2012/02/22

フォンセンブルー


フォンセン・ブルー
Vonsen Blue Jade
Vonsen Ranch, Petaluma, Marin Co., California, USA



南の島の海を思わせる、穏やかなブルーグリーン。
パシフィック・ブルー・ジェイドの別名にも納得がいく。
古風にいえば、納戸色といったところだろうか。
発見者であるマグナス・フォンセン氏に因んで、フォンセン・ブルーと呼ばれることが多い。
ロシアから産出するダイアナイトに似ていることから、同じものかどうか問い合わせたのがきっかけでその名を知った。
販売先も詳細をご存じなく、卸元からの情報でわかったもの。
当時送っていただいた文章を以下に引用させていただく。


かつてアメリカで活躍したミネラル・ハンター、フォンセン氏が、1949年にカリフォルニア州ペタルマ付近の牧場で発見した、フォンセン・ブルーと呼ばれるネフライトジェイドの一種です。
農場主が頻繁な立ち入りを許可しなかったため、採掘はほとんど行われませんでした。
最近になって農場主が代わり、手掘りで採取が進められ、市場に出回るようになったとのことです。

見た目はそっくりだが、ダイアナイトとは別の鉱物。
かつてダイアナイトを知っている人は少なかったが、フォンセン・ブルーを知っている人はもっと少なかった。
現在も国内でほとんど流通がないのが不思議なくらい。
ブルージェイドもそうであるが、ピンクジェイド、パープルジェイド等々、ジェイドではない天然石を使った染めビーズが多く流通し、市場は混乱している。
或いは、ダイアナイトと混同されているのかもしれない。

鉱物としてはさほど珍しいものではない。
ネフライトの一種である。
成分は主にトレモライト(透角閃石)。
他にサーペンティン類を含み、青い色はアルミニウムに由来するとされている。
原産地、アメリカでは安定した人気があるようだ。
アメリカから良質なネフライトが産出する例は意外に少なく、色合いの珍しさもあって、けっこうなお値段が付いている。

平和を象徴し、持つ人を深いリラックス状態に導くとして、ヒーリングストーンの扱いを受けていることもある。
ダイアナイトとの共通点を感じさせるこの石が、熱心な鉱物収集家によって発見され、価値を与えられたという事実は興味深い。




アメリカで活躍したミネラルハンター・フォンセン氏は、イケメンである。
酪農家の出身で、研究者ではない。
新鉱物の発見、研究や出版にも貢献した彼だが、鉱物の知識についてはほぼ独学だったという。
日々採取に明け暮れる彼のコレクションはとどまるところを知らず、膨大なコレクションを保管するため、自宅のとなりに自宅(保管用と展示用)を建てたほど。
フォンセン氏の収集した鉱物は、アメリカで最も素晴らしいコレクションの一つとして、現在も高い評価を受けている。


ドイツ・ミュンヘンショーで展示された氏のコレクション
http://www.the-vug.com/vug/article111.html


34×25×15mm  14.98g

2012/02/18

ストロベリークォーツ(& チェリークォーツ)


ストロベリークォーツ
Strawberry Quartz
Djezkazgan, Bektau Hills, Chemkent, Kazakhstan



盛り盛りいちご。
ストロベリークォーツと呼ばれる水晶は数あれど、元祖ストロベリークォーツといったらこれ。
カザフスタン産出のこのクラスターは、いちご女王の座に君臨して久しい。
その希少性、美しさから、収集家にとっては憧れの存在となっている。
赤い色合いは、水晶に内包されたゲーサイト(針鉄鉱)による発色とされる。
切断して研磨すると、中央に向かって赤~白のグラデーションとなっていることが多く、まるで本物のいちごのよう。

少し前までは数万もの貴重品だった。
幾度となく見かけたが、購入は後にも先にも一つだけと決め、見送っていた。
念願のストロベリークォーツをようやく手に入れたのは、昨年の終わり。
五千円まで下がっていたので、決断に踏み切った。

カザフスタン産ストロベリークォーツは、先端にかけてスモーキーの色合いが入っていることがある。
まるで、少しいたんだいちご。
果物は新鮮がよろしい。
写真ではやや赤みが強く映っているが、現物は素朴な色合い。
研磨し樹脂でコーティングして外観を整えた標本が、これまでの主流だった。
昨今の原石標本は未加工品に価値を置かれているよう。
美しく自然でとてもいい。
ダメージのある個所もみられるが、気にならない程度。
むしろ険しい道のりをよく耐えたものだ。

ストロベリークォーツはカザフスタンの標高四千メートルもの山岳地帯から産出するという。
採掘には困難が伴い、険しい山道を経て、馬を使い街まで運ばれているそうだ。
立ち入れるシーズンは限られているとのこと。
現地の情勢は決して良好とはいえず、採掘がいつ中断されてもおかしくない状況ともいわれている。

