2012/06/28

スモーキーアメジスト(ハレルヤクォーツ)


スモーキーアメジスト
Morion, Smoky Amethyst
Royal Scepter Mine, Hallelujah Junction, Washoe Co., Nevada, USA



スモーキークォーツ、アメジスト、シトリン、クリアクォーツ、そしてモリオン。
5つの色合いが混在した豪華な標本。
エレスチャル、もしくはジャカレーなどと呼ばれる複雑で変化に富む結晶構造を示し、かつ圧倒的な透明感を誇る。
切断面のほとんどみられない完全な結晶体で、結晶の至るところに水晶のさまざまな形態が観察できる。
300g近い本体の至るところにちりばめられた結晶の数々。
いくら眺めていても興味は尽きること無いが、重い。
このような歴史的コレクションがさかんに取引されるのも、歴代の鉱物ハンターを英雄に位置づけるアメリカならでは。

ロイヤル・セプター鉱山は、その名の通り、見事なセプタークォーツ(松茸水晶)を数多く産出する。
スモーキーの色合いが多いようだが、写真の標本から想像できるように、なんでもあり。
クリアクォーツやシトリン、アメジストファントム、スモーキーアメジストやアメトリン、さらにはモリオンまで。
形状も変わっていて、ダブルポイント(DT)、セプター、リバースセプター、セプター二段重ね、三段重ね(呼び名が不明)、いっぱいセプターダブルポイント(もはやエレスチャルの類い)といったユニークな標本が続々登場する。
鉱山のあるハレルヤジャンクションに因み、ハレルヤジャンクションクォーツ、ハレルヤクォーツとも呼ばれている。
この標本も例に漏れず、かつてセプタークォーツだったとみられる結晶が連なるように成長した痕跡がある。
水晶の持つあらゆる色を有する、往年のハレルヤクォーツの魅力を凝縮したかのような珍品である。

豊富な資源を有し、ハンターたちの憩いの地ともなっているネバダ州。
アメリカでは特に人気の高いターコイズ鉱山、鉱物標本としても評価の高いウラン鉱山などが有名。
この標本の産地ロイヤル・セプター鉱山もまた、ハンターたちの目指すネバダの宝の山の一つ。
現在も入ることはできるが良質な水晶の産出は減り、環境保護を訴える声も上がっているようだ。

これまでいくつか見たことはあったが、ここまで衝撃的な標本は初めて。
採取が丁寧で保存状態も良かったのだろう。
ハレルヤクォーツの魅力を語るにはこれひとつで十分かもしれない。
水晶は硬いがクラックが入りやすく、大きくなるほど透明感は失われていくものだが、この標本は向こう側が見えてしまう。
優しい色合いが印象に残るいっぽう、平凡な日本の家庭には優しくない大きさでもある。

記憶にある限り、ハレルヤクォーツはもっぱらヒーリングストーンとして紹介され、鉱物標本としての魅力に言及されることはなかった。
あったのかもしれないが、ハレルヤ産に凝っている人にはまだ出会ったことが無い。
ヒーリングストーンは名称優位なところがあって、質は特に問わない。
当然ながら、アメリカ産出の良品のほとんどは、アメリカ人収集家が所有している。
日本に流れてくることは滅多に無いから、希少価値も上がっていく。
ハレルヤクォーツが何なのかと悩んでおられた方には、単なる地名であることをお伝えしておきたい。




なお、ニューメキシコ州にもロイヤル・セプターの名を持つ同名の鉱山が存在する。
そのため、ニューメキシコ産の水晶が、一部でハレルヤクォーツとして混同されている様子である。
ヒーリングストーンの場合、外観の似ていることがその名称の基準となったりもするので、ニューメキシコ産ハレルヤクォーツが必ずしも偽物というわけではない。
「ハレルヤ」はキリスト教における念仏のようなもので、聖書や賛美歌などにしばしば登場する聖なる言葉である。
その神秘的な地名がクリスタルヒーラーたちの支持を得て広まったものと信じたい。

イットリウムフローライトでも取り上げたが、産地が曖昧にされてしまうことが、ヒーリングストーンに対する評価や信頼の低下を招き、誤解を受ける原因ともなっている。
数々のハンターたちが活躍したアメリカの歴史から、鉱物の正体を探ってみるのもまた楽しい。




88×63×40mm  294.5g

2012/06/26

カイヤナイト/ガーネット/バイオタイト


カイヤナイト・ガーネット・バイオタイト
Kyanite–Garnet–Biotite
Khit Ostrov, Karelia Republic, Russia



カイヤナイトの藍色の結晶に、バイオタイト(黒雲母)、ピンクのアルマンディンガーネットのキラキラの粒がちりばめられた表情豊かな標本。
白い石英が三つの色合いを引き立てている。
宝石質のカイヤナイトとしては、ネパール産に匹敵する美しさ。
色合いはより深く、味わいがある。
ガーネットの色彩や透明感、バイトタイトの漆のような光沢、雪のように真っ白な石英など、見どころが満載となっている。
話題のシュンガイトと同じ、カレリア共和国からの産出とのこと。

カイヤナイトと共生して発見される鉱物といえばルビー。
タンザニア産のルビー・イン・カイヤナイトは、これまでパワーストーンの定番商品だったルビー・イン・ゾイサイドを圧倒する人気ぶり。
カイヤナイトの深い青とルビーの赤い輝きの美しさは驚きに満ちていた。
ロシアからのカイヤナイト・ガーネット・バイオタイトはそれにまさる素晴らしさ。
鉱物標本として、またヒーリングストーンとしても密かな人気があるようだ。
新しく発見された鉱物というわけではなく、以前から流通はあり、むしろ減ってきているようである。
価格としてはブラジル産の水色のカイヤナイトと変わらない。
もっと注目されてもよさそうな気がする。

