2012/08/13

幸せのガネッシュヒマール


ガネッシュヒマール
Quartz/w Calcite
Ganesh Himal, Himalayan Mts., Dhading, Nepal



ネパール・ガネッシュヒマール産、両端がフラット、奇妙な干渉の形跡がみられる変形水晶。
全体がグリーンのクローライトに覆われている。
傷跡のような箇所から、さらに小さな結晶の成長した様子も伺える。
それらが本体に入り込んでいるから、貫入水晶でもある。
中央付近には内部の見える透明部分があり、クローライトに混じって、細かなルチルの針が見える。
ボトムには、カルサイトの結晶が挟まっている(本文下の写真)。
昨年冬の池袋ショーで見つけた珍石。
売り手がネパール人だったので、ともだち価格(※ネパールを旅したことのある人に与えられる特価)で購入した。

トップの画像がなんだかわからなかった方もおられるかもしれないが、これは上から撮影した。
両端が、何かにつっかえたためか、平らになっている。
根元付近は白濁しているが、ダメージが修復され、次世代の結晶たちに囲まれている。
こうした水晶は、何と呼べばいいのだろう。

お店の方は、グリーンの内包物の隙間から見えるルチルにもっぱら価値を置かれていた。
なにしろ、

●商売繁盛を意味するガーデンクォーツ!(緑や赤の内包物が浮かぶ水晶)
●金運アップのルチルクォーツ!
●全ての水晶の中でもっともパワーがあるとされるガネッシュヒマール!


コピペで申し訳ないが、人気要素が満載だ。
だが、本質はもう少し深いところにあるような気がするのである。
特殊な環境下において、複雑な過程を経て形成されたと考えられるからである。

ヒマラヤ山脈を代表する水晶の産地、標高7110mもの高さを誇るガネッシュヒマール。
緑のクローライトをまとった水晶は、ガネッシュヒマールの5000m級の高所から産するといわれている。
かつてはダメージを受けた標本、白濁した標本が一般的だった。
私が2年ぶりに鉱物の世界に戻って驚いたことのひとつに、ガネッシュヒマール産水晶の質が、驚くほど向上していたということ。
その価値に気づいたネパールの人々が、以前より丁寧に扱うようになったためだと聞いている。
ミネラルショーにおいて、氷のように澄んだクリアなガネッシュヒマールが並ぶさまは圧巻であった。
この美しさを知らないまま、鉱物の世界を離れていった人々のことを想った。

特定されてしまうおそれがあるので細かな描写は控えるが、ネパール人のアシスタントをされていた日本人男性は、元バックパッカーとみられる。
世界(主にアジア)において放浪の旅を続ける怠惰な人々を指して、バックパッカーと呼んでいる。
彼もヒマラヤで放心しているさい、たまたま水晶の価値を知ったのだろう。

ヒマラヤといえば、アンナプルナ産水晶をご存知だろうか。
アンナプルナ産水晶は、数は少ないものの、比較的流通がある。
それは私にとって、とても嬉しいこと。
アンナプルナは一般人も登ることのできるごく普通の観光地である。
私は体力がないため、途中までしか登っていないが、思い出深い土地に変わりない。
アンナプルナは標高8091mと、非常に高い山である。
具体的には、空が山に覆われて見えない。
圧迫感すら覚える。
高山病を避けるため、外国人は数日をかけて登頂する。
麓にあるポカラの街は観光地として知られている。
トレッキングを趣味とする人々だけでなく、バックパッカーやヒッピーたちもポカラに集まり、穏やかな日々を満喫する。
現地ネパールの人々は高山に慣れているため、ガイドとして活躍している。
怠惰きわまりないバックパッカーの中にあって、果敢に頂上を目指す者も少なくない。
同室の日本人によると、アンナプルナの頂上に無事到着した彼らは、折角だから記念にバレーボールをしようぜ!
と、いうことになったらしい。
当初、余裕の表情を浮かべていたバックパッカーたちは、次々と高山病にかかり、倒れた。
ネパール人ガイドらはバレーボールに夢中になり、それに気づくのが遅れたという。
アンナプルナから瀕死の状態で戻ってきた同室の面々が持ち帰った、悪そうな植物の山を眺めるにとどめておいた。
水晶を持ち帰った人はいなかった。