ストロベリークォーツと呼ばれる水晶は他にも存在する。
ブラジルやマダガスカルなどから産する、ハーレークインクォーツ、ファイヤークォーツと呼ばれる水晶がそう。
外観と価格で判断できるから、一通り見て目を鍛えておこう。
時にはクォーツと呼べないものも混ざっている。
アヴェンチュリン(クォーツァイト/岩石)やマスコバイト(雲母)、中国製のチェリークォーツ(グラスビーズ)などがストロベリークォーツとして流通している。

中でもチェリークォーツは呪われた石。
というのも当初、チェリークォーツが天然石として紹介されたために、誰もがそれを信じてしまったのだ。
「美しいチェリーピンクの水晶」はすぐに注目を浴び、高い人気を得た。
その正体が明らかになったとき、誰もが唖然とした。
チェリークォーツを取り扱った多くの業者が損害を受け、廃業する者も少なくなかった。
当時の在庫は未ださばけておらず、グラスビーズとして二束三文で流通している。
天然石と明記している場合はお店の人に聞いてみよう。

日本に偽物が集中するのには訳がある。
たぶん仏教国だからだろう、数珠が大いに好まれるのである。
石がビーズに加工される場合、専門家でも真偽の見分けは難しい。
原石を見れば一目瞭然なのに、原形をとどめていないのだから。
男女問わず数珠に走るのが不思議でならない。
ビーズに本物を求めるなど、滅茶苦茶だ。
宝石と異なり、すべてを鑑定することができない(サンプルのみの鑑定になる)から、リスクは高まる。
あなたのそのブレスがカザフスタン産のストロベリークォーツで作られたものなら、べらぼうに高かったはず。
ゆえに、より一層のご利益が期待できる。
信じる者は救われる。
ストロベリークォーツは、チェリークォーツの被害に遭われた犠牲者への祈りを捧げるにふさわしいパワーストーンであるといえよう。


40×35×22mm  33.68g

2012/02/16

スギライト


スギライト Sugilite
Karahali Mn Field, Northern Cape, South Africa



パワーストーンブームに火を着けた重要な鉱物。
日本人が最初に発見した高貴な紫色のヒーリングストーンとして紹介され、定着している。
和名の杉石は発見者の一人、杉博士に因むもの。
スギライトの名がそこから来ているのは有名なエピソードである。

前回のラリマーチャロアイト同様、今となっては懐かしい「世界三大ヒーリングストーン」のひとつ。
90年代後半、クリスタルヒーラーのジェーン・アン・ダウ氏(2008年没)に見い出され、ニューエイジの石として紹介されたのがきっかけで、世界的に注目を集めることとなった。
浄化要らずのマルチパワーを発揮し、敏感な人は石酔い(石のパワーにより飲酒したように酔いがまわる状態。いかに優れた感性の持ち主かということを示している)するといわれている。
しかし、どうも最近見かけない。
日本最大のスラム街でも話題になるくらい人気のパワーストーン・スギライト。
もしこれが実体のないものだったとしたら、皆様はどう思われるだろう。

賢い主婦は、見た目の良い野菜より、見た目は悪くとも安全な野菜を買い求める。
同様に賢い消費者は、見た目にこだわらず、本物のスギライトを買い求め、そのパワーを享受する権利がある。
しかしブレスの場合、同じ色合いで統一しなければ、商品としての見栄えが悪く不利になる。
天然石においては非常に難しいことなのである。

スギライトには本来、これといった色味はない。
紫のほか、白や黒、赤や青、グレーなど、色合いには幅がある。
要は紫色とは限らない。
しかし、紫の石として定着してしまった以上、売り手は考えうる限りの手段を駆使し、紫のスギライトを販売せねばならない。
そのため「紫の天然石=スギライト」という大胆かつ分かりやすい売り方が常識となっていく。
消費者は、不自然なまでに紫なビーズをふんだんに使用した「スギライト」のブレスを、言われるがままに買い求めた。
いっぽうで本物のスギライトが偽物扱いされるなど、事態は混乱を極めた。

南アフリカから美しい紫のスギライトが産出していたのは確かである。
ただし、色は紫だけではなかったようだ。
いつ頃からスギライトが別のモノに切り替えられたかについてはわからない。
自分はスギライトは原石しか扱った記憶がない。
4年程前には既に、怪しい気配が漂い始めていたような気がする。
恩師さえもトラブルに悩んだと聞かされた。
現在も入手可能なスギライト製品の多くは、パープルジェイドとよばれる石の類いであろう。

