2012/07/25

ストロマトライト


ストロマトライト
Stromatolite
Sevaruyo, Eduardo Avaroa, Oruro department, Bolivia



太古の昔、地球の大気は二酸化炭素で占められていた。
ストロマトライトとは、30億年もの昔に生息していたシアノバクテリアと呼ばれる藍藻類の一種。
地球上に初めて酸素を供給した生物として知られている。
この石の独特の模様は、シアノバクテリアと海中の蓄積物が化石化し、層を成したもの。
厳密には、化石ではなく岩石の扱いとなる。
化石類についてはまだわかっていないことが多いが、ストロマトライトも例外ではない。
30億年前のそれとは異なる、27億年前に登場したシアノバクテリアが地球環境に変化をもたらしたという説が有力となっている。
1億年違うというだけで相当な時間が宙に浮く。
まさに気の遠くなるような話。

ストロマトライトはいわば生命の起源となる存在。
シアノバクテリアの光合成によって増加した酸素により、オゾン層が形成され、生命が陸へ上がる条件が整っていったと考えられている。
生命の創造主としてストロマトライトを神聖視するのは、西洋におけるキリスト教の価値観の影響によるものだろう。
キリスト教においては、神が生命を創り、人々を高みへと導き、時に厳しく裁きを下すということになっている。
日本人の考える神様とは少し事情が異なる点、押さえておきたい。

ストロマトライトがヒーリングストーンとして注目を集めたのもその流れ。
スーパーセブンでお馴染みの、メロディ氏が著書で取り上げた。
化石全般に言えることだが、ストロマトライトは外観としては地味であり、どちらかというと不気味である。
そんな岩石が、パワーストーンを支持する女性層の心をつかんだ理由は、生命の誕生というキーワードとクリスタルヒーラーの声、そして形状ではないかと私は考えている。
小さくカットされ、タンブルになったストロマトライトは、かわいい。
ポーチに入れて持ち歩きたくなる。
しかし、化石標本として並べられているストロマトライトにかわいさは微塵も無い。
かわいさが功を奏して、小さなストロマトライトが太古のメッセージを宿したクリスタルとして大流行…したような気がするのである。

さて、Wikipediaのストロマトライトの項では、非常に地味な泥の塊としてのありのままのストロマトライトを存分に参照することができる。
これは一体何事か(→写真

参考資料:

1)オーストラリアの西オーストラリア州ハメリンプールに発達するストロマトライト
2)同じくハメリンプール・シャークベイのストロマトライト群がまるで地蔵群
3)群馬県立自然史博物館のストロマトライトの模型にロマンをかきたてられている様子の筆者
4)ストロマトライトの唄



生きた化石として現代に君臨するストロマトライト。
生物が陸に上がったのち、高等生命の餌食となりながらも、たくましく生き延びている。
そんなストロマトライトと生命の起源については、目下研究が進められている段階。
素人が論ずるのは憚られるから、詳細については上記のサイトや論文などを参考にしていただきたい。
ロマンを愛でる男性方には魅力的な存在に違いない。
しかしながら西オーストラリアでその雄姿を見届けるのは、私には難しい。
できることなら、写真にあるようなかわいいストロマトライトに神秘を準え、太古のメッセージに酔いしれたいものである。

なお、今年80歳になる私の父親は、ストロマトライトを見て、怖ろしい殺人蜂の巣が脳裏をよぎったという。
以降、当家において、この石を居間に放置することは固く禁じられている。


22×15×14mm  11.02g

2012/07/24

ヒマラヤレッドアゼツライト


ヒマラヤレッドアゼツライト
Unofficial Himalaya Red Azeztulite
Himalaya Mts., India



Heaven&Earth社から発表された新しいアゼツライト、ヒマラヤレッドアゼツ。
ヒマラヤゴールドアゼツと同じ、インド北部の山地から発見されたといわれている。
ぱっと見て、おかしいと思ったあなたは通の人。
どこがおかしいか。
ペンデュラムに加工されたこの石は、ヒマラヤレッドアゼツと同じもの。
しかし、H&E社のカタログにはない。