見どころはやはり、深い藍色の煌きを持つシャープなカイヤナイトの結晶。
透明感、ガラス光沢などの見られるノンダメージの二つの結晶が、バイオタイトと石英をまっすぐに貫いているのがわかる。
ロシアのカイヤナイトは神々しい。




70×27×18mm  45.78g

2012/06/22

ギベオン隕石(シホーテ・アリン、カンポ・デル・シエロ)


ギベオン隕石
Gibeon Meteorite

Gibeon, Mariental District, Hardap Region, Namibia



もし明日隕石が地球を直撃するとしたら、やっておきたいことは?
そんなお題をたまに見かける。

世間には、空から隕石が降ってきやしないかと、日々不安にさいなまれている人々がわりと多いようである。
巨大隕石の落下で、恐竜が一瞬にして滅びたという伝説が、人類滅亡を想起させるのかもしれない。
私はよく冗談で、明日隕石が落ちるなら、お宝を拾いに行く旅の準備をすると話しているが、?という顔をされる方が多い。
不幸にして隕石の犠牲になったのは、記録の上では一人とされている。
人類の長い歴史において、世界でたった一人の犠牲者となったのは、年老いたインド人男性であったと知ったとき、深い悲しみにさいなまれた記憶がある。
いっぽう、隕石を用いたアクセサリーは、宇宙のロマンを代弁するレアなパワーストーンとして人気は高く、定番商品となって久しい。

隕石と聞いて、子供のように瞳を輝かせるロマンチストはうちゅうのおともだち。
宇宙の神秘が手元に届く待ち遠しさに、夜も眠れなくなってしまう方もおられるかもしれない。
希少価値ぶっちぎり!とんでもないお宝!残り僅か!といった煽り文句には、注意が必要だ。
我々がふだん目にする隕石関連グッズは、シホーテアリン、カンポデルシエロ、サハラ隕石と記載があることと思う。
上記の3つの隕石は地球上に大量に存在し、隕石としての希少価値は無きに等しい。
隕石の世界は日本人が考えるほど甘くはない。
隕石の収集が盛んな欧米やオーストラリアでは、上記の3種は収集家がコレクションの対象とする隕石には含まれず、特殊な要素を持つ場合を除き、子供の教育に用いられる化石類と同等の扱いを受けている。
はるか昔、人類が鉄を利用しはじめたとき、隕石が用いられたとする説もある。
我々が考えるよりずっと、身近な存在なのだ。

隕石は星の数だけ存在する。
隕石の価格は、資料としての価値とその特異性、落下の量に応じて決定される。
希少価値の高いものは研究機関にまわされてしまうから、販売にまわされる頃にはグラムあたり一千万を超えることも稀ではない。
それでも手に入れたい人が世界中から集まり、ため息をつく。
カルマである。
日本で人気の隕石のグラムあたりの価格については、ここでは触れないこことする。

国内のミネラルショーでは、袋いっぱいの隕鉄が千円ほどで販売されている。
要は、日本に入ってくるのは、大量に落下し余っている銘柄で、量産用なのだ。
サハラ隕石の場合は事情が異なってくるが、発見される場所が場所だけに、扱いが難しいのが不人気の理由だと聞いた。
命名のアバウトさはそのためか。
隕石の世界は深いゆえ、詳細はわからない。

この価値観の格差の原因のひとつに、気候の差がある。
日本は湿度が高く、海に囲まれた島国である。
隕石の多くが金属から成る以上、管理に気をつけていてもいずれ錆びてしまう。

隕石には三種類がある。
惑星の大部分を占めるのは石質隕石。
コアの部分は隕鉄、それらの境界にあたる部分はパラサイトと呼ばれる。
しかしながら石質隕石は、大気圏を通過するさいの高熱で燃え尽きてしまうため、発見されるのは僅かな量にすぎない。
パラサイトは数そのものが少ないから、最後まで残るのは隕鉄が中心、ということになる。
湿度の高い日本の気候では劣化しやすく、コレクションとして大量に管理するのは困難を極める。
そのため、日本に隕石市場が発展することはなく、一部の熱心な愛好家によって支持されるにとどまった。
乾燥した欧米の気候は収集家にとって圧倒的に有利。

写真のギベオン隕石のペンダントは、ウィドマンシュテッテン(特定の性質を持つ隕鉄を酸処理することによって、表面に出現する幾何学的な模様)のネーミングに負けて購入したもの。
アクリルかなにかで厚みをもたせ、見栄えよく作ってある。
錆びにくいという点では理にかなっている。
価格的に、隕石そのものはアルミホイルに等しい量だと思われる。
ギベオン隕石についてはご存知の方も多いだろう。
1836年ナミビアのギベオンで発見され、隕石の研究に貢献した最も有名な隕鉄のひとつである。
およそ4億5000年前に地球に落下したとされ、ニッケルを豊富に含むオクタヘドライトに分類される。
なお、かの有名なエルサレムにも、ギベオンという都市があったらしく、ギベオンだけだと誤解を受けることがあるようだ。

宇宙のロマンがビジネスに変わるとき、さまざまな興味深い現象が起きる。
星の彼方まで飛躍したかのような壮大な解釈が展開され、煽り文句は宇宙人との会話のようである。
参考に挙げたサイトは、その一般的な例。
以前から、こうした鑑定機関は位置づけとしては非常に難しいものと感じていたが、実際のところはどうなのだろう。

参考サイト:http://www.raku-kin.com/item/gibeon/index.html

資産価値を問わないのであれば、銘柄やグラム数などは無関係。
隕鉄をそのままブレスやペンダントに加工しようものなら、汗などですぐに錆びてしまう。
相当量の人工物が混在しているものを、偽物とするのは夢がない。
それでも買ってしまうのは私も同じだから。
いまだ解明されることのない、宇宙の謎の数々。
銀河の彼方には、古代から人々をひきつけてやまない魅力が確かに存在している。


