2011/11/08

フェアリーストーン


フェアリーストーン Fairy Stone
Harricana River, Abitibi, Quebec, Canada



UFOみたい。
そっとあの人のデスクに忍ばせておきたくなる、地蔵色のストーン。
カナダではフェアリーストーンと呼ばれてお守りにされているらしい。
日本風にいうと、座敷童子石?
コレは流石に言われてみないと価値がわからぬ。

フェアリーストーンの誕生は、カナダがまだ湖の底だった氷河期。
湖底において積もり積もった泥や有機物の化石などが、長い時間をかけて石になったものだといわれている。
フェアリーストーンはカナダ・ケベック州、Harricana川から、このままの姿で見つかるのだそうだ(思わずシヴァリンガムを思い出してしまった)。
色目はライトグレーというか地蔵色。
一見すると路傍の石だが、形に規則性があるので見分けがつく。
写真に見える、白い輪のようなくぼみもそのひとつ。
この円がひとつだけのもの、2つも3つもあるもの、くっついて変形してしまったものなど、さまざまなタイプの原石がある。

現地の先住民族・アルゴンキンたちの間では、狩りの成功をもたらす幸運の石とされたほか、恋人への贈り物として、また災いを遠ざけるお守りとして大切にされてきたらしい。
フェアリーストーンの産出する「Harricana」の川の名は、アルゴンキンの言葉で、"ビスケットの川" という意味。
確かにビスケットに見えないこともない。
釣りの最中にこの石を見つけたときは、さぞ嬉しかったことだろう。
獲物が釣れた方が嬉しい人が多かったような気もするけど。

なぜ平たく滑らかな円盤形で発見されるのか、また円を描いたようなくぼみが刻まれている原因については、謎。
粘土質の土壌と特殊な地形ゆえに、この石が形成される条件が揃っていったのではないかという説があるようだが、詳しくは誰も調べていないようだ。
カナダのケベック北部でしか見つからないというのは確かに不思議。
似た名前にフェアリークォーツがあるが、表面に白く微細な結晶を伴うサボテン水晶の一種で、全く別の鉱物になる。

そんなフェアリーストーン、近年ヒーリングストーンとして注目され、日本にも入ってくるようになった。
この石は、某オークションをながめていているときに、たまたま目に留まったもの。
オークションというのは実にやっかい。
ジャンルを問わず「偽物の流通はオークションから」といわれて久しい。
鉱物についても例外ではなく、トラブルが相次いだ。
どの世界も同じこと。
慣れと、良い先輩とのご縁だと思う。
ちなみに、このフェアリーストーンを出品されていた方を、私は知っていた。
連絡先を聞いて驚いた。
向こうはなんとなくしかご存じないとのお返事。
遠く離れた見知らぬあなたのご住所、お名前が次々に私の記憶から飛び出してくるなど!
フェアリーストーンの起こした神秘?

たぶん、石を売っていただく側になったのは初めて。
私は単純に、再会が嬉しくて声を掛けただけだった。
ただそれだけだった。
個人情報の類いはいっさい残していないから誤解かもしれない。
思うところあって、このオークションで石を買うのは避けていたから、今まで出会わなかったのかもしれない。

数日後、薄い茶封筒にて届けられたフェアリーストーン。
なんだか申し訳ない気がして、愛用のお香に載せて、記念撮影。
後日、立ち寄った実家に忘れてきてしまった。
クリスタルヒーリングでは母なる大地の守護石といわれているが、私には地蔵菩薩の化身に見えてならない。
今頃は実家の座敷童子として活躍しているはずである。


27×22×8mm  6.97g

2011/11/05

モルダバイト


モルダバイト Moldavite
Moldau River Valley, Czech Republic



もはや知らない人はいないだろう。
パワーストーンとして、ヒーリングストーンとして、レアストーンとして、誰もが一度は憧れ、手にしたことがあるはず。
隕石の衝突に伴って生み出されるインパクトグラス(テクタイト)。
その存在価値を世に広めたきっかけが、モルダバイトだと思っている。

モルダバイトは、約1500万年前にドイツに落下した、リース隕石の衝突に伴って生成されたインパクトグラス。
1836年に命名された当時は、隕石だと思われていた。
インパクトグラスの大半は黒く不透明な塊。
透明感に富み、美しい深緑を示すモルダバイトは文字通り異色の存在であった。
ニューエイジ方面から火がつき、世界中から注目されることとなった。

