2013/04/07

ウッシンジャイト/ツグツパイト


ウッシンジャイト Ussingite
Ilimaussaq complex, Narsaq, Kitaa Province, Greenland



ウッシンジャイト(アッセンガイト/ウッシンガイト/ウッシャンジャイト/ウッシング石/ウシン石)。
グリーンランドを代表する、名前に統一感の感じられない希少石である。

同様の印象を受ける石に、ツグツパイト(タグタパイト/タグツパイト/トゥグツパイト/ツグツープ石/ベリリウム方ソーダ石/トナカイ石など)が挙げられる。
両者はいずれもソーダライトの仲間で、グリーンランド、ロシアのコラ半島、カナダのモンサンチレールの3ヶ所から僅かに発見されている。
当初、私のこよなく愛するウッシンジャイトをメインに記す予定だったが、興味深いことがわかってきた。
ここでは現地から産する蛍光レアストーンについてまとめてみたい。

私とウッシンジャイトとの出会いは、米H&E社の研磨品。
独特のミルキーピンクにダークブラウンのエジリンが混在するさまは、まるで絵画のように美しかった。
決して安くはなかったのにリピートしてしまうこと数回。
手持ちのウッシンジャイトはというと、これまでH&E社製品に独特の三角形の研磨品だけ。
他所ではまったく見かけなかったのだ。
先日、思いがけずウッシンジャイトの原石が格安で出ているのを見かけた。
勢い余ってをようやっと手に入れたのが冒頭の写真の石。
瑞々しい桜色とカルセドニーのようなデリケートな質感に、春の訪れを感じる。
まるで桜餅のよう。

H&E社のウッシンジャイト、現在は産地がグリーンランドからロシアへ変更になっている。
質の低下は著しい。
ヒーリングストーンとして製品化されることもある石だが、ピンと来なかった方もいらっしゃるかもしれない。
ウッシンジャイトは世界的に稀産であり、美しい原石を大量に製品化するのには無理がある。

さて、改めて調べてみたところ、ウッシンジャイトはブラックライトで蛍光するとあった。
初耳だった。
ただ、グリーンランド産はグリーン、ロシア産はオレンジと、産地によって異なる色合いに発光するという。
全く蛍光しないこともあるらしい。
同じ鉱物に異なる特性が認められるというのは奇妙である。
ソーダライトの仲間だというのもまた、アヤシイ(参考3を参照のこと)。
ならばと早速、手持ちのブラックライトを引っ張り出して撮影したのが、本文下の写真。

不可解なことになった。
グリーンでもオレンジでも無蛍光でもない。
一部のみ、ピンク色に光っているのである。
部屋の明かりをつけて思った。
もしやコレ、蛍光性の無いウッシンジャイトにツグツパイトが共生しているのでは?
というのもこの標本、しばらく経っても一部が淡いローズピンクに蛍光したままなのだ。
照明をつけたのちも、暗所における蛍光時のピンクの色合いが依然として残るという特異な性質が、希少石ツグツパイトが愛されてやまない理由のひとつではなかったか。

実はウッシンジャイトとツグツパイトの産地は全く同じである。
ウッシンジャイトに共生する、ツグツパイトだけが蛍光したのだとしたら、実に興味深いではないか。
蛇足ながら現地からは、ヌーマイトやアルベゾン閃石、そしてソーダライトやハックマナイトも産出する。
これらの鉱物が共生して発見されることも珍しくないという。
まさに豪華絢爛、希少な蛍光鉱物の謎に迫る格好のチャンス到来である。

参考1)蛍光するウッシンジャイト(Ussingite)とツグツパイト(Tugtupite)の様子
http://www.minershop.com/html/ussingite_mindata.html


ソーダライトにまつわる蛍光鉱物についてまとめると以下のようになる。

(1)ウッシンジャイトグリーンまたはオレンジに蛍光する
(2)オレンジに蛍光するのはソーダライトである
(3)ソーダライトハックマナイトオレンジアフガナイトピンクスキャポライトイエローに蛍光する。
(4)ウッシンジャイトが必ずしも蛍光するとは限らない
(5)ウッシンジャイトツグツパイトと共生することがある
(6)ツグツパイトローズピンクに蛍光する
(7)産地は蛍光鉱物の宝庫である(グリーンランドはウランの産地としても知られている)

参考2)参考サイト(英語)
http://www.minershop.com/html/pg_4.html

参考3)ソーダライトの仲間たち(過去記事より)

以上から、この標本は、希少石ウッシンジャイトとツグツパイトの共生した、豪華レアストーンの可能性がある。
先月ヌーマイトとアルベゾン閃石の謎に迫ることができたのは幸運であった。
おかげでグリーンランド独特の産状が見えてきた。

蛍光ソーダライトの謎が未だ解明されていないのは事実のよう。
誰もが混乱を起こしている。
ソーダライトがその鍵を握っているのは明らか。
グリーンランドにはその手がかりであるソーダライトと、その仲間たちが眠っている。




ご縁あって手に取ったグリーンランドの鉱物たち。
写真左、右の石は、ツグツパイトに共生したウッッシンジャイト。
奥はソーダライトに共生したウッシンジャイトとみられる。
左はなんと、ハックマナイトと共生したウッシンジャイト。

写真右は非常にやっかいな例。
どちらもツグツパイトに見えるが、右側はおそらくハックマナイト。
蛍光したさいの色合いから判断した。
一見するとわからないため、誤ってツグツパイトとして流出した模様。
以上、資料提供にご協力いただいたT様に心から感謝申し上げる。

本文下の写真は、冒頭の写真にある標本の蛍光写真。
考察に従うと、わずかに見えるピンクの発光部分はツグツパイトとなろう。
このウッシンジャイト/ツグツパイトやヌーマイト/アルベゾン閃石の他にも、現地から産出する稀産鉱物は数知れない。
カコートカイト、グリーンランダイトなど、珍しいだけでなく純粋に美しいと感じさせる素晴らしい鉱物が産出している。

希少石ながらニューエイジストーンとして根強い人気のあるウッシンジャイト。
光沢のある、混ざりけのない色濃いピンクの石を見かけられたら、ぜひ手にしていただきたい。
美しさのみならず、なんと超能力の開発やテレパシーの強化に関与するというから驚きだ。
ただし、使いみちを誤ると取り返しのつかないことになるという。
或いは持つ人に主体性をもたらし、絶望を希望に変え、実りある人生へ導くということであった。




40×33×15mm  16.81g

2013/04/03

ピンクフローライト(ペルー)


フローライト Fluorite
Huanzala Mine, Huallanca District, Dos de Mayo Province, Peru



欧米にはフローライト専門の収集家が数多く存在する。
彼らのこだわりと財力は果てしない。
もともとは鉱山の副産物であったフローライトが、閉山後に主役に取って代わる例も多い。
なかでもピンクのフローライトは、収集家が求めてやまないとされる貴重品である。

好まれるのは、透明感のある結晶にピンクの色合いが入ったもの。
スイス産やフランス産のチェリーピンクが有名だが、貴重品であり、日本には良品は入ってこない。
近年注目されているのはパキスタン産。
こちらは直接日本に入ってくることもあるが、彼らもプロだから簡単には落とせない。
世界規模で需要があるパキスタンのピンクフローライトだけに、現地のディーラーたちも強気なのだ。
なお、メキシコ産のパープルピンクはいっとき大いに流通があったが、ピンクフローライトに含めるかどうかは議論の分かれるところ。
色としてはパープルに近いため、安価なピンクフローライトとして扱われることが多い。

ペルーやモロッコから産出するピンクフローライトは、控えめなピンク。
写真の標本はペルー産出、骸晶の発達したデリケートな標本。
意外にピンクが濃い。
溶けて原形を留めておらず、元々どんな形だったかはわからない。
最初の発見は1980年頃、その後も断続的に発見されているという。
お世話になっている社長から譲っていただいたもの。
調べてみたら高級品だった。

ペルーのピンクフローライトは意外な掘り出し物。
当たり外れはあるが、写真のような色濃く大きな標本が見つかることもある。
春の訪れを教えるかのように、先日姿を現した。
外はもう春真っ盛り。
桜が満開だ。


31×25×16mm  12.77g

2013/03/24

スーパーセブン(ジンバブエ産)


ルチル入りアメジスト
Amethyst/w Rutile Inclusions
Chundu, Kazangarare, Zimbabwe



タイトルはスーパーセブンだが、写真の石は定義上、スーパーセブンではない。
被害が拡大中の "スーパーセブンもどき" に渇を入れるため、ここで改めてスーパーセブンについて考察するのが、今回の目的である。

あちこちで見かける昨今のスーパーセブン(セイクリッドセブン・メロディストーン)は、実はスーパーセブンではない。
スーパーセブンに関する前回の記事(→こちら)にも記したように、ブラジルのエスピリトサント州のインクルージョン入りアメジストを指して、スーパーセブンと呼んでいる。
現在国内で主流となっているスーパーセブンは、アフリカや中国から産出したもの。
鉄由来の成分であるレピドクロサイトやゲーサイト、ヘマタイトなどが見えるアメジストが、高波動の石スーパーセブンとなって、量産されているのである。


今一度、スーパーセブンの定義を見てみよう。

  • ブラジルのエスピリトサント州の鉱山から1995年に発見されたスモーキーアメジスト
  • 水晶、アメジスト、スモーキークォーツ、ルチル、ゲーサイト、レピドクロサイト、カコクセナイトの7つの要素から構成される
  • エレスチャル成長していることが多い
  • 鉱山は水没し、絶産している
  • 南インド産など他の産地から出た似た石は、定義上スーパーセブンと呼ぶことはできない

以上が現時点でわかっているスーパーセブンの基準。
既に絶産しており、1995年発見のオールドストックにはプレミアが付いている。
市場に流通している信頼のおける確実なエスピリトサント産スーパーセブンは、鉱物標本として流通しているスモーキーアメジスト。
実は2004年に新しく発見された鉱脈から得られたものらしい。
世界的にも主流となっているのもこれ。
エスピリトサントの他所から次々にインクルージョン入りアメジストが発見され、あたかもオリジナルのような価値を与えられて現在に至るというわけである。