原石のほうはまだ流通があるけれど、スギライトのブレスは最近見ていない。
もしまだ紫のみの石で統一された商品を販売しているところがあれば、怪しいと思っていいだろう。
混ざりけのない高貴な紫。
「石酔いで頭がボーっとする、触ると手が痺れるようだ」
誰もが口を揃えてこう言った。
大いに崇められた気高い紫の石は、人の手によって創られた幻想に過ぎなかったのである。

なお、1942年に愛媛県で杉博士らによって発見された最初のスギライトは、淡~いミントグリーン(wikiでは「うぐいす色」表記)であったという。


15×10×5mm  1.51g

2012/02/12

ラリマー


ラリマー Larimer
Barahona, Dominican Republic



ドミニカ共和国から産出する、カリブ海の青い宝石、ラリマー。
ラリマー(ラリマール)とは現地での呼び名で、正式にはブルー・ペクトライトという。
「三大ヒーリングストーン」の一つとして、スギライト、チャロアイトとともに人気を博した。
中でも美しいスカイブルーのラリマーは、愛と平和、人と自然との調和を象徴するパワーストーンとして、誰もが憧れた人気商品だった。
先日、大阪市N成区のスラム街にある違法露店でラリマーのブレスを見ていたら、店主から「それは世界三大ヒーリングストーンだ」と声を掛けられた。
我に返った。
そういえば最近聞かない。
スギライトはその存在すら危ういし、残りの二つは枯渇寸前。
かつての謳い文句も、それらが幻とわかった今、死語になりつつあるのかもしれない。

写真のラリマーは、荷物を整理していたら偶然出てきたもの。
発送のために梱包して段ボールに仕舞ってあった。
こげ茶色の母岩の中に柔らかな質感のラリマーが詰め込まれているさまは、巨大なキウイを思わせる。
スライスした研磨品は今も流通があるが、こうした未研磨(割ってはあるかも)の原石は滅多に見かけなくなった(スライスについては本文下に写真を掲載、二つで約五百円。この状態では、私には本物か偽物かは判別できない)。

ペクトライトは世界各地から発見されているが、独特の濃淡を伴うスカイブルーのペクトライトは、ドミニカ共和国産のみ。
もともと希少性が高かったこと、また近年世界的に注目を集めたために、産出は激減。
発見から30年余りで枯渇の危機に晒されることとなった。
採掘現場はより危険な場所へと移っている。
噂では現場はもはや崖、らしい。
事実かどうかはわからぬが、転落事故による死者が相次いでいるといわれている。
人間と自然との調和を表す石、のはずだった。
最近では霊能力者がラリマーを見て「呪われている!」と大騒ぎすることも珍しくないという。

産出の激減とともに、価格は上昇を続けている。
ラリマーのブレスの販売価格は、概ね十万を越えている。
天然石の加工に関しては世界一の技術を誇る中国での需要の急増にも原因があるという。
また、質も低下している。
黒や赤など不純物の混在した原石、色味の無い原石は製品にならないため、改良される。

なお、新型(※偽物ではない)のラリマーがブレスになって登場している。
色は美しいスカイブルー。
しかし、不自然な水玉模様が均等に入っており、中まで透けて見える。
「質を落とした廉価版」との説明だったが、どうも充填処理(色合いや形を整えるために他の物質で補強するなどして、作り変えること)を施されているよう。
本来ラリマーは不透明で、海中から見上げた青空のような、変化に富む模様を楽しむものだった。
廉価版といっても決して安いわけではない。
池袋ショーで並んでいたそれよりも、雑貨店で選んだプラスティックのアクセのほうがモノとして自然に感じるのは、私だけだろうか。

アイスラリマーと呼ばれている模様。人工石、処理石の如何を明らかにせず、ばらまかれている状態とみられる。また、ブルーアラゴナイトが極めてラリマーににており、原石であっても見分けがつかないことには、十分注意したい。業者側の見極めと、良心にかかっているといえるだろう。

ペクトライトでない他の岩石が染色され、ラリマーとして流通しているという話は有名だが、加工技術のほうも飛躍的に向上している。
リスクの高い買い物になることは覚悟しておいたほうがいいかも。
できればビーズではなく原石をおすすめしたいけれど、こちらも質は落ちている。
発送しなかったのはわざと。
久しぶりに再会し、神妙な気分になった。




52×45×31mm  74.08g

2012/02/09

クリストバライト


クリストバル石中の鉄かんらん石
Fayalite, Cristobalite
Cougar Butte, Siskiyou Co., California, USA



鉱物の魅力を知った翌年、私は東京にいた。
初めて入った有名鉱物店で、最初に買った標本がコレだった。
どうしてこんな変わったものを選んだんだろう。
壮絶なインパクトを感じて手に取ったとしか思えない。

