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2012/11/30

フォーダイト


フォーダイト Fordite
Ford Rouge Plant, Detroit, Michigan, USA



フォーダイト、またの名をデトロイト・アゲート。
キラキラ輝くラメ状の細かな粒子、鮮やかな色合い、独特の模様が楽しめる。
アゲート(めのう)でないのは一目瞭然。
その正体は、米国はフォード社の自動車工場で塗装に用いられたラッカーだという。
しかしながら自動車には全く興味のない自分には、フォードが一体何なのかわからない。
アメリカの歴史に深く関わり、単なる民間企業の枠を超えた伝説的存在のようだ。
必死で調べたことをまとめたのが以下。



米・デトロイトに本社を置くフォード社は、ヘンリー・フォードという人物により1903年に創業された自動車メーカー。
100年以上に渡って世界の業界をリードしてきた会社で、戦争や不況といった困難を乗り越え、現在も存続しているという。
いわゆる「流れ作業」を最初に取り入れたのもフォードであったとのこと。


流れ作業といえば、子供の頃に観たチャップリンの映画。
あまり良いイメージではないのだが…
それはさておき、この不思議な宝石の産地は、工場での塗装部門。
1940年~80年代にデトロイトの工場から出た副産物をリサイクルして出来たのが、フォーダイトということになるようだ。
フォード社では、長い間ラッカーを用いた車体の塗装を行ってきた。
流れ作業において飛び散ったラッカーが積もり積もって、フォーダイトの原形(→写真はこちら)が完成した。
たまたまカットしたところ見事な宝石になったため、噂が噂を呼んで、広まっていったようである。

現在工場は閉鎖され、国外へ移転している。
80年代を最後に塗装の方法も変更になった。
今後中国以外から出てくることは無い。
あるときを境に消えたという神秘性や、カットして初めてわかったその美しさと偶然性こそが、フォーダイトの魅力といえよう。
こんなものを宝石にカットしようと思った人がいたのは驚きである。

工場からの副産物といえば、ジンカイトやスウェデッシュブルーが有名である。
スウェデッシュブルーと異なるのは、産出場所や埋蔵量(?)が特定できるため、いつ市場から消えるかもはっきりしているということ。
1940年代の古い素材を用いたフォーダイトは、モノクロに近いシックな印象で、数が少ないために希少価値が付くのだそう。
写真のフォーダイトはサイケデリックな色彩が好まれた70年代のフォーダイトのカット品で、同じ塊からカットされたものと伺っている。
最末期の80年代のカット品は、時代を反映した派手な色合いが特徴で、市場に出回っているものの大半がこれにあたるらしい。

こんな個性的な色を自動車に使っていたというのは、考えてみれば不思議なこと。
国産車は高級品になるほど白や黒、シルバーといった無難な色になる。
60~70年代のベンツなど、欧米の車に見られる、芸術性の高いカラーリングやデザインには、車に興味のない私でさえ感動を覚える。
ヴィンテージの車を愛する知人が多い私は恵まれている。
国産車にそういった美意識が皆無なのは、自家用車における歴史が浅いこと、個性より効率を重視した結果といえるかもしれない。

思うに多くの日本人は、車に芸術性など求めないのであろう。
空調やカーナビゲーション、イミテーションの毛皮などは、自動車には本来必要のないものである。
ましてや安全確認のおそろかになるテレビ、他車の走行を妨げる過剰なイルミネーション、騒音を奏でるオーディオなどを積むのは、不幸な事故につながる危険行為に他ならない。
車は人の命を一瞬にして奪う。
不幸な事故を極力避け、通行人に不快感を与えないよう、芸術性にこだわるべきである。
それができない者には軽トラの利用が適している。

話が逸れてしまった。
フォーダイトには自動車文化を彩ってきた遊び心が詰め込まれている。
米国ではアクセサリーとして人気も高い。
今後ヴィクトリアストーン同様、中国からの模造品が出回ることが危惧されるから、興味のある方はお早めに手にしていただきたい。


40×25×5mm, 31×30×5mm  計10.25g


この度は多くの皆さまにオークションにご参加いただきました。
本当にありがとうございました。
皆さまの温かいメッセージに涙し、励まされ…
オークションも最終段階に入りました(なんと、まだ終わっていなかったんですね!)

