ラベル 水晶/シトリン の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示
ラベル 水晶/シトリン の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示

2012/10/03

アメジストエレスチャル


アメジストエレスチャル
Amethyst Elestial Quartz
Karur, Tamil Nadu, India



以前カボションカットされたものをアップしたが、今回は原石を。
南インド・カルール産出のエレスチャルアメジストである。
スーパーセブンの全盛期、その発色が本来のそれより美しいために、南インド産スーパーセブンとして出回ったことは前回にも記した。
日本に入ってくる段階でほとんどは研磨加工され、ルースや六角柱の置物になってしまっていた。
原石の魅力について語られる機会は、少なかった。

写真は現在も僅かに流通のあるカルール産アメジスト。
世界中から産出するアメジストの中でも、紫の絶妙な色合いにおいては、メキシコのベラクレスアメジストに匹敵する美しさ。
魅力はその色だけではない。
クラスター、エレスチャル、セプタークォーツ、フラワーアメジストに近いもの等々、様々な形態がある。
この標本には白いしっぽのようなものが付いている。
私の手持ちのカルールのアメジストには、なぜかすべてしっぽがついている。
白いしっぽの飛び出した水晶には、他にも見覚えがある。
いずれご紹介したい。

南インドにヒマラヤ山脈があると思っている方は多いようだ。
インドの話題が続き申し訳ないのだが、南インドと北インドでは、気候や街並み、人々の様子、食事の味や言語に至るまで、全く異なっている。
インドの公用語は、英語である。
州によって言語や文字が異なるから、インド人同士でも言葉が通じないことがある。
古くは英国の統治下にあったインド。
年配の方々は、イギリス訛りの英語を使われることが多い。
フェイスブックに "Indian English" というカテゴリがあるように、現在インドで用いられている英語は、インドに独自のアレンジがなされている。
英語を母国語とする英米とは異なり、許容範囲は広い。

先日、南インドとは何ぞや、というお話が出た。
中には南インド=サチャロカ、と認識しておられる方もいらっしゃるご様子。
南インドは私たちが考える以上に広大なのである。
情報としては不十分であるが、いったいどんなところだったか、少しだけ書かせていただこうと思う。

私が一人、南インドに上陸したさい、日本人旅行者は皆無であった。
日本でストーカーに追われ、命の危険を感じた。
インドに行くときは、おそらく生死の選択を迫られたとき。
幼い頃からそう思っていたが、遂にその時が来てしまった。
折りしも一年で最もチケットの取りづらい時期、突然出発を決めたにも関わらず、格安チケットにキャンセルが出たとの知らせを受けた。
十分な用意をする間もなく、私は日本を発つことになった。
インドに到着してすぐムンバイ空港で野宿したのは、そうした事情あってのこと。
安全なはずの日本で死ぬことが、周囲の人々を絶望させ、私は死後もその罪を背負うことになる。
それだけは、避けたかった。
インドに対しては、幼少期から非常に複雑な思いがあった。
私がインドに行くとすれば、人生が終わるときだという予感は、現実になった。

南インドに日本人はいなかった。
ただ、ネパールで知り合ったある日本人が、現在南インドのゴアという土地にいるはず。
その人物に会うことができれば、この絶望的な状況が好転するという一心で、私はゴアへ向かった。
一ヶ月以上に渡って、日本語が全く使えないという状況が続いた。
当初の目的地であったゴアに滞在する白人たちの多くは、開放的すぎて倫理的に無理があった。
ゴアでは性的に厳格なイスラムグループ、社交辞令に終わらない深い内容について話すことのできる地元のインド人と行動した。
あとで知ったのだが、日本人旅行者の集まる場所は、そこから少し離れた場所にあり、閉鎖的コミュニティになってしまっていたようだ。
それがかえって幸いし、私はインドが世界で一番好きになった。
私は長い呪縛から開放されたのだ。

南インドのリゾート地・ゴアには、無数のビーチが存在している。
ガイドの三郎(北島三郎に似ていたので勝手にそう呼んでいた)と友達になり、バイクのガソリン代を出し合って、ゴアにあるあらゆるビーチへ冒険に出かけたのを思い出す。
海沿いを走り、森を抜け、フェリーで川を渡り、椰子の木をかすめてどこまでも走る。
一般の旅行者が訪れない遠いビーチでは、高齢のヒッピーがウロウロしている。
一目でアブナイと感じたので、話しかけなかった。

ゴアの最も奥地にあるビーチ。
誰もいない砂浜。
清流を上っていくと、木陰からたくさんの人の集まっている様子が見えた。
ハレクリシュナ、と歌が聴こえる。
俗にいう、コミューンである。
ゴアにもまだあった。
参加してくる!と三郎に告げ、突入しようとしたら、「ここのは●●●●るから絶対に行くな!」と引き止められた。
三郎が世界的倫理観の持ち主であったことを、今でも不思議に思っている。
三郎は、しばしば左手で食事をしていたからである。

しかしながら、三郎には、地元のマフィア風の男に売り飛ばされそうになった。
ボスの間(?)に閉じ込められ、私が必死で助けを求めているというのに、三郎が新聞を読むふりをし、ニヤニヤしながらこちらを観察していたことについては、許しがたい。
マフィア風の男に激しい怒りを表明し、振り返ったときの彼の心底嬉しそうな表情を、今でも覚えている。
ブラックマネーなるものを初めて手にしたのも、三郎の仕業であった。
彼が仕事を休んで私を冒険に連れて行ってくれたことには、深く感謝している。
数々の悪巧みについても、当時だからお互い受け入れられたのかもしれない。
三郎が私を売り飛ばす気などなかったことはわかっている。
今では彼も立派な大人になり、家庭を築いていることだろう。
少なくとも十年ほど前、南インドとはそうした土地であった。




