2012/03/27

ネコ石


ネコ石 Nekoite
Iron Cap Mine, Landsman Camp, Aravaipa, Santa Teresa Mts,
Aravaipa District, Graham Co., Arizona, USA



私の要注意石リストに長らく残ったままになっていたこの石を、ついに入手したので報告したい。
ネコ石(ネコアイト)という石がある。
写真の標本がそう。
岩にしかみえない?
よく見ると、しろくてふわふわした何かが生えている(本文下の写真左)。
この部分をネコ石といい、あとはオマケである。

実は、以前からこの石を探していたのだが、稀産鉱物であり、なかなか見かける機会はなかった。
あってもべらぼうに高かった。
また、日本でネコ石を紹介しているところは限られていて、本もあるらしいのだが、はっきりしたことはわからない。
海外のディーラー経由で知った。
先日、国内の有名な鉱物店にて、価格が大幅に下がっていたため購入したのが写真の石。

では何故ネコ石なのか。
オーケン石という石がある。
うさぎのしっぽともいわれる、しろくてふわふわした石で、インドを代表する鉱物の一つである。
ネコ石も、発見当初はオーケン石だと思われていた。
ところが少し違うのではという話になり、よく調べると微妙に違っていた。
そのため関係者が "Oken" 石を逆さから読み、"Neko" 石と命名したということである。
いろいろとツッコミどころが満載である。
譲っていただいた方にお話を伺ったところ、この荒業を決行したのは、日本人ではないらしい。

若い方はご存知ないかもしれない。
かつて筋肉少女帯というプログレバンド(友達がそう言ってた)の中心人物として活躍した、オーケンこと大槻ケンヂという人物がいる。
ココ3年ほど、レコ屋の元店主、T氏と近隣のミネラルショーへ出かけている。
T氏はオーケン石のところで毎回止まり、「オーケン石やぞ!」と騒ぐので、恥ずかしい。
ある歌も口ずさむ必要があり、非常に苦しい(本文下にリンクあり)。
インドからのオーケン石の産出は多く、入手も容易。
私もかなり初期から持っていた。
このネタも、日本ではわりと頻繁に用いられる。

ここでネコが出てくるのは、まったくの偶然。
オーケン石(OKENite)は、ドイツの Lorenz Oken 氏に因んで名づけられたというが、ドイツのオーケン氏は1851年にこの世を去っている。
ネコ石の命名は1955年、アメリカ人によるとされる。
日本人は関与していないとみられる。
日本のオーケンも生まれていたかどうかわからない。

ネコ石は他にカリフォルニア州、ブラジル、アゼルバイジャン、ウズベキスタンから見つかっているという。
現時点ではインドからは見つかっていない。
あれだけオーケン石が出るにも関らず、ネコ石は、出ていない。
哀愁をさそうこの石の面影が、まるで老いた猫のようにみえるのは私だけだろうか。

確かに、オーケンがネコを好きかどうかまで、私は把握していない。
解散後、彼が何をしているかもはっきり知らない。
ただ、以下の曲が入っているアルバムのジャケは、ネコなんです。
下に続くのは、世界にそれをアピールすべく、私が勝手に作った英作文です。
ネコ石の石言葉は、共時性と、未知なる可能性?




NEKOite: An anagram (reverse spelling in this case) of OKENite, for which it was originally mistaken.
In Japan, "Neko" means a cat,
"Oken" sounds just like a musician's name who loves India.
His song about longing to India has become the legend in Japanese subculture, which makes us smile always.
That's below;



参考:ドイツ語 Nekoit/ロシア語 Некоит/スペイン語 Nekoita


76×55×65mm  352g

2012/03/25

ロードクロサイト/インカローズ(結晶)


ロードクロサイト/インカローズ
Rhodochrosite
Uchucchachua Mine, Lima, Peru



ロードクロサイトは「赤い薔薇色の石」という意味。
南米アルゼンチン・ペルーから産するロードクロサイトを、インカ帝国に因んでインカローズと呼んでいる。

数あるパワーストーンのなかでも、インカローズの人気はひときわ高い。
アルゼンチンの土産物屋では、インカローズが飛ぶように売れているという(アルゼンチン在住の知人情報)。
南米以外から出たものにインカはおかしいから、ロードクロサイトの名で呼ぶべき!などといった、よくわからない議論で盛り上がったのも、記憶に新しい。
要は、インカローズの知名度が上がりすぎたために、ロードクロサイトとインカローズを区別しようとする動きがみられたわけである。
現在は、むしろロードクロサイトと呼ぶほうが、「お洒落な石の達人」ということになっている。

この標本はペルーから来たものなので、インカローズと呼んでもよさそう。
ただ、外観が違いすぎるので、混乱される方もおられるかもしれない。
インカローズといわれてまっさきに想像するのは、アルゼンチン産出の、サーモンピンクに白い縞模様の入った石。

春先に見かけた、宝石質の赤いロードクロサイト。
ここまで赤く、透明感のある大きな結晶は初めて見た。
今年のツーソンショーで出回ったものらしい。
格安だったので即決。
黒い母岩に深紅の結晶が映える見事なクラスターで、ところどころに無色透明の結晶が入っている。
この標本では殆どわからないのだが、中には、透明結晶が多すぎるだろ!とツッコミたくなる標本も。
無色?
なんだろう。
カルサイトの仲間だけに、カルサイト?
それとも、インカローズの白い部分にあたる何か?
まさか、染めたのか?
わからない。
母岩が黒いのは、赤い結晶だけに、鉄か何かだろう(適当)。