最後まで全力で頑張ります。
この場を借りて、皆さまにお礼申し上げます。
次回は池袋にてお会いしましょう(フォーダイトも参ります)!

2012/10/23

スコロライト


スコロライト
Scorolite Quartz
Aracuai, Minas Gerias, Brazil



秋の京都ミネラルショー初日。
私は宝石ブースで、想定外の事態に頭を抱えていた。
その日買い物をする予定はなく、財布には交通費しか入っていなかった。
にも関わらず、かねてから気になっていた石が目の前に輝いているのである。

ピンクファイヤーアメジストとされるその石は、以前ネットで見かけて気になっていたスコロライトそのものであった。
写真で見ると、オパライト(オパレッセンスの現れるアクリル製ビーズ)そっくり。
人工石を疑ってしまう。
しかし、現物を見た限り、天然のクォーツに間違いない。
なめらかで神秘的なミルキーパープルの色合い。
角度を変えるとピンクやオレンジのファイアが煌くさまは、ピンクファイヤークォーツとはまた違った、新たな宝石の可能性を感じさせた。
ただ、その場でスコロライトの名が出てこなかった。
新しい宝石の名称が安定するには時間がかかる。
両者が同じものかどうか訊ねようにも、スリランカ人である店主に日本の宝石事情を伝えるのは不可能であった。

店主の話では、産地はブラジルのミナス・ジェライス州。
ブルートパーズの産地として知られるアラスアイから、わずかに発見されたという(追記あり)。
ファイアがよく見えるよう大きめにカットしてあるとのお話であった。
写真では到底味わえない驚きが詰まっている。
特に水晶を集めているわけではないが、これは外せない。
しかしながら、財布には千円札と、両替できないまま残っていた100ドル札がそれぞれ一枚のみ。
祝日でATMは閉まっている。
店主さんはドル札でも構わないと仰り、おつりは日本円で出してくださった。
熱心な仏教徒である彼の温かな心に触れ、美しい宝石以上に価値ある時間を過ごせたことに、心から感謝している。

帰宅後、調べてみた。
ピンクファイヤーアメジストとスコロライトは、同じものであると思われる。
同じように宝石にカットされたものが高額で販売されている。
いっぽう、小さなビーズとなって流通しているケースも数多くみられた。
ルースや原石であれば外観や重みでその真偽はある程度わかるが、小さなビーズの場合、それがオパライト等の人工物であっても判別できない。
事実、海外ではスコロライトに対する激しい論争も起きているようである。
人工石だと明言しているところさえある。
かつてヒマラヤブルームーンクォーツを知ったとき、私が真っ先に原石を探したのは、そうした理由からだった。

採れる量はわずかだというから、スコロライトの名にあやかって人工石を流したところもあったのだろうと推測している。
このルースに関しては、天然水晶に間違いない。
ただし、ヒーリングストーンとして流通しているビーズについては、リスクが伴うといわざるを得ない。
本来見えるはずのファイヤを確認するのも難しいだろう。
ブルーやパープル、ピンク、オレンジなどさまざまな色合いを楽しめる興味深い宝石、スコロライト。
実際に手にとって、その美しさを確認してからの購入をお薦めしたい。
自分で言うのもなんだが、写真ではオパライトにしか見えない。


16×12mm  8.46ct


追記:この石が、2度にわたるアメジストの加熱によって得られるものであるとの貴重な情報をいただきました。確かに、一見ローズクォーツ。アメジストに分類されるのは奇妙です。人工石ではありませんが、処理石を前提に購入し、その美しさを楽しむべきものといえます。こちらのカット石は3,500円での購入ですが、販売価格がこれを大幅に上回る場合は注意が必要です。また、不透明な白は失敗作とのこと。

以上、石をこよなく愛するKさまからアドバイスいただきました。本文に訂正を加えず、ここで注意を喚起したいと思います。また、海外で問題になっている人工石についても、混在の可能性が考えられますので、十分に警戒なさってください。Kさま、いつもありがとうございます!