私が石に目覚めたとき、既にモルダバイトは人気商品として定着しつつあった。
かなり初期の段階で偽物が出回っていることを知り、驚いた記憶がある。
モルダバイトはいわば天然ガラス。
人工的に作るのは実に簡単なことだった。
特にカットストーンやビーズ。
以前から微妙な色合いのモルダバイトをよく見かけたが、今ほど高くはなかった。
モルダバイトの市場価格は上がるいっぽう。
産出が激減し、今後十年以内に枯渇するともいわれている。

ここで、意外に焦点の当たらないモルダバイトの原石について取り上げてみたい。
写真は手持ちのモルダバイト。
どれが一番お好きだろうか。
大きさでいえば、左上が一番。
形のユニークさでいえば右上か。
右下は可も不可もなく、ゴーヤっぽいといったところ。

実はこの3つの原石のうち、一番良しとされるのは、実は右下のゴーヤ。
流れるような模様が立体感をなしているものは、概ね好まれる。
右上の筒状の原石も面白いが、意外に評価は普通。
左上は加工用。
シダのような模様が放射状に広がり、あたかも花のようにみえるモルダバイトは、「フラワーバースト」と呼ばれ、希少価値が付く。
博物館級と称される最高級品だ。

加工してしまえば、元の形など無関係。
ビーズのクオリティよりもわかりやすく、かつ入手困難なモルダバイトの原石たち。
この機会に探してみてはいかがだろう。
もう時間がないから、お早めに。


39×30×8mm(最大) 18.64g

2011/11/03

フローライト(カラーレス)


フローライト Fluorite
Nikolaevsky Mine, Dal'negorsk, Russia



有名なロシア・ダルネゴルスクのフローライト(蛍石)。
すりガラスのような繊細な質感を持つ、カラーレスの単結晶。
いくつか集めたが、これが一番のお気に入り。
表面には、蝕像水晶と見紛うような、神秘的な模様がビッシリ刻まれている。

フローライトにはさまざまな色合いがある。
発色の原因は微量元素などによるもので、純粋なフローライトは無色透明となる。
珍しいと思うかもしれない。
極東ロシア・ダルネゴルスクから産出するフローライトの多くは、色が付いていない。

フローライトには、八面体結晶と六面体結晶がある。
ダルネゴルスクのフローライトは、なんだかよくわからない。
私の手元にあるものは、ほとんどが多面体。
丸みを帯びている。
ミャンマーやインドから出る、完全な球状の結晶体とは違う。
多面体すぎて丸くみえるとでも言おうか。
この標本はかろうじて八面体結晶だと思われるが、裏面は干渉の跡がみられ、複雑に入り組んだ形状となっている。
現地からは、一般的に六面体結晶(四角形)が産出するといわれているが、どちらとも言えないような気がしている。

水晶をはじめ、フローライトやカルサイトなど、世界でも稀に見る特異な容姿、色合いを呈する鉱物が、ここダルネゴルスクの特産品なのだ。
偶然ではなく、必然的にできているようであるからして、不思議でならない。
ダルネゴルスクは、広いロシアの外れに位置する。
最寄りは中国/北朝鮮である。
最寄り駅は198km離れたチュグエフカで、終点らしい。
豊富な資源に恵まれ、鉱山の町として発展したが、公害は免れず健康被害が深刻化した。

物憂げな空気。
しんきくさい土地。
そんなダルネゴルスクの情景とともに、名物のフローライトをアップでお楽しみいただきたい。




37×25×22mm  18.52g

2011/11/01

エクリプス/マスタードジャスパー


エクリプス Eclipse Stone
The Voccanic Areas, Java, Indonesia



エクリプスとは皆既日食の意味。
不思議な模様と珍しさに惹かれ購入したものの、正体がわからない。
購入元に詳細を問い合わせてから、どれくらい経つだろう。
いまだ返事がない。

2009年7月22日、日本では46年ぶりとなる皆既日食が観測された。
のりぴー夫妻が逮捕される直前、それを見るべく奄美大島に渡っていたことが話題になった。
私も危うく踊りに行くところだったので、大雨で中止になったことは今でも覚えている。
あの頃、アメリカのヒーラーの間では、このエクリプス・ストーンが話題になっていたそうだ。
日本のショップでも取り扱いがあり、現在も入手可能である。
ただ、この石に関する情報が少ないせいか、どこも同じ説明をしている。
まとめると以下のようになる。