ロードクロサイトの産地としては、ペルー、アルゼンチンのほか、アメリカ・コロラド州、南アフリカ、中国などが知られている。
コロラド州・スウィートホーム鉱山からの標本は、世界一の美しさと称されるが、産出は既に無い。
ロードクロサイトそのものは世界各地から発見されており、かつては日本からも多くの産出があった(稲倉石等々)。
いずれもピンク~ピンキッシュレッド~ブラウンの色合いを示す。
この標本が、なぜここまで赤いのかについては、資料がみあたらず。

南米からのロードクロサイトの産出は激減しており、枯渇は時間の問題とされていた。
しかし、流通が減ることも、質が落ちることもなく、現在も絶賛販売中である。
いまだにこんな標本が出てくるのだから、まだ出てくるんだろう。
煽りに合ったようで腑に落ちない。
そのいっぽうで、人知れず消えていく石がある。

その名の由来である、赤い薔薇と呼ぶにふさわしい外観。
こんなものがまだ眠っていたとは、南米おそるべし。
世界で最も質の高いとされる、コロラド・スウィートホーム鉱山のロードクロサイトとは、また違った魅力を感じる。
パワーストーンをこよなく愛するあの人への贈り物に、一束いかがでしょう。
お安くしますぜ、パッションローズ。




40×21×18mm  約20g

2012/03/23

リビアングラス


リビアングラス
Libyan Desert Silicate Glass
Gilf Kebir, Libyan Desert, Egypt



私はホテルの一室に入っていった。
暗い室内の床に青いビニールシートが貼られている。
大量の黄色い物体が積んである。
部屋には臆病そうな青年が一人。
「選んでいいか?」と尋ねると、彼は頷いた。
砂まみれになりながら幾つか選び、交渉に入る。

リビアングラスは、1932年にリビア砂漠で発見されたテクタイト(インパクトグラス)の一種。
2500~3000万年前に形成されたといわれている。
テクタイトとは、隕石の衝突に伴う衝撃で地表の岩石が溶け、冷え固まることにより成形された天然ガラスのこと。
多くは不透明な黒い塊で発見される。
クリームイエローの色合いを示すリビアングラスは、グリーンのモルダバイトと並ぶ人気であるが、産出は圧倒的に少ない。
写真の石は、リビア砂漠の砂付きで盛られていた中から幾つか選んだもののうち、まだ手元にあったもの。

リビアングラスの正体は、長い間不明とされてきた。
2006年、産地付近に巨大なクレーターがあることが判明、リビアングラスが隕石の衝突に由来する事実が確認されつつある。
また、クリストバライトのほか、エンスタタイトなどの希少鉱物が含まれていることが明らかになっている。

産地はリビア砂漠の奥深く、エジプト、スーダン、リビアの国境付近に広がるギルフ・ケビールと呼ばれる岩山。
世界の果てとも称される、過酷な土地である。
かつてはこの地に人類が文明を築いていたことが明らかになっている。
エジプトのピラミッドやツタンカーメンの墓から、リビアングラスで作られた護符や装飾品が発見されているのはご存知の通り。
高価な宝石だと思われていたのは、大半がリビアングラス、つまり天然ガラスであったものと推測されている。

天然ガラスであるからして、偽物も出てくる。
現在ブレスの形で流通しているものは、淡い黄色に着色されたガラスだという。
天然のリビアングラスを使っている場合も、ビーズの場合はほとんどがシリカ成分で補整、強化してあるらしい。
販売価格は数万~数十万ほど。
処理によりいくら耐久性を高めても、ブレスにかかる負荷は他の装飾品の比ではなく、数年経てば使い物にならなくなる。
石の世界で成功している人物が、ブレスではなく、パテックフィリップやフローレスのダイヤモンドなどをお持ちだったとき、なにかしら説得力を感じた。
ブレスでなければ効果が期待できないということはないので、無理はしないでほしい。

なお、最近エジプト政府がリビアングラスの採取を禁止したとの噂が流れている。
詳しいことはわからない。
希少価値が増しているという煽り文句には注意したい。
リビアングラスは、カルマの深い人に縁があるといわれている。
古代の泥棒も宝石と間違えたほど。
もしあなたのカルマが本物なら、私のように、いずれきっと本物のリビアングラスが届けられるはず。
焦らなくても大丈夫?


53×28×25mm(左側) 43.52g

2012/03/21

チルドレン石


チルドレナイト Childrenite
Rapid Creek, Dawson Mining District, Yukon, Canada



チルドレナイト(チルドレン石)。
光沢のある針状結晶が集まって、キラキラ輝く。
この角度からだとまるで、はりねずみ。
カワイイ名前のふしぎないきもの。
こどもの宇宙。

チルドレナイトは、エオスフォライトの成分がマンガンから鉄に置き換わったもの。
エオスフォライト自体流通が少ないから、その亜種になど滅多に出会えない。
年末に購入したこの標本が、私の人生初のチルドレナイトとの対面だった。
かねてから「子供のための石」としてその名を与えられたであろうことを夢見ていたのだが、先ほど調べてみるとやはり、John George Children なる人物が最初に発見したのがその由来のよう。
つまり、自分のような初心者にあっては話題に上ることもない、そんな石。

