2011/12/28

レインボーオブシディアン


レインボーオブシディアン
Rainbow Obsidian
Guadalajara, Jalisco, México



オブシディアン(黒耀石)は溶岩が冷え固まって出来た天然ガラス。
メキシコや米・アリゾナ州が世界的に有名な産地である。
その土地柄、先住民族/インディアンに珍重された歴史があり、出土品も流通している。
メキシコの先住民族の間では、"神々の贈り物" とされ、矢じりや装飾品、魔術の道具などとして用いられてきたそうだ。
そんなオブシディアンの中で、光の下で虹色のシラー(光彩)が浮かび上がるものを、特にレインボーオブシディアンと呼んでいる。
はっきりとレインボーが浮かぶ石は意外に珍しい。
このシラーはアンフィボール(角閃石)のインクルージョンに因るものとされている。

現地では民芸品として、ハートフラワー、スターなどのモチーフに加工されているほか、タンブルとしても流通している。
大きな塊状の原石を切り出してレインボーの状態を確認の上、熟練した職人によって彫刻を施され、レインボーのシラーが生きるよう工夫されている。
日本で流通しているのは主にビーズであるが、ごく淡い虹が浮かぶならまだ良いほうで、シラーの出ない黒耀石をレインボーオブシディアンとして販売しているところもある。
メキシコからの民芸品を見て、これが本来のレインボーオブシディアンかと驚かれる方もおられる。

気に入って幾度も紹介させていただいた、思い出の石。
自己破壊や自己攻撃を和らげて、自らを保つ力があるとして、海外では薬物中毒やアルコール依存症、摂食障害の治療に使われることもあるという。
すべての物事をありのままに受け止める眼を養うともいわれている。
鑑賞石として愛される一方、クリスタルヒーリングの世界でも人気は高い。
そのレインボーの光彩は、たとえ一瞬の出会いに過ぎずとも、まるで虹のごとく、逆境を乗り越える祝福の光となって人々に降り注ぐのであろう。

暗闇を歩く人を照らす光。
すべての人が光のもとに導かれ、本来の輝きを取り戻されることを祈って。


23×8mm  6.23g

2011/12/23

フローライト(ブルーグレー&ピンク)


フローライト Fluorite
Kandahar, Afghanistan



アフガニスタン・カンダハルのフローライト。
産地は情勢の問題から供給が不安定。
なかなか出会う機会はない。
現地からは多くのフローライトの産出があり、クォリティも高い。
カンダハルを代表する美しいブルーグリーンのフローライトが、パキスタン・ギルギット産として販売されているのをよく見かける。
この色合いは初めてだった。
グレーを帯びた淡いブルーの地に、パープル~ピンクのアクセント。
この世のものとは思えない美しさ。
調べたら、同じ鉱床から出たとみられる石をお持ちの人もいらっしゃるようだったが、鉱物標本としては悲しいほどに粗末なものだった。
専門家が現地に入れないために、扱いが荒くなってしまったのだろう。

物事にはやがて終わりが来る。
すべては限りあるものと知り、次の街へ向かう。
出会いと別れの記憶と共に、この石は私の心の中で永遠に輝き続ける。


62×40×28mm  72.57g

2011/12/18

ローズクォーツ/モリオン


モリオン/ローズクォーツ
Rose Quartz on Morion
Paroon, Nuristan Privince, Afganistan



モリオン(黒水晶)にローズクォーツが彩りを添える珍しい標本。
本体は大きめのダブルポイント(両錐水晶)の黒水晶。
完全に真っ黒というわけではなく、所々にダメージがあり、透き通って見える箇所がある。
スモーキークォーツ、ケアンゴーム、モリオン。
どれが適切なのかはわからない。

黒水晶の先端に咲いたローズクォーツ。
見事な結晶であるが、途中から溶けている。
あまりに溶けているので、当初フローライトかと思ったが、先輩方のご意見を総合すると、エッチング(蝕像)により変形したローズクォーツということみたい。

そもそも、アフガニスタンからローズクォーツが出るなんて知らなかった。
昔から鉱物を集めている先輩方の間では、「アフガンローズ」と呼ばれ、伝説になっているそうだ。
初めて出会ったアフガンローズの実にユニークなこと。
ローズクォーツは通常、塊状で発見される。
結晶しているローズクォーツというのは珍しく、ブラジルから僅かに発見される程度。
多くは小さく、色合いも薄い。
堂々たるアフガンローズ。
男性でさえ夢中になるのも無理はない。

産地を聞いて驚いた。
採りたくても採りに行けないのかもしれない。
地球上には、立ち入ってはいけない場所がある。
モリオンの表面にちりばめられた、長石とみられる純白の結晶と、色濃く微細なローズクォーツの結晶たち。
力強さと優しさ、絶望と希望が同居する。
来るところまで来てしまったような気さえする、遠くアフガンから届けられた孤高の薔薇の花束。




85×43×35mm  約200g

2011/12/15

サンストーン(ピンクファイヤー)


サンストーン Sunstone
Engare Naibor, Tanzania



タンザニア産のサンストーン。
グリーンのオリゴクレース(灰曹長石)に浮かぶ虹色の輝き(アベンチュレッセンス)が美しい。
この虹色の輝きは、内包されたヘマタイトやレピドクロサイトに因るもの。
その独特の風貌と希少性から、イリュージョンサンストーンとも呼ばれ、宝石にカットされることも多い。

実は、同じ出処の同じ原石を持っていた(写真がそれです)。
なのに先日池袋ショーで手に取って、購入してしまった。
血が騒いだ、それだけ。
翌日、撮影中に違和感を感じた。
なぜかこのサンストーン、虹色の輝きの合間から、ピンクファイヤーが浮かぶのである。
輝くのではない、浮かび上がるのである(→ピンクファイヤークォーツ参照)。

ピンクファイヤークォーツの考察にあたって、ヘマタイト混入説を取り上げた。
このファイアがもしピンクファイヤーと同じものだとしたら、共通するのはヘマタイトのインクルージョン。
早速ボスに報告。
なにを今更?みたいな顔のボス(写真無)。

おそらくこのピンクのファイアは、結晶中に内包されたヘマタイト、レピドクロサイトに因るもので、水晶だけでなくオリゴクレースにも現れるとみられる。
ピンクファイヤークォーツは、ブラジルのエスピリトサントの一部が唯一の産地といわれていた。
しかし、ブラジル以外から産したレピドクロサイト入り水晶にペンライトを当てると、ピンクのファイアが確認できることがあるという(ボス談)。
つまり、ブラジル以外からもピンクファイヤークォーツは出ている。
ゆえに、ピンクファイヤーサンストーンもあり得る。

内包物はコヴェライトではない。
鑑定したわけではないが、結論としてはそれが無難だろう。




今回また買ったサンストーン in 池袋


このサンストーンは、ペンライトを当てずとも、あちこちにピンクのファイアが浮かぶ珍品。
タンザニア産のサンストーンそのものが希少品であり、自然光でピンク系のファイアが浮かぶ石が存在する確率は低いものと思われる。
ざっと調べたが、他にそうした石は見当たらず、取り上げている人も見かけない。
自分は何故この石を手に取り、迷わず購入したのか。
コレクションが増えすぎたため、同じ石は基本的に買わないことにしている。
そのためにこうしてデータベースを作っているくらい。

誤認でないことを願う。
自分の脳内構造がどうなっているのか、知りたい。


32×27×20mm  20.36g



【後日談】 その後、比較検討のため、実家にストックしてあった、同じロットと思われるサンストーンを観察してみました。7つセットで数年前購入したものですが、7つ中3つにピンクのファイアが浮かぶ原石がみられました。こちらのほうがサイズが小さく、よりファイアがわかりやすいことから、写真を差し替えることとします。
オレンジのアヴェンチュレッセンス(輝き)に混じって、フラッシュに近い強烈なピンクのファイアが出ているのが確認できると思います。本文下右は横から撮影したもので、何ヶ所かにオレンジとは言い難い、ピンクのファイアが確認できました。自然光での撮影ですが、比較的よく映っています。(2012/01/04 訂正)







15×11×9mm  1.45g

2011/12/13

チタニアダイヤ


チタニアダイヤ/合成ルチル
Titania Diamond/Rutile
Moscow, Russia



1940年代にダイヤモンドの代用品として登場したものの、ダイヤモンドよりも美しかったがために消えていった幻の宝石。
ダイヤモンドの極めて高い屈折率や分散(輝き)を再現すべく開発された。
しかし、その輝きはダイヤモンドを圧倒しており、むしろ過剰であって、品位に欠けるという声も聞かれるようになる。
数年後には、より自然な輝きと色味を持つチタン酸ストロンチウムが主流となった。
今でいうキュービックジルコニアのような存在。

