2012/01/03

シャッタカイト入り水晶


シャッタカイト入り水晶
Shattuckite In Quartz
Kaokaveld, Kunene Region, Namibia



シャッタカイトのボール状結晶を内包する水晶。
鉱物標本業界の最先端を行く有名鉱物店がウェブ上で紹介し、収集家の間で専ら話題になっていた。
鉱物界の権威、H先生とは全く面識がないし、鉱物愛好家のバイブル『楽しい鉱物図鑑』も見たことがない(怒らないで下さい)。
サイトを拝見したのも初めてだった。
さすがの品揃えと情報量、そして紹介されていたシャッタカイト入り水晶の見事なこと。
まりものような濃青色のシャッタカイトが水晶の内部に浮かぶさまは、時間さえ忘れるほどに楚楚たる風景であった。
残念ながら、サイトで紹介されていた標本の展示即売会は、既に終了していた。

こちらは先月池袋ショーにて、外国人ディーラーのブースで見つけた研磨品。
2003年にツーソンショーで仕入れたものとのことだった。
これから流通が増える可能性があるなら待つところだが、それ以降見ていないとのお話。
競争率を考えると即決が妥当かと思われた。
驚くほど高価なものでもなかった。

先月私がネットで見かけたシャッタカイト入り水晶の原石は、一瞬で売切れてしまったらしい。
一目見ようと多くの収集家が詰め掛けたが、展示即売会の会場にその姿を見た人は誰一人いなかったという。
ネット上で見た限り、即売会を待たずに高額で売却された可能性あり?
こちらは研磨品だが、見た目はそっくり。
同じ産地から出たものかどうかはわからない。

池袋ショーで出会ったとある業者さん。
シャッタカイト入り水晶の話題が出たので、購入したばかりである旨伝えたところ、目を丸くしておられた。
その方も例のシャッタカイト入り水晶に一目惚れしたらしいのである。
渦中の標本は、その方の知る有名な収集家の手に渡ったという話であった。

不思議に思うのは、十年近く前に出たはずのこの石が、なぜここまで注目を集めたのかということ。
まるで世界に数個しかないようなこの騒ぎは何事か。

銅の二次鉱物であるシャッタカイトは、希少石の中でも人気が高い。
特に、石英と共生して発見される美しいブルーの結晶は、高価であるが比較的流通はある。
大流行したクォンタムクアトロシリカ(→詳細はシャッタカイト/カルサイトに記)に、シャッタカイトが含まれていると噂されたのも記憶に新しい。
シャッタカイトが透明水晶に内包される可能性もあり得る。
私ですらすぐに見つけたのだから、プロのディーラーも探すほど珍しいものではないはずだ。
また、皆が注目したと思われる標本の写真には、結晶の先端のごく一部しか写っていなかった。

池袋ショーの会場、一発目の店で見つけた研磨品。
どうして残っていたのか。
パパゴアイト入り水晶と並んで販売されていたため、気づかず通り過ぎた人が多かったのかもしれない。
十年近く売れなかったのだから、価値など無いのかもしれない。
素人には、これで十分。
むしろ勿体無いくらいの美しさだ。
スーツ姿の不審者(急いでるのに執拗に追っかけてきて参った。サイコパスの暇つぶしに付き合わされるなんてマジ悲劇!唖然として見守る飲食店の店員たち、助けろ!)に行く手を阻まれ、会場に到着した頃には日が暮れていた。
最後まで迷惑をかけてしまったにも関わらず、迎えてくださった方々に恐縮し、多くの出会いに感謝した。

もしこの石に価値があるのだとしたら、いずれ誰かがもっと素晴らしい標本を仕入れ、紹介するはず。
慌てて探すよりも、気長に待つほうがいいんじゃないかと思う。
思いがけない出会いもまた、鉱物の魅力の一つだから。


19×11mm  6.75ct

2012/01/01

ルチル(原石)


ルチル Rutile
Diamantina, Minas Gerais, Brazil



ルチルクォーツを見たことのない人っているのだろうか。
全盛期には、手のひらサイズのスフィアが400万という、破格の値段を付けるほどに大流行した。
いっぽうで問題を起こし、論争を巻き起こし、善からぬ人々を招きいれ、それらが現在も解決していないという奇妙な存在。
なぜ、未だに解決しないのか。
正月だけに、縁起のよさそうなルチルで新年を祝いつつ、考察をしてみたい。

ことのなりゆきはブルールチルで取り上げた。
要は、ルチルクォーツには様々な色合いがあり、人々はもはや、水晶に入ってる針=「ルチル」であるものと認識していた。
鉱物をこよなく愛する人々にとって、その誤認の定着は、不愉快極まりない出来事であった。
ルチルはあくまで鉱物のひとつでなければならない。
俗に言われる『阿鼻叫喚のルチル闘争』がそれである(無い)。

ふと、思った。
ルチルの原石を見たこのある人ってどれくらいいるのだろうか。
あれからかなり経つのに、現在もあちこちで論争を見かける。
以前は、誤認ゆえの成功と記したが、ルチルの原石にも原因があるように思える。
ルチルクォーツのゴールドの針のイメージとはかけ離れた姿、と説明することはできる。
色合いは?結晶の形は?
そう聞かれても、一言では説明できない。
じゃあ結局、ルチルの原石ってどんな石?