2012/06/22

ギベオン隕石(シホーテ・アリン、カンポ・デル・シエロ)


ギベオン隕石
Gibeon Meteorite

Gibeon, Mariental District, Hardap Region, Namibia



もし明日隕石が地球を直撃するとしたら、やっておきたいことは?
そんなお題をたまに見かける。

世間には、空から隕石が降ってきやしないかと、日々不安にさいなまれている人々がわりと多いようである。
巨大隕石の落下で、恐竜が一瞬にして滅びたという伝説が、人類滅亡を想起させるのかもしれない。
私はよく冗談で、明日隕石が落ちるなら、お宝を拾いに行く旅の準備をすると話しているが、?という顔をされる方が多い。
不幸にして隕石の犠牲になったのは、記録の上では一人とされている。
人類の長い歴史において、世界でたった一人の犠牲者となったのは、年老いたインド人男性であったと知ったとき、深い悲しみにさいなまれた記憶がある。
いっぽう、隕石を用いたアクセサリーは、宇宙のロマンを代弁するレアなパワーストーンとして人気は高く、定番商品となって久しい。

隕石と聞いて、子供のように瞳を輝かせるロマンチストはうちゅうのおともだち。
宇宙の神秘が手元に届く待ち遠しさに、夜も眠れなくなってしまう方もおられるかもしれない。
希少価値ぶっちぎり!とんでもないお宝!残り僅か!といった煽り文句には、注意が必要だ。
我々がふだん目にする隕石関連グッズは、シホーテアリン、カンポデルシエロ、サハラ隕石と記載があることと思う。
上記の3つの隕石は地球上に大量に存在し、隕石としての希少価値は無きに等しい。
隕石の世界は日本人が考えるほど甘くはない。
隕石の収集が盛んな欧米やオーストラリアでは、上記の3種は収集家がコレクションの対象とする隕石には含まれず、特殊な要素を持つ場合を除き、子供の教育に用いられる化石類と同等の扱いを受けている。
はるか昔、人類が鉄を利用しはじめたとき、隕石が用いられたとする説もある。
我々が考えるよりずっと、身近な存在なのだ。

隕石は星の数だけ存在する。
隕石の価格は、資料としての価値とその特異性、落下の量に応じて決定される。
希少価値の高いものは研究機関にまわされてしまうから、販売にまわされる頃にはグラムあたり一千万を超えることも稀ではない。
それでも手に入れたい人が世界中から集まり、ため息をつく。
カルマである。
日本で人気の隕石のグラムあたりの価格については、ここでは触れないこことする。

国内のミネラルショーでは、袋いっぱいの隕鉄が千円ほどで販売されている。
要は、日本に入ってくるのは、大量に落下し余っている銘柄で、量産用なのだ。
サハラ隕石の場合は事情が異なってくるが、発見される場所が場所だけに、扱いが難しいのが不人気の理由だと聞いた。
命名のアバウトさはそのためか。
隕石の世界は深いゆえ、詳細はわからない。

この価値観の格差の原因のひとつに、気候の差がある。
日本は湿度が高く、海に囲まれた島国である。
隕石の多くが金属から成る以上、管理に気をつけていてもいずれ錆びてしまう。

隕石には三種類がある。
惑星の大部分を占めるのは石質隕石。
コアの部分は隕鉄、それらの境界にあたる部分はパラサイトと呼ばれる。
しかしながら石質隕石は、大気圏を通過するさいの高熱で燃え尽きてしまうため、発見されるのは僅かな量にすぎない。
パラサイトは数そのものが少ないから、最後まで残るのは隕鉄が中心、ということになる。
湿度の高い日本の気候では劣化しやすく、コレクションとして大量に管理するのは困難を極める。
そのため、日本に隕石市場が発展することはなく、一部の熱心な愛好家によって支持されるにとどまった。
乾燥した欧米の気候は収集家にとって圧倒的に有利。

