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2013/03/15

チベットモリオン(黒竜江省産)


チベットモリオン
Quartz var. Morion
Heilongjiang, Daxing'anling Prefecture, China



かねてから、チベットモリオンは実在するのかという疑問があった。
高波動満載のヒーリングストーンが多数発見されているといわれるチベット。
古くから旅人を魅了してやまなかった伝説の地、シャングリラからも、モリオン(黒水晶)が大量に発見されているという。
聖地チベットから産出する神秘のパワーあふれる黒水晶・モリオン。
そんな都合のいい話がこの世にあるだろうか。

以前アンデシンの記事にて、中国で産地の捏造が日常的に行われているおそれがあることを記した(注:チベットアンデシンについてはこちらの記事にて)。
未知の産地をとらえた写真がネット上に流れる時、善からぬ思惑が入り混じることがある。
パワーストーンの売り上げアップのために、採掘現場と称して撮影にモデルを起用し、チベットの神秘を演出してしまったという残念な例が実際にある。
今回は、人気のチベットモリオンの存在の如何について、大胆にも考察していきたい。

きっかけはチベット産レッドアンデシン。
採掘現場の写真をネット上でたまたま見かけ、違和感を感じた。
鉱山内の一箇所に、不自然なほどに宝石質の赤い結晶が、まとまった状態で詰め込んである。
選別作業において、選別を終えたアンデシンは見当たらない。
素人目にみても実際の採掘現場ではない。
その後、産地のねつ造が行われていたことが発覚した。
ひとつの疑問が生じる。
アンデシン同様、他所から産したモリオンをチベットにばら撒き、神秘性を高めた…としたら?

以前ウクライナ産モリオンにおいて、山東省でモリオン産出の確認がとれている旨、記した。
山東省産モリオンは長石を伴う一般的な黒水晶。
鉱物標本店で見かける、信頼性のあるモリオンは、もっぱら山東省産だ。
チベットモリオンはパワーストーン系のショップで見かけるのみ。

私は幸運である。
ある方のご厚意で、内モンゴル産モリオンの産地や原石の様子の写真を入手することができた。
産地の状況もみえてきた。
正確には、内モンゴル産ではなかった。
山東省産に匹敵する見事なモリオンが産出しているのは、内モンゴルに隣接の中国黒竜江省。

黒竜江省モリオンは、大きさといい産出量といい、見事としかいいようがない。
表面が白や緑の衣に覆われているのがその特徴と考えられる。
工事中に偶然見つかったとのこと。
ただ、多くは巨大な塊で産出するため、鉱物標本として扱えなかった模様。
そのため、ほとんどがビーズなどに加工されてしまったということだ。
市場を賑わせているチベットモリオンのブレスレット。
黒竜江省モリオンを加工して作られたものだったのだとしたら、実に残念なことになる。
いっぽう、現地の産状や詳細な産出場所については謎につつまれたまま。
資料にある鉱山の写真には、半ば砂漠のような荒野と、海か湖のようなものが見える。
産地の地名から調べても、はっきりした場所はわからない。

さて、まずは中国黒竜江省産の天然モリオンのサンプルを手に入れなければならない。
そんなものは市場には出回っていない。
おそらくはチベットモリオンにその名を変えて、ブレスレットなどの製品になって流出してしまっている。
まさかとは思うが、中には "人工的につくられた" モリオンも含まれているかもしれない。
モリオン(黒水晶)は、水晶に放射能をあて、原子炉で人工的に作り出すことが可能である。

中国黒竜江省モリオンの特徴である、白やグリーンの衣をまとった大きさのある黒水晶。
チベットモリオンとして流出している石をあたれば、見つかるかもしれない。
そんなことを考えていたある日、私は中国黒竜江省産とみられる天然モリオンを格安で発見した。

昨年の池袋ショーにてお世話になったブース。
お隣のブースに黒いブツが並んでいる。
チベットモリオンの看板が出ている。
お店の方には、チベット産ではなくモンゴル産のモリオンを探している旨、告げた。
「混ざってます」とのお返事だった。
いや、混ざってなんかいないはずだ。
すべて中国黒竜江省産のモリオンであると、私は想定した。
というのも、池袋ショーで購入した写真のチベットモリオンは、見事な白や緑の衣をまとっており、中国黒竜江省産モリオンの特徴に酷似しているのである。
数年前から人気商品として定番化しているチベットモリオン。
これが偽物だったら大変なことになる。

