2011/11/27

ヒマラヤアイスクリスタル


ヒマラヤアイスクリスタル
Himalayan Ice Etched Crystal
Kullu Valley, Himachal Pradesh, India



全体が淡いフロストピンク。
ふんわりと光を包み込むような不思議な質感。
絹のような光沢とその特異な形状は、見る者を惹きつけてやまない魅力に溢れている。

2006年にインドで発見された触像水晶の一種。
ヒマラヤアイスクリスタル(アイスクリスタル)、ニルヴァーナクォーツ、ヒマラヤエッチドクリスタル、ピンクエッチドクォーツなど、さまざまな呼び名がある。
ヒマラヤ山脈の標高6000m級の氷河地帯で、地球温暖化の影響で溶けた氷の下から姿を現したことから、人類へのメッセージではないかと騒がれた。
地球温暖化の影響で氷河から発見された例としては、他に南米コロンビア産の水晶など。

初期は細長い柱状で、トップもボトムもフラット(C面)、上下のわからないアイスクリスタルが流通し、誰もが仰天した。
色はピンクとホワイトの2種類。
「地中からこのままの形で一本一本発見される」という表現が使われた。
まるでスーパーで売っている12本入りのアイスのようだから、アイスクリスタル?
そんなことは決して思わなかったけれど、冷凍庫の中から一本ずつ色違いで発見されるイメージだ。

世界的に入手困難であったが、2009年頃から状況は一変する。
当初一万円近くしたアイスクリスタルは、市場に溢れ、数百円程度まで下落した。
同時に小型化、形の多様化、質の低下が進んだ。
酸化鉄に覆われた茶色いアイスクリスタルもみかけるようになった。
多くは塊状の標本であり、「一本一本発見される」という表現はもはや使われなくなった。
いっぽう、欧米では100ドル以上が相場のようであった。
相場の下落は日本人業者による買い占めが原因かと思われたが、つい先ほど海外の相場を見たところ、日本と同程度にまで下落していた。
共通するのは、表面の酸化鉄。
内部が無色透明であることがわかるのは、表面のダメージゆえか。

アイスクリスタルを語る上で、①蝕像水晶であること、②C面が発達していること、③トライゴーニック(先端方向に対して▽の刻印、レコードキーパーの逆バージョン)が浮かび上がること、以上3点は欠かせない。
どちらも意識したことがなかったので、今更調べた。
C面とは鉱物の結晶構造に関する専門用語。
アイスクリスタルに関しては、トップもボトムも平らであるという特徴を指して使われた模様。
トライゴーニックについては未確認(本文下の写真左、下の方にいくつか小さく光る箇所?)だが、そもそもアイスクリスタルに上下はあるのかという疑問が生じる。

最も不思議なのは、過去のアイスクリスタルと現在主流となっているアイスクリスタルとの明らかな違いについてである。
相場は再び上昇している。
アイスクリスタルの発見されたヒマラヤの氷河は、さらに標高の高いところまで溶解が進んでいるらしい。
しかしながら、期待された蝕像水晶は、ある時を境に、いっさい発見されなくなってしまったという。

人類へのメッセージのオチがこれ?
光の歌が奏でる結末とは、これいかに。




41×17×16mm  12.82g

2011/11/25

パライバトルマリン


パライバトルマリン
Paraiba Tourmaline
Pegmatites of Laghman, Nuristan-Laghman, Afghanistan



1989年にブラジルのパライバ州で発見され、瞬く間に高価な宝石となったパライバトルマリン。
産出の激減に伴い、定義の見直しが行われた。
「銅及びマンガンを含有するブルー~グリーンのエルバイト・トルマリン(産地は問わない)」(2006年)
現在は以上のように定義されている。
ブラジルでは事実上絶産し、低品質の原石が僅かに残っている程度。
ナイジェリアやモザンピークから産出するエルバイト・トルマリンがカットされ、流通しているとされる。
しかしながら、ブラジルから初期に得られたような美しいブルーグリーンのトルマリンは希産で、色合いを整えるため加熱処理に頼っているのが現状という。

世の中には不思議なこともある。
原石の段階で美しいパライバカラーを示す、ブラジル原産のトルマリンが安価で大量に出回っているのである。
写真の石もそう。
以前から思っていたが、この感じ…
もしかしたらアフガニスタン産ではないか。
後日、販売元に確認した。
ブラジル産に間違いないとのことであった。(※本文下に追記あり)