チルドレナイトの存在を知ったのは、八川シズエ氏の著書にて。
右も左もわからぬ頃、恩師の奥様に薦められて購入し、チルドレン石の名に惹かれて目を通した。
暗褐色に鈍く光る、圧迫感のある板状の物体の写真があった。
まるで鈍器のようだった。
チルドレン石。
辛気臭く男臭く、むさ苦しいもの(たぶん、鈍器を用いて音を立てるイメージ。国でいうとドイツ)。
そう思い込んだまま忘れていた。

初めて出会ったチルドレナイトが、このように可愛らしい姿であったときの嬉しさといったら。
価格も思いのほか手頃だったため即決。
チルドレナイトは産地に拠って形が異なり、ブラジル産の板状結晶のほか、カナダから針状結晶も出ているそうだ。
鉱物の世界においては、前者の「かわいくないほうのチルドレン石」が貴重品とされている。
現在は流通すらない状態とも伺った。
八川シズエ氏の前述の著書には、この石をはじめ、今となっては入手の困難な鉱物も多く取り上げられている。
戸惑う人も多いのでは。

さて、私のイメージどおりだった、カナダ産チルドレナイト。
極細の透明結晶が密集しているため、光を透過してゴールドに輝く。
写真の標本は、ラズライト(天藍石)と共生している。
チルドレナイトのゴールドに、メタリックブルーのラズライトが見え隠れするさまは、宇宙の神秘に似ている。

なんと、最近になってこの石が、ヒーリングストーンの扱いを受けている模様。
入手困難石がヒーリングストーンとして扱われるとき、それは市場に相当量の流出があったとき、であることが多い。

今回の件についてはわからない。
私のような一般人は、割合どんな希少石にもたどりつくのだが、ヒーラーを名乗る人々はそうでない。
特にクリスタルヒーラーは、意外なほどルートを持っていない。
以前誘われてクリスタルヒーリングのイベントに行ったさい、ヒーラーとおぼしき人に「東京のミネラルショー(注1)で外国人から仕入れた本物の石」と謳われ、動揺した。
鉱物を使って治療行為をし、こうした希少石を破損させようものなら、名画に傷をつけるも同じこと。

このブログを読んでくださった方は、私をアンチ・パワーストーンな人と感じておられるかもしれない。
どちらでもないことだけ、お伝えしておきたい。
自分は、ひとつの石を、鉱物とヒーリングストーン(パワーストーン)の両方の側面からみるようにしている。
石から見え隠れする世界を楽しんでいる。
商品や資源としての需要の推移、社会の動きや歴史、そして人間の喜びや悲しみ、生きる意味といったものが、石には凝縮されている。
私は数珠に興味がないだけ。
産地を抹消されたビーズからは、何もみえないから。

ところで、チルドレナイトと聞くと、どうしても連想してしまう曲がある。
わりと昔の曲なので、知らない人のほうが多いかもしれない。
曲中に入るヴォーカルが、チルドレナイトに聴こえてしまうのは、私だけかもしれないが。
これで踊ったなあ!
って人。
同世代でしょう。
貼っておきます。


Children Of The Night - Juno Reactor




注1)東京のミネラルショー

春の新宿ショーもしくは冬の池袋ショーのことかと思われる。買い付けが目的でなくとも、誰でも入場することが出来る。ミネラルショーは全国各地で行われ、前述のスピ系イベントの行われた付近でも毎年開催されており、入場は無料である。仕入れに使うこともあるが「買った」と言うのが適切。また販売者である場合は名刺交換を行うのが一般的。


23×18×11mm

2012/03/18

【速報】ピンクファイヤークォーツ


親切な内田さんのおかげで、あのピンクファイヤークォーツの中身がわかりました。



詳細はピンクファイヤークォーツの項にすべてまとめました。
なお、無断引用として掲載したURLは、私が以前引用したサイトだったことに先ほど気づきました。
無断での引用を行っているサイトが数多く認められたため、誤認したものです。
掲載にあたって、こうした貴重な情報をソース無しに引用することは控えたいものです。
関係者様には深くお詫び申し上げます。

2012/03/17

雷水晶


ライトニングクォーツ/雷水晶
Lightning Strike Quartz
Diamantina, Minas Gerais, Brazil



世界には、雷に打たれ崩壊の危機に晒されながらも、奇跡的にその存在をとどめた水晶があるという。
それらはライトニングクォーツといわれている。
ライトニングとは、雷の意味。
雷水晶と呼ばれることも多い。
現地では "Pedra de Raio" (雷水晶と同意)と呼ばれており、欧米での呼称であるライトニング・ストライク・クォーツは、メロディ氏による命名と聞いている。

ライトニングクォーツは世界中から発見されているというが、主な産地はブラジルのディアマンティーナ。
水晶の名産地として知られる土地である。
ディアマンティーナ産のライトニングクォーツは、雷との相互作用を語る上で、非常に重要な特徴を備えているという。
また、土地の特性なのか産出も多いようで、現在も安定した流通がある。

私が鉱物にすこしばかりディープに関わるようになった頃、話題になっていたのがライトニングクォーツだった。
なんじゃそりゃ。
そう思ってさっそく手にしたライトニングクォーツは、透明感にあふれ、とても崩壊の危機に晒されたようには見えなかった。
確かに、結晶の所々に破損やデコボコがあるのだけれど、本当に雷に打たれたのか。

ライトニングクォーツには一応の基準がある。

  • 電流が流れた形跡があること。
  • 結晶の柱面の少なくとも半分に、巻きつくように水晶が成長していること。
  • 落雷時の熱により、一部がクリストバライト(白い付着物)に変化していること。

このライトニングクォーツは、たまたま収集品の中から出てきた。
写真の水晶ポイントはその拡大写真。
巻き巻きとはいい難いが、小さな結晶が貼りつくような格好でポイントを覆っているのが見えるかと思う。
意外に気づかないものだが、重要事項なので、押さえておきたい。
写真にある激しい侵蝕が、電流の流れた痕?