後発の新しいスーパーセブンには、ヘマタイトが含まれていることが多々あった。
そのためスーパーセブンには8つの要素が…と解説していたり、最初からヘマタイトが入っていると説明しているサイトさまを見かける。
しかしもともとスーパーセブンの7つの要素にヘマタイトは無い。
また、ルチルが入っているスーパーセブンが見当たらないというのは謎である。

写真は意外に見かけない、ルチルの金の針が入ったアメジスト。
近年ジンバブエから発見されたこの美しいアメジストには、見事な細い金の針が詰まっている。

カコクセナイトについては諸説あるが、昨年エスピリトサント州フンダンより半世紀前のストックが発見され、カコクセナイト入りとして高く評価された。
私も昨年、偶然にも鉱山主さんから直接入手した。
同じ時期に米Heaven&Earth社より独占買収があり、鉱山主さんからの放出は無くなったそうだ。
それらはロバートシモンズ氏によりパープルアンジェリンの名を与えられて、小さくカットされて流通している(→詳細はカコクセナイトアメジストにて)。

私は例のごとく、違和感を受けた。
エスピリトサント産インクルージョンアメジストであれば、正統派スーパーセブン。
…のはず、だった。
しかし、カコクセナイトアメジストは、エスピリトサント産にも関わらず、スーパーセブンではないことが明記されていた。
調べてみたら、エスピリトサント州は世界に名だたるアメジストの名産地で、複数のアメジスト鉱山が稼動中だった。
つまり、現在手に入る本家スーパーセブンというのも所詮、偽物に過ぎなかったのである。

ルチルはどこから出てきたのか。
ルチルを内包するクリアクォーツ、或いはスモーキークォーツは、世界中から発見されている。
しかしアメジストに関しては、ヘマタイトやゲーサイトなど鉄関連鉱物のみ。

先日、大先輩にあたるK女史が、ルチル入りアメジストというのは実在するのか?と指摘されていた。
存在はしていることを思い出した。
このジンバブエ産アメジストはルチル入りアメジストとして購入したもの。
アフリカ産出にも関わらず、詳細な産地もわかっている。
ゲーサイトやレピドクロサイトなどの赤い針に混じって見える細いゴールドの針は、明らかにルチル。
極太の金のインクルージョンは一般にカコクセナイトとされているが、その様子とは明らかに異なるものである。




同じジンバブエ産アメジストの裏側が写真左。
右は側面から撮影している。
ルチルの針が見えるのはおわかりだろうか。
一見するとクラスター、途中からエレスチャル状に結晶している。
ジンバブエ産は主にエレスチャルアメジスト、他にセプタータイプが特徴となっている。

南インド・カルール産アメジストにも似た透明感、豊富な内包物、そして美しい結晶形。
紫の色合いの美しさはカルール産アメジストには及ばないが、内包物そのものの美しさや豊富さにおいてはジンバブエ産を推したい。
現在宝石やペンダントとなって高額で流通している "レアな本物のスーパーセブン" は、南インド、カルール産である。
スモーキーの色が少なく、どちらかというとシトリンの割合が多い。
高いからといって本物とは限らないので、注意していただきたい。

パワーストーンブームに火をつけるかのように登場し、インクルージョンという言葉を一気に身近にした魔法のクリスタル、スーパーセブン。
2004年の時点で、もう違うものが流通を始めていたということになる。
2年後に私が鉱物の世界にたどりついた時には、既に南インド産が主流になっていた。
現在主流の中国産 "スーパーセブン" は内包物に乏しく、美しさに欠ける。
期待のオーラライトにはインクルージョンそのものが見えない。

スーパーセブンのブレスレットは中国産アメジストなのだから、チベタンセブン等に改名するべきである。
などと思っていたある日、私は1995年発見とされる本物のスーパーセブンを拝む機会に恵まれ、ようやく納得した。
メロディ氏が発見したスーパーセブンには、ルチルが入っていた。
当時のサンプルからはヘマタイトが出なかったってことなんだろう。
世界的にはヘマタイトを内包した水晶のほうが一般的であり、ピンクファイヤークォーツや、カザフスタンのストロベリークォーツも現在はヘマタイトインクルージョンというのが通説となっている。

クリスタルヒーラーのA・メロディ氏によって見出された最初のスーパーセブン。
現在はクリスタルヒーラーのオールドコレクションがわずかに流れているだけのよう。
発見者のメロディ氏自身、分けてくださるような手持ちはないと踏んでいる。
入手は極めて困難である。
ただ、スーパーセブンのパワーがいまいちよく伝わってこないと思っておられた皆様にとっては、朗報となろう。




41×40×32mm  36.16g

2013/03/20

スペクトロライトキャッツアイ/スキャポライトキャッツアイ


スペクトロライトキャッツアイ
Cat’s Eye Spectorolite
from India



先日、不思議なものを見かけた。
スペクトロライトキャッツアイなる石があるという。
ラブラドライトの輝きをより強めたかのようなスペクトロライト(→記事)は、れっきとしたレアストーン。
まるで別物だ。
スペクトロライトほど高くなかったのは不可解である。
スキャポライトという文字が頭をよぎる。
スペクトロライトとして販売されていた写真の石、スキャポライトキャッツアイにそっくりなのだ。

産地は不明、加工はインドということだった。
スペクトロライトとスキャポライトはつづりが似ている。
インド人が読み違えたという推測が可能だ。
タンザニアやスリランカからは、赤味を帯びたスキャポライトが発見されているという。
写真の石とそっくりで見分けが付かない。
スキャポライトキャッツアイが誤ってスペクトロライトキャッツアイとなって流通しているということかもしれない。

しかしながら、スペクトロライトには知名度がない。
いっぽう、スキャポライトはインドからも大量に産出する。
インド人が読み違えるのは奇妙である。
そう思って引き続き調べてみた。
スペクトロライトの和名は曹灰長石、つまり長石の一種。
キャッツアイを示す長石をあたったところ、とんでもないものを見つけた。

参考)スペクトロライトキャッツアイ
http://www.a-original.co.jp/gem/gem/spectrolite/1091.htm

上記リンクでは鑑別書にフェルスパー(長石)の文字が見える。
鑑別はなんと、中央宝研。
日本で最も信頼のおける鑑定機関だから間違えるはずがない。
もっぱらパワーストーンの鑑別を行っている、例のアヤシゲな機関とは格が違う。
スペクトロライトかどうかまではわからないが、長石グループのいずれかにあたるブロンズカラーのキャッツアイが存在する。
スキャポライト(柱石)とは異なる鉱物ということになる。
写真の石も、まさかのスペクトロライトキャッツアイ?

参考)※英語サイト
http://www.dandennis.com/scapolite.htm

上記サイトでは、ラブラドライト(スペクトロライト)とスキャポライトは同じ場所から産出することがあり、しばしばスキャポライトと間違えられて流通する、と述べられている。
と、いうことは…
あっている。
それだけではない。
スキャポライトキャッツアイとして流通している石の中に、写真と同じ石、つまりスペクトロライトキャッツアイが混在している?


4.21ct

2013/03/15

チベットモリオン(黒竜江省産)


チベットモリオン
Quartz var. Morion
Heilongjiang, Daxing'anling Prefecture, China



かねてから、チベットモリオンは実在するのかという疑問があった。
高波動満載のヒーリングストーンが多数発見されているといわれるチベット。
古くから旅人を魅了してやまなかった伝説の地、シャングリラからも、モリオン(黒水晶)が大量に発見されているという。
聖地チベットから産出する神秘のパワーあふれる黒水晶・モリオン。
そんな都合のいい話がこの世にあるだろうか。

以前アンデシンの記事にて、中国で産地の捏造が日常的に行われているおそれがあることを記した(注:チベットアンデシンについてはこちらの記事にて)。
未知の産地をとらえた写真がネット上に流れる時、善からぬ思惑が入り混じることがある。
パワーストーンの売り上げアップのために、採掘現場と称して撮影にモデルを起用し、チベットの神秘を演出してしまったという残念な例が実際にある。
今回は、人気のチベットモリオンの存在の如何について、大胆にも考察していきたい。

きっかけはチベット産レッドアンデシン。
採掘現場の写真をネット上でたまたま見かけ、違和感を感じた。
鉱山内の一箇所に、不自然なほどに宝石質の赤い結晶が、まとまった状態で詰め込んである。
選別作業において、選別を終えたアンデシンは見当たらない。
素人目にみても実際の採掘現場ではない。
その後、産地のねつ造が行われていたことが発覚した。
ひとつの疑問が生じる。
アンデシン同様、他所から産したモリオンをチベットにばら撒き、神秘性を高めた…としたら?

以前ウクライナ産モリオンにおいて、山東省でモリオン産出の確認がとれている旨、記した。
山東省産モリオンは長石を伴う一般的な黒水晶。
鉱物標本店で見かける、信頼性のあるモリオンは、もっぱら山東省産だ。
チベットモリオンはパワーストーン系のショップで見かけるのみ。

私は幸運である。
ある方のご厚意で、内モンゴル産モリオンの産地や原石の様子の写真を入手することができた。
産地の状況もみえてきた。
正確には、内モンゴル産ではなかった。
山東省産に匹敵する見事なモリオンが産出しているのは、内モンゴルに隣接の中国黒竜江省。

黒竜江省モリオンは、大きさといい産出量といい、見事としかいいようがない。
表面が白や緑の衣に覆われているのがその特徴と考えられる。
工事中に偶然見つかったとのこと。
ただ、多くは巨大な塊で産出するため、鉱物標本として扱えなかった模様。
そのため、ほとんどがビーズなどに加工されてしまったということだ。
市場を賑わせているチベットモリオンのブレスレット。
黒竜江省モリオンを加工して作られたものだったのだとしたら、実に残念なことになる。
いっぽう、現地の産状や詳細な産出場所については謎につつまれたまま。
資料にある鉱山の写真には、半ば砂漠のような荒野と、海か湖のようなものが見える。
産地の地名から調べても、はっきりした場所はわからない。

さて、まずは中国黒竜江省産の天然モリオンのサンプルを手に入れなければならない。
そんなものは市場には出回っていない。
おそらくはチベットモリオンにその名を変えて、ブレスレットなどの製品になって流出してしまっている。
まさかとは思うが、中には "人工的につくられた" モリオンも含まれているかもしれない。
モリオン(黒水晶)は、水晶に放射能をあて、原子炉で人工的に作り出すことが可能である。