写真の標本はルチルクォーツの全盛期に、ひっそりと棚に並んでいた、ルチル(金紅石)の原石。
「網状双晶を示すルチル」と書いてあった。
小さいながらも、メタリックでキラキラしていて、形もカワイイ。
当時ルチルクォーツのブレスは、安いところでもこれを10個、通常は100個近く買ってようやっと手に入る高級品だった。
幾つも並んでいたから、私のルチル原石のイメージは長い間コレだったのだ。

この手のルチルはその後、見かけていない。
大抵は他の鉱物と共生している。
ルチルクォーツならばいくら掘っても出てくる。
しかし、ルチルの原石はやはり、少ない。
ルチルは鉱物だといわれても、具体的なイメージが出てこないのは致命的。

ルチルクォーツのご利益が凝縮されて出来た、半端なく凄い石のはずなのに、どうして誰も探さないんだろう。
トルマリンやアクチノライトより珍しくて、こんなに美しいのに。
わかってる。
大半の人は、そんなことどうでもいいのだ。
客層をみればわかる。
ルチルクォーツをご購入されたお客様の声は、たぶんこんな感じだろう。

「スロットで負け続け、ますます借金が増えていきます」(Aさん/千葉県)
「ロレックスより高かったのに質屋が取らんぞゴラ」(Bさん/大阪府)
「幸せになれないのは浄化の仕方に問題があるのでしょうか」(Cさん/福岡県)
「ブラックルチルって偽物なんですか?」(Dさん/北海道)
「ヒーラーになれないんですけど!」(Eさん/東京都)
「買いすぎて自己破産しました」(Fさん/愛知県)


パワーストーン・ルチルクォーツの効能は、以上である。


約10mm  数点

2011/12/28

レインボーオブシディアン


レインボーオブシディアン
Rainbow Obsidian
Guadalajara, Jalisco, México



オブシディアン(黒耀石)は溶岩が冷え固まって出来た天然ガラス。
メキシコや米・アリゾナ州が世界的に有名な産地である。
その土地柄、先住民族/インディアンに珍重された歴史があり、出土品も流通している。
メキシコの先住民族の間では、"神々の贈り物" とされ、矢じりや装飾品、魔術の道具などとして用いられてきたそうだ。
そんなオブシディアンの中で、光の下で虹色のシラー(光彩)が浮かび上がるものを、特にレインボーオブシディアンと呼んでいる。
はっきりとレインボーが浮かぶ石は意外に珍しい。
このシラーはアンフィボール(角閃石)のインクルージョンに因るものとされている。

現地では民芸品として、ハートフラワー、スターなどのモチーフに加工されているほか、タンブルとしても流通している。
大きな塊状の原石を切り出してレインボーの状態を確認の上、熟練した職人によって彫刻を施され、レインボーのシラーが生きるよう工夫されている。
日本で流通しているのは主にビーズであるが、ごく淡い虹が浮かぶならまだ良いほうで、シラーの出ない黒耀石をレインボーオブシディアンとして販売しているところもある。
メキシコからの民芸品を見て、これが本来のレインボーオブシディアンかと驚かれる方もおられる。

気に入って幾度も紹介させていただいた、思い出の石。
自己破壊や自己攻撃を和らげて、自らを保つ力があるとして、海外では薬物中毒やアルコール依存症、摂食障害の治療に使われることもあるという。
すべての物事をありのままに受け止める眼を養うともいわれている。
鑑賞石として愛される一方、クリスタルヒーリングの世界でも人気は高い。
そのレインボーの光彩は、たとえ一瞬の出会いに過ぎずとも、まるで虹のごとく、逆境を乗り越える祝福の光となって人々に降り注ぐのであろう。

暗闇を歩く人を照らす光。
すべての人が光のもとに導かれ、本来の輝きを取り戻されることを祈って。


23×8mm  6.23g

2011/12/23

フローライト(ブルーグレー&ピンク)


フローライト Fluorite
Kandahar, Afghanistan



アフガニスタン・カンダハルのフローライト。
産地は情勢の問題から供給が不安定。
なかなか出会う機会はない。
現地からは多くのフローライトの産出があり、クォリティも高い。
カンダハルを代表する美しいブルーグリーンのフローライトが、パキスタン・ギルギット産として販売されているのをよく見かける。
この色合いは初めてだった。
グレーを帯びた淡いブルーの地に、パープル~ピンクのアクセント。
この世のものとは思えない美しさ。
調べたら、同じ鉱床から出たとみられる石をお持ちの人もいらっしゃるようだったが、鉱物標本としては悲しいほどに粗末なものだった。
専門家が現地に入れないために、扱いが荒くなってしまったのだろう。