私は当時、怠惰この上ないことで有名な(?)バックパッカーだった。
アンナプルナへは途中までバイクで登り、満足して宿に戻った。
ある事情があって、外国人に明かすことは許されない(と現地の人が)という、ポカラにおける最高位の聖者が棲む寺院には行った。
根性を試すため、湖の先のダムを徒歩で渡るなど、命知らずな行為にも及んだ。
あとはネパール人に誘われて、どこかの山に(バイクで)登ったくらいだ。
頂上から見た朝焼けを今でも覚えている。
徐々に霧が晴れ、ポカラの街や湖が遠くに見えるさまは、買い付けの旅に終わらない新しい世界の始まりを予感させた。
瀕死のバレーボール青年とは、のちに偶然インドで再会することになるのだが、その話はまた、いつか。

お店の元バックパッカーに、ガネッシュヒマールを見たことが無いというと、あれはガネーシャの形をしているんだ、と教えられた。
なるほど、神の棲む山なのだな。
ルチルやガーデンが商売繁盛(=幸福)に結びつくのは東南アジアに独特の傾向で、欧米の人々には、この水晶の何が幸せなのか理解しがたいであろう。
また、ガネッシュヒマールという名の鉱物は存在しない。
山の名称である。

さて、この標本の本質とは。
人気要素のみならず、通好みの要素も満載されているのである。
ロシアのダルネゴルスクから産するグロースインターフェレンスクォーツ(→参考写真。これらは極端な例だが、干渉による変形水晶たち。右上のみ産地は異なる)のような切り込みが、ザクザクと入っている。
グロースインターフェレンスクォーツは、カルサイトなどの異物が水晶の成長を妨げた結果、通常の水晶にはない独特の形状を示すものをいう。
有り難いことに、この標本にはカルサイトが挟まったまま残っている。
ダルネゴルスク産グロースインターフェレンスクォーツは、あたかもリストカットのように平行に刻まれた痛々しい痕跡を特徴とし、白濁して発見されることも多い。
この水晶には、そこまで激しい傷跡はみえない。
しかしよく見ると、切り刻まれた跡が修復され、別の結晶が成長している?
随所にダルネゴルスク産グロースインターフェレンスクォーツとの共通点が見受けられるのは興味深い。

この石のパワーや効能については、わからない。
どんな病気や困難も乗り越えられる奇跡の水晶と解釈される方もおられるかもしれないが、人間である以上それは困難である。
もしかすると、こうした標本も意外に存在するのかもしれないが、外国人が入るには、体力的に無理がある。
見た目が冴えないから見逃されている?

可能であればお手持ちのガネッシュヒマールを、今一度チェックしていただきたい。
グロースインターフェレンスクォーツは、持ち主に危険が迫っていることをいちはやく知らせるとともに、困難を乗り越える力を与えてくれるといわれている。




未測定

2012/08/11

ミッドナイトレースオブシディアン




ミッドナイトレースオブシディアン
Midnight Lace Obsidian
Glass Buttes, Oregon, USA



墨を溶かしたような幻想的な風景の見えるオブシディアン(黒耀石)。
透明感のあるスモーキーオブシディアンに、レースのような黒い模様が入っている。
傾けることで光の屈折が起こり、その光景が揺らいでみえるさまは、なるほど深夜の蝋燭を思わせる。
原石は黒い塊。
これを薄くスライスすることによって、ようやく本来の魅力が発揮される。
米・オレゴン州の秘境まで車を飛ばし、ハンターたちは今日もオブシディアンハンティングに余念がない。
自分で見つけ、自分で磨くのはアメリカに限ったことではないが、英雄の頂点になりたいアメリカンたちにはそうした傾向が強いようである。