中国黒竜江省モリオンの特徴である、白やグリーンの衣をまとった大きさのある黒水晶。
チベットモリオンとして流出している石をあたれば、見つかるかもしれない。
そんなことを考えていたある日、私は中国黒竜江省産とみられる天然モリオンを格安で発見した。

昨年の池袋ショーにてお世話になったブース。
お隣のブースに黒いブツが並んでいる。
チベットモリオンの看板が出ている。
お店の方には、チベット産ではなくモンゴル産のモリオンを探している旨、告げた。
「混ざってます」とのお返事だった。
いや、混ざってなんかいないはずだ。
すべて中国黒竜江省産のモリオンであると、私は想定した。
というのも、池袋ショーで購入した写真のチベットモリオンは、見事な白や緑の衣をまとっており、中国黒竜江省産モリオンの特徴に酷似しているのである。
数年前から人気商品として定番化しているチベットモリオン。
これが偽物だったら大変なことになる。

日本人からすれば、チベットとモンゴルはだいたい同じ場所。
だが実際のところ、モンゴルとチベットには、相当の距離がある(→地図/イエローの部分がモンゴル産モリオンの産地付近か)。
日本列島が3つほど入ってしまうくらい離れた産地の鉱物が同じものとはいえない。
内モンゴル付近から素晴らしいクオリティの稀産鉱物が産したことは、専門家によって多数報告されている。
しかしながら、現地に外国人が入る機会は少ない。

以上の考察の結果、チベットモリオンは、残念ながら産地偽造品であったと断定する。
チベットモリオンと呼ばれ日本中のファンを虜にした神聖なビーズのほとんどは、中国黒竜江省産。
産地偽造の発覚は、販売者にとっては大問題。
だが、消費者も真実を知る必要がある。

気になるのは中国の放射能汚染とチベットモリオンの関係性である(→詳細はチェルノブイリと黒水晶にて)。
チベットモリオンの産地は赤と青で示した(→地図)。
イエローで示したのがチベットモリオンが産出したとみられる場所。
中国北端、モンゴル自治区境界及びロシアとの国境付近にあたるということだが、正確な位置はわからなかった。
現地は肥沃な土地を有し農作物の産地として知られているという。
しかしながら、場所がよくない。
中国にとって最も "不要な地域" にあたるのは一目瞭然。
核実験が行われた可能性がある。
仮に核汚染で半人工的に "処理" されたモリオンがこの世に存在するとしたら、うわさになったチェルノブイリのあるウクライナではなく、中国なのではないか、と私は推測する。

参考までに、写真の標本と一緒に購入したチベットモリオンのポイント(→画像)を例に挙げる。
放射線処理を施され黒くなった、有名なアーカンソー産の人工モリオン同様、色ムラが著しい。

中国から大量の天然モリオンが発見される以前は、放射能で人工処理したモリオンが主流であった。
一般に人工処理の如何は、白い色ムラの有無、根元付近に透明部分が残っているかどうかで見分けることができるといわれる。
標本を裏返すと、根元部分に無色透明の結晶が見えるのは、この標本及び上記リンクの画像にある通り。

中国の核汚染を持ち出すのは安直かつ危険と承知している。
ただ、内モンゴルが放射能で汚染されているのは事実。
聖なる土地のはずのチベットについても、核汚染は著しい。
四川省大地震では核施設が爆発し、多くの即死者が出たと聞いている。
意外に知られていないが、中国は日本以上の地震大国である。
チベットモリオンと最初に耳にしたとき、チベットにおける深刻な放射能汚染由来のモリオンを疑った。
しかしながら、より汚染の深刻なモンゴル付近から不自然なモリオンが産出し、誤ってチベットモリオンとして流通した、というのが現実のようだ。

以前から、チベットモリオンを好きになれなかった。
山東省産モリオンは手持ちがあるが、チベットモリオンは持っていない。
モンゴル産(黒竜江省産)も気味が悪いので倉庫には置かないようにしている。
チベットモリオンのパワーを信じて購入された方には、残念な内容になってしまった。
少なくとも、放射能の影響で黒くなった天然黒水晶に間違いないこと、記させていただく。
真実は石のみぞ知るということになろう。



右は裏面の拡大写真。
ところどころに透明水晶が見えるのは人工照射モリオンの特徴。
この黒さは原子炉で短期間に黒く加工されたとは考えにくい。
左は緑の衣をまとった堂々たる正面写真で、チベットモリオンに顕著。


約150g

2013/03/10

マンドラビラ隕石


マンドラビラ隕石
Mundrabilla Iron Meteorite
Mundrabilla, Nullarbor Plain, Australia



前回うちゅうのおともだちをご紹介させていただいたところ、スピリチュアルだったというご意見が相次いだ。
残念なことに、うさこふにはスピリチュアルな要素が皆無である。
取り急ぎそれを表明しておく必要がある。

確か出始めはスピリチュアルカウンセリングだったか。
当時カウンセリングの勉強をしていた自分は、漠然とした不安を覚えた。
カウンセリングは占いや人生相談とは異なるはずだった。
不安は的中した。
カウンセリングは危険だと考える人も増えている。
人の人生を左右するという意味では、危険性は否定できない。
しかしながら、霊感商法の類いと混同されているのもまた現実。

そこで今回、まったくスピリチュアルな要素を感じさせない宇宙のお友達をご紹介させていただく。
マンドラビラ隕石という。
いろいろとツッコミどころが満載だ。
おどろおどろしいマンドラビラの名は、単に地名らしい。

鉱物を集めるようになってすぐ、購入した。
知識なんて全く無い状態で、どうしてこんなものを購入したのかわからない。
隕石といえばギベオン。
そしてロシアのシホーテ・アリンやアルゼンチンのカンボ・デル・シエロ。
購入した初の隕石がマンドラビラだったという方は他にいらっしゃるだろうか。

さきほど調べてみたら、意外に流通があった。
しかしながら私のこの素晴らしいマンドラビラに匹敵する標本は見当たらなかった。
このマンドラビラ、酸処理によってギベオンに似たウィドマンシュテッテン構造が現れるため、もっぱら処理されている様子。
サビを取り除かれ、ピカピカのシルバーのプレートに生まれ変わったマンドラビラ隕石たち。
まるで新品の工業製品のよう。
見た感じはギベオンとたいして変わらない。
鉱物市場の拡大に伴って、人々の興味はより珍しいもの、誰も持っていないものへとシフトしているが、不要な個性は取り除かれてしまうのが常だ。

マンドラビラ隕石は1911年、西オーストラリアのマンドラビラにて発見された。
種類としては鉄隕石(隕鉄)、専門的にいうとオクタヘドライトに分類される。
酸処理により、ウィドマンシュテッテン構造が確認できることは先ほども記した。
レアだとは思う。
こんなうちゅうのおともだちを持っているようでは、神秘のかけらもない。
恐竜のふんの化石だと言われても、どうか信じないでほしい。



2013/03/07

スターブラリークォーツ


スターブラリークォーツ
Starbrary Quartz
Corinto, Minas Gerais, Brazil



私にとって最も衝撃のクリスタルが手元にある。
宇宙のおともだちである。

写真の石がそう。
スターブラリークォーツという。
Star+Library=Starbrary(宇宙図書館)。
宇宙規模の情報を宿しているという。
本当に宇宙からやってきたらしいから、ただことではない。
鉱物としては、蝕像水晶、アイスクリスタルと同時期に話題になったコリントクォーツ(流星のように刻まれた模様を持つ蝕像水晶)や雷水晶に酷似している。
膨大な情報を含んでいると聞いてレムリアンシードを思い浮かべた方も多いはず。
全く別のモノらしい。

産地はコリントとは限らない。
世界中からスターブラリーは発見されている。
レムリアンシードが太古の人々の記憶を宿すのに対し、スターブラリーは人智を凌駕し、宇宙の域にまで達しているということである。
ただ、その基準や定義はまちまち。
グリフ(模様)で判断するというが、その真偽は直観、すなわちリーディング能力の如何に委ねられる。
えちごやが喜ぶ要素が満載である。
信用ならない人物から買うべき石ではないことを先ず、強調しておきたい。

アメリカのクリスタルヒーラーの間で話題になっていたスターブラリークォーツを、先日運よく手に入れた。
美しいと感じたから。
動機はそれだけだった。
日本での状況が気になって、調べてみた。
しかし、ネット上を検索しても見当たらなかった。
以前から知られていたというけれど、日本にはまだ入ってきていない。
ある方と出会うまで、そう信じていた。

私は本当に運がいい。
先日ご縁あって鉱物をお譲りした女性が、偶然にもスターブラリーのマスターだった。
初めてスターブラリーを手にしてから一ヶ月と経っていなかっただけに、今でも不思議でならない。
スターブラリーがスターブラリーを呼んだとしか思えない。
実際、そういわれている。
私はスターブラリークォーツが日本にもかなりの量、存在しているという現実に直面することになった。
ネット上で検索しても日本語の資料が見つからなかった原因はつまり、私が "スターブレイリークォーツ" と誤訳してしまっていたため。
その方に出会わなければ、真価もわからず、追加でお願いすることもなかっただろう。
スターブラリーかどうか判断するには、信頼のおけるプロのクリスタルヒーラーの力が必要不可欠。
悪質な業者を通すわけにはいかないのだ。

スターブラリークォーツには、いくつもの種類がある。
カシオペア、プレアデス、アルサマイナー(ごぐま座)、レオ、オリオン、アンドロメダ。
それぞれの星雲に属し、異なる力を備えているという。
これらを見分けるには素人には至難の業。
商品として扱うにあたっては、全種類見ておく必要がある。
写真のスターブラリーはアルサマイナーで、流星のようなマーキングが目印だと伺っている。
複数の要素が混じることもある。
上記の6つの特徴を備えたスターブラリーを、マスタースターブラリーと呼び、高い霊性を持つ人のみが扱うとされる。

"スターブラリー" で検索し直してみると、出てくる出てくる。
価格は軒並み一万を越えている。
中には、怪しい石も混じっている。
スターブラリーの名を付けて売り出そうという魂胆が見え隠れする。
レムリアンシード同様、良からぬ人々にその名を利用されるのは時間の問題だから、非常に危険なクリスタルであることを強調しておきたい。
本物に出会うことなしに偽物を見抜くことはできない。
日本にも信頼のおけるディーラーは存在する。
前述の女性もその一人。
今回は彼女のご協力を得て、スターブラリーという謎の水晶について記させていただいた。