物事にはやがて終わりが来る。
すべては限りあるものと知り、次の街へ向かう。
出会いと別れの記憶と共に、この石は私の心の中で永遠に輝き続ける。


62×40×28mm  72.57g

2011/12/18

ローズクォーツ/モリオン


モリオン/ローズクォーツ
Rose Quartz on Morion
Paroon, Nuristan Privince, Afganistan



モリオン(黒水晶)にローズクォーツが彩りを添える珍しい標本。
本体は大きめのダブルポイント(両錐水晶)の黒水晶。
完全に真っ黒というわけではなく、所々にダメージがあり、透き通って見える箇所がある。
スモーキークォーツ、ケアンゴーム、モリオン。
どれが適切なのかはわからない。

黒水晶の先端に咲いたローズクォーツ。
見事な結晶であるが、途中から溶けている。
あまりに溶けているので、当初フローライトかと思ったが、先輩方のご意見を総合すると、エッチング(蝕像)により変形したローズクォーツということみたい。

そもそも、アフガニスタンからローズクォーツが出るなんて知らなかった。
昔から鉱物を集めている先輩方の間では、「アフガンローズ」と呼ばれ、伝説になっているそうだ。
初めて出会ったアフガンローズの実にユニークなこと。
ローズクォーツは通常、塊状で発見される。
結晶しているローズクォーツというのは珍しく、ブラジルから僅かに発見される程度。
多くは小さく、色合いも薄い。
堂々たるアフガンローズ。
男性でさえ夢中になるのも無理はない。

産地を聞いて驚いた。
採りたくても採りに行けないのかもしれない。
地球上には、立ち入ってはいけない場所がある。
モリオンの表面にちりばめられた、長石とみられる純白の結晶と、色濃く微細なローズクォーツの結晶たち。
力強さと優しさ、絶望と希望が同居する。
来るところまで来てしまったような気さえする、遠くアフガンから届けられた孤高の薔薇の花束。




85×43×35mm  約200g

2011/12/15

サンストーン(ピンクファイヤー)


サンストーン Sunstone
Engare Naibor, Tanzania



タンザニア産のサンストーン。
グリーンのオリゴクレース(灰曹長石)に浮かぶ虹色の輝き(アベンチュレッセンス)が美しい。
この虹色の輝きは、内包されたヘマタイトやレピドクロサイトに因るもの。
その独特の風貌と希少性から、イリュージョンサンストーンとも呼ばれ、宝石にカットされることも多い。

実は、同じ出処の同じ原石を持っていた(写真がそれです)。
なのに先日池袋ショーで手に取って、購入してしまった。
血が騒いだ、それだけ。
翌日、撮影中に違和感を感じた。
なぜかこのサンストーン、虹色の輝きの合間から、ピンクファイヤーが浮かぶのである。
輝くのではない、浮かび上がるのである(→ピンクファイヤークォーツ参照)。

ピンクファイヤークォーツの考察にあたって、ヘマタイト混入説を取り上げた。
このファイアがもしピンクファイヤーと同じものだとしたら、共通するのはヘマタイトのインクルージョン。
早速ボスに報告。
なにを今更?みたいな顔のボス(写真無)。

おそらくこのピンクのファイアは、結晶中に内包されたヘマタイト、レピドクロサイトに因るもので、水晶だけでなくオリゴクレースにも現れるとみられる。
ピンクファイヤークォーツは、ブラジルのエスピリトサントの一部が唯一の産地といわれていた。
しかし、ブラジル以外から産したレピドクロサイト入り水晶にペンライトを当てると、ピンクのファイアが確認できることがあるという(ボス談)。
つまり、ブラジル以外からもピンクファイヤークォーツは出ている。
ゆえに、ピンクファイヤーサンストーンもあり得る。

内包物はコヴェライトではない。
鑑定したわけではないが、結論としてはそれが無難だろう。




今回また買ったサンストーン in 池袋


このサンストーンは、ペンライトを当てずとも、あちこちにピンクのファイアが浮かぶ珍品。
タンザニア産のサンストーンそのものが希少品であり、自然光でピンク系のファイアが浮かぶ石が存在する確率は低いものと思われる。
ざっと調べたが、他にそうした石は見当たらず、取り上げている人も見かけない。
自分は何故この石を手に取り、迷わず購入したのか。
コレクションが増えすぎたため、同じ石は基本的に買わないことにしている。
そのためにこうしてデータベースを作っているくらい。

誤認でないことを願う。
自分の脳内構造がどうなっているのか、知りたい。


32×27×20mm  20.36g



【後日談】 その後、比較検討のため、実家にストックしてあった、同じロットと思われるサンストーンを観察してみました。7つセットで数年前購入したものですが、7つ中3つにピンクのファイアが浮かぶ原石がみられました。こちらのほうがサイズが小さく、よりファイアがわかりやすいことから、写真を差し替えることとします。
オレンジのアヴェンチュレッセンス(輝き)に混じって、フラッシュに近い強烈なピンクのファイアが出ているのが確認できると思います。本文下右は横から撮影したもので、何ヶ所かにオレンジとは言い難い、ピンクのファイアが確認できました。自然光での撮影ですが、比較的よく映っています。(2012/01/04 訂正)







15×11×9mm  1.45g

今週、話題性が確認された10の鉱物

What Mineral Would You Take with You to A Deserted Island?