20×10mm

2012/06/19

オーラライト23


オーラライト Auralite-23
North of Lake Superior, Ontario, Canada



カナダ北部の聖なる土地より採取されるというAURALITE-23/オーラライト23クリスタル。
今年のツーソンショーで発表されたばかりの新しいヒーリングストーンで、シェブロンアメジストに似た模様を持ち、ポイント状に加工されている。
トップがヘマタイトに覆われていることもあるようだ。
その名の示す通り最大で23種類、少なくとも17種類の鉱物を含むとされる。
内部に含まれる鉱物の詳細はもちろんのこと、およそ15億年前に形成された太古のクリスタルであることが科学的に証明されたとのこと。

オーラライトのインクルージョンとされている23の鉱物は以下。

1) チタナイト/スフェーン Titanite
2) カコクセナイト Cacoxenite
3) レピドクロサイト Lepidocrosite
4) アホー石/アジョイト Ajoite
5) ヘマタイト Hematite
6) マグネタイト Magnetite
7) パイライト Pyrite
8) ゲーサイト Goethite
9) 軟マンガン鉱 Pyrolusite
10) 自然金 Gold
11) 自然銀 Silver
12) プラチナ Platinum
13) ニッケル Nickel
14) 銅 Copper
15) 鉄 Iron
16) リモナイト Limonite
17) スファレライト Sphalerite
18) コヴェライト/コベリン Covellite
19) カルコパイライト Chalcopyrite
20) 不明鉱物 Gialite
21) エピドート Epidote
22) ボーナイト Bornite
23) ルチル Rutile

伝説のアホー石、そして金やプラチナまで入っているとは豪華絢爛、恐れ入る。
まさに今が買い時、旬の味。
世界的に有名なクリスタルヒーラーたちが推薦者として名乗りを上げる目下話題のヒーリングストーンである。
産地はカナダ、スペリオル湖の北にある "Cave of Wonder" と呼ばれるネイティヴアメリカンの聖地だという。
よく発見されたものだ。
疑惑のコヴェライト、カルコパイライトが入っているというのは奇妙な印象(→詳細:ピンクファイヤークォーツ)だが、研究で解明されたということだから、どのような輝きが見られるか確認できる絶好のチャンスである。

疑問としては、

1) 鉱物として関連性の高いものを23に分けて表記していること
2) 産地がネイティヴアメリカンの聖地であるのが自慢なのに、ネイティヴアメリカンが発見することなく、昨年ようやく見つかったこと
3) これまでに売れたヒーリングストーンの要素を網羅していること
  • 複数の鉱物インクルージョン - スーパーセブン
  • 世界中のクリスタルヒーラーが絶賛 - 多数
  • 太古の鉱物 - シャーマナイト他
  • 計画された販売戦略 - プレセリブルーストーン
  • コヴェライト入り - ピンクファイヤークォーツ
  • 研究者により科学的に立証済み - 多数
  • ネイティヴアメリカンの聖地から出現 - 多数
  • 金プラチナ - 買取強化中 ほか
4) 研究機関、研究目的、論文の所在などが不明(スイス人研究者のよう)
5) 海外・国内ともに、解説文の23種類の内包物一覧にGialite(ギラライトとのスペルミス?もしくはありそうでなかった新鉱物ガイアライト?)という、現時点では謎の鉱物名が記載されており、そのことに対して言及がなされていない
6) 肉眼で確認できるのは鉄の関連鉱物のみ、詳細は以下に記/サンプルが少ないため断定は困難
7) 原石の加工における規格が統一されていること
8) なんか、どっかで見た気がする

さっそくオーラライトの内部の様子を観察してみた。
クリアなアメジスト…だと私は感じた。
ルチルやゲーサイト、エピドートは、鉱物中の針状インクルージョンとして広く知られている。
幾らか見えてもおかしくないのだが、私には確認できなかった。
困ったことになった。

アヴェンチュレッセンスを示す鉱物が多く含まれているとあるから、光に反応するはず。
それを確かめるべく、太陽光での撮影を決行したのが写真。
ピンクや赤、パープル~ブルーの輝きが結晶の3箇所に確認できる。
ただ、手元にある5つのオーラライトのうち、アヴェンチュレッセンスが確認できたのは写真の1点だけ。
残りは肉眼では認められなかった。
鉄や銅に関係する鉱物が入っているならば、タンザニアのサンストーン、ロシアのサンムーンストーンのような輝きが出てもおかしくない。
また、アホー石(アジョイト)は一般に、水晶内部のグリーンのインクルージョンとして認められなければ価値がないとされている。

批判的な内容になってしまったが、この石はきらいではない。
きっと、私の目に狂いが生じているのだ。
聖なるクリスタルに疑問を抱くような私の目に真実など映らないのである。
収集家に根強い人気を誇る希少鉱物の宝庫、モンサンチレールを有し、どちらかというと堅い印象だったカナダの石が、今ヒーリングの世界で注目を浴びている。
これからさらなるヒーリングストーンが登場するかもしれない。
オーラライトを手にした感想は、非常に爽快で初々しく、輝かしい印象かな。
まるで、かの有名なサンダーベイ・アメジストのよう。

あれ?
突然、サンダーベイ・アメジストに見えてきた。
カナダの名産品として古くから知られる、サンダーベイ・アメジスト/レッドアメジスト。
表面が酸化鉄などに覆われ、赤く染まったアメジストのことを指し、鉱物標本として人気は高い。
カナダ北部・サンダーベイ近くの鉱山がその産地とされる(→地図、☆印)。
奇しくもスペリオル湖の北、☆印の真上付近にオーラライトの産地 "Cave of Wonder" があるものと考えられる。
詳細な場所が明かされていないため、この付近の鉱山の一箇所としかわからない。