ヒマラヤ山脈の西端を形成するヒンドゥークシュ山中に位置するアフガニスタン。
鉱物の採掘と販売は地元の人々が個人的に行っている。
政治情勢が不安定なため、海外のバイヤーが現地に立ち入ることは難しく、大半は国境を越えて密輸され、パキスタンのギルギットやペシャワール、若しくはペシャワールから約300キロほど離れたアフガニスタン・カブールなどで取引されているらしい。
ヌーリスタン州とラグマーン州の中間部に位置するペグマタイトからは、非常に質の良いエルバイト・トルマリンが産出する。
美しいパライバカラーを示すトルマリンも珍しくない。
産出そのものも多く、世界市場に占める割合の高いことが推測される。
同時多発テロにおける被害者感情による売り上げへの影響を危惧してか、アフガンを避けて譲らないアメリカ人業者は多い。

ヌーリスタン、ラグマーンともに、きな臭い噂が絶えない土地である。
現地は鉱物資源の宝庫。
トルマリンの他に、優れた品質のエメラルド、クンツァイト、ガーネットなどが産出することで知られている。
また、ベリリウムやポルサイト、タンタライトなどの資源が大量に眠っており、政府によって規制がかけられている。
これらの資源の意味するところ、それは殺戮に他ならない。
アフガンの鉱物に関する、大変ためになるサイト。
古い資料だが、いろいろな場面で見かけるので、目を通しておきたいところ。


この石がブラジル産でないことは確かだと思われるので、産地については "ラグマーンのペグマタイト" とおおまかに記した。
アフガニスタン産であることを明記の上、パライバトルマリンを販売している業者もある。
ラグマーンのメータルラムから産出したという、見事なバイカラーのパライバトルマリンを追いかけていくうちに、こんなニュースに行き着いた。

10月12日、メータルラム郊外で路肩爆弾の爆発により9人が死亡
http://www.bostnews.com/details.php?id=2807&cid=2

"mine" には鉱山、宝庫、地雷の3つの意味がある。
鉱山名で検索をかけたために、地雷関連の記事が出たわけだが、この2つが繋がる偶然に嘆かざるを得ない。
わずか3週間前、メータルラムで地雷による死者が出ている。
目を覆うような悲惨な出来事が、アフガンの美しい宝石のすぐ側で日常的に起きている。




【追記】

この標本に関して「色合いが濃く、パライバトルマリンと呼ぶのは疑問」との貴重なご意見をいただきました。確かに、本来のパライバトルマリンは水色に近い色合い、宝石質の場合は眩いネオンブルーの色合いです(写真)。


 
ブラジル・バターリヤのパライバトルマリン

冒頭で取り上げたトルマリンについては、パライバトルマリンではなく、「ブルーグリーントルマリン」(パキスタン産)として販売されている石である可能性が高いと考えられます。

残念なことに、これをパライバトルマリンとして販売している業者がいるのは事実で、小さくカットしてしまうと、ごく一般の人々が判断するのは困難です。
専門家にあっても、判断を誤るケースがあったようでした。
すべては宝石ディーラーさんの手腕と良心にかかっているといえるでしょう。
以上、アドバイスをいただきました宝石店代表・M様に心より感謝申し上げます。

見分け方としては、色合い。また、ブラジルに特有の鉱物かどうかが疑われ、かつアフガン近辺から多数産出がある鉱物(まんまですがラピスラズリの類い/文中に挙げた鉱物のほか、ピンクトパーズ、ハックマナイト、スフェーン、パープルスキャポライト等々)を列挙している宝石店にこの石が多く認められた場合、疑って良いと思います。(2011/12/30)
 

24×15×10mm  16.23ct

2011/11/22

ボリストーン


ボリストーン Boli Stone
Rub'Al Khali Desert, Saudi Arabia



鉱物で世界を一周している。
今回は、初のサウジアラビア上陸である。
写真にある白いクリスタルは、ボリストーンと呼ばれるニューエイジストーン。
アラビア半島の大部分を占めるルブアルハリ砂漠から、一つ一つ手作業で採取されているそうだ。
その正体はホワイト・カルサイト。

ユニークな形をしている。
本文下の写真左は正面の拡大写真、写真右は反対側の様子。
中央にみえる三角形の面。
裏側にはヘコミがあって、上からフタがしてある感じ。

ボリストーンがどのような状態で発見されるのかについては、わからない。
おそらく砂漠の表面近くから発見されるはずで、砂嵐に吹き飛ばされ、長い時間をかけて丸く磨かれていくものと思い込んでいた。
このように端正な犬牙状結晶で発見されるとは意外。
実際、ネットで紹介されていたボリストーンの多くは丸みを帯びていたが、中には犬牙状の結晶も存在するようだった。
ボリストーンにカルサイトの結晶面が残ることは、珍しくないのかも。
手を加えたような印象はないし、砂漠の砂らしき付着物やインクルージョンも確認できる。
ゆえに問題ない。
専門的なことはわからないので、これ以上触れない。