彼女曰く、持ち主には相応の能力が求められるという。
スターブラリーの種類を見分けられる程度のリーディング能力がなければ、スターブラリークォーツは動き出さない。
グリフ(模様)に触れ、何もわからなければ、あきらめるしかない。
これは重大な問題である。
レムリアンには鉱物としての明確な定義があった。
しかし、スターブラリーについては、相応しい人物が持たなければその価値は永遠にわからないということになる。
偽物は存在し得ない。
持つ人の霊性に委ねられる。
偽物を本物と信じ込んでしまうようなディーラーが扱うことはない。

本当のことは、誰にもわからない。
だけど、うちゅうのおともだちならきっと解る。
遠い宇宙の彼方から集まった孤独な星たちが今、ひとつになろうとしている。
人智を超えた、春か宇宙に魂を委ねるのもわるくない。
そんな、存在。




注意)この水晶に似た石をスターブラリーと解釈しないよう、ご注意願います。
あくまで霊的な領域においてプロが判断すべきものであり、模様や雰囲気が似ていてもスターブラリーかどうかはわかりません。
アメジストにもスターブラリーはありますし、これといって模様がない場合もあります。
一般的な蝕像水晶にスターブラリーの名を付けて販売するのは絶対におやめください。


105×21×12mm  42.26g

2013/03/03

クオーツ/クローライト


絵に描いたような昆布
Quartz, Chlorite
Kharan, Baluchistan, Pakistan



デリケートかつ複雑に入り組んだ水晶クラスターに、クローライト(緑泥石)のコーティングが施された、大自然の芸術作品。
パキスタンから届けられる鉱物にはいつも驚かされてばかりだけれど、これは本当に驚いた。
一箇所、折れてしまいそうな部分がある(本文下に拡大写真を掲載)。
遠き彼の地から、よくぞ無事に届けられたものだ。

春のえちごや大感謝祭にご協力いただいたディーラーさんから譲っていただいた類い稀なる標本。
そんな春のえちごや大感謝祭を目前にして、騒ぎは起きた。
ある女性が、私を裁判で訴えるというのである。
無断転載・名誉毀損などがその根拠と、激しい口調で主張されている。
無断転載・名誉毀損の憂き目にあったのは、私である(事例1/事例2)。
偽物の販売に私まで加担したことになってしまった以上、無念を晴らさねばならない。
しかしながら、ご連絡の取れない業者様までいらっしゃる。
警察からは、ネット上のコンテンツに対し裁判は現実的ではないとの助言をいただいた。
これではいたたまれないと、業者様が "私の文章を添えて堂々販売されている偽物の本物" を必死で集めてまわった。
他に抵抗するすべはなかった。
さきほどの女性の主張は以下の通り。



クリックで拡大します

聞けば、その方がお住まいの沖縄で裁判を執り行うというではないか。
私に沖縄まで行くような余裕はないのだが、なぜ沖縄などで裁判を行うのか不審に思った。
私のブログを無断転用された商業サイトさまも、首都圏や関西に拠点をお持ちであり、全員が沖縄に集まるとは思えない。
そもそも無関係な第三者が、裁判を起こすというのは現実的ではない。
業者様が裁判を起こすとなれば、真摯に受け止めるつもりであったが、被害者が誰なのかわからない状況での裁判は、素人からしても不可解である。
せめて自分のブログをお読みいただくよう説得したが、読む必要はないと主張されている。
申し訳ないがブロックさせていただいた。

翌日、賛同者を名乗る女性が登場した。
司法関係の方だという。
明らかに同じ人物である。



クリックで拡大しましょう

私は販売者ではない。
削除依頼に応じていただけないがために、無言の抵抗を行っているだけである。
便宜上販売としているが、そのために利用しているサービスにはけっこうな手数料がかかっているから、事実上儲けなどない。
利益が目的なのではない。
非暴力での抵抗のつもりだった。
わけがわからなくなってきたので、以下にまとめたい。


この人物にまつわる七つの謎

1)無断転載、名誉毀損の被害を受けたのは私である
2)裁判における、かの人物の立ち位置が不明であり、無関係な第三者が起こす裁判にどのような意図があるのかもわからない
3)私と業者さまの間で何が起きたかわかっておられない人物が、私に対して被害者感情を露わにするのは宇宙的に矛盾している
4)沖縄で裁判を行う場合、全員集まらない可能性が高い。特に店舗が実在しない(と推測される)澤田氏は法的にまずい立場であり、電話すらつながらないため、裁判への参加は困難を極める
5)諸費用は誰が負担するのかがわからない
6)司法試験を突破した人物が、法律を熟知していない
7)ネットの匿名性を利用し誹謗中傷を行うのは犯罪である


以上から、この人物は自ら裁判の被告になるために登場したという推測が可能である。
外国人説、障害者説については、私に対して差別を行った彼女と同じ過ちに繋がるから、避けたいと思う。
現状は全員被告である。
おおっと、石の話からずいぶんそれてしまった。
このクォーツ、どこかで見た覚えがある。
もしや、これ?(→写真/絵に描いたような昆布
そしてこの文体、何度も見たことがある。
もしや、これ?(→ヤフーオークションにすまう悪魔の化身こと澤田被告

確かギルギット産として購入したもの。
カハラン産だったのかもしれない。
鉱物が奇跡的にもとの形をとどめることがあるいっぽう、人はいかに壊れやすいものかと痛感した。
まさに絵に描いた昆布である。




50×40×32mm  23.81g

2013/02/26

ブルーターラクォーツ


ブルーターラクォーツ
Blue Phantom Quartz/Tara Quartz
Ippupiara, Bahia, Brazil



ブルーの濃淡を伴う幻想的な青水晶。
このブルーは、内包されたリーベカイトとオレナイト(ブルートルマリン)による発色とされている。
鉄分とみられる赤い不純物との対比が面白い。
ブラジルはバイア州イブピアーラとミナスジェライス州の二ヶ所から発見されている。
同じブラジル産出、針状インクルージョンを伴うインディゴブルーの水晶(俗にいうブルールチル)とは様子が異なる。

ターラとはチベット仏教の女神のこと。
ブラジルからずいぶん離れたチベットの女神が、なぜこの水晶の愛称となってしまっているのか。
解釈に戸惑うところである。
ニューエイジの世界では、ターラはよく知られた存在。
ドリーン・バーチュ氏によって、アセンデットマスターとして挙げられているのはホワイトターラ。
ブルーターラではない。
ブルーファントムクォーツと呼んでいるところもあるものの、一般にはブルーターラの名で親しまれ、ヒーリングストーンとしての人気は上昇を続けている。

私が最初にターラクォーツを手に入れたのは、4年以上前のこと。
色はどちらかというとグレーに近かった。
水晶内部に広がる風景は、曇り空に降り続く雨が大地を潤すさまを思わせた。
当時はものすごく、高かった。
ビニールの袋から出すのには勇気が必要だった。
このブルーターラは、このほどバイア州からまとまって発見されたもので、以前よりお求めやすくなっている。
どちらかというと小ぶりだが、ポイント状に結晶していて、変則的な結晶形と幻想的な青いファントムを楽しむことができる。

ターラは日本でいうところの多羅菩薩。
チベット仏教において重要な役割を担う観音菩薩にまつわる女神である。
一説によるとターラ(多羅菩薩)は、この世から絶えることのない苦しみを前に、観音菩薩が流した涙から生まれたという。
右目からは白いホワイトターラ、左目からは緑のグリーンターラが涙からそれぞれ菩薩に姿を変えた。
両者は対照的で、女性性と男性性、静と動、慈愛と救済、長寿と財運などに対応する。
ターラは七つの眼を持ち、この世のあらゆる苦しみや悲しみを見つけることができるとされ、チベットで広く信仰の対象となっているらしい。
中国政府から逃れ亡命するさい、人々に像を持ち出されたほどだったという。
遠きチベットの祈りを異国の地にもたらすターラ。
なんと永遠の18歳だというから羨ましい。

ところでブルーターラは何なの?
と思われた方もおられると思う。
実はターラには21の化身がいるという。
涙から生まれたという話と矛盾があるような気もするが…

参考:21のターラたちを描いたタンカ(サイト運営者さま
http://www.thangkacafe.com/21tarawithclothes.htm

青いターラさんは見つかっただろうか。
現在はターラというと白か緑が主流で、21すべてのターラが描かれることは滅多にないそうだ。
つまり、ブルーターラはチベットではあまり知られていない。
実際にブルーターラがどのような役目を担うのかについては、チベット仏教関連をあたっても見つからなかった。
では、どうしてブルーターラの名が出てきたのか。
欧米のニューエイジャーの中には、ブルーターラに導かれてしまったスピリチュアリストたちがいる。

参考:ブルーターラ(英語)
http://lightgrid.ning.com/group/tara/forum/topics/blue-tara

上記サイトにおいては、ブルーターラは海を象徴し、悲しみや障害を取り除き、幸せと喜びを運ぶと説明されている。
人々の霊的覚醒を促し、サマディ(悟り)へと導くのはブルーターラだったのである。
ブルーターラクォーツはスピリチュアルな目覚めを妨げるあらゆる困難を破壊し、すべての苦しみを癒すパワーを備える究極のヒーリングツールであり…
えっ?

ホワイトターラやグリーンターラより凄いんじゃないの?

思うに、ブルーターラクォーツには、欧米のクリスタルヒーラーたちの飛躍したスピリチュアリティが大いに関連している。
チベット仏教において信仰されているターラは、ホワイトとグリーン。
欧米のニューエイジ界隈で注目されているターラはブルー、ということらしい。
ブルーターラはホワイトターラとグリーンターラの融合であるとしているところもある。
自然界には「ホワイトターラクォーツ」や「グリーンターラクォーツ」と呼べる色合いの水晶のほうが多く、ブルーはむしろレアなはず。
いや、過去には「ターラクォーツ」という名前だったような気がするのだが…
単にブルーをくっつけただけ?