ヴィンテージの宝石をコレクションに加える人は多い。
中には人工石も含まれる。
人工石というとアヤシゲな感じがするかもしれない。
かつてまだ技術のない時代、本物の宝石を再現するにはそれなりの研究や人手、資金が必要だった。
ヴィンテージであれば価値がつき、コレクションの対象となる。
このチタニアダイヤもそう。
ルチル等のチタン系鉱物から精製されたというこの石、希少石を扱う宝石店では取り扱いがあり、人気商品として定着している。
少し前にブームになった(?)ウランガラスもそうだし、合成ルビー、合成水晶などはヴィンテージのみならず、現在も製造され、工業用として幅広く活躍している。
中にはシベリアンブルークォーツなど、ヒーリングストーンとして価値を与えられた人工石も。

池袋ショーで購入した、青いチタニアダイア。
合成ルチルとして売られていた淡いイエローの石を見ていたら、青もあるという話になった。
そんなもの見たことがなかった。
翌日わざわざ持ってきていただいた。

一見アクアマリンのよう。
光の角度を変えるとギラギラとファイヤー(輝き)が放たれ、鮮烈な虹が浮かぶ。
ダイヤモンドとは異なり、硬度が6しかない(ダイヤモンドは10)ため、年代によるスレやカケがみられる。
また、当時の感覚なのかもしれないが、5ct超えの大きさ。
アクセサリーに使うにはでかすぎる。
相場がわからないのでお買い得だったかどうかはわからない。
初期にロシアで作られたヴィンテージの合成ルチルで鑑定済み、色合いの原因までは鑑定していないとのこと。

池袋ショーが終わり、宿でくつろいでいる。
サンクトペテルブルグから来た、このチタニアブルーダイアに興味を示した人がいた。
彼とは、初日に携帯の話し声と深夜のPCの照明が発端となり、関係が悪化していた。
名前を聞くまでわからなかった。
父親がロシア人なのだそうだ。

彼は一度も父親の故郷を訪れていないという。
ウクライナとの国境近くに位置するその街は、チェルノブイリ原発事故の被害に遭っている。
おそらく、彼が生まれた直後だろう。
隣町では多くの死者が出ている。
彼はもうすぐロシアに発つ。
日本とソビエト連邦の残したもの。
その両方を背負う彼の眼に映るのは何か。


5.05ct

2011/12/10

オレンジルチル


オレンジルチル
Orange Rutilated Quartz
Cotovelo Mine, Sertanejo, Bahia, Brazil



ルチルクォーツには様々なカラー・バリエーションがある。
写真のラフカットは、オレンジルチルと呼ばれている。
明るいオレンジ・カラーの針状インクルージョンが、くっきりと入っているのが特徴。
内包されているのは、ブルールチル(トルマリン)とは違い、鉱物学上のルチル(金紅石)のはず…なのだが、真偽のほどはわからない。
というのも、このオレンジルチル、数が極めて少なく、データが殆ど残っていないのである。

ゴールデン・オレンジ・ルチレイテッドクォーツ。
2006年にブラジルのコトビロ鉱山から250kgのみ産出、その後絶産したといわれている。
現在もわずかに出回っているが、原石など産地の特定できるものばかり。
当時はルチルクォーツがレアストーンになるなど、思いもしなかった。
なお、現在市場に流通しているオレンジルチルのビーズは、淡いイエローゴールド若しくはオレンジブラウンのルチルクォーツ。
コトビロ鉱山のオレンジルチルとは対称的に、極細の針が密集していることが多い。
このところ流通しているオレンジルチルのビーズに、頻繁にキャッツアイがみられるのはそのためか。

写真のオレンジルチルは、数年前のミネラルショーで、白人のディーラーがサンプルとして展示していたラフカット。
無理を言って何周目かでようやく譲ってもらった。
売り物は高すぎて買えなかったのだ。
コトビロ鉱山産のオレンジルチルが貴重品だとは知らなかったから、相当値切ってしまった記憶がある。
オッサンの苦笑いを今でも覚えている。
消えていくと言われながら残っている鉱物が多い中、人知れず消えてゆく鉱物も少なからず存在したということなんだろう。

金運、仕事運、勝負運をアップさせ、成功を勝ち取ることができるというルチルクォーツ。
夢を叶えるパワーストーンとして広く知られており、現在も人気は高い。
特にオレンジルチルは凄いらしい。
億万長者セレブ御用達。
とにかくパワーが半端ないとされておる。
持つ人を選び、自発的に上昇しようとしている人や、強い運気を感じる人の所に行こうとするという。

どうして私のところに来たのか。
まったくもって、疑問である。


コトビロ鉱山の資料を探していたらたどりついたサイト。
彼らが発見者?
http://www.minec.com.br/arq_news/0606.htm


60×31×16mm  25.25g

2011/12/06

ゴールデンセラフィナイト


ゴールデンセラフィナイト
Clinochlore/Seraphinaite
Lake Baikal Region, Eastern Siberia, Russia



クリノクロア(斜緑泥石)の一種。
ロシアから産出するクリノクロアは、天使の羽根を思わせる美しい絹状光沢から、セラフィナイトと呼ばれ、人気がある。
通常はグリーンだが、稀にブラウン/ゴールドを示す石が存在するという。

先日の秋のミネラルショーで購入した。
煌くゴールドに、わずかにグリーンが溶け込んでいる。
お店の人の話では、正真正銘のセラフィナイトで、加工はいっさい施されていない天然の色合い、セラフィナイトと同じ場所から産出するという。
ただ、具体的な産地や成分などについてはわからないとのこと。
売り手として無責任ではあるまいか。

クリノクロアにはグリーンのほか、ラベンダー、赤、黄、白などがある。
中でも有名なのは、ラベンダーカラーのケンメレライト(菫泥石)。
透明感のある明るいパープルを特徴とする希少石で、豊富に含まれたクロムが発色の原因とされている。

こちらのゴールデンセラフィナイトについては、わからない。
取り扱いのあるショップはいくつかあり、"珍しい色合い" と紹介されてはいるものの、発色の原因については触れられていなかった。
他にも疑問に思っている方はおられるようで、熱処理によって変色させた説、セラフィナイトと共生したチタナイト(チタン石/スフェーン)である説、などを見かけた。
加熱処理や酸化については私も考えたが、お店の方は否定された。
ロシア産ならばアストロフィライトではないかとも考えたが、同じロシアでも産地が離れすぎている。

セラフィナイトはロシアのバイカル湖付近が唯一の産地といわれている。
アストロフィライトの産出するコラ半島と、セラフィナイトの産地とされるバイカル湖には相当の距離がある。
コラ半島は北欧フィンランドの東、バイカル湖は中国・モンゴル自治区の北。
気候や環境もまるで違うと思われる。
疑惑のチタナイトとセラフィナイトが共生して発見されることは稀にあるらしい。
ただし、ロシア産のチタナイトは希少品で、果たして製品化されることがあるのだろうか、という疑問が残る。
チタナイトはその名の通り、チタンを含む鉱物。
アストロフィライトもチタンを含むという点で共通している。

おそらくこれまでジャンク扱いされてきた茶色のクリノクロアを、ゴールデンセラフィナイトと言い換え、価値を付けたものだろう。
そう思っていたら、先日実家でアヤシゲなモノを発見した。
本文下の写真がそれ。
ロシア・コラ半島のアストロフィライトなのだが、絹状光沢を示す緑色の鉱物が共生している。
同じ面持ちの標本が3つあり、いずれもEveslochorr Mountain産。
色合いといい光沢といい…
まるでセラフィナイトのように見えるのは、私だけか。

ロシアのコラ半島からは、アストロフィライト以外にも、ゴールデンセラフィナイトを思わせる鉱物が幾つか産出する。
いずれも希少石であり、加工されるとは考えにくい。
ゴールデンセラフィナイトの正体は、依然としてよくわからない。
池袋ショーでリサーチするつもりでいたのだけれど、今朝間違えてアップしてしまったので、このままにしておこうと思う。
それにしてもロシアは広い。
一杯のボルシチに列を作るイメージしかないのだけれど、昔は強かったんだろう。
豊富な資源とも関係あるのかもしれない。

ゴールデンセラフィナイト。
強い光沢とゴールドカラーには、一度見たら忘れられないインパクトがあり、柔らかな印象のセラフィナイトとはまた違った魅力がある。




30×21×5mm  25.60ct

2011/12/04

ティファニーストーン



ティファニーストーン
Tiffany Stone
Spor Mountain, Juab Co., Utah, USA



今となってはほとんど見かけない、黒/茶系を含まないティファニーストーン。
ベルトランダイトとして販売されていた。
鉱物を集め始めた頃、余りの美しさに衝動買い。
もう一枚売って欲しいとお願いしたが、「もうないです」と言われてしまった。
その後二度と見ることはなかった。