日本人からすれば、チベットとモンゴルはだいたい同じ場所。
だが実際のところ、モンゴルとチベットには、相当の距離がある(→地図/イエローの部分がモンゴル産モリオンの産地付近か)。
日本列島が3つほど入ってしまうくらい離れた産地の鉱物が同じものとはいえない。
内モンゴル付近から素晴らしいクオリティの稀産鉱物が産したことは、専門家によって多数報告されている。
しかしながら、現地に外国人が入る機会は少ない。

以上の考察の結果、チベットモリオンは、残念ながら産地偽造品であったと断定する。
チベットモリオンと呼ばれ日本中のファンを虜にした神聖なビーズのほとんどは、中国黒竜江省産。
産地偽造の発覚は、販売者にとっては大問題。
だが、消費者も真実を知る必要がある。

気になるのは中国の放射能汚染とチベットモリオンの関係性である(→詳細はチェルノブイリと黒水晶にて)。
チベットモリオンの産地は赤と青で示した(→地図)。
イエローで示したのがチベットモリオンが産出したとみられる場所。
中国北端、モンゴル自治区境界及びロシアとの国境付近にあたるということだが、正確な位置はわからなかった。
現地は肥沃な土地を有し農作物の産地として知られているという。
しかしながら、場所がよくない。
中国にとって最も "不要な地域" にあたるのは一目瞭然。
核実験が行われた可能性がある。
仮に核汚染で半人工的に "処理" されたモリオンがこの世に存在するとしたら、うわさになったチェルノブイリのあるウクライナではなく、中国なのではないか、と私は推測する。

参考までに、写真の標本と一緒に購入したチベットモリオンのポイント(→画像)を例に挙げる。
放射線処理を施され黒くなった、有名なアーカンソー産の人工モリオン同様、色ムラが著しい。

中国から大量の天然モリオンが発見される以前は、放射能で人工処理したモリオンが主流であった。
一般に人工処理の如何は、白い色ムラの有無、根元付近に透明部分が残っているかどうかで見分けることができるといわれる。
標本を裏返すと、根元部分に無色透明の結晶が見えるのは、この標本及び上記リンクの画像にある通り。

中国の核汚染を持ち出すのは安直かつ危険と承知している。
ただ、内モンゴルが放射能で汚染されているのは事実。
聖なる土地のはずのチベットについても、核汚染は著しい。
四川省大地震では核施設が爆発し、多くの即死者が出たと聞いている。
意外に知られていないが、中国は日本以上の地震大国である。
チベットモリオンと最初に耳にしたとき、チベットにおける深刻な放射能汚染由来のモリオンを疑った。
しかしながら、より汚染の深刻なモンゴル付近から不自然なモリオンが産出し、誤ってチベットモリオンとして流通した、というのが現実のようだ。

以前から、チベットモリオンを好きになれなかった。
山東省産モリオンは手持ちがあるが、チベットモリオンは持っていない。
モンゴル産(黒竜江省産)も気味が悪いので倉庫には置かないようにしている。
チベットモリオンのパワーを信じて購入された方には、残念な内容になってしまった。
少なくとも、放射能の影響で黒くなった天然黒水晶に間違いないこと、記させていただく。
真実は石のみぞ知るということになろう。



右は裏面の拡大写真。
ところどころに透明水晶が見えるのは人工照射モリオンの特徴。
この黒さは原子炉で短期間に黒く加工されたとは考えにくい。
左は緑の衣をまとった堂々たる正面写真で、チベットモリオンに顕著。


約150g

2012/08/19

モリオン(ウクライナ産黒水晶)


黒水晶/モリオン
Quartz var. Morion
Volodarsk-Volynskii, Zhytomyr Oblast', Ukraine



昨年、2年ぶりに鉱物の世界へ戻って、違和感を感じたことが二つある。
一つは2年前には既に馴染みのあった石がまさに売り出し中であったこと。
もう一つは、市場価格が十万を越えることもあった天然黒水晶(モリオン)の相場が、一万円をきっていたことだ。
後者に関しては、衝撃であった。
産地は軒並み中国、東は山東省(朝鮮半島側)、西は四川省及びチベット自治区などから、モリオンが同時多発的に発見されている。
いずれもペグマタイトから産出したとみられるスタンダードな天然モリオン。
偽物ではない。

