2012/01/05

アクロアイト


アクロアイト
Achroite Tourmaline
Merelani Hills, Arusha, Tanzania



カラーレスのトルマリン。
聞いたことはあったが、現物を見たのはたぶん、初めて。
同じくカラーレスのガーネット、リューコガーネットが産することで知られる、メレラニ鉱山から届けられたと伺っている。

さまざまなカラーバリエーションを持ち、無色透明の石に価値を置かれる宝石に、ガーネットがある。
ガーネットは私の誕生石でもあったので、ぼちぼち集めていた。
無色透明の石があると知ったときには必死で探したものだ。
トルマリンもまた同様、無色透明の石はアクロアイトと呼ばれ、収集家の憧れと聞いている。
パライバトルマリンなど、ダイヤモンドの価値を上回るような石も存在するため、それらの華やかさに隠れてしまいがちだけれど、探してもすぐに出会えるものではない。

このアクロアイトは、ある日偶然に目にとまった。
それも、初めて見つけたお店で、一目惚れしてしまった。
宝石の世界が無知に甘くないことは知っている。
また、長年お世話になった業者さんとの別れを機に、しばらく宝石の購入は控えるつもりでいた。

東京に出発する直前のこと。
気力も体力も果てつつあったが、この石について質問せずにはいられなかった。
対応してくださった社長さんが親切な方だったために、夢中でお話を伺った。
謙虚で誠実、かつ気さくな方なれど、宝石にたいする情熱と鋭い眼差しを、私は見逃さぬ。
どんな人にも平等に、わかりやすく物事の魅力を伝えられるというのは、限られた人に与えられた才能に他ならない。
社長さんとは、もっとお話ししたかったのだが、途中で力尽きてしまった。

池袋ショーをまわるにあたって、その方からいただいた助言の数々は、非常に意味のあるものだった。
本物を知らずして偽物を語るなかれ。
そう、それが私の口癖だったのに。
私はようやっと、大切なことを思い出したのである。

疲れ果てて宿に戻ったら、ベッドの上に荷物が置かれているのに気づいた。
社長さんが東京まで送ってくださったのだ。
その輝きは、今までにない鮮烈な光を放ち、私は圧倒された。
カラーレスのトルマリンは、数々の混乱を経て、リセットされた心に似ている。
無限の可能性を秘めているようにすら感じさせる。
完全に透明ではなく、僅かに(といっても自分にはほとんどわからない)グリーンを帯びているところもまた自然で、とてもいい。

熱意あふれるディーラーさんとのご縁に恵まれた年であった。
もう少し磨かねばなるまいな。
やっとのことでお礼を書いて、そう思った。
長く険しい一年が、ようやく終わりを告げようとしていた。


0.34ct

今週、話題性が確認された10の鉱物

What Mineral Would You Take with You to A Deserted Island?