ざっと見たところ、この産地のクリストバライトは世界的に有名なようだが、鉱物標本としての取り扱いは意外に少なく、調べなければ出てこない。
忘れていてもおかしくない。
購入から5年経つにも関らず、手元にコレがあることははっきり覚えていて、先日ようやく見つけ出した。

説明しよう。
中央に見える白い塊が、クリストバライト(クリストバル石/方珪石)。
鉄かんらん石(ファヤライト)はこの塊のどこかにある…はず。
黒い部分はオブシディアン(黒耀石)で、今回はオマケである。
パワーストーンとしては、スノーフレークオブシディアンと呼ばれるものがこれにあたる。

オブシディアンは、溶岩が地表で急速に冷え固まって出来る天然ガラスの一種。
それに加え、溶岩に含まれるシリカ成分がクリストバライトとなり分離した結果、このような物体が生成されるらしい。
クリストバライトと水晶は同じ成分でできている。
運命を分けるのは、冷却される速度や圧力など、複雑な環境条件に因り、必ずしもクリストバライトが生成されるとは限らない。
まだわかっていないこともあるそうだ。
一部にクリストバライトが確認できる例としては、オブシディアンの他にライトニングクォーツ(雷水晶)、リビアングラス(インパクトグラス/テクタイト)など。

本来の主役は、クリストバライト中の鉄かんらん石。
その名の通り8月の誕生石、ペリドットの仲間にあたる。
クリストバライトのどこかに微細な結晶体がみられるということだが、見えない。
ルーペがあれば見えるのかもしれないが、見えない。
マグマや隕石由来のペリドットは有名だから、その類いなのかもしれない。
素人ゆえこれ以上の言及は控える。

なお、クリストバライトに発がん性があるとして、国際的に問題視され、我が国でも厚生省により使用に制限が設けられている。
アスベスト同様、建築現場から粉塵となって生じることがあり、結晶構造もアスベストに似ているために、肺がんのリスクが指摘されているという。
クリストバライトは危険な化学物質であるとして、神経質になっている方が多く見受けられる。
いつものように注意を喚起しておきたい。

写真にあるように、クリストバライトは天然石である。
また、成分はSiO2、水晶やめのう、石英と同じ。
長期にわたって吸い込むことによる健康被害が指摘されているもの、と捉えるべきか。
しかしながら、クリストバライトへの恐怖が飛躍した結果、石英(※)さえ危険物質に含めている団体もあるようだ。

※代表的な石英に、ローズクォーツがある。

粉塵には概ね発がんのリスクが伴う。
建築現場においては、木材の粉塵さえも、発がん性物質に認定されている。
たとえ美しい天然水晶であっても、粉末にし長期に渡って吸引すれば、肺がんになるおそれがある。
死は人を選ばない。
本人の心がけとは無関係に、すべての人に平等に訪れる。
危険を避けるために、常にマスクをしていたとしても何れ、死ぬ。
クリストバライトは、妄信を諭し、真実を見極める力を授けるため、人類に与えられたパワーストーンなのかもしれない。


67×60×34mm  152.1g

2012/02/07

小川山の水晶


スモーキークォーツ Smoky Quartz
長野県南佐久郡川上村 小川山



豊かな自然に恵まれた日本アルプスには、有名な水晶の産地が数多く存在する。
長野県と山梨県の境界に位置する、標高2418mの小川山。
その地味すぎるネーミングから想像できるように、登山家には殆ど知られていない。
いっぽうで国内有数の水晶の産地として知られ、ミネラルハンターにとっては憧れの地でもある。
そんな小川山より採取されたという、優美なたたずまいのスモーキークォーツ。

吸い込まれるかのような透明感、柱面のほとんどみられない独特の結晶構造、そして噴きつけたかのようなイエローのコーティング。
この色合いは、結晶表面を薄く覆う鉄分に因るもの。
水晶がゴールドに輝くさまに特別な力があるとして、クリスタルヒーリングを愛する人々の間で「ゴールデンヒーラー」と呼ばれ神聖視されている。
元々はアメリカ・アーカンソー産の水晶を指して使われたものと記憶している。
国内からは、他にもゴールデンヒーラーの認められる水晶が得られたようだが、それらの多くは現在、貴重品となっている。
利欲にとらわれることなく、先人への敬意を以って賜るべきものと心得よ。

トップのみ発達した水晶は、アメリカから産出するスモーキーアメジストなどによく見られるが、この色合いは意外に見かけない。
小川山からは、他にも素晴らしい各種鉱物が発見されるらしい。
それが何なのかは、勇敢なミネラルハンターのみぞ知る。
日本には、美しい水晶を拝める秘境がある。
小春日和の太陽の下で、くつろぎながら味わいたい一品。


26×22×20mm  12.35g

今週、話題性が確認された10の鉱物

What Mineral Would You Take with You to A Deserted Island?