ラベルには、オパール・フローライト(Opal, Fluorite)とも記されている。
以前はフローライトがオパール化したもの、もしくはフローライトとオパールが化石になったもの、といわれていた。
しかし実際は、火山活動に由来する堆積物から成るカルセドニーのようである。
堆積物であるからして、その中には数え切れないほどの鉱物が含まれている。

約20億年前の火山活動により発生した、フッ素ガス(いわば気化したフローライト)と火山灰、堆積物が混ざり合い、長い時を経て化石となり、さらに珪化したのがティファニーストーン。
複雑で変化に富む模様は、たくさんの鉱物がごちゃ混ぜとなり、凝縮されたためにできたもの。
独特の紫の色合いは、フッ素ガスに由来するという。

もともとはベリリウム鉱山の副産物であったため、ベルトランダイトという鉱物を多く含んでいる。
そのため、ベルトランダイトの標本として取引されることも多い。
ベリリウム鉱山からのティファニーストーンは絶産している。
こちらは2004年、新たに愛好家が発見した鉱脈から初期に得られた標本。
この鉱脈からは当初、質の高いティファニーストーンが次々に発見され、期待が寄せられた。
しかし、質は低下する一方で、4年後には事実上絶産した。
現地には売り物にならない岩片が残るのみとのこと。
品質については以下。

・高品質 - 紫~青~ホワイトの明るい色合いが混在し、模様となっているもの
・中程度 - 上記に黒/茶系が入り、コントラストがより際立つもの
・低品質 - 紫のみなど、色数が少なく変化に乏しいもの。赤茶色、グレー、オレンジなど不純物の入ったもの
・偽物 - 他所の無関係な鉱物。オパールやフローライトなどを使っていることもあるらしい

現在入手可能なティファニーストーンには、黒または茶系の模様が入ってしまっている。
小さくカポジョンカットされ販売されているが、とんでもなく高価である。
十年以上前なら、可愛らしいノジュール仕立てのティファニーストーンが、お手ごろ価格で手に入ったんだそうだ。
高品質とされる大きな板状標本は、日本では2006年頃、海外からは少なくとも2009年頃まで手に入ったが、このところ見ていない。

いっぽう、ティファニーストーンと、オパール、フローライトは、直接は関係ないようだ。
あのティファニー一族(のご先祖様)の作品に因んで命名された石が、堆積物の成れの果て、というのはどうも違うような気がする。
わざとオパール、フローライトの名前を残したのかも。
オパールとフローライトの組み合わせには夢がある。





※ビーズに関しては全く異なる石が流通している。上記は信頼のおけるティファニーストーンの6mmブレスで、小さいながら模様がはっきり現れているのでご参考に。
オパールのイメージからか、透明感のある石が好まれているようだが、本来ティファニーストーンはジャスパーであり、透明部分はジャンクになる。また、アメジストやフローライト、パープルのオパールがティファニーストーンと混同されて流通しているので要注意。さらに、成分の近いと思われる、オパール化(珪化)したフローライトが中国から産出している。シューファストーンという紫の石で、ビーズに関しては特に疑わしい。(2012/12/18追記)


41×25×8mm  10.48g

2011/12/01

ブラジリアナイト


ブラジリアナイト Brazilianite
Conselheiro, Pena, Minas Gerais, Brazil



なぜだかわからないけれど、大好きな石がある。
パワーストーンの本には載っていない。
一度も売りに出さなかったし、誰にも話したことはない。
ブラジリアナイト。
鉱物を集めるようになって、真っ先に目を付けた。
その頃から希少石とされていたものの、今ほど高くはなかったように思う。

ここ最近、頻繁に見かけるようになった。
産出は激減していると聞いている。
にも関わらず、これまでにない素晴らしい結晶が多数流通している。
どうも最近、新たに産出があったようだ。
今年に入って流通が若干増えたこと、それに伴いヒーリングストーンとして注目されつつあることが原因か。
ブームをさかのぼれば20年ほど。
ブラジリアナイトの名前があがったのは、私の知る限りでは初めて。
いずれ幻の石になるのかと思っていたのだけれど、近々パワーストーンのガイドブックに登場することになるかも。

ブラジリアナイトは、グリーンを帯びた淡いイエローの色彩と、シャープな結晶形を特徴とし、宝石としても知られる希少石。
1945年に新鉱物として認定され、フレデリック・ポー博士によりブラジリアナイトの名を与えられた。
当初、クリソベリルと間違われたというのも無理はない。

写真の石は、欧州のコレクターからの流出品で、原産地から得られたもの。
宝石質とは言えないが、マスコバイト(白雲母)が彩りを添える、シャーベットのような標本で、一番のお気に入り。
そもそもなぜブラジリアナイトが大好きになったかというと、Fila Braziliaというイギリスのアブストラクト・テクノ・ユニットが大好きだったからであり、なぜFila Braziliaが大好きだったかというと、彼らのアルバムのジャケットに大好きな絵本の表紙が使われていたからであり、それはうさぎなのである(うさぎ好き)。
現在では、幻のアトランティス大陸と繋がる、魔法のストーンとして人気上昇中とのこと。

ある方からご指摘をいただき、考えた。
鉱物にパワーを求める方が多いことを痛感した。
そうした方に対して、私の文章は失礼極まりない内容になっていた。
申し訳なく思う。
いっぽう、鉱物を苦手に思っておられる方も多いようだ。
石に幸運を求める他力本願の類い。
そう受け止められても仕方ない。
もし石が能書きどおりのパワーを持っていたとしたら、今の日本は超能力者だらけになっている。
多数の死者を出した悲惨な震災も、原発事故による深刻な健康被害も未然に防げたはず。
パワーストーンを用いて復興を祈るのは立派なことだと思うが、本末転倒では。

幸せは石が与えてくれるものか。
真実は石が教えてくれるものか。
私にはそうは思えない。
すべては、持つ人の心にゆだねられている。


24×22×8mm  6.52g

2011/11/27

ヒマラヤアイスクリスタル


ヒマラヤアイスクリスタル
Himalayan Ice Etched Crystal
Kullu Valley, Himachal Pradesh, India



全体が淡いフロストピンク。
ふんわりと光を包み込むような不思議な質感。
絹のような光沢とその特異な形状は、見る者を惹きつけてやまない魅力に溢れている。

2006年にインドで発見された触像水晶の一種。
ヒマラヤアイスクリスタル(アイスクリスタル)、ニルヴァーナクォーツ、ヒマラヤエッチドクリスタル、ピンクエッチドクォーツなど、さまざまな呼び名がある。
ヒマラヤ山脈の標高6000m級の氷河地帯で、地球温暖化の影響で溶けた氷の下から姿を現したことから、人類へのメッセージではないかと騒がれた。
地球温暖化の影響で氷河から発見された例としては、他に南米コロンビア産の水晶など。

初期は細長い柱状で、トップもボトムもフラット(C面)、上下のわからないアイスクリスタルが流通し、誰もが仰天した。
色はピンクとホワイトの2種類。
「地中からこのままの形で一本一本発見される」という表現が使われた。
まるでスーパーで売っている12本入りのアイスのようだから、アイスクリスタル?
そんなことは決して思わなかったけれど、冷凍庫の中から一本ずつ色違いで発見されるイメージだ。

世界的に入手困難であったが、2009年頃から状況は一変する。
当初一万円近くしたアイスクリスタルは、市場に溢れ、数百円程度まで下落した。
同時に小型化、形の多様化、質の低下が進んだ。
酸化鉄に覆われた茶色いアイスクリスタルもみかけるようになった。
多くは塊状の標本であり、「一本一本発見される」という表現はもはや使われなくなった。
いっぽう、欧米では100ドル以上が相場のようであった。
相場の下落は日本人業者による買い占めが原因かと思われたが、つい先ほど海外の相場を見たところ、日本と同程度にまで下落していた。
共通するのは、表面の酸化鉄。
内部が無色透明であることがわかるのは、表面のダメージゆえか。

アイスクリスタルを語る上で、①蝕像水晶であること、②C面が発達していること、③トライゴーニック(先端方向に対して▽の刻印、レコードキーパーの逆バージョン)が浮かび上がること、以上3点は欠かせない。
どちらも意識したことがなかったので、今更調べた。
C面とは鉱物の結晶構造に関する専門用語。
アイスクリスタルに関しては、トップもボトムも平らであるという特徴を指して使われた模様。
トライゴーニックについては未確認(本文下の写真左、下の方にいくつか小さく光る箇所?)だが、そもそもアイスクリスタルに上下はあるのかという疑問が生じる。

最も不思議なのは、過去のアイスクリスタルと現在主流となっているアイスクリスタルとの明らかな違いについてである。
相場は再び上昇している。
アイスクリスタルの発見されたヒマラヤの氷河は、さらに標高の高いところまで溶解が進んでいるらしい。
しかしながら、期待された蝕像水晶は、ある時を境に、いっさい発見されなくなってしまったという。