ここまで激しい浸食が刻まれているものは珍しいようだ。
ただ、落雷の衝撃で折れてしまうことはある。
トップのないライトニングクォーツも倉庫のどこかにあったはず。
ディアマンティーナから産する水晶は、透明度が極めて高く、採掘も丁寧なのか、もともときれい。
雷に打たれても、きれい。
かえって雷の痕が映えるというわけ。

ところで、先日某オークションを見ていたら、ライトニングクォーツのブレスレットなるものを発見した。
色合いから察するに、放射線処理を施したスモーキーシトリンであった。
販売者が、ライトニングクォーツに放射能を浴びせ、売れ筋商品にしたかったという可能性もある。
しかし、これでは全くわからない。
クラックひとつないきれいな珠が、ふんだんに使用されている(本文下に写真を掲載。後日さらなる衝撃的物体を確認)。
売れ残りのブレスを、むりやりライトニングクォーツと名づけ、さばこうとしたように見えてならない。
いろんな意味で有名な、中華系の業者だった気がするのだが、まだ居るのか。
かれらは金を積んでオークションのトップに商品を並べているため、マトモな人々がドン引きして立ち去ってしまう。
これでは新しい人が入ってこない。

中華系の業者は、欧米においては、鉱物市場を襲った類い稀なる脅威とみなされ、恐れられているという。
市場はまさにライトニングクォーツ、といった状況。
彼らをとめる者はいないのかと、不思議になってくる。

ライトニングクォーツ。
激しい衝撃に打たれ、崩壊の危機にさらされながらも、その存在を打ち消されない。
人間は、そうなり得るだろうか。
この美しい水晶は、私に人間とは何かを、深く考えさせるものである。




60×15×12mm  15.58g

2012/03/14

サチャロカアゼツライト


サチャロカアゼツライト
Satyaloka Azeztulite
Satyaloka Monastery, Satyaloka, India



思えばサチャロカアゼツライトほど不確かな存在はなかった。
私がその存在を知ったときは、ミルキークォーツの塊だった。
やがて極小の結晶が主流となる。
H&E社の商品である「アゼツライト」(→アゼツライトの項参照)の名を冠するのはいかがなものかとの声を受け、H&E社の商品のひとつに加わったさいには、褐色を帯びた不透明な石英の塊と化していた。
当初「サチャロカクォーツ」の名で発売されたが、産出の激減を受けて生産中止。
代わりとして、現地から新たに発見されたという透明水晶「サチャマニクォーツ」が発表された。

2年が過ぎ、鉱物の世界に戻ってみると、「サチャマニクォーツ」は生産中止に。
そのH&E社から最近になって「サチャロカアゼツライト」と明記された商品が発表されたことを知る。
シモンズ氏にはお世話になったから、言及は控える。

アゼツライト同様、サチャロカアゼツライトもまた、形而上の概念である。
サチャロカとは南インドの地名。
その地から出現するというサチャロカアゼツライトは、数年前までニューエイジストーンの代表格であった。
高い波動と崇高な輝きを放ち、霊能力の強化やヒーリングに欠かせない存在として、高い人気を誇った。
かのH&E社が販売権を独占するまでは、その複雑な入手経路ゆえに、限られた売り手しか扱わなかった。
需要に供給が追いつかず、価格は異常とも思えるほどに高騰した。
H&E社が販売権を独占するまでは。
ただ、色や形、質感や大きさなどに随時変化が生じる、産地の様子がいっさい伝わってこないなど、謎は多い。
ある時は透明水晶、ある時は石英の塊。
米粒大かと思いきや巨大化し、オレンジや赤などもたまに登場する。
共通点はサチャロカ地方産出の石英ということだけ。
そうと言われなければ判断できないのは、高額商品だけに致命的な問題であった。

※パワーで鑑定できる人もいるとは思うが、それだけを根拠に販売すると逮捕されることがあるので注意したい。

写真の石は、販売権がH&E社に移る直前まで流通していた、幻のサチャロカアゼツライト。
米粒大だがポイント状の水晶だった。
いっぽう、H&E社から発売されたのは、ほんのりイエローを帯びた石英のポリッシュ(写真)。
現在販売されている「サチャロカアゼツライト」に似ている。
1988年に Dharma Dharini 氏によって世界に紹介されたというサチャロカアゼツ。
その不確かな存在に翻弄され、対応に追われた小売業者。
ある意味修行だったのかもしれぬ。

かつて、サチャロカアゼツは、南インドの寺院で、現地の僧侶が手作業で採掘しているということになっていた。
当地から産する水晶を拾い集めるのが修行の一環ということらしかった。
奇妙な印象は否めずにいた。
南インドという土地柄、また関係者の面持ちから察するに、欧米の若者向けのアシュラム若しくはコミューン、といった実態が想像されたからである。
調べたら実際そんな感じだった。
機会があれば訪れてみたいとよく人に話していたのだが、ほとんどの方は「?」という表情をされていた。
サチャロカアゼツは、インドでもトップレベルの修行者が得た、霊験あらたかな賜り物。
そう考えた人がほとんどだったのかも。