以上から、ブルーターラクォーツは、誤解や発想の飛躍の結果生まれた特殊なクリスタルと結論づけられる。
本来のチベット仏教とは切り離して楽しむのがよさそう。
このブルーターラは小枝のようなポイントが飛び出した形状が面白い。
両端は一度折れてしまったとみられ、そこから新しい結晶がすくすくと成長している。
淡いブルーのインクルージョンが奥ゆかしい模様をおり成すさまは、ブルールチルとはまた違った魅力にあふれている。




63×23×16mm  21.74g

2013/02/24

マルチカラーアンバー


アンバー/琥珀
Blue Amber
Jambi, Sumatra, Indonesia



魅力的な鉱物が続々登場するインドネシアから、またもや面白い鉱物が見つかった。
数多くの島から成るインドネシア。
中でもジャワ島、スマトラ島、ボルネオ島は有名なアンバー(琥珀)の産地として知られている。
いずれも紫外線に反応して青く蛍光する。
色変化は顕著で、太陽光にすぐに反応し、青くなる。
そのため赤、紫、青、黄色といった多彩な色合いが現れるのが特徴で、その質や産出量はドミニカ産ブルーアンバーを超えるとの声も。

写真はスマトラ島から届いた上質のブルーアンバー。
太陽光で青く蛍光しているのがわかる。
まるでロジャリー産フローライトのような高貴なお姿だ(蛍光の様子は本文下)。
この産地のアンバーは、若干グリーンの入ったブルーに蛍光するようだ。

実は、全く期待していなかった。
祖父が戦争で行ってきたのがスマトラ島だったという理由でつい、購入した。
スマトラは第二次世界大戦において、戦争とは異なる闘いが繰り広げられた土地と聞く。
現地に向かった人々は、もっぱら大自然でのサバイバルライフに明け暮れたという。
つまり、戦争でスマトラに行った人々は、殺し合いとは無縁だったらしいのだが、南国でのサバイバルライフはひ弱な祖父には堪えたようだった。
このアンバーがみせる常識を揺るがす驚きの数々に、スマトラ島で祖父のが目の当たりにした現実と、その後の悲しい人生が凝縮されている。
いったいどんなところだったんだろう。
祖父が誰も殺さずに済んだのは私にとっては誇りだが、病んでしまうほどに過酷な生活だったのだから、気の毒である。

ブルーアンバーといえばこれまでドミニカ産がその代表格だった。
価格は恐ろしいことになっていた。
インドネシアからはドミニカ産を凌ぐといわれる質の良いブルーアンバーが数多く産出し、比較的安価で手に入るとあって、世界中の愛好家たちの注目を浴びている。
クリスタルヒーリングの分野でも取り上げられている。
今後価格は高騰するはずなので、今のうちに手にされておくことをおすすめする。
多くの原石が研磨加工用にまわされてしまっているのは非常に残念。
インドネシアという場所柄、ビーズにもなって流通を始めているのも確認しているが、見た感じは微妙。
原石ならではの美しさを存分に楽しむなら、早めのご購入をお奨めする。

なお、ボルネオ島のブルーアンバーは鮮烈なレッドの輝きが特徴で、ダイナミックな色変化が楽しめる。
興味のある方は是非手にしていただきたい。




30×23×14mm  6.26g

2013/02/22

リチウムクォーツ


リチウムクォーツ
Lithium Quartz
Cigano Mine, Bahia, Brazil



以前から大好きでたまらない石ががある。
リチウムクォーツという。
色はあずき色~ピンク。
赤や白の衣をまとっていることが多い。
リチウム成分が水晶内部に入り込んだもの、付着物として認められるものなど、その外観はさまざま。
ヒーリングストーンとしては有名で、リラクゼーションの石として人気は高い。

写真の石は赤色のインクルージョンを内包し、ファントムを呈している。
複雑な結晶形はブラジル産水晶ならでは。
研磨され、ビーズやタンブルとして売られていることも多いが、ポイント状の原石は実に見ごたえがあって変化に富んでおり、いくら集めても飽きないほど。

実はこの石、謎が多い。
リチウムは鉱物名ではない。
鉱物の成分のひとつである。
レピドライトなど、リチウムを豊富に含む鉱物が関与しているという説もあるという。
実際にどんな成分が内包されているかどうかは、分析してみないとわからないのに、色合いでリチウムクォーツと呼ばれてしまっている向きもあるようだ。

つまるところよくわかっていない。
リチウムクォーツの名は誤りであるとする向きもある。

リチウムクォーツは感情の高ぶりをおさえ、不安やストレスを軽減し、こころの平穏を取り戻すことができるといわれている。
リチウムといえば、向精神薬。
炭酸リチウムは気分性障害(そう病)の治療薬として知られているから、効能といいなんといい、リチウムのイメージで語られているのかもしれない。




××mm  g

2013/02/19

【豆知識】ダイヤモンドの選び方


ダイヤモンドを賢く選ぶには
How To Choose The Best Diamond



大好きなパワーストーンは?と聞かれたら、私はダイヤモンドと答えます。
古くから世界中で愛されてきたダイヤモンド。
パワーストーンとしては一般的ではありません。
なぜでしょうか。
そう聞かれたら
多くの人は次のように答えるかもしれません。

高いから。
興味がないから。
贅沢品だから。
似合わないから。
なにか恐ろしい感じがするから。

いずれも、ダイヤモンドそのものに興味を持つことそのものを避けておられる気がします。
興味を持って、調べて、よく見る習慣をつけていると、

実は、ダイヤモンドは500円くらいで購入できます。
必ずしも贅沢品というわけではないんです。
ダイヤモンドが贅沢品かどうかについては、私には判断しかねるところです。
写真のダイヤモンドはプラチナで三万円台ですから、パワーストーンのブレスのほうがかえって高いこともありそうです。

恐ろしい感じがする。

ある方から伺った言葉です。
実はこれ、うさこふも感じておりました。
昔々、五千円程度のチビダイヤの入ったペンダントを買ったんです。
どうも気分が悪い。
苦しい。
嫌な予感がする。
翌日には近所の神社に埋めにいきました。
パワーストーンなんて、まだ知らなかった頃ですが、本能的に神社に向かったのを覚えています。
いわくつきのダイヤを買ってしまったのかというと、おそらくそうではありません。
ただ、ダイヤモンドが恐くて買えずにいるという方はこうした体験をされたかもしれませんね。
さっそく考察してみましょう。

恐いダイヤモンドといえば、ホープ・ダイヤモンド。
インドから発見された青いダイヤで、その後持ち主が次々と悲惨な死を遂げたために、呪われたダイヤモンドとして有名になりました。
それから、ブラッディ・ダイヤモンド。
貧しい国では採掘されたダイヤモンドが戦争資金に変わっている。
戦争が血を思わせることからその名が付いたと聞いています。
こうしたいわくつきのダイヤモンドがブラックマーケットを通り、日本に入ってきている。
貧しい国々の人の悲しみや恐怖に共感し、良心からダイヤモンドを避けている方も多いかもしれません。
結論からいうと、呪われたダイヤモンドというのはある程度見分けられます。
そうです、安いものには訳があるんです。

冒頭のダイヤモンドが安かったのにも、訳があります。
では、みなさんはダイヤモンドを買うとしたら、何を基準にしますか?

1位:値段
2位:本物かどうか
3位:大きさ
4位:VVS2とか一般にいわれている基準をなんとなく
5位:いわれるがまま

※うさこふの脳内アンケート(修正あり)より

さて、値段ですが、これは重要です。
相場がある程度決まっているからです。
あまりにも高いのは問題ですが、あまりに安いものにも注意が必要です。
また、合計1ctと一粒1ctでは価値が全く異なりますから、合計のほうが安上がりです。
資産価値があるのは後者のみですね。

偽物を心配している方は多いかもしれません。
ダイヤモンドについては、古くから厳しい基準があり、鑑定書が付くのが一般的です。
鑑定書にある鑑定機関を見れば判断できますので、問題ありません。
わからなければ聞いてみましょう。
ただし、パワーストーンに鑑定書がついてきたら、詐欺を疑ってみたほうがよさそうです。
こんな手口が横行しています(→参考:ブラックマトリックスオパール)。

大きさです。
大きければ大きいほど良い、と思った人はさすがにいないと思います。
これが意外なポイントになるので、後ほどご説明します。

一般にいわれている基準というのは4Cのことです。
これは、ダイヤモンドの質を表す言葉です。
重要ですので、資料をあたってください。

参考:ダイヤモンドの鑑定書
http://www.nihongo.com/diamond/kantei/diamkans.htm

Cut(カット)Color(色)Clarity(質)Carat(カラット)、Cが4つで4Cです。
カラット(大きさ)とクラリティ(VVS1など)はわりと知られていますが、色とカットのほうも極めて重要です。
無色透明に近いダイヤモンドはD、不純物などで濁っていくに従って数値がup、遂にはZに至ります。
また、カットひとつで輝きが全く変わるといわれるのがダイヤモンドの世界。
高い技術は評価の対象になります。
ヨーロッパで職人たちが築き上げた技術を駆使し、美しいバランスを備えたカットを施され、ダイヤモンドの価値は決まるのです。
ハート&キューピッドと呼ばれるカットが最も高級品なんだそうです。
実は写真のダイヤモンド、カラーはD、カットも最高とされるハート&キューピッド。
実際の大きさより大きく見えるのは、輝きに優れているからです。
また、この上なく透明だというDの値は、ある目印になります。

このダイヤモンドが安い訳について説明します。
店員さんはよいことしか言いません。
パワーストーンと同じように、ある程度勉強して、後悔のないお買い物をしなければいけません。
安い理由はまず、小さいことです。
0.15ctしかありません。
しかし、カラーとカットが最高であるため、実際の大きさより大きく輝いて見えます。
ダイヤモンドは大きければ大きいほど不純物や欠損が目立ち、質は落ちます。
小さいほうが品質が良いものが多いというわけです。
大きさを追求すると、当然高額になりますから、ちょうどいいところで止めておくといいかもしれません。
最高級のダイヤモンドが1ctを越えると、桁が1、2桁変わるようです。
そして、このダイヤモンドが安かった第二の理由。
それは紫外線で蛍光するということです。