人類へのメッセージのオチがこれ?
光の歌が奏でる結末とは、これいかに。




41×17×16mm  12.82g

2011/11/25

パライバトルマリン


パライバトルマリン
Paraiba Tourmaline
Pegmatites of Laghman, Nuristan-Laghman, Afghanistan



1989年にブラジルのパライバ州で発見され、瞬く間に高価な宝石となったパライバトルマリン。
産出の激減に伴い、定義の見直しが行われた。
「銅及びマンガンを含有するブルー~グリーンのエルバイト・トルマリン(産地は問わない)」(2006年)
現在は以上のように定義されている。
ブラジルでは事実上絶産し、低品質の原石が僅かに残っている程度。
ナイジェリアやモザンピークから産出するエルバイト・トルマリンがカットされ、流通しているとされる。
しかしながら、ブラジルから初期に得られたような美しいブルーグリーンのトルマリンは希産で、色合いを整えるため加熱処理に頼っているのが現状という。

世の中には不思議なこともある。
原石の段階で美しいパライバカラーを示す、ブラジル原産のトルマリンが安価で大量に出回っているのである。
写真の石もそう。
以前から思っていたが、この感じ…
もしかしたらアフガニスタン産ではないか。
後日、販売元に確認した。
ブラジル産に間違いないとのことであった。(※本文下に追記あり)

ヒマラヤ山脈の西端を形成するヒンドゥークシュ山中に位置するアフガニスタン。
鉱物の採掘と販売は地元の人々が個人的に行っている。
政治情勢が不安定なため、海外のバイヤーが現地に立ち入ることは難しく、大半は国境を越えて密輸され、パキスタンのギルギットやペシャワール、若しくはペシャワールから約300キロほど離れたアフガニスタン・カブールなどで取引されているらしい。
ヌーリスタン州とラグマーン州の中間部に位置するペグマタイトからは、非常に質の良いエルバイト・トルマリンが産出する。
美しいパライバカラーを示すトルマリンも珍しくない。
産出そのものも多く、世界市場に占める割合の高いことが推測される。
同時多発テロにおける被害者感情による売り上げへの影響を危惧してか、アフガンを避けて譲らないアメリカ人業者は多い。

ヌーリスタン、ラグマーンともに、きな臭い噂が絶えない土地である。
現地は鉱物資源の宝庫。
トルマリンの他に、優れた品質のエメラルド、クンツァイト、ガーネットなどが産出することで知られている。
また、ベリリウムやポルサイト、タンタライトなどの資源が大量に眠っており、政府によって規制がかけられている。
これらの資源の意味するところ、それは殺戮に他ならない。
アフガンの鉱物に関する、大変ためになるサイト。
古い資料だが、いろいろな場面で見かけるので、目を通しておきたいところ。


この石がブラジル産でないことは確かだと思われるので、産地については "ラグマーンのペグマタイト" とおおまかに記した。
アフガニスタン産であることを明記の上、パライバトルマリンを販売している業者もある。
ラグマーンのメータルラムから産出したという、見事なバイカラーのパライバトルマリンを追いかけていくうちに、こんなニュースに行き着いた。

10月12日、メータルラム郊外で路肩爆弾の爆発により9人が死亡
http://www.bostnews.com/details.php?id=2807&cid=2

"mine" には鉱山、宝庫、地雷の3つの意味がある。
鉱山名で検索をかけたために、地雷関連の記事が出たわけだが、この2つが繋がる偶然に嘆かざるを得ない。
わずか3週間前、メータルラムで地雷による死者が出ている。
目を覆うような悲惨な出来事が、アフガンの美しい宝石のすぐ側で日常的に起きている。




【追記】

この標本に関して「色合いが濃く、パライバトルマリンと呼ぶのは疑問」との貴重なご意見をいただきました。確かに、本来のパライバトルマリンは水色に近い色合い、宝石質の場合は眩いネオンブルーの色合いです(写真)。


 
ブラジル・バターリヤのパライバトルマリン

冒頭で取り上げたトルマリンについては、パライバトルマリンではなく、「ブルーグリーントルマリン」(パキスタン産)として販売されている石である可能性が高いと考えられます。

残念なことに、これをパライバトルマリンとして販売している業者がいるのは事実で、小さくカットしてしまうと、ごく一般の人々が判断するのは困難です。
専門家にあっても、判断を誤るケースがあったようでした。
すべては宝石ディーラーさんの手腕と良心にかかっているといえるでしょう。
以上、アドバイスをいただきました宝石店代表・M様に心より感謝申し上げます。

見分け方としては、色合い。また、ブラジルに特有の鉱物かどうかが疑われ、かつアフガン近辺から多数産出がある鉱物(まんまですがラピスラズリの類い/文中に挙げた鉱物のほか、ピンクトパーズ、ハックマナイト、スフェーン、パープルスキャポライト等々)を列挙している宝石店にこの石が多く認められた場合、疑って良いと思います。(2011/12/30)
 

24×15×10mm  16.23ct

2011/11/22

ボリストーン


ボリストーン Boli Stone
Rub'Al Khali Desert, Saudi Arabia



鉱物で世界を一周している。
今回は、初のサウジアラビア上陸である。
写真にある白いクリスタルは、ボリストーンと呼ばれるニューエイジストーン。
アラビア半島の大部分を占めるルブアルハリ砂漠から、一つ一つ手作業で採取されているそうだ。
その正体はホワイト・カルサイト。

ユニークな形をしている。
本文下の写真左は正面の拡大写真、写真右は反対側の様子。
中央にみえる三角形の面。
裏側にはヘコミがあって、上からフタがしてある感じ。

ボリストーンがどのような状態で発見されるのかについては、わからない。
おそらく砂漠の表面近くから発見されるはずで、砂嵐に吹き飛ばされ、長い時間をかけて丸く磨かれていくものと思い込んでいた。
このように端正な犬牙状結晶で発見されるとは意外。
実際、ネットで紹介されていたボリストーンの多くは丸みを帯びていたが、中には犬牙状の結晶も存在するようだった。
ボリストーンにカルサイトの結晶面が残ることは、珍しくないのかも。
手を加えたような印象はないし、砂漠の砂らしき付着物やインクルージョンも確認できる。
ゆえに問題ない。
専門的なことはわからないので、これ以上触れない。

サウジアラビア、アラブ首長国連合、オマーン、イエメンにまたがるルブアルハリ砂漠。
発見されるのは、カルサイトだけではない。
動植物の化石や人骨、フリントストーン(石器)なども見つかっている。
ルブアラハリとは "空白" の意味。
現在は広大な砂漠が広がるのみだが、かつてはそこに文明があり、生命が暮らしていた。

2008年11月、ボリストーンは特別な使命をもって地球上に降り立った。
神聖なる光を宿し、人類のレベルアップを実現するべく登場したのである。
バトルフィールドアースって何?
印象としては、清涼感のあるラムネみたい。
降り注ぐ光は軽やかで明るい。
気分転換したいとき、勢いがほしいときに持つといいかもしれない。





18×12×10mm  2.00g

2011/11/20

アメジストエレスチャル(カボション)


アメジストエレスチャル
Amethyst Elestial Quartz
Karur, Tamil Nadu, India



淡いスモーキークォーツに浮かぶアメジストの色合い。
ゲーサイトの細い針状インクルージョン、レピドクロサイトの欠片が漂い、ひとつの宇宙を創り出す。

カポジョンカットされた南インド、カルールのエレスチャルアメジスト。
時にスーパーセブン(セイクリッドセブン)の偽物という汚名を着せられ、南インド産スーパーセブンの名で販売されている気の毒な存在。
市場に登場したのは2004年頃だといわれている。
私が石に興味を抱いた2006年頃には、既に南インド産スーパーセブンとして販売されていたと記憶している。

カルール産のエレスチャルアメジストは、ブラジル・エスピリトサント産のいわゆるホンモノのスーパーセブンよりも透明度が高く、アメジストの色が濃い。
カットするとよりいっそう輝きが増す。
むしろ聖なるインドの水晶として、単体で評価されて然るべき存在である。
実際、欧米にはインド産アメジスト・エレスチャルとして評価、販売しているヒーリング系のショップも存在する。
しかし、スーパーセブンとしてそれらを販売する業者が現れたという噂も聞こえる。

カルールはバンガロールの南、白檀の産地として有名なマイソールの近く。
私はインドでは、ゴアからバンガロールを経由してチェンナイ(マドラス)に出てしまったので、残念ながら立ち寄ることはなかった。
付近のローカルな街には滞在したから、だいたいの雰囲気は想像できる。

南インドの乾いた鉄道の駅。
色鮮やかな衣服を身にまとった女性たち。
生活する人々の中に溶け込む寺院。
おだやかに流れる時間。
真っ青な空。
至るところに神々が顔をのぞかせる。
南国の植物、ココナッツ、遥か彼方に広がる畑。
もう12年も前になるとは思えないほど、生き生きと浮かんでくる光景。