そろそろ石の話に戻ろうと思う。
左の写真を見ると、このアメジストがセプタークォーツの要素を持っていることがわかる。
その後さらに成長し、起伏に富んだ形状になっていったとするなら、しっぽはその名残りなのかもしれない。
もうひとつ、カルール産アメジストに特徴的なのが、ゲーサイトやレピドクロサイト、カコクセナイトなどのインクルージョン。
右の写真では、サンストーンのような煌きに混じって、お馴染みのピンクのファイアが確認できる。

本来、スーパーセブンはブラジルのエスピリトサントから産するものを指すということになっている。
ビーズに関して、エスピリトサント産のスーパーセブンを使うことは、ほぼ無いようだ。
過去には流通があったが、同様の水晶が世界中から産するとわかってからは、原価の安い途上国からのアメジストが用いられるようになった。
インド産もおそらくもう無いはず。
また、万が一サチャロカ産と明記されていた場合は、必ず事前にお店の方に確認されることをお薦めする。

下の写真においては、一箇所の面に雲母が挟まるように入り込み、緑を帯びて見えるほか、シトリンの色合いも入っているのがわかる。
しっぽのついたかわいい姿を楽しみながら、その内部に広がる宇宙を味わいたい。
スーパーセブンの七つの要素+雲母+シトリン+しっぽ=?




41×20×16mm

2012/06/28

スモーキーアメジスト(ハレルヤクォーツ)


スモーキーアメジスト
Morion, Smoky Amethyst
Royal Scepter Mine, Hallelujah Junction, Washoe Co., Nevada, USA



スモーキークォーツ、アメジスト、シトリン、クリアクォーツ、そしてモリオン。
5つの色合いが混在した豪華な標本。
エレスチャル、もしくはジャカレーなどと呼ばれる複雑で変化に富む結晶構造を示し、かつ圧倒的な透明感を誇る。
切断面のほとんどみられない完全な結晶体で、結晶の至るところに水晶のさまざまな形態が観察できる。
300g近い本体の至るところにちりばめられた結晶の数々。
いくら眺めていても興味は尽きること無いが、重い。
このような歴史的コレクションがさかんに取引されるのも、歴代の鉱物ハンターを英雄に位置づけるアメリカならでは。

ロイヤル・セプター鉱山は、その名の通り、見事なセプタークォーツ(松茸水晶)を数多く産出する。
スモーキーの色合いが多いようだが、写真の標本から想像できるように、なんでもあり。
クリアクォーツやシトリン、アメジストファントム、スモーキーアメジストやアメトリン、さらにはモリオンまで。
形状も変わっていて、ダブルポイント(DT)、セプター、リバースセプター、セプター二段重ね、三段重ね(呼び名が不明)、いっぱいセプターダブルポイント(もはやエレスチャルの類い)といったユニークな標本が続々登場する。
鉱山のあるハレルヤジャンクションに因み、ハレルヤジャンクションクォーツ、ハレルヤクォーツとも呼ばれている。
この標本も例に漏れず、かつてセプタークォーツだったとみられる結晶が連なるように成長した痕跡がある。
水晶の持つあらゆる色を有する、往年のハレルヤクォーツの魅力を凝縮したかのような珍品である。

豊富な資源を有し、ハンターたちの憩いの地ともなっているネバダ州。
アメリカでは特に人気の高いターコイズ鉱山、鉱物標本としても評価の高いウラン鉱山などが有名。
この標本の産地ロイヤル・セプター鉱山もまた、ハンターたちの目指すネバダの宝の山の一つ。
現在も入ることはできるが良質な水晶の産出は減り、環境保護を訴える声も上がっているようだ。

これまでいくつか見たことはあったが、ここまで衝撃的な標本は初めて。
採取が丁寧で保存状態も良かったのだろう。
ハレルヤクォーツの魅力を語るにはこれひとつで十分かもしれない。
水晶は硬いがクラックが入りやすく、大きくなるほど透明感は失われていくものだが、この標本は向こう側が見えてしまう。
優しい色合いが印象に残るいっぽう、平凡な日本の家庭には優しくない大きさでもある。

記憶にある限り、ハレルヤクォーツはもっぱらヒーリングストーンとして紹介され、鉱物標本としての魅力に言及されることはなかった。
あったのかもしれないが、ハレルヤ産に凝っている人にはまだ出会ったことが無い。
ヒーリングストーンは名称優位なところがあって、質は特に問わない。
当然ながら、アメリカ産出の良品のほとんどは、アメリカ人収集家が所有している。
日本に流れてくることは滅多に無いから、希少価値も上がっていく。
ハレルヤクォーツが何なのかと悩んでおられた方には、単なる地名であることをお伝えしておきたい。




なお、ニューメキシコ州にもロイヤル・セプターの名を持つ同名の鉱山が存在する。
そのため、ニューメキシコ産の水晶が、一部でハレルヤクォーツとして混同されている様子である。
ヒーリングストーンの場合、外観の似ていることがその名称の基準となったりもするので、ニューメキシコ産ハレルヤクォーツが必ずしも偽物というわけではない。
「ハレルヤ」はキリスト教における念仏のようなもので、聖書や賛美歌などにしばしば登場する聖なる言葉である。
その神秘的な地名がクリスタルヒーラーたちの支持を得て広まったものと信じたい。

イットリウムフローライトでも取り上げたが、産地が曖昧にされてしまうことが、ヒーリングストーンに対する評価や信頼の低下を招き、誤解を受ける原因ともなっている。
数々のハンターたちが活躍したアメリカの歴史から、鉱物の正体を探ってみるのもまた楽しい。




88×63×40mm  294.5g

今週、話題性が確認された10の鉱物

What Mineral Would You Take with You to A Deserted Island?