放射線の照射さえ行えば、すべての水晶が黒くなるわけではない。
特殊な条件を備えた水晶のうち、地中の放射線を長期間に渡って浴びる環境にあって、ごく稀に生成される。
大半はスモーキークォーツの段階で発見されている。
光さえ透さない漆黒のモリオンは、長い間、誰もが憧れる幻の石であった。
放射能を防ぐパワーストーンとしてお茶の間で話題になるなど、想像できようか。
短期間に相当量の産出があったとしか思えない。
それらは薄利多売ビジネスを目論む業者のもとへ渡り、ブレスレットに姿を変え量産されている。
中国がいかに広いとて、奇妙である。

かつては放射線処理によって人工的に黒く改変させた黒水晶/モリオンが中国で製造され、半ば暗黙の了解のもと市場に流通していた。
何も知らずに初めて手に取ったとき、気分が悪くなった。
私だけではない。
周囲の人々が皆、怖がるものだから、手放さざるを得なかった。
モリオンが放射能を利用して作れるものと知ったのは、ある方との出会いがきっかけ。
チェルノブイリ事故の影響で、ロシアから大量にモリオンが発見されている、と私に教えてくださった。
おそらく事実ではない。
しかし人間たるもの、よからぬ想像をしてしまう。
天然の放射線によって水晶が黒くなるのであれば、半人工的に出来た黒水晶も存在するのではないか。
放射能汚染の顕著な地域に的を絞って掘り当てたのではないか。
折りしも福島での原発事故直後。
被害に遭われた方々の心情を思うと、大きな声で言えるはずもなく、人々の不安を助長させる行為に及ぶのは憚られた。

結論からいうと、おそらく中国の核とモリオンは無関係。
というのも、最も信頼性の高いモリオンの産地・山東省は、北京にほど近い "安全" な地域にあたる。
チベット産や内モンゴル産については産出の確認が取れていない(→モンゴル近くの黒龍江省からチベットモリオンが出ている可能性あり。くわしくはこちら)。
最も放射能汚染が深刻な新疆ウイグル自治区からは、美しい透明水晶が発見されている。

中国政府の発表によると、1964年から1996年までの32年間、新疆ウイグル自治区において46回に及ぶ核実験が行われたという。
実際にはそれを上回る原水爆が使用されたおそれがあり、現在も多くの人々が苦しんでいるといわれている。
チベット自治区では、放射性廃棄物処理施設による汚染が問題になっているほか、複数の核兵器関連施設における事故の噂があり、詳細は明らかにされていない。
内モンゴルにおいても同様の問題が取り沙汰されている。
いずれも少数民族の居住地であり、首都・北京から遠く離れているのがその理由とのこと。

いっぽう、チェルノブイリ原発事故の影響で、ロシアからモリオンが発見されていたという説に対しても、信憑性は薄い。
旧ソビエトとロシアを混同しているのは明らか。
放射能による被害が最も大きかったのは、チェルノブイリのある現ウクライナ、隣接のベラルーシ。
ロシアでも深刻な被害が出ているとのこと(→チタニアダイヤに記)であったが、ロシアの特定の場所からモリオンが大量に見つかっているという事実はない。

その手がかりを探るべく捜していたウクライナ産モリオン。
先日ようやく見つけ出したのが写真の石である。
格安で出ていたので即決した。
真っ黒でずっしり重く、エレスチャル状に成長した文句なしのモリオン。
ペグマタイトの匂いがプンプンする。
底面中央には穴があり、内部が漆黒の結晶で満たされている(本文下の写真)。
ウクライナには、大自然の創り上げたモリオンが存在する。
チェルノブイリとモリオンの関連性については、噂に過ぎなかったものと信じたい。

このモリオンが発見された場所は、このブログを作るきっかけとなったヘリオドールに同じ。
チェルノブイリから車で2時間半かかる距離だというから、関連性は無いと考えるのが妥当であろう。
ウクライナにおいて、1986年頃を境に、放射線処理が必要なはずの幻の宝石がいくつか発見され数年後に枯渇していること、また人工照射に失敗したとみられる不自然なウクライナ産モリオン(→wikipediaからは削除されていました/参考写真)が存在する理由については、直接手にとっていないため、分からない。