長い間使っていなかったバッグから、コロリと出てきたカポジョン。
初めて行った新宿のミネラルショーで、インド人ディーラーから購入した。
つい先日、仕事中に見つけて和んだ。
来年の終わり、インドへ行く。
12年前に決めたこと。
流れに任せる、それだけだ。


25×20×7mm  75.76ct

2011/11/19

ジョウハチドーライト


ジョウハチドーライト
Johachidolite
Pyan Gyi Mine, Sagaing, Mandalay Division, Myanmar



北朝鮮から発見された、究極のレアストーンをご存知だろうか。
その名もジョウハチドーライト(ジョーハチドーライト/上八洞石)。
世界を仰天させ続ける北朝鮮は、鉱物の世界でも世界を仰天させていたのである。

北朝鮮の上八洞にて最初に発見されたのがネーミングの由来。
その名前から日本原産の鉱物かと思い込んでいたが、発見したのが日本人研究者だったため、日本語読みになっているとのこと。
世界各地から様々な鉱物が発見されているが、朝鮮半島といえば、有名なのは韓国のアメジストくらいで、北朝鮮の鉱物など未知の領域。
こちらの標本も北朝鮮産ではなくミャンマー産。
北朝鮮は、希産鉱物の宝庫、ロシア・ダルネゴルスクから500キロほどの位置にある。
何か面白い石が出てきてもおかしくない気はするが、将軍様は鉱物より爆弾や怪獣のほうがお好き(だった?)らしいから、資源として認識される程度なのかも。

ジョウハチドーライトの発見は1942年。
まさに大東亜戦争のさなか、北朝鮮は日本の支配下にあり、多くの日本人が北朝鮮に渡っていた。
現地を調査していた岩瀬さんと斉藤さんが、ジョウハチドーライトをたまたま発見。
戦後、その存在は半ば忘れられていたようだが、1999年にミャンマーから同じものが産出することが明らかになったという。

※戦争についてはサッパリなので、wikipediaをご参照ください。

長らく幻の鉱物として崇拝されていたジョウハチドーライト、2008年頃から流通が増え、レアストーンハンターたちの間で専ら話題となった。
カットされてコレクション用の宝石として流通しているほか、写真のような原石も比較的安価で入手可能。
なお、発見時は白い粒状だったとのこと。
ミャンマー産は無色透明~オレンジと、色合いに幅がある。
こちらは、鮮やかなオレンジのジョウハチドーライトに、褐色のマイカと紫のハックマナイトが彩りを添える豪華な標本。
透明感あふれる美しい結晶で、鑑賞にも十分耐えるクオリティだと思う。

ミャンマーではコンドロライトであると誤解され、存在は知られていたものの、長い間誰も気づかなかったらしい。
見た目はコンドロライトそのもの。
どちらも希少石に変わりないので、これ以上は触れない。

ミャンマーは宝石の国。
産地付近は希少石が多く産出することで知られ、宝石の採掘もさかんである。
それが幸いしてか、北朝鮮の幻のレアストーンは、伝説のまま消えることなく今に至っているのである。
まさに鉱物界のプルガサリ。
遥かなる北朝鮮の風を(ミャンマー経由で)感じていただきたい。


30×23×21mm  14.98g

2011/11/15

幻のアイオライト


幻のアイオライト
Hematite & Pinite in Cordierite
Akland, Aust-Agder, Norway



長い間正体のわからなかった石。
アイオライト×サンストーン×フェルドスパーの名前で売られていた。
オレンジ、レッド、パープル、ブルーグリーンの鮮やかな色合いが混在し、ヘマタイトのインクルージョンがキラキラ輝くさまは、スペイシー&サイケデリック。
同じ頃に登場した、ヘマタイトのインクルージョンを含む "アイオライトサンストーン" のほうはパワーストーンとして認知されるに至ったが、こちらのほうは消えてしまった。

産地はノルウェー。
高速道路の工事中に発見され、その完成とともに姿を消した幻の石。
アイオライト、サンストーン、フェルドスパーの3つの鉱物から成り、3つの鉱物の相乗効果で、サードアイとクラウンチャクラを活性化させ、シャーマニックな感性を刺激する。
どこかで聞いたことのある謳い文句である。

フェルドスパーとは長石のこと。
サンストーンは、大雑把にいうと、長石に含まれた微細なヘマタイトが光の反射を受けて輝く(アベンチュレッセンス)ものをいう。
しかしこの石の場合、アイオライトに含まれたヘマタイトのアベンチュレッセンス。
主役はフェルドスパーではなく、アイオライトではないか。
素人ゆえ、それ以上の追求は避けた。

このさい、折角の機会なので調べてみた。
もしかすると正体はコレ?
http://www.mindat.org/photo-264888.html

文中ではコーディアライト(アイオライトの鉱物学名)の一種として紹介されている。
ノルウェーからは美しいコーディアライトが産出する。
2002年、道路工事の際に、コーディアライトの変種とみられる鉱脈が何箇所か発見された。
その中にレッド、バイオレットブルー、グリーンの組み合わせを持つ岩石があり、研磨品となって流通した、とある。

この石の正体についてまとめると、ベースはアイオライト・サンストーン。
グリーンの部分はピナイト(Pinite/ピニ雲母)。
ピナイトのインクルージョンによる淡いシラーが、この石の輝きをよりいっそう引き立てていると考えられる。

ピナイトとは、アイオライトの仮晶にあたる鉱物。
アイオライトはしばしばピナイトに変化する。
聞きなれない名前だが、実は国産鉱物にその姿を見ることが出来る。
京都府から産出する桜石がまさにそれ。
桜石とは、京都府亀岡市(及び京都府南部など)の岩石中に生じる青緑色の結晶で、「菫青石(アイオライト)仮晶」として天然記念物に指定されている。
母岩から分離したものを千歳飴のようにスライスすると、石に咲いた桜の花のように見えるため、当地の郷土品として古くから知られている。
お世話になっている鉱物店のオーナーと昨日お話していて、桜石が話題となり、それがアイオライトに属することを知ったばかり。
私はあの石がどうしてもダメなのだ。
京都=桜とかマジ勘弁して欲しい。

「京都っぽさ」を求めて全国から人々が集まる。
住んでいる人間にまでそのイメージを当てはめようとする人たちがいる。
舞妓さん芸妓さん神社仏閣紅葉花見侘寂陰陽師殺人事件アカデミックアングラアヴァンギャルド一見さんお断り…
京都出身の自分には、違和感がある。
実は鉱物の聖地としても知られる京都。
お守りに桜石を持ち歩いている京都の人間を私は見たことが無い。

絶対に触れてなるものかと、心に決めていた。
おそらくもう手元にあって、私はそれをずっと大切にしていた。
他に見かける機会はなく、この石の正体がはっきりわかったわけではないが、遠くノルウェーから届いたこのアイオライトは、桜石の親戚にあたる鉱物だと考えられる。
灯台もと暗しとは、こういうことを言うのかもしれない。


40×36×22mm  37.01g

2011/11/11

アゼツライト/ローゾフィア


アゼツライト/ローゾフィア
Azeztulite & Rosophia
From Mr.Robert Simmons



アゼツライト、名も無き光。
鉱物というよりは、形而上の概念である。
ニューエイジストーンの発掘・普及に貢献してきたHeaven&Earth社の代表作。
既存の鉱物に独自のネーミングを与えることで知られる。
その反響の大きさゆえ、著名人からの反発の声も聞かれるほどであった。

今でこそ人気は安定した感があるが、業界のリーダー的存在であり、一部の人々にとっては神であり、パワーストーンブームを支えた偉大なる存在である。
代表でクリスタルヒーラーでもあるロバート・シモンズ氏の写真を掲げ、アゼツライトを販売するショップが後を絶たない。

今回はアゼツライトと、ロバート・シモンズ氏にまつわるエピソード。
2009年2月、米アリゾナ、ツーソンミネラルショーにて。

***

ツーソンショーも終わりに近づき、安宿に滞在する不幸な女たちは、博物館へ出かけていった。
私も誘われたが、どうせ女性の自立やらDVやらの話になるだろうから、一人で会場をまわることにした。
IDカードは台湾人に借りた。
これで業者割引が効く。

まだ見ていない会場は一つだけ。
リムジンバスから降りると、なにやら怪しい香りがする。
肌の黒い少年が、ジョイントを片手に、カゴを売っている。
「マリファナか?」と聞いてみる。
「そうだ。お前もどうだ」と少年。
荷物を持ち帰るのに丁度いいカゴだった。
一番大きなものを購入した。

あたりを散策していると、同じ宿の女性に遭遇。
なにやってんの、と言われたので、石を見ていると答えた。
彼女はアクセサリーを売っていた。
私のベッドの下に、持ち主のわからないダンボールが乱暴に積まれていて、足の踏み場がなかった。
中身はアレだったのか、と納得。
投げやりな荷物の扱いが、常にヒステリックな彼女らしくて、可笑しかった。