  • 2009年7月の皆既日食のさい、海外のヒーラーの間で話題になった
  • 皆既日食にちなんで、著名なヒーラーがエクリプスと命名 
  • アメリカの鉱物誌の表紙になった
  • カボション・カットが一般的(ビーズや原石は無し) 
  • インドネシア産
  • 非常に珍しく、入手困難

2009年夏、自分はもう石の世界にはいなかった。
エクリプス・ストーンが盛り上がっていたかどうかは分からない。
現在も多くの流通があり、入手困難とは言い難く、命名したヒーラーも特定できない。
また、エクリプス・ストーンが表紙を飾ったというアメリカの雑誌というのは、どうも米・ツーソンショーで配られたフリーペーパーのようである。
つまるところ、よくわからん。

出会いは忘れた頃にやってくる。
2011年、秋の京都ミネラルショー。
石の模様に並々ならぬこだわりを発揮する連れが、ある石に反応した。
黄色にダークブラウン、産地はインドネシア。
怪しい。
模様が違うが、絶対に怪しい。
そう思って探したら、エクリプス・ストーンと全く同じ模様の石が出てきた。

ところが、店の人は、これはあくまで「マスタードジャスパー」という石だという。
初めて聞く名前。
連れは手を止めて、不思議そうな顔をしている。



マスタードジャスパー
Mustard Jasper
The Voccanic Areas, Java, Indonesia



こちらは今回参考に購入したマスタードジャスパー。
微妙である。
危険区域に立ち入るみたいな、心穏やかでない配色が特徴だ。
連れがいなかったら、確実に通り過ぎていた。
ただでさえ節約志向の連れが、気に入って2つも購入していたのが不思議でならない。

お店の人はヨーロピアンで、"Eclipse" が通じなかった。
太陽と宇宙の説明をしたらわかってもらえた。
「ああ、同じだよ」とのこと。
千歳飴の原理で、縦方向にスライスしたのがマスタードジャスパー、横方向にスライスするとエクリプス、要は切断方向が違うだけ。
閑散としたブース。
ヨコにスライスしておけば、売れただろうに。

天然のアゲート、ジャスパーの収集が盛んな欧米市場とは異なり、日本では石になんらかのご利益を付けないと苦戦を強いられる。
ちなみにマスタードジャスパーのほうは千円でおつりが来る。
まさかと思うが、注意していただきたい。

詳しいお話を伺った。
マスタード・ジャスパーは、オーピメント(雌黄)、マンガン、シリカ、火山灰などから成るジャスパーの一種。
イエローの部分がオーピメントだと思われる。
エクリプスとはよくひらめいたものだ。
マスタードジャスパーであれば買わなかった。
産地がジャワ島であろうということは予測していたのだけど、火山灰が鉱物(おそらく化石の類いか)に変わるほどの火山地帯で、それが現在まで続いているとは。
火山性オブシディアンの産出国だけあって、インドネシアの火山は半端ないようである。

インドネシアの首都、ジャカルタのあるジャワ島には多くの人々が暮らしているが、現在も広い範囲で火山活動が盛んであり、付近は大地震多発地帯として知られている。
断続的に火山の噴火が起き、被害が出ている模様。
報道を全くみないので、具体的にどういう状況なのかはわからないが、現在も予断を許さない状態のようだ。

参考:世界中の天変地異を事細かにまとめたサイト
http://macroanomaly.blogspot.com/2010/04/blog-post_18.html

もし、エクリプス・ストーンが2009年以前に採取されたもので、もう採りに行けないのだとしたら、確かに貴重だといえるが、果たして真相は。
宇宙と地球、空と大地、蔭りゆく太陽、そして天変地異。
すべてがこの石に集約されている。
どこか暗示的な存在といえるかもしれない。


28×16×6mm  21.46ct

2011/10/28

ファントム・アメジスト


ファントム・アメジスト
Amethyst Phantom
Haran, Balochistan, Pakistan



美しい濃淡のみられる小さなアメジストが2つ。
ひとつは両端が結晶して、ダブルポイントになっている。
ファントムと呼んでいいのかわからない。
バイカラーもしくはエレスチャルアメジストとしたほうがいいのかもしれない。
ファントムとは幻の意味。
まるで幻を見ているかのようだから、勝手にファントムと呼ぶことにした。
ファントム・アメジストは一昔前なら希少品で、研磨品が大半だった。
スーパーセブンの登場以降、濃淡のあるアメジストは珍しくなくなった。
現在ではファントム・アメジストのアクセサリーやビーズなどを頻繁に見かける。

