、産地が曖昧にされてしまうことが、ヒーリングストーンに対する評価や信頼の低下を招き、誤解を受ける原因ともなっている。
数々のハンターたちが活躍したアメリカの歴史から、鉱物の正体を探ってみるのもまた楽しい。




88×63×40mm  294.5g

2012/06/26

カイヤナイト/ガーネット/バイオタイト


カイヤナイト・ガーネット・バイオタイト
Kyanite–Garnet–Biotite
Khit Ostrov, Karelia Republic, Russia



カイヤナイトの藍色の結晶に、バイオタイト(黒雲母)、ピンクのアルマンディンガーネットのキラキラの粒がちりばめられた表情豊かな標本。
白い石英が三つの色合いを引き立てている。
宝石質のカイヤナイトとしては、ネパール産に匹敵する美しさ。
色合いはより深く、味わいがある。
ガーネットの色彩や透明感、バイトタイトの漆のような光沢、雪のように真っ白な石英など、見どころが満載となっている。
話題のシュンガイトと同じ、カレリア共和国からの産出とのこと。

カイヤナイトと共生して発見される鉱物といえばルビー。
タンザニア産のルビー・イン・カイヤナイトは、これまでパワーストーンの定番商品だったルビー・イン・ゾイサイドを圧倒する人気ぶり。
カイヤナイトの深い青とルビーの赤い輝きの美しさは驚きに満ちていた。
ロシアからのカイヤナイト・ガーネット・バイオタイトはそれにまさる素晴らしさ。
鉱物標本として、またヒーリングストーンとしても密かな人気があるようだ。
新しく発見された鉱物というわけではなく、以前から流通はあり、むしろ減ってきているようである。
価格としてはブラジル産の水色のカイヤナイトと変わらない。
もっと注目されてもよさそうな気がする。

見どころはやはり、深い藍色の煌きを持つシャープなカイヤナイトの結晶。
透明感、ガラス光沢などの見られるノンダメージの二つの結晶が、バイオタイトと石英をまっすぐに貫いているのがわかる。
ロシアのカイヤナイトは神々しい。




70×27×18mm  45.78g

2012/06/22

ギベオン隕石(シホーテ・アリン、カンポ・デル・シエロ)


ギベオン隕石
Gibeon Meteorite

Gibeon, Mariental District, Hardap Region, Namibia



もし明日隕石が地球を直撃するとしたら、やっておきたいことは?
そんなお題をたまに見かける。

世間には、空から隕石が降ってきやしないかと、日々不安にさいなまれている人々がわりと多いようである。
巨大隕石の落下で、恐竜が一瞬にして滅びたという伝説が、人類滅亡を想起させるのかもしれない。
私はよく冗談で、明日隕石が落ちるなら、お宝を拾いに行く旅の準備をすると話しているが、?という顔をされる方が多い。
不幸にして隕石の犠牲になったのは、記録の上では一人とされている。
人類の長い歴史において、世界でたった一人の犠牲者となったのは、年老いたインド人男性であったと知ったとき、深い悲しみにさいなまれた記憶がある。
いっぽう、隕石を用いたアクセサリーは、宇宙のロマンを代弁するレアなパワーストーンとして人気は高く、定番商品となって久しい。

隕石と聞いて、子供のように瞳を輝かせるロマンチストはうちゅうのおともだち。
宇宙の神秘が手元に届く待ち遠しさに、夜も眠れなくなってしまう方もおられるかもしれない。
希少価値ぶっちぎり!とんでもないお宝!残り僅か!といった煽り文句には、注意が必要だ。
我々がふだん目にする隕石関連グッズは、シホーテアリン、カンポデルシエロ、サハラ隕石と記載があることと思う。
上記の3つの隕石は地球上に大量に存在し、隕石としての希少価値は無きに等しい。
隕石の世界は日本人が考えるほど甘くはない。
隕石の収集が盛んな欧米やオーストラリアでは、上記の3種は収集家がコレクションの対象とする隕石には含まれず、特殊な要素を持つ場合を除き、子供の教育に用いられる化石類と同等の扱いを受けている。
はるか昔、人類が鉄を利用しはじめたとき、隕石が用いられたとする説もある。
我々が考えるよりずっと、身近な存在なのだ。

隕石は星の数だけ存在する。
隕石の価格は、資料としての価値とその特異性、落下の量に応じて決定される。
希少価値の高いものは研究機関にまわされてしまうから、販売にまわされる頃にはグラムあたり一千万を超えることも稀ではない。
それでも手に入れたい人が世界中から集まり、ため息をつく。
カルマである。
日本で人気の隕石のグラムあたりの価格については、ここでは触れないこことする。

国内のミネラルショーでは、袋いっぱいの隕鉄が千円ほどで販売されている。
要は、日本に入ってくるのは、大量に落下し余っている銘柄で、量産用なのだ。
サハラ隕石の場合は事情が異なってくるが、発見される場所が場所だけに、扱いが難しいのが不人気の理由だと聞いた。
命名のアバウトさはそのためか。
隕石の世界は深いゆえ、詳細はわからない。