ブラックライトをあてると美しいブルーに輝きますから、レアストーンハンターにとっては嬉しいサプライズです。
蛍光性のあるダイヤモンドがきらわれるのは、太陽光で若干の色変化を起こすためです。
青に蛍光する場合は、ダイヤの輝きをより神秘的に見せることもあるのですが、黄色に蛍光する場合は失敗です。
石がくすんで見えるのです。
これは青ですから、私は折れました。
私が身につけているパワーストーンは、このダイヤモンドだけです。
このペンダントが来てから、不思議に良いことが続くんです。
以前購入し、神社に埋めたダイヤモンドとは何が違うのか…そんなことを考えていたある日のこと。

私はインターネットで見事なダイヤモンドを見かけました。
ある方の宝物ということだったのでお話を伺ってみると、どうもアヤシイ。
持つと幸せになれるダイヤモンドだとおっしゃいます。


そんなものは持ってみないとわかりません(現実)。

どうも、宝石カットの技術が世界一なんだそうです。
ある日本のカリスマが提唱した新技術だということですが、奇妙ですね。
中世から美しいダイヤモンドを極めるため、代々がんばってきたヨーロッパの宝石職人の技術に、たいしてキャリアもない日本人が勝てるというのは余程のことです。
宝石の世界でも名の知れた人物のはず。
しかし、聞いたことがありません。
ダイヤモンドの産地がしばしばわからなくなるのは、ヨーロッパで加工されているためなんです。
産地はアフリカだけではありません。
ロシアや中国からもダイヤモンドは産出しています。


さて、幸せになれるダイヤモンド。
大きさはなんと1ct超え。
価格は四十万程度とのこと。
内包物はみられませんから、かなりの質です。
おかしいですね。
安すぎるんです。

安いものにはわけがあります。
1ct超えで四十万は安すぎる。
問題は色です。

よくよく見ると色がくすんで見えます。
全体的に黄ばんでいるんです。
放射線処理で内包物を消し去ってしまった可能性があります。

参考:ためになる辛口宝石論
http://www.takara-kiho.co.jp/column/008.html

放射線処理という言葉はよく聞きますが、実際に何をどうするのか、意外に知らないものです。
原子炉にぶち込むそうです。
放射線処理というのは、いわば放射能で宝石を焼き殺してしてしまうことです。
ひときわ鮮やかな、青や赤、或いはブラックダイヤモンド。
現在入手できるこうした珍しい色目のダイヤモンドの大半は、放射線処理がなされています。
内包物を消し去って石のクオリティを上げ、たくさん売る必要があるんです。
どうも黄ばんでいると感じたら、放射線処理を疑ってみてください。
先ほどの幸せになれるダイヤモンドも、原子炉で被ばくしてしまった憐れな姿、ということになるのですね。

その方は原発事故を機にデモ活動に目覚め、熱心に原発廃止を訴えておられました。
よりによって被ばくダイヤをご自身の代わりにかかげるとは、皮肉なものです。
ご本人自慢のダイヤモンドは、原発がなければ作れません。
私が買ってすぐ埋めたダイヤモンドもおそらく放射線処理されていたのでしょう。
同じく放射能をあてて作られる人工モリオンで、気分が悪くなった時の感じに似ていたんです。
私だけではないようですから、本能的に危険を察知したということになるのかもしれません。
もし、気持ち悪いからダイヤモンドを避けていたという方は、質より色合いに注目してみてください。
もともとダイヤモンドは力の強い石です。
歴史がそれを物語っています。
放射能もまた、強いですから、不具合が起きてもおかしくありません。
放射線処理されていたかどうかは、素人の私には判断できません。
もし、被ばくダイヤを看板に、原発廃止を訴えようとされていたのだとしたら…
訳が気になります。

詳しいお話を伺いました。
どうも宝石を使った霊感商法の一種のようです。
「ダイヤモンドには全く興味がなかった」ような人をターゲットに、自社製品と低ランクのダイヤモンドを並べて買わせるという典型的な詐欺でした。
これまでにない素晴らしいカットがウリだといいますが、おかしいことは先ほど書きました。


ダイヤになど全く興味がなかった、というのがポイントです。


知識や比較対象など全くない状態ですから、このダイヤが最高だと信じ込んでしまいます。

カットだけが優れていても、石そのものが悪ければ、安く手に入ります。
放射線処理をすれば簡単、というわけですね。
ダイヤモンドだけに、安い買い物ではありません。

ルビーやサファイヤ、エメラルドなども人工処理を施して色合いを改善していきます。
放射線処理を行う宝石はダイヤモンドだけではありません。
パワーストーンの中にも紛れ込んでいます。
我々がいかに放射能に、原発に頼って生きてきたかということになります。
今や、あの騒ぎは忘れられてしまったかのようです。
世界は日本を恐れている。
被ばくダイヤがあやしく光輝きます。


宝石専門のみなさま、ツッコミをお待ちしております!

2013/02/15

マリアライト


マリアライト
Scapolite var. Marialite
Santa Maria do Jetibá, Espirito Santo, Brazil



以前ある方から、衝撃のリクエストをいただいた。
石はマリアライト、色はパープル、予算は千円だという。
聞いたことはある。
確か、中国・内モンゴルで外国人調査団によって紫のマリアライトが発見された。
持ち帰ったものの、珍しすぎて値段が付かなかったという話。

マリアライトといえば有名なレアストーン。
極めて特殊な条件を揃えたスキャポライト(柱石)で、滅多に発見されない希少石と聞いている。
写真は純粋なマリアライトの結晶で、透明感のあるインペリアルカラーを示している。
これでもかなりの額だ。
紫のマリアライトなど、世界中の収集家の憧れである。
日本に入ってきたことがあるとしたら、ほんの数回程度だろう。
ヒーリングストーンを中心にコレクションされている彼女が、どうしてそんな通好みな石をご所望なのかと不思議に思った。
そんなものが千円で手に入るという噂を流した人間がいるのだとしたら、えちごやのたくらみが疑われる。

調べてみたら、大変なことになっていた。
紫のマリアライトが大量に流通しているのである。
なんと、ビーズにまでなっている。
製品化されるほどに相当量の放出があったとは聞いていない。
マリアライトの名を語るアメジストやガーネットのように見えたりもする。
それにしても安い。
驚くべき解説まで添えられているではないか。

「透明感のあるバイオレット・カラーのマリアライトは、
聖母マリア様のエネルギーに繋がる石とされヒーラーからの人気が高いパワーストーンでございます。」

ええっ?
確かこれ、昔ネタとして流行しなかったか?
紫のスキャポライト=マリアライトではないし、マリアライトと聖母マリア様は無関係(詳細は以下)。
あたかも「紫のスキャポライトをマリアライトと呼ぶ」と誤解を与えるような解説文がコピペされ、広まっている。
マリアライト。
確かにいい名だ。
憧れる気持ちはわかる。
何年か前に自分もタンザニアのパープルスキャポライトを手に入れた。
もしかするとマリアライトかもしれない、とワクワクしながら調べたのを覚えている。
しかしタンザニアのパープルはどちらかというとメイオナイトらしい。
その一件以来、忘れていた。
いつの間にそんなことになっていたのだろう。
詳しいことは他の資料を参照していただくとして、ここでは大雑把にまとめる。


マリアライト(曹柱石)

  • スキャポライトのうち、ナトリウム(塩分)を多く含むものをマリアライト、カルシウム豊富なものをメイオナイト(灰柱石)と呼んでいる。
  • 色は一般的に白や灰色、クリーム色、無色透明など。稀に宝石質のゴールドやピンク、パープルが産出し、高額で取引される。
  • 通常はマリアライトとメイオナイトが混在した状態(固溶体)で発見される。両者の分類は困難で、表記はスキャポライトとするのが一般的である。
  • 紫外線照射で青、オレンジなどに色変化を起こす。
  • マリアライトの名の由来は聖母マリア様ではなく、発見者の奥さんの名前(クリスタルヒーラーではない)である。
  • マリアライト・ヒーリングとは関係ない。
  • 日本では紫のスキャポライト=マリアライトとして定着、マリアさまの愛に満ちた紫のクリスタルとして大量に流通している。デマなので注意してほしい。ネタには最適だが、パワーストーンの意味欄にはしばしば誤解や矛盾が見受けられる。
  • パープルカラーでないスキャポライトがマリアライトであるとは限らない。
  • マリアライト人気に反し、メイオナイトの意味については誰も言及していない。

アフガニスタンのパープル・スキャポライト(→写真)。
マリアライトかどうかは鑑定していないとのことだった。
詳細は下記、参考1より。
現在マリアライトとして流通している石の多くは、これと同じものか、他の安価な代用品を用いて作られたビーズではないかと思われる。


参考1)中央宝石研究所「テネブレッセント スカポライトについて」
http://www.cgl.co.jp/latest_jewel/gemmy/141/02.html

その方には、パープルのマリアライトを千円で入手するのは不可能であることをお伝えした。
そんなはずはないとおっしゃる。
私をえちごやと誤解されたのだろうか、連絡は途絶えてしまった。
マリアライトからマリア様のエネルギーを感じられていたのだとしたら、納得がいかないのであるが…

紫のスキャポライトといえばアフガニスタン産。
国内で多く流通している「マリアライト」はアフガニスタンのバダクシャンから産出したスキャポライト(→写真)で、ビーズにもなって登場している。
アフガニスタン産については、マリアライトとメイオナイトが混在していて、どちらともいえないらしい。
また、タンザニア産のパープルスキャポライトも同様とのこと。
いずれもスキャポライトとの表記が一般的で、マリアライトとメイオナイトを分けているケースは海外においては稀であった。
紫のマリアライトが千円で販売されていたとしたら、お店の人に実際の鉱物名を聞いてみよう。
もしかするとアメジストの類いかもしれない。

海外でもマリアライトはヒーリングストーンとして流通している。
色はくすんだ黄色、聖母マリア様との関連性についても触れられていない。
パープルの美しいマリアライトがお手頃価格で手に入るのは、どうも日本だけのようだ。


なお、無色やイエローのスキャポライトに放射線処理を施すと、見事なパープルに色変化を起こすらしい。
そして時が経つにつれて黒ずみ、濁った色合いへと変わっていくということである。