サウジアラビア、アラブ首長国連合、オマーン、イエメンにまたがるルブアルハリ砂漠。
発見されるのは、カルサイトだけではない。
動植物の化石や人骨、フリントストーン(石器)なども見つかっている。
ルブアラハリとは "空白" の意味。
現在は広大な砂漠が広がるのみだが、かつてはそこに文明があり、生命が暮らしていた。

2008年11月、ボリストーンは特別な使命をもって地球上に降り立った。
神聖なる光を宿し、人類のレベルアップを実現するべく登場したのである。
バトルフィールドアースって何?
印象としては、清涼感のあるラムネみたい。
降り注ぐ光は軽やかで明るい。
気分転換したいとき、勢いがほしいときに持つといいかもしれない。





18×12×10mm  2.00g

2011/11/20

アメジストエレスチャル(カボション)


アメジストエレスチャル
Amethyst Elestial Quartz
Karur, Tamil Nadu, India



淡いスモーキークォーツに浮かぶアメジストの色合い。
ゲーサイトの細い針状インクルージョン、レピドクロサイトの欠片が漂い、ひとつの宇宙を創り出す。

カポジョンカットされた南インド、カルールのエレスチャルアメジスト。
時にスーパーセブン(セイクリッドセブン)の偽物という汚名を着せられ、南インド産スーパーセブンの名で販売されている気の毒な存在。
市場に登場したのは2004年頃だといわれている。
私が石に興味を抱いた2006年頃には、既に南インド産スーパーセブンとして販売されていたと記憶している。

カルール産のエレスチャルアメジストは、ブラジル・エスピリトサント産のいわゆるホンモノのスーパーセブンよりも透明度が高く、アメジストの色が濃い。
カットするとよりいっそう輝きが増す。
むしろ聖なるインドの水晶として、単体で評価されて然るべき存在である。
実際、欧米にはインド産アメジスト・エレスチャルとして評価、販売しているヒーリング系のショップも存在する。
しかし、スーパーセブンとしてそれらを販売する業者が現れたという噂も聞こえる。

カルールはバンガロールの南、白檀の産地として有名なマイソールの近く。
私はインドでは、ゴアからバンガロールを経由してチェンナイ(マドラス)に出てしまったので、残念ながら立ち寄ることはなかった。
付近のローカルな街には滞在したから、だいたいの雰囲気は想像できる。

南インドの乾いた鉄道の駅。
色鮮やかな衣服を身にまとった女性たち。
生活する人々の中に溶け込む寺院。
おだやかに流れる時間。
真っ青な空。
至るところに神々が顔をのぞかせる。
南国の植物、ココナッツ、遥か彼方に広がる畑。
もう12年も前になるとは思えないほど、生き生きと浮かんでくる光景。

長い間使っていなかったバッグから、コロリと出てきたカポジョン。
初めて行った新宿のミネラルショーで、インド人ディーラーから購入した。
つい先日、仕事中に見つけて和んだ。
来年の終わり、インドへ行く。
12年前に決めたこと。
流れに任せる、それだけだ。


25×20×7mm  75.76ct

2011/11/19

ジョウハチドーライト


ジョウハチドーライト
Johachidolite
Pyan Gyi Mine, Sagaing, Mandalay Division, Myanmar



北朝鮮から発見された、究極のレアストーンをご存知だろうか。
その名もジョウハチドーライト(ジョーハチドーライト/上八洞石)。
世界を仰天させ続ける北朝鮮は、鉱物の世界でも世界を仰天させていたのである。

北朝鮮の上八洞にて最初に発見されたのがネーミングの由来。
その名前から日本原産の鉱物かと思い込んでいたが、発見したのが日本人研究者だったため、日本語読みになっているとのこと。
世界各地から様々な鉱物が発見されているが、朝鮮半島といえば、有名なのは韓国のアメジストくらいで、北朝鮮の鉱物など未知の領域。
こちらの標本も北朝鮮産ではなくミャンマー産。
北朝鮮は、希産鉱物の宝庫、ロシア・ダルネゴルスクから500キロほどの位置にある。
何か面白い石が出てきてもおかしくない気はするが、将軍様は鉱物より爆弾や怪獣のほうがお好き(だった?)らしいから、資源として認識される程度なのかも。

ジョウハチドーライトの発見は1942年。
まさに大東亜戦争のさなか、北朝鮮は日本の支配下にあり、多くの日本人が北朝鮮に渡っていた。
現地を調査していた岩瀬さんと斉藤さんが、ジョウハチドーライトをたまたま発見。
戦後、その存在は半ば忘れられていたようだが、1999年にミャンマーから同じものが産出することが明らかになったという。