この価値観の格差の原因のひとつに、気候の差がある。
日本は湿度が高く、海に囲まれた島国である。
隕石の多くが金属から成る以上、管理に気をつけていてもいずれ錆びてしまう。

隕石には三種類がある。
惑星の大部分を占めるのは石質隕石。
コアの部分は隕鉄、それらの境界にあたる部分はパラサイトと呼ばれる。
しかしながら石質隕石は、大気圏を通過するさいの高熱で燃え尽きてしまうため、発見されるのは僅かな量にすぎない。
パラサイトは数そのものが少ないから、最後まで残るのは隕鉄が中心、ということになる。
湿度の高い日本の気候では劣化しやすく、コレクションとして大量に管理するのは困難を極める。
そのため、日本に隕石市場が発展することはなく、一部の熱心な愛好家によって支持されるにとどまった。
乾燥した欧米の気候は収集家にとって圧倒的に有利。

写真のギベオン隕石のペンダントは、ウィドマンシュテッテン(特定の性質を持つ隕鉄を酸処理することによって、表面に出現する幾何学的な模様)のネーミングに負けて購入したもの。
アクリルかなにかで厚みをもたせ、見栄えよく作ってある。
錆びにくいという点では理にかなっている。
価格的に、隕石そのものはアルミホイルに等しい量だと思われる。
ギベオン隕石についてはご存知の方も多いだろう。
1836年ナミビアのギベオンで発見され、隕石の研究に貢献した最も有名な隕鉄のひとつである。
およそ4億5000年前に地球に落下したとされ、ニッケルを豊富に含むオクタヘドライトに分類される。
なお、かの有名なエルサレムにも、ギベオンという都市があったらしく、ギベオンだけだと誤解を受けることがあるようだ。

宇宙のロマンがビジネスに変わるとき、さまざまな興味深い現象が起きる。
星の彼方まで飛躍したかのような壮大な解釈が展開され、煽り文句は宇宙人との会話のようである。
参考に挙げたサイトは、その一般的な例。
以前から、こうした鑑定機関は位置づけとしては非常に難しいものと感じていたが、実際のところはどうなのだろう。

参考サイト:http://www.raku-kin.com/item/gibeon/index.html

資産価値を問わないのであれば、銘柄やグラム数などは無関係。
隕鉄をそのままブレスやペンダントに加工しようものなら、汗などですぐに錆びてしまう。
相当量の人工物が混在しているものを、偽物とするのは夢がない。
それでも買ってしまうのは私も同じだから。
いまだ解明されることのない、宇宙の謎の数々。
銀河の彼方には、古代から人々をひきつけてやまない魅力が確かに存在している。


20×10mm

2012/06/19

オーラライト23


オーラライト Auralite-23
North of Lake Superior, Ontario, Canada



カナダ北部の聖なる土地より採取されるというAURALITE-23/オーラライト23クリスタル。
今年のツーソンショーで発表されたばかりの新しいヒーリングストーンで、シェブロンアメジストに似た模様を持ち、ポイント状に加工されている。
トップがヘマタイトに覆われていることもあるようだ。
その名の示す通り最大で23種類、少なくとも17種類の鉱物を含むとされる。
内部に含まれる鉱物の詳細はもちろんのこと、およそ15億年前に形成された太古のクリスタルであることが科学的に証明されたとのこと。

オーラライトのインクルージョンとされている23の鉱物は以下。

1) チタナイト/スフェーン Titanite
2) カコクセナイト Cacoxenite
3) レピドクロサイト Lepidocrosite
4) アホー石/アジョイト Ajoite
5) ヘマタイト Hematite
6) マグネタイト Magnetite
7) パイライト Pyrite
8) ゲーサイト Goethite
9) 軟マンガン鉱 Pyrolusite
10) 自然金 Gold
11) 自然銀 Silver
12) プラチナ Platinum
13) ニッケル Nickel
14) 銅 Copper
15) 鉄 Iron
16) リモナイト Limonite
17) スファレライト Sphalerite
18) コヴェライト/コベリン Covellite
19) カルコパイライト Chalcopyrite
20) 不明鉱物 Gialite
21) エピドート Epidote
22) ボーナイト Bornite
23) ルチル Rutile

伝説のアホー石、そして金やプラチナまで入っているとは豪華絢爛、恐れ入る。
まさに今が買い時、旬の味。
世界的に有名なクリスタルヒーラーたちが推薦者として名乗りを上げる目下話題のヒーリングストーンである。
産地はカナダ、スペリオル湖の北にある "Cave of Wonder" と呼ばれるネイティヴアメリカンの聖地だという。
よく発見されたものだ。
疑惑のコヴェライト、カルコパイライトが入っているというのは奇妙な印象(→詳細:ピンクファイヤークォーツ)だが、研究で解明されたということだから、どのような輝きが見られるか確認できる絶好のチャンスである。