サンダーベイ・アメジストに、ゲーサイトやヘマタイト、レピドクロサイトのインクルージョンが入ることは珍しくない。
表面が鉄分で赤く染まっているという点でも、実によく似ている。
何らかの関連があるのかもしれないが、カナダは広く地質学的なことについては無知であるため、鉱脈など専門的な事柄について言及するのは控えたい。
鉱山の様子を記録した動画を文末に示した。




オーラライト23クリスタルの全貌と、産地である神秘の洞窟の魅力を伝えるドラマティックな動画。
このように豊富なインクルージョンが見られるかどうかについては、依然として確認できていない。
心が綺麗な人でないと見えないものは古くからある。
なお "Cave of Wonder" は海外で人気のゲームの一種とみられる。



見た感じは普通の鉱山と動物及びスーパーセブンに似たレッドアメジスト


※注意が入ることは絶対にないはずですが、重大な誤認が認められた場合、市販商品に対しての真偽や違法性を問うものと誤解を受けた場合は、訂正します。ワクワクしながら愛を込め、素直に記したものであることをここに明記します。

なお、23種類の鉱物中、唯一の謎だったGialiteについては、デヴィッド・ガイガー氏により、新鉱物ガイアライトであることが明らかになりました。


56×25×10mm  13.40g

2012/06/17

ユーディアライト


ユーディアライト Eudialyte
Lovozero, Kola Peninsular, Russia



確か、一番最初に買った希少石がユーディアライト(ユージアル石)だった。
恩師の店で見つけたビーズがきっかけだったと記憶している。
お店の人に聞いても正体がわからない。
ありました、と見せていただいた本には、今でも忘れられない衝撃の一節があった。

無意識のうちに宇宙の秩序や法則が理解できるようになり、自然の流れに身をゆだねることが一番良いことが認識できるよう導く力があるといわれています(「パワーストーン百科全書」八川シズエ著)

間違いなく個人差はある。
私には宇宙の秩序など理解できそうにないからだ。
それでも気に入って500円程度の標本を幾つか購入した。
原産地であるグリーンランド産の、まるで岩のような標本が先日出てきたときには仰天した。
単に安かったから買うという初心者に有りがちな動機で、このような通好みの標本を購入していたというのは興味深い。
その後、幾つかユーディアライトを紹介させていただく機会に恵まれたが、どちらかというと収集家向けの鉱物標本という扱いだった。

ユーディアライトの主要な産地はロシアとカナダ。
一般に赤、白、黒の3色で構成されていることが多い。
白はネフェリーン、黒はエジリン。
赤い部分がユーディアライトで、それ以外はおまけである。
過去には紅赤色の透明石もカットされたという。
ロシア・コラ半島産ユーディアライトの醍醐味でもあった、ガラス光沢の煌きを伴うダークラズベリーカラー。
産出の激減に伴い、見かけなくなった。
写真のカットストーンは先日出てきたもの。
宝石質と言うのは憚られるが、不純物の少ない素朴な一品。
ロシア産ならではの色合いが出ている。
当時は千円もしなかったのだけれど、ざっと見た感じ、私にはもう買えないみたいだ。

先日、ユーディアライトのオールドストックを紹介させていただく機会があった。
思いのほか好評で、人々の鉱物への関心が深化しているものと、嬉しくてたまらなかった。
リクエストまで頂戴した。
さっそく探したのだが、イメージ通りのものが無い。
取り扱いはむしろ増えている。
しかし、赤い部分がほとんど見られない。
ユーディアライトの入っていないユーディアライトっておかしいと思うのだが、軒並み一万を越えている。
ヒーリングストーンとしての扱いも急増している。
3つの鉱物の相乗効果というやつなのかもしれないが、この石の場合はそうとはいいきれない難しさがある。
以前は殆ど見かけなかった赤みの強いカナダ産ユーディアライトも見かける。
ブレスにまでなっている。
限られた土地からしか産出しないこの希少石に何が起きたのか。

以下は、素人のたわ言と軽く流していただけたらと思う。
もしお読みになって、強い不快感を覚えられたかたがおられたら、深くお詫び申し上げる。

日本人の特徴というものについて考える機会をいただいた。
アメリカの価値観に倣って、自己主張さえしていれば間違いないと思い込む。
少なくとも私の周囲のアメリカ人は、それが愚かなことと知っている。
或いは、社会的に良いとされるものに憧れ、自らもそうありたいと努力する傾向。
裏をかえせば、誰かに良いといわれなければ、関心を持つことも持たれることもない、ということ。
その崖っぷちを突っ走った結果、私の珍コレクションが存在している。

以前から気になっていた、鉱物標本を「子」と呼ぶ習慣。
「この子はちょっとクセのある子でね」「この子は凄く人を選ぶ子で…」という言い回しは、今に始まったことではない。
ショップの店員さんも使うようになった。
愛着からそう呼ぶのは決して悪いことではないし、石を愛する気持ちが伝わってくるから、きらいではない。
いっぽうで、さまざまな側面において、日本人的な考え方だと感じる。

極端かもしれないが「子は親に尽くすもの」という価値観もひとつ。
経済的自立と精神的自立は違うと思っている。
物理的に親元、或いは保護者のもとを離れるのは容易なこと。
かれらを一人の人間として受け入れられるようになったとき、それが精神的自立だと思うのだ。
自立しろと言いたいのではない。
私自身できているとは考えていない。

人はいつか死ぬ。
生みの親や育ての親を、一人の人間として見送ることができなかったとき、自我に混乱が起きる。
逆であったなら事態はさらに深刻で、遺された親が日常生活に支障をきたし、危機的状況に陥ることもある。
それを見るたび、悲しくてならないのだ。
家族を一人の人間として受け入れられないために起きる問題のひとつに、境界性人格障害がある。
愛情を求めながらも孤独で満たされることのない心は、当事者だけでなく親にもあって、その孤独と渇望の連鎖から抜け出すことは容易ではない。
子は親の所有物ではないと、わかっていても。