※戦争についてはサッパリなので、wikipediaをご参照ください。

長らく幻の鉱物として崇拝されていたジョウハチドーライト、2008年頃から流通が増え、レアストーンハンターたちの間で専ら話題となった。
カットされてコレクション用の宝石として流通しているほか、写真のような原石も比較的安価で入手可能。
なお、発見時は白い粒状だったとのこと。
ミャンマー産は無色透明~オレンジと、色合いに幅がある。
こちらは、鮮やかなオレンジのジョウハチドーライトに、褐色のマイカと紫のハックマナイトが彩りを添える豪華な標本。
透明感あふれる美しい結晶で、鑑賞にも十分耐えるクオリティだと思う。

ミャンマーではコンドロライトであると誤解され、存在は知られていたものの、長い間誰も気づかなかったらしい。
見た目はコンドロライトそのもの。
どちらも希少石に変わりないので、これ以上は触れない。

ミャンマーは宝石の国。
産地付近は希少石が多く産出することで知られ、宝石の採掘もさかんである。
それが幸いしてか、北朝鮮の幻のレアストーンは、伝説のまま消えることなく今に至っているのである。
まさに鉱物界のプルガサリ。
遥かなる北朝鮮の風を(ミャンマー経由で)感じていただきたい。


30×23×21mm  14.98g

2011/11/15

幻のアイオライト


幻のアイオライト
Hematite & Pinite in Cordierite
Akland, Aust-Agder, Norway



長い間正体のわからなかった石。
アイオライト×サンストーン×フェルドスパーの名前で売られていた。
オレンジ、レッド、パープル、ブルーグリーンの鮮やかな色合いが混在し、ヘマタイトのインクルージョンがキラキラ輝くさまは、スペイシー&サイケデリック。
同じ頃に登場した、ヘマタイトのインクルージョンを含む "アイオライトサンストーン" のほうはパワーストーンとして認知されるに至ったが、こちらのほうは消えてしまった。

産地はノルウェー。
高速道路の工事中に発見され、その完成とともに姿を消した幻の石。
アイオライト、サンストーン、フェルドスパーの3つの鉱物から成り、3つの鉱物の相乗効果で、サードアイとクラウンチャクラを活性化させ、シャーマニックな感性を刺激する。
どこかで聞いたことのある謳い文句である。

フェルドスパーとは長石のこと。
サンストーンは、大雑把にいうと、長石に含まれた微細なヘマタイトが光の反射を受けて輝く(アベンチュレッセンス)ものをいう。
しかしこの石の場合、アイオライトに含まれたヘマタイトのアベンチュレッセンス。
主役はフェルドスパーではなく、アイオライトではないか。
素人ゆえ、それ以上の追求は避けた。

このさい、折角の機会なので調べてみた。
もしかすると正体はコレ?
http://www.mindat.org/photo-264888.html

文中ではコーディアライト(アイオライトの鉱物学名)の一種として紹介されている。
ノルウェーからは美しいコーディアライトが産出する。
2002年、道路工事の際に、コーディアライトの変種とみられる鉱脈が何箇所か発見された。
その中にレッド、バイオレットブルー、グリーンの組み合わせを持つ岩石があり、研磨品となって流通した、とある。

この石の正体についてまとめると、ベースはアイオライト・サンストーン。
グリーンの部分はピナイト(Pinite/ピニ雲母)。
ピナイトのインクルージョンによる淡いシラーが、この石の輝きをよりいっそう引き立てていると考えられる。

ピナイトとは、アイオライトの仮晶にあたる鉱物。
アイオライトはしばしばピナイトに変化する。
聞きなれない名前だが、実は国産鉱物にその姿を見ることが出来る。
京都府から産出する桜石がまさにそれ。
桜石とは、京都府亀岡市(及び京都府南部など)の岩石中に生じる青緑色の結晶で、「菫青石(アイオライト)仮晶」として天然記念物に指定されている。
母岩から分離したものを千歳飴のようにスライスすると、石に咲いた桜の花のように見えるため、当地の郷土品として古くから知られている。
お世話になっている鉱物店のオーナーと昨日お話していて、桜石が話題となり、それがアイオライトに属することを知ったばかり。
私はあの石がどうしてもダメなのだ。
京都=桜とかマジ勘弁して欲しい。

「京都っぽさ」を求めて全国から人々が集まる。
住んでいる人間にまでそのイメージを当てはめようとする人たちがいる。
舞妓さん芸妓さん神社仏閣紅葉花見侘寂陰陽師殺人事件アカデミックアングラアヴァンギャルド一見さんお断り…
京都出身の自分には、違和感がある。
実は鉱物の聖地としても知られる京都。
お守りに桜石を持ち歩いている京都の人間を私は見たことが無い。