36×8×5mm 2.14g

2013/02/08

アルベゾン閃石/ヌーマイト


アルベゾン閃石
Arfvedsonite
Kangerdluarsuk, Ilímaussaq Massif, Greenland



あのヌーマイトの「偽物」として有名になりつつあるアルベゾン閃石/アルベゾナイト。
無人島では今、最も話題の鉱物のひとつである(→詳細はヌーマイトにて)。
昨夜、突然にも大事件が発生した。
早速ご報告していきたい。

写真はたまたま倉庫から出てきた貴重品と思しき標本。
なんと、アルベゾナイトと書かれているではないか。
しかも産地はグリーンランド。
ラベルに書かれている産地はヌーマイトと全く同じだった。
不審に思い調べたところ、なんとアルベゾン閃石が最初に発見されたのはグリーンランドであることが判明。
写真の石は原産地標本ということになる。

面白いのは、この標本がかなりの珍品であるということ。
ある歴史的収集家の遺品を運よく手に入れた。
手書きのラベルは茶色に変色しており、相当の年月が経過していることを物語っている。
初期に採取された標本の可能性もある。
現在、グリーンランド産アルベゾン閃石は全くといっていいほど流通がなく、安価な中国産アルベゾン閃石がヌーマイトの偽物として話題に上っている。
中国・内モンゴル産アルベゾン閃石は細かなブルーグリーンの神秘的な閃光を放ち、なるほど宇宙を思わせる。
誰もがヌーマイトだと思い込んでしまったのも無理はない。

アルベゾン閃石は単なる偽物ではなく、れっきとした鉱物である。
1823年、グリーンランドで発見された角閃石の一種で、現地からヌーマイトが発見されたのが1810年だから、その差わずか十年余り。
混同されずに報告されたのが不思議なほど、両者には深い縁がある。
データには放射状のイリデッセンスがみられるとあるが、ものの見事に真っ黒だ。
分厚い板状の塊に広がる繊維状の結晶構造は、ヌーマイトのそれとは異なっている。
やけに酸っぱい臭いが鼻につくのは、謎である。
漆黒の結晶を光にあてると薄っすらとシルバーの光沢が現れる。
ときにルチルと混同されて販売中(!)であるという、内モンゴルのアルベゾン閃石に見られる豪華な青系の輝きは見られない。

ここで気になるのは、グリーンランド産ヌーマイトと信じられている石。
実はアルベゾン閃石では?
…という疑問である。
おそらく、心配はいらない。
全体の質感やシーンの色味、形状を見ればその違いは一目瞭然(気になる方はファイナルセールをお待ちください)。
中国産アルベゾン閃石の放つ、繊細でシャープなブルーグリーンのシーンは、ヌーマイトには現れない。
一部に共生している可能性はある。
ただ、グリーンランドからアルベゾン閃石が産したのは、ほんの一時期だけだったようだ。
現在はヌーマイトよりも入手困難のよう。
写真の石もラベルを見た限りでは採取されてから少なくとも50年は経っている。
グリーンランドから産した幻の希少石、アルベゾナイト。
そんな折、中国から大量にアルベゾン閃石が発見され、グリーンランド産ヌーマイトとして流通した、という嘘のような本当の話。

では、どうしてヌーマイトとアルベゾン閃石の産地が被ってしまうのか。
実はこのグリーンランド・ヌーク地方は、希産鉱物の宝庫として知られる土地。
ロシアのコラ半島、カナダのモンサンチレールに並ぶ希少石の名産地で、他所からは見つからないレアストーンが、不思議なことにロシア・カナダ・グリーンランドの3ヶ所に共通して発見されている。
グリーンランドの知名度が低いのは、土地の規模だろうか。
ロシアやカナダの産出量には及ばない。
価格も高額になる。
グリーンランド名物のヌーマイト、ツグツパイト、蛍光ソーダライト、ハックマナイト、ユーディアライト、ウッシンジャイト、アナルシム、そしてこの悪名高きアルベゾン閃石。
実は、ロシアやカナダからも報告されている。
ヌーマイトとアルベゾン閃石の2つの鉱物には、どうも因縁めいた関連性があるようだ。
ただ、中国からはヌーマイトは発見されていない。
共生している様子も全く無い。

日本では、ヌーマイトの偽物としてのアルベゾン閃石がもっぱら問題視され、両者の関連性については明言を避けている。
確かに、グリーンランドからもアルベゾン閃石が出るという事実が明らかになれば、市場はさらなる混乱をきたすだろう。
グリーンランドの名を利用して、在庫を売り尽くそうとする業者も現れそうだ。
"稀少!グリーンランド産アルベゾン閃石" が製品化されることはあり得ないので、くれぐれも気をつけていただきたい。
そうした意図のもと、あえてこの標本を紹介させていただく。

グリーンランドから届けられる輝きは、ヌーマイトだけではなかった。
アルベゾン閃石も価値ある鉱物であることを、この歴史的標本は教えてくれた。
どうしてこんなものを購入したのかについては、全く覚えていない。
初めてこれを見た時の感想は、

なんて地味な石なんだ!

もちろん偽ヌーマイト騒動については全く知らなかった。
偶然にせよ、買っておいて良かったと心底思った。


80×38×12mm  89.03g

2013/02/07

非加熱タンザナイト


タンザナイト Tanzanite
Merelani Hills, Arusha, Tanzania



今や宝石の枠を超え、広く知られるようになったタンザナイト。
目下休止中のブログに突然記事をアップするのはどうかと思うが、気がかりなことがあるので報告したい。

タンザナイトと聞いて私たちはあの深いブルーをイメージする。
加熱処理を前提とした宝石であることをご存知の方も多いはず。
以前、非加熱タンザナイトってどんな感じなのだろう?という疑問を抱いている方がおられた。
石には非常に詳しいのに、ご存じないとは意外だった。
どうも、未処理のタンザナイトは滅多に流通せず、かえって入手困難であるようだ。

宝石質の非加熱タンザナイトを一時期集めていたことがある。
私がむしろ、人工石のほうを好んで集めているのはご存知の通り。
なぜタンザナイトに限って未処理なのかというと、単にひねくれ者だから?
鉱物を知ってすぐに購入した安価な破片状原石。
写真は室内にて、ライトをあてて撮影した(実際の色は本文下、右側の写真に近い)。
シルバー、ゴールド、ブルーの輝きが同時に見えるのは、タンザナイトの持つ多色性に因る。
太陽光では褐色に近いイエローに見える。
室内光ではどちらかというと赤みを帯びて見える。
なんとかして青い輝きをとらえようと試行錯誤した成果が冒頭の写真。

透明度に富み、強い輝きと光沢を示すゴールデン・タンザナイト。
悪くないと私は思う。
非加熱未処理タンザナイトといわれて私がイメージするのは、このゴールドの色合い。
だが、意外なほど流通がない。
非加熱未処理というタンザナイトの原石は紫に近いブルーが一般的なよう。
初めから青いタンザナイトというのは存在しないと思い込んでいたが、大量にある。
青い原石というのも実はあって、数が少ないために高額で流通しているのかもしれない。
いや、原石の段階で加熱処理されているように見えるのだが…

まずいことになった。
人工石は日本人にとってまがいものに他ならない。
大自然の恵みである鉱物に手を加えることは許されないはずである。
少しでも人工処理を施せば、パワーストーンのパワーがたちまちのうちになくなってしまうという説もあるほどだ(→ゴールデンダンビュライト)。
なんと、タンザナイトを加熱せずに青くする技術まであるというではないか。
タンザナイトはしょせん偽物。
日本から消える日は近いのかもしれない。

参考)コーティングを施した非加熱タンザナイトが増加中
http://weblog.gem-land.com/?p=112

参考)ヴィクトリアストーンに見る人工石と日本人の価値観
http://usakoff.blogspot.com/2012/12/blog-post_27.html

最初に示したサイトさまより引用させていただく。
記事では、コバルトのコーティング処理によって、褐色のタンザナイトが青く生まれ変わると説明されている。
非加熱未処理に加熱未処理石。
ならば非加熱処理石もありということらしい。
非加熱という言葉を利用して売り出そうとする思惑が見え隠れする。
結晶表面にイリデッセンス(虹が輝いて見えるさま)が多く確認できる、多色性の乏しさなどがその特徴として挙げられている。
気になる方はチェックしていただきたい。

これはまさに、私が抱いていた違和感そのもの。
手持ちのゴールデン・タンザナイトには、著しい多色性が認められる。
いっぽうで、非加熱タンザナイトとされる青い石には、青以外の色は認められない。
コーティング処理によって多色性が失われているというなら納得がいく。
多色性を持つ鉱物といえば、アイオライト。
アイオライトは光の角度によって青からイエローに変化する。
未処理のタンザナイトの本来の輝きは、その逆である。

未処理のタンザナイトが滅多に流通せず、かえって入手困難なのは事実のようだ。
おそらくイメージの問題で、青くしなければ売れないのだろう。
天然石の魔法にかかって、石の意味に夢を抱くのは自由だ。
だが、天然か人工かで石の価値が決まるのであれば、処理や加工が前提のビーズや宝石がパワーストーンブームを支えているという現状には矛盾がある。
天然石を処理したものは天然石という意見もあるが、世界的には通用しない。
日本には欧米以上に人工石が定着している。
天然という言葉が名もなき石に価値を与え、人工という言葉が真の価値を遠ざける。

1966年にタンザニアで発見され、1969年にティファニー社によって世界に紹介されたタンザナイト。
クンツァイトを見出したティファニー社副顧問、ジョージ・フレデリック・クンツ博士によってその名が与えられた。
もともとの鉱物名であるゾイサイドの名がスーサイド(自殺)を想起させるために、クンツ博士が機転をきかせたというエピソードも有名。
加熱処理によって色濃い青に変えられ、より透明感と輝きを増したタンザナイトは、カットされて宝石となる。
希産鉱物の宝庫、タンザニアのメレラニ鉱山からしか見つかっていないとされている。
タンザニアを代表する宝石として、むしろタンザニアの名を有名にした存在といえよう。
国名に由来する鉱物は、このタンザナイトの他にブラジリアナイトアフガナイト、シンハライト(現スリランカ)など。
逆に鉱物が国名の由来となったのはアルゼンチンで、ラテン語で銀の意味であるという。




14×11×7mm

2013/01/15

パープルジェード(トルコ産翡翠輝石)