奥の建物には、ニューエイジ系のショップが集まっていた。
セージの束に、怪しげなお香。
いかにもなお姉さんがいろいろ説明してくれるのだが、石の産地などについて尋ねると、○○の近くなどといった曖昧な返答。

H&Eのブース。
たくさんのお客で賑わっている。
お馴染みのワイヤー・ペンダントもズラリ。
足元には、しゃがみこんで必死にそれをカゴに入れている日本人バイヤー2人組。
うっかり踏むところだった。
ツーソンで日本人と出会ったのは初めて。
向こうも気づいたので、挨拶した。
「今日の2時で終わりですよ。私たち急いでいるので!」と、素っ気ない。
時計は11時過ぎ。
私は奇跡的に、H&E社のショーに間に合ったのだった。

フロアで色とりどりの石を眺めていると、女性が親しげに近づいてきた。
ロバート・シモンズ氏の奥様だった。
シモンズも後で来るかもしれないとおっしゃる。

ほどなくして、シモンズ氏が登場。
当時の日記には、石の聖地に君臨した神、とある。
それくらいの衝撃だった。
喩えるなら、日展で天皇陛下に会った時、もしくはインドのマハ・クンブメーラにて、目下話題になっていた尊師と食堂で会った時くらいのインパクト。

アメリカ人のオバチャン達がサインをねだりに群がる。
日本人にしかウケないと揶揄する人もいるが、現地でもかなり人気があるようだ。
ボーっとながめていると、シモンズ氏がこちらにやってきた。
親日家であることは知っていた。
台湾人のIDカードを付けているにも関わらず、私を日本人だと思ってくれたようである。

いろんな話をした。
私にはどんな石が必要かという問いに、シモンズ氏が出してきてくれたのが、ローゾフィア(赤いほうの石)。
氏が最初に発見し、インスピレーションを受けたという、大きな塊状の原石だった。
触るよう言われ、目を閉じて手を当ててみる。

H&E社から先月発表されたばかりのローゾフィア。
いくつか紹介された新商品の中では、私の一番のお気に入りだった。
フェルドスパーとクォーツから成るありふれた石ではあるのだけれど、アゼツライトを初めて手にしたときくらいの高揚感があった。
その最初のインパクトが目の前にある。
愛に関連する石だと思っていた。
それはおそらく他者の存在しない孤独な愛。
愛を知らず、生まれ、育ってきた人生。
彼らは人を愛せないばかりか、自分自身を愛することも知らない。
1から覚えるのではない、0から考えるのだ。
他人が理解させることではない。
本人がそれに気づくまで、旅は続く。
「君にはハートに欠けている部分がある。この石を持つといいだろう」とシモンズ氏は私に言った。

愛を知ったとき、人は普遍的な真実に一歩近づく。
心の奥に眠っていた無限の可能性が次々に開花し、別人のように輝くのである。
もちろんそれで終わりじゃない。
人生の最後の瞬間まで、その歩みは続くのである。

シモンズ氏からアゼツライトとローゾフィアのさざれを一連ずつ、奥様からはハートのモチーフをプレゼントしていただいた。
これをリーディングして送るようにと、メールアドレスまで受け取った。
石のリーディングなどやったことがない。
後日、仕方ないので感想を送った。

さきほどの日本人バイヤー2人。
引き続き血眼になりながら、カゴに商品を詰め込んでいる。
ローゾフィアも入ってる。
目の前にシモンズ氏がいるのに、どうして見えないんだろう。
そんなことを思ったショー最終日。
明日はいよいよクライマックス、ツーソン・ミネラルショーだ。



夫妻と一緒に証明写真

ハートのモチーフ 25×7mm  32.7g~34.1g

2011/11/08

フェアリーストーン


フェアリーストーン Fairy Stone
Harricana River, Abitibi, Quebec, Canada



UFOみたい。
そっとあの人のデスクに忍ばせておきたくなる、地蔵色のストーン。
カナダではフェアリーストーンと呼ばれてお守りにされているらしい。
日本風にいうと、座敷童子石?
コレは流石に言われてみないと価値がわからぬ。

フェアリーストーンの誕生は、カナダがまだ湖の底だった氷河期。
湖底において積もり積もった泥や有機物の化石などが、長い時間をかけて石になったものだといわれている。
フェアリーストーンはカナダ・ケベック州、Harricana川から、このままの姿で見つかるのだそうだ(思わずシヴァリンガムを思い出してしまった)。
色目はライトグレーというか地蔵色。
一見すると路傍の石だが、形に規則性があるので見分けがつく。
写真に見える、白い輪のようなくぼみもそのひとつ。
この円がひとつだけのもの、2つも3つもあるもの、くっついて変形してしまったものなど、さまざまなタイプの原石がある。

現地の先住民族・アルゴンキンたちの間では、狩りの成功をもたらす幸運の石とされたほか、恋人への贈り物として、また災いを遠ざけるお守りとして大切にされてきたらしい。
フェアリーストーンの産出する「Harricana」の川の名は、アルゴンキンの言葉で、"ビスケットの川" という意味。
確かにビスケットに見えないこともない。
釣りの最中にこの石を見つけたときは、さぞ嬉しかったことだろう。
獲物が釣れた方が嬉しい人が多かったような気もするけど。

なぜ平たく滑らかな円盤形で発見されるのか、また円を描いたようなくぼみが刻まれている原因については、謎。
粘土質の土壌と特殊な地形ゆえに、この石が形成される条件が揃っていったのではないかという説があるようだが、詳しくは誰も調べていないようだ。
カナダのケベック北部でしか見つからないというのは確かに不思議。
似た名前にフェアリークォーツがあるが、表面に白く微細な結晶を伴うサボテン水晶の一種で、全く別の鉱物になる。

そんなフェアリーストーン、近年ヒーリングストーンとして注目され、日本にも入ってくるようになった。
この石は、某オークションをながめていているときに、たまたま目に留まったもの。
オークションというのは実にやっかい。
ジャンルを問わず「偽物の流通はオークションから」といわれて久しい。
鉱物についても例外ではなく、トラブルが相次いだ。
どの世界も同じこと。
慣れと、良い先輩とのご縁だと思う。
ちなみに、このフェアリーストーンを出品されていた方を、私は知っていた。
連絡先を聞いて驚いた。
向こうはなんとなくしかご存じないとのお返事。
遠く離れた見知らぬあなたのご住所、お名前が次々に私の記憶から飛び出してくるなど!
フェアリーストーンの起こした神秘?

たぶん、石を売っていただく側になったのは初めて。
私は単純に、再会が嬉しくて声を掛けただけだった。
ただそれだけだった。
個人情報の類いはいっさい残していないから誤解かもしれない。
思うところあって、このオークションで石を買うのは避けていたから、今まで出会わなかったのかもしれない。

数日後、薄い茶封筒にて届けられたフェアリーストーン。
なんだか申し訳ない気がして、愛用のお香に載せて、記念撮影。
後日、立ち寄った実家に忘れてきてしまった。
クリスタルヒーリングでは母なる大地の守護石といわれているが、私には地蔵菩薩の化身に見えてならない。
今頃は実家の座敷童子として活躍しているはずである。


27×22×8mm  6.97g

2011/11/05

モルダバイト


モルダバイト Moldavite
Moldau River Valley, Czech Republic



もはや知らない人はいないだろう。
パワーストーンとして、ヒーリングストーンとして、レアストーンとして、誰もが一度は憧れ、手にしたことがあるはず。
隕石の衝突に伴って生み出されるインパクトグラス(テクタイト)。
その存在価値を世に広めたきっかけが、モルダバイトだと思っている。

モルダバイトは、約1500万年前にドイツに落下した、リース隕石の衝突に伴って生成されたインパクトグラス。
1836年に命名された当時は、隕石だと思われていた。
インパクトグラスの大半は黒く不透明な塊。
透明感に富み、美しい深緑を示すモルダバイトは文字通り異色の存在であった。
ニューエイジ方面から火がつき、世界中から注目されることとなった。

私が石に目覚めたとき、既にモルダバイトは人気商品として定着しつつあった。
かなり初期の段階で偽物が出回っていることを知り、驚いた記憶がある。
モルダバイトはいわば天然ガラス。
人工的に作るのは実に簡単なことだった。
特にカットストーンやビーズ。
以前から微妙な色合いのモルダバイトをよく見かけたが、今ほど高くはなかった。
モルダバイトの市場価格は上がるいっぽう。
産出が激減し、今後十年以内に枯渇するともいわれている。

ここで、意外に焦点の当たらないモルダバイトの原石について取り上げてみたい。
写真は手持ちのモルダバイト。
どれが一番お好きだろうか。
大きさでいえば、左上が一番。
形のユニークさでいえば右上か。
右下は可も不可もなく、ゴーヤっぽいといったところ。

