2012/01/07

シヴァリンガム


シヴァリンガム Shiva Lingam
Narmada River, Mandhata, Madhya Pradesh, India



インド・ナルマダ川から採取されるという、シヴァ神の化身、シヴァリンガム。
隕石由来の物質であるとか、このままの形で川底から発見されるなどのミステリアスな噂は人々を仰天させた。
しかし、実際はジャスパーの一種で、ナルマダ川から得た原石を現地の人が加工しているということらしい。
私が石に興味を持ったとき、すでにシヴァリンガムは人気商品として定着しつつあった。
アクセサリーにして楽しんだり、ヒーリングツールとして用いる方も多いと聞く。
その人気は衰えるどころか、高まる一方のよう。

初めて見たとき笑ってしまったのは私だけだろうか。
神聖なものだけに申し訳ないが、罰ゲームにもってこいじゃないか。
これで瞑想するのはある意味大変だと思った。
どうしてこれほどに需要があるのか、長い間不思議でたまらなかった。

シヴァリンガムの「シヴァ」はインドのシヴァ神、「リンガム(リンガ)」はサンスクリット語で男性器を意味する。
シヴァリンガムとはつまり、見たまんま。
男性の象徴である。
あくまで信仰の対象で、それ以上の意味はないものと捉えてほしい。
ただし、子宝に恵まれる、村を守るといわれるくらいだから、性的な意味合いもまた含んでいる。
よって、日本では男子は18歳、女子は16歳まで手にしてはならぬ。
立てて置くなどもってのほか。

と、ずっと思っているのだけれど、今ネットでみた感じだと、かなり都合の良い解釈をされ、多岐にわたるご利益を期待されているようである(それもだいたいコピペ)。
聖なるシヴァリンガムの誤用を防ぐため、今一度注意を喚起したい。

インドは広い。
イスラム教徒や仏教徒、キリスト教徒、シーク教徒など、さまざまな信仰を持つ人々が暮らしている。
ヒンドゥ教においても派閥があるらしいから、すべての人がシヴァを信仰しているわけではない。
シヴァリンガムの意味を知らないインド人も多いと考えるのが妥当だろう。
寺院に性器を象った「リンガ」が安置されているという話は聞いている。
男性器と女性器を組み合わせた衝撃的なご本尊様である。
写真では見たことがあるし、それを見た人の話も聞いている。
インドでは私も実際に見ようと出かけたのだけれど、寺院にはあまりにも人が多すぎた。
すぐに引き返した。
ヒンドゥ教徒ではない自分がウロウロしていては、礼拝に来る人々の邪魔になる。

シヴァは破壊と再生の神。
インドの人々は、一族の幸せと繁栄のため、リンガムに祈りを捧げるのだろう。
日本人の考える宗教とは異なり、試練や精進という感覚なのかもしれない。
性に関してはむしろ、日本よりも厳格な印象を受ける。
インドでは大半をインド人と過ごしていたが、信仰の領域にこちらから踏み込むことはしなかった。
リゾート地、動物園や博物館、或いは観光地としての聖地を堪能し、たまにコミューンをのぞいたりもした。
あくまで日本人としての立場を貫きたかった。

写真は2009年の米・ツーソンショーで、かなりのスペースを利用して、シヴァリンガムが販売されている衝撃の現場を撮影したもの。
大小さまざまなシヴァリンガムが所狭しと並んでいる。
ちなみに「大」は数メートルある。
こんなものが川から拾えるなどと言い出したのは、どこの誰であろう。
もはや、信仰の対象というより、世界規模のビジネスである。
外国人はインドに神秘を求め、インド人はそれに応える。

シヴァリンガムはいくつか手元にある。
あえてこの写真にしたのは、シヴァリンガムが世界規模で商業ラインに乗っている事実を見てほしかったから。
確かヒンドゥ教徒は売り場にいなかったし、宣伝もしていなかった。

寺院に安置されているシヴァリンガムと、世界的に流通しているシヴァリンガムの外観が異なるのはなぜだろう。
シヴァリンガムが、現地の人々の間で用いられているのは間違いないと思う。
ただ、私たちがシヴァリンガムを見る感覚とは、視点が異なるのではないだろうか。
少なくとも、これを持ち歩いているインド人を私はまだ見たことがない。
さすがにインドの方には聞けないので、調べてみた。
用途について書かれたと思われる記事を見つけたので、あくまで参考としてみていただけたらと思う。
罰ゲームにだけは使わないように。
シヴァリンガムは、神聖です。