話が飛躍してしまった。
全く別の場所で感じたことを、こうしてひとつにまとめてしまったことを、お許しいただきたい。
一生を親に尽くし捧げるのと、一生親に反発して生きることは似ている。
石を「子」と呼べない自分は何か歪んでいるのかと悩むときがある。
投影もひとつの業。
私の手持ちの石は、いずれ然るべき持ち主のもとへ導かれることが多くあるから、自分の所有物になることはない…そんな、ひがみなのかもしれぬ。
霊的な感性は皆無ゆえ。



右が有名なロシアのダークラズベリーカラー。
左が近年主流になっているカナダ産で、やや赤みが強いのが特徴(いずれも夕日で撮影)。
スウェーデンからはピンク系、グリーンランドからはダークレッド、
米からはオレンジなど、産地によって色合いが違っている。
所構わずロシア産ユーディアライトとして販売されていることがある。


20×14×7mm

2012/06/15

ハウライト(本物)


ハウライト Howlite
Tick Canyon, Lang, Los Angeles Co., California, USA



今となってはほとんど産出のない希少石、ハウライト(ハウ石)。
手に入るのはコレクターからの流出品が殆ど。
写真は鉱物学者ヘンリー・ハウ氏が、1868年に発見した土地(原産地)から届けられた貴重なハウライトで、一面が研磨されている。
ハウライトの有名な産地、カリフォルニア付近では、コレクションの流出が少なからずある。
"本物" とされるハウライトをいくつか見る機会に恵まれたが、正直なところマグネサイトと全く見分けがつかない。

高価なパワーストーンの偽物とされ、きらわれるハウライト。
しかしながら、染色加工したハウライトとみなされ嫌悪されていたのは、マグネサイト(菱苦土石)という鉱物である。
本物のハウライトをイミテーションに用いようものなら、大損益となりかねない。(→詳細はハウライト/マグネサイトに記しました)。
つまりハウライトは、戦後ターコイズのイミテーションとして用いられる程度の産出はあったが、現在はターコイズよりも手に入れ難い高級品となってしまった。

前回のハウライト/マグネサイトにかんする記事は、この標本との出会いがきっかけだった。
馴染みのハウライトが希少石に分類されている。
確認したところ、事実であった。
ハウライトとは全く別の鉱物にハウライトの名が与えられ、流通しているのではないか。
ふと目に留まったパワーストーンの一覧表。
美しいビーズの一覧に混じって「ハウライト:別名マグネサイト」なる商品がある。
つまり、ハウライトとマグネサイトが混同されていたことに、業界はとっくに気づいていた(中には本当に別名であるものと信じている販売者もいる)。
ビーズには疎いから、盲点だった。
昨年秋の時点で、この問題が明らかになってから、かなりの時間が経っているという印象を受けた。

ビーズやアクセサリーなど、品揃えを加工製品に頼る業者は、ハウライトの名を外すことが出来なかったのかもしれない。
知名度の関係で、ハウライトの名をマグネサイトに変更するのは極めて困難。
ハウライト・トルコ、ハウライト・ラピスなどはパワーストーンの定番商品。
消費者のほうがむしろそれを知り、受け入れる必要がある。

純粋、崇高、目覚めを意味するとされるハウライト。
なんて気高く麗しい響きだろう。
私自身、ごく初期にたいそう気に入って、周囲にプレゼントしてまわった石だっただけに、衝撃的だった。
ハウライトのほうがマグネサイトよりも僅かに半透明、表面の網目模様が黒い(マグネサイトは茶系)という説明は見かけた。
それをもってしてもわからない。

人気のパワーストーンは、中国や香港などのアジア諸国に持ち込まれ、加工されている。
出荷され日本に届く頃には、詳細な産地はおろか、産出国も不明となってしまうケースが往々にしてある。
不可抗力である。
そのため、販売者は製品の入荷後、消費者に馴染みある無難な産出国を決定のうえ、販売を行っているという。

マグネサイトはアフリカや中国など世界中から産出し、加工は容易で色もよく載る。
今後も天然石ビーズの素材として活躍するものと考えられる。
なお、北朝鮮には36億トンものマグネサイト資源が眠っているらしい。

参考:韓国の情報サイト(日本語):
http://japanese.joins.com/article/079/145079.html

例外として、ブラジルから産出する宝石質のマグネサイト・クラスターがある。
非常に美しく透明感に富み、各方面での評価も高い。
マグネサイトに興味のある方は、是非探していただきたい。
パワーストーンブームが盛り上がりをみせる中、よくもわるくも知名度を上げたハウライト。
「パワーストーンの偽物」としてのハウライトは、おそらく存在しなかった。
純粋、崇高、目覚めを意味する鉱物に間違いは無かった。
おそるべし、ハウライト。


ブラジルからは出ないはずのハウライトだが、もしかすると?