サチャロカ寺院、という翻訳が誤解を招いたのは確実。
それらがコピペされ、広まったせいでは?
寺院、僧侶という表現で語られると、少なくとも若い白人には結びつかない。
H&E社の従業員にお会いしたさい、サチャロカの実態について尋ねたことがあるのだが、「行ったことがないのでわからない」とのことだった。

サチャロカアゼツについては「持つ人を選ぶ」という特権意識が強調され、入手の難しさばかりが語られた。
難しいと感じたことはない。
興味を抱いた石はだいたい手元に来る。
なぜなら私は石に選ばれないよう努力しているからである。
冗談である。
少なくとも、ずっと欲しいと思っているがご縁がない、という方はおられなかったはず。
ただ、20年前のサチャロカアゼツについては全くわからない。

サチャロカのコミュニティを訪れるのがここ数年の夢であった。
歴代のサチャロカアゼツをコンプリートしてる人物は、きっとここにいる。
サチャロカアゼツを認定する人物は、きっとここにいる。
水晶や石英がアゼツライトに昇格する基準を明らかにするため、一度訪れる必要がある。
サチャロカのコミュニティまでの道のりや、施設の位置はだいたいわかっている。
ただし、主力商品を失って倒産したおそれがあり、現在も採掘が続いているかどうかはわからない。

かつてインドを旅したとき、私はサチャロカ近くを確実に通過している。
奇しくも全盛期であったために、無念でならない。
しかし、私は当時、石に全く興味がなかった。
偶然コミュニティを見つけても、サチャロカアゼツを持ち帰ることはまずなかった。
実際、南インドでは、現地の宝石商に気に入られ、宝石を次々にプレゼントされて、正直困った。
日本人の感覚からすると宝石は大きすぎて、成金に間違えられること必至。
また、現地加工のためデザイン性皆無であり、日本ではとても身につけられないシロモノであった。
知り合いの家に向かう途中に彼の店があったため、通るたびに呼び止められ、断るわけにいかなかったのだ。
邪魔だったので、後に知り合った人たちに全部あげてしまった。
今更ながら記憶をたどると、けっこうな品質の貴石も混ざっていたのだが、日本に持ち帰っても数年後に失う運命だったから、むしろそれで良かったんだろう。

若気の至りか、もらうだけもらっておきながら、彼には内緒で町を去った。
インド人はよく物をくれる。
価値がわからなければ、とりあえずもらっておいたほうがいいかもしれない。
ただし、あなたが女性であれば、絶対に与えてはならない。


8×5×3mm(最大)計1.55g






追記

1)この記事をアップした3月に、サチャロカのコミュニティが消滅したとの噂が流れ、無断転載を疑われた件について

まず、偶然の一致を信じるかどうか悩むとして、私なりの考えを追記させていただいたのが以下の文章です。


サチャロカアゼツがH&E社の管理下となる以前は、サチャロカ・コミュニティの敷地内、もしくは周辺で小規模な採掘作業が行われているとされていました。
写真の石にも手掘りの形跡があります。
その後、この石の権利がH&E社に移り、大量生産が求められたために、採掘地が同地方の山岳地帯に移されたものと考えるのが妥当ではないでしょうか。
サチャロカのコミュニティを紹介したブログは、何年も前に更新が途絶えています。
なおこの記事は、私が独自に調べ、過去の経験をもとに記したものであること、ご理解願います。

しかしながら、さらに追記しますと、結論としては偶然の一致でありました。
正確には、私のほうが一週間遅いので、無断転載を疑われた方のほうが多かったかもしれません。というのも、ソースが全く同じなのです。
ただ、何年も前からあったサイトで、以前から気に入って愛読していたために、私には全く予想できませんでした。
ソースの提示は、(存続していれば)今後のコミュニティの運営に支障をきたすという懸念があり、あえて伏せました。
無関係であることを関係者様から伺い、感謝すると同時に、申し訳なく思っています。
噂については、サチャロカのコミュニティに非常に詳しい方が3月8日に言及されたとみられます。
この記事自体は3月入ってすぐに書いたものと記憶しておりますので、私自身困惑しています。
私が噂の存在を知ったのは7月末、そして確認が取れたのが今日ということになります。
ブログ主様、情報の持ち主様にはご迷惑をおかけしたことをお詫びすると共に、現状としては、まさかの偶然の一致を信じていただくしかなく無念に思います。
また、サチャロカ・コミュニティの閉鎖疑惑については、冗談のつもりで記したものであり、事実関係は把握できていません。(2012/08/06 追記)


2)サチャロカマスターアゼツライトの真偽について

南インド・サチャロカ地方から水晶が産出するという地質学的データはありません。
また、サチャロカコミュニティは水晶を採取するための組織ではなく、あくまでスピリチュアリティを探求するための修行の場でした。
いつの間にか鉱物の名産地になっているのは奇妙です。
サチャロカアゼツライトとして流通している水晶が、実はアメリカ・アーカンソー産水晶だったとして問題になっています。
関係者の情報が漏れ、明るみに出たようです。
比較的大きさのあるサチャロカマスターアゼツライトについては、ブラジル産やアーカンソー産の水晶と考えるのが妥当であり、サチャロカから産したとするには無理があります。

お世話になっている女性のご厚意で、原石をお預かりし、確認させていただきました。
ブラジル産水晶であると考えられます(→サチャロカマスターグランドアース)。
T様、いつもありがとうございます。