【注意】

インドの文化や信仰に関してわかりやすく述べられており、危険な内容とは感じません。
宗教に抵抗のある方、シヴァリンガムに霊的な用途のみを求められる方はお読みにならないほうがいいと思います。
また、性的表現が含まれますので、その旨ご注意ください。


(参考)シヴァリンガムとその信仰について
http://www.bhagavati.de/site06aj.htm

(参考)シヴァリンガムの用途
http://web.kyoto-inet.or.jp/people/tiakio/antiGM/lingam.html


※この石が18禁的な意味合いを持たないというのは確かなようです。ナルマダ川にあるすべての石をシヴァリンガムと呼ぶということならば、いくつかの疑問が生じます。極端な例をあげると、中国産の水晶がシヴァリンガムになり得るのか、など。
シヴァ神は無知の破壊者というくだりは非常に興味深いものです。


10~60mm程度、数点

2012/01/05

アクロアイト


アクロアイト
Achroite Tourmaline
Merelani Hills, Arusha, Tanzania



カラーレスのトルマリン。
聞いたことはあったが、現物を見たのはたぶん、初めて。
同じくカラーレスのガーネット、リューコガーネットが産することで知られる、メレラニ鉱山から届けられたと伺っている。

さまざまなカラーバリエーションを持ち、無色透明の石に価値を置かれる宝石に、ガーネットがある。
ガーネットは私の誕生石でもあったので、ぼちぼち集めていた。
無色透明の石があると知ったときには必死で探したものだ。
トルマリンもまた同様、無色透明の石はアクロアイトと呼ばれ、収集家の憧れと聞いている。
パライバトルマリンなど、ダイヤモンドの価値を上回るような石も存在するため、それらの華やかさに隠れてしまいがちだけれど、探してもすぐに出会えるものではない。

このアクロアイトは、ある日偶然に目にとまった。
それも、初めて見つけたお店で、一目惚れしてしまった。
宝石の世界が無知に甘くないことは知っている。
また、長年お世話になった業者さんとの別れを機に、しばらく宝石の購入は控えるつもりでいた。

東京に出発する直前のこと。
気力も体力も果てつつあったが、この石について質問せずにはいられなかった。
対応してくださった社長さんが親切な方だったために、夢中でお話を伺った。
謙虚で誠実、かつ気さくな方なれど、宝石にたいする情熱と鋭い眼差しを、私は見逃さぬ。
どんな人にも平等に、わかりやすく物事の魅力を伝えられるというのは、限られた人に与えられた才能に他ならない。
社長さんとは、もっとお話ししたかったのだが、途中で力尽きてしまった。

池袋ショーをまわるにあたって、その方からいただいた助言の数々は、非常に意味のあるものだった。
本物を知らずして偽物を語るなかれ。
そう、それが私の口癖だったのに。
私はようやっと、大切なことを思い出したのである。

疲れ果てて宿に戻ったら、ベッドの上に荷物が置かれているのに気づいた。
社長さんが東京まで送ってくださったのだ。
その輝きは、今までにない鮮烈な光を放ち、私は圧倒された。
カラーレスのトルマリンは、数々の混乱を経て、リセットされた心に似ている。
無限の可能性を秘めているようにすら感じさせる。
完全に透明ではなく、僅かに(といっても自分にはほとんどわからない)グリーンを帯びているところもまた自然で、とてもいい。

熱意あふれるディーラーさんとのご縁に恵まれた年であった。
もう少し磨かねばなるまいな。
やっとのことでお礼を書いて、そう思った。
長く険しい一年が、ようやく終わりを告げようとしていた。


0.34ct

2012/01/03

シャッタカイト入り水晶


シャッタカイト入り水晶
Shattuckite In Quartz
Kaokaveld, Kunene Region, Namibia



シャッタカイトのボール状結晶を内包する水晶。
鉱物標本業界の最先端を行く有名鉱物店がウェブ上で紹介し、収集家の間で専ら話題になっていた。
鉱物界の権威、H先生とは全く面識がないし、鉱物愛好家のバイブル『楽しい鉱物図鑑』も見たことがない(怒らないで下さい)。
サイトを拝見したのも初めてだった。
さすがの品揃えと情報量、そして紹介されていたシャッタカイト入り水晶の見事なこと。
まりものような濃青色のシャッタカイトが水晶の内部に浮かぶさまは、時間さえ忘れるほどに楚楚たる風景であった。
残念ながら、サイトで紹介されていた標本の展示即売会は、既に終了していた。

こちらは先月池袋ショーにて、外国人ディーラーのブースで見つけた研磨品。
2003年にツーソンショーで仕入れたものとのことだった。
これから流通が増える可能性があるなら待つところだが、それ以降見ていないとのお話。
競争率を考えると即決が妥当かと思われた。
驚くほど高価なものでもなかった。