絶対に触れてなるものかと、心に決めていた。
おそらくもう手元にあって、私はそれをずっと大切にしていた。
他に見かける機会はなく、この石の正体がはっきりわかったわけではないが、遠くノルウェーから届いたこのアイオライトは、桜石の親戚にあたる鉱物だと考えられる。
灯台もと暗しとは、こういうことを言うのかもしれない。


40×36×22mm  37.01g

2011/11/11

アゼツライト/ローゾフィア


アゼツライト/ローゾフィア
Azeztulite & Rosophia
From Mr.Robert Simmons



アゼツライト、名も無き光。
鉱物というよりは、形而上の概念である。
ニューエイジストーンの発掘・普及に貢献してきたHeaven&Earth社の代表作。
既存の鉱物に独自のネーミングを与えることで知られる。
その反響の大きさゆえ、著名人からの反発の声も聞かれるほどであった。

今でこそ人気は安定した感があるが、業界のリーダー的存在であり、一部の人々にとっては神であり、パワーストーンブームを支えた偉大なる存在である。
代表でクリスタルヒーラーでもあるロバート・シモンズ氏の写真を掲げ、アゼツライトを販売するショップが後を絶たない。

今回はアゼツライトと、ロバート・シモンズ氏にまつわるエピソード。
2009年2月、米アリゾナ、ツーソンミネラルショーにて。

***

ツーソンショーも終わりに近づき、安宿に滞在する不幸な女たちは、博物館へ出かけていった。
私も誘われたが、どうせ女性の自立やらDVやらの話になるだろうから、一人で会場をまわることにした。
IDカードは台湾人に借りた。
これで業者割引が効く。

まだ見ていない会場は一つだけ。
リムジンバスから降りると、なにやら怪しい香りがする。
肌の黒い少年が、ジョイントを片手に、カゴを売っている。
「マリファナか?」と聞いてみる。
「そうだ。お前もどうだ」と少年。
荷物を持ち帰るのに丁度いいカゴだった。
一番大きなものを購入した。

あたりを散策していると、同じ宿の女性に遭遇。
なにやってんの、と言われたので、石を見ていると答えた。
彼女はアクセサリーを売っていた。
私のベッドの下に、持ち主のわからないダンボールが乱暴に積まれていて、足の踏み場がなかった。
中身はアレだったのか、と納得。
投げやりな荷物の扱いが、常にヒステリックな彼女らしくて、可笑しかった。

奥の建物には、ニューエイジ系のショップが集まっていた。
セージの束に、怪しげなお香。
いかにもなお姉さんがいろいろ説明してくれるのだが、石の産地などについて尋ねると、○○の近くなどといった曖昧な返答。

H&Eのブース。
たくさんのお客で賑わっている。
お馴染みのワイヤー・ペンダントもズラリ。
足元には、しゃがみこんで必死にそれをカゴに入れている日本人バイヤー2人組。
うっかり踏むところだった。
ツーソンで日本人と出会ったのは初めて。
向こうも気づいたので、挨拶した。
「今日の2時で終わりですよ。私たち急いでいるので!」と、素っ気ない。
時計は11時過ぎ。
私は奇跡的に、H&E社のショーに間に合ったのだった。

フロアで色とりどりの石を眺めていると、女性が親しげに近づいてきた。
ロバート・シモンズ氏の奥様だった。
シモンズも後で来るかもしれないとおっしゃる。

ほどなくして、シモンズ氏が登場。
当時の日記には、石の聖地に君臨した神、とある。
それくらいの衝撃だった。
喩えるなら、日展で天皇陛下に会った時、もしくはインドのマハ・クンブメーラにて、目下話題になっていた尊師と食堂で会った時くらいのインパクト。

アメリカ人のオバチャン達がサインをねだりに群がる。
日本人にしかウケないと揶揄する人もいるが、現地でもかなり人気があるようだ。
ボーっとながめていると、シモンズ氏がこちらにやってきた。
親日家であることは知っていた。
台湾人のIDカードを付けているにも関わらず、私を日本人だと思ってくれたようである。

いろんな話をした。
私にはどんな石が必要かという問いに、シモンズ氏が出してきてくれたのが、ローゾフィア(赤いほうの石)。
氏が最初に発見し、インスピレーションを受けたという、大きな塊状の原石だった。
触るよう言われ、目を閉じて手を当ててみる。