なお、wikipediaによると、かの毛沢東氏は「たとえ地球に大穴が開いても、あるいは地球が粉々に吹き飛ばされたとしても、太陽系にとっては大きなことかもしれないが、宇宙全体から見ればとるにたらない」と、地球の終焉を示唆している。
また、核汚染がきわめて深刻とされるタクラマカン砂漠やゴビ砂漠の砂は、黄砂となって日本に飛来している。



この標本は1990年産出とのこと。
ヘリオドール鉱山が閉山した年にあたる。


80×55×48mm  182.1g

2012/06/28

スモーキーアメジスト(ハレルヤクォーツ)


スモーキーアメジスト
Morion, Smoky Amethyst
Royal Scepter Mine, Hallelujah Junction, Washoe Co., Nevada, USA



スモーキークォーツ、アメジスト、シトリン、クリアクォーツ、そしてモリオン。
5つの色合いが混在した豪華な標本。
エレスチャル、もしくはジャカレーなどと呼ばれる複雑で変化に富む結晶構造を示し、かつ圧倒的な透明感を誇る。
切断面のほとんどみられない完全な結晶体で、結晶の至るところに水晶のさまざまな形態が観察できる。
300g近い本体の至るところにちりばめられた結晶の数々。
いくら眺めていても興味は尽きること無いが、重い。
このような歴史的コレクションがさかんに取引されるのも、歴代の鉱物ハンターを英雄に位置づけるアメリカならでは。

ロイヤル・セプター鉱山は、その名の通り、見事なセプタークォーツ(松茸水晶)を数多く産出する。
スモーキーの色合いが多いようだが、写真の標本から想像できるように、なんでもあり。
クリアクォーツやシトリン、アメジストファントム、スモーキーアメジストやアメトリン、さらにはモリオンまで。
形状も変わっていて、ダブルポイント(DT)、セプター、リバースセプター、セプター二段重ね、三段重ね(呼び名が不明)、いっぱいセプターダブルポイント(もはやエレスチャルの類い)といったユニークな標本が続々登場する。
鉱山のあるハレルヤジャンクションに因み、ハレルヤジャンクションクォーツ、ハレルヤクォーツとも呼ばれている。
この標本も例に漏れず、かつてセプタークォーツだったとみられる結晶が連なるように成長した痕跡がある。
水晶の持つあらゆる色を有する、往年のハレルヤクォーツの魅力を凝縮したかのような珍品である。

豊富な資源を有し、ハンターたちの憩いの地ともなっているネバダ州。
アメリカでは特に人気の高いターコイズ鉱山、鉱物標本としても評価の高いウラン鉱山などが有名。
この標本の産地ロイヤル・セプター鉱山もまた、ハンターたちの目指すネバダの宝の山の一つ。
現在も入ることはできるが良質な水晶の産出は減り、環境保護を訴える声も上がっているようだ。

これまでいくつか見たことはあったが、ここまで衝撃的な標本は初めて。
採取が丁寧で保存状態も良かったのだろう。
ハレルヤクォーツの魅力を語るにはこれひとつで十分かもしれない。
水晶は硬いがクラックが入りやすく、大きくなるほど透明感は失われていくものだが、この標本は向こう側が見えてしまう。
優しい色合いが印象に残るいっぽう、平凡な日本の家庭には優しくない大きさでもある。

記憶にある限り、ハレルヤクォーツはもっぱらヒーリングストーンとして紹介され、鉱物標本としての魅力に言及されることはなかった。
あったのかもしれないが、ハレルヤ産に凝っている人にはまだ出会ったことが無い。
ヒーリングストーンは名称優位なところがあって、質は特に問わない。
当然ながら、アメリカ産出の良品のほとんどは、アメリカ人収集家が所有している。
日本に流れてくることは滅多に無いから、希少価値も上がっていく。
ハレルヤクォーツが何なのかと悩んでおられた方には、単なる地名であることをお伝えしておきたい。