ミッドナイトレースオブシディアンは、もともとはアルメニアで採掘されていた。
このところ、オレゴン州から質の良い原石が多く見つかっている。
クリスタルヒーラーのメロディ氏が著書で紹介したため、ヒーリングストーンとしても流通するようになった。
この石の魅力はやはり模様の美しさ。
だが、こうした石の模様を愛でる人というと、少し年齢層が上がる印象がある。
近年のパワーストーンブームにおいては、模様は重視されない。
ビーズの場合、石の個性がかえって邪魔になってしまうことがある。
模様を楽しむはずの石なのに、模様が無い。
石そのものより名前、そしてその名前の持つパワーに価値が置かれた結果かもしれない。
日本におけるパワーストーンは、いわば言霊のようなもの。
ある程度大きさがないと楽しめないから、日本では人気は出ないのではないか。
そう考えていた。

しかしながら、今見たら、ビーズに加工され、絶賛発売中であった。
これはまったく予想していなかったので、驚いた。
本来の流れるような黒い模様は損なわれている。
もともと天然ガラスなだけあってピカピカなものだから、スーパーのアクセサリー売り場で量販されている感が否定できない。
縞瑪瑙と間違える人も現れそうな気がする。
これは好き嫌いがわかれるのでは。
珠に磨くことでずいぶん印象が変わってしまうので、オーバルカットなどを選ぶといいかもしれない。
いっぽうで、磨き上げてしまうことより、光の移り変わるさまは見られなくなることが予想される。
禅のこころをあらわすかのような、この趣あるミッドナイトレースオブシディアンを私は選ぶ。


118×76×3mm  60.86g

2012/08/10

シプリン


シプリン Cyprine
Sauland, Hjartdal, Telemark, Norway



本日は、涼しくなれそうな一品を。
レアストーン・シプリンで味付けした特製かき氷でござる。

白い石英を流れるように染めるスカイブルーとピンクの色彩。
春のミネラルショーで目に留まり、思いのほか安価だったので購入した。
シプリン(含銅ベスプ石)はべスピアナイトの変種で、美しいブルーの色合い。
ベースはクォーツ(石英)。
シプリンが石英に取り込まれているため、色が明るくなって見える。
他に、チューライト(桃れん石)、グロッシュラー・ガーネット、フローライトが入っていると記載があるが、肉眼では判別できなかった。
鮮やかなピンクはおそらく、ノルウェーを代表する鉱物、チューライトの発色ではないかと想われる。
なお、このところ流通しているチューライトのタンブルは、異常なほどに鮮やかな色をしている。
よく確認したほうがいいだろう。

ベスピアナイトには様々な色合いがあり、原石の様子や呼び名が異なることがある。
素人には同じ鉱物とわからない。
カナダのジェフリー鉱山から産出するオリーブグリーンのべスピアナイトはアイドクレースと呼ばれ、カットされて宝石になる。
同じくジェフリー鉱山からのパープルの透明石、中国のテリのあるアンバーブラウンの結晶も大変美しい。
また、手持ちのアフガニスタン産シプリンのルースは、サファイアのような深いブルーの色合い。

暑い夏にはかき氷。
以前お手伝いしていたアートカフェで、氷の塊をガリガリやった夏の日を思い出す。
古い家屋をアレンジしたお店だったので、冷房がきかない。
食欲が失せるへんなカフェ。
レトロな扇風機がいくつも並ぶ。
謎の人物が次々に店を訪れる。
常連の犬もいる。
オーナーは指定席でずっと酒を飲んでいる。
かと思いきや、出かけたまま帰ってこなかったりする。
誰かが演奏を始め、毎日のように議論に参加させられ、閉店後も眠ったまま起きないお客さんを放置して帰る。
今となっては懐かしいあの店の顔ぶれは、今も変わり無いだろうか。