アゼツライトは石の名前だと考えている人も多いかもしれない。
正確には、H&E社とその代表であるロバート・シモンズ氏が発掘し、普及を手がけた商品の名称である(詳細はこちら)。
ご縁を頂戴した方から、日本の能力者により独自にアレンジされたアゼツライトが出回っているというお話を伺った。
アゼツライトの価値の認定及び加工、流通、販売等は全てシモンズ氏の管理下にある。
無関係な人が販売することでさらなる付加価値がつくというのは疑問が残る。
販売者に求められるのは、流通過程においていかに本来の魅力を損なわず、本物のアゼツライトを消費者に届けるかということではないだろうか。

では、カタログにないこの "ヒマラヤレッドアゼツ" の正体はというと、やはり全く同じものである。
シモンズ氏に原石を卸している業者が関係しているというが、言及は控える。
先日、参考までに購入した。
本国アメリカ産出のアゼツライトは、H&E社より厳しく管理されているが、インドのほうは無防備になりがち。
何らかの手違いにより加工された製品が、"ヒマラヤレッドアゼツライト" として流出したものとみられる。
ヒマラヤゴールドアゼツライトについても、まったく同じイエローの石が裏で取引されているのを目撃している。
価格としては微々たるもの。

このところ、石に独自の価値をつけて高値で販売するというH&E社の手法を真似た日本人業者が目につく。
ブレスなどの製品は出処と原価がある程度わかってしまうから、どうしてそれほどまでの過剰な利益が必要なのかと、驚かされることも多い。
H&E社製品でなければ価値のつかなかったものを、目的はなんであれ利用するのは危険なこと。
ただ一瞬の評価のために人の道を誤り、多くの人を悲しませるというのがパワーストーンの使い途だったか。
石は人の幸せを願うためにあったはず。
自分がやったことは、必ず返ってくる。
取り返しのつかないことになる前に、そのことを思い出してほしい。


2012/07/22

ベニトアイト/ネプチュナイト


ベニトアイト/ネプチュナイト
Benitoite, Neptunite
Benitoite Gem Mine, San Benito Co., California, USA



ベニトアイト(ベニト石)の散りばめられた母岩から、ネプチュナイト(海王石)の結晶が飛び出した豪華な標本。
どちらも稀産鉱物として知られ、小さいながら多くの結晶とその形態を楽しめる良品となっている。
写真の右上に見られる、赤みを帯びた黒い結晶もネプチュナイト。
マンガン成分が多いほど赤く見えるそうだ。
結晶のほうは真っ黒だから、それらを同時に観察できるのも嬉しい。
母岩はソーダ沸石とのこと。

ベニトアイトは希少石の中でも人気の高い鉱物。
カットすると美しい輝きが出るため、収集家の間で長く愛されてきた。
カリフォルニア州では "州の石" とされ、珍重されているという。
ベニトアイトは1906年、カリフォルニアのベニトアイト鉱山から発見された。
原産地からの採掘は終了している。
カリフォルニアのベニトアイト鉱山が唯一の産地とされることから、希少性は増すばかり。
多くはカットされ流通しており、宝石としての人気も高い。
何故こんなものを持っていたのか忘れてしまったが、先日倉庫から出てきた。

この標本の見所は、水晶のような端正なネプチュナイトの結晶のサイドに、ベニトアイトがくっついていること。
もともと産地からはベニトアイトとネプチュナイトが産出することで知られているが、互いにくっついているのは見たことが無い。
誰もが憧れる二つの鉱物が仲良く共生している姿は、なんだか微笑ましい。




32×20×12mm  3.88g

2012/07/21

フローライト(ナミビア)


フローライト Fluorite
Okurusu Mine, Otjiwarongo, Namibia



ブルー・グリーン・パープルの絶妙な組み合わせ。
ナミビア産出のフローライト(蛍石)。
背たけの低い群晶の底面がゆるやかにカーブを描く。
まるで、アンティークのガラス食器のように、幻想的な光景が広がる。

2007年のツーソンミネラルショーにて、特に何も考えずに購入したもの。
当時、私はフローライトを「鉱物の一種」程度にしか捉えていなかった。
安いわりに目立つからストックしておこう…
などという、愚かな動機で購入した。
まさかその後自分がフローライトに目覚めるなど、思いもしなかった。