なお、ニューメキシコ州にもロイヤル・セプターの名を持つ同名の鉱山が存在する。
そのため、ニューメキシコ産の水晶が、一部でハレルヤクォーツとして混同されている様子である。
ヒーリングストーンの場合、外観の似ていることがその名称の基準となったりもするので、ニューメキシコ産ハレルヤクォーツが必ずしも偽物というわけではない。
「ハレルヤ」はキリスト教における念仏のようなもので、聖書や賛美歌などにしばしば登場する聖なる言葉である。
その神秘的な地名がクリスタルヒーラーたちの支持を得て広まったものと信じたい。

イットリウムフローライトでも取り上げたが、産地が曖昧にされてしまうことが、ヒーリングストーンに対する評価や信頼の低下を招き、誤解を受ける原因ともなっている。
数々のハンターたちが活躍したアメリカの歴史から、鉱物の正体を探ってみるのもまた楽しい。




88×63×40mm  294.5g

2012/05/30

モリオン/スモーキークォーツ(ポーランド産黒水晶)


モリオン/スモーキークォーツ
Morion/Smoky Quartz
Strzegom, Dolnośląskie, Poland



珍しいものを見かけた。
ポーランド産モリオン。
なんだろう、こんなの聞いたことが無い。
そう思って問い合わせてみたところ、在庫を見せていただけるというお話になった。
産地はデータベースにも掲載されている、ポーランドの有名なペグマタイト。
歴史に残る鉱物を数多く産したが、採り尽くされてしまったようだ。
現在は古いコレクションが、ヨーロッパの愛好家たちの間でささやかに取引されているという。

私の対応に不備があり、話が消えそうになりながらも、なんとか日本まで送っていただけることに。
被災地から戻って間もなく、ポーランドの黒い水晶と対面することになった。
ひとつひとつ、チェックする。
個性豊かな黒水晶が次々に現れる。
クローライトのまりも状インクルージョンが入ったモリオン(!)まで出てきた(そのことに気づかれた、お世話になっている社長にプレゼント)。
漆黒のモリオンから透明に近いスモーキークォーツまで、色合いの幅は広い。
資料にあるとおり、モリオンの上にさらにスモーキークォーツが成長している標本が最も多い。
そのため結晶表面に光沢があり、優美な印象を受ける。
気になるのは、エピドートと共生している確率が極めて高いということ。
結晶内部から表面に至るまで、もじゃもじゃのエピドートで埋め尽くされている(本文下、左の石)。
ダークスモーキークォーツに幽かに浮かぶ風景。
モリオンの場合は中が見えないから、はみ出したものを見て思いを馳せるしかない。
なんて贅沢な悩みであろう。

被災地への旅の前日、私は大阪ミネラルショーに来ていた。
いつもながら師匠とともに。
彼はいつも気の利いたプレゼントを用意してくださる趣味人にして、あらゆる分野における大先輩。
その日プレゼントしてくださったのは、切手だった。
祖父(石の収集家でないほう)が切手の収集家だったこともあり懐かしかった。

大好きなうさぎの切手に混じって、鉱物の切手が数枚ある。
その中に、明らかに見覚えのある水晶の切手があった。


旧東ドイツ(DDR)発行の切手。左はエピドートがはみ出している?

茶色の水晶からはみ出した黄緑色の何か。
これって、ポーランドのモリオンにそっくりじゃないか。
実際に届けられた標本を見て、確信した。
社長にお話を伺った。
水晶とエピドートの共生は、特に珍しいことではないそうだ。
同じものとは限らないとのご意見であった。

確かにそうだ。
しかし、わざわざ切手にするからには、それなりの歴史的評価と産出量があったはず。
切手にはその国の誇りや美意識、歴史が刻まれている。
モリオンは真っ黒な単結晶、或いは長石と共生したものが好まれる。
よりによって、もじゃもじゃしている標本を切手にするというのは、奇妙である。
何を記念して発行された切手なのだろう。
譲ってくださった方もわからないとのこと。
古い切手だから当然だろう(書いてある文字についてもコメントはなかった)。
ドイツでは鉱物収集が盛んだから、ヨーロッパ各地から出ているモリオンを取り上げたものなのかもしれない。
ヨーロッパにおいては、イタリアやルーマニアから発見されるモリオンが有名で、現在も多くの流通がある。
いずれも外観は異なっている。
大さといい、態度といい、もじゃもじゃといい、この絵柄はまるでポーランドのそれ。