写真のギベオン隕石のペンダントは、ウィドマンシュテッテン(特定の性質を持つ隕鉄を酸処理することによって、表面に出現する幾何学的な模様)のネーミングに負けて購入したもの。
アクリルかなにかで厚みをもたせ、見栄えよく作ってある。
錆びにくいという点では理にかなっている。
価格的に、隕石そのものはアルミホイルに等しい量だと思われる。
ギベオン隕石についてはご存知の方も多いだろう。
1836年ナミビアのギベオンで発見され、隕石の研究に貢献した最も有名な隕鉄のひとつである。
およそ4億5000年前に地球に落下したとされ、ニッケルを豊富に含むオクタヘドライトに分類される。
なお、かの有名なエルサレムにも、ギベオンという都市があったらしく、ギベオンだけだと誤解を受けることがあるようだ。

宇宙のロマンがビジネスに変わるとき、さまざまな興味深い現象が起きる。
星の彼方まで飛躍したかのような壮大な解釈が展開され、煽り文句は宇宙人との会話のようである。
参考に挙げたサイトは、その一般的な例。
以前から、こうした鑑定機関は位置づけとしては非常に難しいものと感じていたが、実際のところはどうなのだろう。

参考サイト:http://www.raku-kin.com/item/gibeon/index.html

資産価値を問わないのであれば、銘柄やグラム数などは無関係。
隕鉄をそのままブレスやペンダントに加工しようものなら、汗などですぐに錆びてしまう。
相当量の人工物が混在しているものを、偽物とするのは夢がない。
それでも買ってしまうのは私も同じだから。
いまだ解明されることのない、宇宙の謎の数々。
銀河の彼方には、古代から人々をひきつけてやまない魅力が確かに存在している。


20×10mm

2012/03/23

リビアングラス


リビアングラス
Libyan Desert Silicate Glass
Gilf Kebir, Libyan Desert, Egypt



私はホテルの一室に入っていった。
暗い室内の床に青いビニールシートが貼られている。
大量の黄色い物体が積んである。
部屋には臆病そうな青年が一人。
「選んでいいか?」と尋ねると、彼は頷いた。
砂まみれになりながら幾つか選び、交渉に入る。

リビアングラスは、1932年にリビア砂漠で発見されたテクタイト(インパクトグラス)の一種。
2500~3000万年前に形成されたといわれている。
テクタイトとは、隕石の衝突に伴う衝撃で地表の岩石が溶け、冷え固まることにより成形された天然ガラスのこと。
多くは不透明な黒い塊で発見される。
クリームイエローの色合いを示すリビアングラスは、グリーンのモルダバイトと並ぶ人気であるが、産出は圧倒的に少ない。
写真の石は、リビア砂漠の砂付きで盛られていた中から幾つか選んだもののうち、まだ手元にあったもの。

リビアングラスの正体は、長い間不明とされてきた。
2006年、産地付近に巨大なクレーターがあることが判明、リビアングラスが隕石の衝突に由来する事実が確認されつつある。
また、クリストバライトのほか、エンスタタイトなどの希少鉱物が含まれていることが明らかになっている。

産地はリビア砂漠の奥深く、エジプト、スーダン、リビアの国境付近に広がるギルフ・ケビールと呼ばれる岩山。
世界の果てとも称される、過酷な土地である。
かつてはこの地に人類が文明を築いていたことが明らかになっている。
エジプトのピラミッドやツタンカーメンの墓から、リビアングラスで作られた護符や装飾品が発見されているのはご存知の通り。
高価な宝石だと思われていたのは、大半がリビアングラス、つまり天然ガラスであったものと推測されている。