ツーソンの卸売りコーナーの一角を占拠し、大量に積まれていたナミビアンフローライト。
まるで人の手で造られたかのような、乱れの無い完璧な結晶だった。
興味のない人間が見ても気に入るようなフローライトが、ナミビアから大量に採れるものと勘違いしてしまった。
山積みのダンボールに詰め込まれていた鉱物の中には、今となってはもう見ることの無い石も含まれていた。
このナミビアンフローライトも、ざっと見た感じ、そのひとつに含まれるようである。
てっきりこうした形の整った良品が、コンスタントに出ているものと思い込んでしまったが、そうではなかったようだ。
アンバランスな欠片や破損品、切断面の目立つ原石が、良いお値段で販売されている。

鉱物標本を集めている人たちは、しばしば加工品を見て腹を立てる。
水晶と同様、フローライトにもその傾向が見て取れる。
このナミビア産をはじめ、南アフリカ産、英国産、ドイツ産など、比較的色幅のある標本なら、原石につきる。
表面の構造(骸晶やエッチングなど)が完全に光を通さないために、複数の色が溶け込んだかのような幻想的な光景が広がるというわけ。

しかし、当時これに似たナミビア産フローライトを購入した人々は、一体なにをしておられるのか。
少なくとも2、3年前、ツーソン買い付け品として、国内でもかなりの量が出回った。
私がこれを手放さなかったのは、単に忘れていただけで、先日見つけて驚いた。
感動の再会が待っているかもしれないから、あなたもどうか見つけ出していただきたい。
お手持ちの標本がやがて、産地別・カラー別・結晶構造別などに分類され始めたら、あなたも立派な「フローライトに魅了された人」である。
高価な標本が多いので、無理はなさらずに。

インパクトやわかりやすさに関しては水晶に及ばないが、見るたびに味わいが増すとすれば、フローライトのほうだろう。
光をとどめた結晶内に溶け込む色彩がさらなる色を生み、調和するさまは、ちょっとした万華鏡のようだ。
無限の可能性を秘めた光の幻影。
水晶がアッパーなら、フローライトはChill Outかな。


60×45×19mm  54.81g

2012/07/18

シャッタカイト/カルサイト


シャッタカイト Shattackite
Kaokaveld, Kunene Region, Namibia



美しいブルーの希少石、シャッタカイト(シャッツク石)。
以前水晶に内包されたものをアップしたが、こちらは水晶でコーティングされたもの。
ざらめのような細かい水晶の粒が、水色に染まっている。
シャッタカイトに独特の、ボール状の結晶形の名残りがみられる。
大きなカルサイト上に2箇所、水晶に彩られたシャッタカイトが顔を覗かせる、面白い標本。

シャッタカイトを知ったきっかけは、ナミビアから産出するというクォンタムクアトロシリカ(→写真)というヒーリングストーンだった。
クリソコラ、マラカイト、シャッタカイトが石英に入ったという鮮やかな色彩のその石は、タンブルに磨かれて広く流通した。
その後、シャッタカイトは入っていないという話になったため、動揺した方は多かったはず。
私はシャッタカイトの名に惹かれて入手したも同じだった。
ではあのブルーはなんだったのか。
現在も真相は明かされていないようである。

シャッタカイトは1914年、米・アリゾナ州でマラカイトの仮晶となって発見された銅にまつわる鉱物。
銅を含む石として有名なのは、シャッタカイトの他にマラカイト、クリソコラ、アズライト、ダイオプテーズ、ターコイズ、キュプライト、アジョイト/パパゴアイトなど。
銅の二次鉱物として最も一般的なのはマラカイト。
古い十円玉に発生する緑の物体(緑青/ろくしょう)は、実はマラカイトである。
上記の鉱物がマラカイトと混在して発見されることは多い(例:アズライトマラカイト、マラカイトキュプライト、エイラットストーン、ターコイズもそう)。
クォンタムクアトロシリカに含まれる青についても、上記のいずれかに該当する可能性はある。
名前が挙がらないということは、銅の類いであったに違いない。

アズライトとマラカイトなのか、シャッタカイトとマラカイトなのか、素人には見分けがつかない。
シャッタカイトがアジュラマラカイトと誤解されているケースよりむしろ、とりあえず青いからシャッタカイトと呼ばれているケースのほうが多いような気がしてきた。
ターコイズカラーのシャッタカイトも研磨されて流通している。