H&E社から先月発表されたばかりのローゾフィア。
いくつか紹介された新商品の中では、私の一番のお気に入りだった。
フェルドスパーとクォーツから成るありふれた石ではあるのだけれど、アゼツライトを初めて手にしたときくらいの高揚感があった。
その最初のインパクトが目の前にある。
愛に関連する石だと思っていた。
それはおそらく他者の存在しない孤独な愛。
愛を知らず、生まれ、育ってきた人生。
彼らは人を愛せないばかりか、自分自身を愛することも知らない。
1から覚えるのではない、0から考えるのだ。
他人が理解させることではない。
本人がそれに気づくまで、旅は続く。
「君にはハートに欠けている部分がある。この石を持つといいだろう」とシモンズ氏は私に言った。

愛を知ったとき、人は普遍的な真実に一歩近づく。
心の奥に眠っていた無限の可能性が次々に開花し、別人のように輝くのである。
もちろんそれで終わりじゃない。
人生の最後の瞬間まで、その歩みは続くのである。

シモンズ氏からアゼツライトとローゾフィアのさざれを一連ずつ、奥様からはハートのモチーフをプレゼントしていただいた。
これをリーディングして送るようにと、メールアドレスまで受け取った。
石のリーディングなどやったことがない。
後日、仕方ないので感想を送った。

さきほどの日本人バイヤー2人。
引き続き血眼になりながら、カゴに商品を詰め込んでいる。
ローゾフィアも入ってる。
目の前にシモンズ氏がいるのに、どうして見えないんだろう。
そんなことを思ったショー最終日。
明日はいよいよクライマックス、ツーソン・ミネラルショーだ。



夫妻と一緒に証明写真

ハートのモチーフ 25×7mm  32.7g~34.1g

2011/11/08

フェアリーストーン


フェアリーストーン Fairy Stone
Harricana River, Abitibi, Quebec, Canada



UFOみたい。
そっとあの人のデスクに忍ばせておきたくなる、地蔵色のストーン。
カナダではフェアリーストーンと呼ばれてお守りにされているらしい。
日本風にいうと、座敷童子石?
コレは流石に言われてみないと価値がわからぬ。

フェアリーストーンの誕生は、カナダがまだ湖の底だった氷河期。
湖底において積もり積もった泥や有機物の化石などが、長い時間をかけて石になったものだといわれている。
フェアリーストーンはカナダ・ケベック州、Harricana川から、このままの姿で見つかるのだそうだ(思わずシヴァリンガムを思い出してしまった)。
色目はライトグレーというか地蔵色。
一見すると路傍の石だが、形に規則性があるので見分けがつく。
写真に見える、白い輪のようなくぼみもそのひとつ。
この円がひとつだけのもの、2つも3つもあるもの、くっついて変形してしまったものなど、さまざまなタイプの原石がある。

現地の先住民族・アルゴンキンたちの間では、狩りの成功をもたらす幸運の石とされたほか、恋人への贈り物として、また災いを遠ざけるお守りとして大切にされてきたらしい。
フェアリーストーンの産出する「Harricana」の川の名は、アルゴンキンの言葉で、"ビスケットの川" という意味。
確かにビスケットに見えないこともない。
釣りの最中にこの石を見つけたときは、さぞ嬉しかったことだろう。
獲物が釣れた方が嬉しい人が多かったような気もするけど。

なぜ平たく滑らかな円盤形で発見されるのか、また円を描いたようなくぼみが刻まれている原因については、謎。
粘土質の土壌と特殊な地形ゆえに、この石が形成される条件が揃っていったのではないかという説があるようだが、詳しくは誰も調べていないようだ。
カナダのケベック北部でしか見つからないというのは確かに不思議。
似た名前にフェアリークォーツがあるが、表面に白く微細な結晶を伴うサボテン水晶の一種で、全く別の鉱物になる。

そんなフェアリーストーン、近年ヒーリングストーンとして注目され、日本にも入ってくるようになった。
この石は、某オークションをながめていているときに、たまたま目に留まったもの。
オークションというのは実にやっかい。
ジャンルを問わず「偽物の流通はオークションから」といわれて久しい。
鉱物についても例外ではなく、トラブルが相次いだ。
どの世界も同じこと。
慣れと、良い先輩とのご縁だと思う。
ちなみに、このフェアリーストーンを出品されていた方を、私は知っていた。
連絡先を聞いて驚いた。
向こうはなんとなくしかご存じないとのお返事。
遠く離れた見知らぬあなたのご住所、お名前が次々に私の記憶から飛び出してくるなど!
フェアリーストーンの起こした神秘?