アーカンソー産水晶については、過去にも "ノースカロライナ産アゼツライト透明原石" と称して販売され、ファンの顰蹙(ひんしゅく)をかったことでも有名です。
決して悪いものではなく、世界で最もクリアな水晶のひとつとして、収集家にも高い人気があります。
ただ、小さなポイントが3000円以上の値を付けるようなことはまずありません。
偽物にはご注意ください。

サチャロカは広大な南インドのごく一部に過ぎず、インド人にも知らない人がいるほど。
コミュニティは欧米人を中心とし、ミレニアムをピークに稼動していた宗教団体の一種であって、古くから存在するインドの聖地ではないというのが私の見解です。(2013/08/18 最終追記)


2012/03/12

フローライト(ロジャリー)


フローライト Fluorite
Penny's Pocket, Rogerley Mine, Frosterley, Weardale
North Pennines, Co. Durham, England



数あるフローライトの中で最も格調高いとされる、英国・ロジャリー鉱山のフローライト。
微量のユーロピウムを含み、極めて強い蛍光性を示す。
本来はグリーン。
太陽光、或いは室内灯にあてただけでブルーに色変化を起こす。
曇り空にて撮影したが、結晶全体がブルーグリーンに写っているのは、ロジャリー産フローライトならでは。

フローライトの中には、紫外線に反応し、色合いが変化するものがある。
イギリスや中国、モロッコ産などが有名(日本からも稀に産出するらしい)。
色変化の度合いはさまざまで、全く蛍光しないフローライトもある。
また、多くはブラックライトが必要。
このロジャリーのグリーン・フローライトの豪快な色変化は、世界的にも稀なんだそうだ。

こちらは2011年産出の貫入双晶。
極めてクリア、比較的大きさのあるシャープな結晶体で、ひときわ青が濃い。
ロジャリー鉱山から発見されるのは、グリーンフローライトが中心だが、発見年代や鉱床の違いによる特性についても重視される。
そのわずかな差異もまた、収集家に愛される所以となっている。

さて、以前から気になっていたのだが、フローライトの結晶内に、白い内包物がみられることがある。
この標本もそう(本文下の写真がわかりやすいかも)。
私はこの内包物が大好き。
空にうかぶ雲のような、南国の海の泡のような、この何か。
ざっとみた感じ、気にかけている方はおられない様子なので、これ以上触れない。

この標本は、往年のロジャリー産フローライトの魅力を凝縮したかのような貫禄の品といえる。
なお、歴史と伝統を重んじる英国では、各地から産出する特徴的な鉱物に、格調高いネーミング(愛称)を与えることが多い。
見ていると、けっこう面白い。
詳しくはまたの機会に。




32×31×28mm  37.30g

2012/03/10

グランドキャニオンワンダーストーン


グランドキャニオンワンダーストーン
Grand Canyon Wonderstone
Grand Canyon Area, Arizona, USA



グランドキャニオンワンダーストーン。
なんだかすごい名前である。
鉱物としては、鉄分に富むライオライト(流紋岩)の一種。
米アリゾナ・グランドキャニオンの50万年前の地層から採取されるという。
グランドキャニオン国立公園の敷地内から採れるわけではなく(たぶん捕まる)、産地はあくまでその周辺らしい。
しかしながら、パワースポットのエネルギーを宿したヒーリングストーンとして、一部で人気があるようだ。

特徴は、レッド、オレンジ、イエローの暖色系パターン。
規則的な縞模様は、すべての石に現れる訳ではない。
また、莫大な人気を誇る石というわけではない。
ヨーロッパのごく一部では知られているようだが、扱いは地味。
ヒーリングストーンとしての扱いは少なく、むしろこの色合いの美しさに焦点が当てられ、宝飾品として注目されているようだ。

ワンダーストーンの名を持つ石は、アメリカほか世界中から産出する。
キロ単位で取引され、工芸品の素材として、また建築用素材としても用いられる。
いずれもマグマ由来のライオライトである。
なお、同地から得られる「グランドキャニオンジャスパー」、こちらは全く別の石。
さまざまな色合いが混在したシックな石で、印象としてはピクチャージャスパーに近い。

グランドキャニオンワンダーストーンは、いうなれば、これからの石。
この石のもつ温かみは、多くの人々を虜にする魅力に満ちている。
数あるワンダーストーンの中で、今後特別な扱いを受ける可能性を秘めているのは、このグランドキャニオンワンダーストーンくらい。
さほど高価なものでもないので、手に入れていただきたい。


27×22×19mm  15.32g





2012/03/07

パープルアパタイト


パープルアパタイト
Purple Apatite
Shingus, Haramosh Mts., Skardu District, Baltistan, Pakistan



淡いパープルのアパタイトに、紺色のインディゴライト(エルバイトトルマリン)が共生する豪華な標本。
先端に広がるアパタイトの結晶群は、まるで花のよう。

アパタイトといえば歯みがき?
石がちょっと好きな人であれば、ブルーを連想するかもしれない。
アパタイトにはブルーのほかに無色、イエロー、グリーン、ピンクなどさまざまな色合いがある。
紫色のアパタイトは、けっこう珍しい。
カットされコレクション用のルースとして流通しているが、誰もが気軽に買える価格とはいえない。
また、透明石は極めて稀で、霧のようなインクルージョンが入っているのが一般的。
もし、全くダメージのないパープルアパタイトのルースが格安で販売されていたら、お店の人に訳を聞いてみよう。