旧東ドイツから歴史的なモリオンが産したという話は聞いている。
この水晶の産地に同じである。
つまり現地は戦前、東ドイツ領だった。

写真は私が一番気に入っている標本。
半分は完全に黒、上部はダークスモーキーとなっており、太陽光の下で内部の様子を観察することができる。
両端が結晶し、この地に原産の鉱物Strzegomiteが内包されているという。
インクルージョンの実に多彩なこと。
真っ黒で中身など見えないはずなのに、親切にはみだしているというのも、興味深い。
モリオンの一面にびっしり付着したエピドートは、ふさふさと生い茂った芝生のよう。
付着物といえばフィンランド産モリオンだが、ここまで派手ではない。
こんなものが世界各地から産出しているのか。
なにより不思議なのは、友人がなぜこのタイミングで切手をプレゼントしてくださったか、ということ。
私の趣味はだいたいご存知だ。
黒水晶にはさほど興味のないことだって、知っている。
ただ、私が子供時代、切手に興味があったことは伝えていなかった。
数枚あった鉱物の切手のうち3枚に、モリオンの絵柄が入っている。
偶然にしては出来すぎている。
ご協力いただいたすべての方に感謝し、美しい黒水晶を生んだ遠き彼の地に思いを馳せる。




いくつかストックがございますので、興味のあるかたはお問い合わせください(詳細ページ)。夕日で撮影したので、エピドートが黄色っぽく写っている点、お許しを。


60×33×30mm  78.04g

2012/02/26

モリオン(蛭川産黒水晶)


黒水晶/モリオン
Morion
岐阜県中津川市蛭川田原(旧恵那郡)



国内有数の鉱物の産地として知られる岐阜県中津川市。
中でも蛭川の花崗岩ペグマタイトからは美しい黒水晶が産出することで知られており、古くからコレクションとして愛されてきた。
現在も多くのミネラルハンターが、蛭川を訪れる。
町の至るところに、現地の石材を使用した歩道や建築物がみられるという。
これらの中から魅力的な鉱物が出てくるのではないか…とうっとりしてしまうロマンチスト(大先輩でございます)もいらっしゃる。

写真は古いコレクションで、過去にはこうした漆黒の結晶が多くみられたと伺った。
小ぶりながらもバランス良く、二つの結晶が組み合わせられ成長した、ユニークかつ見栄えの良い標本となっている。

このところ出回っているのは、蛭川産モリオンという名のスモーキークォーツ。
残念ながら、蛭川の黒水晶の流通は減るいっぽう。
モリオン(
黒水晶)が注目を集めたのがきっかけで、このところ国産モリオンの評価が急上昇している。
異常ともいえる高騰ぶり。
だが、それらの大半はスモーキークォーツといったほうが適切。
ファントムタイプのモリオンというモノを見かけたのだが、ツッコミどころがありすぎてどう反応していいのかわからない。
むしろ消費者はより警戒を強めることだろう。

モリオン(黒水晶)については以前も記した。
天然の放射線の影響で水晶の結晶構造が破壊され、真っ黒に変わったものをそう呼ぶとしている。
黒水晶は蛭川産以外存在しない、あとはケアンゴーム、と仰る専門家もおられるほど。
手にとって「なんだ、スモーキークォーツか」とがっかりされる方がおられたら、そうではないとお伝えしたい。
こんなにも神秘的であり、美しいのだ。

なお、意外に知られていないようなのだが、岐阜県は放射性鉱物の産地として有名。
中津川市だけでなくその近隣、また土岐市のウランも有名。
従って、県内の一部の放射線量は、他の地域に比べ格段に高くなっている。
全国有数の放射線量を誇る蛭川だからこそ、ミネラルハンターに愛されてやまないというもの。
日本三大ペグマタイトといえば岐阜県苗木地方と福島県石川町、滋賀県田上山の三箇所。
中でも福島県石川町は、戦時中に原爆開発のため採掘が行われたほどの放射性鉱物を産出した(→詳しくはビクトリアストーンにて)。


