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2013/02/08

アルベゾン閃石/ヌーマイト


アルベゾン閃石
Arfvedsonite
Kangerdluarsuk, Ilímaussaq Massif, Greenland



あのヌーマイトの「偽物」として有名になりつつあるアルベゾン閃石/アルベゾナイト。
無人島では今、最も話題の鉱物のひとつである(→詳細はヌーマイトにて)。
昨夜、突然にも大事件が発生した。
早速ご報告していきたい。

写真はたまたま倉庫から出てきた貴重品と思しき標本。
なんと、アルベゾナイトと書かれているではないか。
しかも産地はグリーンランド。
ラベルに書かれている産地はヌーマイトと全く同じだった。
不審に思い調べたところ、なんとアルベゾン閃石が最初に発見されたのはグリーンランドであることが判明。
写真の石は原産地標本ということになる。

面白いのは、この標本がかなりの珍品であるということ。
ある歴史的収集家の遺品を運よく手に入れた。
手書きのラベルは茶色に変色しており、相当の年月が経過していることを物語っている。
初期に採取された標本の可能性もある。
現在、グリーンランド産アルベゾン閃石は全くといっていいほど流通がなく、安価な中国産アルベゾン閃石がヌーマイトの偽物として話題に上っている。
中国・内モンゴル産アルベゾン閃石は細かなブルーグリーンの神秘的な閃光を放ち、なるほど宇宙を思わせる。
誰もがヌーマイトだと思い込んでしまったのも無理はない。

アルベゾン閃石は単なる偽物ではなく、れっきとした鉱物である。
1823年、グリーンランドで発見された角閃石の一種で、現地からヌーマイトが発見されたのが1810年だから、その差わずか十年余り。
混同されずに報告されたのが不思議なほど、両者には深い縁がある。
データには放射状のイリデッセンスがみられるとあるが、ものの見事に真っ黒だ。
分厚い板状の塊に広がる繊維状の結晶構造は、ヌーマイトのそれとは異なっている。
やけに酸っぱい臭いが鼻につくのは、謎である。
漆黒の結晶を光にあてると薄っすらとシルバーの光沢が現れる。
ときにルチルと混同されて販売中(!)であるという、内モンゴルのアルベゾン閃石に見られる豪華な青系の輝きは見られない。

ここで気になるのは、グリーンランド産ヌーマイトと信じられている石。
実はアルベゾン閃石では?
…という疑問である。
おそらく、心配はいらない。
全体の質感やシーンの色味、形状を見ればその違いは一目瞭然(気になる方はファイナルセールをお待ちください)。
中国産アルベゾン閃石の放つ、繊細でシャープなブルーグリーンのシーンは、ヌーマイトには現れない。
一部に共生している可能性はある。
ただ、グリーンランドからアルベゾン閃石が産したのは、ほんの一時期だけだったようだ。
現在はヌーマイトよりも入手困難のよう。
写真の石もラベルを見た限りでは採取されてから少なくとも50年は経っている。
グリーンランドから産した幻の希少石、アルベゾナイト。
そんな折、中国から大量にアルベゾン閃石が発見され、グリーンランド産ヌーマイトとして流通した、という嘘のような本当の話。

では、どうしてヌーマイトとアルベゾン閃石の産地が被ってしまうのか。
実はこのグリーンランド・ヌーク地方は、希産鉱物の宝庫として知られる土地。
ロシアのコラ半島、カナダのモンサンチレールに並ぶ希少石の名産地で、他所からは見つからないレアストーンが、不思議なことにロシア・カナダ・グリーンランドの3ヶ所に共通して発見されている。
グリーンランドの知名度が低いのは、土地の規模だろうか。
ロシアやカナダの産出量には及ばない。
価格も高額になる。
グリーンランド名物のヌーマイト、ツグツパイト、蛍光ソーダライト、ハックマナイト、ユーディアライト、ウッシンジャイト、アナルシム、そしてこの悪名高きアルベゾン閃石。
実は、ロシアやカナダからも報告されている。
ヌーマイトとアルベゾン閃石の2つの鉱物には、どうも因縁めいた関連性があるようだ。
ただ、中国からはヌーマイトは発見されていない。
共生している様子も全く無い。