標本の産地はシャッタカイトが発見されることで有名な土地。
特に石英と共生して発見される標本は高い人気がある。
強いバイブレーションを持つ霊的存在としてヒーリングの世界で珍重されているシャッタカイト。
そのバイブレーションが本物かどうか、今一度確かめる必要がありそうだ。




50×43×30mm  43.98g

2012/07/15

パライバクォーツ


パライバクォーツ
Medusa Quartz (aka Paraiba Quartz)
with Gilalite Inclusions
Juazeirio Do Norte, Ceara, Brazil



涼しげなミントブルーが美しい。
水晶にギラライト(ジラライト/ギラ石/ジラ石)という鉱物が入り込み、明るい水色に染まっている。
2005年にブラジルのパライバ州で発見され、その色合いがパライバトルマリンを思わせることから、一般に "パライバクォーツ" と呼ばれる水晶である。
原石には不純物の混在が認められることが大半。
そのため、ギラライトの様子がよく見えるよう、カットされて流通している。
発見されたのは全部で10kgほど、既に枯渇している。
全盛期には仰天価格を更新し続けたこの石、質の低下により一気に値を下げ、身近な存在となった。

ギラライトは1980年にアリゾナ州で発見された非常に珍しい鉱物。
日本語表記はまちまちで "ギラ" とするか "ジラ" とするかは人によって異なる。
この水晶に関しても、「ギラライト・イン・クォーツ」「ジラ石入り水晶」といった複数の呼びが存在するため、混乱を招いている。
希産鉱物ならではの扱いの難しさというべきだろうか。
宝石としては「メデューサクォーツ」が正式名称とされる。
パライバトルマリンとの混同・誤解を招くという懸念から、米国宝石学会GIAによって設定された。
もし、見た者を石に変えてしまうという怖ろしい怪物・メデューサを思い浮かべた方がおられたら、安心してほしい。
ここで使われるメデューサとは、クラゲのこと。
水晶に浮遊するギラライトが "Medusas Rondeau" というクラゲを想起させるのが名前の由来だという。

ギラライトの呼び名がかえって混乱を招くこと、メデューサクォーツの名は国内では一般的ではないことを踏まえ、ここでは日本での主な通称であるパライバクォーツの名で統一させていただこうと思う。

パライバクォーツにもいろいろある。
一般には、青や緑のボール状に結晶したギラライトの浮かぶ透明水晶を指して使われる。
メデューサクォーツの名の由来となった、クラゲが浮遊するかのような幻想的な光景は、世界中の愛好家を熱狂させた。
いっぽう、写真のようにギラライトを多く含み、パイナップルのような針状の模様が並ぶ石も稀に存在する。
初期に僅かに流通したタイプで、一目で気に入って購入した。
私が鉱物に興味を持ったのが、まさにパライバクォーツの全盛期。
規則的なパターンが規則的に繰り返されるさまは、パライバトルマリンとはまた違った面白さがある。
今調べたら、過去に最も貴重とされたのはこのタイプらしい。
現在は、透明水晶に水玉の浮かぶ石がベストとされている。
なお、上記の特徴を持たず、水晶全体または一部が水色に染まり不純物を伴う場合、宝石とは認められず、カットされることもない。

パライバトルマリンの発見されたパライバ州から見つかったというエピソードは実に面白い。
数個の水玉が浮かぶ程度では、パライバカラーには見えない。
かといって不純物だらけでは美しくない。
つまり、パライバクォーツの命名に関わったのはこのタイプで、産出の激減に伴い一般的となったクラゲタイプに因み、メデューサクォーツの名で定着したのではないかと勝手に考えている。

参考:無理やり感が否定できないパライバクォーツのブレスレット
http://www.hs-tao.com/cart/shop/shop.cgi?No=5771

すごいブレスだ。
アジョイトと言われてもわからない。
ここまで根性を見せ付けられると、圧迫感すら感じてしまう。
手にされるのはどんな方だろう。
ある意味究極のレアアイテム。
やがて消えゆく運命にあるこの石が存在した記録として、いつまでもそこで輝いていてほしい傑作である。


17×8×3mm  4.53ct

今週、話題性が確認された10の鉱物

What Mineral Would You Take with You to A Deserted Island?