蛭川(ひるかわ):古くから鉱業が盛んであった。現在鉱山は閉山しているが、鉱物愛好家にはよく知られた土地。人口は4,000人弱。日本有数の黒水晶の産地として有名である。他にトパーズ、ベリル、ジルコン、モリブデナイト、鉄コルンブ石など。水晶や長石の色合いが変わっているのは、天然の放射線の影響だとされている。

苗木(なえぎ):人口は6,500人ほど。天然の放射線量はトップレベルというが意外に人が住んでいる。砂金をはじめ多彩な鉱物を産し、日本三大ペグマタイトのひとつに数えられる。他にサファイア、トパーズ、ベリル、マイクロクリンの豪華結晶、スモーキークォーツなどが産出。稀にチンワルド雲母や放射性鉱物として知られるゼノタイムなどレア物も出るらしい。

福岡(ふくおか):人口は7,000人を超え、そこそこ発展している様子。有名な木積沢のトパーズのほか、バラエティに富んだ放射性鉱物の名産地。ジルコンのほか、フェルグソン石、モナズ石、サマルスキー石、ゼノタイムなどの各種レアアースが眠っており、鉱物鉱物愛好家は必ず礼拝に訪れるものとされている。なお、フェルグソン石は現地の人々に糞石と呼ばれ、ぞんざいな扱いを受けていたらしい。


「うちの近辺は線量が高い」という場合、土地そのものに問題があることも多い。
放射能をもつ天然石は、意外に身近に眠っていたりする。
流行のガイガーを買って、はじめてその事実を知る方もおられるようである。
敏感な方々は、家を購入するさいにガイガーを持参し、住環境の安全性を確認するのが常識になっているものと思い込んでいた。

ペグマタイトを掘っているうち、地層から放射性物質がこぼれ落ちるのはよくあること。
お子様の命が心配な方はまず、お住まいの市町村のペグマタイトの有無を確認しよう。
被ばくが心配なかたは、大自然はむしろ避け、金を惜しまず徹底的に安全性にこだわった、高層マンションに住むなどの対策が必要である。
当然であるが、外出はいっさい控えるのが望ましい。

「西日本の線量が高い」と言い出したのは誰なんだろう?
データがあるなら、西日本に放射性鉱物が大量にあるということなのだろうか。
誰もデータそのものを知らないようなので、不思議に思っている
放射性鉱物の産出はむしろ、東海~東北のほうが多いような気がする。
近畿なら、滋賀のペグマタイト、あとは京都や三重から若干といった感じで、数は少ない。
思い当たるのは岡山くらいで、それ以上向こうになると、もはやどこまで西日本なのかわからない。
中国から飛来するアレが西日本を直撃するのは確かなことである。
そのことに触れると怒り狂う方がいらっしゃるので、触れない。
中国のアレにどれくらいの放射性物質が含まれているかを、調べてはいけないんであれば、仕方ない。

ところで、昨日不思議に思ったことがある。
原発批判に盛り上がりをみせるツイッターにて、脱原発のカリスマとされる人物が、中津川市の蛭川にお住まいであることを知った。
あの方のツイートは、情報というよりインパクトの一種だと受け止めている。
素人でも考えうるシンプルな内容だから、報道を見るのであればわざわざ読む必要は感じない。
しかしながら蛭川で検索をかけたら、あの方が出てきてしまった。
福島から逃げろと執拗に繰り返される方が、よりによって蛭川在住というのは、違和感がありすぎる。

蛭川付近の放射線量は、少なくとも他所より3倍近く高いという。
なぜにご本人が蛭川にこだわっておられるのか、不思議でならない。
こんなことを質問したら、電波攻撃と受け止められ悲しまれるに違いないので、ご存知の方がおられたら、教えていただきたい。
また、困ったことに、その方の存在自体が著作権等に違反するのである。
以下は夢にすぎず、電波攻撃によるまやかしの類いであると捉えていただきたい。


twtterにおける "このメディアは取り扱いに注意を要する" 氏のさけび
https://twitter.com/#!/tokaiama

URL

鉱物採集家にとって憧れの地である放射性鉱物の宝庫、蛭川を背景に
脱原発のカリスマによる意外な告白が記されている


49×25×23mm  38.93g(ベース含)