疑問としては、

1) 鉱物として関連性の高いものを23に分けて表記していること
2) 産地がネイティヴアメリカンの聖地であるのが自慢なのに、ネイティヴアメリカンが発見することなく、昨年ようやく見つかったこと
3) これまでに売れたヒーリングストーンの要素を網羅していること
  • 複数の鉱物インクルージョン - スーパーセブン
  • 世界中のクリスタルヒーラーが絶賛 - 多数
  • 太古の鉱物 - シャーマナイト他
  • 計画された販売戦略 - プレセリブルーストーン
  • コヴェライト入り - ピンクファイヤークォーツ
  • 研究者により科学的に立証済み - 多数
  • ネイティヴアメリカンの聖地から出現 - 多数
  • 金プラチナ - 買取強化中 ほか
4) 研究機関、研究目的、論文の所在などが不明(スイス人研究者のよう)
5) 海外・国内ともに、解説文の23種類の内包物一覧にGialite(ギラライトとのスペルミス?もしくはありそうでなかった新鉱物ガイアライト?)という、現時点では謎の鉱物名が記載されており、そのことに対して言及がなされていない
6) 肉眼で確認できるのは鉄の関連鉱物のみ、詳細は以下に記/サンプルが少ないため断定は困難
7) 原石の加工における規格が統一されていること
8) なんか、どっかで見た気がする

さっそくオーラライトの内部の様子を観察してみた。
クリアなアメジスト…だと私は感じた。
ルチルやゲーサイト、エピドートは、鉱物中の針状インクルージョンとして広く知られている。
幾らか見えてもおかしくないのだが、私には確認できなかった。
困ったことになった。

アヴェンチュレッセンスを示す鉱物が多く含まれているとあるから、光に反応するはず。
それを確かめるべく、太陽光での撮影を決行したのが写真。
ピンクや赤、パープル~ブルーの輝きが結晶の3箇所に確認できる。
ただ、手元にある5つのオーラライトのうち、アヴェンチュレッセンスが確認できたのは写真の1点だけ。
残りは肉眼では認められなかった。
鉄や銅に関係する鉱物が入っているならば、タンザニアのサンストーン、ロシアのサンムーンストーンのような輝きが出てもおかしくない。
また、アホー石(アジョイト)は一般に、水晶内部のグリーンのインクルージョンとして認められなければ価値がないとされている。

批判的な内容になってしまったが、この石はきらいではない。
きっと、私の目に狂いが生じているのだ。
聖なるクリスタルに疑問を抱くような私の目に真実など映らないのである。
収集家に根強い人気を誇る希少鉱物の宝庫、モンサンチレールを有し、どちらかというと堅い印象だったカナダの石が、今ヒーリングの世界で注目を浴びている。
これからさらなるヒーリングストーンが登場するかもしれない。
オーラライトを手にした感想は、非常に爽快で初々しく、輝かしい印象かな。
まるで、かの有名なサンダーベイ・アメジストのよう。

あれ?
突然、サンダーベイ・アメジストに見えてきた。
カナダの名産品として古くから知られる、サンダーベイ・アメジスト/レッドアメジスト。
表面が酸化鉄などに覆われ、赤く染まったアメジストのことを指し、鉱物標本として人気は高い。
カナダ北部・サンダーベイ近くの鉱山がその産地とされる(→地図、☆印)。
奇しくもスペリオル湖の北、☆印の真上付近にオーラライトの産地 "Cave of Wonder" があるものと考えられる。
詳細な場所が明かされていないため、この付近の鉱山の一箇所としかわからない。

サンダーベイ・アメジストに、ゲーサイトやヘマタイト、レピドクロサイトのインクルージョンが入ることは珍しくない。
表面が鉄分で赤く染まっているという点でも、実によく似ている。
何らかの関連があるのかもしれないが、カナダは広く地質学的なことについては無知であるため、鉱脈など専門的な事柄について言及するのは控えたい。
鉱山の様子を記録した動画を文末に示した。




オーラライト23クリスタルの全貌と、産地である神秘の洞窟の魅力を伝えるドラマティックな動画。
このように豊富なインクルージョンが見られるかどうかについては、依然として確認できていない。
心が綺麗な人でないと見えないものは古くからある。
なお "Cave of Wonder" は海外で人気のゲームの一種とみられる。



見た感じは普通の鉱山と動物及びスーパーセブンに似たレッドアメジスト


※注意が入ることは絶対にないはずですが、重大な誤認が認められた場合、市販商品に対しての真偽や違法性を問うものと誤解を受けた場合は、訂正します。ワクワクしながら愛を込め、素直に記したものであることをここに明記します。

なお、23種類の鉱物中、唯一の謎だったGialiteについては、デヴィッド・ガイガー氏により、新鉱物ガイアライトであることが明らかになりました。


56×25×10mm  13.40g

今週、話題性が確認された10の鉱物

What Mineral Would You Take with You to A Deserted Island?