日本では、ヌーマイトの偽物としてのアルベゾン閃石がもっぱら問題視され、両者の関連性については明言を避けている。
確かに、グリーンランドからもアルベゾン閃石が出るという事実が明らかになれば、市場はさらなる混乱をきたすだろう。
グリーンランドの名を利用して、在庫を売り尽くそうとする業者も現れそうだ。
"稀少!グリーンランド産アルベゾン閃石" が製品化されることはあり得ないので、くれぐれも気をつけていただきたい。
そうした意図のもと、あえてこの標本を紹介させていただく。

グリーンランドから届けられる輝きは、ヌーマイトだけではなかった。
アルベゾン閃石も価値ある鉱物であることを、この歴史的標本は教えてくれた。
どうしてこんなものを購入したのかについては、全く覚えていない。
初めてこれを見た時の感想は、

なんて地味な石なんだ!

もちろん偽ヌーマイト騒動については全く知らなかった。
偶然にせよ、買っておいて良かったと心底思った。


80×38×12mm  89.03g

2012/10/21

ヌーマイト


ヌーマイト Nuummite
Godthabsfjnord, Nuuk, Greenland



今回オークションに参加させていただいて、奇妙な印象を受けた石がいくつかある。
思わぬ事故で作業が遅れてしまっているので、簡潔にまとめたい。
その石のひとつがヌーマイト。
「グリーランドから発見された、地球上で最も古い石」として各方面で話題になり、人気のある鉱物のひとつである。
クリスタルヒーリングにおいては特に重視され、強い保護の石として知られている。
ある方へ石を贈ろうと、偶然手に取ったジュディ・ホール氏の著書。
開いたページにヌーマイトがあった。
早速この石について調べたところ、ある疑問が浮かび上がったので報告したい。

本来ヌーマイトは滅多に輝かず、一部がキラリと光るもの。
ところが、このところ流通しているヌーマイトは、全体が豪華絢爛に輝いている。
また、華やかさに反して、冷たい印象を受ける。
ヌーマイトの放つ光は温かなイメージだったはず。
画像から検索してみたところ、明らかに二つのパターンがみられた。
ひとつはゴールデンレッド~イエローの輝き。
もうひとつはシルバーブルー~グリーンの輝き。

以前、暖色系と寒色系の違いについて記した(→詳細はこちら)が、そのトリックがここでも用いられていた様子。
なんとWikipediaにもこの件が取り上げられており、簡潔にまとめられているので引用させていただく。

黒い地に、パラパラと散らばる玉虫色の細い破片(研磨したアルベゾン閃石に見られる針の集合のようなものではない)が光る。光り方が似ているところから、アルベゾン閃石と間違えられやすい。」(以上wikipediaより引用)

新しく発見されたという中国・内モンゴル産ヌーマイト。
シルバーブルーの輝きが放射状に広がっている。
外観や特徴は内モンゴル産アルベゾン閃石に同じである。
どちらも珍しいが、ヌーマイトはかなりの希少石であり、決して身近な存在ではなかったはずだ。
また、色相から受けるインスピレーションは全く異なるはずなのに、なぜ両者が混同されているのだろう。
アルベゾン閃石をヌーマイトとして取り入れ、流通を増やしたのだとしたら、高級品だけに衝撃は大きい。
中には画像を編集して石をむりやり赤く見せているところまであるが、大丈夫なのか。

ヌーマイトに関して、私の手持ちにアルベゾン閃石は無かった。(→あったが若干異なっていた。こちら
私が最初に手に入れたヌーマイトが「本物」であったからこそ違和感を覚えたのは確か。
尊敬する大先輩であり、お世話になっている日本のディーラーさんがツーソンで仕入れられたものだった。
過去にその方から譲っていただいた思い出のヌーマイトの写真を下に掲載した。
氏には心から感謝し、今後のご活躍をお祈り申し上げる。



左はヌーマイトの原石、右は初めて手にした思い出のヌーマイト


14×10×8mm

今週、話題性が確認された10の鉱物

What Mineral Would You Take with You to A Deserted Island?