たぶん、石を売っていただく側になったのは初めて。
私は単純に、再会が嬉しくて声を掛けただけだった。
ただそれだけだった。
個人情報の類いはいっさい残していないから誤解かもしれない。
思うところあって、このオークションで石を買うのは避けていたから、今まで出会わなかったのかもしれない。

数日後、薄い茶封筒にて届けられたフェアリーストーン。
なんだか申し訳ない気がして、愛用のお香に載せて、記念撮影。
後日、立ち寄った実家に忘れてきてしまった。
クリスタルヒーリングでは母なる大地の守護石といわれているが、私には地蔵菩薩の化身に見えてならない。
今頃は実家の座敷童子として活躍しているはずである。


27×22×8mm  6.97g

2011/11/05

モルダバイト


モルダバイト Moldavite
Moldau River Valley, Czech Republic



もはや知らない人はいないだろう。
パワーストーンとして、ヒーリングストーンとして、レアストーンとして、誰もが一度は憧れ、手にしたことがあるはず。
隕石の衝突に伴って生み出されるインパクトグラス(テクタイト)。
その存在価値を世に広めたきっかけが、モルダバイトだと思っている。

モルダバイトは、約1500万年前にドイツに落下した、リース隕石の衝突に伴って生成されたインパクトグラス。
1836年に命名された当時は、隕石だと思われていた。
インパクトグラスの大半は黒く不透明な塊。
透明感に富み、美しい深緑を示すモルダバイトは文字通り異色の存在であった。
ニューエイジ方面から火がつき、世界中から注目されることとなった。

私が石に目覚めたとき、既にモルダバイトは人気商品として定着しつつあった。
かなり初期の段階で偽物が出回っていることを知り、驚いた記憶がある。
モルダバイトはいわば天然ガラス。
人工的に作るのは実に簡単なことだった。
特にカットストーンやビーズ。
以前から微妙な色合いのモルダバイトをよく見かけたが、今ほど高くはなかった。
モルダバイトの市場価格は上がるいっぽう。
産出が激減し、今後十年以内に枯渇するともいわれている。

ここで、意外に焦点の当たらないモルダバイトの原石について取り上げてみたい。
写真は手持ちのモルダバイト。
どれが一番お好きだろうか。
大きさでいえば、左上が一番。
形のユニークさでいえば右上か。
右下は可も不可もなく、ゴーヤっぽいといったところ。

実はこの3つの原石のうち、一番良しとされるのは、実は右下のゴーヤ。
流れるような模様が立体感をなしているものは、概ね好まれる。
右上の筒状の原石も面白いが、意外に評価は普通。
左上は加工用。
シダのような模様が放射状に広がり、あたかも花のようにみえるモルダバイトは、「フラワーバースト」と呼ばれ、希少価値が付く。
博物館級と称される最高級品だ。

加工してしまえば、元の形など無関係。
ビーズのクオリティよりもわかりやすく、かつ入手困難なモルダバイトの原石たち。
この機会に探してみてはいかがだろう。
もう時間がないから、お早めに。


39×30×8mm(最大) 18.64g

2011/11/03

フローライト(カラーレス)


フローライト Fluorite
Nikolaevsky Mine, Dal'negorsk, Russia



有名なロシア・ダルネゴルスクのフローライト(蛍石)。
すりガラスのような繊細な質感を持つ、カラーレスの単結晶。
いくつか集めたが、これが一番のお気に入り。
表面には、蝕像水晶と見紛うような、神秘的な模様がビッシリ刻まれている。

フローライトにはさまざまな色合いがある。
発色の原因は微量元素などによるもので、純粋なフローライトは無色透明となる。
珍しいと思うかもしれない。
極東ロシア・ダルネゴルスクから産出するフローライトの多くは、色が付いていない。

フローライトには、八面体結晶と六面体結晶がある。
ダルネゴルスクのフローライトは、なんだかよくわからない。
私の手元にあるものは、ほとんどが多面体。
丸みを帯びている。
ミャンマーやインドから出る、完全な球状の結晶体とは違う。
多面体すぎて丸くみえるとでも言おうか。
この標本はかろうじて八面体結晶だと思われるが、裏面は干渉の跡がみられ、複雑に入り組んだ形状となっている。
現地からは、一般的に六面体結晶(四角形)が産出するといわれているが、どちらとも言えないような気がしている。

水晶をはじめ、フローライトやカルサイトなど、世界でも稀に見る特異な容姿、色合いを呈する鉱物が、ここダルネゴルスクの特産品なのだ。
偶然ではなく、必然的にできているようであるからして、不思議でならない。
ダルネゴルスクは、広いロシアの外れに位置する。
最寄りは中国/北朝鮮である。
最寄り駅は198km離れたチュグエフカで、終点らしい。
豊富な資源に恵まれ、鉱山の町として発展したが、公害は免れず健康被害が深刻化した。

物憂げな空気。
しんきくさい土地。
そんなダルネゴルスクの情景とともに、名物のフローライトをアップでお楽しみいただきたい。




37×25×22mm  18.52g

2011/11/01

エクリプス/マスタードジャスパー


エクリプス Eclipse Stone
The Voccanic Areas, Java, Indonesia



エクリプスとは皆既日食の意味。
不思議な模様と珍しさに惹かれ購入したものの、正体がわからない。
購入元に詳細を問い合わせてから、どれくらい経つだろう。
いまだ返事がない。