すりガラスのような質感を持つ透明水晶に、うっすら浮かび上がるパープル。
ファントムというより、インクルージョン(内包物)と呼んであげたくなる。
もともとはアメジストだった結晶に、それを取り囲むように水晶が成長したものだと思われるが、そんなことがあるのか。
この逆であれば、よくある。
先端にいくに従ってアメジストの色が濃くなるクラスターは比較的多く、ファントム・アメジストとして付加価値をつけているところもある。
中身だけアメジストと聞いて想像するのは、エレスチャルくらい。
実際、奥の標本はエレスチャルのような形なので、複雑な過程を経て、偶然に出来上がったものなんだろう。
神様はよくぞこんな不思議なものを創られたと思う。

イメージとしては春かな。
桜の花のような瑞々しさ。
これから来る寒い季節も、このアメジストがあれば乗り越えられそうな気がする。


20×12×10mm(手前) 5.48g

2011/10/24

アフガナイト


アフガナイト Afghanite
Sar-e-Sang, Koksha Valley, Badakhshan, Afghanistan



最近、なぜかアフガナイトを大量にみかける。
しかも安い。
その名の通り、アフガニスタン以外からは滅多に出ない希少石のはず。
いや、アフガニスタンからも滅多に出ないはずだ。

私がアフガナイトに出会ったのは2009年、ツーソンショー。
小さな結晶片を見つけ、感動のあまり購入した。
当時は調べても、情報どころか相場すらわからなかった。
ところが、本日検索してみると、出てくる出てくる。
まさか千円台からあるとは思わなかった。
2009年2月の時点では相場が全くわからず、一万五千円などという不当な価格をつけてしまっていた(売りたくなかったし、売れなかった)ので、冷や汗が出る。
しかしながら違和感はある。
なぜか、どのアフガナイトも形が同じ。
規格が統一されてるのかと思うほど、同じ。
大きな白い母岩に鋭いアフガナイトの結晶がついている状態で、こぞって紹介されている。

産地はアフガニスタンの山岳地帯、バダクシャンのサーエサン。
世界一美しいラピスラズリが採取されることで有名な土地。
かつて戦争の資金源となったほどの産出量だと聞いている。

ご存知かもしれないが、ラピスラズリは複合鉱物。
ラズライト(青~紺)、パイライト(ゴールド)、カルサイト(白)等から成る。
いっぽう、アフガナイトは無色~濃紺色までさまざまな色合いを示すという。
また、現地からは多彩な鉱物が産出する。
その中には、アフガナイト同様、ブラックライトで蛍光する性質を持つソーダライトも含まれるという…

これはどうも、ごっちゃになってるような気がする。
究極のレアストーンがあんなに出回るのはおかしい。
「カルサイトの母岩上にパイライトと共に結晶したアフガナイト」を自慢している人がいたのだけれど、その組み合わせは有り得ないだろう。
ラピスラズリやん。
アフガナイトがラピスラズリ(ラズライト)と共生した状態という見方はできるが、鉱物が好きなら疑問を感じてもよいのではないだろうか。
現地の情勢についても、決して良いとはいえない。
バダクシャンはアフガニスタンで唯一タリバンの支配をまぬがれた都市だが、今年1月にはタリバンによる外国人殺害事件が起きている。

アフガナイトは表面のみ青く、内部は無色であることが多いそうだが、こちらの標本は黒っぽい。
個性的で宜しい。
結晶は埋没しているし、ダメージもあるが、そのほうがむしろ自然だと感じる。
アホー石/パパゴ石の件があまりに衝撃的だったから、疑いたくもなるというものだ。

アフガニスタン方面のことはよくわからない。
とりあえず、戦争の資金源にはしないでほしい。
レアストーンハンター魂の叫び。



※なお、紫外線照射(ブラックライト)による色の変化の写真を載せているところでは、ピンク、オレンジ、反応無しの3パターンがあるようだった。こちらの標本は、ブラックライトでピンクに蛍光した。参考までに、ラズライトは蛍光しないこと、ソーダライトはオレンジに蛍光すること、手持ちのラピスラズリは部分的にピンクに蛍光したことを付け加えておく。
写真左のピンクの部分がアフガナイト結晶。右は愛用のラピスラズリ(カルサイトは肉眼では確認できず)のストラップ。




57x32x20mm  40.4g

今週、話題性が確認された10の鉱物

What Mineral Would You Take with You to A Deserted Island?