先月私がネットで見かけたシャッタカイト入り水晶の原石は、一瞬で売切れてしまったらしい。
一目見ようと多くの収集家が詰め掛けたが、展示即売会の会場にその姿を見た人は誰一人いなかったという。
ネット上で見た限り、即売会を待たずに高額で売却された可能性あり?
こちらは研磨品だが、見た目はそっくり。
同じ産地から出たものかどうかはわからない。

池袋ショーで出会ったとある業者さん。
シャッタカイト入り水晶の話題が出たので、購入したばかりである旨伝えたところ、目を丸くしておられた。
その方も例のシャッタカイト入り水晶に一目惚れしたらしいのである。
渦中の標本は、その方の知る有名な収集家の手に渡ったという話であった。

不思議に思うのは、十年近く前に出たはずのこの石が、なぜここまで注目を集めたのかということ。
まるで世界に数個しかないようなこの騒ぎは何事か。

銅の二次鉱物であるシャッタカイトは、希少石の中でも人気が高い。
特に、石英と共生して発見される美しいブルーの結晶は、高価であるが比較的流通はある。
大流行したクォンタムクアトロシリカ(→詳細はシャッタカイト/カルサイトに記)に、シャッタカイトが含まれていると噂されたのも記憶に新しい。
シャッタカイトが透明水晶に内包される可能性もあり得る。
私ですらすぐに見つけたのだから、プロのディーラーも探すほど珍しいものではないはずだ。
また、皆が注目したと思われる標本の写真には、結晶の先端のごく一部しか写っていなかった。

池袋ショーの会場、一発目の店で見つけた研磨品。
どうして残っていたのか。
パパゴアイト入り水晶と並んで販売されていたため、気づかず通り過ぎた人が多かったのかもしれない。
十年近く売れなかったのだから、価値など無いのかもしれない。
素人には、これで十分。
むしろ勿体無いくらいの美しさだ。
スーツ姿の不審者(急いでるのに執拗に追っかけてきて参った。サイコパスの暇つぶしに付き合わされるなんてマジ悲劇!唖然として見守る飲食店の店員たち、助けろ!)に行く手を阻まれ、会場に到着した頃には日が暮れていた。
最後まで迷惑をかけてしまったにも関わらず、迎えてくださった方々に恐縮し、多くの出会いに感謝した。

もしこの石に価値があるのだとしたら、いずれ誰かがもっと素晴らしい標本を仕入れ、紹介するはず。
慌てて探すよりも、気長に待つほうがいいんじゃないかと思う。
思いがけない出会いもまた、鉱物の魅力の一つだから。


19×11mm  6.75ct

2012/01/01

ルチル(原石)


ルチル Rutile
Diamantina, Minas Gerais, Brazil



ルチルクォーツを見たことのない人っているのだろうか。
全盛期には、手のひらサイズのスフィアが400万という、破格の値段を付けるほどに大流行した。
いっぽうで問題を起こし、論争を巻き起こし、善からぬ人々を招きいれ、それらが現在も解決していないという奇妙な存在。
なぜ、未だに解決しないのか。
正月だけに、縁起のよさそうなルチルで新年を祝いつつ、考察をしてみたい。

ことのなりゆきはブルールチルで取り上げた。
要は、ルチルクォーツには様々な色合いがあり、人々はもはや、水晶に入ってる針=「ルチル」であるものと認識していた。
鉱物をこよなく愛する人々にとって、その誤認の定着は、不愉快極まりない出来事であった。
ルチルはあくまで鉱物のひとつでなければならない。
俗に言われる『阿鼻叫喚のルチル闘争』がそれである(無い)。

ふと、思った。
ルチルの原石を見たこのある人ってどれくらいいるのだろうか。
あれからかなり経つのに、現在もあちこちで論争を見かける。
以前は、誤認ゆえの成功と記したが、ルチルの原石にも原因があるように思える。
ルチルクォーツのゴールドの針のイメージとはかけ離れた姿、と説明することはできる。
色合いは?結晶の形は?
そう聞かれても、一言では説明できない。
じゃあ結局、ルチルの原石ってどんな石?