実はこの3つの原石のうち、一番良しとされるのは、実は右下のゴーヤ。
流れるような模様が立体感をなしているものは、概ね好まれる。
右上の筒状の原石も面白いが、意外に評価は普通。
左上は加工用。
シダのような模様が放射状に広がり、あたかも花のようにみえるモルダバイトは、「フラワーバースト」と呼ばれ、希少価値が付く。
博物館級と称される最高級品だ。

加工してしまえば、元の形など無関係。
ビーズのクオリティよりもわかりやすく、かつ入手困難なモルダバイトの原石たち。
この機会に探してみてはいかがだろう。
もう時間がないから、お早めに。


39×30×8mm(最大) 18.64g

2011/11/03

フローライト(カラーレス)


フローライト Fluorite
Nikolaevsky Mine, Dal'negorsk, Russia



有名なロシア・ダルネゴルスクのフローライト(蛍石)。
すりガラスのような繊細な質感を持つ、カラーレスの単結晶。
いくつか集めたが、これが一番のお気に入り。
表面には、蝕像水晶と見紛うような、神秘的な模様がビッシリ刻まれている。

フローライトにはさまざまな色合いがある。
発色の原因は微量元素などによるもので、純粋なフローライトは無色透明となる。
珍しいと思うかもしれない。
極東ロシア・ダルネゴルスクから産出するフローライトの多くは、色が付いていない。

フローライトには、八面体結晶と六面体結晶がある。
ダルネゴルスクのフローライトは、なんだかよくわからない。
私の手元にあるものは、ほとんどが多面体。
丸みを帯びている。
ミャンマーやインドから出る、完全な球状の結晶体とは違う。
多面体すぎて丸くみえるとでも言おうか。
この標本はかろうじて八面体結晶だと思われるが、裏面は干渉の跡がみられ、複雑に入り組んだ形状となっている。
現地からは、一般的に六面体結晶(四角形)が産出するといわれているが、どちらとも言えないような気がしている。

水晶をはじめ、フローライトやカルサイトなど、世界でも稀に見る特異な容姿、色合いを呈する鉱物が、ここダルネゴルスクの特産品なのだ。
偶然ではなく、必然的にできているようであるからして、不思議でならない。
ダルネゴルスクは、広いロシアの外れに位置する。
最寄りは中国/北朝鮮である。
最寄り駅は198km離れたチュグエフカで、終点らしい。
豊富な資源に恵まれ、鉱山の町として発展したが、公害は免れず健康被害が深刻化した。

物憂げな空気。
しんきくさい土地。
そんなダルネゴルスクの情景とともに、名物のフローライトをアップでお楽しみいただきたい。




37×25×22mm  18.52g

2011/11/01

エクリプス/マスタードジャスパー


エクリプス Eclipse Stone
The Voccanic Areas, Java, Indonesia



エクリプスとは皆既日食の意味。
不思議な模様と珍しさに惹かれ購入したものの、正体がわからない。
購入元に詳細を問い合わせてから、どれくらい経つだろう。
いまだ返事がない。

2009年7月22日、日本では46年ぶりとなる皆既日食が観測された。
のりぴー夫妻が逮捕される直前、それを見るべく奄美大島に渡っていたことが話題になった。
私も危うく踊りに行くところだったので、大雨で中止になったことは今でも覚えている。
あの頃、アメリカのヒーラーの間では、このエクリプス・ストーンが話題になっていたそうだ。
日本のショップでも取り扱いがあり、現在も入手可能である。
ただ、この石に関する情報が少ないせいか、どこも同じ説明をしている。
まとめると以下のようになる。

  • 2009年7月の皆既日食のさい、海外のヒーラーの間で話題になった
  • 皆既日食にちなんで、著名なヒーラーがエクリプスと命名 
  • アメリカの鉱物誌の表紙になった
  • カボション・カットが一般的(ビーズや原石は無し) 
  • インドネシア産
  • 非常に珍しく、入手困難

2009年夏、自分はもう石の世界にはいなかった。
エクリプス・ストーンが盛り上がっていたかどうかは分からない。
現在も多くの流通があり、入手困難とは言い難く、命名したヒーラーも特定できない。
また、エクリプス・ストーンが表紙を飾ったというアメリカの雑誌というのは、どうも米・ツーソンショーで配られたフリーペーパーのようである。
つまるところ、よくわからん。

出会いは忘れた頃にやってくる。
2011年、秋の京都ミネラルショー。
石の模様に並々ならぬこだわりを発揮する連れが、ある石に反応した。
黄色にダークブラウン、産地はインドネシア。
怪しい。
模様が違うが、絶対に怪しい。
そう思って探したら、エクリプス・ストーンと全く同じ模様の石が出てきた。

ところが、店の人は、これはあくまで「マスタードジャスパー」という石だという。
初めて聞く名前。
連れは手を止めて、不思議そうな顔をしている。



マスタードジャスパー
Mustard Jasper
The Voccanic Areas, Java, Indonesia



こちらは今回参考に購入したマスタードジャスパー。
微妙である。
危険区域に立ち入るみたいな、心穏やかでない配色が特徴だ。
連れがいなかったら、確実に通り過ぎていた。
ただでさえ節約志向の連れが、気に入って2つも購入していたのが不思議でならない。

お店の人はヨーロピアンで、"Eclipse" が通じなかった。
太陽と宇宙の説明をしたらわかってもらえた。
「ああ、同じだよ」とのこと。
千歳飴の原理で、縦方向にスライスしたのがマスタードジャスパー、横方向にスライスするとエクリプス、要は切断方向が違うだけ。
閑散としたブース。
ヨコにスライスしておけば、売れただろうに。

天然のアゲート、ジャスパーの収集が盛んな欧米市場とは異なり、日本では石になんらかのご利益を付けないと苦戦を強いられる。
ちなみにマスタードジャスパーのほうは千円でおつりが来る。
まさかと思うが、注意していただきたい。

詳しいお話を伺った。
マスタード・ジャスパーは、オーピメント(雌黄)、マンガン、シリカ、火山灰などから成るジャスパーの一種。
イエローの部分がオーピメントだと思われる。
エクリプスとはよくひらめいたものだ。
マスタードジャスパーであれば買わなかった。
産地がジャワ島であろうということは予測していたのだけど、火山灰が鉱物(おそらく化石の類いか)に変わるほどの火山地帯で、それが現在まで続いているとは。
火山性オブシディアンの産出国だけあって、インドネシアの火山は半端ないようである。

インドネシアの首都、ジャカルタのあるジャワ島には多くの人々が暮らしているが、現在も広い範囲で火山活動が盛んであり、付近は大地震多発地帯として知られている。
断続的に火山の噴火が起き、被害が出ている模様。
報道を全くみないので、具体的にどういう状況なのかはわからないが、現在も予断を許さない状態のようだ。

参考:世界中の天変地異を事細かにまとめたサイト
http://macroanomaly.blogspot.com/2010/04/blog-post_18.html

もし、エクリプス・ストーンが2009年以前に採取されたもので、もう採りに行けないのだとしたら、確かに貴重だといえるが、果たして真相は。
宇宙と地球、空と大地、蔭りゆく太陽、そして天変地異。
すべてがこの石に集約されている。
どこか暗示的な存在といえるかもしれない。


28×16×6mm  21.46ct

2011/10/28

ファントム・アメジスト


ファントム・アメジスト
Amethyst Phantom
Haran, Balochistan, Pakistan



美しい濃淡のみられる小さなアメジストが2つ。
ひとつは両端が結晶して、ダブルポイントになっている。
ファントムと呼んでいいのかわからない。
バイカラーもしくはエレスチャルアメジストとしたほうがいいのかもしれない。
ファントムとは幻の意味。
まるで幻を見ているかのようだから、勝手にファントムと呼ぶことにした。
ファントム・アメジストは一昔前なら希少品で、研磨品が大半だった。
スーパーセブンの登場以降、濃淡のあるアメジストは珍しくなくなった。
現在ではファントム・アメジストのアクセサリーやビーズなどを頻繁に見かける。

すりガラスのような質感を持つ透明水晶に、うっすら浮かび上がるパープル。
ファントムというより、インクルージョン(内包物)と呼んであげたくなる。
もともとはアメジストだった結晶に、それを取り囲むように水晶が成長したものだと思われるが、そんなことがあるのか。
この逆であれば、よくある。
先端にいくに従ってアメジストの色が濃くなるクラスターは比較的多く、ファントム・アメジストとして付加価値をつけているところもある。
中身だけアメジストと聞いて想像するのは、エレスチャルくらい。
実際、奥の標本はエレスチャルのような形なので、複雑な過程を経て、偶然に出来上がったものなんだろう。
神様はよくぞこんな不思議なものを創られたと思う。

