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2011/08/01

アホー石/パパゴ石


アホー石 / パパゴ石
Ajoite & Papagoite
Messina Mine, Limpopo, South Africa



グリーンがアホー石(アジョイト)、ブルーがパパゴ石(パパゴアイト)。
透明感のある水晶に、アホー石とパパゴ石の2種類が入っているクラスター。
あくまで水晶に内包された状態でなければならない。
単体、或いはアゲートなどに内包されていて不透明な場合、その価値は下がるとされる。

アホー石入り水晶、パパゴ石入り水晶ともに希産であり、その美しさから究極の石と称えられてきた。
2種類が混在する結晶はさらに貴重で、鉱物に魅せられた人々にとって、いわばシャングリラのような存在だった。
ダイヤモンドよりも高額な標本が一般的であったが、ここにきて値崩れが起きている。
一生縁がないと思っていた、アホー石とパパゴ石の両方を含む標本が10万円を切ったのは、私にとって衝撃的な出来事だった。

産出は南アフリカ・メッシーナ鉱山のみ。
現在は閉山後に取り出された原石が出回っている。
2006~2008年頃に比較的多くの結晶が発見され、店頭でもチラホラ見かけるようになった。
ただ、本で見たそれとは異なり、形が不完全なものや極端に小さいもの、鉄分で内部が見えないものなどが多く、破損も目立つ。
だからといって、以前より質が落ちたというわけではない。
現在主に流通しているのは未処理石。
つまり、現在流通しているアホー石・パパゴ石入り水晶が本来の姿ということらしい。

では、かつて流通していた、容姿の整った色濃い標本は、何だったのか。
古いコレクションはどれも同じような形をしている。
これらの大半は、原石をカットし、形を整えて、内部の様子が見えやすいよう処理されたものだという。
確かに博物館クラスの標本でさえ、よく見ると結晶面がカットされている。
中には、結晶に穴を開け、不純物を取り除いた上で、石英成分でコーティングしたものも存在するようである。
要は人の手で作り変えられたものだったらしい。

先輩方は、こうした加工処理の事実を知っていたのだろうか、と思うときがある。
中高年の収集家の中には、いくつものアホー石、パパゴ石入り水晶を所有している方がおられる。
その中に、明らかに作り変えられた標本があったのを覚えている。
これだけ値が下がるなら、かつての購入資金で金塊でも買っておき、今購入するほうが安いし価値もある。
複雑な思いだ。

ではなぜ処理する必要があったのか。
そのままでは鑑賞に耐えなかったためである。
南アフリカは植民地として、鉱物資源の採掘がさかんであった。
現在も数多くの鉱山が残されている。
メッシーナは銅鉱山。
銅以外は副産物にすぎない。
そのため、アホー石やパパゴ石に価値が判明するまで、それらは長期間に渡って破棄されていたという。

こんなにも美しい石を、いとも簡単に捨ててしまったのか。
確かに、銅は人体には毒だから、鉱夫たちは、長くは生きられなかったろう。
美しいと感じる心を失うほどに、過酷な人生を生きねばならなかったのかもしれない。
だが、人間はそれほどに単純なものだろうか。

以下、想像。
当時は価値がわかっていなかっただけであり、仮に出てきても内部まで確認できるものは少なかった可能性がある。
その鮮やかな色彩を見て何を想ったか、自宅へ持ち帰った者もいたようだ。
かつての鉱夫のコレクションの存在が、その事実を物語っている。
美しいと思う心は、時を越え、私に教えてくれる。
人間も捨てたものではない、と。


46×43×25mm 38.28g

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