パープルジェイド
Purple Jadeite
Bursa, Marmara Region, Turkey



誕生日なのでご縁のある石をと思ったが、ここは変わり者のうさこふであるからして、私には最もご縁のないはずだった、類い稀なるレアストーンをご紹介する。

トルコからやってきたという、色濃いパープルの翡翠。
ネフライト(軟玉)ではなく翡翠輝石(硬玉)にあたるそうだ。
シリカ成分が入ってカルセドニーと化しているため、パープルの色合いがより上品かつ輝いて見える。
まるでスギライトのように神々しいお姿である。
宝石質の色濃いスギライトは石英を含んでいることが多いから、原理としては同じなのかも。

ネフライトか本物か偽物か(※注)といった議論で盛り上がることが多い翡翠だけに、私は長らくネフライトのほうに着目していた。
翡翠輝石のほうは盲点だった。
翡翠など高貴すぎて、自分にはふさわしくない。
この高貴すぎる紫の翡翠を偶然にも手にし、ふさわしくないにも程があると感じたため、誠に勝手ながら自分の誕生日にまつわるエピソードを中心にお送りする。


注)翡翠は翡翠輝石(硬玉)とネフライト(軟玉)に分けられる。中国で古くから珍重されたのは軟玉、つまりネフライト。その後ミャンマー産の硬玉が知られるようになり、翡翠として定着した。
日本では縄文時代より硬玉が知られ、宝飾品や魔除けなどに用いられたといわれる。新潟県糸魚川の翡翠は国産鉱物を代表する存在で、熱狂的ファンも少なくない。
日本では一般に、軟玉より硬玉のほうが価値が高いとされる。ネフライトは翡翠の偽物として避けられることもあるほどだが、欧米人の大半は硬玉と軟玉の区別をしない(できない)ので、要注意。


実は、昨日までこのエピソードを記すか記すまいかと、悩んでいた。
誰もが興味を持ってくださるような内容になるとは思えなかったが、これまで幾度も誤解を与えてしまっていたことがあったとしたら、誕生日にその原因を書いてみたいと思った。
ご近所にマイクのアナウンスが響く中、これを記している。

昨夜遅くのことだった。
私はまさに翡翠のことを考えながら、冷たい雨の中、帰路を急いでいた。
最後の曲がり角を過ぎたところで、道のずっと向こうに、見慣れない灯りが煌々と燈っているのが見えた。
どこかで見た、不可思議な光景であった。
それが人の死を意味する灯りであることは、百メートル離れていても伝わってきた。

実家の斜めお向かいの御宅に不幸があったとのこと。
翌日が葬儀とある。
私が数日前から虜になっているこのパープルジェイド。
この石を一目見てからというもの、私がずっと心に描いていた人物。
その人物の葬儀が行われた日もまた、私の誕生日だった。

自分はその人を先生と呼んでいた。
特別に偉いからとか、指導者だからといった理由ではなく、ただ純粋に、誰も言わないことを教えてくれたから。
悪くて結構、阿呆になるくらいがちょうどよい、広い広い世界のことを学んでみるといい。
そして、死はこわくない、と繰り返し私に語った。
ただそれがいつ頃で、自分がどういう状況にあったのか、長らくわからなかった。
小学校低学年くらいかと思い込んでいた。
昨年の春、古い資料が出てきて、ようやく記憶の謎が解けた。

私が先生と呼んでいたその人物は、宗教学者であり、英文学者であり、哲学者であり、翻訳家であり、仏僧という特異な経歴の持ち主であったらしい。
幼少期から教会に通って英語を学び、仏典を海外に紹介。
アメリカのキリスト教会より渡米して神父になるようスカウトされる(!)もきっぱり断り、僧侶として日本を生きた97年の生涯。
子供だった私はすぐに影響を受け、世界中のあらゆる宗教について学ぼうと意気込んだとみられる。

資料を見ておどろいたのは、先生の葬儀が行われた日が私の4歳の誕生日だったということ。
おそらく、周囲の人々がその事実を隠したのだろう。
つまり先生にお世話になったとき、自分は3歳、若しくはそれ以下だったということ。
死がタブーであることを思い知ったのは4歳のときだったから、その直後。
宗教がタブーであることを知ったのもその頃だ。
先日、縁あってお世話になった方から、自分に宗教心がある、という興味深いご指摘を受けた。
三つ子の魂百なんとやら、人間とは単純なものである。

事情があって、私は当時、家族と離れて暮らしていた。
親の顔も忘れていたほどだというから、周囲は同情的だったのだけれど、先生は私にいっさい同情しなかった。
先生の好奇心旺盛な瞳と強く響く声を今でも覚えている。
死はこわくないと教えてくれた先生は、ある時、突然いなくなった。
雪の中、長い葬列が続くさまをはっきり覚えている(※記憶では、途中から悪夢の集団下校に切り替わる)。

父のように慕っていたその人物について、ここで具体的に触れることは避ける。
自分の年齢がバレるからではない。
先ほど調べて、後に語られているその人物像に違和感を感じたからだ。
他の思想を遠ざけるべく、名前を利用されている。
或いは異端者のごとく扱われ、遠ざけられている。
信仰や思想、また国籍などを理由に他者を遠ざけることをしない、というのが先生の本質だと思っていた。
そしてつい先日知ったのであるが、日本國が迷信國となることを何より危惧されておられたという。
また「誰でも各種の災難や不幸に出逢うたならば、それは自分の種まきが悪かった報いであるから、潔く自分を反省して、さんげし、悔い改めて、これから、悪い心を起こすまい、悪い事をしないように決心して、自分の考えて、これが一番良いと思う方法をえらんで、事件を処理して行けばよい」とも申された。

以上のようないきさつで、今日はこの石を選んだ。
簡潔にまとめよう。
翡翠は私には勿体無いほどに高貴な石。
どちらかというと避けていた石。
まさか米からこんなものが手に入るとは思っていなかったし、何の期待もしていなかった。
そして産地であるトルコは、東洋と西洋の中間にあたる土地。
圧倒的な美しさは、先生が旅立っていったあの日、置き去りにされた私の気持ちによく似ている。

無宗教というおしえこそが、日本最大規模の宗教なのかもしれない。
先ほどふと、思った。
なお、我々が頻繁に目にするラベンダージェードのビーズは、本質的には着色を施された岩石である。






38×27×21mm  17.96g


2013/01/13

メッシーナクォーツ/ピーモンタイト


メッシーナクォーツ
Quartz/w Piemontite
Messina Mine, Limpopo Province, South Africa



希少鉱物ピーモンタイトとヘマタイトのインクルージョンでピンクに染まった水晶。
アジョイトの産地として有名なメッシーナ鉱山から産出するという。
変化に富む結晶形とリチウムクォーツに似た優しい色合いから、欧米のクリスタルヒーラーの間で話題になっている。
この色合いは、リチウムではなくマンガン由来である。

ピーモンタイト(紅簾石)はイタリア原産の希少鉱物で、滅多にみかける機会はない。
本当に入っているのかと、疑いたくもなる。
水晶のインクルージョンに関してはアバウトな印象の否めない欧米のヒーリングストーン業界。
実際、鉱物標本としてはヘマタイトのインクルージョンに因る、としているところもある(多くはヘマタイト及びピーモンタイトを内包するとしている)。
どちらかというとヘマタイトの占める割合が多いのは間違いないはず。
そう思いながら、ピーモンタイトについて調べたところ、大変なことになっている。
南アフリカ産ピーモンタイト(ピーモンタイトシスト)なるパワーストーンが2、3年前から国内でビーズとなって流通しているようなのである。

どうもピーモンタイトの名を聞く機会が増えたと思っていた。
大量に流通しているではないか。
希少石のはずが、パワーストーンに数えられるようになっていたとは知らなかった。
しかし、このメッシーナクォーツと同じものなのだとしたら…
主な成分はヘマタイトということになる。

参考:ピーモンタイト・シリシャスシストとロードナイト
http://jp-ishi.org/?p=545

ロードナイトと混同されて流通しているというピーモンタイト。
ロードナイトにしか見えない。
さらに、ピンクエピドートなるビーズが流通している(解説は緑簾石)。
まるでピンクに染め上げたクォーツァイト。
わけがわからなくなってきた。
メッシーナクォーツに関しては、本文下の写真にあるように、ピンクの色合いは表面付近に集中していて、内部はクリアであることが多い。
加工するとファントム・クォーツになるはずである。
ビーズとなって大量に流通するほど採れるようには見えない。
ピーモンタイトを含むシリシャスシスト(石英を含む片岩)とのことだから、写真の水晶とは異なる岩石が加工にまわされた、もしくは無関係な染色シリシャスシストをピーモンタイトとして販売している…
ピーモンタイトが入っているという保証はない。
参考までに、ピーモンタイトの原石の様子を示しておく。



ピーモンタイト Piemontite
Prabornaz Mine, Saint-Marcel, Piemont, Italy



原産地からのピーモンタイトの標本。
先日の池袋ショーで発掘して参った。
国内で流通しているピンクカラーのピーモンタイトのビーズとは別物である。
ガラス光沢を示す赤紫色の結晶が複雑に入り組むさまは、実に見応えがある。

いっぽう、国内で流通している美しいマット・ピンクのピーモンタイトのビーズ。
中身はほとんどヘマタイトなんじゃないか、という疑問である。
比較的安価なロードナイトとの類似点も気がかりなところ。
まあ、いいか。

原石のほうは、両端の結晶したDTとなっており、変形ファントムonエレスチャルともいえそうな、何とも喩え難い姿をしている。
メッシーナクォーツは大きい上、ポイントが四方八方に飛び出しているなど、随所にみられる奇想天外な結晶構造に度肝を抜かれる。
変わった水晶のお好きな方は要チェック。
表面より染み込んだピーモンタイトによるフルーティなピンクの色合いには、リチウムクォーツとはまた違った魅力を感じる。
メッシーナから産出するアジョイト、及びパパゴアイト入り水晶には、赤い不純物の入ることも多い。
鉄錆びとみなされ、過去には取り除かれていたこともあったという、あの赤いインクルージョン。
時と場合によっては希少石ピーモンタイトが含まれているのかもしれない。
夢は大きく果てしなく、どこまでも。




73×40×28mm  116.5g

今週、話題性が確認された10の鉱物

What Mineral Would You Take with You to A Deserted Island?