61×53×32mm  84.39g

2012/08/08

紫金石(ゴールドストーン)


紫金石 Purple Goldstone
found in Iran



天然石ビーズに価値がおかれる風潮の中、人工物はあまり好まれない。
もともと、宝石やビーズは人の手でつくられることも多かった。
子供の頃はお小遣いがなかったから、おつかいのご褒美に得たおつりを貯めて、手芸店でビーズを買っては、その色合いを楽しんでいた。
グラスビーズをワイヤーで編んで、よく小物を作ったものだ。
色が足りないから作れない、だから大人になったらあらゆる色を揃えたい。
そんな子供だった。
世界中の天然石を用いたビーズが手に入ることになるなど、想像もつかなかった。
しかしながら、天然石ブームに乗じて、安価な人工石が不当な価値を与えられ、天然石として流通した。
これを危惧した人々の良心のおかげで、我々は正しい知識のもと、石と接することができるようになった。

天然石とされ市場に混乱を招いた石のひとつに、紫金石(パープル・ゴールドストーン、アヴェンチュリンガラス)がある。
茶金石もそれに同じ。
微細な銅の反射により、宇宙のような光景が広がる美しい石である。
パープルの場合はコバルトまたはマンガンに因る発色で、いずれもガラスと銅などの金属を高熱で溶かし、特殊な技術を用いて造られている。
今やそれが人工ガラスであることは誰もが知るところであるが、かつてはチェリークォーツのように天然石として販売されていた。
そのため、現在は避けられる傾向にある。

プロフィールにも記したが、私が初めて石と出会ったとき、気に入って購入したのはこの紫金石であった。
というのも、石に対する知識が全くなかったのだ。
友人に電話で石の名前を訊ねてアメジストではないかと言われ、長い間アメジストだと信じていたほどである。
興味がなかったわけではない。
改めて告白すると、私は幼少期から、いわゆるスピリチュアリズムに興味があった。
大人になるにつれて、世界中でそうした概念が都合よく解釈されていることを知る。
神秘主義や霊的能力を悪用し、人々を苦しめ死に至らせた人々がいることを知る。
絶望した。
だから、私はそれを封印した。
ニューエイジの人々がクリスタルを愛でていることは、学生時代から知っていた。
あえて近づかなかったのは、私を育ててくれた祖父が水石の収集家だったから。
幼い頃、祖父が石を磨く姿に憧れて、その様子を眺めていた。
祖父は私が14歳のとき亡くなった。
祖父が愛したライカのカメラは売却され、価値の無いものとみなされた石だけが残った。
私は石には関わらないと心に決めたのはその頃だ。

それから何年も経ったある日、道端で倒れていた私を助けてくださった女性が、私を石の世界へ導いてくださった。
アジアをウロウロするバックパッカー(→詳細はこちら)だった私が就職し、真面目に生きようと考えていた矢先、事件に巻き込まれた。
私は何もかもを失った。
かつて出合ったインドの神々は嘘だったものと絶望した。
その女性は神を信じていた。
ところが、鉱物標本店を営む彼女の旦那様は、神など信じていないようにみえた。
アメジストはどんな石なのですか?
ワクワクしながらそう聞いたら「鉄イオンが関連した…」という非常に適切なお答えが返ってきた。
祖父を思い出した。
私は失った宝物の代わりに、この人物から鉱物の世界を学ぼう!と決意した。

しかしながら、当時はよくわからなかったので、紫金石を購入して帰った。
結果的に鉱物が好きになりすぎてしまうのだが、もともと凝り性なので仕方ない。
最近になって社長から聞いたのだが、夫妻は私が自殺を図ろうとしているものと思って、お忙しい中、私を助けてくださったということであった。