90×57×15mm  60.0g

2012/06/11

イットリウムフローライト


イットリウムフローライト
Yttrium Fluorite
Little Patsy Quarry, Jefferson Co., Colorado, USA



ラベンダーカラーのなめらかなフローライト。
透明感のあるピンキッシュパープルが光を包み込むさまは、まだ見ぬ天上の楽園を思わせる。
イットリウムフローライトは、フローライトのカルシウム成分がイットリウムに置き換わることによって生まれる、希少石のひとつ。
不透明~半透明の珍しいフローライトで、癒しや平和、開放をキーワードとする人気のヒーリングストーンでもある。
イットリウムフローライトは一般に、ブドウの房のような塊状で産するらしい。
そのため、原石の流通は少なく、研磨品やスライスなどの加工品を中心に流通している。
美しく魅力的、しかし謎だらけ。
私にとってはそんな存在。

かねてから好きな石だった。
確か、最初に興味を持ったフローライトはこれだった。
イットリウムという響きは神秘的な魅力にあふれている。
しかしながら謎が多い石である。
限られた人しか手に出来ない希少石とのことであるが、比較的入手は容易であり、現在もコンスタントな産出、及び流通がある。
イットリウムを含む鉱物の多くは放射性鉱物。
このフローライトもかなりのイットリウムを含んでいるという。
果たして安全なのか。
そのあたりについては、全くわからない。
もっぱら霊的存在としての扱いを受け、鉱物としての明確な定義は定かでない。
つまり、好きなのに正体がわからない。
記事も保留になっていた。

イットリウムフローライトの産地とされるエリアは、メキシコ及び北米に集中している。
これまでは硬く不透明なパープルのスライスであることが大半だった。
今回入手したのは、半透明のミルキー・パープル。
コロラド産とある。
アメリカ随所から産出があるにも関わらず、世界的に珍しいというのは不自然に思えてくる。
淡い紫のフローライトを総称してそう呼んでいるようにもみえる。
結晶質の原石も僅かに流通があるが、まるでカルセドニーのようである。
カルセドニーとごっちゃになってない?

ヒーリングストーンの詳細な産地が明らかにされることは珍しい。
今回は幸いにも産地がわかった。
石の正体を探るにあたって、産地は重大な手がかりとなる。
表記の産地、リトル・パッツィは、コロラドの有名なペグマタイト。
イットリウムフローライトと思しき鉱物も出ている。
この石の正式名称は "Yttrofluorite" 若しくは "Yttrocererite" にあたるものと思われる。
鉱物として確かに存在する。
やっとわかったイットリウムフローライトの正体。

以下、イットリウムフローライトの概要。
最初の発見は1911年、ノルウェー。
その判断基準は豊富に含まれたイットリウム成分。
紫以外の色もあるが、社会通念上は紫色の蛍石を指し、色合いがその基準となっているという。
産地はコロラドの他にニューメキシコ、ノースカロライナ、テキサス、米以外ではカナダ、中国、エジプト、ロシア、ウクライナ、ナミビアなど。
なんと、日本からも発見されている。
記載は福島県川俣町!
日本三大ペグマタイトにして放射性鉱物の宝庫、福島からもイットリウムフローライトの産出があった。
いっぽう、メキシコから産したという記録は無い。

ヒーリング関係の資料では、イットリウムフローライトの産地はメキシコのみ、色は紫のみと記されている。
しかしながらそれは、必ずしも鉱物としてのイットリウムフローライトであるとは限らない。
また、健康被害については不明との描写も。
大丈夫なのか。
フローライトの発色にイットリウムが関与することは珍しくないようなので、ヒーリングを旨とするものに関しては、色合いを基準にイットリウムフローライトと呼んでいる可能性も考えられる。
パープル・カルセドニーと混同されているケースもあるかもしれない。
このタンブルに関しては、クラックなどを見る限りではフローライトに相違ない。

石にまつわる謎や神秘性がヒーリングストーンのウリとなっているのは事実。
この記事を見てがっかりされた方もおられるかもしれない。
神秘性が石の本質ではないと信じたい。
鉱物としては、相当量のイットリウムを含む。
砕いて服用することのなきよう。
個人的には大好きな石だが、念のため。


28×23×15mm  15.33g

2012/06/09

テルル


テルル
Tellurite, Quartz
Bambolla Mine, Moctezuma, Sonora, Mexico



Terraという言葉をご存知だろうか。
そうです、地球です。
もともとはラテン語のTellusから。
地球のどこかには、地球という名の鉱物があるという。
天体に因んで命名された鉱物は多いが、地球がその命名の由来となった鉱物の存在については、あまり知られていない。

鉱物に興味を持って間もなく、テルルという鉱物を知った。
最初に手に入れた八川シズエ氏のガイドブックにあった、テルル。
なんて可愛らしい名前だろう。
「地球」に因んで命名された鉱物だという。
探したのだが、誰も知らない。
稀産ゆえなかなか手にする機会はなく、先日ようやく入手した。

テルルは元素の名で、鉱物として一般的なのはテルライト/テルル石(Tellurite)。
自然テルル(Tellurium)の産出も稀にあり、元素鉱物として知られている。
テルル、またテルル鉱物は希産だが、日本からもかつて産出があった。
現在は採取禁止となっている。

写真は、テルル鉱物の宝庫とされるメキシコの鉱山から産したオールドコレクション。
中央に見える、黄色い束のような結晶がテルライトで、ガラス光沢と数センチに及ぶ大きさは、非常に見応えがある。
このような大ぶりの結晶は珍しいそうなのだが、驚くほど安価だったので、上には上があるのだろう。
結晶全体が黄色く見えるのは、石英に内包されたテルルに因る。
水晶をイエローに染める鉱物としては、前回取り上げたサルファーなど。

本文下、左に掲載した写真はテルルの原産地、Moctezuma Mineからの貴重な自然テルル。
銀色の部分がそれにあたる。
自然テルルとテルライトの区別がつかない段階で、両方購入したのは単に安くて綺麗だったからなのだが、あやうく後悔するところだった。
テルルの化学変化により生じるとされるテルル鉱物は多岐にわたり、表面に付着した粉末状の黄色の物質も、そのひとつだそうだ。

テルルについて調べたところ、不穏な記事にたどり着いた。
昨年起きた東京電力福島第一原発事故において、翌日にテルルの同位体が検出されたらしい。
ゆえに、テルルと聞いて、得体の知れない恐怖を連想する方も多いかもしれない。
詳しくは下記の資料を参照していただきたい。