天然ガラスであるからして、偽物も出てくる。
現在ブレスの形で流通しているものは、淡い黄色に着色されたガラスだという。
天然のリビアングラスを使っている場合も、ビーズの場合はほとんどがシリカ成分で補整、強化してあるらしい。
販売価格は数万~数十万ほど。
処理によりいくら耐久性を高めても、ブレスにかかる負荷は他の装飾品の比ではなく、数年経てば使い物にならなくなる。
石の世界で成功している人物が、ブレスではなく、パテックフィリップやフローレスのダイヤモンドなどをお持ちだったとき、なにかしら説得力を感じた。
ブレスでなければ効果が期待できないということはないので、無理はしないでほしい。

なお、最近エジプト政府がリビアングラスの採取を禁止したとの噂が流れている。
詳しいことはわからない。
希少価値が増しているという煽り文句には注意したい。
リビアングラスは、カルマの深い人に縁があるといわれている。
古代の泥棒も宝石と間違えたほど。
もしあなたのカルマが本物なら、私のように、いずれきっと本物のリビアングラスが届けられるはず。
焦らなくても大丈夫?


53×28×25mm(左側) 43.52g

2012/02/18

ストロベリークォーツ(& チェリークォーツ)


ストロベリークォーツ
Strawberry Quartz
Djezkazgan, Bektau Hills, Chemkent, Kazakhstan



盛り盛りいちご。
ストロベリークォーツと呼ばれる水晶は数あれど、元祖ストロベリークォーツといったらこれ。
カザフスタン産出のこのクラスターは、いちご女王の座に君臨して久しい。
その希少性、美しさから、収集家にとっては憧れの存在となっている。
赤い色合いは、水晶に内包されたゲーサイト(針鉄鉱)による発色とされる。
切断して研磨すると、中央に向かって赤~白のグラデーションとなっていることが多く、まるで本物のいちごのよう。

少し前までは数万もの貴重品だった。
幾度となく見かけたが、購入は後にも先にも一つだけと決め、見送っていた。
念願のストロベリークォーツをようやく手に入れたのは、昨年の終わり。
五千円まで下がっていたので、決断に踏み切った。

カザフスタン産ストロベリークォーツは、先端にかけてスモーキーの色合いが入っていることがある。
まるで、少しいたんだいちご。
果物は新鮮がよろしい。
写真ではやや赤みが強く映っているが、現物は素朴な色合い。
研磨し樹脂でコーティングして外観を整えた標本が、これまでの主流だった。
昨今の原石標本は未加工品に価値を置かれているよう。
美しく自然でとてもいい。
ダメージのある個所もみられるが、気にならない程度。
むしろ険しい道のりをよく耐えたものだ。

ストロベリークォーツはカザフスタンの標高四千メートルもの山岳地帯から産出するという。
採掘には困難が伴い、険しい山道を経て、馬を使い街まで運ばれているそうだ。
立ち入れるシーズンは限られているとのこと。
現地の情勢は決して良好とはいえず、採掘がいつ中断されてもおかしくない状況ともいわれている。

ストロベリークォーツと呼ばれる水晶は他にも存在する。
ブラジルやマダガスカルなどから産する、ハーレークインクォーツ、ファイヤークォーツと呼ばれる水晶がそう。
外観と価格で判断できるから、一通り見て目を鍛えておこう。
時にはクォーツと呼べないものも混ざっている。
アヴェンチュリン(クォーツァイト/岩石)やマスコバイト(雲母)、中国製のチェリークォーツ(グラスビーズ)などがストロベリークォーツとして流通している。

中でもチェリークォーツは呪われた石。
というのも当初、チェリークォーツが天然石として紹介されたために、誰もがそれを信じてしまったのだ。
「美しいチェリーピンクの水晶」はすぐに注目を浴び、高い人気を得た。
その正体が明らかになったとき、誰もが唖然とした。
チェリークォーツを取り扱った多くの業者が損害を受け、廃業する者も少なくなかった。
当時の在庫は未ださばけておらず、グラスビーズとして二束三文で流通している。
天然石と明記している場合はお店の人に聞いてみよう。