写真の標本はルチルクォーツの全盛期に、ひっそりと棚に並んでいた、ルチル(金紅石)の原石。
「網状双晶を示すルチル」と書いてあった。
小さいながらも、メタリックでキラキラしていて、形もカワイイ。
当時ルチルクォーツのブレスは、安いところでもこれを10個、通常は100個近く買ってようやっと手に入る高級品だった。
幾つも並んでいたから、私のルチル原石のイメージは長い間コレだったのだ。

この手のルチルはその後、見かけていない。
大抵は他の鉱物と共生している。
ルチルクォーツならばいくら掘っても出てくる。
しかし、ルチルの原石はやはり、少ない。
ルチルは鉱物だといわれても、具体的なイメージが出てこないのは致命的。

ルチルクォーツのご利益が凝縮されて出来た、半端なく凄い石のはずなのに、どうして誰も探さないんだろう。
トルマリンやアクチノライトより珍しくて、こんなに美しいのに。
わかってる。
大半の人は、そんなことどうでもいいのだ。
客層をみればわかる。
ルチルクォーツをご購入されたお客様の声は、たぶんこんな感じだろう。

「スロットで負け続け、ますます借金が増えていきます」(Aさん/千葉県)
「ロレックスより高かったのに質屋が取らんぞゴラ」(Bさん/大阪府)
「幸せになれないのは浄化の仕方に問題があるのでしょうか」(Cさん/福岡県)
「ブラックルチルって偽物なんですか?」(Dさん/北海道)
「ヒーラーになれないんですけど!」(Eさん/東京都)
「買いすぎて自己破産しました」(Fさん/愛知県)


パワーストーン・ルチルクォーツの効能は、以上である。


約10mm  数点

2011/12/28

レインボーオブシディアン


レインボーオブシディアン
Rainbow Obsidian
Guadalajara, Jalisco, México



オブシディアン(黒耀石)は溶岩が冷え固まって出来た天然ガラス。
メキシコや米・アリゾナ州が世界的に有名な産地である。
その土地柄、先住民族/インディアンに珍重された歴史があり、出土品も流通している。
メキシコの先住民族の間では、"神々の贈り物" とされ、矢じりや装飾品、魔術の道具などとして用いられてきたそうだ。
そんなオブシディアンの中で、光の下で虹色のシラー(光彩)が浮かび上がるものを、特にレインボーオブシディアンと呼んでいる。
はっきりとレインボーが浮かぶ石は意外に珍しい。
このシラーはアンフィボール(角閃石)のインクルージョンに因るものとされている。

現地では民芸品として、ハートフラワー、スターなどのモチーフに加工されているほか、タンブルとしても流通している。
大きな塊状の原石を切り出してレインボーの状態を確認の上、熟練した職人によって彫刻を施され、レインボーのシラーが生きるよう工夫されている。
日本で流通しているのは主にビーズであるが、ごく淡い虹が浮かぶならまだ良いほうで、シラーの出ない黒耀石をレインボーオブシディアンとして販売しているところもある。
メキシコからの民芸品を見て、これが本来のレインボーオブシディアンかと驚かれる方もおられる。

気に入って幾度も紹介させていただいた、思い出の石。
自己破壊や自己攻撃を和らげて、自らを保つ力があるとして、海外では薬物中毒やアルコール依存症、摂食障害の治療に使われることもあるという。
すべての物事をありのままに受け止める眼を養うともいわれている。
鑑賞石として愛される一方、クリスタルヒーリングの世界でも人気は高い。
そのレインボーの光彩は、たとえ一瞬の出会いに過ぎずとも、まるで虹のごとく、逆境を乗り越える祝福の光となって人々に降り注ぐのであろう。

暗闇を歩く人を照らす光。
すべての人が光のもとに導かれ、本来の輝きを取り戻されることを祈って。


23×8mm  6.23g

2011/12/23

フローライト(ブルーグレー&ピンク)


フローライト Fluorite
Kandahar, Afghanistan



アフガニスタン・カンダハルのフローライト。
産地は情勢の問題から供給が不安定。
なかなか出会う機会はない。
現地からは多くのフローライトの産出があり、クォリティも高い。
カンダハルを代表する美しいブルーグリーンのフローライトが、パキスタン・ギルギット産として販売されているのをよく見かける。
この色合いは初めてだった。
グレーを帯びた淡いブルーの地に、パープル~ピンクのアクセント。
この世のものとは思えない美しさ。
調べたら、同じ鉱床から出たとみられる石をお持ちの人もいらっしゃるようだったが、鉱物標本としては悲しいほどに粗末なものだった。
専門家が現地に入れないために、扱いが荒くなってしまったのだろう。

物事にはやがて終わりが来る。
すべては限りあるものと知り、次の街へ向かう。
出会いと別れの記憶と共に、この石は私の心の中で永遠に輝き続ける。


62×40×28mm  72.57g

今週、話題性が確認された10の鉱物

What Mineral Would You Take with You to A Deserted Island?