イメージとしては春かな。
桜の花のような瑞々しさ。
これから来る寒い季節も、このアメジストがあれば乗り越えられそうな気がする。


20×12×10mm(手前) 5.48g

2011/10/24

アフガナイト


アフガナイト Afghanite
Sar-e-Sang, Koksha Valley, Badakhshan, Afghanistan



最近、なぜかアフガナイトを大量にみかける。
しかも安い。
その名の通り、アフガニスタン以外からは滅多に出ない希少石のはず。
いや、アフガニスタンからも滅多に出ないはずだ。

私がアフガナイトに出会ったのは2009年、ツーソンショー。
小さな結晶片を見つけ、感動のあまり購入した。
当時は調べても、情報どころか相場すらわからなかった。
ところが、本日検索してみると、出てくる出てくる。
まさか千円台からあるとは思わなかった。
2009年2月の時点では相場が全くわからず、一万五千円などという不当な価格をつけてしまっていた(売りたくなかったし、売れなかった)ので、冷や汗が出る。
しかしながら違和感はある。
なぜか、どのアフガナイトも形が同じ。
規格が統一されてるのかと思うほど、同じ。
大きな白い母岩に鋭いアフガナイトの結晶がついている状態で、こぞって紹介されている。

産地はアフガニスタンの山岳地帯、バダクシャンのサーエサン。
世界一美しいラピスラズリが採取されることで有名な土地。
かつて戦争の資金源となったほどの産出量だと聞いている。

ご存知かもしれないが、ラピスラズリは複合鉱物。
ラズライト(青~紺)、パイライト(ゴールド)、カルサイト(白)等から成る。
いっぽう、アフガナイトは無色~濃紺色までさまざまな色合いを示すという。
また、現地からは多彩な鉱物が産出する。
その中には、アフガナイト同様、ブラックライトで蛍光する性質を持つソーダライトも含まれるという…

これはどうも、ごっちゃになってるような気がする。
究極のレアストーンがあんなに出回るのはおかしい。
「カルサイトの母岩上にパイライトと共に結晶したアフガナイト」を自慢している人がいたのだけれど、その組み合わせは有り得ないだろう。
ラピスラズリやん。
アフガナイトがラピスラズリ(ラズライト)と共生した状態という見方はできるが、鉱物が好きなら疑問を感じてもよいのではないだろうか。
現地の情勢についても、決して良いとはいえない。
バダクシャンはアフガニスタンで唯一タリバンの支配をまぬがれた都市だが、今年1月にはタリバンによる外国人殺害事件が起きている。

アフガナイトは表面のみ青く、内部は無色であることが多いそうだが、こちらの標本は黒っぽい。
個性的で宜しい。
結晶は埋没しているし、ダメージもあるが、そのほうがむしろ自然だと感じる。
アホー石/パパゴ石の件があまりに衝撃的だったから、疑いたくもなるというものだ。

アフガニスタン方面のことはよくわからない。
とりあえず、戦争の資金源にはしないでほしい。
レアストーンハンター魂の叫び。



※なお、紫外線照射(ブラックライト)による色の変化の写真を載せているところでは、ピンク、オレンジ、反応無しの3パターンがあるようだった。こちらの標本は、ブラックライトでピンクに蛍光した。参考までに、ラズライトは蛍光しないこと、ソーダライトはオレンジに蛍光すること、手持ちのラピスラズリは部分的にピンクに蛍光したことを付け加えておく。
写真左のピンクの部分がアフガナイト結晶。右は愛用のラピスラズリ(カルサイトは肉眼では確認できず)のストラップ。




57x32x20mm  40.4g

2011/10/21

恐竜のふんの化石


恐竜のふんの化石
Coprolite
Moab, Utah, USA



米ユタ州、中世代ジュラ紀の地層から発見される、恐竜の化石。
こちらはそのウンコの化石がジャスパーと化したもの。
もちろん天然色である。
臭いは無い。
鮮やかな色彩は、かつて排泄物であったなどとは思えないほどの美しさ。

化石は、生物や植物が、長い年月を経て石にかわったもの。
コプロライトは恐竜そのものではなく、恐竜が生活していた上で発生したエレメントである。
排泄物や足跡など、生命の活動の痕跡として残されたものは、生痕化石と呼んで区別している。
生痕化石の中で最も人気があるのがコプロライトだ。

人類が誕生する前に絶滅した、幻の恐竜。
恐竜たちはいったいどんな暮らしをしていたのか。
どんなものを食べていたのか。
便秘や下痢はあったのか。
想像は膨らむ。
実際、コプロライトは、その生物の活動の実態を知る上で、非常に重要な資料となる。
専門家により分析が進められ、太古の生命の秘密が明らかになっているという。

化石はどちらかというと男性に好まれる。
少年は化石に飛びつき、少女は水晶玉に見惚れるイメージ。
ときにグロテスクな姿をした化石に、抵抗感を示す女性は比較的多い。
私自身、アンモナイトをはじめ、貝類と虫系はすべてダメ。

コプロライトはかなり気に入って、いくつか集めた。
試しにと、コプロライトを販売してみたことがある。
ネタのつもりだったが、評判はすこぶる良かった。
興味を示された方のほとんどが女性だったのも意外。。

中にはめのう化していない、まんまウンコなコプロライトも存在する。
絵に書いたようなコプロライトも存在する。
興味のある方は、お食事を終えた上で、是非とも調べていただきたい。

写真ではわかりにくいかもしれないけれど、このコプロライト、かなりでかい。
アメリカのコプロライト専門コレクター(!)から譲り受ける際、サイズを誤認した。
米ではグラムでなくポンド表記。
計算が面倒なので、いつも直感で仕入れていた。
送料がどうも高いような気はしていた。
今も実家の床の間に飾ってあるはずだ。
少し派手だが、鑑賞石として違和感はないようで、今のところ誰も気づいていない様子である。

以前知り合った宝石ディーラーの台湾人女性に、「なぜ日本人はウンコを見て喜ぶのか?」と聞かれた。
私がコプロライトを買う様子を見て、不思議に思ったらしかった。
「日本では、犬のウンコを踏むと運がつくという言い伝えがある。幸せになれるのだから、喜ぶのは当たり前です。」
そう教えてあげた。
彼女は大喜び。
「これからは、ラッキーでハッピーになれるように、積極的に犬のウンコを踏むようにするわ!」
彼女の帰国後、旦那様はさぞ迷惑したことであろう。

コプロライトならそのような心配は不要。
そろそろクリスマスのネタづくりの季節、クリスマスプレゼントにコプロライトはいかがだろう。
お安いですぜ、プープ。


98×60×48mm  473g

2011/10/19

アレキキャッツ


アレキサンドライト キャッツアイ
Alexandrite Cats Eye
産地不明



実家にて、面白い石を見つけた。
私が初めて買ったルース。
なぜかアレキサンドライト・キャッツアイ(アレキキャッツ)。
際どいチョイス。
当時無一文に近かった私がこんなモノを購入できたのは、キャッツアイが角度によって右寄りになること、色変化の弱さ、また裏面に僅かなカケがあるためではないかと思われる。

キャッツアイとは、石の中央に、猫の目のような一条の線が浮かび上がってみえるさま。
シャトヤンシー効果とも呼ばれる。
キャッツアイがみられるのは、他にトルマリン、ガーネット、エンスタタイト、アパタイト、ベリル(エメラルド等)、スキャポライト、水晶など。
表記がキャッツアイだけの場合、クリソベリル・キャッツアイのことを指す。
原石からキャッツアイの有無を判断するのは至難の業で、熟練された職人にしかわからないらしい。
なお、キャッツアイが1本ならず、2本、3本と出るものはさらに希少価値が増す。

カット石、ルースの需要はさまざま。
宝飾業界ではダイヤモンドなどの貴石、収集家向けにはコレクション用の希少石がそれぞれカットされる。
相反する世界にあって、宝飾業界からも収集家からも愛されているカット石が存在する。
このアレキサンドライト・キャッツアイもそのひとつ。
カラーチェンジとシャトヤンシー効果を併せ持つこの石は、高価でありながらもファンが多い。
アレキサンドライトは、自然光で青、人工光で赤~薄紫に色変化を起こす。
その上、キャッツアイが浮かび上がるのだから、業界に関係なく、誰もが注目するのも無理はない。
なお、ハニーカラーのキャッツアイをアレキサンドライト・キャッツアイとして販売しているショップを見かけたが、クリソベリルであろう。
アレキサンドライトは、クリソベリルの変種である。

このルースには産地の記載がなかったので、産地不明とした。
集めたての頃は、後で何が必要になるかわからないもの。
どうも、スリランカ産ではないかと思う。
色変化が弱い。
これはスリランカ産のアレキサンドライト・キャッツアイの特徴でもあった。
ちなみにこれ、キャッツアイが2本ある。


1.39ct

今週、話題性が確認された10の鉱物

What Mineral Would You Take with You to A Deserted Island?