ゴールドストーンは、17世紀にヴェネツィアで開発された宝石である。
現在もヴィンテージの宝飾品が高額で取引されている。
修道院において、或いは錬金術師が偶然に発見した、というのは事実ではないとされている。
中国や香港で量産されたために、どれも同じに見えるが、実は品質にも差異があり、ヴィンテージの紫金石と比較すればその差は明らかである。

近年注目されているアヴェンチュレッセンス(→わかりやすい例)の名は、紫金石の輝きから来ているという。
写真はアンティークの紫金石で、イランで発見されたもの。
イスラム教の儀式に用いられたとされる。
もともとヨーロッパで造られたものかもしれないが、年代など詳細についてはわからない。
既存のガラスを溶かして再利用してしまうケースもあり、質は落ちている。
ブログに記すことはおそらくないだろうと思っていたが、思うところあって、ご紹介させていただく。
この石には、古くから人々を魅了してきた宇宙がある。





最後に、日本のパワーストーン業界における正しい知識と意識の拡散に貢献された、KURO@VOIDさまにお礼を申し上げ、今後の活躍をお祈りするとともに、私の誤解や間違いを正してくださったことに感謝を込めて、勝手ながらリンクをご紹介させていたきます。
恥ずかしながら、ようやく紫金石の正体を知ったのは、氏のブログにおける記事でした。
なお、KUROさんは自分にとって大先輩にあたり、立場は全く異なること、氏は私のブログをご存じないこと、また私自身、現在は拝見するのを控えていることを何卒ご理解、ご了承願います。
KUROさんの今後のご活躍を心よりお祈り申し上げます。


http://voidmark.fc2web.com/


直径40mm  82.36g

2012/08/05

ピンクペタライト


ピンクペタライト
Pink Petalite
Karibib District, Erongo, Namibia



サクサク、フワフワ。
お茶うけに出てきそうなピンクのこの石は、ヒーリングストーンとして高い人気を誇るペタライト(ぺタル石/葉長石)。
ブラジルから産出する無色透明の結晶が有名だが、稀に不透明なピンクの塊となって発見されることがある。
写真は、ペタライトの名を知って間もない頃に入手した大きな原石。
表面の様子(劈開・へきかい)や鈍いガラス光沢に、ペタライトの特徴が現れている。
四角く切断されているため元の形についてはわからない。
いっぽうで、風化が進みやすいのか、2面は色あせてしまっている。
時間が経つと黄ばんでくる(?)ことが多いのも対応に困るところ。
ゴールデンヒーラーと呼んでしまう人も現れそうだ。

ペタライトはリチウムの発見に貢献したとされる鉱物。
精神科では安定剤として、陶芸の世界では素材の強化に使われるなど、リチウム資源としての用途は幅広い。
クリスタルヒーリングの分野では、天使の祝福を受けた石とされ、人気は依然として高い。
かつて白だと思われていたペタライトにピンクがあるとわかったとき、誰もが飛びついた。
初期には透明結晶を含む巨大なピンクペタライトが流通した。
現在はタンブルやビーズが主流となっている様子である。
いったん磨かれてしまうと、ペタライトかどうかを見分けるのは至難の業。
ローズクォーツやモルガナイトだと言われてもわからない。
華々しいチェリーピンクに染色されたとみられる怪しいペタライトも登場している。

ピンクペタライトの産地に関しては、かねてからの疑問であった。
加工品の表記はブラジルであったり、アフリカ(のどこか)であったり、アフガニスタンであったりと、アバウトな印象が拭えない。
さらに、中国の新疆ウイグル自治区からピンクペタライトが発見されているという。
現地は隠れた鉱物の名産地。
きな臭い噂の絶えない彼の地に、素晴らしい鉱物が数多く眠っている。

推測の域を出ないが、タンブルやビーズなどで僅かに流通しているのは、新疆ウイグル自治区から出たものかもしれない。
数年前から話には聞いていた。
中国産のペタライト標本が見当たらないところを見ると、既に加工にまわされてしまった可能性もある。
この原石に関しては、ナミビア産との表記に従うこととする。