日本に偽物が集中するのには訳がある。
たぶん仏教国だからだろう、数珠が大いに好まれるのである。
石がビーズに加工される場合、専門家でも真偽の見分けは難しい。
原石を見れば一目瞭然なのに、原形をとどめていないのだから。
男女問わず数珠に走るのが不思議でならない。
ビーズに本物を求めるなど、滅茶苦茶だ。
宝石と異なり、すべてを鑑定することができない(サンプルのみの鑑定になる)から、リスクは高まる。
あなたのそのブレスがカザフスタン産のストロベリークォーツで作られたものなら、べらぼうに高かったはず。
ゆえに、より一層のご利益が期待できる。
信じる者は救われる。
ストロベリークォーツは、チェリークォーツの被害に遭われた犠牲者への祈りを捧げるにふさわしいパワーストーンであるといえよう。


40×35×22mm  33.68g

2012/02/16

スギライト


スギライト Sugilite
Karahali Mn Field, Northern Cape, South Africa



パワーストーンブームに火を着けた重要な鉱物。
日本人が最初に発見した高貴な紫色のヒーリングストーンとして紹介され、定着している。
和名の杉石は発見者の一人、杉博士に因むもの。
スギライトの名がそこから来ているのは有名なエピソードである。

前回のラリマーチャロアイト同様、今となっては懐かしい「世界三大ヒーリングストーン」のひとつ。
90年代後半、クリスタルヒーラーのジェーン・アン・ダウ氏(2008年没)に見い出され、ニューエイジの石として紹介されたのがきっかけで、世界的に注目を集めることとなった。
浄化要らずのマルチパワーを発揮し、敏感な人は石酔い(石のパワーにより飲酒したように酔いがまわる状態。いかに優れた感性の持ち主かということを示している)するといわれている。
しかし、どうも最近見かけない。
日本最大のスラム街でも話題になるくらい人気のパワーストーン・スギライト。
もしこれが実体のないものだったとしたら、皆様はどう思われるだろう。

賢い主婦は、見た目の良い野菜より、見た目は悪くとも安全な野菜を買い求める。
同様に賢い消費者は、見た目にこだわらず、本物のスギライトを買い求め、そのパワーを享受する権利がある。
しかしブレスの場合、同じ色合いで統一しなければ、商品としての見栄えが悪く不利になる。
天然石においては非常に難しいことなのである。

スギライトには本来、これといった色味はない。
紫のほか、白や黒、赤や青、グレーなど、色合いには幅がある。
要は紫色とは限らない。
しかし、紫の石として定着してしまった以上、売り手は考えうる限りの手段を駆使し、紫のスギライトを販売せねばならない。
そのため「紫の天然石=スギライト」という大胆かつ分かりやすい売り方が常識となっていく。
消費者は、不自然なまでに紫なビーズをふんだんに使用した「スギライト」のブレスを、言われるがままに買い求めた。
いっぽうで本物のスギライトが偽物扱いされるなど、事態は混乱を極めた。

南アフリカから美しい紫のスギライトが産出していたのは確かである。
ただし、色は紫だけではなかったようだ。
いつ頃からスギライトが別のモノに切り替えられたかについてはわからない。
自分はスギライトは原石しか扱った記憶がない。
4年程前には既に、怪しい気配が漂い始めていたような気がする。
恩師さえもトラブルに悩んだと聞かされた。
現在も入手可能なスギライト製品の多くは、パープルジェイドとよばれる石の類いであろう。

原石のほうはまだ流通があるけれど、スギライトのブレスは最近見ていない。
もしまだ紫のみの石で統一された商品を販売しているところがあれば、怪しいと思っていいだろう。
混ざりけのない高貴な紫。
「石酔いで頭がボーっとする、触ると手が痺れるようだ」
誰もが口を揃えてこう言った。
大いに崇められた気高い紫の石は、人の手によって創られた幻想に過ぎなかったのである。