参考:テルル132検出に関して
http://hiroakikoide.wordpress.com/2011/06/06/tanemaki-jun6/

ちょうど去年の今頃、この問題が発覚し、何も知らない人たちの間で騒ぎになっていたとある。
全く知らなかった。
私の長年の憧れだったテルルが、大衆の恐怖を煽っていたのか。
ご存知の通り、ヨウ素と同様(たぶん)、テルルそのものは放射性鉱物ではない。
毒性はあるが、レアメタルとして工業用に用いられる貴重な資源である。

テルルが発見されたのは1782年。
1798年、新元素として確認されたさい、地球の名を意味するラテン語から名づけられたという。
このような希な元素に対し、我々にとってかけがえのない地球の名を与えたのはどういうことだろう。

一説では、直前に発見されたウランに対する皮肉を交えて名付けられたという。
ウランは海王星に因んで命名された。
前回ムーンストーンを取り上げたさい、ムーンストーンがもともと黒に近い鉱物であったなら、「冥王星」などと命名されていてもおかしくないのでは、と記した。
冥王星に、冥界の王を連想したからである。
追記したのは、テルルについて調べるうちに、冥王星に因んで名づけられた元素がプルトニウムであることを知り、その偶然に恐怖を感じたせい。
地球から遠く離れた闇に位置する2つの天体に、ウランやプルトニウムの名が冠せられたことはなかなかに興味深い。
研究者たちはウランやプルトニウムに、人類が侵されるであろう狂気と、その結果我々が直面する不吉な予兆を垣間見たのではないかとすら思えてくる。

海外では、テルルのヒーリングストーンとしての扱いも少なからずある様子。
サードアイに働きかけ、真実を見極める力と、異次元の旅をサポートするらしい。
妙に説得力を感じてしまう。
Terraという言葉が大好きだった。
人類の罪は私たちの罪。
誰かを悪者にするのみならず、自然にすら罪をなすりつけるのは人として正しいか。
地球に恐れを抱くのはおそらく、間違っていない。
私たちは試されている。

参考:History of the Ancient Stars and the Origins of A Rare Element:
http://peacefulearthangel.wordpress.com/

参考:Whispering Woods Crystal Grimoire:
http://www.peacefulmind.com/stones2.htm




61×45×23mm  57.65g

2012/06/07

サルファー(阿蘇山)


サルファー Sulphur
熊本県阿蘇市阿蘇山



お菓子のような可愛い結晶。
サクサクと噛めばとろけてしまいそう。
しかし、絶対に食べてはならない。
この結晶には、毒性がある。
日本を代表する鉱物のひとつ、サルファー(自然硫黄)である。

サルファーは、単一の元素のみで構成される元素鉱物のひとつ。
火山列島である日本では、多くの産出があった。
古くから工業用、産業用に用いられ、その名残りを硫黄島などの名にみることができる(参考:硫黄島の鉱物 - うずら石)。
サルファーといえば温泉。
世界的にみると通好みの鉱物だが、日本では癒しや健康の象徴として、わりと人気がある。

鉱物に興味を持ち始めた頃、天然レモンクォーツなるものと出合った。
サルファーが内包されることによって、淡いレモンイエローに染まった水晶だった。
強くこすると硫黄のにおいがする…
じゃあ、硫黄の原石ってどんなものだろう?
それがきっかけで出会ったのが、この阿蘇山のサルファーだった。
一目見て気に入った。

サルファーは世界中から産出し、産地により形状や質感は異なっている。
ボリビア産の大きなクラスター、ロシアの透明結晶、イタリアの鮮やかなレモンイエローの結晶などが有名。
資源としては枯渇しているが、国産標本も流通はある。
私の大好きな阿蘇山のサルファーは、半透明の塊状で産し、軽くほどよい大きさ、独特の質感を特徴とする。
常に側に置いておきたくなる。

※サルファーの管理にはくれぐれもご注意を。人体への毒性の他にも、鉱物や金属類が変質することがある(あった)。魔を除けるパワーは半端ないらしい。聖書では、神が人を罰するための道具として登場し、中国においては世界最初の火薬を作るための原料となったという(ジュディ・ホール)。

地獄谷という場所をご存知だろうか。
小学生の頃、富山県は立山の地獄谷を訪れた。
地獄の名にふさわしい荒涼とした土地に道は続いていた。

吹き出すサルファー!
地獄からなんか出る前に走れ!

立ち込める硫黄の臭いに呼吸を我慢しながら、必死で岩を駆け下りた。
地獄から脱出したときの安堵を、今でも覚えている。
立山の地獄谷は古くから信仰の場とされ、なんと136もの地獄があるらしい。

月日は過ぎ、私も大人になった。
今でも地獄谷のことは忘れられない。
いっぽうで、サルファーは私のお気に入りの鉱物のひとつとなった。
遥かな子供時代を想起させる、冒険と安らぎの石。
温泉はご褒美。
そういえば、北海道の登別温泉にも地獄谷があった。
以前ヒッチハイクの旅で訪れたさい、遠くから見物した。
硫黄のかおりは、旅の思い出とともに。


未測定

2012/06/05

ムーンストーン


ムーンストーン Moon Stone
Tamil Nadu, India



昨夜、月蝕の話題が出たばかりなので、今日は月にまつわるパワーストーンを取り上げようと思う。
ムーンクォーツではなく本家・ムーンストーン。
ムーンストーンの中でも、ブルーのシラー(輝き)が浮かび上がるものはブルームーンストーンと呼ばれ、価値が高いとされる。
多くはカットされ、宝石やビーズとなって流通している。
写真は、意外に珍しい、ブルームーンストーンの原石。