ペタライトにはさまざまな色合いがある。
無色透明、ピンク、イエローのほかに、青や薄紫、オレンジなども。
ミャンマーからはゴールドに輝くペタライトが発見され、愛好家の間で珍重されている。
ありふれた、それでいて個性豊かな、ここ日本からも産出するペタライトの魅力は計り知れない。


40×38×36mm  90.97g

2012/08/03

ヘマタイト/エジプトの星になった貝の化石


エジプトの星(貝化石仮晶)
Hematite after Sea Shell
White Desert, Farafra Oasis, Matruh Governorate, Egypt



太古の昔生息していた貝類が化石となり、さらにヘマタイトに置き換わったとされる珍品。
一目で貝とわかる造形と質感は、レプリカと見紛うほど。
かつての貝が、銅像(鉄だけど)のように忠実に再現されたさまは、大自然による芸術作品といって差し支えないと思っている。

この標本には他にも興味深い特徴がある。
以前、サハラ砂漠から発見されるエジプトの星(Zストーン)という鉱物を取り上げた。
サハラ砂漠がまだ海の底だった頃に形成されたという、ユニークな特徴を持つヘマタイトであった。
あたかも星のように見えるため、その名が充てられたと思うのだが、実は星のような形をしていない石もわりあい流通がある。
勇敢なミネラルハンターや専門家が、サハラ砂漠の奥地にあるホワイト・デザートで様々な形状のヘマタイトを採取しているそうだ。

写真の化石標本も、日本語で表現するなら「エジプトの星」と同じものということになる。
本文下にこの石の裏面を掲載した。
エジプトの星と見分けがつかないほど似ているのがわかると思う。
前回紹介したエジプトの星は、マーカサイトという鉱物の仮晶だった。
化石が置換される例としては、パイライト化したアンモナイトが有名だが、多くはスライスされてその特徴がわかるようデザインされている。
カットされずとも貝とわかるなんて不思議。
化石の世界は奥が深いのだな。

サハラ砂漠はかつて、海の底であった。
エジプトの星とよばれる石は、その頃に形成されたといわれている。
この標本は、サハラ砂漠が海であったことを証明する、貴重な資料になるのだろう。
化石はどちらかというと苦手。
見事な貝殻のオブジェなら、喜んで飾らせてもらおうと思う。
ただし、ヘマタイトはいわば金属。
錆びやすいため、湿気の多いところに飾らないほうがよさそう。

古来から、人々は生まれ変わったのちの自分の姿を想像した。
「大空を羽ばたく鳥になりたい」
「また人間になって、妻と出会いたい」
そんな叙情的な文脈で語られることもある。
私は欲張りだから、エジプトの星になりたい。
どれくらい時間がかかるのか、見当もつかないが、頑張ればなれるかもしれない。

いっぽう「私は貝になりたい」と言った人もいる。
私は漠然としか知らないが、有名な言葉だからご存知の方のほうが多いと思う。
戦争において理不尽な運命に翻弄され、苦難を強いられた加藤哲太郎氏は、遺書にこう書き残しているという。


けれど、こんど生まれかわるならば、私は日本人にはなりたくありません。二度と兵隊にはなりません。いや、私は人間になりたくありません。牛や馬にも生まれません、人間にいじめられますから。どうしても生まれかわらねばならないのなら、私は貝になりたいと思います。貝ならば海の深い岩にへばりついて何の心配もありませんから。何も知らないから、悲しくも嬉しくもないし、痛くも痒くもありません。頭が痛くなることもないし、兵隊にとられることもない。妻や子供を心配することもないし、どうしても生まれかわらねばならいのなら、私は貝に生まれるつもりです。

(『狂える戦犯死刑囚』より)





35×24×15mm  14.60g

今週、話題性が確認された10の鉱物

What Mineral Would You Take with You to A Deserted Island?