なお、1942年に愛媛県で杉博士らによって発見された最初のスギライトは、淡~いミントグリーン(wikiでは「うぐいす色」表記)であったという。


15×10×5mm  1.51g

2012/02/12

ラリマー


ラリマー Larimer
Barahona, Dominican Republic



ドミニカ共和国から産出する、カリブ海の青い宝石、ラリマー。
ラリマー(ラリマール)とは現地での呼び名で、正式にはブルー・ペクトライトという。
「三大ヒーリングストーン」の一つとして、スギライト、チャロアイトとともに人気を博した。
中でも美しいスカイブルーのラリマーは、愛と平和、人と自然との調和を象徴するパワーストーンとして、誰もが憧れた人気商品だった。
先日、大阪市N成区のスラム街にある違法露店でラリマーのブレスを見ていたら、店主から「それは世界三大ヒーリングストーンだ」と声を掛けられた。
我に返った。
そういえば最近聞かない。
スギライトはその存在すら危ういし、残りの二つは枯渇寸前。
かつての謳い文句も、それらが幻とわかった今、死語になりつつあるのかもしれない。

写真のラリマーは、荷物を整理していたら偶然出てきたもの。
発送のために梱包して段ボールに仕舞ってあった。
こげ茶色の母岩の中に柔らかな質感のラリマーが詰め込まれているさまは、巨大なキウイを思わせる。
スライスした研磨品は今も流通があるが、こうした未研磨(割ってはあるかも)の原石は滅多に見かけなくなった(スライスについては本文下に写真を掲載、二つで約五百円。この状態では、私には本物か偽物かは判別できない)。

ペクトライトは世界各地から発見されているが、独特の濃淡を伴うスカイブルーのペクトライトは、ドミニカ共和国産のみ。
もともと希少性が高かったこと、また近年世界的に注目を集めたために、産出は激減。
発見から30年余りで枯渇の危機に晒されることとなった。
採掘現場はより危険な場所へと移っている。
噂では現場はもはや崖、らしい。
事実かどうかはわからぬが、転落事故による死者が相次いでいるといわれている。
人間と自然との調和を表す石、のはずだった。
最近では霊能力者がラリマーを見て「呪われている!」と大騒ぎすることも珍しくないという。

産出の激減とともに、価格は上昇を続けている。
ラリマーのブレスの販売価格は、概ね十万を越えている。
天然石の加工に関しては世界一の技術を誇る中国での需要の急増にも原因があるという。
また、質も低下している。
黒や赤など不純物の混在した原石、色味の無い原石は製品にならないため、改良される。

なお、新型(※偽物ではない)のラリマーがブレスになって登場している。
色は美しいスカイブルー。
しかし、不自然な水玉模様が均等に入っており、中まで透けて見える。
「質を落とした廉価版」との説明だったが、どうも充填処理(色合いや形を整えるために他の物質で補強するなどして、作り変えること)を施されているよう。
本来ラリマーは不透明で、海中から見上げた青空のような、変化に富む模様を楽しむものだった。
廉価版といっても決して安いわけではない。
池袋ショーで並んでいたそれよりも、雑貨店で選んだプラスティックのアクセのほうがモノとして自然に感じるのは、私だけだろうか。

アイスラリマーと呼ばれている模様。人工石、処理石の如何を明らかにせず、ばらまかれている状態とみられる。また、ブルーアラゴナイトが極めてラリマーににており、原石であっても見分けがつかないことには、十分注意したい。業者側の見極めと、良心にかかっているといえるだろう。

ペクトライトでない他の岩石が染色され、ラリマーとして流通しているという話は有名だが、加工技術のほうも飛躍的に向上している。
リスクの高い買い物になることは覚悟しておいたほうがいいかも。
できればビーズではなく原石をおすすめしたいけれど、こちらも質は落ちている。
発送しなかったのはわざと。
久しぶりに再会し、神妙な気分になった。




52×45×31mm  74.08g

今週、話題性が確認された10の鉱物

What Mineral Would You Take with You to A Deserted Island?