パープルアパタイトはなんとなく盛り上がっている…ような気がする。
イエローやピンクは比較的安価で入手できるが、これまでパープルは本当に少なかった。
若干流通の増えた今が買い時かも。

写真の標本は、実は安かった。
確かに透明感はいまひとつ。
また、アパタイト全体がパープルではなく、淡いグリーン~パープル~ピンクの3色に分かれている。
大きさはあるから私はこれで満足。
上質のパープルアパタイトは、透明感に富むラベンダーカラーを示し、大きく柱状に結晶している。
見かけたら拝んでおこう。
ちなみにアパタイトには三種類あり、パープルアパタイトをはじめ、私たちが目にするアパタイトの多くは、フローアパタイト(フッ素燐灰石)に分類される。

アパタイトにはさほど興味がなかった。
今回は、おまけ(インディゴライト)に惹かれて衝動買い。
シャープで繊細な、インディゴライトの輝きに負けた。
内部にも結晶が入り込んでいて、母岩のあちこちがインディゴブルーに彩られている。
これだけでも十分価値があるのに、ラベンダーを思わせるアパタイトとの組み合わせは、まるで見知らぬ芸術家の作品のようだった。
神様はよくぞこんな不思議なものを創られたと思う(以前も書いたような気がする)。

気になるのは産地である。
アフガニスタン、またその周辺諸国から産出する鉱物は、情勢などの理由から、複雑なルートをたどる。
産地不明となってしまうことも少なくない。
収集家、特に欧米では産地を重視するため、それっぽい地名を宛がうこともあるようだ。
この標本も、アフガンから出たものではないかと考えた。
美しすぎる違和感。
アフガニスタンでは、見栄えを良くするために、母岩や結晶にまでも手を加えることがある。
この標本ももしかしたら…?と、疑いたくなるのが人の心。
情勢の不安定な国々と隣接するパキスタンの業者が、鉱物資源の闇取引に関わっているという噂まで聞こえるほどの難しさが、そこにはある。

上記の土地は多数の鉱物を産する有名なペグマタイトにあたり、アパタイトの産出もあること、また色としてはパープルというよりパープルピンクに近いことから、パキスタン産だと思うことにする。
実際のところは、わからない。
売っている人も知らなかったりする。
この標本の産地とされるスカルドゥは、鉱物資源の宝庫ということになっている。
いっぽう、スカルドゥは鉱物の取引がさかんな町で、アフガンだけでなくタジキスタンや新疆ウイグル自治区(中国)産出の鉱物まで流れてくるという噂があったりもする。
知らないほうがいいことが、この世にはある。
パキスタンからの鉱物がこのところ業界を圧倒しているのは、私たちには知り得ない複雑な事情が絡んでいるんだろう。

本当に美しい。
白い部分は長石、インディゴライトの隙間にみえる赤は雲母と思われる。
ペグマタイト(※)から出てきた感が満載だ。
それ以上は考えないことにする。
春を待たずして、こんなにも魅力的な花にめぐりあうことができたのだから。


※ペグマタイト

おおざっぱにいうと、売れ筋パワーストーンが豊富に出てくる地層のこと。モリオンやトパーズ、放射性鉱物などが、日本の某ペグマタイトから産出するのは有名である。アフガニスタンのラグマーン・ヌーリスタン付近のペグマタイトからは、トルマリン、クンツァイト、ベリル(アクアマリン、エメラルド、モルガナイトほか)、雲母や長石、放射性鉱物各種など、高品質かつ多彩な鉱物が多く産出している模様(→詳細はパライバトルマリンにて)。




45×30×28mm  24.98g

2012/03/05

サニディン


サニディン Sanidine
Volkesfeld, Eifel, Germany



うっすらと浮かぶ虹が美しい。
ドイツからやってきただけあって、まるでビールのよう。
サニディン(サニジン)は長石の一種で、ドイツから産出する代表的な鉱物のひとつ。
不規則な結晶形を特徴とし、無色透明~白、ブラウンや灰色などさまざまな色合いを示す。
ドイツ・アイフェル地方から産する、ライトブラウン/ゴールドのサニディンの美しさは世界的に有名で、ファンは多い。

「超能力と結びつく力が強く、それを言語化または文字化して、現実のものとして残しておくことが可能となるよう導く力があると言われています」(『パワーストーン百科全書』八川シズエ著)

初めて手に入れた鉱物のガイドブックにあった、衝撃の一節。
真っ先に目をつけた。
初期に入手したサニディンは、灰色の欠片。
確か国産で、どこかの大学の地質学者の採取品だった。
最も美しいとされるドイツ・アイフェルのサニディンをようやっと手に入れたのは、昨年春のこと。
その堂々たるジャーマンビールカラーに圧倒された。

ドイツ南西部に位置するアイフェル地方は、希産鉱物の産地として知られている。
サニディンやアウインほか、ここでしか採れないといわれる鉱物も数多く産出する。
アイフェルは、太古の火山活動により形成された湖と、緑豊かな景色が広がるリゾート地。
雪解けを待って、鉱物の採集に訪れるファンは多い。
火山岩の中には未知なる感動が隠れている。