この原石をいつどこで購入したのかについては覚えていない。
産地と名前のメモが入っていなかったら、見落としていたかもしれない。
ムーンストーンのシラーを楽しむには、研磨加工が必要。
この標本も、結晶の一面がカットされている…はずだったのだが、どうも天然結晶のまま加工を免れている。
母岩のうえに付いた原石が薄いため、光を透しやすいのが原因だろうか。
オレンジを帯びたブルーの炎が結晶全体を包むさまを昼間から拝めるとは思わなかった。
実際の月と同様、原石の場合、太陽光でそれを見ることはなかなか難しい。

ロイヤルブルームーンストーン、レインボームーンストーン。
鉱物としては非常にわかりにくい。
ムーンストーンの呼び名は、特定の鉱物を指す言葉ではない。
うっすらとブルーの浮かぶ鉱物名を挙げていくと、きりがないほどにその種類は多く、特定が難しいために混乱を招いている。
ムーンストーンと呼ばれる石の正体は、サニディン、アノーソクレース、ラブラドライト
いずれも長石に類するが、その中のどれか一つを指定せよといわれると、専門家も言葉に詰まってしまうようである。

ムーンストーンの偽物 "ペリステライト" という鉱物も存在する。
どこからか、それはムーンストーンじゃなくてペリステライトだ!という声があがり、大騒ぎになったのも懐かしい。
俗にいわれる「戦慄のムーンストーン・えちごや騒動」である(無い)。
しかしながらペリステライトもまた、長石の一種である。
詳細について記すと長文になってしまうため、専門書を参照していただきたい。

パワーストーンは大衆文化、鉱物標本は学問に近いものと捉えている。
議論は堂々巡りで、建設的とはいえぬ。
子供が鉱物名を誤解していたとして、それを教えたところでなんになろう。
元来、ムーンストーンは白かったと思っている。
もしそれが黒ければ、「冥王星(※追記)」「ブラックホール」等、別の名前で定着していたはずだ。
月にまつわる、神秘的な伝説が数多く存在するように。

※追記:冥王星の名を冠した元素はプルトニウムである(→詳細:テルル)。

日本では、月はたいそう縁起のよいものとして、好まれてきた歴史がある。
サンストーンよりムーンストーンのほうが人気が高いのも、そのせいかもしれない。
例えば、月にはうさぎが棲んでいるという伝説がある。
満月には白うさぎが餅をつく、ということになっている。
月にうさぎのいる国は、意外に多いようだ。
直接聞いただけなので、文化的には異なるのかもしれないが、少なくともインド、西ドイツの方から直接「自分の国も月にうさぎがいる」と聞いたことがある。


ここではジャータカ(仏教説話)に出てくるうさぎの物語が起源となって、月にうさぎがいるという伝説が生まれた旨、記されている。
ジャータカは私が物心ついたとき、既に私の心の中にあった。
兎本生と呼ばれるその物語は、私がうさぎに興味を持ち、インドに行くきっかけともなった思い入れのある説話。
インド、日本については、ジャータカが月のうさぎの言い伝えの由来になったとしている。
いっぽうで、世界には月光が狂気をもたらすとされ、忌み嫌う土地があると聞く。
月の影響で恐ろしい狼に変身する人もいた気がする。
一般に、欧米人は月を好まないとされている。
調べてみると発祥はどうも、ドイツ。
月は悪魔や魔女の象徴として描かれているという(ドイツは魔女狩りがもっとも盛んだった国)。
実際、欧米ではムーンストーンに対し、邪悪で背徳的な意味合いを与えることも少なくないようである。
うさぎがいるんじゃなかったのか。
ドイツの夜空にうさぎがいると教えてくれたのは、西ドイツの学者の息子。
父の跡を追い研究者を目指していた青年だ。
彼の性格や風貌は、オカルト的寓話とは全く結びつかないし、とくに仏教徒というわけでもなかったから、不思議なのだ。
欧州のオカルトは根が深い。
なぜドイツに両極端な二つの月のイメージが並存するのかについて、これ以上の言及は控える。

話を戻そう。
ムーンストーンは鉱物名ではない。
サニディンだったりアノーソクレースだったり、時々ラブラドライトやペリステライトであったりもする。

参考:ペリステライトとムーンストーン、ラブラドライト
http://www.cgl.co.jp/latest_jewel/gemmy/128/index.html

上記の3つの鉱物は、いずれも長石の一種。
宝石の場合は区別をするべきだが、大量生産が常であり、また消耗品でもあるパワーストーンの場合、かえって混乱の原因になりそう。
写真の石はインド産だから、ラブラドライトの可能性が高い。
しかしながら、産地からはペリステライトも出ている。
ムーンストーンより先は、鑑定するしかない。
そこまでして何になろう。
正式なムーンストーンとされるサニディンのすべてが、月の輝きを想わせるとは限らないのだから。

論争に決着が着いたかどうかはわからない。
ペリステライトはブルームーンストーンの偽物というのは言いすぎであろう。
ムーンストーンと呼ばれるのはひとつの鉱物ではない。
鉱物が違えば問題も起きるから、パワーストーンにもある程度の定義は必要だ。
ただ、宝石の場合はともかく、産地すら明らかにされない消耗品としてのパワーストーンに、細かな決め事が必要だろうか。

以下、素人の意見。
パワーストーンに限っては、青白いシラーの出る長石類をムーンストーンに統一してしまおう。
成分でなく外観や質を基準にし、規定の範囲内でムーンストーンの呼称を使ってしまおう。
いっぽう、お馴染みのオレンジムーン、ダークグレームーンなどについては、ムーンストーンとしての扱いは甚だ疑問であり、月のビジュアルとして考えると、どうにも不吉であり、不気味である。
ムーンストーンを邪悪な石にしてはいけない。
別途、名称の考案を望む。


47×30×12mm  19.15g

今週、話題性が確認された10の鉱物

What Mineral Would You Take with You to A Deserted Island?