2009年7月22日、日本では46年ぶりとなる皆既日食が観測された。
のりぴー夫妻が逮捕される直前、それを見るべく奄美大島に渡っていたことが話題になった。
私も危うく踊りに行くところだったので、大雨で中止になったことは今でも覚えている。
あの頃、アメリカのヒーラーの間では、このエクリプス・ストーンが話題になっていたそうだ。
日本のショップでも取り扱いがあり、現在も入手可能である。
ただ、この石に関する情報が少ないせいか、どこも同じ説明をしている。
まとめると以下のようになる。

  • 2009年7月の皆既日食のさい、海外のヒーラーの間で話題になった
  • 皆既日食にちなんで、著名なヒーラーがエクリプスと命名 
  • アメリカの鉱物誌の表紙になった
  • カボション・カットが一般的(ビーズや原石は無し) 
  • インドネシア産
  • 非常に珍しく、入手困難

2009年夏、自分はもう石の世界にはいなかった。
エクリプス・ストーンが盛り上がっていたかどうかは分からない。
現在も多くの流通があり、入手困難とは言い難く、命名したヒーラーも特定できない。
また、エクリプス・ストーンが表紙を飾ったというアメリカの雑誌というのは、どうも米・ツーソンショーで配られたフリーペーパーのようである。
つまるところ、よくわからん。

出会いは忘れた頃にやってくる。
2011年、秋の京都ミネラルショー。
石の模様に並々ならぬこだわりを発揮する連れが、ある石に反応した。
黄色にダークブラウン、産地はインドネシア。
怪しい。
模様が違うが、絶対に怪しい。
そう思って探したら、エクリプス・ストーンと全く同じ模様の石が出てきた。

ところが、店の人は、これはあくまで「マスタードジャスパー」という石だという。
初めて聞く名前。
連れは手を止めて、不思議そうな顔をしている。



マスタードジャスパー
Mustard Jasper
The Voccanic Areas, Java, Indonesia



こちらは今回参考に購入したマスタードジャスパー。
微妙である。
危険区域に立ち入るみたいな、心穏やかでない配色が特徴だ。
連れがいなかったら、確実に通り過ぎていた。
ただでさえ節約志向の連れが、気に入って2つも購入していたのが不思議でならない。

お店の人はヨーロピアンで、"Eclipse" が通じなかった。
太陽と宇宙の説明をしたらわかってもらえた。
「ああ、同じだよ」とのこと。
千歳飴の原理で、縦方向にスライスしたのがマスタードジャスパー、横方向にスライスするとエクリプス、要は切断方向が違うだけ。
閑散としたブース。
ヨコにスライスしておけば、売れただろうに。

天然のアゲート、ジャスパーの収集が盛んな欧米市場とは異なり、日本では石になんらかのご利益を付けないと苦戦を強いられる。
ちなみにマスタードジャスパーのほうは千円でおつりが来る。
まさかと思うが、注意していただきたい。

詳しいお話を伺った。
マスタード・ジャスパーは、オーピメント(雌黄)、マンガン、シリカ、火山灰などから成るジャスパーの一種。
イエローの部分がオーピメントだと思われる。
エクリプスとはよくひらめいたものだ。
マスタードジャスパーであれば買わなかった。
産地がジャワ島であろうということは予測していたのだけど、火山灰が鉱物(おそらく化石の類いか)に変わるほどの火山地帯で、それが現在まで続いているとは。
火山性オブシディアンの産出国だけあって、インドネシアの火山は半端ないようである。

インドネシアの首都、ジャカルタのあるジャワ島には多くの人々が暮らしているが、現在も広い範囲で火山活動が盛んであり、付近は大地震多発地帯として知られている。
断続的に火山の噴火が起き、被害が出ている模様。
報道を全くみないので、具体的にどういう状況なのかはわからないが、現在も予断を許さない状態のようだ。

参考:世界中の天変地異を事細かにまとめたサイト
http://macroanomaly.blogspot.com/2010/04/blog-post_18.html

もし、エクリプス・ストーンが2009年以前に採取されたもので、もう採りに行けないのだとしたら、確かに貴重だといえるが、果たして真相は。
宇宙と地球、空と大地、蔭りゆく太陽、そして天変地異。
すべてがこの石に集約されている。
どこか暗示的な存在といえるかもしれない。


28×16×6mm  21.46ct

今週、話題性が確認された10の鉱物

What Mineral Would You Take with You to A Deserted Island?