ドイツの鉱物はマニアックである。
ドイツの鉱物愛好家もまた同じ。
彼らの鉱物に対するこだわりは半端ないらしい。
王道をきらう国民性と関係があるそうだが、まだはっきりとは確認できていない。
ドイツのミュンヘンショーは世界的に有名なミネラルショーの一つだが、内容の濃さには定評がある。
標本の鑑賞にあたっては、片手にビールを持ちつつ腕を組み、眉間にしわをよせて考察を述べなければならない。
部屋にはもちろんミネラルカレンダー "Mineralien" を掲げ、こだわりをアピール。
なんせゲーテを生んだ国である。
ゲーサイトがゲーテに因んで名づけられた鉱物であることをご存知の方は多いと思う。
詩人、小説家、哲学者など、さまざまな側面を持つゲーテは、熱心な鉱物収集家でもあった。
ゲーサイトはゲーテを知る鉱物学者によって、彼の存命中にその名を与えられたという。

メロディ氏によるとサニディンは、生きづらさを抱える人々のサンクチュアリ的存在であるらしい。
この石を、人生に行き詰ったあなたにささげたい。
もちろんアイフェルのジャーマンビール色のサニディン、これでもう間違いない。


41×35×24mm  41.37g

2012/03/02

アンデシン/うずら石


アンデシン/うずら石
Andesine
東京都小笠原村字硫黄島



硫黄島、南海岸に分布しているという、不思議な形の鉱物。
白い部分がアンデシン。
グレーの部分は溶岩に由来する。
その外観がまるでうずら(の玉子?)のようにみえることから、かつては現地の人々の間で "うずら石" と呼ばれ、親しまれたそうだ。
白いアンデシンが立体的に交差するさまは、どことなく十字石を思わせる。
過去には島で商業的に硫黄の採掘が行われ、島名の由来となったほか、この奇妙なアンデシン/うずら石の産地として、鉱物愛好家には知られた存在のよう。
なお、近年注目を集めている赤いアンデシンについては「アンデシン/ラブラドライト」に記した。

硫黄島(いおうとう)。
行政上の都合で東京都に含まれるが、都内からは見ることができない。
東京湾の遥か南、太平洋に浮かぶ小笠原諸島。
火山から成る小笠原の島々からは、興味深い鉱物が数多く産出することで知られている。
日本列島から南に向けて点在する小笠原諸島の南端に位置するのが、硫黄島。
東京からは約1200kmもの距離がある。
ちなみに、さらに約1200km南下すると、グアム島に着いてしまうらしい。
沖縄よりずっとずっと南にある、亜熱帯気候の島。
なのに、陽気な南の楽園といったイメージが出てこないのは、やはり戦争のせいか。

硫黄島は第二次世界大戦末期、多くの犠牲者を出した激戦地として有名である。
戦前は千人を越える日本人が生活していたが、現在、関係者以外の島への立入りは禁止されている。
故郷に戻ることの許されぬ元島民やその子孫、戦没者の遺族らが時折硫黄島を訪れ、うずら石を祈念に持ち帰るという。

不勉強ゆえ、硫黄島で激戦が繰り広げられていたことは知らなかった。
昭和二十年、米軍・日本軍あわせて5万人もの兵士がこの島で命を落した。
硫黄島は米軍の占領下に置かれ、1968年に我が国に返還された後、自衛隊の基地となっている。
日米両国による硫黄島での合同慰霊祭で、アメリカと日本の代表らが握手を交わし、平和を誓ったのは、80年代に入ってから。
戦没者の遺骨は現在も収容されず島に残されている(戦争についてはサッパリなので、詳しくはWikipediaを参照して下さい!)。

硫黄島の名前はよく聞く。
自分はどうも、兵士を乗せた船が沈没し、生き残った人々が流れ着いた島だと思い込んでいた。
この島をめぐる戦時中、及び戦後の蟠りについては全くの無知であった。
重い歴史を背負ったこの石を、何も知らない私が持っていても良いものかと悩み、社長さんにお話を伺ったところ、意外な事実が判明した。
実はこの標本、戦前から私の実家近くにあったとのこと。
不思議なご縁だった。
貴重品だから、スリリングだからと、怖いもの見たさで採りに行くようなものでは無いと思っている。
日米間を往復し、最終的には反日感情を抱くアメリカンと、世界平和について語り合うほどの構えが必要となろう。
うずら石はそれらをやり遂げたのち、ようやっと手にすべきものと心得よ。
誰コイツ?偉そうな奴だね。

さて、硫黄島のアンデシンは、稀にみるレアストーンなのかというと、そうでもないらしい。
南海岸がうずら石によって埋め尽されている状態だという噂も。
島に行くことさえできれば、素人でも短時間で採取が可能だそうだ。
ただ、写真の石とは異なり、花のように広がっている標本が多く見受けられる。
まるで黒い砂漠の薔薇。
中には空き缶のようにぺしゃんこになったものも。

小笠原諸島において、硫黄島が発見されたのは、記録の上では18世紀に入ってから。
日本人の入植が始まったのは1904(明治37)年頃とされている。
硫黄島には先住民族がいたというが、その時既に無人島と化していたようである。
無人島から持ってきた鉱物が、東京うまれ・地元育ち?
非常に興味深い現象かもしれない。


※なお、鹿児島県にも硫黄島と呼ばれる島があり、硫黄の産地として知られている。
同じく火山島であり、産出する鉱物も似通っているため、一部で混同されている様子。
薩摩硫黄島とあれば鹿児島県のほうになる。


14×11×8mm(最大)

今週、話題性が確認された10の鉱物

What Mineral Would You Take with You to A Deserted Island?