2011/12/18

ローズクォーツ/モリオン


モリオン/ローズクォーツ
Rose Quartz on Morion
Paroon, Nuristan Privince, Afganistan



モリオン(黒水晶)にローズクォーツが彩りを添える珍しい標本。
本体は大きめのダブルポイント(両錐水晶)の黒水晶。
完全に真っ黒というわけではなく、所々にダメージがあり、透き通って見える箇所がある。
スモーキークォーツ、ケアンゴーム、モリオン。
どれが適切なのかはわからない。

黒水晶の先端に咲いたローズクォーツ。
見事な結晶であるが、途中から溶けている。
あまりに溶けているので、当初フローライトかと思ったが、先輩方のご意見を総合すると、エッチング(蝕像)により変形したローズクォーツということみたい。

そもそも、アフガニスタンからローズクォーツが出るなんて知らなかった。
昔から鉱物を集めている先輩方の間では、「アフガンローズ」と呼ばれ、伝説になっているそうだ。
初めて出会ったアフガンローズの実にユニークなこと。
ローズクォーツは通常、塊状で発見される。
結晶しているローズクォーツというのは珍しく、ブラジルから僅かに発見される程度。
多くは小さく、色合いも薄い。
堂々たるアフガンローズ。
男性でさえ夢中になるのも無理はない。

産地を聞いて驚いた。
採りたくても採りに行けないのかもしれない。
地球上には、立ち入ってはいけない場所がある。
モリオンの表面にちりばめられた、長石とみられる純白の結晶と、色濃く微細なローズクォーツの結晶たち。
力強さと優しさ、絶望と希望が同居する。
来るところまで来てしまったような気さえする、遠くアフガンから届けられた孤高の薔薇の花束。




85×43×35mm  約200g

2011/09/07

モリオン(広島産黒水晶)


モリオン/黒水晶 Morion 
広島県江田島



今年の2月頃、知人からシトリン(黄水晶)とモリオン(黒水晶)を頼まれた。
聞けば、占い師に、シトリンとモリオンを守護石として持つよう言われたらしい。
天然モノが欲しいとのことだったが、どちらも加工処理して作るのが一般的で、天然モノは希少。
予算内で収まるわけがない。
最近の占い師は恐ろしいと思っていたところ、直後に福島原発の事故発生。
放射能を防ぐパワーストーンとして、モリオンを求める人が後を立たず、ちょっとした騒ぎになったと聞いている。

かつてモリオンは人気がなかった。
その生成過程には、放射能が関わっているとされる。
放射能を嫌う日本人にとっては不気味な存在であり、一般人には手の届かない高級品だったせいもあって、好き好んで集める人は少なかった。
チェルノブイリ原子力発電所近くから、モリオンが大量に発見されるという噂もささやかれたほど(→
ヘリオドール参照)。
これらに科学的根拠はなく、あくまでも噂に過ぎない。
しかしながら、黒い色はもともと、死と深い関わりがあった。
モリオンの語源は、猛毒の朝鮮朝顔からきているといわれている。

モリオン / 黒水晶については産出が少ないせいもあって、まだわかっていないことが多い。
一般的には、長い間地中の放射線に晒された結果、水晶の結晶構造が破壊され、黒くなったものとされている。

わかりやすくいえば、被ばくして細胞が死んじゃった水晶?
産出するのは主にペグマタイトと呼ばれる地質からで、長石などを伴って発見されることが多い。
代表的なのは、岐阜県中津川市の黒水晶。


そんな中、偶然見つけた広島産モリオン。
地図を見て、当然ながら、よからぬことを考えてしまう。
聞けば、最初の発見は60年前。
大東亜戦争のさなか、軍事関係の施設の建設中に最初に見つかったという。
前述のペグマタイトから産出する、一般的な黒水晶で、余計な心配は不要とのこと。
つまり原爆投下とは何の関係もないということだ。


その後、長い間当地から黒水晶は発見されず、半ば忘れられていたらしい。
つい最近になって、現地を散策していた熱心な収集家によって再び発見され、話題になっている。
実に60年ぶりに発見された奇跡の黒水晶である。


60年前ぶりの発見?
終戦が1945年だから、少なくとも2004年には見つかってたってことになるのかな?
複雑な事情があって、それ以上聞けなかった。

モリオンには謎が多い。




60×53×31mm  98.99g

今週、話題性が確認された10の鉱物

What Mineral Would You Take with You to A Deserted Island?